静寂が支配する光の回廊。
歩を進めるたびに、足元から揺らめく青白い波紋は、どこか深海の底で揺らめく燐光のような色合いを帯び始めていた。
イサミとプリモの足音が、遠くで跳ね返り、重く沈んだ響きとなって二人の耳に届く。
繋いだ手からは、互いの脈拍がはっきりと伝わっていた。
イサミの不器用で真っ直ぐな体温と、プリモの少し低めで繊細な体温。
先ほどの『記憶』――緑髪の青年(ナクト)との凄惨な死闘と、勝利の陰に隠された血の滲むような哀しみ――その余韻は未だ二人の胸を重く締め付けていたが、繋がれた手のぬくもりだけが、唯一の確かな現実として二人を繋ぎ止めていた。
ふと、前方の視界が変容し始める。
それまでの透明な虚無の闇とは異なり、空間のあちこちから、まるで夜空のホタルや深海の意発光生物のように、無数の小さな「光の粒」が湧き上がり、集まり始めたのだ。
光の粒は互いに引き寄せ合い、回転し、まるで二人を誘うかのように幻想的な螺旋を描いていく。
だが、その美しさとは裏腹に、集まってくる光からは、息が詰まるほどの圧倒的な「決意」と「甘く切ない絶望」の気配が漂っていた。
イサミは足をとめ、繋いだ手に少しだけ力を込めた。
横に立つプリモの側顔を覗き込む。
彼女の紫水晶の瞳は、目の前で渦巻く光の群れを凝視していた。
その瞳の奥には、恐怖と、避けられない運命を前にした諦観のような色が混ざり合っている。
イサミは静かに口を開いた。
「……怖いですか? プリモさん」
その問いかけは、街のちゃっかり商人としての計算高さを完全に削ぎ落とした、あまりにも優しく、素直な声だった。
プリモは一瞬、ハッとしたように睫毛を揺らした。
そして、目の前で美しくも禍々しく渦巻く光を見つめたまま、可憐な唇を微かに震わせて答えた。
「………少し。…いいえ。怖くないわ」
「……いいえ」と言い直したその声には、自分に言い聞かせるような強い意志と、イサミが隣にいてくれることへの確かな信頼が宿っていた。
「大丈夫です。何があっても、僕が手を離しませんから」
「……ええ。頼りにしているわ、イサミ」
プリモが言い終わるか終わらないかのうちに、集まった光の粒が一気に弾け、二人を呑み込んだ――!
◇
ゴォォォォォォ……という、重厚で途方もない水圧の音が耳奥で鳴り響いていた。
視界を満たしたのは、果てしない暗黒。
まるで太陽の光など決して届かない、超高圧の『深海』の底から、ゆっくりと浮上していくかのような、息苦しく浮遊感のある感覚。
身体が重く、けれど魂だけがどこかへ引き上げられていくような不思議な感覚だった。
(くっ……苦しい……!? 水の中……ううん、これは……濃密な『魔力』の海……!?)
イサミの意識が揺れる。
やがて、暗黒の視界が徐々に開けていき、青白く光る巨大な「結界」の内部のような場所へと空間が変化した。
周囲には、世界を崩壊させかねないほどの途方もない魔力の奔流が渦巻いている。
そして――その圧倒的な光の渦の中心に、一人の人物が立っていた。
【緑髪の青年】――ナクト。
先ほどの『記憶』のコロシアムでの死闘とは異なり、彼の表情には怒りや闘志ではなく、痛切なまでの覚悟と哀愁が満ちていた。
そして、イサミとプリモの「視点」は――またしても、その青年の目の前に立つ『一人の女性』の視点だった。
(……この視点は……やっぱり……!)
視点の主の胸中に、激しい感情の波が吹き荒れる。
ーーーーもう、残された選択肢はない。
崩壊を止めるため、大切な者たちを守るため――『〇〇』を撃破・封印する術は、他に全て潰されてしまった。
残された唯一の方法。
それは、この女性自身が持てる全ての魔力……。カラーの額のクリスタルを触媒として「すべてを終わらせる」ための犠牲となること。
(……これで、いい。これで……ナクトも、羽澄も……生き残れる……)
死への恐怖がないと言えば嘘になる。
だがそれ以上に、目の前に立つ緑髪の青年への、言葉では言い表せないほど深く、切ない愛おしさが胸を締め付けていた。
自分の命が、間もなく終わりを迎えること。
この世界から自分の存在が消え去り、もう二度と彼と言葉を交わすことも、笑い合うこともできなくなること。
そんな果てしない孤独と絶望の直前で、女性の心に溢れ出したのは、純粋で、あまりにも生々しい『ひとつの願い』だった。
(……最後に……最後に一度だけ……)
冷たい犠牲の決意の裏側にある、ひとりの女性としての儚い欲望。
女性は、震える手で緑髪の青年(ナクト)の胸元へ縋り付くように手を伸ばした。
そして――涙に濡れた瞳で青年を見つめ、声にはならない声で、痛切に乞うたのだ。
――自分を抱いて欲しい、と。
クリスタルを付与するために、精を放たれる必要がある。
だが…。
命が潰えるその前に、彼の体温を、鼓動を、愛されたという証を、その魂に刻み込んでほしいと――。
青年の揺れる瞳。
戸惑い、苦しみ、そして決意を固めて女性を強く抱きしめる温かい腕――。
言葉を超えた狂おしいほどの愛と絶望、肌の触れ合う熱量、そして生命の最期に交わされる密やかな密事の気配が、奔流となってイサミとプリモの意識へ直接流れ込んできた!!
(――――――――っっっっ!?!?!?)
◇
「……っハァ―――――っっっっ!!!」
強烈な光の収束とともに、回想が唐突に途切れた。
二人は虚無の光の回廊へと弾き出された。
「はぁっ……! はぁ……っ! くっ……っ!」
イサミは顔を真っ赤に染め上げ、心臓が破裂せんばかりの勢いで脈打つのを感じていた。
あまりにも生々しく、あまりにも切なく甘美な『記憶』の奔流。
単なる映像を見るのとは訳が違う。
まるで自分自身がその場にいて、その濃厚な情景と感情を直接体験してしまったかのような、強烈すぎる臨場感だった。
(な……なななな何なんだ今のはぁぁぁぁぁっ!?)
イサミの脳内は大パニックを起こしていた。
ニックのあまり、隣に立つプリモの顔を見ることができない。
汗が吹き出し、耳の先端まで真っ赤に熟したトマトのように火照っている。
(あ、あんなの……! あんな濃密で切ない愛の記憶……! プリモさんの過去の記憶だとしたら……僕、見ちゃいけないものを見ちゃったんじゃないのか……っ!?)
必死に動揺を隠そうと、イサミは口角を歪にひくつかせた。
動揺のあまり、自分がどんな表情をしているかも客観視できていない。
緊張と照れ隠しとパニックが混ざり合い、イサミの口角は少しだけ引きつるように上へとあがってしまっていた。
だが――。
その「少しだけ上がった口角」を、隣のプリモは見逃さなかった。
「………………」
プリモもまた、顔を林檎のように真っ赤に染めていた。
普段の冷静沈着な立ち振る舞いは完全に瓦解し、紫水晶の瞳は潤み、激しい恥ずかしさと混乱で肩を震わせている。
そんな中で、隣のイサミを見たプリモ。
イサミが何やら妙な顔をして、口角をニヤリ(とプリモには見えた)と上げている姿が目に入ったのだ。
プリモの眉が、ピクッと跳ねた。
恥ずかしさが限界突破し、それが一気に甘い怒りへと変換される。
『…………えっち。』
可憐で、けれど地低く響くような、ジト目の抗議。
そう呟くやいなや、プリモはイサミと繋いでいた手を――ギュギギギギッ!! と力任せに力一杯握りつぶした!
「いてて、プリモさん! 痛いですっ! 痛いですってばぁぁぁっ!」
イサミは涙目になって悲鳴を上げた。
華奢に見えて、プリモは一流の剣士である。
その握力で手骨を締め上げられれば、商人育ちのイサミの腕など簡単に悲鳴を上げる。
「………知らないっ」
プリモはぷいっと顔を背け、赤くなった耳を隠すように横髪を払った。
「痛いですって! 冗談抜きで骨が折れます! なんで怒ってるんですか僕!? 僕、何もしてないですよ!?」
「……べつに。イサミが変な顔をしてたからよ。……デリカシーがないわ」
「変な顔って、あれはパニックになってただけですってば! 誤解です! 完全に誤解です!!」
イサミが手をバタバタさせて主張するが、プリモは繋いだ手を緩めようとはしなかった。
痛いほど強く握りしめたまま、絶対に離そうとしない。
軽口を交わし、照れ隠しの痛みに悶絶するイサミ。
だが――そんな会話とは裏腹に、プリモの胸の内は、底知れぬ複雑な思考の渦に呑み込まれていた。
(…………そう。…これは、多分。…私の記憶。……ナクトたちが話してくれなかった。私の。)
プリモは、胸に置いた手で自らの鼓動を確かめる。
ナクト。羽澄。
今世の自分が冒険者として生きる中で、ずっと大切にしてきた仲間たちの名前。
けれど、彼らと一緒に過ごす中で、時折感じていた「説明のつかない違和感」。
なぜ彼らは、自分に対してどこか過保護で、どこか申し訳なさそうな、哀しい眼差しを向けることがあったのか。
なぜ自分の過去について尋ねると、彼らは言葉を濁し、「レメディアのためだから」と詳細を教えてくれなかったのか。
(あの二人は……知っていたんだわ。……私が、かつて彼らのために命を捨てようとしたことも……あの最後の夜のことも……全部……)
失われていた過去のピースが、回想を経るごとに恐ろしい精度で嵌まっていく。
そして何より、いま自分の隣にいて、痛そうに手をさすりながらも自分を心配そうに見つめてくれる少年――イサミ。
(イサミ……。私は、かつて別の誰かをあれほど深く愛していた……? ならば、今の私のこの気持ちは……イサミへのこの想いは、一体何なの……?)
混乱と、切なさと、イサミへの愛おしさが混ざり合い、プリモはさらに強くイサミの手を握りしめたのだった。
虚無の光の回廊は、さらに深く、暗い領域へと落ち込んでいくようだった。
先ほどの『記憶』――深海のような魔力の渦の中で繰り広げられた、あまりにも切なく甘美な最後の夜の記憶。
その強烈な熱量と恥ずかしさの余韻は、二人の間に甘く奇妙な空気をもたらしていた。
だが、歩みを進めるにつれ、二人の空気感には明らかな変化が生じていた。
始まりの時、プリモの手はどこか「イサミに繋がれている(手繰り寄せられている)」ような、受け身の弱々しさを含んでいた。
しかし、今――彼女の指先は、しっかりと、力強くイサミの指に絡められていた。
まるで、この広大な虚無の中で唯一繋ぎ止められた希望の糸を、絶対に離すまいとする固い意志のように。
イサミはその手に込められた強固な意思を感じ取りながら、横目でプリモの顔を見た。
プリモの横顔は、赤みが引き、再び可憐な冷徹さと深い決意を取り戻していた。
だが、その紫水晶の瞳の奥には、これから訪れるであろうさらなる試練への恐怖が、微かに揺らめいている。
「……大丈夫ですか、プリモさん」
「ええ。手が痛かったかしら?」
「いえ、痛いのはさっき締め上げられた時だけです。……今は、すごく暖かいですよ」
イサミがちゃっかりとした笑みを浮かべて答えると、プリモは少しだけ呆れたように、けれど愛おしそうに頬を緩めた。
「ふふ……口だけは達者ね」
「僕の口はこれでも商売道具ですからね。……ですが、僕の手でよければ、いくらでも繋いでいてください」
「……ええ。離さないわ。絶対に」
二人が互いのぬくもりを確かめ合った、まさにその瞬間――。
ズグゥゥゥゥン……ッ!!!
何の前触れもなく、回廊の天井(あるいは空間の上空)が爆発したかのように、赤黒い濁流のような光が二人へ向かって襲いかかってきた!
「っ!? イサミ――ッ!!」
「プリモさんっ!!」
避ける隙すら与えられない。
今までの穏やかな「光の球体」との接触とは根底から異なる、凶暴で暴虐的な「記憶の奔流」が、暴風となって二人を飲み込んでいく!
◇
――激しい金属音と、崩壊する建物の断末魔が響き渡っていた。
視界を埋め尽くしたのは、重厚で豪奢な【どこかの館の内装】。
だが、その絢爛豪華な館は、今や赤黒い血と凄惨な炎によって地獄の絵図と化していた。
柱が倒れ、絨毯が焼き尽くされ、石壁が粉々に打ち砕かれている。
(ここは……館……!? 一体なにが……!?)
イサミの意識が叫ぶ。
そして、二人の「視点」の前――立ち込める黒煙の向こう側に、「それ」はいた。
人の形を模してはいるが、およそこの世の生命体とは思えない幾何学的な蠢きと、見る者の精神を汚染するような粘濁した闇を纏った――【化け物】。
その化け物は、凄まじい威圧感を撒き散らしながら、視点の主など意にも介さぬ様子で、奥(あるいはどこか別の場所)へ向かおうと、ゆっくりと歩みを進めていた。
(……逃がさない……! 絶対に……ここから先へは……通さない……っ!!)
視点の主――プリモ(レメディア)の胸中に吹き荒れていたのは、常軌を逸した「焦燥感」と「絶対的な拒絶」だった。
この化け物をここで食い止めなければ、すべてが終わる。
大切な仲間たち(ナクトや羽澄)の命も、守るべき未来も、すべてがこの化け物によって噛み砕かれてしまう。
絶対に負けられない。絶対に、踏み越えさせてはいけない場面。
「っ――!!!!」
視点の主は、全身の血を燃やし尽くすような絶叫とともに踏み込んだ。
手にした細剣に持てる全ての魔力、魂の全てを注ぎ込み、一閃――!!
神速の踏み込みから放たれた、命を賭した乾坤一擲の突き。
だが――。
ガギィィィィィン……ッッ!!!
悲痛な金属音が響いた。
細剣の刃は、化け物の表面を覆う不可視の肉壁に触れた瞬間、まるで薄氷のように容易く弾かれ、微かな傷すらつけることができなかった。
刃が……全く通らない。
「な……に……っ!?」
絶望が、視点の主の思考を凍りつかせた。
次の瞬間、立ち止まりすらもしなかった化け物が、鬱陶しい羽虫を払うかのように、巨大な漆黒の腕を無造作に振り抜いた。
ドガァァァァァァン……っ!!!!
「グ……ッ……ァァァァァっ!!???」
衝撃波だけで骨が粉々に砕ける音が響く。
視点の主の身体は壁を何重にも突き破り、館の崩落する石畳へと無残に叩きつけられた。
視界が真っ赤に染まる。
大量の滑らかな血が口から噴き出し、手足の感覚が消えていく。
返り討ち――圧倒的な、言葉通りのお話にならないレベルの暴力の差。
(……だめ……まだ……立て……立ち上がれ……っ!!)
視点の主は、血の海の中でピクリとも動かない手足を動かそうと必死に抗った。
だが、化け物は倒れた彼女を一瞥することすらなく、ゆっくりと振り返り――巨大な闇を開いた。
ずるり……ずるり……。
化け物から伸びた泥のような闇が、動けない彼女の身体を飲み込んでいく。
(嫌だ……! 嫌だ嫌だ嫌だ……! 負けたくない……! ここで負けたら……みんなが……っ!!)
絶対に負けてはいけなかった
何があっても負けたくなかった
人生の中で最も重要な、最も譲れない敗北の一瞬。
全身を噛み砕く物理的な激痛を遥かに超える、狂おしいほどの『絶望感』と『悲壮感』。
取り込まれていく闇の冷たさと、自らの無力さに対する血の涙が出るほどの悔恨が、津波となってイサミとプリモの精神をズタズタに引き裂いていく!!
(――――――――あぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!)
◇
「……ハッ……! ぁ……っ! ぁぁぁぁぁっ!!」
光の回廊に弾き出された瞬間、イサミはガタガタと全身を激しく震わせていた。
(なんだ……今の絶望は……っ! 息が……吸えない……! 胸が……破裂しそうだ……っ!!)
あまりの衝撃に、イサミの精神は完全にパニックを起こしていた。
ただの映像ではない。
あの化け物の圧倒的な恐怖、体が破壊される激痛、そして何より「絶対に負けてはいけない場面で負けてしまった」という絶望の重圧が、イサミの心臓を物理的に握りつぶすかのように苛んでいたのだ。
自身が受けたトラウマが無意識に蘇る。
無意識のうちに、イサミは自分が誰の手を握っているかも忘れ、激しい恐怖と錯乱から、繋いでいた手を――ぎゅぅぅぅっと極限まで強く握りしめてしまっていた。
「……っ! イサミ……痛いわ」
静かな、けれどどこか悲痛な声が聞こえた。
「っ!?」
イサミはハッと正気に戻った。
視線を落とすと、自分がプリモの華奢な手首を、白くなるほど強く締め上げていることに気づいた。
「あ……っ! す、すいませんっ……! プリモさん、ごめんなさい……っ! 僕、パニックになって……っ!」
イサミは慌てて手を離そうとした。
だが――プリモは離させなかった。彼女の指が、イサミの手を優しく、けれどしっかりと包み直したのだ。
「いいのよ、イサミ……。いいの……」
プリモの顔は蒼白だった。
紫水晶の瞳からは涙が静かに溢れ落ち、頬を濡らしている。
だが、その声は驚くほど静かで、客観的な諦念を帯びていた。
「…………そう。私はこの時……あの化け物に負けて、取り込まれて……死んだのね……」
「プリモさん……」
イサミの胸が痛んだ。
商人として鍛えた観察眼など使うまでもなかった。
今の回想で起きた惨劇――化け物との絶望的な戦いと、死に至るほどの致命傷、そして取り込まれた結末。
それがプリモの「前世」あるいは「かつての記憶」であることを、イサミも完全に察し始めていた。
(間違いない……。プリモさんは一度、あの恐ろしい化け物に敗れて……命を落としたんだ……。だからナクトさんたちも、この過去を語りたがらなかったんだ……)
察したからこそ、イサミの胸には重い葛藤が渦巻く。
今のプリモに何を言えばいい?
「大丈夫だ」なんて安直な気休めが通用するような絶望ではない。
だが、これ以上考えても、自分たちの知識では答えは出ないのだ。
イサミは深呼吸をし、自分の震える手を通じて、プリモに温もりを伝えようと努めた。
「……今は、あんまり深く考えるのはやめましょう、プリモさん」
「え……?」
「答えは……この一本道の先にあるはずです。どんな過去があっても……今、ここにいるプリモさんは、僕の目の前にいる『プリモさん』です。……進みましょう。僕が、最後まで一緒に行きますから」
イサミの不器用で真っ直ぐな言葉に、プリモは目を見開いた。
そして、涙を濡らした頬を拭うと、弱々しく、けれど確かに頷いた。
「……ええ。……行きましょう、イサミ」
二人は再び手を強く繋ぎ直し、重い沈黙が流れる回廊の奥――最後の記憶が待つ場所へと、ゆっくりと踏み出した。