重々しい木製の扉が、カチリと鈍い音を立てて完全に閉じられた。
管理側の受付嬢シュリの足音とバニー衣装の装飾が擦れ合うかすかな音が通路の奥へと消えていくと、豪奢な特別室は途端に不気味なほどの静寂に包まれた。
石造りの密室には部屋の隅に置かれた香炉から漂う甘く重い香油の匂いと先ほどまでルートが身を置くコロシアムのリングから持ち込まれた汗砂埃そして鉄錆に似た血の匂いが混ざり合い濃厚に澱んでいた。
壁の薄暗い魔導ランプが微かに明滅するたび室内を飾る重厚な絵画や革張りのソファーの影が不気味に揺らぐ。
コロシアムを埋め尽くす観客たちの狂乱した大歓声は、分厚い壁と扉に遮られまるで遠い異世界の出来事のように地鳴りのような余韻となって壁を震わせるのみだった。
ルートはまだ少年らしいあどけなさを残した顔に泥と血をこびりつかせ扉のすぐ傍の壁にもたれかかっていた。
黒髪は死闘の汗と泥で不規則に乱れ、右手に握りしめた勝利の証——ガザックの腕から引っ剥がした黒鉄の腕輪がズシリと重く手に食い込んでいる。
息を吐き出すたび胸の奥が熱く焼けるようだった。
相手の巨体を砕き、命を奪った瞬間の感触。手のひらに残る鉄剣の手応え。
それらが生々しい現実感として少年の神経を苛み続けている。
「…ルートくんだっけ」
沈黙を切り裂いたのは、豪奢なソファーの上に静かに腰掛けていた女性ミレイだった。
亜麻色のセミロングの髪が、壁掛けの魔導ランプの薄暗い橙色の光に柔らかく照らされている。
健康的でしなやかな肉体に透き通るような白い肌どこか包容力を感じさせるお姉さんのような落ち着いた顔立ち。
パートナーであったガザックが喉元を穿たれて死んだ直後であるにもかかわらず彼女の表情には取り乱した様子や敗北の混乱は微塵もなかった。
ただすべてを受け入れた者のようなどこか冷たく静かな諦念がその瞳の奥に宿っていた。
「あ、はい…ミレイさん。えっと、その…」
ルートは戸惑い言葉を詰まらせた。
頭の中はまだ混乱の極みにあった。
先ほどまでの激戦によるアドレナリンの昂ぶりと固有能力『超回復』を限界まで使用したことによる激しい倦怠感。
熱病のように全身の筋肉を苛む痛みの「記憶」。
そして何よりこの部屋に足を踏み入れた理由である『勝利報酬』というおぞましい存在。
敗者のパートナーを一晩自由に所有し、性的な奉仕を含めて好きに扱える権利。
この闘神都市が誇るあまりにも理不尽で絶対的な掟がルートの幼い精神に重く圧しかかっていた。
「気にしなくていいのよ。これが闘神大会の掟だもの。ガザックが負けたんだから、私はあなたのもの。好きに料理してちょうだい」
ミレイは静かに微笑んだ。
その眼差しには諦念と、どこか幼い少年を見つめる母親のような優しくも切ない色彩が滲んでいた。
悲鳴を上げるわけでもなく、怒りをぶつけるわけでもない。その静かな振る舞いが逆にルートの罪悪感を激しく煽り立てる。
「そんな! 俺はそんなつもりでここに来たんじゃ…!」
ルートは慌てて首を振った。
握りしめたガザックの腕輪が冷たく手のひらの皮膚を押し潰す。
「俺はただ、ミナモを…ミナモを治したくて! あいつ、生まれつき身体が弱くてこの闘神都市にある高価な特効薬がどうしても必要で…! その賞金と、都市での権利が欲しくてこの大会に参加したんだ! 誰かのパートナーをどうこうしたいなんてそんなことをするつもりじゃ…!」
少年の必死な訴えをミレイはただ静かに聞き入っていた。
「ミナモちゃん…あの、病弱で可愛らしい子?」
ミレイの瞳がふと細められた。
記憶の底を手繰り寄せるように彼女の視線がかすかに泳ぐ。
「予選の受付で見かけたわ。華奢で、頼りなくて…それでもあなたを応援しようと必死で…そう、あの子のために戦っているのね。命をかけて」
「そうだよ! だから俺は、あなたに手を出したりなんて…そんなこと、絶対にできない! あなたをどうにかするつもりなんてないから安心して…!」
「だったらなおさらよ」
ミレイの声音が、ふいに変わった。
先ほどまでの柔らかな笑みが嘘のように消え去り代わりに凛とした、刃物のように鋭い決意が宿る。
彼女の瞳から諦念の色が薄れ代わりにルートの魂を覗き込むような強い光が満ちていく。
ミレイはゆっくりと立ち上がると身に纏っていた肌の露出が多いドレスの肩紐に、躊躇いなく手をかけた。
「え…? ミレイ、さん…?」
ルートが息を呑む間に、静かな衣擦れの音が薄暗い部屋に響いた。
亜麻色の美しい布地がすべり落ち、足元へと溜まる。
下着までもが一切の迷いなく外され薄暗がりの中に一糸纏わぬ健康的な肢体が全貌を現した。
白い肌、豊かに揺れる双丘キュッと引き締まった腰の美しい曲線、滑らかな太腿そしてその下にある女性性の秘所。
目の前に突きつけられた本物の「女」の生々しい肉体に、ルートの脳内は瞬時に真っ白へと染まった。
あまりの衝撃に身体が金縛りに遭ったかのように動かない。
「な、なにをしてるんだ…! 服を、服を着てくれよ!」
「だからしない、なんて甘いこと言わないで」
ミレイは全裸のまま、動けないルートへ向かって静かに一歩を踏み出してきた。
歩むたびに豊かな胸がたわわに揺れ、甘い肌の匂いが立ち昇る。
「想像してみなさい。もし、あなたが負けていたら? ガザックが勝っていたら…今頃ミナモちゃんは、この私と同じ立場だったのよ。わかる?」
「そ、それは…」
「ガザックら言っていたわ? 『あいつの女を玩具にしてやる』って。あの言葉はハッタリでも何でもない。この大会に出場する男たちの本気の欲望よ。もしあなたが負けていたら、ミナモちゃんは今頃ガザックに服を破かれこの部屋で泣き叫びながら全身を舐め回されていたわ」
ルートの脳裏に、控え室で自分を信じて待っているミナモの姿が強烈にフラッシュバックした。
華奢な肩、大きな瞳、自分を信頼しきった無垢な笑顔。
もし自分があのリングの上で大鎚に叩き潰されていたらあの儚い少女が、いま目の前のミレイと同じように全裸にされ苛まれていたのだ。
想像するだけで、頭が割れそうなほどの激痛と吐き気がルートを襲う。
「想像しなさい。あの子が、見ず知らずの男の前に裸で立たされて望まない辱めを受けるのを。あなたは命を落とし、ただの肉塊となってそれを黙って見ていることしかできないのよ。拒絶することも助けることもできずにね」
ミレイの声はどこまでも優しくどこまでも甘やかだった。
しかし、その言葉は寸分違わず鋭い針となってルートの心臓の最も柔らかい部分を正確に貫いた。
「…そんなの、絶対に…! そんなこと……」
「そう。だから覚悟しなさい。これが闘神大会の現実。勝つってことは相手のすべてを踏みつぶして奪うことであり、負けるってことは自分の大切なものをすべて奪われて玩具にされるってことなの」
ミレイは固まっているルートの前に膝をつき、彼の震える手を取ると自らの温かな胸の膨らみへと導いた。
「あ…っ」
指先が吸い付くような肌に触れた瞬間、ルートの全身が電気でも走ったかのように硬直した。
驚くほど柔らかく生き生きとした肉体の温もり。
指が沈み込むほどの弾力。初めて触れる大人の女性の感触に、ルートの呼吸が激しく乱れ始める。
「感じるでしょう? これが女の身体……んっ」
ミレイは少年の指が自分の胸の先端をかすめた時、小さく鼻にかかった吐息を漏らした。しかしすぐに強い眼差しでルートを見つめる。
「敵のパートナーは、みんな敗北の果てにこういう目に遭うの。あなたが一度でも負ければミナモちゃんが他の男にこうされるのよ。手で触られ、口づけを奪われ全身を暴かれるの」
「やめ、ろ…やめてくれ…」
「やめない」
ミレイはきっぱりと言い放つとルートの手を胸から滑らかな腹部へ、そしてさらに下へと容赦なく滑らせていった。
くびれた腰のカーブを通り、微かな体毛に覆われた密林へ。
濡れた指先が触れたその場所は、信じられないほど熱くとろりと粘り気のある愛液で濡れていた。指先にまとわりつく熱い蜜の感触に、ルートの腰が小さく跳ねる。
「あっ…ふぁ……っ」
ミレイ自身も、少年の無垢な指先に秘所を触れられたことで甘く震える吐息を漏らした。その白い喉がこくんと上下する。
しかし、その瞳はなおも強くルートを見つめ続けている。
「これが、女が男を受け入れる場所…はぁ…ん…怖がらなくていいの。…私が全部、教えてあげる。男として勝者として、何を背負わなければいけないのかを」
ミレイはルートの衣服に手をかけ、汗と血で汚れた上着やズボンを容赦なく脱がせていった。
少年の引き締まったしかしどこか幼さの残る肉体が露わになる。
激戦の傷は超回復で塞がっているものの、赤みを帯びた肌からは生々しい熱気が立ち昇っていた。
そして、ミレイの濡れた指がルートの腰の突起——極度の緊張と抑圧された欲望によって硬く反り返った少年のペニスに触れた。
「ひあ…っ!」
「すごい…こんなに硬くなってる……ふふ…口では拒んでいても、体は正直なのね」
ミレイは少年のものを優しく包み込み、ゆっくりと上下に擦り始めた。
熱く柔らかな手ぶくろのような感触にルートの口から堪えきれない声が漏れ出る。
「あっ…だめだって…そんなふうにされたら…っ…!」
身体の奥底から湧き上がる本能的な快楽が、思考を白く塗り潰していく。
ミレイはルートを床に敷かれた簡素な布の上へと押し倒した。そして、躊躇うことなく自身がその上に跨がる。
亜麻色の髪がルートの顔にかかるほど近くにミレイの美しい顔があった。
瞳には涙がうっすらと浮かんでいたが、その唇は微かに笑んでいる。
「力を抜いて…ん…そう…入れるわよ」
熱く濡れた肉の入り口が、昂ぶりを隠せないルートの先端へと押し当てられる。
ミレイがゆっくりと腰を沈めると、ぐちゅ、という生々しい水音が密室に響いた。
「ああっ…くっ…! はぁっ…!」
押し広げられるような強烈な圧迫感。
熱く締め付ける内壁が、少年の長さをじわじわと呑み込んでいく。
「はぁ…あ…んんっ…熱い…ルートくんの、すごく熱い…」
あまりの密着感と熱量に、ルートは背中を反らせ布を強く握りしめた。
「はぁ…っ、入ったわ…。これが、女の中…あぁ…ん…あったかいでしょう。…これが、あなたが命をかけて守らなきゃいけないものなの」
ミレイは根元まで深く呑み込むと、ひと息ついてからゆっくりと腰を上下させ始めた。
ぐちゅり…ぐちゅり…と、愛液が擦れ合う湿った音が静かな部屋に木霊する。
上下に揺れる艶やかな腰、内側からぎゅうっと締め付けてくる甘い肉のうねり。
「あっ、ああっ…! すご…これ…っ」
ルートは初めて体験する強烈な快楽とミナモに対する罪悪感の狭間で、呼吸を荒くしながらただ翻弄されることしかできなかった
。
「あ…ミレイ、さん…っ、これ……」
「しっかり感じなさい…ひゃんっ…これが敗者が差し出す代償なのよ…はぁ…んっ…ガザックは負けたから、私のこの場所を…あなたに差し出すことになった…。…もしあなたが負けたら…ミナモちゃんのこの温もりも…ああんっ…全部、他の男のものになるの」
「くっ…そんなの…嫌だ…! 」
「だったら、動きなさい。自分から腰を振るのよ!」
ミレイは体位を変えた。
ルートを押し倒していた体を浴びせかけるように倒し、今度はルートを上にする正常位の形をとる。
彼女はしなやかな両足をルートの腰に固く回しその未熟な動きを逃がさないように誘導した。
「そう…私を押し潰すくらい、強く。相手を組み敷く感覚を体に刻みなさい。闘神都市で勝ち残るのは欲望に忠実で、敵を完膚なきまでに叩きのめす男だけよ」
「はぁ…はぁ…ッ!」
ルートはミレイに促されるまま、夢中で腰を振り始めた。
ドスッ、ドスッと肉と肉がぶつかり合う激しい音が部屋に響き渡る。
脳裏にはミナモの可憐な笑顔と、ミレイの言葉が乱高下しながら渦巻いていた。
守らなければならない。絶対に誰にも負けるわけにはいかない。
負ければすべてを奪われ、地獄へと突き落とされる。
その必死な決意と恐怖が、肉体の昂ぶりと混ざり合い少年の腰を力強く、激しく突き動かす。
「そう…上手よ、ルートくん…っ! あぁっ、そこ…すごく、奥まで届いてる…っ!」
「あっ…あんっ…いい…いいわよっ…もっと…もっと強く…ぁん!」
ミレイもまた少年の必死な突き上げに突き動かされ甘く切ない声を張り上げた。
白い肌が赤く潮差し、汗ばんだ身体が快楽に震える。二人の繋がった部分からはぐちゅぐちゅと激しい水音が絶え間なく響き続けた。
部屋の中に満ちていくのは純粋な愛ではなく、極限状態の生と死そして敗北の苦痛が入り混じった狂おしい欲望の匂いだった。
香油の甘さも血の匂いも、今はすべて汗と愛液の生々しい匂いへと塗り潰されている。
ルートの突きは次第に荒く、速くなっていく。少年の持つ爆発的な体力が官能の暴走となってミレイの最奥を何度も、何度も容赦なく穿った。
「ミレイ、さん…俺、もう…っ! 」
「ああっ…んっ…いいわよ…出して…私の中に…いっぱい出して…っ」
限界が刻一刻と近づく。熱い奔流が腰の奥に溜まり、爆発しようとしたその瞬間——ミレイの瞳に狂気めいた光が宿った。
ミレイは突然ルートの両手を掴むと、それを自らの細く白い首元へと強く押し当てたのだ。
「っ…!? なにを——」
「いいから…首を絞めなさい! 私の首を…強く…ッ!」
「な…ッ!? 何言ってるんだ! 」
ルートが驚愕して手を引こうとしたが、ミレイは両足でルートの腰を強く締め上げ逃がさない。
内壁もぎゅうっとペニスを締め付け、ルートの動きを封じ込める。
そして彼の両手を己の首に固く押し付けたまま、涙を流しながら絶叫した。
「いいから! 私の首を絞めながら…中に、出しなさい…ッ!! 命を奪う覚悟で、私を壊しなさいッ!」
「ミレイさんッ…!」
「くっ…ん…首を絞めなさいッ! あなたがガザックを殺したように…! この手をゆるめたら、ミナモちゃんが死ぬと思いなさいッ! あの子が…ああっ…他の男に…壊されると思って…ッ!」
ミレイの悲痛な叫びがルートの脳髄を打ち抜いた。
目の前の女が、自らの命さえも餞別として差し出そうとしている。
その狂気じみた覚悟にルートは恐怖と畏敬が入り混じった嗚咽を漏らし、震える指に力を込めた。
「う…うあああっ…!」
ミレイの細い喉が、ぐっと絞まる。
同時に彼女の膣内がぎゅうぎゅうと痙攣しルートを搾り取ろうと激しくうねる。
「かはっ…そう…それで、いいのよ…ルート…くん…っ」
絞められた苦痛と奥深くを穿たれる快楽の交差点で、ミレイの内壁が狂ったように蠢き締め付けた。涙が一筋、彼女のこめかみを伝う。
ルートは抗う術もなく、熱い奔流を彼女の最奥へと吐き出していった。
「んっ…はぁ…あああっ…熱い…きてる…私の…奥に…」
ドクンドクンと脈打つ射出のたびに、ルートの指に力が込もりミレイの喉がさらにきゅっと絞まる。
その痛みと快楽の混じった極限状態で、ミレイの身体は大きく仰け反り腰が浮くほどの絶頂を迎えた。
「そう…っこれが…もしあなたが負けて…ミナモちゃんが…他の男に…こうされるってこと…ッ!」
首を絞められ顔を紅潮させ、涙が一筋こめかみを伝う中でミレイは搾り取るように囁き続けた。
「これが…ぁ…闘神大会の…残酷な現実…。忘れないで…ルートくん…!」
すべてを出し尽くし、ルートが荒い息を吐き出しながら倒れ込む。
ミレイはゆっくりと首から彼の手を離させると深く大きく酸素を吸い込んだ。
ぜえ、はあ、という苦しげな呼吸が数度繰り返される。その白い首筋には赤い指の痕がくっきりと残されていた。
「………ね。…覚悟、できた?」
ミレイは力なく微笑むと汗で額に張り付いたルートの黒髪を、優しく撫でた。
「これは罰なんかじゃないわ。お姉さんからの…餞別。あなたには、絶対に優勝してほしいの。ミナモちゃんを救って…そして…」
言葉を切り、ミレイはルートの額にそっと愛おしそうな口づけを落とした。
「頑張ってね。…なんてね」
ルートは震える腕で、ミレイの汗ばんだ温かな身体を抱きしめ返した。
初めて知った女の温もり。
そしてその奥にある、敗北のあまりにも重い現実と身を挺して教え導こうとした彼女の覚悟。
少年は声もなく涙を流しミレイの肩口に顔を埋めた。汗と血と香水が混ざった彼女の肌の匂いが、ルートの鼻腔を満たした。
「ありがとう…ミレイさん…俺、絶対…勝つから…」
涙に濡れたその声はかすれていたが、先ほどまでの迷いとは違う硬い決意の響きが宿っていた。
ミレイは何も言わずただ優しく、母親のようにルートの頭を抱きしめ続けた。
密室を満たしていた欲望の匂いはいつしか深い哀しみと、不思議な安らぎを帯びて静かに澱んでいった。