強い武器だぞ2 (未編集)
今日も透き通るような秋の風が、コパンドンCITYの街並みを心地よく吹き抜けていく。
クランの拠点のリビング兼カフェスペースでは、朝の光を浴びながら、温かなお茶の香りが漂っていた。
カウンターの奥で手際よく羊皮紙を整理しているのは、拠点の留守居役であり、受付であるエリスであった。
彼女は柔らかい笑みを浮かべ、テーブルを囲む四人の姿を見つめている。
「ふふ、みなさん。本日はメルティさんの実質的な『本格戦闘お披露目クエスト』ですね。怪我のないよう、気をつけて行ってきてくださいね」
「任せてちょうだい、エリス! うちの優秀な金庫番が怪我一つ負わないように、この私がバッチリ護衛してあげるわ!」
豪快に胸を叩いたのは、クロエ。
腰に差した剣を頼もしく叩き、ニシシと野性味溢れる笑みを浮かべている。
「ココも〜! メルティちゃん、すっごく楽しみ〜! 後ろからバッチリ魔法でサポートするからねぇ〜!」
隣でふわふわとした亜麻色の髪を揺らし、愛らしく拳を握りしめているのは魔術士のココだ。
その表情は、まるで遠足に出かける少女のように弾んでいる。
「……みなさん、ありがとうございますわ。ですが、私はもう守られるだけの存在ではありませんのよ? 今日は私の成長した細剣術を、しっかりとご覧に入れてみせます」
ビシッと背筋を伸ばし、凛とした声で宣言したメルティ。
腰に吊るされた細剣の柄にそっと手を置き、その真ん丸な瞳には固い決意が宿っている。
「心強いですねぇ。ちなみに僕もガジェットの試運転がてらサポートに入りますから、メルティさんは思う存分暴れてきてくださいね〜!」
いつものチャラついた笑みを浮かべ、腰の道具袋をポンと叩くのはゲスト道具屋のイサミであった。
「イサミさんもついていてくだされば百力船ですわ! さあ、まいりましょう!」
「ふふ、いってらっしゃい。今日の晩御飯は、みなさんの大好物を作って待っていますからね」
エリスに見送られ、四人は賑やかに拠点を後にしたのだった。
♢
今回四人が受注したクエストは、コパンドンCITYからほど近い森における、増殖した雑魚魔物『ゴブリン』の間引き討伐であった。
巨木が立ち並ぶ森は、美しい緑に包まれているものの、奥へ進むにつれて鬱蒼とした薄暗さが漂う。
「さぁて! ここらへんから魔物の気配が濃くなってくるわよ! メルティ、準備はいい?」
クロエが剣をサッと引き抜き、前衛として先頭に立つ。
「ええ、いつでもいけますわ!」
メルティもスッと細剣を構えた。その立ち姿には無駄がなく、かつての「恐る恐る戦っていた金庫番」の面影は微塵もない。
先日、イサミやカラー族の少女たちと潜った『暗雲の洞窟』での死線、そしてハニーどもを穿った経験が、彼女の身体に確固たる芯を作り上げていた。
ガサササッ!
頭上の枝葉が激しく揺れ、不格好な棍棒を振り回すフゴブリンが二匹、奇声を上げながら飛び降りてきた!
『ギャギャッ!!』
「出たわね! ココ、牽制を!」
「はーい! 舞い踊れ、氷の精霊さん! 氷の矢〜!」
ココが愛用の杖を振ると、生み出された氷の矢がゴブリンの一匹の足に刺さり、その体勢を大きく崩させた!
「ナイスよ、ココ! メルティ、左のやつはいける!?」
「お任せを!!」
メルティは地を蹴った。
華奢な身体からは想像もつかない俊敏さで、直線的にゴブリンの間合いへと踏み込む。
『ギャギョッ!?』
態勢を立て直そうとするゴブリンが、粗末な棍棒を振り下ろしてくる。
しかし――
キンッ……ッ!
メルティは極めて最小限の動きで頭部を傾け、細剣の平で棍棒の軌道を滑るように受け流した。
「ーーーーはッ!」
流した勢いのまま、メルティの身体がコマのように回転する。
閃光となって繰り出された細剣の先が、ゴブリンの胸元――急所中の急所へと寸分の狂いもなく突き刺さった!
チュドォンッ!!
急所を完璧に穿たれたゴブリンは「ギャッ!?」と間抜けな叫びを残し、そのまま崩れ去った。
「すごい! メルティちゃん、完璧な一撃だよ〜っ!」
「へえ……! まったく無駄がない見事な突きね! 完璧じゃない、メルティ!」
クロエが残る一匹の首を一刀両断しながら、感心したように声を上げた。
「うーん、素晴らしいですよ〜!無駄な力が入っていない、完璧な細剣術です!これならもう立派な前衛ですよ!」
イサミが拍手を送ると、メルティは凛とした表情を和らげ、少し誇らしげに胸を張った。
「ふふ、ありがとうございます! 皆さんの足手まといにならないよう、陰で特訓を重ねてきた成果が出ましたわ!」
お披露目としてはこれ以上ないほどの順調な滑り出しであった。
四人はその後も順調に森の奥へと進み、現れるゴブリンたちをメルティの鮮やかな細剣術と、クロエ、ココ、イサミの完璧な連携によって次々と討伐していった。
しかし、森の奥の開けた広場近くに差し掛かった時のことである。
ドォォォォンッ!!!!
突如として、前方の空間を揺らすような凄まじい衝撃音が響き渡った。
強烈な衝撃波が四人の頬を叩き、森の樹木が大きく揺れ動く。
「な、なに今の音!? 地震……じゃないわね!?」
クロエが即座に大剣を構え、驚愕の声を上げる。
「びっくりしたぁ……! !」
ココが目を丸くしながら杖を抱え直した。
「行ってみましょう! 誰かが戦っていますわ!」
メルティの合図で、四人は衝撃のあった広場へと駆け出した。
開けた広場で四人の視界に飛び込んできたのは、なんともシュールで圧倒的な光景であった。
そこにいたのは、ごく普通の村人のような格好をした――どこにでもいそうな青年冒険者。
腰が引けていて立ち姿も頼りなく、身のこなしや身に纏う魔力を見る限り、完全に駆け出しレベルの「ごく普通の人」だ。
対する敵は、どこにでもいる弱小なザコ魔物――『スライム』や『野良ゴブリン』の群れ。
本来なら駆け出し冒険者とザコ魔物の泥臭い泥仕合になるはずの組み合わせ……。
しかし、その均衡を破壊していたのは、青年が半ばパニックになりながら両手で振り回していた**『無駄に豪華な装飾が施された一本の剣』**であった。
鞘や柄にはこれでもかと金銀の意匠が凝らされ、数え切れないほどの巨大な宝石が埋め込まれている。さらには剣身から溢れ出る過剰なまでの神聖な光が、ギンギンと周囲を照らし出していた。
「うわあああッ! 来るな寄るなァァァッ!!」
青年が目を瞑りながら、その豪華な剣をヤケクソ気味に適当にひと振り横に薙いだ。
その瞬間――
――ズザァァァァァァンッッ!!!!
剣身から解き放たれたのは、空間そのものを切り裂くような黄金の極大一閃!
一瞬にして眩く巨大な斬撃波が広場全体を駆け抜け、迫り来ていたスライムやゴブリンといったザコ魔物たちは、悲鳴を上げる暇すらなく全員まとめて「一撃」で一瞬で消滅した。
ついでに背後に並んでいた数本の巨木まで、一切の抵抗もなく真っ二つに両断され、ドサドサと地響きを立てて倒れていく。
キラキラキラ…… と剣の宝石から溢れ出た光の粒子が、虚しく空中に漂う。
「……あ、あれ……? 一回振っただけなのに、全員消えちゃった……?」
青年はぽかんと口を開け、自分の手にあるギラギラと輝く装飾剣をオロオロと見つめている。
彼自身の身体能力や身のこなしは間違いなく「普通」だが、その手に持つ剣の性能だけが高水準領域に達していた。
「な……ッ!?」
メルティが両手で口を覆って絶句した。
「なになになに今の!? あの人自体は完全にフツーの新人っぽかったのに、あのジャラジャラ飾りのついた剣、なんなのよ!?」
クロエが剣を構えたまま目玉をひっくり返している。
「スライム相手に出す威力じゃないよぉ〜! 剣が強すぎるよぉ〜っ!」
ココもあまりの光景に引きつった笑みを浮かべた。
イサミだけは冷や汗をダラダラと流しながら、目を爛々と輝かせて青年の持っている剣を凝視していた。
「な………なんですか、あれは!? 人物自体はごく普通の素人さんなのに、剣のスペックだけで国と戦えちゃいそうな威力を出しちゃってますよ……!」
やがて青年は「ひえぇ、やっぱりこの高級そうな剣、怖いよ〜!」と叫びながら、ギラギラ光る装飾剣を大切そうに抱えて、ドタバタと森の奥へ走り去っていった。
「……世の中には、とんでもない装飾剣を持っている『普通の人』がいるんですのね……」
メルティは自分の細剣を見つめ、苦笑いを浮かべた。
「でも、武器の威力だけに頼るのも危険ですわね。やっぱり自分の腕と技量をしっかり磨くのが一番ですわ!」
「その通りですよ、メルティさん。あんなオーバー性能な剣、普段使いすらできませんからねぇ」
イサミが爽やかに頷く。
「よーし! びっくりしたけど、今日のクエストはこれで完了ね! ホームに帰って、エリスのご馳走を食べましょう!」
クロエの呼びかけに、全員が「おー!」と声を合わせたのだった。
♢
夕刻。
朱色に染まる王都の街並みを抜け、四人はの拠点へと帰還した。
扉を開けると、温かい料理の匂いと、エリスの優しい笑顔が四人を迎えてくれた。
「おかえりなさい、みなさん! 無事に終わったようですね。……あら? 何か珍しいことでもありましたか?」
エリスが四人のどこか興奮冷めやらぬ表情を見て首を傾げる。
テーブルにつき、エリスの手料理に舌鼓を打ちながら、四人は今日森で目撃した「装飾のついた剣がめちゃくちゃ強い普通の人」についての話を咲かせた。
「本当に凄かったのよ、エリス! 本人はすっごく普通なのに、持ってる装飾剣が一撃で森の巨木まで斬り倒しちゃうんだから!」
「ザコのスライム相手に、ギラギラ光る凄い斬撃で一瞬間で全滅させちゃったんだよ〜!」
「ふふ、でもメルティさんの細剣術のことも。一突きでゴブリンを倒す姿、見たかったです」
「……エリスさんったら……! でも、武器だけに頼らず、もっと自分の腕を精進いたしますわ!」
笑い声と温かな会話が交わされるカフェスペース。
世界にはまだ見ぬ国宝級の凄まじい武器や奇妙な冒険者が存在し、自分たちはまだまだ学ぶことが多いかもしれない。
けれど、こうして信頼できる仲間と共に戦い、笑い合い、温かい拠点へと帰ってくる。
それこそがクロエ達の、そしてイサミたちの、何物にも代えがたい「強さ」であり「幸せ」なのだと、実感していた。
秋の夜空に星が輝き始め、クランの温かな夜は静かに更けていくのであった。