※この作品はR-18です。

イサミクエスト マックシム   作:勇者パンスト

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格上?安全?

 

 

昨夜、過労死寸前のエリスとの密やかな泥沼脱出(引き抜き)交渉を終えたイサミは、爽やかな朝の光の中、コパンドンCITY中央広場の噴水前に立っていた。

 

 

青空には白い雲がゆったりと流れている。秋の風はどこまでも澄み渡り、街を行き交う冒険者や商人たちの声が心地よく響いていた。

 

 

 

「……ふぅ。一晩明けても、僕の脳内シミュレーションに一切の狂いはありませんねぇ」

 

 

 

イサミは背中の巨大リュックのベルトをキュッと締め直すと、懐から一冊の手帳を取り出し、ソロバンの珠を指先でパチパチと弾いた。

 

 

 

(エリスお姉さんに提示した猶予は『あと3日』。……それまでに、クロエさんたちが物件の購入資金である金貨5枚(大銀貨50枚に相当)を稼ぎ出し、実際の契約まで漕ぎ着ける必要があります。エリスお姉さんが『黒獅子の盾』の呪縛を断ち切って鈴を鳴らした瞬間、受け皿となる『ホーム』が存在していなければ、全ての計算が瓦解してしまいますからねぇ)

 

 

 

イサミの瞳の奥で、冷徹な利益計算の光が妖しく明滅する。

 

 

 

(ですが……問題は、クロエさんたちの『稼ぎのペース』です。今までのお二人は、安全重視で自分たちの能力(に対して余裕のあるCランク下位〜Dランク上位の堅実なクエストばかりを受注してきました。もちろんそれは生存率を高めるための正当な手段ですが……今のペースでは、金貨5枚を貯めるのに最低でも一ヶ月はかかってしまいます)

 

 

 

「……おや? 来ましたね」

 

 

 

 

イサミが思考を切り替えた瞬間、広場の向こうから元気なふたつの足音が近づいてきた。

 

 

 

「おはよう、イサミ! 今日も早いじゃない!」

 

「イサミちゃん、おはよう〜! 今日もよろしくねっ!」

 

 

 

走ってきたのは、鮮やかな赤毛を揺らす18歳の剣士クロエと、大きな魔法帽を深くかぶった16歳の魔法使いココだ

 

 

朝の光を浴びた二人の表情は、一昨日のような不機嫌さや重苦しさが嘘のように、弾けんばかりの希望とモチベーションに満ち溢れていた。

 

 

 

「やぁやぁ、クロエさんにココさん! おはようございます〜っ! 今日も一段とお綺麗で、朝から目が眩んじゃいますよ〜♪」

 

「なっ……! 朝からチャラチャラと適当な世辞言んじゃないわよバカ! ……っ、ま、まあ身だしなみにはちょっと気を遣ってきたけど……」

 

 

 

クロエは頬を朱に染めながら、プイッと明後日の方向を向いて革鎧の裾を整えた。

 

 

 

昨日の「強引な監視付きデート(クエスト)」と、その後にイサミから提案された「自分たちだけのホーム開設」の夢。

 

そのふたつが、彼女の中で絶妙な化学反応を起こしているようだった。

 

 

 

「ふふ、クロエちゃんったら、今朝は宿屋を出る前に何回も鏡チェックしてたんだよ〜?」

 

「ちょっとココ!? 余計なこと言わなくていいの!!」

 

「あはは! クロエさんの乙女心、とっても素敵ですよ〜っ!」

 

「うるさいバカ!! 乙女心とかじゃないわよ! それよりイサミ、昨日の話の続きだけど……あたし、昨日の夜は楽しみすぎて全然眠れなかったんだからね!」

 

 

 

 

クロエは鼻息荒くイサミの前へと歩み寄ると、身を乗り出すようにして拳を握りしめた。

 

 

 

 

「『自分たちだけのホーム』……! いいわよねぇ……! 宿屋の狭い部屋と違って、自分たちの好きな家具を置いて、武器の手入れも思い切りできて、疲れたらそのまま大きなベッドで寝られる……! 想像しただけでワクワクしてきちゃったわ!」

 

 

「うんうん! 私もね、魔法の実験薬品とか古文書をたくさん並べられる『自分だけの書斎部屋』が欲しいなぁって思ってたの! 宿屋だと火気厳禁で薬品の調合もできなかったから……!」

 

 

 

ココも大きな瞳をキラキラと輝かせ、両手を胸の前でギュッと合わせた。

 

 

二人の様子は、まさにこれから初めてのマイホームを手に入れようとする若者そのものだった。

 

 

イサミの狙い通り、「自分たちの城を持つ」という目標は、彼女たちの冒険者としての情熱に爆発的な火を点けていたのだ。

 

 

 

 

だが——イサミはそんな二人の熱狂を優しく受け止めつつ、あえてフッと困ったような笑みを浮かべ、あごに指を当ててみせた。

 

 

 

 

「ふむふむ……お二人がそこまでホーム開設に前向きなのは、とっても嬉しいです! ……ですが、クロエさん、ココさん。ひとつ大きな現実(壁)があるのをお忘れではありませんか〜?」

 

「え? 現実……?」

 

 

 

 

クロエが首を傾げた。

 

 

 

 

「ええ。夢のお城(ホーム)を手に入れるための購入資金……金貨5枚です。……昨日のお二人のお持ちの貯金を合わせても、まだ大銀貨15枚(金貨1.5枚分)程度ですよねぇ?」

 

 

「う……っ。そ、それはまあ、そうだけど……あと大銀貨35枚くらい、これから稼げば……」

 

 

「さらに言えば!」

 

 

 

イサミは人差し指をチチチと振ってみせた。

 

 

 

「家を買ったら終わり、ではありませんよ? ホームの維持費、税金、そして何より……**『人を雇う費用』**です」

 

「人を……雇う……?」

 

 

 

ココが不思議そうに目を丸くした。

 

 

 

 

「そうです! 家を持てば、部屋の掃除、セキュリティの管理、買った素材の帳簿付け、ギルドや行政との雑多な手続きなど、冒険者としての活動以外の『事務仕事』が山のように発生します。お二人だけでそれらを全部こなそうとすれば、クエストに行く時間がなくなって、あっという間に破産しちゃいますよ〜?」

 

 

 

 

イサミは悲しそうな顔を作って首を振ってみせた。

 

 

 

 

「つまり……ホームを維持していくためには、優秀な事務員(管理人)さんを雇うための安定した給与を、毎月稼ぎ続けなければならないんです。……ですが、今のお二人の『稼ぎのペース』だと、自分たちの生活費だけで手一杯になっちゃいませんか?」

 

「〜〜〜〜っっっ!!」

 

 

 

 

クロエとココは、ガーンと衝撃を受けたように固まった。

 

 

イサミの言っていることは、ぐうの音も出ないほど完璧な正論だった。

 

 

今まで「自分たちの食費と宿屋代」さえ稼げれば十分だった駆け出し冒険者意識のままでは、クランホームという「組織の拠点」を経営することなど不可能なのだ。

 

 

 

 

 

(ふふふ……。エリスお姉さんを引き抜くための『伏線』は、こうして完璧に張っておきます。稼ぎが足りないからこそ、優秀で手際の良い管理人が必要なのだと、二人に痛感させなければなりませんからねぇ)

 

 

 

 

イサミは心の中でソロバンの珠を弾きつつ、落胆する二人に向かってニカッと力強い笑顔を向けた。

 

 

 

 

「でも! 絶望する必要なんて全くありませんよっ!」

 

「え……? イサミ……?」

 

「要するに、『今まで通りの稼ぎ方』をやめればいいんです!」

 

 

 

 

イサミは胸を張り、力強く宣言した。

 

 

 

 

「今までのクロエさんたちは、安全重視で、自分たちの実力に対して『余裕のあるクエスト』ばかりを選んできました。討伐対象は弱く、危険も少ないですが……その分、ギルドからの報酬も、魔物から取れる素材の価値も低かったんです」

 

 

 

 

イサミはリュックから、今日のギルドのクエスト一覧の写し(羊皮紙)を取り出し、二人の前に広げた。

 

 

 

 

「ですが、今のお二人なら……もう一段上のステージに挑戦する資格が十分にあります! 危険度は跳ね上がりますが、報酬も素材の価値も今までの数倍! 稼げる、そして自分たちの限界に挑戦するような高難度クエストに跳ね起きる時が来たんですよっ!」

 

「自分たちの限界に……挑戦するクエスト……っ!」

 

 

 

 

クロエの瞳に、剣士としての熱い血が再び燃え上がった。

 

 

イサミの言う通りだった。

 

 

彼女たちはイサミの完璧なフルサポート(ポーション、予備装備、即時補充)を得たことで、実力以上の戦力を発揮できる環境にある。

 

 

 

それなのに、いつまでも安全地帯に引きこもっていては、Cランクへの爆速昇格も、夢のホーム購入も絵に描いた餅で終わってしまう。

 

 

 

 

「……言えてるわね」

 

 

 

 

クロエは腰の小剣の柄に手を置き、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「いつまでもぬるま湯に浸かってたら、一人前のCランク冒険者になんてなれないわ。……分かったわ、イサミ! あんたの提案、乗ったわ!! 今日は今まで受けたこともないような、一番稼げる高難度クエストに挑戦する!!」

 

「私も……っ! 私もがんばるよ、クロエちゃん! イサミちゃんがついていてくれるなら、どんな強い魔物が相手でも怖くないもんっ!」

 

 

 

 

ココも小さな拳をぎゅっと握りしめ、力強く頷いた。

 

二人の腹は完全に括られた。

 

 

 

 

(素晴らしい……! これで『高収益・高難度クエストへのシフト』が完了しました。危険度が上がれば上がるほど、道具屋(僕)の商品の消費量も増え、僕自身の利益(マージン)も跳ね上がりますからねぇ♪)

 

 

 

 

イサミはお茶目に敬礼してみせた。

 

 

 

 

「はいっ! お二人の覚悟、確かに受け取りました! それじゃあ……早速ギルドへ行って、本日の『最高額・高難度ターゲット』を狩りに行きましょうか〜っ!」

 

「「おーっ!!」」

 

 

 

 

秋晴れの空の下、三人の元気な声が広場に響き渡る。

 

 

 

 

夢の小さなお城(ホーム)の購入、そして過労死寸前のエリスお姉さんを救い出すためのタイムリミットまで、あと——3日。

 

 

 

 

歩く道具屋イサミと、情熱に燃えるふたりの少女冒険者は、さらなる高みと莫大な利益を目指し、力強く足を踏み出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋の陽光が街を包み込む中、イサミ、クロエ、ココの三人はコパンドンCITYの中央ギルド本部——その2階に位置する「高難度掲示板」の前に立っていた。

 

 

 

普段、クロエたちが立ち寄る1階の掲示板には、街の掃除や薬草採取、あるいはせいぜい街道のゴブリン数匹の駆除といった、いわゆる「安全重視」の依頼ばかりが並んでいる。

 

 

報酬も大銀貨1枚から2枚(約1万〜2万円)程度。自分たちの宿屋代と日々の食費を稼ぎ、少しずつの貯金を残すには十分だったが、クランホームの購入資金である「金貨5枚(約50万円相当)」を短期間で貯めるにはあまりにも遠い道のりだった。

 

 

 

 

「……ここが、Cランク以上限定の『高額・高難度依頼』のコーナーね……」

 

 

 

 

クロエは小剣の柄に手をかけたまま、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 

 

木製の黒塗りの掲示板には、羊皮紙の端が血や魔物の体液で汚れたような、物々しい雰囲気を纏う依頼書がズラリと並んでいる。

 

 

 

どれも報酬の欄には「大銀貨10枚」「金貨2枚」「金貨3枚」といった、一昔前の自分たちなら目を見張るような桁違いの金額が躍っていた。

 

 

 

 

「うわぁ……。報酬の額が、いつも見ているやつの10倍以上だよ、クロエちゃん……」

 

 

 

 

ココも大きな魔法帽を目深にかぶり直し、少し怯えたようにクロエの袖をキュッと掴んだ。

 

 

 

 

「ふふふ、恐れることはありませんよ〜っ、ココさん!」

 

 

 

 

後ろからひょっこりと顔を出したのは、背中に巨大なリュックを背負ったイサミだ。

 

 

イサミは少年らしい無邪気な笑顔を浮かべながら、ソロバンの珠を指先でチャリ……と軽く弾いて見せた。

 

 

 

 

「高額報酬にはそれ相応の理由(リスク)がありますが、今のクロエさんとココさんの実力、そして僕の『フルサポート』があれば、決して手の届かない壁ではありません! さてさて、本日の『最高効率銘柄』は……これですねぇ!」

 

 

 

 

 

イサミが長い指先でバシッと指し示したのは、掲示板の中央に貼られた一枚の羊皮紙だった。

 

 

 

 

【緊急討伐・高額素材回収依頼】

 

討伐対象:岩鎧熊(アーマーベア)1頭およびその群れ(子熊・従属熊2頭)

 

発生地域:東の「赤土の断崖」洞窟群

 

条件・概要:近隣の流通街道に出没し、行商人の馬車を襲撃しているCランク上位の大型魔獣。極めて頑丈な外骨骼と鋭い岩爪を持つ。

 

報酬額:基本討伐報酬 金貨2枚(大銀貨20枚/約20万円)

 

備考:討伐時に『岩鎧熊の完全な頭角』および『剛毛皮』を破損させずに回収できた場合、商人ギルドより特別ボーナスとして**金貨1枚(大銀貨10枚/約10万円)**を追加支給。

 

 

 

 

 

「き……金貨3枚……っ!?」

 

 

 

 

クロエの瞳が大きく見開かれた。

 

 

1回のクエストで金貨3枚(約30万円相当)——!

 

 

現在、二人の手元にある貯金は金貨1.5枚(大銀貨15枚)。

 

 

 

もしこの依頼を一度で成功させれば、一気に目標額である金貨5枚の過半数を突破し、夢のマイホーム購入へと一気に王手が手にかかる計算になる。

 

 

 

 

「い、岩鎧熊(アーマーベア)……!? イサミさん、あれってCランクの中層パーティでも命がけで挑むっていう、あの岩みたいな皮を持った巨大な熊でしょ!? 私たちの魔法や剣が通るのかな……?」

 

 

 

 

ココが不安そうに声を震わせる。

 

 

 

 

それも無理はない。

 

岩鎧熊は、その名の通り皮膚が硬化した岩石のような甲甲で覆われており、並の剣撃や初級魔法では傷一つつけられないことで知られている。

 

 

だが、イサミはニカッと眩しい笑顔を弾けさせた。

 

 

「大丈夫です! 相手の硬度に対して適切な属性攻撃と、即時の体勢立て直しができれば、勝率は99.8%まで引き上げられます! 何より……僕の持ってきた特製アイテムの出番ですからねぇ」

 

 

 

 

イサミはお茶目に片目を瞑ると、胸を叩いた。

 

 

 

「どうしますか、クロエさん? 挑戦してみますか?」

 

 

 

 

クロエは一度目を閉じ、深く息を吐き出した。

 

 

 

脳裏に浮かぶのは、昨夜イサミから聞かされた「自分たちのホーム」の夢。

 

そして、イサミの『人を雇うための資金が必要』という言葉が強く残っていた)。

 

 

 

 

「……やるわ」

 

 

 

 

クロエは目を開けると、燃えるような力強い瞳でイサミとココを見つめた。

 

 

 

 

「いつまでもぬるま湯でスライムやオークを倒して、大銀貨1枚や2枚で喜んでる場合じゃないわ! 私たちはCランク……いいえ、将来はBランク、Aランクのトップ冒険者になるんだから! ココ、イサミ、行くわよ!!」

 

 

 

「うん……! クロエちゃんがそこまで言うなら、私も全力で魔法を撃ち込むよっ!」

 

 

 

ココも強く頷いた。

 

 

 

こうして、三人は莫大な報酬と自分たちの限界突破を懸け、東の「赤土の断崖」へと出発したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コパンドンCITYから東へ街道を歩くこと数時間。

 

 

次第に緑の木々は姿を消し、荒々しい赤茶色の岩肌が剥き出しになった断崖絶壁の地帯へと風景が切り替わっていく。

 

 

風が吹き抜けるたび、砂埃が舞い上がり、どこか不気味な獣の匂いが鼻をついた。

 

 

 

「……ここが、赤土の断崖……」

 

 

 

 

クロエは小剣を抜き、慎重な足取りで前進する。

 

ココも杖をキュッと握りしめ、周囲の物音に耳を澄ませていた。

 

 

その背後で、イサミは相変わらず巨大なリュックを背負いながら、まるでピクニックにでも来たかのように軽快な足取りでついてくる。

 

 

 

(ふむ。周囲の反応、および足跡の深度から見て……ターゲットは前方50メートル先の洞窟内に潜んでいますね。子熊(Dランク相当)が2頭、そして体長3メートルを超える親の岩鎧熊(Cランク上位相当)が1頭。……ふふふ、絶妙な『苦戦』と『適度な危機感』を味わうには最高の配置ですねぇ……)

 

 

 

 

イサミは心の中でソロバンの珠をパチリと弾き、不敵に口角を上げた。

 

 

 

「クロエさん、ココさん。来ますよ! 洞窟の奥から、大型の反応です!」

 

 

 

 

イサミの声と同時に——

 

 

 

 

「グオオオオオオオオオンッ!!!」

 

 

 

 

地鳴りのような咆哮が響き渡り、赤土の洞窟から巨大な影が飛び出してきた。

 

 

 

 

「「っ!?」」

 

 

 

 

姿を現したのは、体高3メートルはあろうかという巨体を持つ**岩鎧熊(アーマーベア)**だ。

 

 

 

 

その背中から肩にかけては、硬質な赤い岩石のような甲甲がびっしりと生え揃い、丸太のように太い前脚には、鋭い岩爪がギラギラと光っている。

 

 

 

 

さらにその両脇には、一回り小さな子熊(とはいえ大人の人間より巨大)が2頭、殺気を撒き散らしながら控えていた。

 

 

 

 

「デカい……っ! これが岩鎧熊……!」

 

 

 

クロエは威圧感に一瞬息を呑んだが、すぐに脚を踏み込んで小剣を構えた。

 

 

 

「ココ! 子熊の片方はあたしが引きつける! もう片方の足止めを魔法で頼むわ!」

 

「う、うん! 縛鎖(バインド)っ!」

 

 

 

 

ココが杖を掲げると、足元の赤土から太い植物の蔦が勢いよく伸び、左側の子熊の足首を絡め取った。

 

 

 

「グオッ!?」

 

「よし、かかった! クロエちゃん、今だ……」

 

 

 

 

だが——その直後、親の岩鎧熊が凄まじい速度で地面を蹴った!

 

ズシンッ! ズシンッ!!

 

巨体からは想像もつかない俊敏さで、岩鎧熊は一瞬にしてクロエの眼前に迫り、岩石の甲甲が覆う巨大な前脚を振り下ろした。

 

 

 

 

「くっ……!? 速いっ! っ!」

 

ギャギィィィィンッ!!!!

 

 

 

 

激しい火花が散り、強烈な衝撃がクロエの両腕を襲った。

 

 

普段のオークやゴブリンとは比べものにならない重圧。クロエの身体はズザザザッと数メートル後方へと弾き飛ばされ、赤土の地面に足をとられた。

 

 

 

 

「くあっ……!? 重い……っ! 腕が……痺れ……っ!」

 

「クロエちゃんっ!?」

 

 

 

 

ココが叫ぼうとした瞬間、縛鎖を振り払った子熊が、手薄になったココに向かって猛然と突進してきた。

 

 

 

 

「きゃあああっ!?」

 

「しまっ……! ココッ!!」

 

 

 

 

クロエが立ち上がろうとするが、岩鎧熊の巨体が立ち塞がり、追撃の岩爪を振りかざす。

 

二人の連携が一瞬にして崩れ、絶体絶命の危機が訪れた——

 

 

 

 

 

——はずだった。

 

 

 

 

 

「やぁやぁ! 『歩く道具屋』の特製サポート、入りま〜すっ!」

 

 

 

 

場違いなほど軽快な声が響いた瞬間、イサミの影が旋風のように二人の間を駆け抜けた。

 

 

 

 

「まずはココさん! 『粘着ゲル爆弾(普及版)』をどうぞ〜っ!」

 

 

 

 

イサミがリュックのポケットから取り出して投げつけた小さな陶器の瓶が、突進してくる子熊の顔面で弾け飛んだ!

 

中から溢れ出た粘着質の液体が瞬時に膨らみ、子熊の目と鼻を完全に覆い隠す。

 

 

 

 

「グガッ!? グオッ!?」

 

 

 

 

視界と呼吸を奪われた子熊は、悲鳴を上げてその場でのた打ち回った。

 

 

 

 

「そしてクロエさん! 腕の痺れには『特製・筋力瞬間活性ポーション』と『衝撃吸収パウダー』です!」

 

 

 

 

イサミは素早い手つきでクロエの口元にポーションの瓶を押し当て、同時に彼女の脚元へ紫色の粉末を撒き散らした。

 

 

 

 

ゴクン、とポーションを飲み干した瞬間、クロエの全身に熱い魔力が脈打ち、痺れていた両腕の感覚が劇的に回復していく。

 

さらに足元に撒かれた粉末が地面の摩擦力を高め、体勢を完璧に安定させた。

 

 

 

 

「な…体が軽い……痺れが、消えた……!」

 

「ふふ、代金は後払いで結構ですよ〜っ!」

 

 

 

 

イサミはお茶目に微笑むと、リュックから取り出した一本の『属性付与の巻物(スクロール)』をクロエの小剣に押し当てた。

 

 

 

 

「岩鎧熊の岩石甲甲の弱点は、**『振動(振動破砕)』**属性です! 剣の切れ味ではなく、衝撃の波で内側から粉砕してください!」

 

キュィィィィンッ!

 

クロエの小剣が、眩い青白い光と微細な振動音(キーンという高周波)を放ち始めた。

 

 

 

 

「振動……属性……っ! これなら、あの岩の皮を……!」

 

 

 

 

 

クロエの瞳に、完全な勝利の道筋が浮かび上がった。

 

 

 

今までのような「安全な戦闘」では、イサミのアイテムに頼るまでもなく、自分たちの素の力だけで勝つことができていた。

 

 

だが、この極限の高難度戦線において、イサミの「完璧なタイミングでの即時補給と戦術アドバイス」が、どれほど壊れかけた戦況を瞬時にひっくり返すのか——クロエとココは皮膚感覚で理解した。

 

 

「ココ! 復帰できる!?」

 

「うんっ! イサミちゃんのおかげで大丈夫! 『粘着ゲル』が切れる前に、子熊を魔法で凍らせるよ!」

 

「頼んだわ! あたしは……あの親熊を倒すっ!!」

 

 

 

 

クロエは地面を強く蹴り上げた。

 

ポーションの効果で極限まで高まった脚力が、彼女の身体を弾丸のように加速させる。

 

 

 

 

「グオオオオッ!!」

 

 

 

 

親の岩鎧熊が、怒りに狂って巨大な岩爪を振り下ろす。

 

だが、先ほどまでの「重圧への恐怖」はクロエの中から完全に消え去っていた。

 

 

 

(見えた……っ! 動きは重い! 爪の軌道さえ見切れば……!)

 

 

 

 

クロエは紙一重で岩爪を交わし、巨体の懐深くまで潜り込んだ。

 

目標は、胸元の中央——最も硬い岩石甲甲が集中しているコア(核)の部分だ。

 

 

 

 

「これで……決めるっ!! ーーーっ!!」

 

ズドォォォォォォンッ!!!!

 

 

 

 

属性付与された小剣が、岩鎧熊の胸元へ深く突き刺さった。

 

 

瞬間、小剣から放たれた高周波の振動波が、巨体の内側へと炸裂する!

 

 

 

 

 

バリバリバリバリッ……ガンッ!!

 

 

 

 

あんなに頑丈だった岩石の甲甲に、一瞬で網の目のような亀裂が走り、次の瞬間、激しい音を立てて粉々に砕け散った。

 

 

 

「グ……ガ……ッ……!?」

 

 

 

絶叫を上げる親熊。

 

その無防備になった胸元へ、クロエはさらに踏み込み、小剣を横一文字に閃かせた。

 

 

 

 

シュパァァァンッ!!

 

 

 

 

鮮血が舞い散り、3メートルを超える巨体が、ズズズン……と地響きを立てて赤土の地面に倒れ伏した。

 

 

同時に、ココの氷結魔法を受けた子熊たちも完全に沈黙。

 

 

しん……と静まり返る赤土の断崖。

 

 

激しい死闘の終わりを告げるのは、吹き抜ける秋の風の音だけだった。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」

 

 

 

 

クロエは小剣を握りしめたまま、肩で激しく息をついた。

 

 

額からは大粒の汗が吹き出し、膝が少しだけ武者震いで震えている。

 

 

 

 

 

「や……やった……? 私たち……本当に、あの岩鎧熊を……倒したの……?」

 

 

 

 

ココも杖を支えにしてへたり込み、信じられないというように倒れた巨体を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

そこへ——

 

 

 

 

「パチパチパチパチ! 素晴らしい集中力と連携でしたよ〜っ、クロエさん、ココさん!」

 

 

 

イサミが手を叩きながら、軽快な足取りで駆け寄ってきた。

 

 

 

 

イサミは手際よくナイフを取り出すと、倒れた岩鎧熊の頭部から、傷一つない立派な『頭角』と『剛毛皮』をサクサクと解体・回収していく。

 

 

 

 

 

「ふむふむ! 素材の保存状態も完璧です! これなら特別ボーナスの金貨1枚も満額支給されますねぇ! 本日の稼ぎは……**合計金貨3枚(大銀貨30枚/約30万円相当)**ですっ!」

 

「き……金貨3枚……っ!」

 

 

 

 

クロエとココは、顔を見合わせた。

 

たった1回のクエスト。

 

時間にすれば、移動も含めて半日足らず。

 

それで、自分たちがこれまで何ヶ月もかけてコツコツ稼いでいた金額の何倍もの大金を、一度に手に入れてしまったのだ。

 

 

 

 

「すご……すごいよ、クロエちゃん……! 私たち、本当に金貨3枚も稼げちゃったよ……!?」

 

「ええ……ええ……っ! すごいわ……っ!」

 

 

 

 

クロエは自分の手を見つめ、それから倒れた魔獣の巨体を見上げた。

 

 

胸の中に湧き上がってきたのは、大金を手に入れた歓喜だけではなかった。

 

 

それ以上に大きかったのは——**「自分たちが今まで、どれだけ甘い安全マージンの中で戦っていたか」**という、強烈な開眼(自覚)だった。

 

 

(……あたしたち、今まで何をやってたんだろう……)

 

クロエの頭の中で、過去の出来事が走馬灯のように駆け巡る。

 

 

DランクやEランクのぬるいクエストで、怪我をしないように、失敗しないようにと、自分たちの能力(Cap)の半分も出さずに安全地帯で小銭を稼いでいた日々。

 

 

 

もちろん、命を守るためには必要な警戒だったかもしれない。

 

 

 

だが……イサミという完璧な「安全網(セーフティネット)」とサポートを得た今、自分たちはもっと高い壁に挑戦し、もっと大きな成果を掴み取るだけの実力(ポテンシャル)を持っていたのだ。

 

 

 

 

「……イサミ」

 

 

 

 

クロエはゆっくりと立ち上がり、イサミを見つめた。

 

 

 

 

「あたしたち……今まで、本当に安全マージンを取りすぎてたのね。自分たちの本当の力にフタをして、ぬるま湯に浸かってただけだったんだわ……」

 

「ふむ?」

 

 

 

 

イサミは素材をリュックに仕舞いながら、首をかしげた。

 

 

 

 

「そんなことはありませんよ? 無謀な挑戦で命を落とす冒険者が9割の世界です。お二人が慎重に生き残ってきたからこそ、今こうして僕と出会い、飛躍するチャンスを得られたんですから」

 

 

 

 

イサミはニカッと温かい笑顔を向けた。

 

 

 

 

「ですが……今日の『手応え』で理解できたでしょう? お二人は、もう『駆け出し』ではありません。限界に挑み、莫大な利益を掴み取る価値のある……立派な中堅冒険者(Cランク)なんですよ!」

 

 

 

 

イサミの言葉が、クロエとココの胸に温かく染み渡る。

 

 

 

 

「うん……っ! 私、なんだかすごく自信がついたよ! 次はもっと強い魔物が来ても、クロエちゃんとイサミちゃんと一緒なら、絶対に負けない気がするっ!」

 

 

 

 

ココもパッと明るい笑顔を取り戻し、胸を張った。

 

 

 

 

「ふふ……言ったわね、ココ! 次ももっと高単価なクエストを狙うわよ!」

 

 

 

 

クロエは力強く小剣を鞘に収めると、空を見上げた。

 

 

 

 

現在の貯金は、元々の金貨1.5枚に、今日の報酬・金貨3枚(消耗品費などを引いても実質金貨2.5枚分以上の純利益)が加わり、一気に金貨4枚超えに到達した。

 

目標のホーム購入資金「金貨5枚」まで、あとわずか金貨1枚未満。

 

 

 

 

(あと1回……! あと1回高難度クエストをこなせば、あたしたちの夢の『ホーム』が手に入る……! そして、イサミが言っていた『人を雇うための資金』だって、このペースなら絶対に稼ぎ出せる……!)

 

 

 

 

クロエの瞳には、かつてない自信と、希望の光がみなぎっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(〜岩鎧熊を討伐し、コパンドンCITYのギルド本部へ帰還〜)

 

ギルドの換金窓口で岩鎧熊の討伐証明と、傷一つない『頭角』『剛毛皮』を提出したクロエたちは、約束通りの大金——基本報酬の金貨2枚と、特別ボーナスの金貨1枚、合わせて**【金貨3枚(大銀貨30枚/約30万円相当)】**のギルド金貨をずっしりと受け取った。

 

 

 

「す……すごい……! 本当に金貨3枚、本物だわ……っ!」

 

 

 

カウンターでズシリと重い革袋を受け取り、目を輝かせるクロエ。

 

 

 

だがその直後、横からスッとチャリ……とソロバンの珠を弾く爽やかな音が響いた。

 

 

 

「はいっ! それではクロエさん、ココさん! 本日の『歩く道具屋・特別サポート代金』のご精算のお時間ですよ〜っ♪」

 

 

 

 

イサミがお茶目な笑顔で差し出してきたのは、手帳からピッと破り取られた一枚の明細書(領収書)だった。

 

 

 

「えっ……あ、そうだった! 戦闘中に色々使ってもらったものね!」

 

 

 

 

クロエとココが明細書を覗き込む。そこには、寸分違わぬ細やかな項目と金額がびっしりと書き込まれていた。

 

 

 

 

【歩く道具屋・イサミ 出張サポート&消耗品清算明細】

 

筋力瞬間活性ポーション(特級):大銀貨2枚

 

 

衝撃吸収パウダー:銀貨5枚

 

粘着ゲル爆弾(普及版):大銀貨1枚

 

属性付与スクロール(振動破砕):大銀貨3枚5銀貨

 

【合算小計】:大銀貨7枚 + 銀貨10枚(=大銀貨8枚/約80,000円相当)

 

 

 

 

「うぐっ……! た、たった一回の戦闘で大銀貨8枚……!?」

 

 

 

 

クロエは思わず額に汗を浮かべた。普通に考えれば、駆け出し冒険者の数日分の稼ぎが吹き飛ぶ金額だ。

 

 

 

だが、イサミはニコッと可愛らしく首を傾げてみせた。

 

 

 

「ふふふ。ですがクロエさん、思い出してくださいね? あの局面で『筋力活性ポーション』と『振動スクロール』がなければ、岩鎧熊の岩石甲甲は突破できず、最悪の場合は撤退……あるいは大怪我を負って治療費に金貨数枚が飛んでいたはずです。命と金貨3枚の報酬を守るための必要な経費(投資)ですよ〜?」

 

 

「ぐ……っ! 言われてみれば、完全にその通りね……! あんたのアイテムがなきゃ、あたしたち全滅しかけてたし……!」

 

 

「うん……! 私の粘着ゲル爆弾も、あのおかげで子熊の突進を止められたもん! 安いくらいだよっ!」

 

 

 

 

ココも納得して強く頷いた。

 

 

 

 

イサミの提示する価格は決して不当なボッタクリではなく、**「確実に命を救い、勝利をもたらす成果」**に対する適正かつ明朗なビジネスなのだ。

 

 

 

「分かったわ! はい、今日の報酬から大銀貨8枚(金貨0.8枚分)! ちゃんと受け取って!」

 

 

 

 

「毎度あり〜っ! 確実にお預かりしました♪」

 

 

 

クロエから手渡された大銀貨8枚を、イサミは手慣れた手つきで懐のコインポーチへ仕舞い込んだ。

 

 

 

これにより、本日の純利益の分配は以下の通り確定した。

 

 

 

 

クロエ&ココの純利益:金貨3枚 − 大銀貨8枚 = 【金貨2枚 + 大銀貨2枚(約22万円相当)】

 

※これにより、二人の総貯金は従来の金貨1.5枚から一気に**【金貨3.7枚(約37万円相当)】へ激増! 目標の金貨5枚まであと金貨1.3枚**!

 

イサミの個人収益:出張日当+消耗品マージンで**【大銀貨8枚(約8万円)の現金を即時回収】**+高額素材の卸売り優先権を獲得!

 

 

 

 

双方にとって文句のつけようがない完璧な「WIN-WIN」の取引が完了したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方。

 

 

 

コパンドンCITYへの帰り道、夕日に染まる街道を三人は歩いていた。

 

 

 

クロエとココは、手に入れた達成感と疲れで心地よい表情を浮かべながら、将来のホームのレイアウトについて楽しそうに語り合っている。

 

 

 

「あたし、やっぱり日当たりの良い2階の部屋がいいな! 窓から街が見渡せるようなやつ!」

 

 

「私は1階の裏部屋がいいなぁ。魔法の薬品を置くから、涼しくて静かな場所がいいの!」

 

 

「ふふふ、楽しみですねぇ♪」

 

 

 

 

二人の後ろを歩くイサミは、ニコニコと相槌を打ちながらも——その脳内では、冷徹で完璧なソロバンの珠が、パチパチパチパチ……と恐ろしい速度で弾けていた。

 

 

 

 

(……完璧です……! 全てが僕の描いたシナリオ通りに進行していますねぇ!)

 

 

 

イサミの瞳の奥で、黒い利益の光がギラリと輝く。

 

 

 

 

(クロエさんたちの『限界突破』による精神的成長。これにより、高難度クエストへの恐怖心は完全に払拭されました。さらに、本日の戦いで僕の『特製ポーション』や『属性付与スクロール』、『粘着ゲル爆弾』といった高級消耗品の有用性を骨の髄まで叩き込みましたからねぇ……)

 

 

 

 

イサミはリュックの横ポケットを撫でた。

 

 

 

 

(本日の消耗品売り上げだけで、僕個人の純利益は大銀貨8枚(約8万円相当)。さらに高額素材の優先買取権により、明日以降の商人ギルドでの卸売りでさらに利益が跳ね上がります! クロエさんたちにホームを買わせ、Cランク上位へと爆速で押し上げつつ、僕自身の懐もガッポリ……これぞ最高の『先行投資(win-win)』です!)

 

 

 

 

そして——

 

 

 

イサミは懐から、一通の小さな羊皮紙(メモ)を取り出した。

 

 

 

昨夜、過労死寸前のエリスお姉さんに手渡した「通信用の魔導呼び出し鈴」。

 

 

 

その鈴が発する微小な魔力波長を感知する、イサミ特製の親機センサーだ。

 

 

 

 

(エリスお姉さんに与えた猶予は『あと3日』……。ですが、今日のクロエさんたちの稼ぎのペースなら、明日にはホーム購入資金(金貨5枚)が完全に手に入ります。そして、環境の過酷さに耐えかねたエリスお姉さんが鈴を鳴らすのも……おそらく今夜か、明日の夜)

 

 

 

イサミはお茶目に口角を吊り上げた。

 

 

 

 

(ホームの鍵を手に入れる瞬間と、エリスお姉さんが泥沼の『黒獅子の盾』から逃げ出して僕たちの元へ駆け込んでくる瞬間……。完璧なタイミングで『支配人(管理人)』としての就任式を執り行うことができますねぇ♪)

 

 

 

 

「イサミ〜? どうしたの、遅れてるわよ〜!」

 

 

 

 

前方から、クロエが笑顔で振り返って手を振った。

 

 

 

「やぁやぁ! 今行きますよ〜っ! 今日の夜は、金貨3枚達成のお祝いに、居酒屋で一番高いお肉料理を食べましょうね〜っ!」

 

 

「やったぁ〜っ! イサミさんのおごり〜!?」

 

「えっ!? そこは割り勘でお願いしますよ〜っ!?」

 

 

 

夕闇が迫るコパンドンCITYへと続く道を、三人の賑やかな笑い声が溶けていく。

 

 

 

歩く道具屋イサミの計算通りの世界で、少女たちは着実に「自分たちの未来」へと足を踏み出していたのだった。

 

 

 

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