♢
昨日の『暗雲の洞窟』での激闘から一夜。
壊滅させたハニーの群れと、メルティが得た莫大なハニー金貨の余韻は、クラン拠点(ホーム)にも穏やかな達成感をもたらしていた。
早朝、客室で身支度を整えたイサミは、軽快な足取りで拠点の宿を出た。
腰にはいつものからくり道具袋。今日は昨日酷使した爆薬の補充用材料と、珍しいカラクリ用鉱石の仕入れのために、王都の職人街へ足を運ぶ予定だった。
「ん〜、朝の空気は美味いですねぇ。まずはギルド経由で職人街のガラクタ市を冷やかして……それからカフェの仕入れですかね」
イサミは鼻歌をまじえながら、石畳の小道を少し歩き出した。
――その時だった。
「はぁ……はぁ……っ! イサミ、様……っ!!」
後ろから、急ぎ足で駆け寄ってくる足音が響いた。
肩を上下させ、少し息を切らせながらイサミの前に滑り込んできたのは――青空のような美しい青髪と、額に真紅のクリスタルを輝かせた可憐な少女、パントン・カラーであった。
「おや、パントンさん? おはようございます。朝早くからどうしたんですか、そんなに息を切らせて……ミラさんは一緒じゃないんですか?」
イサミがいつもの軽いチャラついた笑みを浮かべながら声をかける。
だが、パントンの様子は明らかに尋常ではなかった。
普段のおしとやかで消え入りそうな雰囲気とは打って変わり、その白い頬は火照ったように真っ赤に染まり、胸元でぎゅっと握りしめられた両手は微かに震えている。
前髪の隙間から覗く瞳は、怪しいまでにギラギラとした熱量を帯びていた。
「イサミ……様……っ! お会い……できました……っ!」
「は、はい。おはようございます。何か緊急の用事でも?」
「今日も……っ! 今日も行きましょう……っ! 『ハニー退治』に……ッ!!」
パントンはイサミとの距離をグッと詰めた。思わずイサミが半歩後退りするほどの迫力だ。
「えっ……今日も、ですか?」
「はい……っ! 昨日の……昨日の感触が……あの感触が……頭から離れないのです……っ!!」
パントンは両手を自分の頬にあて、興奮を隠しきれない様子でうっとりと瞳を潤ませた。頬の赤みがさらに増し、耳まで真っ赤に染まっていく。
「矢を放つたびに……あの忌々しい土人形どもが……破片となって弾け飛ぶ音……手応え……っ! 一瞬で木っ端微塵になって粉々に砕け散る……あの快感……っ! 昨日の夜、ベッドに入っても……瞼の裏であのハニーどもが砕け散る光景が何度も何度も再生されて……嬉しくて……興奮して……私、一言も眠れませんでしたの……っ!」
(うわぁ……完全に変な方向へ覚醒しちゃってますねぇ……この子……!)
イサミは背筋に冷や汗が伝わるのを感じた。
パントンのハニーに対する怨念が深いことは知っていたが、昨日五十匹以上のハニーを粉砕したことで、彼女の中の何かが完全に弾けてしまったらしい。
想像しただけで顔を真っ赤にし、息を荒くするパントンの姿は、どこか艶めかしくもあり、同時に背筋が凍りつくような危うさを孕んでいた。
「……あ、あのですね、パントンさん。お気持ちはよく分かりますし、昨日の活躍は見事でしたけど……僕は今日、ちょっと大事な用事がありましてね」
イサミは困ったように苦笑いを浮かべ、手をひらひらと振った。
「買い付けの予定もありますし、爆薬の補充もしなくちゃいけないんです。だから今日は……申し訳ないですが、ハニー退治はお預けってことで――」
すぅっ……
イサミの言葉が途切れた。
パントンの前髪の奥から、スッと熱気が引き、代わりに深い、深い闇が底なしの沼のように広がり始めた。
先ほどまで真っ赤だった頬から朱が引き、額の真紅のクリスタルが、血のような赤黒い光になったように見えた。
「……用事……ですか……?」
低く、どこか湿り気を帯びた声。
「はい……商人としての仕入れがありまして……」
「……イサミ様……」
パントンが一歩、踏み出した。
イサミとの距離が完全にゼロになる。
彼女の身につけているカラー族特有の甘い森の香りと、全身から立ち上る凄まじい圧力がイサミを押し包んだ。
「……嘘、ですよね……?」
「え……?」
「イサミ様は……私に『ハニーが嫌いだ』とおっしゃいましたわよね……? 害虫以外の何物でもない……絶対許せない、と……私と、熱い誓いを交わしてくださったはずです……っ」
パントンの瞳から完全に光が消えていた。ハイライトのないガラス玉のような瞳が、じっとイサミの瞳の奥を覗き込んでくる。
「それなのに……ハニー退治よりも優先する『用事』がある……? そんなはず、ありませんわ……。ハニーをこの世から一匹残らず駆逐すること以上に重要な用事など……存在するはずがありませんもの……っ」
「や、いや、パントンさん、それは極論というか……僕にも生活がありまして――」
「……まさか……」
パントンはコトンと首を傾げた。その動作があまりにも不気味で、イサミの喉がひくついた。
「……イサミ様……『ハニーが嫌い』というのは……嘘だったのですか……?」
「な、何をおっしゃいますか! 嫌いに決まってるじゃないですか!」
「では……なぜ今すぐ私と一緒にハニーを殺しに行ってくださらないのですか……? 私のことが……鬱陶しいのですか……? それとも……ハニーを庇っていらっしゃるのですか……?」
(庇うわけないでしょ!あんなハニワ共を!?)
心の中で叫ぶイサミだったが、目の前で静かに、けれど爆発寸前の火山のようなヤミオーラを撒き散らすパントンに、完全に圧倒されていた。
いつもはおしとやかで可憐な少女だからこそ、一度箍(タガ)が外れた時の執着心と狂気が恐ろしすぎる。
「ち、違いますって! 庇うなんて滅相もない! ただ本当に今日は物理的に時間が――」
「嘘……嘘ですわ……っ。私を……騙していたのですか……? ハニー撲滅同盟だなんて…………口先だけの嘘……っ」
パントンの指先が、ゆっくりとイサミの胸元に伸び、彼の服の生地を強く掴んだ。ぎり……ぎりと、布地が引きちぎれんばかりの力だ。
「許しません……。私を失望させないでください、イサミ様……。私と一緒に……ハニーを……ハニーを砕いてくださらなきゃ……嫌……っ」
「ぐっ……!? 圧が……圧が強すぎますよ……っ!」
イサミは道具屋としての経験と直感で悟った。
この場で下手に突っぱねたり、街中で押し問答を続ければ、パントンがパニックを起こして長弓を引き抜き、街中で爆発的な殺意を撒き散らしかねない。
「わ、わかりました! 分かりましたから! とりあえず街中で話すのはやめましょう!」
「……では……ハニー退治に……?」
「や、一旦宿に帰りましょう! 僕の部屋で……落ち着いて話をしましょう! ね!?」
イサミは窮余の策として、自分の客室へ避難することを提案した。
人目のある街中よりは、密室でじっくりとなだめた方が安全だと判断したのだ。
だが――その言葉を聞いた瞬間、パントンの無機質な瞳に、一瞬だけ怪しい光が揺らめいた。
「……宿の……お部屋……。イサミ様のお部屋……ふふ……っ」
「あ、いや、変な意味じゃなくてですね!?」
「参ります……私、どこへでもついて参りますわ……イサミ様……っ」
ヤミの光を宿した瞳でイサミを見つめ、ぴったりと身体を寄せてくるパントン。
イサミは冷や汗を全身から吹き出しながら、逃げるように自分の宿へと引き返すハメになったのだった。
ギィ……と不吉な音を立てて、宿の扉が閉じられた。
イサミの借りている客室。普段はカラクリ道具のパーツや図面が綺麗に整理されている整然とした空間だ。
部屋に入った瞬間、イサミは深々と息を吐き出した。
「ふぅ……。ひとまず、ここなら静かに話せますね。パントンさん、まあそこに腰掛けて落ち着いて――」
振り返ったイサミの言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
カチャリ。
静かな音を立てて、パントンが背後のドアノブに手をかけ、内側からカギをガチリと施錠したのだ。
「……パントンさん……?」
パントンはゆっくりと振り返った。
その手には、いつの間にか身の丈ほどもある長弓が握られている。
矢こそつがえていないものの、その存在感は逃亡を一切許さない絶対的な壁となってイサミの前に立ちはだかった。
パントンは静かな、けれど逃げ場のない足取りで、じりじりとイサミへ歩み寄ってくる。
「……さて……イサミ様」
「は、はい……?」
イサミは思わず後退りしたが、すぐに背中が頑丈な作業机にぶつかった。退路は完全に断たれた。
パントンはイサミの目の前で立ち止まると、両手で長弓を床につき、前髪の間から底なしの暗黒を宿した瞳でイサミをじっと見上げ――そして、静かに問いかけた。
「……で……ハニーが嫌いなのは……嘘だったのですか……?」
「だーかーらー! 嘘じゃないですってば!!」
イサミは思わず叫んだ。だがパントンは微動だにせず、静かに首を横に振る。
「……納得がいきません……。嘘でないのなら……なぜ今すぐあの洞窟へ向かってくださらないのですか……? 昨日の残党が……まだどこかに残っているかもしれませんのよ……? それとも……イサミ様にとって、あのハニワどもは……殺すに値しない程度の存在なのですか……?」
「違います! ハニーは僕にとっても最大の敵であり、見つけ次第爆砕すべき害虫です! それは断じて揺るぎません!」
「では……なぜ……?」
パントンは顔を近づけた。彼女の息遣いがイサミの首筋にかかるほど近い。
「なぜ……私を拒むのです……? 昨日は……あんなに楽しそうに……私と一緒に……ハニーを粉砕してくださったではありませんか……っ。あの時……『パントンさんの最高の射撃、頼りにしてます』って……笑いかけてくださったではありませんか……っ!」
パントンの声に、切実な、そして狂おしいほどの感情が混じり始める。
「私……嬉しかったのです……っ。これまで……ハニーへの執念を理解してくれる人間なんて……わかってくれるのはミラ以外にいなくて……皆、私を気味悪がって……っ。でも、イサミ様だけは違った……っ! 私の怨念を……私のハニーへの殺意を……真っ向から受け止めて……褒めてくださった……っ!」
パントンの手が伸び、イサミの胸板をギュッと押しつけた。
「なのに……今日はどうして……? 私を置いて……どこへ行こうとしていたのですか……? まさか……他の人と……ハニー退治に行く約束でも……していたのですか……!?」
「していません!! なんでそう飛躍するんですか!?」
「じゃあ……どうして……っ! どうして私と……ハニーを……っ!!」
何度も、何度も詰め寄ってくるパントン。
「ハニーが嫌いなのは嘘だったのですか」「私を騙したのですか」「ハニーを庇うのですか」という言葉が、まるで呪詛のように部屋の中にリフレインする。
ヤンデレ化したパントンの重圧に、イサミは冷や汗をタラタラと流しながら、必死に頭を回転させた。
(やばいです……! これ、論理的な説得じゃ絶対に届かないやつだ……! パントンさんの中で『イサミ=ハニー退治の理解者=私の味方』っていう強烈なロジックが完成しちゃってる……! ここは商人としての交渉術と、熱意で上書きするしかない……ッ!)
イサミは意を決すると、ガバッとパントンの両肩を掴んだ!
「っ! イサミ……様……?」
突然の強い力に、パントンが驚いて瞳を丸くする。
イサミは逃げずに、パントンの闇に包まれた瞳をまっすぐに突き返した。チャラけた態度は完全に消え、その表情は真剣そのものだ。
「パントンさん! よく聞いてください! 僕がハニーを嫌いなのは、断じて嘘ではありません!! 僕のハニーに対する憎しみは、本物です!!」
「……で、ですが……今日の用事が……」
「僕が今日、職人街に行こうとしていた理由……それを知っても、僕がハニーを庇っていると言えますか!?」
イサミは腰の道具袋から、昨日使い切った『徹甲爆薬』の空の容器を取り出し、パントンの目の前に突きつけた!
「昨日……パントンさんの圧倒的な射撃と、僕の爆薬でハニーどもを粉々に砕きましたよね!?」
「……ええ……はい……っ」
「あの爆薬は……ハニーのあのカチカチの素焼きの外殻を粉砕するためだけに、僕が独自に調合した特製の爆薬なんです! だが……昨日の激闘で、その在庫が完全に底をついてしまった!!」
イサミは熱弁を振るう。
「今の丸腰の状態で洞窟に突入しても……ハニーどもに完璧な絶望を与えることはできません! 僕は今日、職人街でより強力な爆薬の材料と、ハニーの外殻を微粒子レベルまで粉砕する『対ハニー用極大からくり兵器』のパーツを仕入れに行こうとしていたんです!!」
「対……ハニー用……極大からくり兵器……!?」
パントンの瞳に、奇跡的にスーッと光が戻り始めた。
「そうです!! ただ殺すだけじゃ足りない……! 次にハニーの巣を見つけた時、パントンさんが放つ神業の矢と……僕の超強力爆弾で……ハニーどもを痕跡すら残さず、宇宙の塵へと変えるため!! 僕はその『準備』をしようとしていたんですよ!!」
イサミはパントンの肩を掴む手にぐっと力を込めた。
「それなのに……準備も不十分なまま突撃して……ハニーどもに生半可なダメージしか与えられないなんて……そんな生ぬるい真似、僕の『対ハニープライド』が許しません!! パントンさん……これでも、僕のハニーへの憎しみが嘘だと思いますかッ!?」
「あ……あぁ……っ……!」
パントンは息を呑んだ。
その頬から妖しい闇が消え去り、代わりに感動と、己の愚かさを恥じる純粋な赤みが広がっていく。
「イサミ……様……っ! ああ……私……私ったら……っ!」
パントンは長弓を床に置き、ボロボロと大きな涙を瞳から溢れさせた。
「私……なんて愚かな誤解を……ッ! イサミ様は……私以上に……あのハニーどもを徹底的に滅ぼすための……遠大な計画を立てていらっしゃったのに……っ! 私……イサミ様を疑って……閉じ込めるような真似まで……っ!」
「わ、分かってくれましたか、パントンさん!?」
「はい……っ! はい……っ! 私……申し訳ありません……っ!」
パントンは感極まった様子で、そのままイサミの胸元へと飛び込み、ギュッと彼の胴体に抱きついた。
「イサミ様……! すみません……すみません……っ! 私……イサミ様が私から離れていってしまうのが……ハニー退治をやめてしまうのが……悲しくて……怖くて……っ!」
「お、落ち着いてくださいパントンさん! 離れませんから! ハニー退治も絶対にやめませんから!」
胸に顔をうずめて泣きじゃくるパントンを、イサミは苦笑いしながら優しく背中をトントンと叩いて撫で下ろした。
だが、その言葉は、パントン・カラーという少女の精神の最も深い奥底――「ハニーへの狂気的な執念」と「イサミへの異常なまでの執着」が交差する狂乱の核心へと、寸分の狂いもなく突き刺さってしまったのだった。
「ふふっ…………うふふっ…………極大からくり兵器……っ」
パントンの口から、うっとりとした吐息と共にその言葉が漏れ出た。
一瞬、部屋の静寂が深まる。
イサミの胸元を掴んでいた彼女の華奢な手が、ピクリと震えた。
「そう……そうです……! 完璧な……完璧な爆薬……外殻を微粒子レベルまで砕くからくり……ッ!!」
すぅっ……
パントンの前髪の奥から、再び闇が現れる。
更に宿ったのは、前日を遥かに凌駕する――暴走した情念と、底なしの興奮の光であった。
その両頬は、熟しきった林檎のように赤く染まり上がり、呼吸は浅く、荒々しく乱れていた。
耳の先端まで真っ赤に火照り、身につけた蒼い民族衣装の胸元が、激しい上下を繰り返している。
「あ……あああ……っ!! やっぱり……やっぱり……間違っていませんでしたわ……っ!!」
「パ……パントンさん……?」
イサミは背中に嫌な汗が噴き出すのを感じた。
目の前の少女から溢れ出す圧倒的な熱量に、息が詰まりそうになる。
「凄いです……凄すぎます、イサミ様……っ! 私……私、感動しておりますの……っ! ただハニーを倒すだけではなく……あのおぞましい土人形どもに……完璧な絶望と完全な終焉を与えるために……そこまで深く……そこまで執念深く……考えていらっしゃったなんて……っ!!」
パントンは両手を己の火照った頬にあて、うっとりと瞳を潤ませながら、ゆらりと身体を揺らした。
「ああ……こんな……こんなにも私と価値観が合う人間が……この世界に存在するなんて……っ! 私の想いを……私の殺意を……ここまで完璧に理解し、共有してくれる方なんて……イサミ様……あなた以外に……他には誰もいませんわ……ッ!!」
「いや、あの……パントンさん、落ち着いて――」
「落ち着いてなんていられませんわ……ッ!!」
ドスッ!!
「わっ……!?」
次の瞬間、視界が激しく回転した。
興奮が極限に達したパントンは、人並み外れたカラー族の筋力と勢いのまま、イサミの胸元を力任せに押し倒したのだ!
ドサリ、と激しい音を立てて、イサミの背中が客室の頑丈な木製ベッドへと叩きつけられる。
宙を舞ったからくり道具袋が床に転がり、金属パーツがカチャンと虚しい音を立てた。
「パ、パントンさん!? ちょっと、何を――」
イサミが起き上がろうとした瞬間、彼の視界は蒼い髪の広がりと、甘く濃厚なカラー族の香りに完全に覆い尽くされた。
パントンが、倒れたイサミの上にすっぽりと乗っかる形で馬乗りになっていた。
華奢な体躯からは想像もつかない力で、パントンの両手がイサミの肩をベッドへ強く押し付け、固定する。
彼女の顔は、イサミの顔面からわずか数センチの距離まで迫っていた。
互いの吐息が交差するほどの密着状態。
濡れたように光るパントンの瞳には、狂おしいほどの歓喜と、イサミという存在への独占欲が渦巻いていた。
「逃がしません…逃がしませんわ、イサミ様…っ!」
パントンはハァハァと荒い息を吐き出しながら、じっとイサミの瞳の奥を見つめ返してくる。
その顔は朱を通り越して真っ赤になり、額からは薄っすらと汗さえ滲んでいた。
「あなたは……私の『運命の人』です……っ。私の白百合の仇を……私の怨念を……一緒に背負ってくださる……最高のパートナー……っ!」
「逃がしません…っ!」
「あ、あのですね…っ! 押し倒すのはちょっとやりすぎというか、僕たちまだそういう関係では――」
イサミの言葉は最後まで紡がれることはなかった。パントンの熱を帯びた唇が、彼の唇を塞いだからだ。
「んむっ……!?」
最初は触れるだけの柔らかな口づけだった。
しかしパントンはすぐに貪るように激しく唇を重ねてきた。
彼女の舌がイサミの唇の隙間をこじ開け、歯列をなぞりためらいなく口腔内に侵入してくる。
イサミの舌を見つけると、絡めとるように激しく吸い上げた。
「ちゅ……れろ……んふぅ……っ」
水音が静かな客室に淫靡に響く。
パントンの唾液がイサミの口内に流れ込み、
飲み込まざるを得ない。
甘い花蜜のような味が舌の上に広がった。
イサミはあまりの出来事に目を見開いたままパントンの閉じられた瞼と、長い睫毛が震える様を至近距離で見つめることしかできなかった。
十秒ほど続いた濃厚な口づけからようやく解放された時、イサミは酸欠でクラクラする頭をなんとか持ち上げた。
「はぁ…はぁ…パ、パントンさん正気ですか…?」
「正気も正気ですわ……むしろ、今までで一番正気です」
パントンはうっとりと自分の唇を指でなぞりながら潤んだ瞳でイサミを見下ろす。
彼女の唾液で濡れ光る唇が、蝋燭の灯りを受けて妖しく輝いていた。
「イサミ様の味……想像していたよりずっと、ずっと美味しい……もっと欲しい……」
「落ち着いてください。僕たちはまだ――」
「時間など関係ありませんわ!」
パントンは両手でイサミのシャツの胸元を鷲掴みにすると、強引に左右に引き裂いた。ボタンが弾け飛び乾いた音を立てて床に散らばる。
「あっ、ちょっと! 服が!」
「必要ありません。こんなもの……邪魔ですわ」
パントンは露わになったイサミの胸元に顔を埋めると、鎖骨の窪みに舌を這わせ始めた。
「ひっ……!」
思わず漏れた自分の声にイサミは驚愕した。
パントンの舌は温かく、唾液で濡れた感触が肌の上を這い回る。
鎖骨から胸板へそして左の乳首へと、彼女の舌は迷いなく移動していく。
パントンはイサミの左乳首を唇で挟み込むと、赤ん坊が乳を吸うように強く吸い上げた。同時に舌先で乳首の先端をチロチロと素早く舐め回す。
「……そ、そこは……」
「声、素敵ですわ……もっと聞かせてくださいまし」
パントンは執拗にイサミの乳首を責め立てる。彼女の右手は放置された右乳首に伸び、指先で摘み上げると時計回りにねじりながら捏ね回した。
「ひっ…………やめ……!」
イサミは自分の身体が裏切っていくのを感じていた。
乳首から電気が走るような快感が背筋を駆け上がり下肢に熱が溜まっていく。
息が自然と荒くなる。
パントンの指と舌の動きが巧みすぎるのだ。
カラー族の女性は皆これほど上手いのか、それともパントンだけなのか。
「嫌がっているフリはお止しになって……身体は正直ですわよ」
パントンの左手がイサミの股間をそっと撫で上げる。
ズボンの上からでも分かるほど、そこは既に硬く張り詰めていた。
「あっ……!」
「こんなに……もう準備万端ではありませんか」
パントンは嬉しそうに微笑むと、器用にイサミのズボンの前を寛げ下着ごと一気に膝まで引き下ろした。
解放されたイサミ自身が空気に触れてピクリと震える。パントンは初めて目にする異性のそれを、まるで宝石でも鑑賞するかのようにじっと見つめた。
「これが……男性の……」
彼女の細く白い指が、恐る恐るといった様子でイサミ自身に触れる。
熱い。
脈打つように硬い。
先端からは既に透明な雫が滲み出ていた。
「温かいですわ……脈がありますのね」
指先でそっと撫でられ、イサミは腰を浮かせた。
「っ……!」
「痛かったかしら? それとも……」
パントンは好奇心に輝く瞳でイサミを見上げながら、今度は五指全体でイサミ自身を包み込むように握った。
「あっ!」
「気持ちいい……のですわね?」
彼女は確認するように、ゆっくりと手を上下に動かし始めた。
最初はぎこちない動きだったがイサミの反応を見ながら徐々に速度と力加減を調整していく。
「んっ……あ……パントンさん……それ以上は……」
「イサミ様のここ……どんどん大きくなって……こんなに熱くなって……」
パントンは手を動かしながらもう一度イサミの唇を奪った。
今度は最初から深く舌を差し入れ、イサミの上顎をなぞり舌の裏側をくすぐる。
同時に彼女の手の動きは早くなり、握力も強くなっていった。
「んむっ……ちゅぱ……れろ……ふあっ……」
口づけの合間に漏れるパントンの吐息が熱い。
彼女の額のクリスタルの真紅の輝きが室内に反射していあ。
「イサミ様……私……」
パントンは一旦手を離すと、自らの衣服に手をかけた。
ワンピースの肩紐を外し胸元のリボンを解く。絹の布地が滑り落ちると、パントンの白磁のような肌が露わになっていく。
「……真っ白ですね」
イサミは思わず呟いていた。パントンの肢体は華奢でありながら女性的な丸みを帯び、胸の膨らみは控えめながら形が美しい。淡い桜色の乳首は既に硬く尖っていた。
腰のくびれから腿へと続く曲線はまるで芸術品のようだ。
「見て……くださいまし……」
パントンは自分のスカートも脱ぎ捨てると、下着も取り去り完全な裸体をイサミの前に晒した。
彼女の秘所は薄い蒼色の陰毛に覆われ、蜜で濡れ光っているのが見えた。
「私……もうこんなに……」
パントンは自分の秘所に指を這わせ、濡れた指をイサミに見せる。
指と指の間に透明な糸が引いた。
「イサミ様のせいですわ……あなたの言葉で……あなたの存在で……私はこんなに……」
彼女はイサミの上に再び馬乗りになると、今度は下半身を密着させた。
パントンの濡れた秘裂がイサミの硬く勃起した自身の上に乗りゆっくりと前後に擦り始める。
「ああっ……熱い……イサミ様のこれ……熱くて……硬くて……」
「パントンさん……それ、まずい……本当に……」
「何がまずいのですか?」
パントンは腰を動かしながらイサミの顔を両手で挟み込み、強制的に目を合わせさせる。
「私が嫌い? それとも私の種族がお嫌い?」
「そうじゃないです!」
「では……何か?」
パントンの瞳には切実な光が宿っていた。
単なる興奮や欲望だけではない。
もっと深い、魂の渇きのようなもの。
「私にはイサミ様が必要なのです……私の復讐を理解してくれるあなたが……私の憎悪を共有してくれるあなたが……どうしても……どうしても必要なのです」
彼女の秘所から溢れる蜜がイサミ自身を濡らし、前後に動くたびに卑猥な水音が響く。
「でも……もしあなたが私を拒絶するなら……私は……」
パントンの動きが一瞬止まる。彼女の声がかすかに震えた。
「私は…………」
「……バカ……ですね」
イサミは上半身を起こすと、今度は自分からパントンを抱きしめ、唇を重ねた。
パントンの身体が驚きに強張るがすぐに力を抜いてイサミに身を委ねる。
「……ただ、後悔しないでください」
「後悔など……するわけがありませんわ」
パントンは泣き笑いのような表情でイサミを見つめ返すとゆっくりと腰の位置を調整した。
彼女の右手がイサミ自身を優しく握り、自分の入り口に導く。
熱く濡れた花弁が先端に触れひくつくように震えている。
「さあ……私を……イサミ様のものに……してください……っ!」
パントンは一気に腰を落とした。
「――っっ!!!」
パントンの悲鳴とも嬌声ともつかない声が室内に響き渡る。
パントンの額のクリスタルが、深紅から鮮やかな青色へと変色した。
それは彼女が処女から女へと変貌していく過程を可視化しているかのようだ。
それは純潔が破られた瞬間の輝きだった。
鮮血が結合部から溢れ出し、イサミの腿とシーツを紅く染めていく。
出血量は明らかに多かった。
普通ならば痛みで動けなくなるはずだ。
しかしパントンは違った。
「あああああっ……! こ、これが……これが……ッ!」
彼女は涙を流しながら笑っていた。
痛みと快感が混ざり合った極限の表情。
痙攣する太腿でイサミの腰を挟み込みさらに深く、さらに奥までと腰を沈めていく。
「もっと……もっと奥まで……子宮にまで……届かせてください……ッ!」
「…中、こんなに狭くて……キツくて……」
イサミはパントンの膣壁が自分の自身を締め付ける圧倒的な感触に、息を詰まらせた。
破瓜したばかりの処女の膣は驚くほど狭く熱く、内部の襞が異物を排出しようと痙攣しながらも、同時に貪欲に絡みついてくる。
破瓜の血が潤滑油となり動きを助けているのは皮肉だった。
「うっ……。……痛くないんですか?」
「痛い……痛いですわ……でも……それ以上に……ああっ!」
パントンは自分からゆっくりと腰を上下させ始めた。
抜き差しのたびに鮮血が溢れパントンの太腿を伝って滴り落ちる。その量は半端ではなく、シーツに赤い染みがどんどん広がっていく。
「イサミ様が……イサミ様の形が……私の中に……刻まれていく……ッ!」
「あっ……ああっ……!……子宮に……響いて……っ!」
パントンは自分の両乳首を自分で摘みながら、腰の動きを徐々に大きくしていく。
最初は痛みをこらえるような動きだったが徐々に快感を求める動きへと変化している。
出血は続いているのに、彼女の表情から苦痛の色が消え代わりに深い陶酔が広がっていく。
「不思議……痛いのに……なんで……なんでこんなに……気持ちいいの……ッ!」
彼女の膣内がぎゅうぎゅうと脈打ちながらイサミ自身を締め付ける。
破瓜の血で濡れた膣壁は通常よりも敏感になっているのだろう。動くたびに彼女は甲高い声を上げて身を捩る。
「イサミ様……イサミ様ぁ……ッ!」
パントンはイサミの胸にしがみつきながら狂ったように腰を打ち付け始めた。
結合部からぐちゅぐちゅと血混じりの水音が響く。彼女の動きは激しさを増し、ベッドは耐えきれずにギシギシと軋む音を立てる。
「パントンさん!……少し落ち着いてください……血が……」
「かまいませんわ……大丈夫ですわ……もっと……もっと中をイサミ様の形に……ッ!」
パントンは自分の出血をまったく気にする様子もなく、むしろそれすらも快感の一部として受け入れているようだった。
彼女の膣口から溢れる血がイサミの下腹部を紅く染め上げていく。
「私の血で……イサミ様が染まっていく……赤く……紅く……ッ! うれしい……これで私の一部が……イサミ様の身体に……ッ!」
「変態……ですね」
「今さら………あんっ!」
イサミは自分からも腰を突き上げ始めた。
パントンの小さな身体が跳ね上がり、さらに高い嬌声が迸る。
「ひゃああっ! い、今……奥に……子宮の口に当たりましたわ……ッ!」
「ここですか?」
イサミも狙いを定めて同じ場所を何度も突き上げる。
パントンはのけぞり、喉を晒して連続的な嬌声を上げ続けた。
「あっあっあっあっ! だめっですわそこはっ、ああああっ!」
彼女の膣内が波打つように痙攣し一際強くイサミ自身を締め付ける。
パントンは最初の絶頂を迎えたのだ。
彼女の全身が硬直し、爪がイサミの背中に食い込む。
「――っっっっ!!!」
声にならない叫び。
溢れる涙。
収縮を繰り返す膣。
そして、ぐっと強く放たれる大量の潮。
血と潮が混ざり合い二人の結合部からシーツへと流れ落ちていく。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
パントンはぐったりとイサミの胸に倒れ込みながらもその目は爛々と輝き、満足そうな笑みを浮かべていた。
「すごい……ですわ……これが……交わり……なんて……なんて素晴らしいのかしら……」
彼女の額のクリスタルは、今や深みのある青色へと変わっていた。
処女の証である赤が、女となった証の青へと変化した過程は神秘的ですらあった。
「でも……まだですわ」
パントンはまだ結合したままの状態で、ゆっくりと上体を起こした。
彼女の膣は変わらずイサミ自身をしっかりと咥え込んでいる。出血はやや収まったもののまだ淡く血が滲んでいた。
「私はもっと……もっと深く……イサミ様を知りたい……もっとイサミ様を感じたい……」
イサミは姿勢を変え今度は自分がパントンの上に覆いかぶさる形になった。
正常位。
パントンは両脚を大きく開き、イサミを受け入れる。
シーツは既に血と潮と汗でぐっしょりと濡れ生々しい戦場の様相を呈している。
「いきますよ……今度は僕から……」
「ええ……遠慮なく……来てください……っ!」
イサミは腰を引くと一気に奥まで突き入れた。最初の時よりも深く、強く。
「んああああっ!!」
パントンの背中が弓なりにしなる。
彼女の両手はシーツを握り締め、脚はイサミの腰に絡みつく。
「深いっ……さっきより……もっと深いっ……! お腹の奥まで……イサミ様が来てますわ……ッ!」
「痛みますか?」
「痛むけど……でもっ! それがいいの……痛みが……快感に変わる瞬間が……たまらなくッ……ああっ!」
イサミは容赦なく腰を振り始めた。
最初はゆっくりと、しかし確実に深く。
パントンの小さな身体が突き上げられるたびにベッドの上で跳ねる。
「あんっ! あっ! ああっ! 気持ちいいっ……気持ちよすぎますわ……ッ!」
彼女の膣内は出血によって通常よりも滑りが良くなり、イサミの抽送を容易に受け入れている。
しかしその分膣壁の細かな襞の感触がより鮮明にイサミ自身に伝わってきた。
襞がうねり、絡みつき吸い付くような動きでイサミを離すまいとする。
「パントンの中……すごい……締め付ける……」
「ああっ、うれしい……イサミ様にそう言ってもらえて……っ! もっと……もっと突いてください……私の中……ぐちゃぐちゃにしてください……ッ!」
パントンは自分の言葉に興奮したのか膣内をさらに強く収縮させた。
イサミはその圧力に耐えきれず、動きを速める。
「くっ……!」
「ああああっ! いいっですわその速さっ! 子宮にっ子宮の口にゴリゴリ当たってぇっ!」
結合部から聞こえる水音は、もはや単なる体液の音ではなく血と愛液が混ざり合った独特の粘着質な音に変わっていた。
ぐちゅっ、ぐぽっぬちゃっ。
卑猥な音が部屋中に満ちる。
「イサミ様のお顔……もっと近くで見たい……」
パントンは両手をイサミの背中に回すと強く抱き寄せた。二人の身体が密着し、パントンの小さな乳房がイサミの胸板に押し潰される。
「こうしてると……イサミ様の心臓の音が聞こえますわ……速い……私と同じ……」
「クリスタル……青くなってますよ」
「ええ……それは……私がイサミ様のものになった証ですわ……」
パントンは涙を浮かべながら微笑んだ。
彼女は自分の秘所とイサミ自身が結合している部分に手を伸ばしそこを優しく撫でた。血と体液で濡れた指を自分の口元に持っていき、ぺろりと舐める。
「私の血……イサミ様の体液……混ざってる……これが……私たちが一つになった証拠……とても美味しい……」
イサミは再び腰の動きを開始した。今度は先ほどよりも深く、より強い力で。
イサミもまたこの行為に単なる肉体的な快楽以上の意味を見出し始めていた。
「ああああっ! イサミ様っ! またっまた激しくっ!」
「パントンさんが……欲しいって言ったんでしょ!」
「そうですわっ! もっとっもっとくださいっ!」
イサミはパントンの両脚を高く持ち上げ自分の肩に乗せるような姿勢をとった。
これによって結合部の角度が変わり、より深い挿入が可能になる。
パントンの膝が自分の胸の近くまで折り曲げられ彼女の柔軟な身体は抵抗なくその姿勢を受け入れた。
「この角度……っ! さっきよりも……もっと奥に……ッ!」
「まだ奥に……」
イサミは体重をかけてさらに深く侵入する。
パントンの膣の最奥、子宮口に亀頭が密着するのが分かった。
「ああっ! 子宮の口がっ! 開いちゃいそうっですわっ!!」
パントンはほとんど叫ぶように声を上げた。彼女の膣内が再び痙攣を始め、二度目の絶頂が近いことを告げる。
「イサミ様も……イサミ様も一緒に……一緒にイってください……ッ!」
パントンの懇願に応えるようにイサミは射精感が高まっていくのを感じていた。
破瓜の血で濡れた膣壁の感触、パントンの必死な締め付け、そして何より彼女の全身全霊での受け入れがイサミの限界を引き上げる。
「パントンさんっ……僕も……もう……」
「うれしいっ……! いっしょに……一緒にイきましょう……ッ! 私の腟に……私の子宮に……イサミ様の精を……たくさん注いでください……ッ!」
「出しますよ………!」
「はいっはいっ! くださいっ! イサミ様のすべてをぉっ!」
イサミは最後の数回さらに強く深くパントンを突き上げた後、彼女の最奥で自身を開放した。
同時にパントンもまた、全身を痙攣させながら頂点に達した。
「「――――――っっっっっ!!!!」」
イサミの精がパントンの子宮口に直接叩きつけられ彼女の胎内を満たしていく。
熱い奔流がパントンの膣奥を満たし、一部は血と混ざり合って結合部から白濁した液体が溢れ出した。
「あ……ああっ……熱い……イサミ様の精液……熱くて……子宮が……満たされていく……っ……」
パントンは半ば意識が飛びかけた状態で、それでも確かに自分の胎内に流れ込むイサミの精を感じ取っていた。
彼女の下腹部が内側から満たされる感覚に微かに痙攣する。
イサミは射精が終わるとゆっくりと自身を引き抜いた。
結合部からは血と精液と愛液が混ざり合った液体が大量に溢れ出し、既にぐっしょりと濡れたシーツにさらなる染みを追加する。
パントンの膣口はしばらくの間ひくひくと収縮を繰り返し赤く腫れぼったくなっていた。
出血はこの時点でようやく止まりつつあった。
「すごい……量ですわ……」
パントンは自分の下腹部を両手で押さえながらうっとりと天井を見上げた。
彼女の太腿の内側は血と体液でべったりと濡れ、その様は凄惨でありながらも官能的だった。
「私のお腹の中……イサミ様の精液でいっぱい……これで……これで私……」
「大丈夫ですか……??」
「痛みますわ……とても……でも……それ以上に幸福感でいっぱいですの」
パントンはゆっくりと身体を起こすと、
自分の額に手を当てた。指先がクリスタルに触れる。
「青色……完全な青……もう赤はどこにも残っていませんわ……」
彼女は感激に声を震わせながら、イサミの胸に顔を埋めた。
「これで私は……名実ともにイサミ様の女ですわ……」
パントンは顔を上げると、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「私は最初から……イサミ様を逃がす気なんてありませんでしたもの」
「策士ですね……本当に」
イサミは苦笑しながら、パントンの頭を優しく撫でた。
蒼い髪は汗で額に貼りつきまだ呼吸は乱れている。
「約束してください……。イサミ様」
イパントンは身を乗り出した。
その迫力と、身体越しに伝わってくる少女の柔らかくも熱い体温に、イサミの思考はフリーズしかけた。
「約束してください、イサミ様……。 ……必ず……絶対に……私と一緒に……ハニーどもを……あの憎き土人形どもを……全滅させると……」
パントンはギュッとイサミの肩に指を食い込ませ、真剣そのものの、けれど狂気に満ちた眼差しで詰め寄ってくる。
「もし……もしこの約束を破ったり……私を置いて一人でハニーを滅ぼしに行ったりしたら……私……私……何をするか分かりませんからね……っ。」
イサミの脳内で、危険信号のベルが狂ったように鳴り響く。
ここで「嫌だ」と言ったり、約束を濁せば、即座にヤンデレモードが最高潮に達し、本当に何をするのかわからないのだろう。
イサミはパントンの頭を優しく撫でたまま、ゆっくりと息を吐き出すと、苦笑いを浮かべながらも、どこか優しく、けれど力強くパントンの瞳を見つめ返した。
「……パントンさん」
「……っ! イサミ様……?」
「約束します。僕の作った兵器と、パントンさんの最高の弓術で……必ず、あのハニーどもを大量に撲滅させましょう。僕たち二人で……一匹残らず、綺麗さっぱり土に還してやりますよ」
イサミは拘束されている腕の力を少し緩めさせると、そのままそっと手を伸ばし、パントンの頬に触れた。熱を持った彼女の柔らかい肌の感触が手触りとして伝わってくる。
「だから……もうそんな顔しないでください。僕は絶対にパントンさんを裏切りませんし、置いて行ったりもしませんから」
イサミの真っ直ぐな言葉と、頬を包み込む温かな手のひら。
その瞬間――パントンの全身から、すーっと緊張と狂気が抜けていった。
「あ……ぁ……っ」
パントンの大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出した。
自分の全てを受け入れてもらったという、胸が張り裂けそうなほどの歓喜と安堵の涙であった。
「イサミ……様……っ! ああ……イサミ様……っ!!」
パントンはそのまま、イサミの胸元へと力なく倒れ込み、彼の首筋にしっかりと両腕を回して抱きついた。
押し倒された姿勢のまま、胸の中で「うう……っ、うう……っ」と子供のように泣きじゃくるパントン。
彼女の甘い髪の香りと、トクトクと激しく脈打つ鼓動が、イサミの身体全体に直接伝わってくる。
「約束……してくださったのですね……っ。私と……一緒に……っ」
「ええ、約束しました。男に二言はありませんよ」
イサミは苦笑しつつも、胸の中の可憐で危うい少女の背中を、トントンと優しく叩いて撫で下ろした。
こうして、閉ざされた宿の部屋の中で――
イサミとパントン・カラーの間に、ハニーを完全に撃滅するという熱く、そしてどこか歪で愛おしい『絶対の誓約』が交わされたのだった。
新しいからくり兵器の開発と、次なるハニー大討伐に向けて……イサミと『ハニー撲滅同盟』の奇妙で騒がしい日々は、まだまだ続いていくのであった。