――光と闇が渦を巻く、狂乱の次元断層。
イサミとプリモの身体を包み込んだのは、物理的な衝撃というよりも、存在そのものを根底から揺さぶるような圧倒的な重力剥奪感だった。
「……っ、イサミ……っ!!」
「離すか……っ! 離すわけ、ないでしょう……っ!!」
暴走した魔法陣の中心で、青白い閃光を放つ短剣を握りしめたまま、イサミはプリモの手首を死に物狂いで掴み続けていた。
次元の亀裂から吹き荒れる空間毒の嵐が二人を苛み、仲間たちの叫び声――クロエの大声を上げる姿や、涙を浮かべるココの顔――が、まるで水面に落ちた波紋のように遠く、歪んで消えていく。
次の瞬間、視界を焼き尽くすほどの強烈な眩術(フラッシュ)が走り、二人の意識は浮遊感の中へと没入した。
◇
「……くっ……! はぁ……はぁ……っ!」
冷たい石の感触が、頬を通じて伝わってきた。
イサミは荒い息を吐き出しながら、弾かれたように跳ね起きた。
全身の関節が軋み、多機能ベルトの試薬瓶がカチャカチャと悲鳴のような音を立てる。
すぐに右手を確認する――指の骨が白くなるほど強く握りしめられていたのは、冷や汗に濡れたプリモの細い手首だった。
「……プリモさん……! プリモさん、大丈夫ですか!?」
「……んっ……ぅ……。ええ……なんとか……無事よ……」
イサミの呼びかけに、倒れ伏していたプリモがゆっくりと体を起こした。
可憐な紫水晶の瞳が不確かに揺れ、乱れた銀髪の隙間から、困惑と警戒のの色を覗かせている。
彼女は真っ先にイサミの無事を確認すると、胸を撫で下ろすように細い息を吐き出した。
「よかった……あなたに怪我はないわね、イサミ」
「ええ、なんとか生きてますよ……。ですが、ここは一体……?」
イサミは立ち上がり、周囲へ視線を巡らせた。
そこは、先ほどまでいた湿っぽく禍々しい隠し施設の地下大ホールではなかった。
天井も壁も存在しない。
足元には、まるで滑らかな鏡のように漆黒の澄んだ水面(あるいはそう見える結晶床)がどこまでも広がり、上空には蒼白く輝く星雲のような微光がゆっくりと渦を巻いていた。
そして、その果てしない虚無の空間の中に――どこまでも真っ直ぐに伸びる、一本の「光の回廊(一本道)」だけが続いていた。
「なに……ここ……? 空間転移の事故で、別の階層に落ちたわけではなさそうね……」
プリモが立ち上がり、細剣の柄に手を置きながら周囲を鋭く見回す。
「ええ。僕の探知も、方位磁針も完全に狂っています。それどころか……空気中の魔力の質が、現世のそれとは根底から違いますねぇ。まるで……誰かのナニカの中に直接足を踏み入れちまったような感覚です」
イサミは普段の笑みを浮かべようとしたが、その表情には隠しきれない緊張が滲んでいた。
「……ですが、逃げ道はあの一本道しかなさそうですね。後ろは……底なしの虚無です」
振り返ると、二人が倒れていた場所のすぐ後ろは、濃密な漆黒の霧が立ち込める断崖絶壁となっていた。
戻る道など最初から存在しないのだ。
「……行くしかないわね」
プリモが可憐な側顔を引き締め、イサミの手を握り直した。
「ええ。とにかく進んでみましょう。……何か出口の手がかりがあるはずです」
二人は息を整え、鏡のような床を踏みしめながら、一本道の光の回廊へと歩みを進めた。
周囲の静寂は凄絶だった。
カツン、カツンと二人の足音だけが、永遠のような空間に静かに響き渡る。
歩を進めるにつれ、イサミの腰にある『短剣』と、プリモの腰にある『細剣』が、まるで共鳴するように微かな体温を持ち始めていた。
「……ん?」
イサミが立ち止まった。
回廊の数十メートル先、何もない空間に――ポツンと、透きとおるような球体の「光」が浮遊していたのだ。
それはまるで、記憶の欠片を閉じ込めたシャボン玉のように、淡く儚い閃光を放っている。
「光……? 街の魔導灯とは違いますね」
「待って、イサミ。近づくのは危険かも……」
プリモが制しようとした、その瞬間だった。
ふっと二人がその光の側を通り抜けた瞬間、球体が弾け、膨大な「情報」と「情景」が、二人の意識へ直接流れ込んできたのだ!
『――――――――』
「っ!?」
視界が、反転する。
周囲の虚無の空間が掻き消え、二人の目の前に「鮮明なイメージ」が立体映像のように展開された。
♢
そこは、陽光が穏やかに差し込む豊かな森の木漏れ日の中だった。
そこに立っていたのは――どこか幼さの残る、爽やかな雰囲気を纏った【緑髪の少年】。
そして、その隣で元気いっぱいに太陽のような笑顔を弾けさせている【オレンジ髪の少女】。
(……誰……? 僕らの知り合いじゃ……ないですよね……?)
イサミは声を出そうとしたが、言葉は声にならなかった。
まるで自分たちが「透明な観客」として、過去の出来事を追体験させられているかのような不思議な感覚。
光景の中の二人は、非常に親しげに笑い合っていた。
そして――その二人の前に、ゆったりとした仕草で足を踏み入れる「もう一人の人物」がいた。
その人物の姿は光に霞んでハッキリとは見えない。
だが、佇まい、気品、そして背格好――。
(え……? これって……)
イサミは驚愕して隣のプリモを見た。
その光景の中で、光に包まれた女性は、緑髪の少年とオレンジ髪の少女としばらくの時間を共に過ごしていた。
時に優しく微笑み、時に穏やかに言葉を交わす。
そして……彼女は緑髪の少年に寄り添い、数日間にわたって熱心に「剣の手ほどき」を行っていた。
少年の筋筋は決して太くはないが、ひたむきな瞳で剣を振り下ろす。
女性は彼の姿勢を優しく正し、剣の理を説いていた。
やがて――別れの時が訪れた。
旅立つ間際、光の女性は腰元から【一振りの美しい剣】を引き抜き、名残惜しそうに、けれど深い慈愛を込めて、緑髪の少年へと手渡したのだ。
少年は受け取った剣を抱きしめ、オレンジ髪の少女とともに、眩しい光の向こうへ――。
♢
パァン……!
光景が弾け、二人は再び、静まり返った光の回廊へと引き戻された。
「……ハッ……! はぁ……はぁ……っ!」
イサミは息を荒らげ、自らの胸を押さえた。
今見せられたものは、単なる幻影ではない。
血の通った、誰かの紛れもない「温かい記憶」の断片だった。
「な……なに……今の……!?」
イサミは困惑を隠せないまま、自身の短剣を見つめ、それから隣のプリモへと視線を向けた。
「今のは……誰かの過去の記憶……? 魔法陣の暴走で、記憶の残滓が漂う空間に飛ばされたということですか……!?」
イサミが尋ねる。
だが――プリモからの返事はすぐには返ってこなかった。
「……プリモさん……?」
プリモは立ち尽くしていた。
その紫水晶の瞳は大きく見開かれ、可憐な唇が微かに震えている。
顔色は蒼白で、何か決定的な事実に打ちのめされたかのように、ただ一点を見つめていた。
「……プリモさん? どうかしましたか……!?」
イサミが心配して覗き込むと、プリモはハッと正気に戻ったように肩を跳ねさせた。
「……っ! い、いえ……なんでもないわ、イサミ」
プリモは視線を泳がせ、何かを言い淀むように言葉を濁した。
その手が、イサミの手をギュッと強く握り返してくる。その握力には、隠しきれない焦燥と揺れ動く感情が籠もっていた。
(……プリモさん……? 今の光景……もしかして……)
イサミはそれ以上追及しなかった。
街のちゃっかり美少年商人として鍛えた観察眼は、プリモのその態度が「単なる困惑」ではなく、「記憶に触れてしまった衝撃」であることを瞬時に察していたからだ。
「……不安なら、僕が前を歩きますよ。行きましょう、プリモさん」
「……ええ。ありがとう、イサミ……。行きましょう」
プリモは少しだけ弱々しく微笑み、気丈に頷いた。
二人は繋いだ手を離さぬまま、さらに深く、未知なる光の回廊の奥へと歩みを進めていく。
遠くで、また新たな「光の球体」が、怪しく輝き始めていた――。
虚無の闇に浮かぶ一本の光の回廊。
一歩踏み出すたびに、足元から波紋のように青白い光が広がり、どこからともなく低い鳴動音が空間を揺らす。
イサミとプリモは、互いの体温を伝えるように深く手を繋ぎ直していた。
先ほど見た『回想』…『記憶』…。
――緑髪の少年とオレンジ髪の少女、そして彼に優しく剣を教え、一振りの剣を手渡した姿。
その記憶が残した微かな温もりの余韻は、二人の中に複雑で重い沈黙をもたらしていた。
イサミは横目でチラリとプリモの横顔を窺う。
普段は冷静沈着で、可憐な佇まいの中に力強い信念を秘めている彼女の紫水晶の瞳が、今は底知れぬ困惑と混乱の色彩に揺れていた。
彼女が何かを隠しているわけではない。
彼女自身すら、自分の中に芽生えた猛烈な違和感の正体を掴みかねているのだと、繋いだ手から伝わってくる微かな震えが物語っていた。
「……プリモさん」
「なにかしら、イサミ?」
イサミが静かに声をかけると、プリモはハッとしたように表情を作り直した。
健気に強がろうとするその仕草に、イサミの胸が少しだけ痛む。
「無理に話さなくても大丈夫ですからね。ただ……なぜか僕の短剣と、プリモさんの細剣が、この場所に引き寄せられるように共鳴しているのは確かです。ここに残されている記憶は、きっと僕たち……いえ、プリモさんにとって決して他人事ではない何かだと思います」
「……ええ。分かっているわ。ただ……頭の中に、『感情』が流れ込んできて……少し、混乱しているだけよ」
プリモは可憐な唇を噛み締め、光の回廊の先を見つめた。
「とにかく、前へ進みましょう。立ち止まっていても、何も変わらないもの」
「はいっ、行きましょう!」
二人は再び歩みを進めた。
周りの虚無はますます深まり、静寂が二人の足音と息遣いだけを増幅させる。
まるで世界の果て、あるいはあらゆる世界の記憶が集積する「記憶の墓場」を歩いているかのような錯覚に陥る。
どれほど歩いたろうか。数分とも、数時間とも感じられる時間の感覚が狂い始めたその時――。
『――グ……オォォォン……――』
空間の奥深くから、地鳴りのような、あるいは大歓声が遠くから響いてくるような、不気味な残響が届いた。
「っ!? この音は……!」
イサミが短剣の柄に手をかけ、即座に警戒体勢を取る。
前方から、先ほどを遥かに凌ぐ大きさと輝きを放つ、巨大な光の球体がゆっくりと浮上してきた。
それは淡い翡翠色と血のような赤色が入り混じった、禍々しくもどこか悲壮感を帯びた光を放っていた。
「イサミ、気をつけて! また光が……!」
プリモが叫ぶのと同時に、光の球体が急激に膨れ上がり、周囲の虚無の空間を呑み込んでいく!
「くっ……! プリモさん、手を離さないで……っ!!」
「イサミ――っ!!」
光が二人の視界を完全に白く染め上げた。
◇
凄絶な歓声と悲鳴が、耳朶を破らんばかりに響き渡っていた。
むっとするような熱気、血と汗の臭い、叩きつけられる歓声の地鳴り。
二人の視界が開けた場所は――古代の巨石で組み上げられた、血と砂に塗れた【巨大なコロシアム闘技場】の中心だった。
観客席を埋め尽くす無数の影たちが、興奮の坩堝の中で叫び声を上げている。
だが、イサミとプリモの意識は、観客席などには見向きもできなかった。
自分たちの「眼」の前――目と鼻の先で、死闘が繰り広げられていたからだ。
「ハァ……ッ! ハァ……ッ! ぐっ……あぁぁぁっ!!」
血を吐き出しながら、必死の覚悟で剣を構え直す一人の青年。
その頭髪は――先ほどの『記憶』で見かけた、あの緑髪の少年が、大人へと成長した姿そのものだった。
顔立ちには幼さが消え、数々の修羅場を潜り抜けてきた厳しさと覚悟が刻まれている。
しかし、その瞳に宿る澄んだ光だけは、かつて森の中で剣を手ほどきされていた少年の頃のままだった。
その【緑髪の青年】は、ボロボロになりながらも、一振りの剣を両手で強く握りしめている。
――そう、それこそが『記憶』で、手渡された、まさにあのプレゼントの剣だった。
(あの時の男の子……!? こんなに大きくなって……それに、どうして戦っているんだ……!?)
イサミの意識が叫ぶ。
そして、イサミとプリモの「視点」は――なんと、その緑髪の青年と【対峙している人物】の視点そのものだった。
手に握られているのは、可憐でありながら鋭利な美しさを誇る細剣。
対峙する青年の必死の刃を、冷徹なまでに無駄のない動きで受け流し、弾き返し、追い詰めていく。
(……待て……この立ち振る舞い……この剣筋……!?)
イサミは息を呑んだ。
いま自分たちが追体験している「視点の主」の体の使い方、間合いの取り方、呼吸の置き方――それは、イサミが幾度となく隣で見続けてきた、プリモの剣技そのものだったのだ。
緑髪の青年が、乾坤一擲の踏み込みで剣を振り下ろす。
「うおおおぉぉぉぉ――っ!!」
青年の叫びには、哀しみ、絶望、そして諦めきれない切なる願いが込められていた。
だが、視点の主は容赦がなかった。
鮮やかな弧を描いて翻った細剣が、青年の剣の腹を正確に捉え、弾き飛ばす。
カリーン……っ!
高らかな金属音とともに、プレゼントされた想い出の剣が砂煙の上がる石畳へと突き刺さった。
「ぐ……あ……っ!?」
体制を崩した緑髪の青年の胸元へ、視点の主の細剣の先が凄まじい速度で突き出される。
容赦のない一撃。青年の防具を貫き、その身体が宙を舞って絶叫とともに石畳へと崩れ落ちた。
どさっ……!!
「……ガハッ……ッ!!」
鮮血が砂を赤く染め上げる。
緑髪の青年は力なく伏せ、ぴくりとも動かなくなった。
闘技場全体に、地鳴りのような歓声と叫びが巻き起こる。
だが――。
観客たちの狂狂とした熱狂とは裏腹に、視点の主の胸中に広がったのは、勝利の喜びなどでは断じてなかった。
『――――――――――――』
ズクン……ッ!!
イサミとプリモの意識の中に、直接「それ」が流れ込んできた。
言葉にすることすらできない、複雑で、あまりにも残酷な心境。
本当は、倒したくなどなかった。
なぜ、このような場所で、自分が刃を授けた大切な存在と、命を削り合わなければならないのか。
憎しみでもなく、悪意でもない。ただ抗えぬ目的と運命(シナリオ)に縛られ、自らの手で大切なものを打ち砕いてしまったという、胸を刺し穿つような痛切な罪悪感と悲哀。
冷酷に冷え切った剣を握る手とは裏腹に、心の内側では血の涙が流れていた。
激しい感情の濁流が、二人の精神を激しく揺さぶる。
♢
パァァァン……っ!!
鏡が割れるような鋭い音とともに、闘技場の情景が途切れ、回想が終わりを迎えた。
「……ハッ……! ぁ……っ! ぅぐ……っ!!」
光の回廊に戻ってきた瞬間、プリモはその場に膝をつきかけた。
胸を強く押さえ、激しい吐き気に襲われたように肩を激しく上下させている。
その額からは大量の冷や汗が吹き出し、紫水晶の瞳は焦点すら合っていない。
「プリモさんっ!!」
イサミは瞬時に体を沈め、倒れそうになるプリモの身体を支えた。
プリモの全身は、まるで氷の結晶に閉じ込められたかのように冷たくなっていた。
「大丈夫ですか!? 呼吸をして……ゆっくり、息を吸ってください……!」
イサミは必死に声をかけ、彼女の手を両手で包み込むように強く握りしめた。
プリモの唇が、微かに動く。
うわ言のように、絶望と懐かしさが混ざり合った掠れた声が、彼女の口から零れ落ちた。
「………………ナク……ト。………羽澄………。」
「……え……?」
イサミは耳を疑った。
プリモの口からは、聞き覚えのない名前。
いや、どこか昔話の登場人物のような、だがプリモの口から発せられるにはあまりにも切実で重い響きを持った二つの名。
『ナクト』……。
『羽澄』……。
プリモ自身、自分が何を呟いたのか理解していないような、遠い目をして虚空を見つめている。
その表情には、普段の気丈な「冒険者プリモ」の面影はなく、まるで深い迷宮の底で置き去りにされた幼子のような、悲哀と脆さが剥き出しになっていた。
イサミの胸に、激しい衝動が突き上げる。
( あの緑髪の青年が『ナクト』なのか? それとも『羽澄』という人はオレンジ髪の人……? プリモさんは一体、昔何があったんだ……!?)
聞きたい質問は山ほどあった。
この場所は何なのか、今見た回想の主は本当にプリモなのか、なぜ彼女がそんな過去を背負っているのか――。
だが、イサミは口を開きかけ、そして……ぎゅっと唇を結んだ。
(駄目だ……。いま僕が野暮な問い詰めをしてどうする。一番混乱して、一番傷ついているのは……プリモさん自身なんだ)
イサミは何も追及しないことを決めた。
街のちゃっかり美少年商人として、無数の人間の感情を見てきたイサミだからこそ分かる。
言葉による踏み込みが、時に刃となって相手を追い詰めることを。
イサミは口を出さず、ただ静かに、温かい眼差しでプリモをじっと見つめ続けた。
自分がここにいること。
決して一人にはさせないこと。
その意思だけを、握りしめた手に込めて伝える。
「………………」
プリモはしばらく荒い息をついていたが、イサミの視線と、彼の手から伝わる不器用なほどの温もりに気づき、ゆっくりと視線を落とした。
自分を見つめるイサミの瞳には、疑念も、恐怖も、好奇心すらもなかった。
ただただ、純粋な「心配」と「慈愛」だけが宿っていた。
プリモは深く息を吐き出し、胸に手を当てて乱れた感情を押し殺すと、儚くも強い笑みを唇に浮かべた。
『大丈夫。…進みましょう。』
そう言うと、プリモは立ち上がろうとした。
しかし――イサミは見逃さなかった。
強がる言葉とは裏腹に、彼女の細い手が、軽くだがはっきりと震えていることを。
「……無理は、禁止ですよ」
イサミはつぶやくと、彼女の震える手根をぎゅっと強く包み込むように握り直した。
「……イサミ……?」
「僕がついています。何が出てきても、僕が隣にいますから。……行きましょう」
イサミは前を向き、その軽く震えるプリモの手を引くようにして、再び光の回廊を歩き出した。
プリモは一瞬目を見張り、それからイサミの背中を見つめながら、小声で答えた。
「……ええ。ありがとう……イサミ」
二人の足音が、再び虚無の空間に響き始める。
繋がれた手と手を通じて、言葉にならない想いと絆が、静かに、確実に深まっていくのを二人は感じていた。