朝日がコパンドンCITYの石畳を白く染め上げる頃、イサミは宿屋の硬いベッドで目を覚ました。
身体の奥底には、まだ微かな疲労感と、それとは裏腹な心地よい熱が燻っている。
昨夜の記憶——エリスの甘い吐息、肌の温もり、そして蕩けるような交わりが鮮明に蘇り、イサミは思わず顔を覆ってベッドの上で身悶えした。
しかし、いつまでも少年の顔を引きずっているわけにはいかない。自分は商人なのだ。
冷たい水で顔を洗い、鏡の前でパンッと両頬を叩く。
引き締まった怜悧な表情を作り上げると、いつもの巨大なリュックを背負い、賑わい始めた大通りへと足を踏み出した。
東区にあるクランホームの重厚な扉を開けると、すでに活気ある朝の空気が満ちていた。
「おはようございます〜っ!」
イサミが声をかけると、リビングで装備の手入れをしていたガッツやルーシー、そして朝食のパンを齧っていたココが一斉に振り返る。
そして、受付カウンターの奥から、ふわりと春風のような微笑みを浮かべたエリスが姿を現した。
「おはようございます、イサミくん」
その瞬間、イサミの心臓がトクンと大きく跳ねた。
いつも通りにきちんと制服を着こなし、髪をまとめているエリスだが、その肌は内側から発光するような艶を帯び、銀色の瞳には隠しきれない潤いと色香が漂っている。
昨夜、あんなにも乱れ、泣き濡れて自分を受け入れてくれた女性が、今は完璧な受付嬢の顔で微笑んでいる。
その落差と特別感に、イサミは危うく理性を吹き飛ばされそうになった。
「お、おはようございますっ!……エリスお姉さん。今朝も、早いですねぇ〜」
「ええ。イサミくんが頑張ってくださっているのですから、私も負けてはいられませんもの」
二人の視線が交差する。ほんの数秒のことだったが、そこには確かに二人だけの濃密な秘密が共有されていた。
「……ふーん?」
不意に、真横からスッと差し込まれた声にイサミは肩をビクンと揺らした。
見ると、ティーカップを片手にしたクロエが、ジト目でイサミとエリスを交互に観察している。彼女のその翡翠色の瞳は、些細な変化も見逃さない狩人のように鋭い。
「お、おはようございます、クロエさん……。どうしたんですか?」
「いや? 別に。ただ……なんだか今日のイサミ、ちょっと雰囲気が違うなって思って。それに、エリスも。……ねえ、イサミ。あんたから、なんだかすごく甘い……大人の女の人みたいな匂いが微かにするんだけど?」
「なっ!?」
イサミの背筋に冷たい汗が伝う。
朝シャンで念入りに洗い流したはずだが、クロエの鋭い嗅覚と勘の良さを甘く見ていた。クロエはカップを置き、イサミにじりじりと詰め寄ってくる。
「昨日の夜、ホームを出た後……どこに行ってたわけ? まさか、どこかの悪いお姉さんに騙されて……」
「ち、違います! 商会の書類整理で少し手間取って……その、香の強いお茶を飲んだから、その匂いが移っただけですかねぇ……!」
しどろもどろになるイサミ。クロエの目がさらに細められ、「怪しい」と呟こうとしたその時だった。
「コホン」
澄んだ、しかしよく響く咳払いがリビングの空気を引き締めた。エリスだ。
彼女は手元のバインダーをトントンと机で揃えると、完璧な営業スマイルをクロエたちに向けた。
「クロエさん、イサミくんをあまりいじめないでくださいな。彼は夜遅くまで仕事をしていたんでしょう。……それよりも皆さん、集まってください。朗報です」
エリスの凛とした声に、クロエも追及の手を止め、ガッツたちもカウンターの前に集まってきた。イサミは密かに安堵の息を吐きながら、エリスの隣へと並ぶ。
エリスは一枚の重厚な羊皮紙をカウンターに広げた。そこには、王国ギルドの正式な真紅のシーリングスタンプが押されている。
「昨日、イサミくんとご相談していた件です。これまで皆さんは余裕のあるクエストを中心に受けて堅実に実績を積んできましたが……ついに、ギルド本部から特級指定の依頼を回してもらえる許可が下りました」
その言葉に、リビングの空気がピンと張り詰める。
「クロエさんとココさんがこれまで地道に稼ぎ、無事故で実績を作ってくれたおかげで勝ち取ったチャンスです。」
エリスの凛とした声に、リビングの空気がキュッと引き締まる。
イサミはちゃっかりとした笑顔を浮かべつつも、目敏くテーブルを見つめた。
「エリスお姉さん、手続き関係、お疲れ様でした! ……で、例の『お宝依頼』の条件はどうなりました? 道具屋としては、そこが一番気になるところなんですが〜!」
「ふふ、バッチリですよ、イサミくん」
エリスはくすりと微笑むと、隣に控えるメルティへ優しく視線を送った。
「元々は、ギルド幹部を経由して持ち込まれた、王都の有力貴族**『ヴァルシュタイン家』**からの特級討伐打診書……。最初は成功報酬金貨40枚という、内容の割に渋い条件でした」
「えっ、金貨40枚!? えっ……安いかしら……?」
クロエが眉をひそめる。特級魔物の討伐といえば、一歩間違えればパーティー全滅の危険すらある高難易度クエストだ。
……だが、金額40枚が決して安いとは思えなかった。
「ええ。ですが、問題は金額だけではありませんでしたわ」
ここでメルティがスッと背筋を伸ばし、格調高いお嬢様口調で言葉を引き継いだ。
そのアメジストの瞳には、かつて叩き込まれた圧倒的な法務知識と、救世主であるイサミに貢献できた喜びが漲っている。
「エリス様からその打診書を見せていただいた際、私、違和感を覚えましたの。羊皮紙の裏面に刻まれた、微小な古貴族ルーン文字による『付帯免責条項』……。そこには、罠が仕掛けられておりましたわ」
「わ、罠!? なによそれ、命がけで戦う冒険者に対して!?」
クロエが思わずテーブルを叩いて立ち上がる。ココも「ずるい大人だー!」とほっぺたを膨らませた。
「ええ、まさに。…ですが、貴族の外交文書における『法的罠』はよくあることなのです。」
メルティはそこで、ふっと美しくも恐ろしいまでの冷笑を浮かべた。
「それにしても……相手が悪かったですわね。このメルティの目を誤魔化せると思ったら大間違いです。昨夜、私はエリス様と共に**『反論免責およびリスク補填の無敵のカウンター契約書』**を書き上げましたの!」
「無敵のカウンター契約書……!」
イサミの目が、まるで輝く金貨(¥)のようにキラリと光った。
「メルティさん、具体的にどういう内容なんですか!? ワクワクが止まりませんよ〜!」
「うふふっ。 簡単なことですわ、イサミ様!。相手の仕掛けた罠を逆手に取り、*『現地での想定外の魔物変異における危険手当』および『情報開示不足に対する違約金規定』*を完備させました。そして、エリス様がその契約書を手にギルド幹部へ強烈なブラフを打ち込んでくださったのです!」
エリスが満足そうにバインダーを開き、羊皮紙を提示する。そこにはギルド幹部とヴァルシュタイン家の代理人の、震えたような正式サインと金入りのシーリングスタンプが押されていた。
「結果として、不利な免責条項はすべて無効化。そして成功報酬は、当初の40枚から一気に跳ね上がり……**『金貨60枚』**に確定いたしました!」
「き、金貨60枚ーーーっ!?!?!?」
クロエとココの悲鳴のような歓声を前に、イサミは「ひえ〜〜っ!」と大袈裟に両手で頭を抱えてみせた。
「金貨60枚!? ちょっとちょっと、メルティさん、エリスお姉さん! 金貨60枚と言ったら、街の高級ポーションが何百本買えると思ってるんですか!? 凄すぎますよ〜! 天才ですか!?」
「イサミ様にお褒めいただけるなんて……私、感無量ですわ……っ!」
メルティは両手を胸の前で組み、アメジストの瞳を潤ませてイサミを見つめる。
イサミによって地獄から引き上げられた彼女にとって、イサミの笑顔こそが最大の報酬なのだ。
「ふふ、これで私たちの資金繰りは一気に盤石になりますね、イサ………クロエさん!」
エリスもまた、イサミの隣で愛おしそうに微笑んだ。昨夜、自らのすべてを捧げてイサミを受け入れた彼女の表情には、誇りと深い愛情が満ちている。
イサミはチャラい笑みを浮かべつつも、素早く頭の中で算盤を弾いた。
(金貨60枚……! これならエリスお姉さんやメルティさんへの十分なお給料はもちろん、このクランホームの維持費、さらには新しいメンバーを雇うための準備資金まで完璧にカバーできる! 道具屋としての出資分も一気に回収どころか大黒字じゃないですか〜!)
「よーし! メルティさんとエリスお姉さんの無敵コンビのおかげで、最高の条件が整いましたね!」
イサミはパンッと手を叩き、再び作戦地図を指差した。
「報酬が金貨60枚に跳ね上がったということは、相手のヴァルシュタイン家も絶対に失敗できないと焦っているはずです。討伐対象は山岳地帯に潜む特級魔物**『グラン・グリフォン』**……! 敵も本気ですが、僕たちも本気で行きますよ〜!」
「当然よ!」
クロエが愛剣を腰に差し直し、ニヤリと強い笑みを浮かべた。
「金貨60枚の特級依頼……! ウチらの初の大仕事として、これ以上ない舞台じゃない! イサミ、あたしが正面から派手に暴れてやるから、後ろからしっかりアイテムでサポートしなさいよね!」
「ココも! ココの爆発魔法で、おっきいトリさんを丸焼きにしちゃうんだから!」
ココも小さな杖を突き上げて意気込む。
イサミはちゃっかりとした笑顔で、自身の巨大なリュックをポンと叩いた。
「はいはい、お任せください! 頼れる冒険者兼、皆さん専属の出張道具屋イサミくんが、煙幕玉から回復ポーション、果ては粘着ネットまで、バッチリ現地でお安く(※街の1.5倍)提供させていただきますからね〜!」
「だからぼったくるな〜!」とクロエがつっこみ、リビング全体が弾けたような笑い声に包まれた。
メルティとエリスは顔を見合わせ、温かな眼差しでイサミを見つめている。
イサミが作り出し、繋ぎ止めたこの場所。彼が全員を誠心誠意大切にし、幸せにしようとするその真っ直ぐでちゃっかりとした情熱が、クランをどこまでも高く羽ばたかせようとしていた。
「それじゃあ皆さん! 特級クエスト『グラン・グリフォン討伐』……作戦会議開始です!」
イサミの掛け声とともに、少年商人と彼女たちの新たな冒険と大躍進の物語が、今まさに走り出した。
イサミは頭の中でソロバンを弾き、高速で情報を処理していく。
「はーい! というわけで、作戦のまとめですよ〜! 頼れる冒険者兼、皆さん専属の出張道具屋イサミくんによる完璧な勝利の方程式ですっ!」
クランホームの大きな木製テーブル。
そこに広げられた地図の真ん中で、イサミはペンをくるくると指先で回しながら、チャラチャラとした愛嬌たっぷりの笑みを浮かべた。
「正面からクロエさんが派手にドカーンと斬り込んで視線を引きつける! そこにココさんが『えーいっ』と足止め魔法! ……ね? 泥臭いですけど、これが一番安全で、僕の在庫アイテムを無駄に消費せずに済む完璧な作戦でしょ〜?」
「ちょっとイサミ、『えーいっ』って何よ。あたしたちは真剣なんだからね!」
クロエが呆れたように腰に手を当てるが、その表情はどこか楽しそうだ。
その隣でココも「ココ、えーいってがんばる!」と小さな拳を握りしめている。
「ふふ、イサミ様の立案された陣形、誠に見事ですわ。高低差を利用した挟撃であれば、前衛の負担を最小限に抑えつつ敵の退路を完全に塞ぐことが可能……法務・事務の観点から見ても、これほど損失リスクを抑えた完璧な運用案はありません」
古びたドレス姿ながら気品を漂わせるメルティが、アメジストの瞳を輝かせてイサミを絶賛する。
昨日、地獄のような落ちぶれた日常から救い出された彼女にとって、イサミは絶対の救世主だ。
「でしょでしょ〜? メルティさんはお目が高いなぁ! あ、ちなみに今回の特級クエスト用に『高級特製ポーション』も入荷してありますからね! 街の相場の1.5倍……いや、命がかかってますから特別に2倍の出張価格でお分けしますよ〜!」
イサミは目にお金マーク(¥)を浮かべそうな勢いでニシシと笑う。
「ちょっと! なんで身内からぼったくろうとしてんのよ!」
「え〜? ちょっとちょっとクロエさん! ポーションの重さで腰を痛めずに済んで、ポーターの護衛に気を揉む必要もないんですよ? この安心感と快適さ込みなら破格のサービス価格ですって!」
おちゃらけて身を乗り出すイサミに、クロエは「たく……相変わらずちゃっかりしてんだから」と溜息をつきつつも、どこか嬉しそうに口元を緩めた。
「まあいいわ。とにかく、基本の配置はこれで決定ね。一回休憩にしよ!」
ココが「おやつー!」と奥へ走り、メルティも「では、私はエリス様と共に書類の整理を行ってまいりますわ」と美しいお辞儀をして立ち去る。
イサミは「ふぅ〜、頭使ったらお腹空いちゃいましたね」とチャラチャラした調子で呟きつつ、火照った顔を冷やすためにひとり裏テラスへと向かった。
♢
裏テラスからは、コパンドンCITYの東区を一望できる。朝の冷たい風が、イサミの整った顔立ちを撫でていく。
(……よしよし、順調順調!)
イサミは手すりに寄りかかり、ニンマリと口角を上げた。
金貨50枚。
昨日、メルティさんの貴族知識とエリスお姉さんの事務処理で勝ち取った破格の報酬だ。これさえ稼げばクランの資金は潤うし、エリスお姉さんやメルティさんにたっぷりお給料を出せるし、アイテムも大量に使うことになるから自分の稼ぎにもなる。
そして——昨夜、自分を包み込んでくれたエリスお姉さんのあの甘い肌を思い出してしまう。
(……へへ、エリスお姉さん、すごく可愛かったなぁ〜)
思い出して鼻の下を伸ばしかけた、その時だった。
「……へぇ〜? な〜にニヤニヤしてんのよ、イサミ」
「ひやぁっ!?」
情けない悲鳴をあげてイサミは飛び上がった。振り向くと、テラスのドアフレームに肘をついたクロエが、ジト目でイサミを睨みつけていた。
「く、クロエさん〜!? びっくりさせないでくださいよ〜、僕みたいな弱小道具屋は心臓麻痺で死んじゃいますからね?」
「白々しいわね! 弱小のフリはいいから、さっさと白状しなさいよ!」
クロエは足音もなくスッと距離を詰めると、イサミを逃がさないように手すりと自分の身体でガッチリと挟み込んだ。
二人の鼻先が触れそうな超至近距離。クロエの甘酸っぱい体臭が鼻腔をくくぐり、イサミは思わず冷や汗をかく。
「さ、白状ってなんのことですかねぇ〜? 僕、何か怪しいこと……」
「朝の挨拶の時から、あんたとエリスの空気がおかしいのよ! ほら、やっぱり匂う!」
クロエはイサミの首元に鼻を近づけ、フンフンと力強く嗅いだ。
「これ、エリスの練り香水の匂いじゃない! それに……あたしの時とは違う、ねっとりした大人の女の匂いが染み出してる!」
イサミにとって、クロエは初めて身体を重ね、男にしてもらった特別な存在だ。その鋭すぎる嗅覚と追及に、さすがのイサミもチャラい営業スマイルを維持できなくなる。
「……イサミ。昨日の夜、あんたエリスとヤったでしょ?」
クロエの声が低くなった。そこには嫉妬と、「一番最初に繋がった」というプライドが揺さぶられた悔しさが滲み出ている。
「あたしが最初にイサミの『初めて』をもらったのに! あたしの目を盗んでエリスと抜け駆けするなんて……あんた、あたしじゃ不満だったわけ!?」
「と、とんでもない! 不満なんてあるわけないじゃないですかぁっ!」
イサミは両手をブンブン振って叫んだ。
ここで誤魔化すのは逆効果だと持ち前の頭脳が弾き出し、一転して必死の「ちゃっかり敬語+真剣」モードに切り替える。
「クロエさんとのあの夜は、僕の人生最高の宝物ですよ! 本当ですって! でもね、昨日の夜は……僕がガッツさんたちの依頼でヘトヘトになって、ガッツさんとルーシーさんの行為の音や声をたくさん聞いて、頭がパンクしそうだったのを、エリスお姉さんが優しく甘やかしてくれたというか……その、僕も応えたくなっちゃいまして!」
イサミはへらっと愛嬌のある苦笑いを浮かべつつ、クロエの目を真っ直ぐに見つめた。
「僕はですね、クロエさんのことも、エリスお姉さんのことも、メルティさんのことも……自分に関わってくれた皆さんを、僕のやり方で絶対に幸せにしたいんですよ! 誰一人として軽視なんてしませんし、クロエさんが僕の『最初』で一番特別なのは、死んでも忘れませんから!」
「……っ」
イサミの、あまりにもストレートで、厚かましくも誠実なハーレム宣言。
クロエは毒気を抜かれたように目を見開いた。
イサミがこれから他の女の人とも関係を持つだろうことは覚悟していた。
それでも「最初に繋がったのは私」という自負があったからこそヤキモチを焼いていたのだ。
だが、目の前の美少年からこんな目で見つめられ、ハッキリと言い切られては、怒る気も失せてしまう。
クロエは掴んでいたイサミの胸元をぽんと叩いて離した。
「……バカイサミ。相変わらず調子のいいことばっかり言ってさ」
クロエはそっぽを向き、腕を組んでフンと鼻を鳴らした。だが、その耳たぶは真っ赤だ。
「……いいわよ。あんたがそこまで本気なら、あたしもこれ以上野暮なことは言わない。でもね! 『一番最初にイサミを男にしたのはあたし』なんだからね! エリスばっかり可愛がったら、絶対許さないんだから!」
「はーい! もちろんです! 僕は、クロエさんのことも全身全霊で愛でちゃいますからね〜!」
イサミが調子よくおどけてみせると、クロエも「もうっ、バカ!」と可憐に笑った。
「イサミくん、クロエさん。お茶が入りましたよ……あら?」
そこへ、トレイを持ったエリスが優雅に現れる。
ふたりの和気あいあいとした、けれど少し熱の残る空気を察し、エリスはくすくすと可憐に微笑んだ。
「クロエさん。イサミくんをあまりいじめないでくださいね? 昨夜の彼は……とっても可愛らしくて、一生懸命でしたから」
「〜〜〜〜っ!? エリスの泥棒猫ーっ! 後でお仕置きなんだからねっ!」
クロエは顔を真っ赤にして叫ぶと、トレイからカップをひったくってリビングへ逃げて行った。
取り残されたテラスで、エリスはイサミの顔を覗き込み、ハンカチで額の冷や汗を優しく拭いてくれる。
「……ふふ、さすがイサミくん。うまく仲直りできましたね」
「へへ、冷や汗かきましたよ〜。でも、クロエさんも納得してくれてよかったです」
イサミはお茶目にかわいく首をすくめると、エリスの手をぎゅっと握り返した。
「さあ、お仕事お仕事! 金貨50枚稼いで、みんなで美味いもん食べに行きますよ〜!」
ちゃっかりとした商魂と、愛嬌たっぷりの笑顔を取り戻したイサミは、エリスと共に陽の光が差し込むリビングへと戻っていった。