※この作品はR-18です。

外法ってやつを見せてやろう   作:山上真

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第16話:アイエエエエ!? 清隆くん!? 清隆くんナンデ!?

 明けて土曜日。

 天嶺は習慣付けられた時間に目を覚ました。仕事次第では就寝時間も起床時間も不規則にせざるを得ないのが事実ではあるが、だからこそ、可能な限り定まった時間に寝て、定まった時間に起きることを自らに義務付けていた。もっとも、その範囲が一刻――約二時間――な辺り、そこまで厳密でもないのが実情ではあったが。

 場合によっては睡眠時間そのものに差が出てくるが、ある程度であれば眠りの深さを調整することで対応可能な範囲だ。深い眠りであればあるほど、それだけ休息の質は良くなる。

 本来ならやろうと思ってやれることではないが、天嶺は鬼道の担い手である。そして鬼道とは、古代邪馬台国の女王、卑弥呼が創始したとされる術理だ。

 そのオリジナルは陰陽の二部からなるとされ、陰には反魂、厭魅、変生の術などが載り、陽は練丹や占術が載っているとされるが、天嶺をして実際に見たことはない。実際に目にすることができるのは九角家の当主に限られるからだ。

 また、今現在は継承の過程で新たに作られた術理が纏められた邪の部を合わせ、三部から成り立っている。

 オリジナルを目にしたことはない天嶺だが、訳されたものならば散々と目にしたし、それを用いて習得に励んだ過去がある。

 その過去があるからして鬼道の扱いに熟達しているわけだが、この『眠りの調整』も描かれた術式の一つだ。避妊の術式もまた然り。

 このどちらも、元は陰の部に描かれている厭魅――すなわち、呪詛が源流だとされている。まあ、対象を目覚めぬ深い眠りに就かせたり、子を産めなくさせて血統の維持を妨げたりなどは、呪詛の代表例でもある。それを思えば不思議はない。

 不思議はないが、元は陰惨なイメージを持たざるを得ない術を、生活のお役立ち感溢れる術式に改良しているのだから、ご先祖様に対して敬意を抱かずにはいられない天嶺である。

 いやまあ、もしかしたら、お偉方の要請で作らざるを得なかっただけかもしれないが。社会的な立場があって、されど好色でとなった場合、女を抱くのも一苦労だ。それで子供が生まれたらお家騒動の元である。

 鬼哭村には孤児院がある辺り、そうして生まれた子供の引き取り所を兼ねていた可能性も捨てきれない。元からそういう繋がりでもなければ、いくら数少ない正当な実力を持つ退魔組織と言えど、お偉方との繋がりを持つのは難しいのが現実だ。

 

「あ~……」

 

 この術の欠点として、余りに深く眠ってしまうため、起床直後は特に意識が散漫になることだ。

 普通に眠ってもそういうことはあるが、そちらがランダムで起こり得るのに対し、術を使った場合は確定で起こるのだ。おかげで、使い時が限られる側面があるのは否めない。

 呆っとしたまま幾ばくかの時間が経過し、徐々に意識がシッカリとし始めた天嶺は、その足で洗面所へと向かった。元が大規模宿泊施設のためか、個室内にも浴室、トイレ、洗面所は用意されていた。

 冷水で顔を洗って意識を完全に目覚めさせた天嶺は、寝間着から私服へと着替え始める。今どきの日本人には珍しい和服だったが、村での生活ではこれが主流である。

 

「よお。おはよう、二人とも」

 

 ロビーには、既に平田と幸村の姿があった。他の面々の姿はない。

 現在時刻は午前の6:30頃。普段であれば他にも誰かしら起きていても不思議はないのだが、今日は休日でもある。

 それに加えて昨夜のことを鑑みれば仕方ないだろう。

 

「おはよう、九角くん。――って、わぁ!? 和服なんだね!」

「おはよう、九角。……それは普段着か? 今の御時世では珍しいな」

 

 天嶺の声に二人は向き直り、それぞれに挨拶を返した。

 

「驚いてくれたようで何よりだ。洋装を持っていないわけではないが、こちらの方が着慣れているのでな」

「おはよう」

 

 そんなやり取りをしていると、新たに声が掛かった。見なくても声で分かる。澪だ。

 

「よお、おはよう」

「おはよう、伊吹さん。……伊吹さんは和服じゃないんだね?」

「おはよう、伊吹。……だが、スカートではなくズボンなのか」

 

 振り向くと、そこにいたのはやはり澪で、天嶺に続いて平田と幸村からも声が上がる。

 

「……ああ。そりゃあ、私の戦闘スタイルは徒手空拳だもの。蹴りも多用するってのに、スカートなんか履いてられないわよ。どうしてもってなればスカートも履くけど、いちいち下にスパッツ履かなきゃならないから面倒臭いし……。

 昨日の態度からは信じられないかもしれないけど、私だって一端の羞恥心は持ち合わせてるからね。誰彼構わず下着を見せる気なんかないわよ」

 

 天嶺の格好と比較して、二人が何を言いたいのかを察した澪は、面倒そうに口を開いた。

 ロングスカートだと、半ば以上蹴りという手段が封印される。ミニスカートだと、下着を見られる可能性が高くなる。ズボンに行き着くのは澪としては当然の帰結だった。

 

「取り敢えず、とっとと朝食の用意をしますか」

「手伝おう」

 

 言って、澪は台所へと足を向ける。天嶺もそれに続いた。

 これで故郷の村では格別たる立場を誇る二人だ。家には普通にお手伝いさんの類がいるし、待っているだけで自動的に食事が出てくるような環境だったのは間違いなく、普通ならそんな環境で自炊能力が培われる道理などない。

 しかしながら、二人は仕事で村を空けることも少なくはなかった。そしてその仕事先は、確かに人里が多かったのは事実だが、人里離れた廃村だったり廃トンネルだったりも珍しくはなかった。言ってみればホラーの鉄板である。

 ホラー番組の企画で現地に赴いて、そこで何か問題が起こった際には番組関係者は堪ったものではない。だからこそ、テレビでは生放送だのと謳っておきながら、その実は事前に影響がないか調査依頼を出すことも珍しくはなかったし、護衛依頼もまた同様。

 そういう場合に頼りになるのがレトルト食品ではあるのだが、場合によっては現地で食材を取り、それを調理して腹を満たす必要に迫られることもないではない。

 そんなわけで、天嶺も澪も、その生まれに反して一端の調理能力は身に着けていた。

 

「アンタたちは何かできることある?」

「調理実習レベルくらいの腕しかないね。それもだいぶ錆び付いているとは思うけど……」

「右に同じくだ。よければ教えてもらえるか?」

 

 澪の質問に、平田と幸村は揃って首を横に振り、教導を頼んだ。

 

「ま、別に構わないわよ。大半の連中は起きてくるのが遅くなるだろうから時間の余裕はあるし……。

 一回しかヤってない私はともかく、あんだけヤってこの時間に普通に起きてこれる天嶺が異常なのよ」

 

 その頼みを、澪はアッサリと引き受けた。次いで、肩をすくめてジト目を天嶺へと向ける。

 

「は、はは……」

「コメントに困るのだが……」

 

 その言葉を聞けば、他の面々が起きてこない理由には普通に納得がいくが、幸村の言う通りコメントに困るのも事実だった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 食材の大半は無料品とセール品だった。賞味期限が残り短かったり、商品として売り出すには形状を損なっていたり、値下げの理由は多岐に亘る。

 基本、無料商品は一人当たりの購入制限があるものだが、生鮮食品ともなればその範囲はだいぶ緩くなる。当然だ。人は食わねば生きていけないのだから。霞だけで生きていけるとされる仙人ではないのだ。

 その購入制限も、あくまで一人当たりのもの。複数人で購入すれば、更に緩くなる。

 そして、ここでは多人数が共同生活をしているのだから、その恩恵を活かさない方がおかしいとさえ言える。

 そも、来月の支給ポイントが減るかもしれないのだから、一端の危機感を持ってさえいれば、尚更節約を心掛けないわけにはいかない。

 タン! タン! タン! タン!

 不規則な音が台所――と言うよりは厨房に響く。平田と幸村が、それぞれ野菜を切っている音だ。対象はニンジン、ゴボウ、ダイコンといった根野菜。

 

「こういうのも久しぶりだね」

「ああ。……しかし、我ながら不揃いだな」

 

 平田が笑みを浮かべて幸村に言えば、幸村は頷きつつも自分がカットした野菜を眺めて眉をしかめた。……まあ、不揃い具合で言えば平田も似たようなものだったが。

 

「別に不揃いでも構いやしないわよ。別にプロってわけでもないんだし、素人なら尚更。ヘタに高望みして失敗されるよりは、こっちの指定した範囲内でキチンとカットしてくれれば十分よ。お腹に入れば一緒だしね」

 

 それに対し、澪はサバサバと言葉を返す。彼女は味噌汁を作っている最中だった。

 

「不満は分からなくはないが、澪の言う通りよ。如何な達人でも、最初から上手くやれる道理はない。こういうのは、あくまでも積み重ねた経験がものをいうのよ」

 

 澪に続いてそう言ったのは天嶺。彼は米を研いでいる最中であり、せっかくの設備を活かして鍋でご飯を炊こうとしていた。

 

「道理だと分かってはいるのだがな……」

 

 それはそれ、というやつなのだろう。

 まあ、たとえ素人混じりでも、極端に手順を間違えさえしなければ、時間はかかれど料理は出来上がるもの。やがて、一端のメニューが食卓の上に並んだ。 

 

「出来上がるものなのだな……」

「まあ、僕たちがやったのは工程的には簡単なところだけだったんだろうけど、それでも自分が携わった料理が実際に出来上がったのを目にすれば嬉しいものだね」

「否定はしない」

 

 そんなやり取りを交わす平田と幸村の表情には、確かに笑みが浮かんでいた。

 タイミングよくというべきか、その頃になって他の面々も起き出してきた。

 

「おはよ~。ってかゴメンね~。本来なら私がやらなきゃだったのにさ」

 

 申し訳なさそうに、それでも昨夜の疲労が完全には取れていないのだろう。あくび混じりにそう言ってきたのは恵だった。

 契約上では、確かに日々の料理なんかは恵の仕事である。それを思えば、彼女が謝るのも無理はないと言えた。

 

「気にするな。今はまだ体裁に過ぎぬ部分もあることだし、出来る者がやればいいのだ。

 それに、昨夜の疲れも残っているのだろう? そのような奴に無理をさせるほど、俺も畜生ではないよ」

 

 対し、契約主に当たる天嶺は笑みを浮かべてそう言った。

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど! それと、昨夜のことはあんま言及しないでほしいかな~って!」

 

 フォローされた恵は、慌てたように身体の前で両手を振ってそう言った。十中八九、羞恥心が残っているのだろう。

 

「フ、フフ……。私はどうしてあんなことを……」

 

 ガックリと肩を落としているのは鈴音だった。しかしながら、仕草とは裏腹に身に帯びる陰氣は少ない。分かる者にとっては、言うほど後悔していないのは明らかだった。

 

「自分で気付いていなかっただけで、そんだけ溜め込んでたってことでしょ」

「ッ~~~~!」

 

 気にした風もなく澪がそう言えば、鈴音も認めざるを得ない部分があったのだろう。頬を赤くしつつも、澪を睨みつけるので精一杯だった。

 

「伊吹。昨夜は、この施設内には『ちょっとだけ素直になりやすくなる』結界を張ってあると言ったな?」

「言ったわね。まあ、実際には数ある効果の一つなわけだけど……」

「言い換えれば、当人が微塵も思っていないことは引き起こせない。……そういう解釈で構わないのか?」

「ああ。ゼロには何を掛けてもゼロだろう? 当人の自覚の有無はさて置き、数字にしてゼロ以上の数値でなければ影響を受ける道理はない」

「そうか……。そうか……!」

 

 天嶺の返答を聞いた清隆は、同じ言葉を繰り返した。だが、後のセリフは僅かに抑揚を伴っていたように思えるし、表情も僅かながら変化を浮かべていた。

 当然だろう。清隆にしてみれば、自分にはまだまだそれだけの可能性があるということに他ならないのだから。自分を高めることに喜びを見出す清隆にしてみれば、嬉しくない筈がなかった。

 

「あ~、そんなの張ってあったんだ。道理で……」

「どうしよう……? 異常な話題である筈なのに、普通に受け入れちゃってる私がいる……」

「おっはよう、天嶺くん! いい朝だね! ――朝って言うにはちょっと遅いけど……」

 

 一方、天嶺が抱いた三人もまた三者三様だった。特に桔梗はハイテンションだ。

 

「あら、賑やかですね。何をそんなに盛り上がっていたんです?

 ああ、おはようございます。昨日は結局泊まらせていただいたようで申し訳ございません」

 

 そこに杖を突く音が響き渡り、程なくして坂柳が姿を現した。

 

「ああ、おはよう。……泊まったことに関しては気にしなくてもいい。――それで、調子はどうだ?」

「さて……? そこまで自覚の程はありませんね。まあ、週明け、病院に行って検査を受けてその結果次第では実感が出てくるかもしれませんが……」

 

 天嶺の問いかけに、坂柳は小首を傾げて答えた。

 坂柳にしてみれば紛うことなき本音である。長年において自分を苦しめていた先天性心疾患を治したと言われても、言葉だけではそうそう信じられるわけがない。理解を示すのと納得するのは別である。

 

「ま、そっちの身にしてみればそれが当然か……。食欲はあるか? あるようなら食っていけ」

「そうですね。お言葉に甘えて御馳走にならせていただきますね」

 

 そして、一同はワイワイと会話を行いながら、少々遅い朝食を済ませる。

 その際に坂柳は改めて自己紹介を行ったわけだが――

 

「綾小路清隆だ。よろしく頼む」

「え……? アイエエエエ!? 清隆くん!? 清隆くんナンデ!?」

 

 清隆の自己紹介を受けた坂柳は、これ以上ないほどにテンパった姿を見せたのだった。




鬼道の創始者が邪馬台国の女王である卑弥呼。
彼女の駆使した呪法は鬼道書として残され、陰陽の二部から成る。
陰には反魂、厭魅、変生の術が、陽には練丹、占術に加え『黄龍の器』を生み出す法が記されている。
これらは、『外法帖・血風録』の公式ファンブックの天戒様のページに載っています。

本作のオリジナル鬼道は、基本的には『魔人』での設定を踏襲し、そこから『あり得る形での派生』という解釈の元で作成されています。
そのために、原作には登場しない『邪の書』という三部目を用意しました。
邪の書に記されているのは『天戒から続く歴代当主が陰陽のオリジナル術式に改変を加えたもの』という設定です。

なお、本作は『外法帖・血風録』の後、幻となった二作目の『帝戰帖』を通っておらず、然るに『剣風帖』にも繋がっていない時間軸の設定です。

感想・中~高評価・リクエスト・お気に入り登録お願いします。
こういうのあったら便利じゃね? 的なオリジナル技、他作品とのクロス技のリクエストなども、よければお願いします。
設定上、『魔人』の技って何でもあり的に幅広く、個々人で差も激しいですから。
自分の知らない作品の技でも、簡単に『これこれこういう技』という注釈を付けてもらえれば、もしかしたら誰かしらの技に採用するかもしれません。

なお、サブタイトルの元ネタとなるニンスレは見てません。

学校生活で演じる清隆の性格路線について。クール系の天嶺と、温和系の平田とは別路線を歩みます。基本的には自身の社交性を鍛えるためですが、対象やその周辺人物との友好関係や実力、五月のCPに影響が出ます。

  • チャラ男ルート。対象は池。CP上昇大。
  • オレ様ルート。対象は佐藤。CP上昇小。
  • その他。具体的にはリクエストを。
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