コパンドンCITYの街角を優しく照らす朝の陽光が、クランの拠点の窓辺を黄金色に染めていた。
カフェスペースのカウンター奥では、ゲスト道具屋のイサミが、先日ムラサキと仕上げた実戦用防毒マスクの図面を広げながら、仕入れの羊皮紙と睨み合っている。
昨日までの喧噪と、夜の秘め事の余韻を心の奥に仕舞い込み、彼はいつものチャラついた笑みを浮かべながら、手元でペンを軽快に遊ばせていた。
「ん〜……やっぱり高濃度の薬草はコパンドンCITYのルートから買い付けた方が安上がりですねぇ。商人としての腕の見せ所ってやつですか」
「……あの、イサミさん」
控えめで、けれどどこか意を決したような固い声が掛けられた。
振り返ると、そこに立っていたのはクランの金庫番兼会計を担当する少女――メルティであった。
普段なら整然と畳まれた帳簿と算盤を肌身離さず抱えている彼女が、今日は手ぶらで、どこか申し訳なさそうに、けれど真剣な眼差しでイサミを見つめている。
その華奢な腰には、彼女の身の丈に合わせた美しい装飾の施された細剣が吊るされていた。
「おや、メルティさん。どうしました? 帳簿の数字が合いませんか? 僕の経費ならちゃんと正確に申告してますよ〜」
「違いますわ、イサミ様。経費のお話ではありません」
メルティは小さく首を横に振ると、真ん丸な瞳をまっすぐにイサミへ向けた。
「あの……私、相談がありますの。……私を、次のクエストの戦闘メンバーに入れていただけないでしょうか?」
「……はい?」
イサミはペンを止め、まじまじとメルティの顔を見つめ返した。
「メルティさんが戦闘に? どうしたんですか突然。うちの金庫番が前線に出るなんて、エリスさんたちが聞いたら目を丸くして驚きますよ〜?」
「……わかっていますわ。私は本来、戦う人間ではありません。皆さんが命がけで稼いできてくださった資金を管理し、拠点を維持するのが私の役割です。……ですが」
メルティはぎゅっと自分の胸元で細い両手を握り締めた。
「先日の国からの緊急要請……あの討伐戦を覚えていますでしょう? クランメンバー全員で参加したあの戦い……。あの時、私も必死で細剣を振るいましたわ。微力ながら、襲い来る魔物を倒すことができました」
「ええ、覚えてますよ。メルティさんの手足のような鋭い突き、なかなか見事なものだったじゃないですか」
「……ありがとうございます。ですが、あの時痛感したのですわ。私があまりにも無力で、足手まといになりかけていたことを。……今のままでは、またいつ『陽だまりの翼』全体が巻き込まれるような大事件が起きた時、私はただ守られるだけの存在になってしまう……それが、すごく悔しいのです」
メルティの言葉には、芯の通った強い意志が宿っていた。
普段は理知的で、硬貨一枚の無駄遣いも許さない厳格な彼女だが、その本質はクランの仲間を誰よりも想う熱い情熱の持ち主だ。
自分が弱いために仲間を危険に晒したくない、という焦燥と真摯な願いが、その細い肩から伝わってくる。
「……なるほどですねぇ」
イサミは顎に手を当て、フッとチャラけた笑みをこぼした。
「いいんじゃないですか? 守られるだけじゃ嫌だってのは、冒険者として一番大切な心構えですよ。それに、前回の要請戦でもメルティさんの細剣の立ち回りは筋が通ってました。あのレベルで動けるなら、ちゃんと基本を押さえれば十分戦力になります」
「 ……え? 今、いいっておっしゃいましたの?」
「ええ。ちょうど僕も、新しい道具の試運転がてら軽く体を動かしたいと思ってたんですよ。いきなり危険なダンジョンに行くのは大反対ですが、街の近くで受注できる簡単な討伐クエストなら、慣らし運転にうってつけでしょう?」
「イサミ様……! ありがとうございますわ! 頼み込んでみるものですわね!」
ぱっと表情を明るくさせたメルティ。
イサミは羊皮紙を片付けると、腰の短剣と道具袋の帯を確かめた。
「それじゃあ、エリスさんたちに『ちょっとメルティさんと近場の討伐に行ってきます』って声をかけて、冒険者ギルドへ向かいましょうか!」
午前中の冒険者ギルドは、クエストの受注や報告に訪れた荒くれ者たちで溢れかえり、熱気と酒の臭いが立ち込めていた。
掲示板の前で、初心者向けの『魔物の間引き』や『薬草採取』の依頼書を吟味していたイサミとメルティ。
「メルティさん、この薬草採取ついでにゴブリンを二、三匹倒すくらいの依頼がちょうど良さそうですねぇ」
「ええ、素晴らしいですわ。安全かつ確実に戦闘の感覚を取り戻せそうです――」
メルティが頷きかけたその時。
バンバンバンッ!
ギルドの入口近くのテーブルから、猛烈な勢いで木を叩く豪快な音が響き渡り、ギルド内の視線が一斉にそちらへと集まった。
「んあ? ……あ! イサミじゃん! やっほ〜! 元気〜?」
大声で手を振っていたのは、鮮やかな青空のように揺れる美しい青髪を持った美少女であった。
額にはカラーの証である真紅のクリスタルが光り、両手には露店で買い込んできたのであろう、タレが滴るデカい肉串が二本握られている。
「ミラさん!?」
イサミが驚いて声を上げると、彼女――カラー族の天才弓手であるミラ・カラーは、肉串を豪快にパクリと平らげ、満面の笑みを咲かせながらズカズカと寄ってきた。
「あはは! 聞いたよー?ギルドの噂じゃ道具袋をぶん投げて丸ごと大爆発させたって! イサミらしい豪快な戦い方だね〜!」
「相変わらず噂が尾ひれ背ひれ尾頭付きで広まってますねぇ……。ミラさん、相変わらず元気そうで何よりです」
「でさでさ、そんなことよりさ! イサミ……覚えてるよね? アレに対する……私たちの熱き『誓い』をさ……っ!」
ミラは肉串を持ったまま、イサミの背中をバンバンと力任せに叩いた。強烈な衝撃にイサミが「グハッ」と声を漏らす。
そしてミラは一転して、ニシシと悪巧みの笑みを浮かべ、熱く拳を握りしめた。
「そう……『ハニー』……っ!! 行くよ、イサミ……っ! ハニー撲滅同盟!!」
「ちょ、ちょっとミラさん、声が大きいですよ〜! 」
イサミが苦笑いしていると、ミラの背後から、ひょっこりと別の少女が姿を現した。
ミラと同じ美しい青髪と額の真紅のクリスタル。深い蒼色の民族衣装を身に纏い、自分の身の丈ほどもある大きな長弓を大事そうに胸元で抱え込んでいる。
前髪の隙間から、不安そうにこちらを覗き込む可憐で奥ゆかしい美少女――パントン・カラーであった。
「……私は……弓術の修行のために、こうして街へついて参りました……」
消え入りそうな声で深々と頭を下げるパントン。その儚げな雰囲気に、隣にいたメルティも思わず「あら、可愛らしいお嬢さん……」と笑みをこぼした。
「へへ〜、パントンを連れてきたんだよ! パントンね、普段はすごーくおとなしいんだけどさ! ハニーのことになると血が上っちゃって、森でハニーの巣を見つけるたびに一人で特攻して全滅させてるんだよ〜!」
「ちょっとミラさん、身内を物騒な紹介の仕方しないでくださいよ……」
イサミが言いかけた瞬間。
すぅっ……
パントンの前髪の奥の瞳から、光が消えた。
まるで底なしの深海のような闇が宿り、額の真紅のクリスタルが不吉に妖しく発光したように見えた。
「……イサミ様……今……『ハニー』とおっしゃいましたか……?」
地獄の底から響くような、地鳴りのような低い声。
パントンの全身から撒き散らされる爆発的な殺意と怨念の波に、周りにいた荒くれ冒険者たちが「ヒッ!?」と悲鳴を上げて後ろへ飛び退いた。
「あのおぞましい、素焼きの土でできた黄色い不気味な悪魔……っ。先月、私が丹精込めて育てていたカラーの森の特産『白百合』を……あのとぼけた顔で群がって全て踏みにじり……っ」
ぎり……ぎり……と、長弓を握りしめるパントンの指関節が白く軋む。
「許せません……っ。あの無表情なハニワどもは……この世から一匹残らず……打ち砕き……粉々に粉砕し……全滅させなければならないのです……っ!!」
「パントンさん!? 落ち着いてください、それには完全に同意ですが、ここギルドの中です!」
イサミが思わずパントンの両手を掴むと、パントンはハッと正気に戻ったように頬をポッと朱に染めた。
「イサミ様……! ええ、ええ……っ! その通りです……っ! 私は……私はあなたのような理解者を待っておりました……っ!」
「あ、はい! 僕もあのカチカチなハニーは大嫌いです! 害虫以外の何物でもありませんからね!」
熱く手を握り合うイサミとパントン。
その異様な光景に、メルティは引いた腰を戻しながら引きつった笑みを浮かべた。
「あの……イサミさん? どなたですの、この恐ろしい方々は……? それにハニーって、あの素焼きの土人形みたいな魔物のことですの……?」
「ああ、紹介しますねメルティさん。こちらはカラー族の優秀な弓手、ミラさんとパントンさんです。僕とは『ハニー』……つまりあの頑丈でウザいハニワ型モンスターを絶対撃滅する誓いを立てた同志でしてね」
「ハニー……魔法を弾く上に無駄に硬くて、冒険者泣かせと言われるあの厄介な土人形ですわね……」
「そう! そのハニーなんだけどさ!」
ミラが残った肉串を一口で丸呑みし、興奮気味に身を乗り出してきた。
「実はさっ! ギルドの情報屋から聞いたんだけど、最近ここから少し離れた『暗雲の洞窟』に、ハニー共が集結して大量発生してるらしいんだよ!」
「なん……!?」
イサミの目がキラーンと鋭く光った。
そして、パントンの瞳からも再びスーッと光が消失していく。
「洞窟に、ハニーどもが固まっている……? つまり、一網打尽にして土片に変える絶好のチャンスではありませんか……!」
「そうなんだよ! でもハニーってめちゃくちゃ硬いし、魔法も効かないじゃん? 物理でガシガシ叩き割れる前衛と、イサミのからくり道具のサポートが欲しくてさ〜! イサミ、一緒に行かない!?」
「行きましょう!!」
即答するイサミ。
「ちょっと待ちなさいイサミさん!?」
メルティが慌てて割って入った。
「今日は私の戦闘訓練のために、簡単なクエストを受ける予定でしたでしょう!? いきなりハニーの群れが巣食う洞窟だなんて、危険すぎますわ!」
「メルティさん、大丈夫です!」
イサミは自信たっぷりに胸を叩いた。
「ハニーはカチカチで魔法を無効化してきますが、攻撃パターンは単純です! 僕の爆弾や仕掛けで態勢を崩し、ミラさんとパントンさんのカラー族特有の威力の高い重矢で外殻を砕く! メルティさんには、ひびが入ったハニーの隙間に細剣を突刺して打ち砕く『とどめ役』をやってもらえば、これ以上ない最高の戦闘訓練になりますよ!」
「……む、むぅ……。とどめ役、ですの……?」
「それに……」イサミはニヤリと悪徳商人の笑みを浮かべた。「ハニーを倒した後に残る『ハニーの欠片』は、マニアやコレクターの間で以外に高値で取引されます。ハニーの集団を全滅させれば……メルティさん、クランの金庫が潤いますよ?」
ピクッ!!
メルティの眉根が跳ね上がった。
「ハ、ハニー金貨……!? 洞窟一つでそんなに……!?」
一瞬で計算を弾き出したメルティの瞳に、激しい金色の銭光が宿る。
「……決まりましたわ。参りましょう、『暗雲の洞窟』へ! クランの財政と私の戦闘経験のため、あの不気味なハニワどもには全て土に還っていただきますわ!」
「あはは! さすがイサミの仲間、話が早くて助かるなーっ!」
ミラが豪快に笑いながら、メルティの背中をポンポンと叩いた。
「……ハニーを粉砕し……ハニー金貨を奪い取る…
うふふ……っ」
パントンが暗い笑みを浮かべて長弓を構える。
こうして、ゲスト道具屋イサミ、メルティ、そしてカラー族の天才弓手ミラとパントンという、急造にして強烈な四人パーティが結成されたのだった。
王都から馬車を走らせること約一時間。
切り立った岩山の麓にポカリと口を開けた『暗雲の洞窟』の前に、四人は立ち集まっていた。
洞窟の入口付近からは、かすかに カショ……カショ…… という、素焼きの土が擦れ合うような不気味な足音が漏れ聞こえてくる。
「あはっ……聞こえますねぇ、あのお馴染みの不快な足音が」
イサミは腰の道具袋のバックルを固く締め直し、特製のタガネと重爆弾を取り出した。
「ミラさん、パントンさん。洞窟内部の構造は?」
「うん! 一本道の通路の奥に広い大空洞があって、そこにハニー共がすし詰め状態になってるらしいよ!」
ミラが背中の矢筒から、流麗かつ太い鉄芯の入った重矢を引き抜いた。その目は完全に狩人のそれだ。
「……通路が狭いのは……弓手にとって有利……っ。あの不吉なハニワどもが押し寄せてきても……一列に並んだ頭を……全て砕いてやるのです……っ」
パントンは長弓の弦をビインと鳴らし、深い怨念を込めて囁いた。
「メルティさん、準備はいいですか? ハニーの隙間に細剣を精密に刺し込むんですよ」
「え、ええ……っ! いつでもいけますわ!」
メルティは細剣を抜き放ち、鋭い刀身を構えた。緊張でその身を硬くしているが、その瞳には逃げ出さない強さが満ちている。
「よし! 『ハニー撲滅同盟』特別作戦、開始です! 突入――ッ!」
四人は一斉に薄暗い洞窟の中へと足を踏み入れた!
洞窟の奥へと進むにつれて、土が擦れる音は凄まじいものとなり、洞窟全体に不気味な反響音を満たしていた。
そして、開けた大空洞へと躍り出た瞬間――四人の視界を、圧倒的な光景が埋め尽くした。
そこにいたのは、あの独特な間抜けかつ不気味な顔をした、黄色いハニワ型モンスター――『ハニー』の大群!
手足を生やし、カショカショと蠢くその数、優に五十匹を超えている。
『ハニー!!』
『ハニホー!!』
侵入者を察知したハニーたちが、一斉に間抜けな声を上げながら、カチカチの素焼きの身体を揺らして押し寄せてきた!
「来たよイサミっ! 相変わらずムカつく顔してるねっ!」
ミラが弓を構え、電光石火の手つきで重矢をつがえた!
「ハニーどもめ……っ! 私の白百合の仇……ここで粉々になるのですっ!!」
パントンが物理威力を極限まで高めた力を弓矢へと注ぎ込む!
「ミラさん、パントンさん、射撃開始! メルティさんは僕の隣でひび割れたやつを叩く! からくり徹甲爆薬・投擲っ!」
イサミが腰から取り出した特製の『からくり徹甲爆薬』をハニーの群れの中心へ投げ込む!
ドカァァァンッ! という激しい衝撃波と共に、硬固なハニーたちの外殻にピキピキと無数の亀裂が入った!
『あいやー!?』
『ハニホー!?』
衝撃で態勢を崩し、足止めされるハニーの群れ。
そこへ――カラー族が誇る天才弓手たちの、圧倒的な『粉砕の雨』が降り注いだ!
ズババババンッ!!!!
ミラが放つ重矢は、恐ろしい威力を伴って空を切る!
一本の矢が前列のハニーの額を打ち抜くと、カチカチの外殻を粉砕し、そのまま後ろのハニーごと土塊へと変えていく! 肉串を食べていた時とは別人のような、恐ろしいほどの精密さと貫通力!
「ニシシ! 逃がさないよ〜! 全部砕けて土に戻りなさいなっ!」
そして、隣のパントンは――まさに『絶滅の女神』であった。
ドスドスドスドスッ!!!!
怨念の魔力を纏ったパントンの矢は、まるで大砲の弾丸のように重い音を立てて飛翔した。
命中したハニーは一瞬で外殻を粉砕され、木っ端微塵の土片となって派手に弾け飛ぶ!
「砕けろ……砕けろ……一匹残らず……芽吹く前の白百合を踏みにじった罪を……その脆い土の体で償うのです……っ!!」
瞳から完全に光を消したパントンが、狂気的な速度で長弓を引き絞り、無慈悲にハニーどもを打ち砕いていく。
「す、凄まじい破壊力ですわ……! 魔法が効かないハニーを、純粋な物理貫通力で粉砕していますの……!?」
メルティが思わず息を呑む。
「メルティさん、感心してる暇はありませんよ! 弾き飛んできたハニーがいます!」
イサミの叫びと同時に、煙の中から爆風を耐え抜いた一匹のハニーが、手を振り回しながらメルティに向かって突進してきた!
『ハニホーーーッ!!』
「ひっ……!?」
一瞬、竦みそうになるメルティ。
だが、彼女の脳裏に、先日の要請戦で足手まといになった自分の悔しさが蘇った。
(私は……クランのメンバーですのよ! 守られるだけの存在なんかじゃない……ッ!)
メルティは深く息を吐き出し、足元を強く踏み込んだ。
視界がクリアになる。イサミの爆薬によって、ハニーの胸元に小さく入った「ひび割れ」が見えた。
かつて剣の師から叩き込まれた、細剣術の基本中の基本――『極小貫通突き』。
スザァッ……ッ!
メルティは細剣の先を、ハニーの胸のひび割れへと一直線に繰り出した!
細く鋭い刀身が、ハニーの外殻の隙間を貫く!
チュドォンッ!!
を突かれたハニーは間抜けな声を残し、その場でサラサラとした砂と土片になって崩れ去った。
「やりましたわ……っ! 倒せましたわ、イサミさん!」
「素晴らしい! 完璧な隙間狙いですよメルティさん!」
イサミが絶賛する間にも、もう一匹のハニーがメルティの横から迫る!
「させませんわっ!」
メルティは振り向きざまに、身体を捻りながら閃光のような一刺しを繰り出した!
パキンッ! と穿つ音が響き、二匹目のハニーもまた、メルティの細剣によって崩れ去り、コロンと『ハニーの欠片』を床に転がしたのだった。
「ふぅ……ふぅ……! どうですの、私の細剣も……捨てたものではないでしょう?」
汗を拭いながら、誇らしげに微笑むメルティ。
その立ち振る舞いは、もはや「ただの金庫番」などではなく、立派な一人の冒険者のものであった。
ミラとパントンの圧倒的な射撃、イサミの徹甲爆薬による外殻破壊、そしてメルティの隙のない一刺し。
四人の完璧な連携の前に、五十匹を超えていたハニーの群れは、わずか十数分のうちに一匹残らず全滅させられ、ただの土の山へと姿を変えた。
静まり返った『暗雲の洞窟』。
「……はぁ……はぁ……。全滅……砕き尽くしたのです……っ」
長弓を握りしめたパントンが、ハァハァと荒い息をつきながら、ゆっくりと瞳に光を取り戻した。
額のクリスタルの妖しい光が収まったように見え、いつものおしとやかな可憐な少女へと戻っていく。
「あ……あの……イサミ様……私……また取り乱して……物騒な姿をお見せしてしまいました……っ」
恥ずかしそうに頬を染め、前髪をいじるパントン。
「いえいえ! 最高に頼もしかったですよパントンさん! あなた方の連射と貫通力がなければ、このカチカチ集団を無傷で倒すのは不可能でした!」
「イサミ様……っ! えへへ……私……お役に立てて……嬉しいです……っ」
嬉しそうに手をキュッと握りしめるパントン。
「あはは〜! いやぁ〜スッキリしたねーっ! ハニーどもを全部砕いて、美味しい肉でも食べに行きたい気分だよ!」
ミラは豪快に笑いながら、イサミと強烈なハイタッチを交わした。
パァァァンッ!!
「イサミ、最高のチームワークだったじゃん! やっぱり君と組むハニー退治は最高だね!」
「痛たぁ……相変わらず手が硬いですねぇミラさんは。……さて! メルティさん、お待ちかねのお宝タイムですよ!」
イサミが指さしたのは、ハニーたちが崩れ去った跡に散らばる、無数の『ハニー金貨』と『ハニーの欠片』であった。
メルティの目が、再び輝く金貨のマークへと変わる。
「まあ……! なんという量ですの……! コレクターに売却すればっ!」
メルティは素早く袋を取り出し、凄まじい手つきでハニー金貨を回収し始めた。
その手つきは、先ほどの細剣の閃きよりも素早く、正確であった。
「うふふ……うふふふふ……! これで今月の予算は大幅な黒字……! 新しい防具も買えますし、のんちゃんの美味しいオヤツ代も出せますわ……!」
ホクホク顔で金貨を袋に詰めるメルティを見て、イサミは苦笑いを浮かべた。
「ははは……やっぱりメルティさんは、戦う金庫番としてクランに不可欠な存在ですねぇ」
夕刻。
『暗雲の洞窟』での大勝利を収めた四人は、夕日に染まる王都の街並みを歩いていた。
無事にギルドへ素材を納品し、期待以上の大杯の報酬を手に入れた四人の足取りは軽い。
「イサミさん、本日は本当にありがとうございました」
メルティが歩きながら、イサミに向かって深々と頭を下げた。
「イサミさんのおかげで、私も自分の足で立ち、戦う自信がつきましたわ。これからは、会計としてだけでなく、クランの戦力としても皆さんを支えてみせますの!」
「頼もしいですねぇ、メルティさん。でも無理は禁物ですよ? メルティさんに怪我でもされたら、メルティさん自身が治療費の計算で頭を抱えることになりますからね」
「ふふ、上手いことをおっしゃいますわね。でも、ご心配なく!」
隣では、ミラが両手に買い込んできた大量の串焼き肉を持ち、豪快に噛みちぎっていた。
「んぐ……んっ! いや〜、戦った後の肉は最高だね〜っ! イサミ、またハニーの情報が入ったら絶対に誘ってよね! ハニー撲滅同盟は永久に不滅なんだからさ!」
「はいはい、もちろんですよミラさん。次も期待してますからね」
排他的で不気味なハニワどもを倒し終え、イサミのすぐ隣を歩くパントンが、そっと彼の袖口を小さく引っ張った。
「……イサミ様……」
「ん? どうしました、パントンさん?」
「……あの……私……またイサミ様と一緒に……悪魔(ハニー)を滅ぼしたいです……。イサミ様は……私の、最高の理解者ですから……っ」
夕日に照らされたパントンの頬は赤く染まり、その瞳には純粋な信頼と温かな好意が宿っていた。
「ええ、喜んで! パントンさんの最高の射撃、いつでも頼りにしてますよ!」
イサミが優しく微笑むと、パントンは嬉しそうに「はい……っ!」と小さく頷き、ギュッとイサミの袖を握り締めたのだった。
戦う覚悟を決めた金庫番メルティと、心強い『ハニー撲滅同盟』の仲間たち。
賑やかな会話と笑い声が夕暮れの街に響き渡り、『陽だまりの翼』のまた新しい、賑やかで誇らしい一日が静かに幕を閉じていくのであった。