※この作品はR-18です。

イサミクエスト マックシム   作:勇者パンスト

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始まりと鴨さんと

【コパンドンCITY】

 

 

 

 

 

街道を抜けた先、小高い丘の頂から眼下に広がるその街を見た瞬間、イサミは思わず「へぇ〜」と感嘆の声を漏らした。

 

 

 

街全体を囲む重厚な城壁。

整然と区画整理された石畳の通りには、色とりどりの屋根を持つ建造物が立ち並び、中央には巨大な噴水広場が鎮座している。

 

 

どこかの辺境の村とはわけが違う。活気あふれる人の往来、飛び交う威勢の良い掛け声、そして漂ってくる焼き肉の香ばしい匂い。

 

 

 

コパンドンCITY。

 

 

 

交易の要衝にして、数多くの冒険者が拠点を置く中規模都市だ。

 

 

「いいですねぇ、実にいい活気です。これなら僕の『歩く道具屋』ビジネスも大盛況間違いなし、ですよ〜!」

 

 

イサミは背中の巨大なリュックをくいっと担ぎ直し、お茶目な笑みを浮かべながら街の門を潜った。

 

 

 

門番に軽く挨拶を交わし、向かうは街の中心にある冒険者ギルド。新しい街に着いたら、まずは市場調査と「太っ腹なお客様」の吟味から始めるのが鉄則だ。

 

 

 

ギルドの重厚な木製扉を押して中へ入ると、そこは熱気と酒と汗の匂いに満ちていた。

 

 

大型の魔物を狩ってきたばかりの荒くれ者たちが大杯を煽り、壁に貼られた依頼書(クエストシート)の前では新人冒険者たちが喧々諤々の議論を交わしている。

 

 

 

イサミは受付カウンターの隅、全体が見渡せる絶好のポジションを陣取ると、柱に背を預けて頬杖をついた。

 

仕草こそチャラチャラとした少年そのものだが、その瞳は目ざとくギルド内の冒険者たちの「装備」と「表情」をスキャンしていく。

 

 

 

(うーん、あの重戦士さんは装備がボロボロですねぇ。ポーションの1本も買えなさそう。あの魔法使いさんは……うーん、神経質そうだから自分で調合するタイプかなぁ……)

 

 

 

内心で冷徹に「カモ度」を品定めしていた、その時だった。

 

 

「だーかーらー! ポーションの持ちすぎだって言ってるでしょ、ココ! そんなに溜め込んだら、肝心の移動でバテちゃうじゃない!」

 

 

「だって……だってクロエちゃん! 予備の予備はないと不安なんだもん! 毒消し草だって、もし『毒毒大ガエル』が出たらどうするの!?」

 

 

 

ギルドの中央、依頼板の真下で、一際の目を引くふたりの少女が押し問答を繰り広げていた。

 

 

ひとりは、赤毛のショートカットに引き締まった革鎧を身に纏った小柄な少女。

腰には手入れの行き届いた一対の小剣。勝ち気そうな瞳を吊り上げ、頭を抱えている。名前はクロエと言うらしい。

 

 

 

もうひとりは、大きな魔法帽を深く被り、体躯に見合わない巨大な杖を抱えた少女。

名前はココ。

 

気弱そうなタレ目に、今にも泣き出しそうな表情で、足元に置かれた巨大な麻袋をぎゅっと抱きしめていた。その麻袋からは、ポーションのガラス瓶がガチャガチャと重たげな音を立てている。

 

 

 

「毒毒大ガエルなんてこの時期出ないわよ! それに見てよその袋! あんたの体重より重いでしょ! ポーターを雇うお金もないのに、そんなの持ってダンジョンに入れるわけないじゃない!」

 

「うぅ……でもぉ……アイテムが足りなくて全滅したら、ココ、悲しくて泣いちゃう……」

 

「もう泣いてるでしょうが!」

 

 

クロエの容赦ないツッコミに、気弱なココは「ヒィン」と小さな悲鳴を上げる。

 

 

そのやり取りを、イサミは見逃さなかった。

 

 

(……はい、見ーつけた!)

 

 

イサミの瞳の奧で、ちゃっかりとした輝きがキラリと閃く。まるで「¥」の記号が浮かび上がったかのようだ。

 

 

資金難でポーターを雇えない。

 

 

だが、回復アイテムを持ち込めないと不安で動けない。

 

 

そして何より、命の安全を何よりも優先したいタイプ。

 

まさに、自分のために存在するような理想的な「お客様」ではないか。

 

 

イサミは口角をいたずらっぽく上げると、極めて自然な、どこかチャラついた歩調でふたりの少女へと近づいていった。

 

 

 

「やぁやぁ、お姉さんたち! なんだか困ったお呼びですねぇ〜?」

 

「……は?」

 

 

 

突然割り込んできたチャラい美少年に対し、クロエはあからさまに警戒の眼差しを向けた。小剣の柄にそっと手を伸ばしながら、イサミを上から下まで品定めするように睨みつける。

 

 

 

「なによあんた。あたしたち、今すっごく深刻な話をしてるんだけど?」

 

「いやいや、失礼! 聞く気はなかったんですけど、あまりに可愛らしいお二人が困っていたもので、ついつい声をおかけしちゃいました!」

 

 

 

イサミは悪びれもせず、いたずらっぽくウインクを一発飛ばしてみせる。

 

 

「なっ……! か、可愛らしいだなんて……っ!」

 

 

クロエが不意を突かれて一瞬頬を染め、すぐに「ごまかされないわよ!」と一喝する。一方のココは、魔法帽を目深にかぶり直してイサミの陰からクロエの背中へと隠れた。

 

 

 

「ボクの名前はイサミ! 旅の冒険者にして……ふふん、自称『歩く道具屋』ですよ〜!」

 

 

 

イサミは背中の巨大なリュックサックをポンポンと叩いてみせた。

 

 

 

「……歩く、道具屋?」

 

 

 

クロエが眉をひそめる。イサミは待ってましたとばかりに、両手を広げてお茶目に語り始めた。

 

仕草や口調はどこまでも軽いが、その内容は完璧に計算されたセールストークだ。

 

 

 

「そう! 歩く道具屋! お姉さんたちの会話、チラッと耳に入っちゃいましたけど……ポーションの重さで身動きが取れない? ポーターを雇うお金もない? はい、すべてこのイサミが解決してみせましょう!」

 

「ど、どうやって……?」

 

 

 

おそるおそる、ココがクロエの背中から顔を出して尋ねる。

 

 

 

「簡単なことですよ〜! 僕がお姉さんたちのクエストに同行します! 重たいポーションも、予備の毒消し草も、全部僕のこの特製リュックに大量完備! お姉さんたちは、必要な時に必要な分だけ、僕から買い取ればいいんです!」

 

 

「……はぁ? なによそれ。結局、あんたをポーターとして雇えってこと?」

 

 

 

クロエは疑わしそうに腕を組む。

 

 

 

「いえいえ、違います! 通常のポーターさんなら、戦闘能力がありませんからお姉さんたちが護衛しなきゃいけませんよね? でも……見てください、僕も一応冒険者ライセンスを持った男手です!」

 

 

 

イサミは腰の短剣を軽く示し、自信満々に胸を張った。

 

 

 

「自分の身は自分で守れます! つまり、お姉さんたちはポーターの護衛に気を揉む必要もなし! アイテムの重さに喘ぐ必要もなし! 完全手ぶらで、万全のサポートを受けながらクエストを攻略できる……まさに夢のようなシステム『出張道具屋』ですよ〜!」

 

 

 

完璧なプレゼンテーション。

 

ココの瞳が、パァッと輝いた。

 

 

 

「手ぶら……! 予備のアイテムも、欲しい時にすぐ買える……! クロエちゃん、これすごいです! すごいですっ!」

 

「ちょっと待ちなさいココ、騙されちゃダメ!」

 

 

 

クロエは冷静さを失わず、イサミの顔をじっと睨みつけた。

 

 

 

「世の中にそんな上手い話があるわけないでしょ。あんた、あたしたちに何のメリットがあってそんなことするのよ。手伝い料(日当)はどうなの?」

 

 

 

イサミは待っていましたと言わんばかりに、ニヒッとちゃっかりした笑みを深めた。

 

 

 

「日当? そんなものはいりませんよ〜! 無料(タダ)です! タダ!」

 

「はぁ!?」

 

「ただし……現地で僕から購入していただくアイテムの代金は、街の相場の『1.5倍』とさせていただきます。出張手数料と、安心の保険料ってことで……ね?」

 

「いち、1.5倍……!?」

 

 

 

クロエの額にピキッと青筋が浮かぶ。

 

 

 

「やっぱり足元見てるじゃない! 高いわよ!」

 

「えぇ〜? 高くありませんって! ポーターを1人雇う日当と、大量のアイテムを買い込む初期費用、それに戦闘中の護衛のリスクを考えてみてください? 手ぶらで挑めて、使った分だけ後払い……どう考えても破格のサービス価格ですよ〜!」

 

 

 

イサミは頬に手を当て、お姉さんをからかうような悪戯っぽい表情でウインクする。

 

 

 

「うぅ……でも、クロエちゃん……ココ、あの重い袋を持って歩くのはもう無理かも……」

 

「ココ、あんたねぇ……!」

 

 

 

頭を抱えるクロエ。

しかし、彼女自身も理解していた。今回の依頼は、コパンドンCITYの近郊にある『湿地帯の鍾乳洞』での採掘および魔物討伐。

 

ぬかるんだ足場と、多湿な環境。あんな重たい荷物を背負って挑めば、ダンジョンの奥に着く前に全滅しかねない。

 

 

 

「……はぁぁぁ。分かったわよ。乗ったわ、その話」

 

 

 

クロエは深く溜息をつくと、イサミを指差した。

 

 

 

「ただし! 役に立たなかったり、途中で逃げ出したりしたら、代金は一銭も払わないからね!」

 

「はいはーい! ご注文成立、ありがとうございますっ! 頼れる命の保険屋さん、イサミにお任せください〜!」

 

 

 

イサミはお茶目にお辞儀をしてみせた。

 

 

 

(よしっ、初回顧客ゲット! 1.5倍の現地販売……ふふふ、これで今日の利益はバッチリですねぇ)

 

 

 

内心で目にお金マークを浮かべながら、イサミの『歩く道具屋』としての最初の依頼が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

コパンドンCITYから歩くこと数時間。

 

 

一行が辿り着いたのは、鬱蒼とした森林の奥深くに口を開ける『湿地帯の鍾乳洞』だった。

 

 

入口付近からして、じめじめとした湿気と独特の泥の匂いが漂っている。天井からは水滴がポタポタと落ち、足元は足首まで埋まるようなぬかるみだ。

 

 

 

「うへぇ……やっぱり嫌な足場ね。ココ、松明(たいまつ)を出して」

 

「あ……う、うん! えっと、松明は………」

 

 

 

ココが困り果てた顔でイサミを見る。

 

 

イサミはニカッと笑うと、背中の巨大リュックのサイドポケットからスルリと一本の松明を取り出し、魔導着火具でシュッと火を点けた。

 

 

「はいどうぞっ! 暗闇を照らす安心の明かり、特製防湿松明です! 街なら大銀貨1枚ですが、出張価格で大銀貨1枚と中銀貨5枚になりまーす!」

 

 

「手際良すぎでしょ……。はいはい、後でまとめて払うわよ」

 

 

クロエは呆れつつも、松明を受け取って先頭に立つ。手ぶらのおかげで、彼女の足取りは驚くほど軽い。

 

 

 

鍾乳洞の内部は、複雑に入り組んだ迷宮のようになっていた。ひんやりとした空気が肌を刺し、奥からは不気味な水音が響いてくる。

 

 

 

「今回の依頼は、洞窟の奥に咲く『月光苔』の採取と、そこに巣食う『スライム・ジェネラル』の討伐よ。ココ、魔法の準備はいい?」

 

 

「う、うん! いつでもいけるよ!」

 

 

「イサミ、あんたは下がってなさい。巻き込まれても知らないわよ」

 

 

「はーい、お任せくださーい! 僕は後ろでぬくぬく見守ってますからね〜!」

 

 

イサミは言われた通り、壁際に下がってリュックに腰掛けた。

 

情けない態度そのものだが、その瞳は洞窟の構造、水たまりの位置、そして少女ふたりの身体能力と連携の癖を瞬時に把握していた。

 

 

 

 

(クロエさんは前衛としての踏み込みが良いけど、足場が悪いから右足に余計な体重がかかってるな……。ココさんは詠唱速度は速いけど、テンパると足元の注意がおろそかになるタイプ、か)

 

 

 

 

無意識のうちに、母から叩き込まれた「戦況分析」が頭の中で組み上がっていく。

 

 

 

「キーッ!」

 

 

 

その時、天井の暗がりから数体の『ドクバット(毒コウモリ)』が襲いかかってきた!

 

 

 

「来たわね! ココ、後方をカバーして!」

 

「はいっ! 『風よ、刃となれ!』」

 

 

 

ココが杖を振ると、風の刃(ウィンドカッター)が放たれ、蝙蝠の群れを叩き落す。

クロエも素早い身ごなしで小剣を閃かせ、残った蝙蝠を鮮やかに切り伏せていく。

 

 

 

「よし、楽勝ね!」

 

 

 

クロエがニッと笑った、その瞬間——

 

バシャアアアンッ!!

 

 

 

 

洞窟の奥の水たまりが大きく爆発し、濁流とともに巨大な巨躯が現れた。

 

 

 

 

青く透き通った巨大なゼリー状の巨躯。中心核には、怪しく光るコア。

 

 

 

 

今回の討伐対象、『スライム・ジェネラル』だ!

 

 

 

「なっ……もう出たの!?」

 

 

 

 

スライム・ジェネラルは巨体に似合わぬ速度で、太い触手を鞭のようにしならせて叩きつけてきた!

 

 

ドガァンッ!!

 

「くっ……!?」

 

 

 

 

クロエが小剣で受け止めるが、ぬかるんだ足場に足をすくわれ、勢いよく壁際まで吹き飛ばされる。

 

 

 

 

「クロエちゃん! 助けなきゃ……『火炎よ——』」

 

 

 

 

ココが慌てて呪文を唱えようとしたが、スライム・ジェネラルは狙いを前衛から後衛の魔法使いへと変更していた。巨大な触手が、詠唱中のココに向かって振り下ろされる!

 

 

 

 

「ひっ……!?」

 

 

 

 

ココが恐怖で竦み、足がすくむ。

 

 

 

(あ〜あ、やっぱりテンパっちゃいましたねぇ)

 

 

 

壁際で見ていたイサミは、軽いため息をついた。

 

 

 

 

ここでココが潰されれば全滅。

 

全滅されれば、ここまでの松明代も、これから稼ぐはずだった売上もすべてパーだ。

 

 

 

ビジネス的に、それだけは絶対に容認できない。

 

 

 

「ひやぁぁぁっ!? 大変だぁぁぁっ! ココさん、伏せてくださぁぁい!」

 

 

イサミは情けない大声を上げながら、半狂乱になったフリをして転がるように間に入り込んだ。

 

 

 

 

そして、リュックから取り出した小瓶を、スライム・ジェネラルの触手に向かって投げつける!

 

 

 

パァンッ!!

 

 

 

弾けたのは、強力な『急速冷凍剤』。

 

 

 

触手の先端が一瞬でカチコチに凍りつき、ココの手前で重たげに砕け散った。

 

 

 

 

「ふ、ふえ……!?」

 

 

 

「ココさん、ボサッとしてたらダメですよ〜! ほら、特製マジックポーション! 詠唱速度が上がる高級品です! 今なら出張価格で大銀貨3枚!」

 

 

 

イサミはパニックを起こした演技を維持したまま、ココの口に強引に小瓶を押し込んだ。

 

 

 

 

「んぐっ……!? ……あ、あれ? 体が軽い……魔力が溢れてくる……!?」

 

「クロエさんも! ほら、足腰の踏ん張りが利く『筋肉強化薬』です! ポイッとな!」

 

 

 

 

吹き飛ばされていたクロエに向かって、イサミは的確に薬瓶を投げつける。クロエは見事にそれをキャッチし、疑う暇もなく飲み干した。

 

 

 

 

「な……なにこれ、力が湧いてくる……!? 足場が滑らない!?」

 

 

 

 

イサミの投げつけた薬は、ただの薬品ではない。絶妙なタイミングで投与された、超高品質のバフアイテムだ。

 

 

 

(さて……お膳立ては完了、ですよ)

 

 

 

 

イサミは転びかけたフリをして影に隠れながら、冷徹に計算する。

 

 

 

弱体化した触手、強化された前衛、そして詠唱を完了できる後衛。

 

 

 

「クロエちゃん! 核を狙って!」

 

「任せなさいッ!!」

 

 

 

筋肉強化薬の効果を得たクロエが、ぬかるみを蹴って爆発的なスピードで躍り出た。スライム・ジェネラルの牽制をかいくぐり、中心核へ向かって二連撃を叩き込む!

 

 

 

 

ズバババンッ!!

 

「ギシャアアアッ!?」

 

 

 

 

コアにヒビが入り、スライム・ジェネラルが悶絶する。そこへ、魔力を充填させたココの最大威力の火炎魔法が着弾した。

 

 

 

『爆炎よ、焼き尽くせ!火爆破!』

 

ドカァァァンッ!!

 

 

 

激しい炎と熱風が洞窟内を包み込む。

 

 

中心核を破壊されたスライム・ジェネラルは、維持できなくなった巨躯をただの濁った水へと変え、バシャバシャと地面に崩れ落ちていった。

 

 

 

洞窟内に、静寂が戻る。

 

「はぁ……はぁ……やった……? 倒した……?」

 

 

 

クロエが肩で息をしながら、小剣を収める。

 

ココもへたり込み、安堵の息を漏らした。

 

 

 

 

「や、やりましたねぇお姉さんたちーっ! いやぁ、一時はどうなるかと思いましたよ〜! 僕、怖くて寿命が縮んじゃいました!」

 

 

 

イサミは半泣きのフリをしながら、壁陰からひょっこりと顔を出した。

 

 

 

クロエとココは、顔を見合わせた。

 

 

 

そして、ゆっくりとイサミの方へと歩み寄ってくる。

 

「……イサミ」

 

「は、はいっ? なんでしょうクロエさん?」

 

「あんた……なんなのよ、一体」

 

 

 

 

クロエの瞳には、強い驚きと警戒、そして確かな感謝が混ざり合っていた。

 

 

 

 

「あたしが吹き飛ばされた瞬間、迷わず投げてきたあの薬……それにココを助けたあのタイミング。あんた、パニックになってたみたいだけど、全部計算して動いてたんじゃないの?」

 

 

 

 

(おっと、察しが良いですねぇ)

 

 

 

 

イサミは内心でヒヤリとしつつも、顔には完璧なお茶目な笑みを貼り付けたまま、首を大きく振ってみせた。

 

 

 

 

「なぁに言ってるんですかぁ! 僕はただ、お客様に死なれちゃ売上の回収ができないから、夢中でリュックの中身を投げ散らかしただけですよ〜! いやー、奇跡的に当たって良かったぁ!」

 

 

 

「……本当に?」

 

 

 

「本当も本当、大マジですよ〜! ほら見てください、僕の手、恐怖でこんなに震えてますから!」

 

 

 

イサミはあえて手をプルプルと震わせてみせた。完璧な演技だ。

 

 

 

クロエはしばらくじっとイサミの顔を見つめていたが、やがて呆れたように「はぁぁ」と大きな溜息をついた。

 

 

 

「……もういいわ。理由はどうあれ、あんたのアイテムのおかげで助かったのは事実だしね」

 

「ふふ、イサミさん、ありがとうございました! すごく頼もしかったです!」

 

 

 

 

ココが深く頭を下げる。

 

 

 

 

「いえいえ〜! お役に立てて光栄です! ……というわけで!」

 

 

 

イサミは待ってましたとばかりに、リュックからソロバンを取り出し、ジャラジャラと弾き始めた。その目には、隠しきれない「¥」のマークが浮かんでいる。

 

 

 

「今回の売上のご精算で〜す!

 

 

 

防湿松明1本、特製マジックポーション1本、筋肉強化薬1本、それに緊急避難用の急速冷凍剤1小瓶!

 

 

 

出張手数料1.5倍を適用いたしまして……合計で、金貨2枚と大銀貨8枚になりますっ!」

 

 

 

「「ぶっ……!? 額が高すぎ!!」」

 

 

 

ふたりの叫び声が、鍾乳洞の中に虚しくこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

 

 

 

無事に『月光苔』の採掘も終え、コパンドンCITYへ戻ってきた一行。

 

 

ギルドで依頼完了の報告を済ませ、報酬を受け取ったクロエは、泣く泣くイサミに金貨2枚と大銀貨8枚を手渡した。

 

 

 

「うぅ……あたしたちの取り分、半分以上消えたんだけど……」

 

「まあまあ、クロエさん! 怪我もなく、無事に難関依頼を達成できたんですから安いくらいですよ〜! 命の値段と考えたら、実質タダみたいなものです!」

 

 

 

ホクホク顔で金貨を懐に仕舞い込むイサミ。

 

 

 

「あんたのそのちゃっかりした性格、本当にむかつくわ……」

 

 

 

クロエは毒気を抜かれたように苦笑いした。

 

 

 

「でも、まあ……悔しいけど、あんたの『歩く道具屋』、想像以上に助かったわ。手ぶらで動けるのがあんなに楽だなんて思わなかった」

 

「ふふ、ココも、イサミさんがいてくれて安心でした!」

 

 

 

ふたりは晴れやかな笑顔をイサミに向ける。

 

 

 

「本当ですかぁ? いやぁ、そう言っていただけると道具屋冥利に尽きますねぇ!」

 

 

 

イサミはいたずらっぽくウインクしてみせた。

 

 

 

「じゃあお姉さんたち! 次の依頼の際も、ぜひこの『歩く道具屋イサミ』をご指名くださいね! 今ならリピーター割引で……特別に1.45倍にしておきますから!」

 

「安くなってないでしょ!!」

 

 

 

クロエの元気なツッコミが、コパンドンCITYの夕暮れの街頭に響き渡る。

 

 

 

イサミはちゃっかりとした笑顔を浮かべながら、ずっしりと重くなった懐をポンポンと叩いた。

 

 

 

 

(ふふふ、やっぱり『歩く道具屋』ビジネスは最高ですねぇ。次はどんな太っ腹なお客さんに出会えるかな……?)

 

 

 

 

夕日に照らされる街を背に、イサミのお茶目でチャラい冒険は、これからも続いていくのだった。

 

 

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