とある日。
クランのホーム。
イサミのここ数日間の日常は、実におだやかで、そしてイサミにとっては実に「実りの多い」日々だった。
出張道具屋として街の冒険者たちにポーションや便利アイテムを相場の1.5倍の「安心価格」で売りさばき、ガッポリと懐を温め、夜になれば皆と交流を深める。
クロエの愛おしさに満ちたツンデレなヤキモチ。
エリスの包容力あふれるお姉さんとしての甘い甘やかし。
メルティの格調高き崇拝と、甲斐甲斐しいお姫様の奉仕。
ココの天真爛漫な笑顔と、ふとした瞬間に見せる乙女の恥じらい。
そしてムラサキの、恥ずかしそうに渡してくれる特製秘薬と純粋な信頼。
『歩く道具屋』を自称し、効率よく稼いで楽しく生きることをモットーとするイサミにとって、みんなのホームは、まさに人生で最も心地よい陽だまりになっていた。
――だが、冒険者稼業というものは、往々にして静寂のあとに厄介な風を連れてくる。
◇
「――みんな、集まってください。ちょっと大事なお話があります」
爽やかな朝の光が差し込むリビング。
朝食の皿を片付け終え、それぞれが今日の予定を確認しようとしていたそのタイミングで、エリスの声が響いた。
その声はいつも通り優しく穏やかだったけれど、どこか困ったような、うっすらとした陰りを帯びていた。
「……エリスお姉さん?」
カウンターの端で、今日売り歩くポーションの在庫をノートに書き留めていたイサミが、思わずペンを止めて顔を上げる。
このホームを温かく包み込んでくれているエリス。
普段なら、頑張りすぎるイサミやみんなを「ふふ、お疲れ様」と優しく見守ってくれる彼女が、珍しく困惑した表情を浮かべている。
「どうしたの、エリスさん? そんな顔して……」
大きめのエプロンを外しかけていたココが、首を傾げながら小さな身体を揺らす。
「エリス様、何か法務・事務上の重大なトラブルでございますか? もしや悪質な冒険者ギルドの嫌がらせ……?」
メルティが事務服の袖をキュッと捲り上げ、鼻息荒く身を乗り出す。
「ふふ、落ち着いてくださいね、メルティさん。ギルドとのトラブルではないのですよ」
エリスは静かに首を振り、ふわふわとした柔らかな微笑みを浮かべながら、リビングの中央にある大きな円卓を示した。
「クロエさん、ムラサキさん、ココさん、メルティさん……そしてイサミくん。全員、席についてくだはいね。みんなで共有しなければならない、ちょっと大変なお仕事のお話なんです」
「大変なお仕事……?」
クロエが眉をひそめ、腰の剣の柄に無意識に手をおきながら、椅子に腰掛けた。
「いいわ、何があったの? あたしたちは、どんな難題でも全員で乗り越えてきたわ。エリスがそこまで困ってるなんて、タダ事じゃないのは分かるけど」
おどおどとした様子でムラサキも椅子にちょこんと座り、秘薬の入った巾着袋をぎゅっと抱きしめる。
「あ、あの……私、何か失敗しちゃいましたでしょうか……っ? 新しく作ったお団子の爆破威力が強すぎて、ギルドから怒られたとか……っ」
「ふふ、違いますよ、ムラサキちゃんのせいではないです。……みんな、これを見てくださいね」
全員が着席したのを見届けたエリスは、胸元から一枚の羊皮紙を取り出した。
それは、一般的な冒険者ギルドが発行する羊皮紙とは明らかに一線を画していた。
厚手の高級な紙質、縁取りにあしらわれた金糸の装飾、そして文末に押し捺された、禍々しくも権威に満ちた『赤い蝋の封印』。
国の紋章――王家直属の正規軍が使用する、極秘・緊急通達の刻印である。
「……っ!? それ、国の紋章じゃない……!?」
クロエが思わず目を見開いた。
「ええ。国の『正規軍』から、直接回ってきた討伐依頼通知書なのですね」
エリスは静かにその羊皮紙を円卓の中央に広げた。
「討伐対象は……とある魔物の群れ。詳細な種族や規模はまだ伏せられているけれど、正規軍が動員されるレベルの大規模な『群れ』の討伐クエストなのですよ」
「国の正規軍からの討伐依頼……!?」
ココが驚きで目を丸くする。
「すごーいっ! 国から指名で依頼が来るなんて、私たちもついに有名クランの仲間入りってことだね!」
「……ココ、喜ぶのは早いわ」
クロエが苦い表情でココの頭を軽く小突いた。前衛剣士としての長年の勘、そしてCランク冒険者としての経験が、この話の裏にある「生臭さ」を察知していた。
「あたしたちクランは、最近でこそイサミのアイテムサポートや大型魔物の討伐で評価が上がってきたとはいえ、まだまだ結成されたばかりの新興クランよ。メンバーだってあたしたち5人(+ゲストのイサミ)しかいない。そんなあたしたちに、国から直で依頼が来るわけがないわ」
「ふふ、さすがクロエさん、鋭いのですね」
エリスは少し申し訳なさそうに、困ったように頷いた。
「その通りなんです。この依頼は、国から直接うちのクランに指名で来たものではなくてですね。……いわゆる『下請け構造』の末端として、巡り巡ってきたものなのですね」
「下請け……?」
イサミが顎に指を当て、商人特有の鋭い思考を巡らせ始める。
「ふむふむ……エリスお姉さん、詳しく説明してもらえますか? 僕、そういう構造の話にはちょっと敏感でしてね」
「ええ、説明しますね、イサミくん」
エリスは柔らかく指を一本立てた。
「まず大元は、当然国(正規軍)なんです。軍は今回の魔物群討伐にあたり、自軍の消耗を抑えるため、王都に拠点を置く超大手クランたちに大規模な協力要請……実質的な強制徴用を出したのですよ」
指を二本目立てる。
「次に【二次請け】。国から依頼を受けた大手クランたちは、危険で泥臭い前線や、雑魚散らしの補給班・捨て駒となる戦力を確保するため、下部組織や懇意にしている『中堅・大手クラン』へ依頼を小分けにして丸投げしたのですね」
そして、三本目の指を立てる。
「そして【三次請け】……。その中堅クランたちが、自分たちの損失を最小限に抑え、危険な役割を押し付けるために『新興の中小クラン』へと依頼をさらに流して……。その末端の『中小クラン』の、さらに末端として、うちに話が回ってきてしまったのですね」
「……あ〜〜〜はいはいはい! 理解しました!」
イサミは「やれやれ」と肩をすくめ、呆れたような溜息をついた。
「世の常ですねぇ! 構造としては実にシンプル、かつ胸糞悪いビジネスモデルです! 上が甘い汁と名誉を吸い上げ、下の者が危険と骨折り損を押し付けられる! 建設業界や流通業界でもよく見かける地獄の『三次請け構造』じゃないですか!」
「……そうですね」
メルティの瞳から、優雅な光が消え、代わりに氷のように冷たい貴族の冷徹さが宿った。
「元貴族として、その手の醜悪な構造は腐るほど見てまいりましたわ。国や大手クランは『協力させてやっている』という顔をしつつ、報酬の大部分をハネモノし、危険度の高い雑用や危険地帯の先陣を、実績のない中小クランに押し付ける……。実に浅ましく、反吐が出るようなやり口ですわね」
「……メルティさんの言う通りなんです」
エリスが重々しく頷く。
「この手紙を精査してみたのだけど、提示されている報酬額は、危険度に対して信じられないほど低く設定されているのですよ。明らかに、一次・二次の段階で報酬の8割以上が抜かれているのですね。それなのに、配置される予定の場所は……最前線の補給路防衛、あるいは魔物の群れの逃げ道を塞ぐ『壁』の役割……一番危険なポジションなのですよ」
「なっ……! 何よそれ! ふざけてるじゃない!」
クロエがテーブルを叩いて立ち上がった。激しい怒りで胸を上下させる。
「危険な仕事を押し付けられた上に、報酬までピンハネされてるってこと!? そんなふざけた依頼、受ける必要ないわよ! 断りなさいよエリス!」
「……それが、できないのですね、クロエさん」
エリスの静かな言葉に、クロエの動きがピタリと止まった。
「……え? なんでよ? あたしたちはフリーの冒険者クランでしょ? 嫌な依頼なら断る権利があるはずじゃない!」
「普通の依頼なら、当然断れるのですけど……今回は『大元が国の正規軍』なのですね」
エリスは羊皮紙の端、赤い蝋の封印を優しく撫でた。
「正規軍の発行する『非常事態協力要請』は、名目上は依頼だけど、実質的には『軍令』と同義なのですよ。一次請けの大手クランから三次請けの末端クランに至るまで、この依頼のチェーンに組み込まれた時点で、拒否権は存在しないのですね。もしこれを『拒否』してしまうと……」
「拒否すれば……どうなるんですか、エリスお姉さん?」
イサミが静かな声で尋ねる。
「……『国に対する叛逆』『非常時における不協力罪』として、クランの登録は即座に抹消されてしまうのですね。メンバー全員が指名手配犯になって、この国での冒険者活動はおろか、みんなで一緒に暮らすこともできなくなってしまうのですよ」
部屋の中に、重苦しい沈黙が落ちた。
「そんな……っ!」
ムラサキが青ざめた顔で両手を口元に当てる。
「断ったら……指名手配だなんて……っ。私、やっとイサミさんやみんなと一緒にいられる場所を見つけたのに……っ!」
「ずるい……! ずるいよ大人のくせに!」
ココが悔しそうに拳を握りしめ、ポロポロと涙をこぼしそうになりながら叫ぶ。
「イサミくんたちや、クロエちゃんたちが命がけで頑張ってきたクランなのに! 勝手に依頼を押し付けておいて、断ったら犯罪者扱いなんて……そんなのあんまりだよ!」
「ココ……」
クロエは唇を噛み締め、悔しさに体を震わせた。
前衛剣士として、リーダーとして、仲間を守りたい。
だが、国家という巨大な権力を相手に暴れるわけにもいかない。
あまりにも不条理で、あまりにも圧倒的な「システムの暴力」が、彼女たちに襲いかかっていた。
メルティは怒りを通り越して、冷ややかに思考を巡らせていた。
「法務的観点から見ても……完璧に囲い込まれておりますわね。三次請けとはいえ、正規軍の公印が捺されている以上、書類上の形式は整えられてしまっている。拒否すれば『法』によって潰され、受ければ『魔物』によって磨り潰される……。仕組んだ者は、実に陰湿で狡猾な計算を立てておりますわ」
「ええ……。たぶん、うちのクランを捨て駒として処理しつつ、実績の横取りを狙っている中堅クランが存在するのだと思いますね」
エリスは少し申し訳なさそうに、みんなを見つめた。
「ごめんなさいね、みんな……。私がギルドでこの書類を受け取った時、もっとうまく突っぱねる方法があればよかったのだけど……相手が軍の公印を使っている以上、私レベルではどうにもできなかったたんです……」
温かくホームを守りたいと願っているエリス。皆やイサミを不当な理不尽から守りきれなかったことに、胸を痛めていた。
リビングを支配する、困惑と怒りの空気。
――だが。
その重苦しい空気の中で、一人だけ……まったく違う表情を浮かべている者がいた。
「……ふむふむ。なるほどですねぇ」
チャラチャラとした愛嬌のある声。
イサミだった。
彼はノートを閉じ、ペンを胸ポケットに挿すと、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
その顔には、絶望の色など微塵もない。それどころか、彼の両目は「¥」の形に怪しく光り輝いていた。
「イサミ……? あんた、何でお金目になってんのよ……! 今、大変なことになってるのよ!?」
クロエが呆れと困惑の混ざった声をあげる。
「ちょっとちょっと、みなさん! そんな暗い顔をしないでくださいよ〜!」
イサミはパンッ、と両手を叩いてリビングの空気を強引に換気した。
「いいですか? 確かに『断れない』『ピンハネされている』『危険なポジションを押し付けられている』というのは、一見すると最悪の状況です。……ですがね、商人としての僕から言わせてもらえば、これは大チャンスですよ!」
「「「……は?」」」
全員の頭の上に、巨大な疑問符が浮かんだ。
「チャ、チャンス……? イサミ様、正気でいらっしゃいますの……? 最前線の捨て駒にされるというのに……?」
メルティが困惑気味に尋ねる。
「正気も正気、大正気ですよメルティさん!」
イサミは不敵な笑みを浮かべ、円卓の上の羊皮紙をトンッと指で突いた。
「いいですか? 大元は『国の正規軍』。そして参加するのは『複数の大手・中堅・中小クラン』。――これ、どういう意味か分かりますか?」
「どういう意味……って、大勢の冒険者と兵士が集まるってことでしょ?」
ココが首を傾げる。
「そう! その通りですココさん! 【大量の人間が集まる現場】なんですよ!」
イサミはチャラく、しかし極めて冷徹な計算に基づいて言葉を紡ぎ出した。
「大手や中堅の連中は、威張り散らして前線に下請けを送り込むでしょう。軍の兵士たちも、慣れない魔物の群れ相手に疲弊する。そして……三次請けや末端に追いやられた僕たちのような冒険者は、劣悪な環境と危険に晒される」
イサミはニヤリと口角を上げた。
「つまり……現地は【圧倒的な物資不足と、深刻なパニック】に陥るということです!」
「あ……!」
エリスの瞳が、ハッと見開かれた。元事務員として、現場の物資の流れをよく知る彼女は、イサミが言わんとすることの「構造」を即座に理解した。
「そうですよ、エリスお姉さん!」
イサミはバッと両腕を広げた。
「前線で怪我をした兵士や冒険者は、高価なポーションを喉から手が出るほど欲しがる! 疲弊した前衛は、疲労回復の秘薬をいくら払ってでも買いたがる! 混乱した指揮系統の中で、現場の命を繋ぐのは軍の命令でも大手クランの面子でもない――【今そこにある、高品質な道具と回復手段】だけです!」
イサミの視線が、順番に仲間たちへと向けられる。
「クロエさん! あなたの圧倒的な前衛剣技で、最前線の混乱をビシッとして、中小クランを統率して見せてください! 頼れるリーダーの背中を、大手の馬鹿どもに見せつけてやるんです!」
「なっ……! ちょ、ちょっとイサミ! 本気!?」
クロエは顔を真っ赤にしながらも、先ほどまでの悔しさが吹き飛び、ニヤリと力強い笑みを浮かべた。
「……でも、悪くないわね。あたしたちを捨て駒扱いした連中の目の前で、圧倒的な実力を見せつけてやるのもスカッとするわ!」
「メルティさん! 上層部や他クランが押し付けてくる不当な命令や、実績の横取りを画策する書類に対しては、あなたの無敵の法務知識で返り討ちにしてやりましょう! 反論免責、リスク補填、完璧な契約書でギャフンと言わせるんです!」
「うふふっ。 お任せくださいませイサミ様。 貴族の悪巧みや不当な下請け構造など、わたくしの法術と書類裁きでボコボコにして差し上げますわ!」
メルティが優雅に笑う。
「ココさん! あなたのドカーンと弾ける爆発魔法で、押し寄せる魔物の群れを一網打尽にして、現地のみんなを助けてあげてください!」
「うんっ! イサミくん! ココ、おっきい魔法で魔物をドカーンって吹き飛ばして、みんなを守ってみせるね!」
ココが元気いっぱいに拳を突き出す。
「そしてムラサキさん! あなたの作る『世色癌』をはじめとする特製お団子秘薬……あれを現地で大量投下します! 命の危機に瀕した冒険者たちが、あなたの薬で次々と救われるんですよ! 誰も『気持ち悪い』なんて言わせません! 現地の英雄になるのはムラサキさんです!」
「ひぅっ……!? え、英雄だなんて……そ、そんな……っ!」
ムラサキは顔を真っ赤にしながらも、ぎゅっと胸の前で手を握りしめた。
「で、ですが……! 私の作ってきたお薬が、イサミさんやみんな、職場の役に立つなら……! 私、寝ないでいっぱいお団子作ります……っ!」
最後に、イサミはエリスへと視線を向け、優しく微笑みかけた。
「そしてエリスお姉さん。後方の管理や物資のやり取り、そして僕たちの報酬の『回収』は、完璧な管理ができる、あなたにお願いします!」
「ふふ、はいっ。イサミくん」
エリスは思わず、ふわっと柔らかく微笑んだ。困惑していた気持ちが、イサミの頼もしい言葉と笑顔によって、温かく溶けていくのを感じていた。
「ええ……ええ、イサミくんの言う通りですね。不当な下請け構造に困ってしまう必要なんてなかったんですね。……よし、私とメルティさんで、現地の物資動向と『特別出張価格』の料金表を準備しておきますね。無理しちゃダメですよって言いながら、しっかり回収してきましょうね」
エリスの瞳に、優しさの奥にある頼もしい光が宿る。みんなのお母さんとして、イサミの突飛な作戦を全面的に支える準備が整った瞬間だった。
「よしっ! 方針は決まりましたね!」
イサミは満足そうに頷き、腰の道具袋をポンと叩いた。
「相手が国だろうが、大手クランだろうが、不当な下請けだろうが関係ありません! 僕たちは僕たちのやり方で、無事に生きて帰り、ついでに大儲けしてやりましょう! 頼れる冒険者兼、皆さん専属の命の保険屋さん――イサミの出張道具屋、大型特設店舗の開店ですよ〜!」
「「「おおーーーっ!!!」」」
リビングに、力強い歓声が響き渡った。
さっきまでのどん底の空気はどこへやら、クランのホームは、これから始まる「大暴れ」と「大儲け」への熱気で包み込まれていた。
◇
決起集会を終えたあと、ホームは怒涛の準備期間へと突入した。
出発までの猶予はわずか数日。
正規軍からの要請であるため、遅延は許されない。
「ムラサキさん! 疲労回復用の『世色癌』と、解毒用の『清色癌』、それと緊急止血用のお団子を、作れるだけ作ってください! 資材費は僕が全額出しますから、遠慮なく一番いい薬草を使ってくださいね!」
「は、はいっ! イサミさん! 私、徹夜で調合します……っ! 薬草の調合比率を微調整して、効果を1.2倍に引き上げた特製版を作ってみせますぅ……っ!」
工房にこもったムラサキは、目がハートマーク……ではなく「薬瓶」の形になりながら、すさまじい手つきで薬研(やげん)をゴリゴリと回し始めていた。普段のおどおどした気弱な少女はどこへやら、調合マニアとしての本領発揮である。
「ココは魔導ポーションの充填ね! イサミ、あたしの剣の手入れ用の砥石と、予備の鞘も多めに頼むわよ!」
「はいはい、クロエさん! 砥石は高級品を三つ用意してありますよ! ついでに剣の刃こぼれを瞬時に修復する『研磨粉』もセットでどうぞ!」
「たく……相変わらず準備が良すぎんだから。……ありがと、イサミ」
クロエはイサミの頭をポンポンと乱暴に撫でると、自分の愛剣を磨くために訓練場へと向かっていった。
その背中には、前衛剣士としての並々ならぬ気合が漂っていた。
一方、二階の事務室では――。
「メルティさん、こちらの『従軍協定書』の第三条、第五項を見てくださいね。『現場での取得物および戦利品の分配は、一次請けクランの裁量に委ねる』となっています」
「…… なんという悪質な条項でしょう。 これでは私どもの戦果がすべて一次請けに吸い上げられてしまいますわ。 即座に『現地緊急調達物資および個人売買物資における権利の独立性』を主張する特約条項(カウンター文書)を作成いたしますの!」
「頼もしいのです、メルティさん。私の方は、現地の補給品受領の書類を完璧に整えておきますね。軍の正式なツケで買い取らせる仕組みを作っておきましょう」
エリスとメルティの二人が、羽ペンを走らせる音が部屋中に響いていた。
悪質な下請け構造を逆手にとり、軍と大手クランの財布から優しく、しかし確実に資金を回収するための「無敵の書類」が、着々と作り上げられていく。
♢
そんな熱気あふれるホームのゲストルームの中で、イサミは自分の部屋で巨大な道具袋の最終チェックを行っていた。
「ポーション各種、煙幕玉、粘着ネット、耐火マント、緊急用転移スクロール……よし、完璧ですね」
イサミは道具袋のファスナーを閉め、ふぅと息を吐いた。
(……やれやれ。国の正規軍に、大規模な魔物の群れ、さらにはドロドロとした下請け構造ですか。めんどくさいこと山積みですねぇ)
イサミはゲストルームのベッドに腰掛け、天井を見上げた。
自分の戦闘スタイルは「弱小な非戦闘員」を装う泥臭い立ち回りと、いざという時の「初見特化」の一撃離脱。
大規模な戦争や、軍勢同士のぶつかり合いのような派手な現場は、本来であれば一番避けたい舞台だった。
(でもまあ……みんながあんなに張り切ってますからね。僕がしっかりサポートして、無傷で帰ってこさせないと)
自分を信頼し、愛してくれる大切な仲間たち。
クロエ、エリス、メルティ、ココ、ムラサキ。
彼女たちが理不尽な下請け構造の犠牲になり、傷つくことだけは絶対に許さない。
(さてさて……大手クランや正規軍の偉い人たちが、どんな顔をするか楽しみですよ)
イサミがチャラく不敵な笑みを浮かべていると、部屋のドアがコンコン、と静かにノックされた。
「イサミくん……入ってもいいかしら?」
エリスの声だった。
「はい、どうぞ〜! エリスお姉さん」
扉が開くと、書類の束を抱えたエリスが入ってきた。エリスは優しく扉を閉めると、ふわっとした温かい笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
「ふふ、お仕事の手配、一段落つきました。メルティさんがすごくて、完璧な書類ができあがりましたよ」
「ははは、さすがメルティさんですねぇ。元貴族の法務知識は伊達じゃないです」
エリスはイサミの隣、ベッドの縁に静かに腰掛けた。
ふわりと、彼女の身体から甘く温かい、まるで母親や包容力あふれる長女のような優しい香りが漂い、イサミを包み込む。
「……ねえ、イサミくん」
エリスはそっと、イサミの手を包み込むように重ね合わせた。
ぽかぽかと温かく、すべてを許してくれるような体温。
「ふふっ、お疲れ様。さっきは……ありがとうごばいます。私、みんなを守らなきゃいけないのに、どうしたらいいか分からなくなっちゃいまして……。イサミくんやみんなの優しさに、いつも救われてばかりです」
「エリスお姉さん……」
「……イサミくん、無理しちゃダメですよ? 頑張りすぎるあなたのことだから、また一人で抱え込もうとしていないか心配になっちゃいます」
エリスは包容力いっぱいの瞳でイサミを見つめ、そっと膝の上へ引き寄せるように抱きしめてきた。豊満で柔らかい胸元に、イサミの頭がすっぽりと包み込まれる。
「……あのね、イサミくん。明日からは、過酷な現地への移動と戦闘が始まるでしょ?」
「え、ええ……そうですねぇ」
「だからね……今夜は、頑張る前の甘えん坊さんタイム……。イサミくん、私にいっぱい甘えていいですよ……?」
頭を優しく撫でてくれる、温かい母性あふれる手つき。
耳元で囁かれるのは、どこまでも穏やかで、全てを受け止めてくれる癒やしの声。
「っ……エリスお姉さん、そんなに優しく甘やかされたら、僕、本当にダメになっちゃいますよ……?」
「ふふ、ダメになっちゃってもいいですよ……。 私が、全部包み込んであげますから……」
エリスはどこまでも温かい微笑みを浮かべ、我が子を愛しむような密着感で、イサミを優しく抱きしめた。
そのままエリスはゆっくりとイサミの身体をベッドの中央へと導いていく。
シーツの冷たさが背中に触れる前に、彼女の腕が枕のように頭を支えてくれた。
天井の淡い照明がエリスの長い睫毛の影を頬に落としている。
彼女は横向きに寝転がりながら、イサミの額にかかった前髪をそっとかきあげた。
指先が触れるたびにこわばっていた肩の力が抜けていくのがわかる。
「……あったかいです」
イサミが思わず呟くとエリスは目を細めて微笑んだ。
その笑顔には、聖母のような慈愛とほんの少しの悪戯っぽさが混ざっている。
彼女は自分の胸元にイサミを抱き寄せると、心臓の鼓動が伝わるほどの距離で囁きかける。
「イサミくんの心臓の音……すごく速い。緊張してるんですか?」
「……そう…ですね」
「あら、もっと近くなっちゃいますよ」
エリスはそう言うと、イサミの手を取って自分の腰のあたりに導いた。
薄手の部屋着の下から伝わる体温と女性らしい曲線の柔らかさに、イサミの指先が思わず震える。
彼女はその反応を愛おしそうに見つめながら今度は自分の手をイサミの背中にまわし、ゆっくりと円を描くように撫ではじめた。
「ん……っ」
思わず漏れた声に、イサミは顔を赤らめる。エリスはそんな彼の耳元に唇を寄せ吐息がかかるほどの距離で言葉を紡ぐ。
「声、我慢しなくていいんですよ。今日は誰も邪魔しないしイサミくんが安心できるまで、ずっとこうしてますから……」
背中を撫でる手が今度はシャツの裾からそっと侵入してくる。
直接肌に触れる指先は想像以上に温かく、それでいて少しひんやりとした感覚もあってイサミの背筋に甘い震えが走った。
「ひゃ……っ、……」
「ここ、気持ちいいですか? 肩甲骨のあたりすごく凝ってますね。ずっと力入れてたんですね……」
エリスの指が凝り固まった筋肉を見つけては丁寧にほぐしていく。
その動きはあまりにも心地よく、イサミは目を閉じて彼女の胸に顔を埋めた。
ふわりと香るのは洗い立てのリネンと、彼女自身の甘いフェロモンが混ざったような形容しがたい安らぎの香り。
息を吸い込むたびに、脳の奥がじんわりと痺れていく。
「……ふ…ぁ……」
イサミの口から、自分でも驚くほど素直な吐息がこぼれ落ちる。
エリスはその声を聞くたびにますます優しい手つきで彼の背中を撫で続けた。
時折、指の腹で小さな円を描き時折、手のひら全体で温めるように包み込む。
そのリズムが波のように繰り返されるうちに、イサミの意識は現実と夢の境界をふわふわと漂いはじめる。
「気持ちよさそうなお顔……見てると私まで眠くなっちゃいそう」
エリスはそう言って、今度はイサミの後頭部をそっと自分の肩口に導いた。
彼女の鎖骨のくぼみに額がぴったりと収まりまるでパズルのピースがはまったかのような一体感が生まれる。
彼女は片手でイサミの髪を優しく梳きながら、もう一方の手で彼の手のひらを開かせ指と指を絡めていった。
「……イサミくんの手、私より大きいのになんだか守ってあげたくなっちゃう形してますね」
絡めた指を軽く握り返すとエリスは嬉しそうに微笑み、そのまま彼の手を自分の胸元へと持っていく。
柔らかな膨らみの上に重ねられた手のひらに彼女の心臓の鼓動が伝わってきた。
先ほどよりも少しだけ早くなっているそのリズムが、彼女もまたこの時間に心を委ねている証のように思えてイサミの胸の奥がきゅうっと切なくなる。
「エリスお姉さんの心臓……ドキドキしてますね」
「ふふ……私だって、ドキドキしちゃいますよ。こんなに素敵な男の子を……今は独り占めしてるんですから」
耳元で囁かれる言葉がまるで熱を持った蜜のように甘く、イサミの理性をじわじわと溶かしていく。
彼はもう自分から何かをする気力もなく、ただエリスのなすがままに身を委ねていた。
彼女の指が背中から脇腹へ、脇腹から腰のくびれへと移動するたびに新しい快感の波が押し寄せる。
「…っ、ん……」
「くすぐったいですか? それとも……気持ちいい?」
「……き、もち、いい……です……」
素直な答えが返ってきたことに満足したのかエリスは小さく頷くと、今度は指先に少しだけ力を込めて腰の筋肉をほぐしにかかる。
戦闘訓練で酷使された筋肉は硬くこわばっていて彼女が揉みほぐすたびに鈍い痛みとともに信じられないほどの解放感が広がった。
「んーー……! そこ……痛気持ちいいです……」
「ここ、すごい凝ってますよ。明日の戦闘に響いたら大変だからちゃんとほぐしておかないと……」
使命感に駆られたような口調でありながらその声には深い愛情が滲んでいる。
エリスは両手を使って、イサミの腰から背中そして太ももの裏側に至るまで、まるで壊れ物を扱うかのような慎重さと熟練した按摩師のような的確さで筋肉を解していった。
時折、彼女の指が敏感な部分をかすめるとイサミの身体はびくんと跳ね上がり、口からは抑えきれない甘い声が漏れる。
「う……っ!」
「あ、ごめんなさい。そこは気持ちよすぎちゃいました?」
いたずらっぽく謝るエリスの顔を、イサミは恨めしそうに見上げるがすぐにまた彼女の胸に顔を埋めてしまう。
そんな反応が愛おしくてたまらないといった様子で、エリスは彼の耳たぶにそっと唇を寄せた。
「耳……は…弱いですか?」
耳の縁をなぞるように舌先が動く。
その生暖かくて柔らかな感触に、イサミの思考は完全にシャットダウンした。
ただただ気持ちいいという感覚だけが全身を支配し彼はエリスの肩にしがみつきながら、小さく震える。
「……それ、だめ……かもです…」
「だめですか? でも、身体はもっとしてほしそうに震えてますよ」
囁きながら、エリスは耳たぶを甘噛みしすぐにまた優しく舌で愛撫する。
その繰り返しに、イサミの身体は言うことを聞かなくなり腰のあたりにじんわりと熱が集まっていくのを感じる。
「とっても素敵な反応です。イサミくんが気持ちよくなってくれるの、私すごく嬉しい……」
エリスの手が今度はイサミの腹部へと伸びていく。シャツの上からゆっくりと撫でられると、腹筋が勝手にひくひくと反応した。
彼女はその動きを楽しむように手のひら全体でお腹を包み込み、時計回りに優しく撫で続ける。
「お腹も力入ってますね。ここも緩めてあげないと……ふふ、赤ちゃんみたいで可愛い」
「あかちゃん……って、僕もう……」
「……私にとってイサミくんは甘えん坊さんで可愛い男の子ですよ。さあもっと力を抜いて……」
催眠術のような優しい声音に導かれてイサミはゆっくりと息を吐き出す。
腹筋から力が抜けると、それまで気づかなかったほどの疲労が全身にのしかかっていることに気がついた。
エリスはそんな彼の変化を見逃さずさらに深くリラックスさせるために、今度は子守唄のようなメロディを口ずさみ始める。
それはイサミが子供の頃にどこかで聞いたことのあるような、懐かしい旋律だった。
言葉はなくただ「ふふふ」という優しいハミングが続く。彼女の声はまるでベルベットのように滑らかで、聴いているだけで心の奥底に溜まった不安や緊張が溶け出していくようだ。
「ん……ふぁ……ねむくなって……きちゃい……まし……た…」
「眠くなったら寝ていいんですよ。私が見守ってますから。怖い夢を見そうになったら、すぐに起こしてあげます」
エリスの手が、再びイサミの頭を撫で始める。指の腹で生え際をなぞりこめかみを優しくマッサージし、耳の後ろをくすぐるように撫でる。そのすべての動きがイサミを深い眠りへと誘っていった。
しかし、エリスは彼をすぐに眠らせはしなかった。その代わりに今度は彼の手を取り、自分の顔へと導く。
「イサミくん、私の顔……触ってみます?」
「え……でも……」
「遠慮しないで。イサミくんに触ってほしいんです」
差し出されたイサミの指が、エリスの滑らかな頬に触れる。
彼女は気持ちよさそうに目を細めその手に自分の手を重ねて、頬から唇へ唇から首筋へと、ゆっくりと導いていった。
「わ……エリスお姉さんの肌、すごくきれい……」
「……ふふっ、ありがとう。イサミくんにそう言ってもらえると、女の子としてすごく嬉しいです」
彼女の首筋はしっとりと汗ばんでいて、指先に吸い付くような柔らかさがあった。鎖骨のラインをなぞるとエリスはくすぐったそうに身をよじり、小さく息を漏らす。
「ん……ふふ、少しくすぐったいです」
「あ、ごめんなさ……」
「謝らなくていいんですよ。それより……」
エリスはイサミの手を握ったまま、今度は自分の胸元へと再び導いた。
先ほどは服の上からだったが今度はボタンを一つ外した隙間から、直接素肌に触れさせる。
「……っ」
イサミの方が驚いて手を引っ込めそうになるのを、エリスは優しくしかし有無を言わさぬ力で押しとどめた。
「逃げちゃだめです。ちゃんと、私のことも感じてください」
手のひらに伝わるのは柔らかさと温かさ、そして心臓の鼓動。
エリスの胸は豊かでイサミの手のひらからあふれんばかりだった。
指を動かすたびに、彼女の身体がぴくんと反応し耳元で甘い吐息が聞こえる。
「は……ぁ…イサミくんの手……あったかい……」
「エリスお姉さんこそ……すごく……熱い……」
「だって……私も、気持ちよくなってきちゃいましたから……」
そう言うと、エリスは自らイサミの手を動かし胸のふくらみを優しく揉ませる。
彼女の手の動きに導かれるままに、イサミは恐る恐る指を動かし始めた。
彼女が時折「そこ……いい……」とか「もっと優しく……」と囁いてくれるおかげで、もっと触れていく。
「あ……ん…そう……上手ですよ、イサミくん……」
エリスのうっとりとした声を聞いているうちに、イサミの中にも新たな感覚が芽生えてくる。
それは単に気持ちいいだけではなく自分がエリスを気持ちよくさせているという充足感、そして何よりもエリスお姉さんとこんなに深く繋がれているという幸福感だった。
「エリスお姉さん……僕…」
「ん……? どうしました?」
「僕、エリスお姉さんの……ここ……」
言いかけた言葉を、エリスはそっと人差し指で押しとどめた。
「しー……今はまだ、言葉にしなくていいんです。今はただ感じて……私に全部、預けて……」
彼女はそう言うとイサミの身体を優しく仰向けにし、今度は自分が上になる体勢になった。
長い髪がカーテンのように二人を包み込み外の世界から完全に遮断された秘密の空間が生まれる。
エリスはイサミの顔を両手で包み込み、額に、まぶたに鼻先に、そして最後に唇のすぐ横に次々とキスを落としていった。
「ん……っ」
唇に直接ではなくその周囲を愛撫されると、早く唇がほしいという欲求が高まっていく。
イサミが無意識のうちに唇をわずかに開くとエリスは待っていましたとばかりに、そこへ自分の唇を重ねた。
触れるだけの、羽毛のように軽いキス。
しかしその一瞬の接触が、二人の間に流れていた空気を決定的に変えた。
「……っ、は……」
唇が離れた後も、二人の吐息は混ざり合いどちらのものともつかない熱を帯びていく。
エリスはうっすらと目を開け、至近距離でイサミの瞳を覗き込んだ。
彼女の瞳は潤んでいてそこには明らかな欲望の色が浮かんでいる。
「イサミくん……もっと、してもいい……?」
その問いかけはこれまでの甘やかすような口調とは少し違い、一人の女性としての切実な願いが込められていた。イサミは何も答えられずただこくんと小さく頷く。
肯定を得たエリスは今度はもっと深く、もっと熱心にイサミの唇を求めた。
彼女の舌がそっと彼の唇を割り歯列をなぞり、そしておずおずと差し出されたイサミの舌と絡み合う。
「んむ……っ、ちゅ……はぁ……ん…」
水音と吐息が混ざり合う官能的な旋律。
エリスは時折、角度を変えながらまるで彼の口内の味を確かめるかのように、ねっとりと舌を這わせる。
イサミはただ彼女の動きに翻弄されるばかりで、時折、苦しくなって彼女の背中にしがみつく。
「ん……ふ…ぷは……ごめんなさい、ちょっと夢中になっちゃいました」
息継ぎの合間に謝るエリスの唇は、唾液で濡れててらてらと光っている。
その姿があまりにも艶めかしくてイサミは思わず目を逸らしてしまう。
「……かわいいです」
そんな彼の反応を見てエリスは心から愛おしそうに微笑むと、今度は彼の首筋に顔を埋めた。
「ここ……ちょっとだけ、痕つけちゃおうかな」
「え、あ……っ!」
首の付け根の、ちょうど鎖骨のすぐ上の柔らかい部分。そこに彼女の唇が吸い付きチリッとした痛みとともに強烈な快感が走る。
「……明日、これを見るたびに今夜のこと思い出してくれますか……?」
そう言いながら、エリスは執拗に同じ場所を吸い上げ時折舌で優しく舐める。
その繰り返しに、イサミの頭の中は真っ白になりただただ与えられる刺激に身悶えることしかできない。
「ふふ……もっと……」
今度は反対側の首筋にも同じように吸い付きそして胸元へと唇を移動させていく。
シャツのボタンを一つ、また一つと外しながら露わになっていく肌の上にキスの雨を降らせる。
「ん……はぁ……イサミくんの肌……きれい……」
胸の突起に唇が触れるか触れないかの距離でエリスは熱い吐息を吹きかける。そのくすぐったさと期待感に、イサミの胸の先端は硬く尖っていった。
「あら……こんなにして……」
「言わないでください……」
「恥ずかしがらなくていいのに……」
エリスの舌が、そっと尖った部分をなぞる。その瞬間イサミの背中が弓なりに反り返り、口からはひときわ大きな声が漏れた。
「あっ……!!」
「ここ……すごく感じるんですね……」
面白がるように、エリスは舌先で転がしたり唇で優しく挟んだり、時には軽く吸い上げたりと様々な方法で愛撫を続ける。
そのたびにイサミは過敏に反応し、シーツを握りしめる手に力がこもった。
「エリスお姉さん……!それ以上されたら………」
「されたら……どうなっちゃうんです?」
意地悪な質問に、イサミは真っ赤になって顔を背ける。
その仕草にエリスはクスリと笑うと、ようやく胸への愛撫を中断し今度は彼の下半身へと手を伸ばした。
「ずいぶん……苦しそうですね」
ズボンの上からでもはっきりとわかるほどの隆起に、エリスはそっと手のひらを押し当てる。
「ごめんなさい、痛かったですか? でもずっとこのままじゃ苦しいでしょう……楽にしてあげますね」
彼女はベルトとボタンを手際よく外し下着の上から優しくその形をなぞり始めた。
すでに先端から滲み出たもので下着はわずかに湿っていて、エリスはその場所を指の腹で円を描くように撫でる。
「弱いところを責められるの、気持ちいいでしょ……? ほら、もっと素直になって……」
「はい……。きもち、いい……です……」
素直に認めるとエリスは嬉しそうに微笑み、ついに下着を取り去った。
露わになったそこは熱く脈打ち、今にも爆発しそうなほどに張り詰めている。彼女はそっとそれを手に取りまるで宝物を扱うかのような慎重さで、根元から先端へと指を滑らせた。
「うあ…っ!」
「すごい……熱い……イサミくんの、こんなになって……」
エリスはうっとりと呟きながら、今度は顔を近づけていく。次の瞬間イサミのものを彼女の温かい口内が包み込んだ。
「ん……ちゅ……はむ……んふ……?」
口に含んだままエリスは上目遣いにイサミを見上げる。
その視線があまりにも扇情的で、イサミの理性は音を立てて崩れ去った。
彼女は決して急がずゆっくりと頭を上下に動かしながら、舌で敏感な部分を丁寧に愛撫していく。
「 うあ……! ん……っ、も……でます……」
「ん……いいですよ……全部、私の口のなかに出して……」
その言葉に背中を押されるように、イサミはあっけなく絶頂を迎えてしまう。
熱い奔流がエリスの口内に放出されると彼女はそれをこぼさないようにしっかりと受け止め、そして最後の一滴まで飲み干した。
「……ん…はぁ……ごちそうさまでした」
口元を拭いながら微笑むエリスを見て、イサミは羞恥と幸福感で胸がいっぱいになる。
「僕だけ……気持ちよくなっちゃって……」
「ううん。私もすごく嬉しかったですよ。たくさん癒してあげます。でも……まだ、終わりじゃないですからね?」
エリスはそう言うと、自分の服を脱ぎ始めた。
照明の淡い光に照らし出された彼女の裸体はまさに芸術品のような美しさで、イサミは思わず息を呑む。
「…いつ見ても…綺麗です…」
「ふふっ、ありがとうございます。でも、見てるだけじゃなくて……触ってください……」
彼女はイサミの手を取ると、自分の秘められた場所へと導いた。
そこはもうすでに熱く濡れそぼっていて指が触れただけで彼女の身体がびくんと跳ねる。
「あ……は…ん……イサミくんの指……気持ちいい……」
「ここですか……?」
「んん……っ! そう……そこ……もっと……」
快感を高め合いながら二人は再び深く口づけを交わす。
部屋の中は、荒い息遣いと時折漏れる甘い嬌声、そして肌が擦れ合う官能的な音で満たされていった。
やがて、エリスはイサミの上に跨がると自ら彼を受け入れようと腰を落としていく。
「はぁ……あ…イサミくんのが……入ってくる……」
「あ……っ、……なか……あついです……」
「ん……ふ…全部、入りました……」
動きを止めてお互いの存在を確かめ合うように見つめ合う。
エリスの瞳は愛おしさでいっぱいに潤み、イサミの瞳は信じられないほどの幸福感で輝いている。
「イサミくん……大好き……」
「はい…。…僕もです……」
「…んっ。………動きますね……」
ゆっくりと、エリスが腰を動かし始める。
最初はお互いに慣れるための優しい動きだったが次第にそれは激しさを増していった。
「あん……っ! あ……いい……イサミくん……深い……」
「うあ……またっ、もう……」
「私も……一緒に……ん…っ、あああっ……!!」
二人は同時に絶頂を迎えその後も長い時間、抱き合いながら快感の余韻に浸っていた。
どれくらいの時間が経っただろうか。窓の外がわずかに白み始めた頃、エリスは汗で額に張り付いたイサミの髪を優しくかきあげながら囁いた。
「イサミくん……生きて、必ず帰りましょうね。そしたらまた……いっぱい、甘やかしてあげますから……」
「……はい。必ず」
固い約束を交わした二人は再び深く抱きしめ合い、短い休息の中で最後の温もりを分かち合った。
戦いの日々はすぐそこまで迫っているが今だけは、この温かくて甘い幸せにすべてを預けていたかった。
エリスの優しい指が、疲れ果てて微睡み始めたイサミの背中をいつまでもいつまでも、愛おしそうに撫で続けていた。
◇
そして、出発の日の朝。
清々しい朝空の下、クランの面々は、完全装備でホームの前に集合していた。
イサミの背中には、パンパンに膨らんだいつもの巨大道具袋。
クロエは愛剣を腰に差し、凛とした前衛剣士の顔つき。
メルティは事務服の上にローブを羽織り、書類カバンを抱えている。
ココは大きな魔法杖を手に、気合十分。
ムラサキは大量の薬瓶とお団子が入った特大のリュックを背負い、緊張しつつも強い瞳。
エリスは全体を温かく見守る支配人としての包容力に満ちた佇まい。
「よし! 全員、準備はいいわね!?」
クロエが全員を見渡し、力強く声を張り上げた。
「あたしたち、これより正規軍からの要請クエスト――【魔物群討伐作戦】に出撃するわ! 下請けだからって舐めてかかってくる連中に、あたしたちの底力を見せてやりましょう!」
「「「オーーッ!!!」」」
誇らしく、力強い声が街道に響き渡る。
「ふふ、みんな怪我しないように、気をつけて行きましょうね」
エリスの優しい声に包まれながら、イサミもチャラく頼もしい声をあげた。
「はーい、それじゃあ行きましょうか〜! 頼れる冒険者兼、皆さん専属の命の保険屋さん――イサミの出張道具屋、いざ出陣ですよ〜!」
イサミの合図で、6人は歩き出した。
不当な下請け構造、巨大な魔物の群れ、事故や危険が渦巻く前線へ――。
だが、彼らの心には微塵の迷いもなかった。