とある日。
イサミはひとり、静かな宿の一室に身を寄せていた。
狭い室内の机の上には、ここ数日で描き殴った無数の設計図や計算シートが所狭しと散乱している。
「……ふぅ。ダメですねぇ……」
イサミはペンを置き、大きく息を吐き出しながら椅子に深く体を預けた。
頭の中は、あの日目撃した「ぶっ壊れ装飾剣」の威力と、重鎧の剣士の動きで埋め尽くされている。
どうやってあの圧倒的な攻撃力を無効化するか。
いかにして罠にハメるか。
思考を巡らせれば巡らせるほど、アイデアは重くなり、凝り固まっていく。
スマートで意地悪な「いつもの自分らしい発想」が出てこない。
「……ダメですね、一度頭を冷やしましょう。煮詰まった思考でいいガジェットなんて作れた試しがありませんからね」
一息ついたイサミは、気分転換のために宿を出て、コパンドンCITYのにぎやかな中央通りへと繰り出すことにした。
♢
夕暮れ時の街は、買い出しに向かう人々や帰路に就く冒険者たちで活気に満ちている。
露店から漂う香ばしい肉の焼ける匂い、子どもたちの歓声、露店商の威勢のいい声。
そんな日常の喧騒に身を置くことで、イサミの強張っていた肩の力が少しずつ抜けていった。
(……勝ちたい。んですよねぇ)
街の雑踏を歩きながら、イサミは自分の胸の奥底にある本音を再確認していた。
スマートに逃げる人生はもう終わりだ。
のんちゃんの笑顔のため、仲間のため、そして自分自身のプライドのために――あの重鎧の化け物を必ず叩きのめす。
そう心を新たに決意した、まさにその時だった。
「――あの……すみません、少しお時間よろしいでしょうか……?」
不意に、すぐ目の前で可憐で甘い声がかけられた。
イサミは足を止め、声の主へと視線を向けた。
そして次の瞬間――イサミの思考は一瞬、完全にフリーズした。
(……っ!? な、なんですかこの子は……っ!?)
そこに立っていたのは、イサミの人生における「好み」「タイプ」という概念をそのまま形にしたような、尋常ではないレベルの美少女だった。
可憐に揺れる柔らかな髪、吸い込まれそうな大きな瞳、守ってあげたくなるような華奢な立ち姿。
どこをとってもイサミのド真ん中、ド好み、ストライクゾーンのど真ん中を打ち抜く容姿をしている。
「あっ……ええと、僕に何かご用でしょうか……?」
思わず鼻の下を伸ばし、いつものチャラついた笑みを浮かべそうになるイサミ。
ドキドキと心臓が早鐘を打つ。
――が。
次の瞬間、イサミの全身の毛穴が一斉に逆立った。
(……待ってください。……なんですか、この寒気は……!?)
ド好みの美女を目にしてデレデレになりかけた脳の裏側で、イサミが幼少期から過酷な環境と修羅場をくぐり抜けて培ってきた『第六感』『第七感』の危険センサーが、脳内で警告音をガンガンと鳴らし始めたのだ。
目の前の女は、可憐な笑みを浮かべている。
だが、その瞳の奥――ハイライトの消えた暗い瞳の底に、底知れない殺気と、冷酷な観察眼が隠されているのをイサミの直感は見逃さなかった。
(なんなんですかこの女は……! 姿形は最高に僕の好みですが……漂わせている匂いが『本物の殺し屋』のそれですよ……っ!)
「ふふ……急に声をかけてごめんなさい。……でも、あなた『いい物』を持っているでしょう?」
女がにっこりと口角を上げた、そのコンマ一秒後。
「――死んで?」
女の雰囲気が一変した。
可憐な少女の皮が剥がれ落ち、獰猛な肉食獣のごとき殺気が爆発する。
女は袖口から閃く細身の暗器を抜き放ち、イサミの腰元――彼が旅立つ時に母親から貰い受け、肌身離さず携行している『仕込み短剣』を目がけて、目にも留まらぬ速度で飛びかかってきた!
「チッ……やっぱりハニートラップですかっ!?」
イサミは間一髪のところで身を捩り、多機能ベルトの小型煙幕弾を足元に叩きつけた。
ドドンッ! と紫煙が爆発的に広がる。
だが、女は煙など意に介さず、正確にイサミの足音と気配を察知して暗器を繰り出してくる。
キィィィンッ!
「くっ……強い……っ! 動きが無駄なさすぎますよ……!」
イサミの短剣と女の暗器が激しく火花を散らした。
華奢な見た目からは想像もつかない凄まじい腕力と速度。
イサミは防戦一方に追い込まれ、鋭い斬撃によって肩や腕の服が引き裂かれていった。
(くそっ。攻められると、どうしても僕の技術を使う暇がないですねっ……! だけど、どうしてこの母さんの短剣を……!?)
殺気立つ女の連撃に、イサミが覚悟を決めて隠しガジェットを起動しようとした――その時だった。
「――そこまでよ。街中で無礼な真似をする不審者さん」
不意に、路地裏の屋根の上から、氷のように透き通った気品ある声が降ってきた。
シュタッ。
舞い降りてきたのは、孤高の美貌を誇る――プリモ・カラーだった。
紫水晶のような瞳が冷徹なまでに鋭く刺さり、その手にはすでに研ぎ澄まされた細剣が美しく構えられている。
さらに、その横には手に大きな肉串を持った青髪の少女――ミラ・カラーが元気いっぱいに飛び出してきた。
「んあ? イサミじゃん! やっほ〜! と思ったら……なにこれ、襲撃!? イサミをいじめる奴はあたしが許さないんだからね〜っ!」
ミラが肉串を口に放り込み、両手に長弓を構える。
そしてプリモのすぐ後ろからは、深い蒼色の民族衣装を纏い、胸元で大事そうに長弓を抱えたミラの従妹――パントン・カラーがしとやかに歩み寄ってきた。
彼女の額に埋め込まれたクリスタルは、イサミと深く結ばれた証である鮮やかな『青色』に妖しく輝いている。
「……イサミ様……お怪我はございませんか……? パントン・カラー……あなたをお護りするために、お供いたします……っ」
「プリモさんに、ミラさん、パントンさんまで……! 助かりました、この女、タダ者じゃないんですよ!」
イサミが叫ぶと、プリモは静かに前へ踏み出し、冷ややかな視線を女へ向けた。
「ふふ、大丈夫よ、お調子者の道具屋さん。ここは私達に任せなさい」
プリモが可憐で大人びた微笑を浮かべ、細剣の先を女へと突きつける。
「パントン、ミラ。あの動き……ただの刺客ではないわね。手加減はいらないわよ」
「了解じゃん! 行くよ、イサミ……じゃなくて、不審者退治だ〜っ!」
ミラが豪快に叫び、突風のような連撃矢を解き放った。
パントンもまた、可憐な面持ちのまま静かに弓を引き絞り、正確無比な蒼い魔導矢を連続で射出した。
「……イサミ様を傷つける害虫……射殺します……っ」
ガガガガギィィィンッ!
カラーたちの怒涛の攻撃が女を襲う。
プリモによる寸分の狂いもない高速の突き、ミラの豪快な牽制、パントンの隙のない追撃。
しかし、女は尋常ではない身こなしで、暗器の柄と最小限の体捌きでそれらを紙一重で受け流してみせた。
「……ちっ、カラー族の邪魔が入るとはね」
女は舌打ちすると、カラーたちの隙を突くのではなく、あえて拘束を脱するように後方へ跳躍した。
「なっ…………!?」
ミラが目を丸くする。
女は屋根の上に着地すると、イサミを冷徹な瞳で見下ろした。
「道具屋イサミ……覚えているといいわ。あなたの『その短剣』と命……いずれ必ず回収させてもらうから」
それだけ言い残すと、女は夜の闇の中へまるで幻のように消え去っていった。
「ハァ……ハァ……逃げられましたか……」
イサミは膝をつき、大きく息を吐き出した。
冷や汗が全身から吹き出している。
「……ふぅ。街中での大立ち回りだなんて、すっかり目立ってしまいましたねぇ……」
イサミは破れた上着の袖口を気にしながら、深く溜め息を吐き出した。
街灯の光がうっすらと届く路地裏の深部。先ほどまで激しい火花と魔力の閃光が飛び交っていた場所には、崩れ落ちたレンガの破片と、女の放った鋭い暗器の擦り傷が痛々しく残されていた。
「イサミ様……お袖が破れて……っ。お痛むところはございませんか……?」
すぐ隣でパントンが、今にも泣き出しそうな表情でイサミの腕にそっと両手を添えていた。
長めの前髪の隙間から覗く大きな瞳は、イサミの身を案じる一途で純情な光に濡れている。
「あはは! 大丈夫ですよ、パントンさん。服が何枚か破れただけで、僕の頑丈な皮膚には掠り傷ひとつついていませんからね〜」
イサミはいつものように調子のいい笑みを浮かべ、軽く自分の腕を叩いて見せた。
だが、その強がりを誰よりも冷徹に、そして優しく見抜いている人物がすぐ目の前に立っていた。
「……無理をしなくてもいいのよ、イサミ」
静かで、どこまでも清らかな声。
プリモは紫水晶のような澄んだ瞳が、イサミの全身をじっくりと観察するように見つめる。
彼女は細くしなやかな指先を伸ばすと、イサミの胸元や首筋に残った微量な魔力の残滓をそっと撫で上げた。
大人の女性としての気品と包容力を漂わせるその仕草に、イサミは思わずドキリとして、照れくさそうに首をすくめた。
「毒の類や、追跡用の呪印は刻まれていないわね。……ふふ、一安心かしら」
「あ、ありがとうございます、プリモさん。本当に助かりましたよ。皆さんが通りかかってくださらなかったら、僕のこの男前な顔に一筋の傷がついているところでした」
「んあー? イサミ、何言っちゃってんのさ〜! 顔どころか命があやしかったじゃん!」
豪快な声を上げてイサミの背中をバンバンと叩いたのは、ミラの従妹であるパントンの引率役――ミラ・カラーだった。
両手に持っていた大きな肉串の最後の一切れを口に放り込み、豪快に咀嚼しながらニシシと悪戯っぽく笑っている。
「あの女、めちゃくちゃ強かったじゃん! あたしとパントンとプリモの連携を、最小限の動きでかわすなんてさ! なに者なの、一体!?」
ミラが豪快に腕を組むと、プリモは静かに微笑を引っ込め、路地裏の闇の中へと視線を向けた。
「ええ……ただの刺客や街のならず者ではないわね。武芸の型というものが存在しなかった……完璧に殺すためだけに無駄を削ぎ落とした、特異な技量を持つ者よ」
「……それで、イサミ様」
パントンがイサミの衣服の裾を、小さな手でギュッと握りしめた。
「あの女は……なぜ、イサミ様を襲ったのでしょうか……? なにか……なにか深いご事情があるのではございませんか……?」
三人の視線が、一斉にイサミへと注がれた。
プリモの澄んだ観察眼、ミラの無邪気ながらも勘の鋭い眼光、そしてパントンのイサミを心配する一途な瞳。
イサミは一瞬、言葉を詰まらせた。
彼女たちをこれ以上、面倒なトラブルや命の危険に巻き込みたくない――道具屋としての損得勘定と、柄にもない「気遣い」が頭をよぎったからだ。
しかし、目の前にいる三人は、自分を助けてくれた恩人であり、固い絆で結ばれた仲間でもあった。
隠し通すことなど、最初から不可能なのだ。
「……ハァ。隠し事はナシ、ですね」
イサミは観念したように頭をかくと、ゆっくりと息を吐き出した。
「事情を……お話しします。少し長くなりますが、聞いていただけますか?」
「ええ、もちろんよ。あなたの話なら、いくらでも聞くわ」
プリモが優しく頷き、ミラとパントンも静かにイサミの言葉を待つ姿勢をとった。
「……実は、僕たちが数日前に引き取った『のんちゃん』という女の子がいましてね。訳あってプリモさんは知ってるんですが……。元々はハニワどもに『女神様』として崇められていた、ごく普通の可憐な少女なんですけれど……」
イサミは言葉を選びながら、順を追って事態を説明し始めた。
ハニワたちがどこからか掘り起こし、のんに献上していたあの『剣』のこと。
それを狙って襲撃してきた、裏組織どものこと。
のんの大切なお供え物を取り戻すため、クラン『陽だまりの翼』のメンバーと共に隠し研究所へと乗り込んだものの、『ぶっ壊れ装飾剣』から放たれた極大の集束斬撃によって返り討ちに遭い、命からがら逃げ出してきたこと。
そして――今日のこの襲撃のこと。
「……あの女は、去り際にこう言ったんです。『あなたのその短剣と命を回収する』……とね」
イサミは腰元に下げられた、自分お手製の仕掛けを施した短剣へそっと手をやった。
「最初は、僕が邪魔だから殺しに来たのだと思っていました。ですが……あの女の最初のひと突きは、僕の心臓ではなく、明確にこの『短剣』の鞘を狙っていたんです。……そう、あいつらの目的は、僕の命だけではなく、僕が肌身離さず持っているこの短剣そのものだったんですよ」
「……イサミの……短剣……?」
ミラが不思議そうに首を傾げた。
「イサミの短剣ってさ、イサミが実家を出て旅立つ時におふくろさんからもらったやつでしょ? なんで裏組織の殺し屋がそんなものを欲しがるワケ?」
「さあねぇ……僕にもさっぱりです。僕が実家を旅立つ時、母から手渡された、一見すればどこにでもあるような古い短剣ですよ? ……元々の素材に、あの『ぶっ壊れ性能の装飾剣』を持つ連中が狙うような秘密があるだなんて……」
イサミが首をひねりながら苦笑いを浮かべた、その時だった。
「……ちょっと、見せて頂戴」
静かな、しかし異様なほど凛とした声が路地に響いた。
声の主は、プリモだった。
彼女の紫水晶のような瞳が、冷徹なまでに鋭い観察眼へと変貌していた。
プリモは静かな足取りでイサミへ近づくと、イサミの腰元にある短剣へとそっと手を伸ばした。
イサミは黙って、短剣を鞘ごとベルトから外し、両手でプリモへと差し出した。
プリモは受け取った短剣を、細くしなやかな指先でなぞる。
金属の冷たさ、柄の使い込まれた質感、刃の厚み、そして内に秘められた微かな魔力の波動――。
コンマ一ミリの誤差すら見逃さないその指先が、短剣の鞘の根元に触れた瞬間、プリモの美しい眉がわずかに寄った。
「……プリモさん?」
イサミが尋ねる。
プリモはすぐには答えず、ハーブティーの湯気越しに物事の真理を見通すかのような、深く静かな瞳で短剣を見つめ続けていた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「………以前からずっと感じていたのよ」
「感じていた……? 僕の短剣に、ですか?」
「ええ。あなたがこの短剣を腰に下げて歩いている時……『嫌』で『気持ち悪い』と言っていたでしょう。……私の感覚がね」
プリモの言葉に、ミラとパントンもハッとした表情を浮かべた。
「えっ……!? プリモ、本当!? あたし、全然気づかなかったんだけど……!」
「……私もです……。イサミ様のお側におります時、ただ愛おしい気持ちばかりで……っ」
「……私だけなのかしらね」
プリモは可憐で大人びたクスリという微笑を浮かべ、再び視線を短剣へと戻した。
「あの『ハニーの元女神』のお供え物の剣も……鞘から抜くと、私は猛烈な生理的嫌悪感を持っていたわね……」
「ええ……プリモさんが、露骨に嫌がっていたあの奇妙な剣ですね」
「そう。あの剣が発する『嫌悪感の波動』と……お母様から受け継いだこの短剣の奥底に微かに眠っている『波長』が、驚くほどよく似ているのよ」
「――なっ……!?」
イサミの目が見開かれた。
「僕の短剣と……あのお供え物の剣の波長が似ている……!? そんな馬鹿な! この短剣、ただのお古ですよ!?」
「ええ、だからこそよ、イサミ」
プリモは短剣を優しくイサミの手元へと返し、穏やかな目遣いでイサミを見つめた。
「あなたのお母様が持っていたその古い短剣……あるいは、その刃を鍛え上げた触媒の金属。……それが、あの装飾剣と同じ『古代の遺跡』、あるいは『同じ制作者』の手によって生み出された代物だったとしたら……?」
「……あ……!」
イサミの頭の中で、バラバラだったピースが一瞬で合致した。
(そうか……! あの装飾剣は、未完成か、あるいは制御パーツが足りていない状態だった! あの連中があの剣を完全に起動させるため、あるいは真の威力を引き出すために必要な『同質の触媒』……それが、僕の母さんが持っていたこの短剣に使われている金属だったとしたら……!?)
「ハハ……冗談でしょう……母さんから貰った大事なお守りが、奴らの超兵器の鍵だったなんて……!」
イサミは額を押さえ、乾いた笑いを漏らした。
なんという皮肉、なんという因果だろうか。
母の深い愛情の詰まった大切な形見を、あんな血生臭い連中の兵器のパーツになど絶対にさせるわけにはいかない。
「そういうことだったのね……」
ミラが拳を手のひらに打ち付けた。
「あの女は、イサミがおふくろさんから貰った大事な短剣を奪って、そのぶっ壊れ剣を完璧に完成させようとしてるんだ! だからイサミを狙ってきたんだね!」
「……許せません……っ」
パントンの声が、低く、暗く路地裏に落ちた。
彼女の瞳からスーッと光が消え、額の『青色クリスタル』が怪しく、禍々しいほどの怒りの光を放ち始める。
「イサミ様が大切なお母様から受け継いだ大切な短剣を奪おうとし……さらにはイサミ様の命まで脅かそうとするなど……っ。あのおぞましい害虫ども……この世から一匹残らず……射殺し……焼き払い……全滅させなければならないのです……っ!!」
「パントンさん、パントンさん! 落ち着いてください、相手はハニーじゃなくて裏組織ですから!」
イサミが慌てて手を伸ばして宥めると、パントンはハッと我に返り、頬を赤らめて長めの前髪の隙間から申し訳なさそうにイサミを見つめた。
「あ……申し訳ございません、イサミ様……。私としたことが、つい激昂してしまい……っ」
「いいんですよ、僕のために怒ってくれたのは嬉しいですからね」
イサミが優しく微笑むと、パントンは愛おしそうにイサミの手に自分の手を重ね合わせた。
そして、ミラが勢いよく一歩踏み出した。
「決まりだね! イサミ!」
「はい……? 何が決まったんですか、ミラさん?」
「あたしたちも行くよ! その『隠し研究所』へさ!」
ミラの力強い言葉に、イサミは思わず目を丸くした。
「ええっ!? い、いやいや! ミラさん、これはクランの問題ですし、何より相手はあのぶっ壊れ装飾剣を持つ化け物ですよ!? 危険すぎます!」
「何言っちゃってんのさ〜! 仲間……ううん、熱き『ハニー撲滅同盟』の同志が困ってんのに、あたしたちが見捨てるわけないじゃん!」
ミラは豪快に胸を張り、ニシシと笑った。
「それにさ、おふくろさんとの思い出が詰まった大事な短剣を狙う奴らなんて、絶対におしおきしなきゃダメでしょ! あたしのこの弓で、研究所ごとハチの巣にしてやるんだから!」
「ミラ……相変わらず勢いだけは一人前ね」
プリモがクスクスと可憐なクスリという微笑を浮かべながら、イサミの前へと歩み寄ってきた。
「…けど、ミラの言う通りよ、イサミ」
プリモは細く美しい指先を伸ばし、イサミの胸元にそっと触れた。
その瞳には、大人の女性としての包容力と、戦士としての気高くストイックな凛々しさが宿っている。
「あなたを一人でそんな危険な場所へ行かせるわけにはいかないわ。その研究所へ殴り込む時は、私達も一緒に行くわ。あなたのお母様との大切なお守りも、あなたも、あなた自身の命も……私たちが護ってあげます」
「プリモさん……」
「……私はただ、あなたのこだわりと大切なものを応援したいだけなのだから。……ねえ、約束しなさい、イサミ。絶対に無茶はしないと」
プリモの穏やかで温かい目遣いに包み込まれ、イサミは不覚にも胸が熱くなり、照れくさそうに頭をかいた。
「……参りましたね。プリモさんにそう言われてしまっては、お断りする理由がなくなってしまいますよ」
「……イサミ様」
パントンが、イサミの服の袖をギュッと強く引き寄せた。
彼女の青色クリスタルが、一途な愛の光を放っている。
「私も……お供いたします……っ。イサミ様の盾となり、矢となり……あなたとお母様の大切なお守りをお護りしてみせます……っ!」
「パントンさん……ありがとうございます。心強いですよ」
三人の強力な助っ人――信頼できるカラーたちの同行決定。
一人で抱え込もうとしていた重圧が、一気に軽くなっていくのをイサミは実感していた。
「よしっ! そうと決まれば、さっそくクランのホームへ行って、みんなで作戦会議だね〜っ!」
ミラが拳を突き上げる。
「ええ、行きましょう。エリスお姉さんたちも、首を長くして待っているはずですからね」
イサミは腰元の短剣に一度そっと手を触れ、母の温もりとカラーたちの温かい絆を感じながら、夜の帳が完全に降りたコパンドンCITYの街並みを力強く歩み出したのだった。