「ああ、九角。先日打診されていた件だが、一人当たり100ポイントだ。
迎えた月曜日。
朝のホームルームにて、Dクラスの担任である茶柱佐枝が思い出したかのようにそう言ってきた。
「ほう? 存外安いな。個人的には、少なくともその10倍はするものと思っていたが……」
それは天嶺の素直な感想だった。
「言っても、希望されたのが『クラス内に対する、各々の校則違反回数の公表』だからな。
オマケに、当校は『国内有数の名門校にして進学校』だから尚更だ。
カウントと公表の手間があるのは事実だが、本来ならカウントはゼロで当然。然るに、その手間だって無いに等しい。
にも拘らず高値を要求するのは、筋が通っていないにも程があるというものだよ」
一方、茶柱は口端を歪めながらその理由を説明した。
本来であれば、これらの情報は現時点で公開していいものではない。――だが、それも状況によりけりだ。
受け持ちの生徒が、現状に危機感を抱き、私費を投じてまで改善しようと心掛けているのだ。
情報の提供ではなく、情報の
厳密に言えば、情報の秘匿は入学式の初日に限った話だ。それも、入学式を終えて解散してしまえば途端に解禁される程度のものでしかないのだ。
どれだけ口外を禁じたところで、口を滑らせてしまう生徒はいる。それは学校側も織り込み済みで、だからこそ、学校側は上級生に対して過度な口外は禁止していない。だからといって、素直に教えることも許容していない。
その結果が、入学初日におけるコンビニでの一件でもある。須藤の振る舞いに対し、上級生は嘲笑するような真似を憚らなかった。普通に考えると問題ありなわけだが、裏の思惑があるからこそ許容されている面がある。そうでなければ、一年以上もこの環境で生活しておいて、何も知らぬ下級生を嘲笑するような無様な行いをする道理がない。
学校側は新入生がそういった部分から情報を取得し、繋ぎ合わせて、学校側からのネタ晴らしが入る前に真実に気付くことを期待している。
そういう側面があるものだから、状況次第では本来のネタ晴らし前により直接的に危機感を煽る行いも許可されているのだ。
だからこそ、現状は茶柱にとって愉快なことこの上なかった。
「おや? 何名か顔色を悪くした生徒がいるな。もしかして心当たりでもあったか? だとしたら気を付けることだな」
人の悪い笑みを浮かべて、茶柱は該当の生徒たちを言葉責めにする。
ごく一般的な口頭注意ではあるが、これまでは最初の一ヶ月だとそれすら出来なかったのだ。その事実を思えば、茶柱としてはどうしたって喜悦が湧き起こるのは避けられなかった。その分だけ、今回のクラスは出来がいい生徒がいる証左なのだから。
「では、担任殿。思いの外費用が安かったことだし、追加依頼を行ってもよろしいかな? 無論、4000ポイントは今すぐ支払わせていただく。端末を使っても?」
「許可する」
茶柱の許可を得て、天嶺は自分の携帯端末を操作。茶柱へと4000ポイントを譲渡した。
「確認した。……それで、追加依頼とは何だ?」
「なに、大したことではない。そのカウントを月毎で廃棄するのではなく、後々まで残してほしいのだよ。それであれば、校則違反に限るが各々の改善具合が一目瞭然というものだ。誰しも、最初の失敗をいつまでも論われたくはないだろうからな」
「……なるほど。尤もな言い分だな。九角、お前の不安はよく分かるとも。最初の失敗を後々まで引っ張って、延々とネチネチグチグチ言う輩はいるものだからな。
それはイジメの土壌となり得るものだし、学校側としても好ましいことではない。そして、そういう輩を黙らせるには、明瞭な形で改善具合を叩きつけるのが一番だ。
まあ、それに関しては500ポイントで構わん」
「では、早速。……毎回この作業をするのは面倒だな。毎月、自動的にポイントが回収されるように契約を結んでもらっても?」
「尤もな意見だな。後で職員室に来い」
「承知した」
クラスメイトを余所に、天嶺と茶柱の間でやり取りが行われる。
他に用件はなかったのか、茶柱はホームルームを終えて教室を去っていった。
「おい、九角! 今のどういうことだよ!?」
途端、天嶺に対して非難とも詰問とも取れる声が上がった。その声は一つや二つではない。
「どういうことと言われてもな。内容の通りだが?
入学した日、俺はお前たちにも危惧を伝えた筈だぞ。――にも拘らず、クラスの全員ではないものの、教師が注意しないのをいいことに授業を真面目に受けない生徒も少なからず存在する。悪びれもせずに堂々と遅刻してきて、堂々と居眠りをかます奴もいる。
である以上、その改善のために打てる手を打つのは当然だろう。そして、こればかりは各々の意識掛けの問題だからな。どれだけこちらがあーだこーだと言ったところで、お前たち一人一人の意識が改善に向かわなければ如何ともしがたい。
俺の危惧が正しければ、不真面目な態度が積み重なった結果、連帯責任で来月の支給ポイントがゼロ、などという事態もあり得るのだ。あの程度の私費を投じることで改善が見込めるならばやらない道理はあるまい」
しかし、立ち上がった天嶺は、逆に周りを睥睨し、腕を組んだまま堂々と反論をした。
「無論、あくまでも危惧は危惧。確証のあることではない。然るに、強制はせんし、その権利もない。俺はただ、それが確かな形で残るように手を打っただけだ」
そこまでを言って、天嶺は着席した。
これで一人でも多く改善されるなら良し。しないならしないで、切り捨て候補に挙がるだけだ。天嶺としては、どちらに転んでも構わない。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
昼休み。
天嶺は職員室を訪れていた。朝のホームルームで話題に挙がった契約を行うためだ。
契約書の方は既に茶柱が用意してくれていたようだ。見た限り問題は見受けられないので、サッサと契約を結ぶ。支払いを忘れて公表されない方が面倒だ。
「それと、お前の仕事の方に関しても通達があったぞ。……ああ、これだこれだ」
契約書をしまった茶柱は、そう言って机からクリアファイルを取り出し、天嶺へと渡してきた。
ファイルの中に入っているのは一枚の紙であり、それによると、各クラスの結界行使は、奇数週なら月水金、偶数週なら火木の放課後のみ可能とのことだった。ただし、監視カメラが機能しなくなるため、監視役として誰かしら教師が同伴することが義務付けられている。
(まあ、妥当と言えば妥当なところか……)
声に出さず、天嶺は内心で呟いた。
監視役に何が分かるとも思えないが、学校側としても体裁は必要だろう。監視カメラの代わりに教師が確認し、上に対して報告を上げる。問題が起ころうと起こるまいと、その事実が必要なのだ。
「承った。……同行する教師の指定は出来るのか?
毎回別人だと説明するのが面倒だし、一般的に見て胡乱な仕事である以上、信じてもらえるかも分からん。
或いは、監視役自体はキチンと行っても、上に対しては必要性の疑問を訴える、などということがあるかもしれん。
然るに、こちらとしては一年の教師を指定したいのだが?」
「確約は出来んが……まあ、その程度であれば可能だろう。誰かしらの手は空いている筈だ。ただ、知恵の場合、長時間保健室を離れるのは難しいだろうがな」
天嶺の確認に、茶柱は暫し首を傾げ、やや自信なさげに肯定した。
「承知した」
取り敢えずはそれで十分。
天嶺は足早に職員室を後にした。実のところ、まだ昼食を食べていないのだ。その上で、五時間目の授業は水泳である。いよいよもって時間的余裕がない。
(さて、どうなることかな……?)
だが、そんな焦りとは裏腹に、天嶺は水泳の授業が楽しみだった。
女子の水着姿が楽しみ。もちろん、それもある。遠慮なく裸体を見れる相手もいるが、全員が全員そういう訳じゃない。である以上、健全な男としては女子の水着姿に昂らざるを得ない。
賭けに関しては、正直に言ってどうでもいい。結果は佐倉か長谷部の勝利で見えている。実際、チャットを見る限りだと投票は二人に集中している。天嶺らのように、負けの見えている女子に投票する男子は少なかった。
何よりも天嶺が期待しているのは、水泳とはいえ勝負が出来るかもしれないということだ。
特に清隆と高円寺の二名。あの二人はクラスでも別格だろう。日頃の佇まいだけでそれが分かる。
そりゃまあ、氣による身体強化を用いれば天嶺の勝利は確実だろうが、そうじゃないのだ。たとえ氣を用いない状態限定であったとしても、自分と渡り合える――かもしれない――相手がいる。その事実自体が重要なのである。実際に好勝負が出来たなら尚良しだ。
しかし、如何に天嶺が勝負を望もうと、実際にそれが叶うかは分からない。だが、その不確かさこそが天嶺を楽しませる要因にもなっている。オアズケを食らってこそ美味しくなる面があるのも確かなのだ。――逆に、期待外れで拍子抜けする可能性も無くはないのだが。
廊下を走らないように気を付け、それでも足早に教室に戻って来た天嶺は、急いで昼食に手を付ける。
「うわぁ……。男の子って食べるのが早いんだね……」
呆けたように呟いたのは、佐藤だった。天嶺の隣席である恵と一緒に昼食を食べていたらしい。
「せっかくの手作りだ。本当ならもっとジックリと味わって食べたいのが本音ではあるが、生憎と今日は時間がない。さっさと食べて着替えに行かねばならんのでな」
「水泳だもんね~。この時期から泳げるのは楽しみではあるけど、男子に水着を見られると思うと憂鬱~!」
天嶺の言葉に対し、佐藤は期待と不安が入り混じったような表情を浮かべた。
「そうか? オレは佐藤の水着姿を楽しみにしているんだがな」
「うひゃっ!?」
タイミングを計っていたのだろう。ヒッソリと接近してきて、佐藤の耳元で呟いたのは清隆だった。
当然、清隆の接近に気付いていなかった佐藤は思いっ切り驚いた。
「あ、綾小路くん!? え……? なんか、いつもとキャラ違わない?」
「せっかくの新環境だしな。今まではキャラ変に挑戦していたんだよ。――が、実際にやってみたところ、これがイマイチ面倒でな。結局は普段通りの路線でやることにしたわけだ。
そんなわけで、佐藤。お前をオレの
困惑する佐藤に対して最低限の説明をした清隆は、彼女の顎をクイッと持ち上げてその眼を見つめ、一方的に言い放った。
顔立ちは整っているものの、デフォルトとなっている無表情や抑揚の無さに積極性の無さが重なって女子からは『根暗』認定されている清隆だが、言ってみれば行動次第で容易く覆る程度の評価でしかない。
出会ってからの期間が短いのだから尚更だし、だからこそ払拭も比較的容易い。
無表情と抑揚の無さは今までと大差ないが、行動が極端なまでに異なっている。そのギャップ故に佐藤の受ける衝撃も大きい。
繰り返すが、清隆は顔立ち自体は整っているのだ。そんな相手に至近距離から見つめられ、顎をクイッと持ち上げられ、高圧的な物言いだ。一般的な女子にとって、早々経験のある事態ではない。
「ひゃい、わふぁりました……」
混乱の余り頬を赤らめ目をグルグルと回した佐藤は、自覚のないままに肯定の返事を返した。――返してしまった。
「いい子だ」
それを見て取っておきながら、清隆はそんなのは知ったことじゃないと佐藤の頬に口付けを落とした。
昼休みの教室の中だ。既にプールへと向かった生徒もいるが、未だ残っている生徒も多い。
そんな中で、清隆は女子の頬に堂々とキスを行ったのだ。当然ながら注目の的であり、周囲からは黄色い声と怨嗟の声が上がる。
「恵、お前もだ。次の水泳は休むなよ」
などと清隆は言っているが、これは事前に話し合った結果である。
恵にだって泳ぎたい気持ちはあるのだが、好奇の視線を浴びるのや変に詮索されるのは御免である。
考えた結果行き着いたのが、視線の矛先をズラすことだった。言ってみれば、清隆はそのために協力しているに過ぎない。
「分かってるわよ」
「お前もいい子だ」
そんなことは露と知らない観客の前で、清隆は恵の頬にもキスを落とした。
再び上がる、怨嗟の声と黄色い声。
「鈴音、恵のことは頼んだぞ!」
離れた場所で、千秋と二人で素知らぬ顔をして昼食を食べていた鈴音に対し、清隆は呼びかける。
「はいはい、分かってるわよ」
鈴音はぞんざいに返したが、そのやり取り自体が二人の親密さを表すには十分である。
この瞬間、清隆に対する周囲からのイメージはこれまでと一変した。
「で、貴方の期待に応える私に対してはご褒美がないのかしら?」
ばかりか、鈴音までもがこんな言葉を返すのだから、彼女に対するイメージも一変した。
そもそも、これまでの堀北鈴音であれば、誰かと一緒に食事を食べること自体が考えられない光景であった。出会ってから短いなりに、既にそんなイメージが行き渡っていたのである。
だと言うのに、今日は松下千秋と一緒に昼食を食べている。その時点で疑問に思うべきだったのだ。
そして、その考えに行き着いた瞬間、まさか松下までも!? と皆が思うのはごく自然な反応と言えるだろう。
「あ、羨ましい。天嶺く~ん! 同じようにPlease kiss me!」
だが次の瞬間、千秋がその様に言い放ったことで、推測はアッサリと否定された。無駄に英語の発音がいい。
「食事中だ。それに、ご褒美を強請るなら相応の働きを示してからにせよ」
「ブーブー! じゃあいいよ、私の方からキスしちゃうから」
宣言通り、席を立った千秋は自分から天嶺へと近付き、その頬へとキスを落とした。
既にセックスを行った仲ではあるが、衆人環視の教室の中で自分から異性にキスをするというのは中々にスリルがあり、千秋としては十分に満足がいくものだった。
一方、千秋とすれ違う形で鈴音へと接近した清隆は、乞われたとおりにその頬へとキスを行っていた。
「あ、松下さん、ズルい!」
そこに桔梗までもが参戦して天嶺にキスを行うものだから、Dクラスの教室は一層騒がしさを増すのだった。
Q:不純異性交遊ではないのか?
A:ただの親愛表現です。実際、キスをしたのは頬だけで、唇には行ってません。
天嶺の依頼に対する費用が安いかもしれませんが、理由は本文中で語った通りです。
鈴音の発言は清隆の命令によるものです。半ば以上やけっぱちで実行してます。
普段の自分を顧みて、敗者には抗弁する権利などないのです。
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学校生活で演じる清隆の性格路線について。クール系の天嶺と、温和系の平田とは別路線を歩みます。基本的には自身の社交性を鍛えるためですが、対象やその周辺人物との友好関係や実力、五月のCPに影響が出ます。
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チャラ男ルート。対象は池。CP上昇大。
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オレ様ルート。対象は佐藤。CP上昇小。
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その他。具体的にはリクエストを。