「契約? 言わんとすることは分かるけれど、それで貴方は納得できるの?
いえ、私としては元より何のことなのか心当たりもないし、元々その程度には興味のない事柄だから思い出しても口外するつもりはないわけだし、それで貴方が納得できるのなら構わないのだけど……」
桔梗の提案に対し、鈴音は困惑を露わに返答した。
それは尤もな言い分だった。人の口に戸は立てられぬとも言うのだ。どれだけ強固な契約を結んだところで、決してバレない保証はない。
同時、鈴音にとってはそれほどまでに興味のない事柄だと言うのは、冷静に見ればすぐに分かった。
とはいえ、当事者である桔梗にとってはそれだけで納得できるものでもないのだろう。
「うん、だからただの契約じゃない。氣に目醒めることで使えるようになった、私のチカラを使う。
命名するならば、『秘密は美酒にして毒』ってところかな。
これを用いて契約することで、私たちは
もっとも、どんな風にして口外できなくなるのかは、私自身もその時になってみないと分からない。分からないからこそ、契約違反のペナルティとして機能し得る。ただし、ペナルティで直接的に命を落とすようなことはないから、その点は安心していいよ。
自分の秘密を口外していい対象の指定は後から追加も削除も出来る。思考するだけで可能だよ。
共有する秘密は、互いの間で等価となるように勝手に調整される。私にとっては重い秘密も、堀北さんにとっては軽いことかもしれない。だけど、それは逆も同じことが言える。
早い話、私が
このチカラの発動条件は、契約相手に対して事前にそのことを説明すること」
そこまでを桔梗が口にした瞬間だった。桔梗と鈴音の前に、どこからともなく一枚の紙が出現した。
驚きながらも紙を見れば、そこには『契約書』と題打たれた上で、今しがた桔梗が言ったことが記載されている。それぞれの秘密の口外許可対象欄があり、末尾には空白のサイン欄。
「お互いがコレにサインした上で握手をすることで契約は締結される。――どう? この契約に乗ってくれるかな?」
桔梗は鈴音に訊ねるや否や、返事を聞く前に自身の用紙にサインを入れた。
それを見れば、鈴音も動かないわけにはいかなかった。どんな秘密が握られるのか分からないのが怖くはあるが、それで無用な軋轢が避けられるのならば契約しない道理もない。鈴音もまたサインを入れる。
互いに用紙を見せ合い、双方にサインが入れられているのを確認しあう。その上で二人が握手をすると、用紙が光り輝いた。
「はい、これで契約締結だよ。この用紙は氣によって練られたものだから、念じるだけで出し入れ自由」
桔梗が言うなり、彼女の持っている用紙が消えた。
「……何とも不思議なものね――ッ!?」
試しに鈴音もやってみると、同じように用紙が消えた。その事実に、首を傾げざるを得ない。思わず呟く。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
瞬間だった。鈴音のいる場所が一瞬にして変わった。
全体的に薄暗くて、巨大なモニターがあって、多くの座席があって、言葉にするなら、まるでそう――
「映画館……?」
鈴音の口が、その正体を紡いだ。
「ほう? 堀北もいるということは、察するに、ここは桔梗のチカラで用意された空間ということかな……?」
困惑する鈴音の耳に、ここ最近でよく聞く声が届く。声の方を見やれば、確かにそこには天嶺がいた。
「九角くん……? 貴方も来たの? いえ、それより今の言葉は……」
場数の経験差か。未だに鈴音は困惑の方が強いようだった。
「言葉通りだな。チカラの使い方は、それこそ人によって多種多様だ。
桔梗の説明を鑑みると、これからあのモニターに
秘密の程度によっては、ここまで大規模になることもないかもしれんが……いずれにせよ、確証はないな」
「秘密の程度と言うと?」
「簡単に言えば、『自分が隠したい秘密』か、『見聞きした他人の秘密』かの違いということだ。
例としてお前の兄を挙げよう。好みや何気ない仕草など、兄弟・家族という関係故に容易に知れることがあったとして、輪の外にいる者にとっては容易に知れることではないとしたら? それを知りたい者にとっては大きな価値を持つことだろう。
それは『お前自身の秘密』ではないかもしれんが、『お前が抱える秘密』であることに違いはない。桔梗の事前説明では、どちらも対象になり得ると思った。
同時、桔梗の説明が全てを指しているとも限らん。説明の仕方によって発動内容が変わる、などということもあり得るだろう」
「言われてみれば……」
天嶺の説明に、鈴音は頷かざるを得なかった。確かに、そういう解釈もできる。
「『秘密は美酒にして毒』か……。中々に上手い名づけをするものよ。
あやつのコミュニケーション能力を以てすれば、軽重はともかくとして他人の秘密を集めることも容易だろう。
そして、桔梗にとっては何ら価値のないそれらクズ札を契約相手に押し付け、その一方で自分は相手の
実際にそれが出来るのなら、それだけで間違いなく相手よりも優位に立てるだろうな。何せ、秘密の口外禁止が順守されるのは契約を結んでいる間のみだ。契約があやつのチカラによって成り立っている以上、あやつの意思による一方的な契約破棄だって出来るかもしれん。……少なくとも、そう考えることは十分に可能だ。
その一方、本当に互いの秘密を提供しあうことだって可能だろう。それは間違いなく
秘密の使い方ひとつで、まさに美酒にも毒にもなる」
クツクツと、天嶺は小気味よさそうに笑った。
そんな中、元から薄暗かった空間が、更に暗さを増していく。
おそらく、間もなく放映されるのだろう。
そうと悟りつつ、二人は尚も言葉を紡ぐ。
「随分と機嫌が良さそうね」
「それはな。人によっては卑怯だ騙し討ちだと言うかもしれんが、俺としては心強いと言わざるを得ん。自分の女が、仲間が、このような強かさを持っている。何とも頼りになることよ」
「貴方は……櫛田さんを信じているのね」
「無論」
鈴音の言葉に天嶺は頷き、それと同時に照明が完全に消える。
スクリーンに
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「ッ……!?」
気付いたら、鈴音は元の場所に戻っていた。映画館の面影などどこにもない。そのことに、思わず息を呑む。
現在時刻を確認する。然程の時間は流れていなかった。
「ふぅ……。とんでもないわね……」
その事実に、鈴音は改めて嘆息し、感嘆の言葉を紡いだ。
まさに白昼夢を見せられたわけだ。
氣というチカラは何でもありか!? と、心中で悪態を吐かずにはいられない。
未だ困惑は強いが、見せられた秘密を思えば、桔梗が恐怖するのも当然だと思えた。
一つのクラスの学級崩壊。鈴音は断片的に知っている程度だったが、それでも一つのクラスが崩壊したのだ。
しかも、マンモス校とはいえ同じ学校で起こったのだ。一般的に考えれば興味を抱くのが道理というもの。鈴音のように無関心を貫く方こそ珍しいと言われれば、決して否定しきれるものではなかった。
あれほどの物珍しい事態。誰がやったかなんてことは、誰が引き金を引いたかなんてことは、隠そうとしても隠しきれるものではない。
事実、面白おかしく噂として学校内を循環したし、鈴音もそれを耳にしたことがある。
言い換えれば、今の今まで忘れていただけで、気にも留めていなかっただけで、確かに鈴音は元から桔梗の秘密を知っていたのだ。
たとえ詳細は知らずとも、断片情報だけでも桔梗のイメージを崩すには余りある。
この際、信憑性や説得力なんてものはどうでもいいのだ。『同じ中学の生徒が語る』というその事実だけで、興味本位の者たちにとっては
桔梗のことだから、たとえ上辺だけだろうと親睦を図る過程で出身中について言及している可能性は否めない。――と言うより、その程度であれば普通に言う者の方が多いだろう。
その情報を知っている者が、クラスに馴染もうとしない鈴音に文句を言ってくるなんてのは、容易に目に浮かぶ光景だ。
むしろ鈴音にしてみれば、そういう感情的な相手が煩わしいから馴染もうとしないわけだが、その因果関係は気にしても無駄だろう。
そしてその際、桔梗を引き合いに出してくる可能性は否めない。人気者なんてのは、本人の望む望まないに関係なく引き合いに出されるものだ。
さて。そこで鈴音が、自分の中学を告げた上で、かつて同中で起こった学級崩壊を話したらどうなるだろうか? あくまでも噂止まりだが、櫛田桔梗がそれに関係していることを伝えたら、周りは一体どう思うだろうか?
とかく、人気者というのは過剰な期待を寄せられるものだ。普通に考えれば『戯言』の一言で切り捨てられるような内容であっても、万人に好かれる人間がいないのも道理。その情報を面白おかしく活用し、桔梗に対する疑心暗鬼を招く人物がいないとは限らない。
桔梗が恐れたのはそれで、だから自分にも探るような視線を向けていたのだろう。……桔梗の秘密を知ったからこそ、鈴音は普通に納得し、桔梗に対する気味悪さが減ったのは間違いなかった。
「何はともあれ。これで私たちは秘密の共有者ということね。これからは仲良くやっていきましょう、桔梗さん」
「うん! よろしくね、鈴音ちゃん!」
改めて握手を交わす。ギリギリと握り合うようなことは起こらなかった。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「最後は僕か……」
そんな一幕を終えて、重々しく口を開いたのは平田だった。
「僕としては、やっぱり皆には笑顔でいてほしい。――だけど、そのために今の状況を見過ごすのも違うと思っている。
先生に注意されないことに甘えて、真面目に授業を受けない。……入学式に九角くんも言っていたけれど、この学校が真に生徒を実力で測るのなら、そんな生徒は退学候補一直線だろう。
それじゃあ意味がない。たとえクラスの皆に笑顔があっても、刹那的なものでしかない。状況こそ違うけれど、杉村の時と同じ結果にしかならないだろう。
絶望が待ち受けていることに変わりはなく、違うのは、その果てが退学か飛び降り自殺かだけだ……」
テーブルへと身を乗り出し、顔の前で手を組み、俯き気味に平田は言った。
その言い分は、決して否定できないものだった。
「恵を引き合いに出すのは悪いと思うが、恵以上のバカがいないとも限らないしな……」
呟いたのは清隆だった。
こと学力を引き合いに出す場合、軽井沢恵は何かと持ち上げられる。ただし、優等生としてではない。劣等生としてだ。
「オレは学校に通うの自体ここが初めてだからあくまでも知識でしかないが、『授業は真面目に受ける』、『正当な理由の伴わない遅刻・早退・欠席をしてはならない』、『廊下を走ってはならない』……なんてのは、義務教育の九年間で散々と言われるものなんだろう?
それと比較して、既に授業中にも拘わらず騒いでいる奴らは、この学校に相応しい生徒と言えるのか? ……普通に考えると、こういう疑問に行き当たると思うんだが、どうだろうか?」
「全く以て同意見ね」
「右に同じくだ。親の教育もあって学業を最優先にしてきた僕だが、体育の授業があったり、部活動への参加を推奨していたりと、決して学校という教育機関が学力だけを評価しているわけではないことは知っている。
実際、真面目に授業を受けるということは、礼儀を身に着けることにも繋がるからな。
それでも、まず第一に評価されるのが学力であるのは否めないと思っている」
清隆の確認に真っ先に同意を示したのは、やはり鈴音と幸村だった。人付き合いには難のある二人だが、その一方で授業態度は真面目だし、学力も高い。学力や素行を基準にして優等生を挙げるなら、まず間違いなく含まれているだろう二人である。
「まあ、三人の言うことは尤もだとは思うが、実際に社会に出るのなら、学力だけが重視されるものでもないからな。
うちのクラスの問題児筆頭に挙げられるだろう、池、須藤、山内――通称『三バカ』を引き合いに出すが、彼らとて決して長所がないわけではない。
池の誰彼問わずグイグイと踏み込んでいく部分は、時に非難の対象にもなり得るだろうが、その強引さに救われる人物がいないわけではないのも一つだ。
特に、コミュ障なんてのは自発的に話しかけることも出来ないのが大半だからな。そいつらの中には、池の強引さをありがたがる者だっているだろうよ。
須藤は、見るからに欠点の方が目立っているが、それでもバスケには熱心だと聞いている。真に素行不良なだけであれば、そこまで部活に熱を入れることもあるまい。
その点から、奴の余裕のなさが見えてくる。自分にはバスケしかない……と、そう思い込んでいるのだろうよ。端的に言えば視野狭窄だな。それ故に責任転嫁しがちで反省力がないのが大きな欠点ではあるが……。
大言壮語やホラ吹きのイメージが付き纏う山内だが、それは長所と表裏一体だ。
本人自身、十中八九はその能力の有効さに気付いていないだろうし、だからこそ使いこなせてもおらず、使いこなそうとする努力すら窺えないわけだが、真実とホラの比率を自由自在に組み合わせるようになれれば、その効果の程は何となくでも想像がつくだろう? 否応なく、相手は疑心暗鬼に陥らずにはいられまい。
そこに至るまでの過程が難しすぎるだけで、決して光るものを持っていないわけではないのだ」
対し、天嶺が三バカを引き合いに出して一応の擁護をした。
「つってもね。不真面目な生徒に一切の注意をしない教員の態度を見れば、この学校が極度の放任主義を敷いているのは明らか。
まず間違いなく、生徒の自発的行動を促そうとしてのことではあるんだろうけど、簡単にそれが出来る生徒ばかりなわけもないでしょ。
同じクラスというだけで、やっぱり未熟者であることには変わりない学生が導くことに無理があるのも事実なわけよ。
判断基準が情にしろ合理にしろ、全員にまでは手を伸ばせないのが現実。零れ落ちる生徒は必ず現れる。無理に拾い上げようとすれば、そいつまで崩れるどころか、クラス全体を巻き込んで瓦解することになる」
それに続いたのは澪。
「結論として、現時点では無理にAクラスでの卒業を目指す必要はないんじゃない? うちのクラスの場合、一部の生徒を除くと根底的に地力が足りてないし。
それぞれの意見を総括して、まずはこの最初の一ヶ月で、それぞれがそれぞれなりに、可能な範囲でクラスメイトに声をかけて注意喚起を促す。
それで僅かなりと改善が見られない生徒に関しては、仕方がないから諦めましょ。こっちだって自分の成長に時間を費やす必要があるんだから、『高育の生徒』っていう事実に対し、根本的に意識と危機感が足りていない奴に関しては自業自得としか言いようがない。
少なくとも、こっちは最初の一ヶ月間で手を差し伸べるわけだしね。その手を振り払ったのは向こう。それ以上そんな奴らに気を割くのは、余計にクラスの雰囲気を悪くするだけでしかない。
そもそも、本人の能力が足りていないんであれば、たとえAクラスで卒業出来て、推薦で目当ての場所に行けたって、実際にやっていけるとも思えないしね」
意見が出揃ったと判断した千秋が発言した。
シビアと言えばシビアではあるが、その一方でそれぞれに配慮した内容でもある。
数は確かに力ではあるが、そこに最低限の質が伴わないのであれば、ただの雑多な集団でしかない。組織として最低限の機能すらしないのであれば、上を目指すどころか今を生き抜くことすら難しい。
それでいいね? そう言わんばかりの眼差しを、千秋は平田と桔梗に向けた。
この面子の中で、クラスメイト全体を擁護し、その上で切り捨てる判断を下すのが難しいと思えるのは、千秋の見る限りその二人が筆頭だったからだ。
「私は構わないよ。この学校の生徒全員と友達になりたいのは本当だけど、より正確には『この学校の生徒に相応しい人物』に限られるもの。
誰しもに見所があるのは本当だろうからそう簡単に切り捨てる気はないけど、どこかで見切りをつける必要があるのを否定する気もない。
僅か数日。されど数日。その間で見え隠れするうちのクラスの地力の低さを鑑みれば、最初の一ヶ月を判断時間にするのは妥当なところだと思うよ」
「……僕も構わない。僕はもう二度と『
だから、まずは素行不良の改善に限定するのでどうだろうか? 最初から一度にあれもこれもと要求したところで、上手く改善できるとも限らない。一つ一つ、改善していくべきだと思う」
反対意見は出ない。
取り敢えずではあるが、これにてクラス改革のための基本路線は確定したのだった。
せっかくの『魔人』クロスなので、『よう実』原作キャラにも使わせていきます。
取り敢えず、桔梗はこんな感じです。
桔梗を象徴する要素である『コミュニケーション』や『秘密』を絡めたチカラにしようとした結果、こうなりました。
ただ、これが桔梗のチカラの全てかどうかは分かりません。
以前も言及しましたが、『魔人』の能力って本当に千差万別なんですよね。
一作目である『剣風帖』にはアイドルキャラが登場するんですが、彼女なんてテレビの画面越しに自分の歌を聞いた相手にも効果を発揮してますし。
入院患者がテレビ越しに彼女の歌声を聞いて元気になった、なんて事例があったと思います。
平田の選択もこんな感じになりました。理由は本文中で描写した通りです。
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学校生活で演じる清隆の性格路線について。クール系の天嶺と、温和系の平田とは別路線を歩みます。基本的には自身の社交性を鍛えるためですが、対象やその周辺人物との友好関係や実力、五月のCPに影響が出ます。
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チャラ男ルート。対象は池。CP上昇大。
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オレ様ルート。対象は佐藤。CP上昇小。
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その他。具体的にはリクエストを。