※この作品はR-18です。

イサミクエスト マックシム   作:勇者パンスト

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ハニー許すまじ

 

 

翌日、朝

 

 

 

 

ココからの思いがけない「特効薬」と温かな贈り物によって、すっかり精神的なダメージから立ち直ったイサミは、翌朝にはいつもの軽快な調子を取り戻していた。

 

 

 

 

「よしっ! 損失は取り戻すためにある! 今日も元気に仕入れと情報収集に出発進行〜っ!」

 

 

 

 

早朝から長期滞在している宿屋の自室で元気よく声をあげ、身支度を整える。

 

 

腰には、昨夜ココから貰った鉱石と銀貨が入った大切な巾着袋をしっかりと結びつけ、新しく新調した予備の小さな道具袋を二つ装着した。

 

 

 

 

午前中の用事を手早く済ませたイサミは、コパンドンCITYの中心部、様々な屋台が立ち並び、甘い香ばしい匂いが漂う賑やかな大通りを歩いていた。

 

 

 

 

目的は、昨夜ココが買ってきてくれた「あの絶品パン屋」の焼き立てを、今度は自分がクランの仲間たちへのお土産として買い出すためだ。

 

 

 

 

「えーっと、確かあの角を曲がったところの……」

 

 

 

 

イサミがマップを頭の中で広げながら大通りの雑踏を進んでいた、その時だった。

 

 

 

 

「あむっ、モグモグ……ん〜っ! やっぱりコパンドンCITYの串焼きはタレが絶品だね〜っ!」

 

 

 

 

 

街道のど真ん中で、両手に巨大な肉串を何本も抱え、口の端に甘辛いタレをつけながら実においしそうに買い食いを楽しんでいる、一人の少女の姿が目に飛び込んできた。

 

 

 

 

鮮やかな青空を切り取ったかのような美しく揺れる青髪。

 

 

 

 

実にはかない透明感あふれる額の中央には、美しく光を反射する真紅のクリスタル——カラー族の処女の証が燦然と輝いている。

 

 

 

 

 

「あ……ミラさん!」

 

 

 

 

 

イサミが思わず声をあげる。

 

 

 

 

そこにいたのは、カラー族の天才弓手——ミラ・カラーであった。

 

 

 

 

 

「んあ? ……あ! イサミじゃん!」

 

 

 

 

 

ミラは肉串を口にくわえたまま振り向くと、イサミの姿を見るや否や、満面の笑みを咲かせてパッと表情を輝かせた。

 

 

 

 

 

「やっほ〜! イサミ、元気〜? 昨日のグラン・グリフォン討伐、ギルドで大ニュースになってたよ〜! 相変わらずやるじゃん!」

 

 

 

 

 

相変わらずのノリの軽さと親しみやすさで、ごく自然に距離を詰めてくるミラ。

 

イサミの隠された圧倒的な気配や実力をいち早く見抜いている人物とは思えないほどの、無邪気で無防備な態度だ。

 

 

 

イサミはお茶目に肩をすくめて苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

「おかげさまで無事に討伐できましたよ〜。……まあ、財布に空いた風穴はまだ埋まってませんけどね」

 

 

「あはは! ギルドの噂じゃ道具袋をぶん投げて丸ごと大爆発させたって聞いたよ! イサミらしい豪快な戦い方だね〜!」

 

 

 

 

ミラは豪快に笑いながら、手にしていた串焼きの最後の肉をパクリと平らげると、イサミに向かって手招きをした。

 

 

 

 

 

 

 

「でさでさ、そんなことよりさ!」

 

 

 

 

 

ミラの目が、急に怪しく、そして真剣な光を帯びる。

 

 

 

 

 

「イサミ……覚えてるよね? アレに対する……私たちの熱き『誓い』をさ……っ!」

 

「……ッ!」

 

 

 

 

イサミの目つきが一瞬で変わった。

 

チャラチャラとした雰囲気が消え去り、同志を見つめる眼差しへと切り替わる。

 

 

 

 

 

「もちろん……忘れるわけないでしょう、ミラさん。あの、……凶悪無比なの魔物……ッ!いやっ!ゴキブリ!!!!」

 

「そう……『ハニー』……ッ!!」

 

 

 

 

二人は示し合わせたかのように、固い拳を握りしめた。

 

 

 

 

 

イサミにとって、ハニーは幼い頃より教えられてきた害虫。

 

そしてミラにとっても、カラー族の森の生態系を脅かし、甘言で森の乙女たちを惑わす(?)絶対に許しがたい天敵であった。

 

 

 

 

 

以前、二人はハニーの群れを共通の敵として共に叩きのめした際、固い同盟を結んだ経緯があるのだ。

 

 

 

 

 

「行くよ、イサミ……っ!」

 

「はい、ミラさん……っ!」

 

「ハニー撲滅同盟!!」

 

 

 

 

 

 

パンッ……!!

 

 

 

 

 

 

大通りの真ん中で、二人は息の合った力強いハイタッチを交わした。

 

 

 

 

周囲を通る町の人々が「な、何なんだあいつらは……」という目で見守る中、二人だけの世界で熱い友情の火花が散っている。

 

 

 

 

 

「いや〜、相変わらずイサミと話すと胸がすっとするよ! コパンドンCITYのハニーどもも、いつか根こそぎ駆逐してやらないとね!」

 

「全くです! ハニーは一匹残らず爆破してやりますからね!」

 

 

 

 

 

ニシシと悪巧みの笑みを浮かべあう二人。と、その時——。

 

 

 

 

 

 

「あの……ミラ姉様……あまり大きな声で『撲滅』などと物騒なことを仰るのは……少し恥ずかしいです……」

 

 

 

 

ミラのすぐ後ろ、建物の影から、消え入りそうなほど繊細で美しい声が聞こえてきた。

 

 

 

 

「ん? ああ、ごめんごめん! イサミ、紹介するね!」

 

 

 

 

 

ミラがポンと手を叩き、自分の後ろに隠れるように佇んでいた人物の背中を、優しく前へと押し出した。

 

 

 

 

そこにいたのは——ミラと同じ、息をのむほど綺麗な青髪と、額に真紅のクリスタルを輝かせた、カラー族の少女であった。

 

 

 

 

だが、明るく活発なミラとは対照的に、彼女は深い蒼色の布地に繊細な刺繍が施された民族衣装に身を包み、大きな長弓を大切そうに胸元で抱えながら、どこか不安そうに長めの前髪の隙間からイサミを見つめていた。

 

 

 

 

その佇まいは、まるで深く静寂な森の奥にひっそりと咲く、一輪の可憐な毒百合のようであった。

 

 

 

 

「……パントン・カラーと申します……。ミラの従妹で……弓術の修行のために、こうして街へついて参りました……」

 

 

 

 

 

パントンは小さな声で、可憐にお辞儀をした。

 

 

 

 

その奥ゆかしく静やかな佇まいに、イサミは「おお……カラー族にもこんなにおしとやかで清楚な方がいるんだな……」と感心しながら、いつもの笑顔で挨拶を返した。

 

 

 

 

 

「初めまして、パントンさん! 僕はイサミ。歩く道具屋をやっています! ミラさんには1度お世話になってるんですよ〜」

 

「イサミ様……お噂はミラ姉様から伺っております……。とてもお優しく……そして、商売に関してもお強いお方だと……」

 

「へへ、そんなに褒めても何も出ませんよ〜!」

 

 

 

 

 

 

イサミがおどけて見せると、パントンは少しだけ緊張が解けたのか、ほっと胸を撫で下ろすように小さく微笑んだ。

 

 

 

 

 

だが——。

 

 

 

 

 

イサミが「そういえば」と、ふと思い出したように言葉を続けた時のことだ。

 

 

 

 

 

「パントンさんもカラーの森から来られたってことは、やっぱり『ハニー』の被害とかには遭われてたりするんですか? ミラさんから聞いてると思いますけど、僕たち今、ハニー撲滅同盟を結成してて——」

 

「ハニー……」

 

 

 

 

 

 

その単語が、イサミの口から発せられた瞬間だった。

 

 

 

 

 

ピキッ……。

 

 

 

 

 

パントンの小さく可憐な肩が、かすかに震えた。

 

 

 

 

「え……?」

 

 

 

 

先ほどまでの奥ゆかしい雰囲気が、一瞬で霧散する。

 

 

 

 

 

パントンの美しい青髪の間から覗く瞳から、スーッと光が消え、代わりに底知れない深い『怨念』のような暗い色彩が立ち込めた。

 

 

 

 

 

「……イサミ様……今……『ハニー』とおっしゃいましたか……?」

 

「は、はい……?」

 

 

 

 

 

パントンは大切に抱えていた長弓を握りしめる手にぎゅっと力を込める。静かな、けれど地獄の底から響くような低い声で呟き始めた。

 

 

 

 

 

「あのおぞましい、黄色と黒の縞模様の悪魔……っ。先月、私が丹精込めて育てていたカラーの森の特産『白百合の蜜精』を……蕾のうちから全て食い荒らし……さらには私の愛用していた弓の弦に、べっとりとベタつく蜂蜜を塗りたくって去っていった……あの身の程知らずの羽虫ども……っ」

 

「パ……パントンさん……!?」

 

 

 

 

 

 

イサミは思わず一歩後退りした。

 

 

 

 

 

「許せません……っ。お姉様たちがどんなに『森の恵みの一部だから』と宥めようとも……私は絶対に許しません……ッ! あの悪魔どもは……この世から一匹残らず……射殺し……焼き払い……全滅させなければならないのです……っ!!」

 

 

 

 

 

 

パントンの額の真紅のクリスタルが、彼女の激しい怒りと魔力に呼応するように、妖しく発光している。

 

 

 

奥ゆかしい美少女の皮を被った、超武闘派の『ハニー絶対殺すマン』の誕生であった。

 

 

 

 

 

 

「あははは! ね? 言ったでしょイサミ!」

 

 

 

 

 

 

ミラが爆笑しながら、イサミの背中をバンバンと叩いた。

 

 

 

 

「パントンね、普段はすごーくおとなしいんだけどさ! ハニーのことになると血が上っちゃって、森でハニーの巣を見つけるたびに一人で特攻して全滅させてるんだよ〜!」

 

「特攻……!? 一人で……!?」

 

 

 

 

 

イサミは驚愕しながらも、次の瞬間には口元に深い深い『悪徳商人』と『殺し屋』の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

(……素晴らしい……! この見た目でおしとやかな美少女が、ハニーに対してここまでの過激な憎悪と戦闘力を持っているなんて……!!)

 

 

 

 

 

イサミはパントンに向かって一歩踏み出すと、力強くその両手を握りしめた。

 

 

 

 

 

「パントンさん……! 僕たちは……分かり合える気がします……ッ!」

 

「イサミ様……っ!?」

 

 

 

 

 

パントンは急に手を握られて頬を染めつつも、イサミの瞳の奥に宿る「真のハニーへの憎悪」を感じ取り、大きく胸を打たれたように瞳を潤ませた。

 

 

 

 

 

 

「僕も……僕もあのゴキブリどもだけは……! あれは害虫です! 容赦はいりません! 徹底的な破壊と駆逐あるのみです……っ!」

 

「イサミ様……! ええ、ええ……っ! その通りです……っ! 私は……私はあなたのような理解者を待っておりました……っ!」

 

 

 

 

 

二人の手が、強く、深く結ばれる。

 

 

 

 

 

「よしっ! 決まりだね!」

 

 

 

 

 

ミラが二人の肩に腕を回し、超ハイテンションで声を張り上げた。

 

 

 

 

「本日をもって! パントン・カラーを我が**『ハニー撲滅同盟』**の正式メンバーとして迎えることを宣言しま〜すっ!!」

 

 

 

 

「「「おーっっ!!!」」」

 

 

 

 

 

大通りの真ん中で、熱く拳を突き上げる三人。

 

 

 

 

 

通行人の冒険者たちが「な、なんだあの集団……」「ハニーになんか深い恨みでもあるのか……?」と引きながら通り過ぎていくが、今の彼らの耳には届かない。

 

 

 

 

 

奥ゆかしい最強の弓手・パントンを新たに仲間に加え、ハニー撲滅同盟の戦力は大きく跳ね上がった。

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 

 

「おーい! 皆さん、おはようございます〜!!」

 

翌朝。

 

コパンドンCITYの澄み渡る秋晴れの空の下、イサミは雲一つない青空のようにすっきりと晴れやかな笑顔で、クランホームの重厚な扉を勢いよく押し開けた。

 

 

 

昨日までの、ベッドで毛布を被ってダラダラと落ち込んでいた姿はどこにもない。

 

 

 

 

バサリと翻る軽やかな旅衣装の腰元には、昨夜ココから贈られた大切な巾着袋がしっかりと結びつけられ、その表情には商人特有の目ざとくも頼もしい活気が完全にみなぎっていた。

 

 

 

 

「あ……! イサミくん!」

 

 

 

 

真っ先に声をあげたのは、リビングの大きな木製テーブルで魔導書の解読をしていたココだった。

 

 

 

 

ツインテールを跳ねさせながらバッと立ち上がると、大きな瞳をキラキラと輝かせてイサミのもとへ駆け寄ってくる。

 

 

 

 

「イサミくん! 元気になったの!? お顔、すごーくスッキリしてる!」

 

「ええ、おかげさまで! ココさんから貰った『最高の特効薬』と、美味しいパンとジュースのおかげで、エネルギー満タンですよ〜!」

 

 

 

 

イサミがお茶目にウインクしてみせると、ココは一瞬だけ昨夜の「おっぱい抱擁事件」を思い出したらしく、顔をフッと赤く染めた。

 

 

だが、すぐに嬉しそうに「えへへ……よかったぁ!」と満面の笑みを咲かせた。

 

 

 

 

「ふふ、元気が出たようで安心しましたわ、イサミ様」

 

 

 

 

カウンターの奥から現れたのは、クランの後方支援や帳簿管理を担当するエリスだった。

 

 

相変わらず隙のない整った事務服姿だが、その美しい瞳には、大切な仲間が無事に立ち直ったことへの深い安堵の色が浮かんでいる。

 

 

 

 

「一時は『金貨10枚……僕の金貨10枚が……』と、まるでこの世の終わりのようなお顔で宿屋へ引きこもられていましたから。宿の女将さんからも『うちのゲストさんがご飯も食べずに丸一日潜ってるんだけど大丈夫?』と心配の連絡が来ていたのですよ?」

 

 

「うっ……エリスさん、それは言わない約束で……っ! 僕だって一応、繊細な少年商人なんですからね!?」

 

 

 

 

イサミがおどけて大げさに胸を押さえると、リビングの奥から「ハハハ!」と豪快で温かな笑い声が響いた。

 

 

 

 

「なんだなんだ、随分と賑やかじゃない!」

 

 

 

 

両手に研ぎ澄まされた大剣の手入れ道具を持ったクロエが、トレーニングから汗を拭いながら姿を現した。真っ赤な髪を後ろで一つに結び、健康的で引き締まった肌を汗で光らせている。

 

 

クロエはイサミの前まで歩み寄ると、その力強い手でイサミの肩をバンバンと叩いた。

 

 

 

 

「イサミ! 顔色が良くなったわね!」

 

「クロエさん……痛い痛い! 叩く力が強すぎますってば!」

 

 

 

イサミは苦笑いしながらも、クロエのまっすぐな瞳に宿る深い信頼と愛着を感じ取り、胸の奥がじんわりと温かくなるのを覚えていた。

 

 

 

 

「……イサミ……これ……飲む……?」

 

 

 

 

ひょっこりと部屋の陰から顔を出したのは、紫色のボブヘアが特徴的な調合オタクの薬師・ムラサキだった。彼女の手には、怪しく七色に光る液体が入ったフラスコが握られている。

 

 

 

 

 

「イサミが精神的ショックで衰弱したときのために……脳の不快な記憶だけをピンポイントで消去する『忘却薬・改』を調合しておいた……。飲む……? 金貨10枚の記憶だけ……キレイに消える……」

 

 

 

「絶対飲みませんよ!? 記憶消されたら商人として終わりじゃないですか! というかムラサキさん、それ絶対にヤバい副作用ありますよね!?」

 

「…………怪しまれた……」

 

 

 

 

 

リビングはどっと温かな笑い声に包まれた。

 

 

 

 

エリスが淹れてくれた温かいハーブティーの香りが漂う中、イサミはテーブルの椅子に腰掛け、仲間たちと向き合った。

 

 

 

 

「ところでイサミ様。立ち直られたのは良いですが……失われた金貨10枚の穴埋めについては、何か具体策がおありなのですか?」

 

 

「ふふふ……さすがエリスさん! 実は昨日、ミラさんとその従妹のパントンさんにお会いしましてね」

 

 

 

 

 

イサミはニヤリと羊皮紙をテーブルに広げた。

 

 

 

 

 

「実はカラーの方々と知り合いになりまして〜。カラーの方々はハニーに対して凄まじい憎悪を持つ武闘派だったんです! そこで僕たちは意気投合し、パントンさんを迎えて**『ハニー撲滅同盟』**を強化いたしました!」

 

 

 

 

「ハニー……あの無駄に硬いハニワ型の魔物?」とクロエが腕を組む。

 

 

 

 

「そうです! 通常、ハニーは魔法抵抗力が異常に高く、打撃も通りにくいため退治が厄介ですが……」

 

 

 

 

 

イサミは羊皮紙を指で叩いた。

 

 

 

 

 

「カラーの方々の超威力の弓術と、僕の特殊粘着ネットや爆薬を組み合わせれば、あの硬いハニーどもを効率よく粉砕できます!」

 

 

 

「お〜〜っ! イサミくんすごーい! ココもハニー退治ついていく〜っ!」

 

 

 

 

イサミの力強い声が響き渡り、ハニワ共を狩り尽くす新たな幕が上がり始めたのであった。

 

 

 

 

 

【ミラ・カラーとパントン・カラーがハニワ退治クエストに限り協力してくれるようになった】

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