※この作品はR-18です。

外法ってやつを見せてやろう   作:山上真

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第21話:先入観の恐ろしさか……

 時期外れにも拘らずプールの授業を行うだけあって、そこは大した設備だった。

 

「水泳部はこことは別に専用のプールで練習してるんだろう? 一体どれだけの資金を投じているのか……。俄かには信じられないな……」

 

 実際にプールに足を運んだ幸村は、その設備に感嘆の息を吐いた。

 彼にしてみればこれだけでも上等だというのに、水泳部はより上等な設備を持つ専用のプールで練習をしていると聞く。尚更感嘆せずにはいられない。

 そんな幸村に返る言葉があった。

 

「その感想には同感だな。しかし、そうか。そう考えれば、確かに九角の危惧は的外れとは言えないだろうな……。

 基本、投資ってのはリターンを見込んでこそだ。ここの生徒ってだけで、この上等な環境を味わう権利は有しているわけだが、その一点だけで誰しもに味わわせるのは投資した側としては無駄でしかない。味わうに値するだけのモノを求めてくるのは道理だろう。

 そのうちの一点が部活への所属。部活に所属すればこそ味わえるモノがある。

 そして、それ以外にも篩はあって然り。真っ先に思い浮かぶのは学力か……」

 

 発言したのは三宅明人。幸村と同じDクラスの生徒である。事前の話し合いで言っていた通り、幸村は三宅と接触することに成功していたのだ。

 

「感謝する、幸村。人に言われることで、初めて気付くことがあるってのは本当だな。

 自分自身が弓道部に所属し、それ故の特権を享受してるってのに、俺は今の今までそのことに気付いていなかった」

「仕方ない部分はあるだろう。弓道部が弓道場を利用するのは当然のことだからな。それを()()()()と捉えるのが難しいのは否めない。そしてそれは、バスケ部やサッカー部なんかも同じだろう。

 水泳は基本的にシーズンスポーツだ。その上で、水泳部には授業で使うのとは別に専用のプールがある。その二点が絡むことで、初めて優遇具合が浮き彫りになり、漸く気付きやすくなるレベルだ。

 この学校は、そもそもが『日本政府直轄の名門校』という看板を引っ提げているからな。その時点で、よほど並外れた物でない限り、()()と受け入れてしまう土壌が出来上がっているんだ」

 

 かく言う幸村も、天嶺による初日の注意喚起がなければそこまで気が回ることはなかっただろう。

 

「先入観の恐ろしさか……」

 

 幸村の意見を聞いた三宅がポツリと呟く。

 入学前にこの学校について窺い知れる情報は、どれもこれもが()()()()()()()()を伝えるものばかりだ。

 それを単純に受け入れるか、それとも訝しむか。そこから既に学校からの篩掛けは始まっていると見るべきだろう。

 二人は会話を行いながらも、事前の準備運動を欠かさない。

 そも、幸村はそれを理由にして三宅に声を掛けたのだ。

 学業一辺倒でやって来た自分は、全般的に運動がが苦手だ……と。

 誰かにフォローを頼みたくても、騒がしい相手も苦手だ……と。

 そんな折、平田から三宅が弓道部に入ったと聞いた。また、初日の天嶺による注意喚起以来、自分なりにクラスメイトの様子を窺っていた。結果、三宅に白羽の矢を立てた。準備運動を始め、自分を手伝ってくれないか……と。

 そういった事情を幸村は正直に説明して頼み込み、三宅はそれを受け入れた。

 三宅としても、天嶺による注意喚起をそれなりに気にしてはいたらしい。

 一人が気楽なのは間違いないが、たとえ少数でもつるむ相手がいた方がいいかもしれない……と、そんな風に考えるくらいには。

 その点で、幸村からの誘い掛けは三宅にとっても好都合だったのだ。

 二人が一緒にいるのにはそんな経緯があった。

 

「うひゃあ! やっぱこの学校は凄えなぁ!」

「街のプールより凄いんじゃね?」

「どうでもいいぜ、んなこと」

 

 準備運動を行っている二人の耳に、そんな声が届いた。

 見やれば、そこにいたのは早くも『三バカ』の異名を付けられた三人――池寛治、山内春樹、須藤健だった。

 

「普段の素行に問題があるのは否めないが、やはり須藤は鍛えられているな」

「ああ。関わるスポーツの部類が違うから仕方ないとは分かっているが、それでも悔しいものだな」

「スポーツマン心理、というものか。僕にはよく分からないな……」

「無理に分かる必要もないさ。そういうものがあると気に留めてくれるだけでも十分だ」

 

 そんな会話を交わしながら、二人の準備運動は終わらない。これまでの運動不足が祟って、とにかく幸村は身体が固かったのだ。

 

「お前、もう少し運動にも気を配った方がいいぞ?」

「今までになく、そのことを実感している最中だよ」

 

 思わず三宅が苦言を呈せば、幸村は苦笑しつつも同意した。――同意せざるを得なかった。

 

「この学校が真に恩恵を享受する生徒を篩掛けすると言うのなら、真っ先に危惧するべきは定期テストだろう。恩恵が並外れているからこそ、一定数以上の赤点で退学……なんて事態もあるかもしれない。

 実際、上級生のクラスはA~Dを問わず机の数が40に満たなかったからな……。決して、安易に否定できる推測じゃない」

「お前、そこまで確認していたのか……」

 

 幸村の言葉に、三宅は驚いたように言葉を発した。

 

「ああ。……だが、ここで問題なのは、果たしてそれが学力試験だけに適用されるのか? ということだ。

 さっきも言ったが、僕はこれまで学力一辺倒でやって来た。予習や復習も欠かしていないし、よほど先の問題を出されない限りは高得点を取れる自信がある。

 しかし、学校で教えるのは学業だけじゃない。体育の授業だってあるし、運動会・体育祭なんてものもある。名義が変わっただけで、小学生の時分からお決まりのイベントだ。

 だからこそ、体育祭で個人成績が一定ラインに満たない場合、退学の可能性があるのではないか? と、僕はそれを危惧せずにはいられない。

 そしてその危惧が正しかった場合、僕は今のままだと退学一直線だろう」

 

 推測を語る幸村の声は硬い。それだけ恐怖している証左だった。

 そしてそう言われれば、三宅も安易に否定は出来なかった。幸村と会話することで、三宅の意見も同意側に傾いてしまったのだ。

 

「なら、俺たちはこれからも関係を続けていかないか?

 正直、俺は運動の方にはある程度の自信はあるが、勉強の方はそうでもない。総合すれば平均程度の学力はあると思うが、得意科目と不得意科目の差が顕著なんだ。だから、お前の危惧が正しかった場合、不得意科目で退学する可能性を否定できないんだ。

 俺はお前の肉体改造に協力する。お前は俺の学力向上に協力する。……どうだ?」

「実にありがたい提案だ。喜んで受けさせてもらおう。――実を言えば、僕は九角たちとも協力を結んでいるんだが、お前もそこに加わらないか?」

「それに対して返事をする前に、まず具体的な人員構成を教えてもらっていいか?」

 

 幸村の提案に対し、三宅は即答せずに情報開示を求めた。

 当然と言えば当然の対応だろう。だから、幸村も普通に納得してメンバーを答えていく。

 

「男子の方は、僕、綾小路、九角、平田の四人。女子の方は、伊吹、軽井沢、櫛田、堀北、松下の五人だ」

「それは……理解できるような理解できないような、何とも不思議なメンバー構成だな」

「僕もそう思う。……で、どうだ?」

「誘い掛けには感謝するが、悪いがそっちの方は断らせてもらう。人数が多いのは得意じゃないんだ。――もちろん、お前との個人的な協力関係までも拒否する気はない」

 

 再度の幸村の確認に、三宅は首を横に振って答えた。

 

「……そうか。残念ではあるが、その気持ちは分からないではない。今は、個人的な協力関係を継続できるだけで良しとしよう」

 

 幸村も、そういう気質が分からないではない。自分自身がそうなのだから尚更だ。

 だから、無理に三宅を誘うつもりもなかった。言った通り、取り敢えずは個人的な協力関係が結べただけで十分である。

 

「ふおおおぉぉ……っ!?」

 

 不意に、そんな奇妙な叫び声が響いた。

 見やれば、その理由はすぐに分かった。

 声を上げたのは男子生徒の大半だ。誰も彼もが前屈みになっている。彼らの視線の先には、水着姿の女子たちが一塊となっていた。

 嫌悪の視線を男子に向ける者、恐怖の表情を浮かべる者、女子の反応は実に様々だ。

 そんな中、一部の女子が我先にと動き出す。

 澪、桔梗、千秋は天嶺の元へ。ちなみに、桔梗は佐倉と長谷部の手を引っ張っていた。

 

「平田くん、幸村くん、この子たちをお願い!」

 

 そして、恵は片方に井の頭を手を、もう片方に王の手を掴み、王を平田へ、井の頭を幸村へと預けた。

 

「お、おい!?」

「軽井沢さん!?」

 

 幸村と平田の言葉には聞く耳を持たず、そのまま自分は清隆の元へと向かっていった。

 

「軽井沢の奴……」

 

 恵の行動には悪態を吐かざるを得ないが、理解を示せないわけではない。井の頭も王も、クラスの中ではおとなしめの生徒だ。男子からの視線を集中的に浴びせられて、耐えられるとは思えない。思わない。

 ならば、視線を分散させるのは単純にして明確な解決法だ。

 現状、天嶺の元には澪、桔梗、千秋、佐倉、長谷部がおり、清隆の元には恵、鈴音、佐藤がいる。そして、王は平田の元におり、幸村の元には井の頭がいる。それ以外の女子は皆が一塊となっている。

 クラスの綺麗どころが見事に分散された上で、最も巨乳と思われる佐倉と長谷部が天嶺の元におり、オマケに天嶺と清隆はそれぞれが複数の女子を侍らせている。

 こうなると、男子の視線は自然と天嶺に清隆、一塊になっている女子の方へと向かうだろう。敢えて王や井の頭の元に視線を向ける男子もそうはいない筈だ。

 

「すまないな。軽井沢なりに、男子の視線を分散させることで君や王を護ろうとしてのことだと思う。突然に僕たちに預けられて不安と不満があるかもしれないが、理解は示してやってほしい」

 

 何で僕が軽井沢のフォローをしなくちゃならないのか……? そう思いながらも、同じグループメンバーがやったことでもあるだけに、幸村は井の頭へと謝罪を入れた。

 

「あ、いえ。確かに驚きましたけど、仰る通りに男子からの視線は分散されて私の方には向けられなくなってますので、他の人たちと一緒にいた時よりはむしろ安心できてます」

「そう言ってくれると助かる」

 

 井の頭の返事に、幸村は安堵した。決して幸村自身に非があるわけではないのだが、往々にしてそういう理屈が通じないのが男女間の関係というものだ。

 

「幸村くん、でしたよね? 軽井沢さんとは仲がいいんですか? 正直、タイプの違いというか……」

「言わんとすることは分かる。仲の良さは、まあ普通だろうな。そもそも、入学して初めて会ったわけだし……。この短時間で一足飛びに仲良くなれるほど、僕は人付き合いが得意じゃないよ。

 だがまあ、これからの学校生活を送る上で、協力関係を結んだ同士であるのも事実だ。その分だけ、分かることもある」

「初日に九角の奴が色々と言っていただろう? アレに対し、本格的に危機感を抱いた奴ら同士での集まりらしい」

「ああ……」

 

 幸村の説明だけでは理解しきれなかった様子の井の頭だったが、三宅が補足を入れたことで理解できたようだった。

 

「堀北が君と接触を取りたがっていた。後で紹介しても?」

「堀北さんが、ですか? 私に?」

「俄かに信じられないのは分かるが、自己紹介の時に裁縫や編み物が得意だと言っていただろう?

 誰しもに退学の可能性があるのなら、ハッキリとした長所を持っている人物から優先的に関係を持とうとするのは当然のことだ。社交性の評価にも繋がるし、相手の退学の可能性を減らすことにもなり得るからな。

 同じ理由で王にも接触を取りたがっていたな。中国語を学べるのは大きい」

「はあ……」

 

 理由を説明されても、井の頭は呆けたままだ。やはり、俄かには信じられないのだろう。自分の価値を低く見積もっている証左とも言えた。

 

「やあ、三人とも。御一緒させてもらってもいいかな?」

「避難目的か、平田?」

「言葉を濁さずに言えばそうなるかな。

 軽井沢さんは、王さんを慮って僕に預けた。それはいいんだけど、彼女を始めとする一部の女子が動いたことで、他の女子もいつ動き出してもおかしくない状況だ。

 それで僕たちの元に来られたら、結局は男子からの視線が集中することになりかねず、軽井沢さんの配慮が無に帰すことになりかねないからね。

 そして、言っては何だけど幸村くんと三宅くんは排他的だ。少なくとも、騒がしい相手は好きじゃない。そのことは短い期間でクラス内に浸透している。だからこそ、避難先には打ってつけだよ」

 

 平田と王の二人だけでは、他の女子がやってきた場合には合流を拒み切れない。だが、そこに幸村と三宅が加われば話は別となる。

 少なくとも、平田相手ならともかく、幸村と三宅にすき好んで接触したい女子はいないだろう。二人の普段の態度を鑑みれば、拒絶される可能性が高いのだから。

 

「同じクラスメイトだからね。それが道理に則ったものなら、僕は誰の味方もするつもりだ。

 けれど、皆の思惑が完全に一致することもない以上、優先するべきは最初に請け負った方にせざるを得ないのも事実なんだよ」

「だからこそ、そんなお前の志向性を利用した軽井沢の勝利と言わざるを得ないだろうな。

 と言うか、井の頭を僕に預けたことからして、いつの間にか僕もアイツのき――ボーイフレンドに選ばれていないか?」

 

 事情を知るが故に、思わず寄生先と言おうとして、幸村はどうにかボーイフレンドに言い換えた。

 

「はは……! その可能性はあるかもしれないね」

「笑い事じゃないんだが……」

 

 同じく事情を知る平田が軽やかに笑って同意すれば、幸村はガックリと肩を落として呟くのだった。




お気に入り登録が着々と増えているので嬉しい反面、評価されたかと思いきや☆1が連続しており流石に凹みますわ……。
安定的に高評価を得られた後なら然程気にしないこともできますけど、そうでない以上はどうしても気になってしまいます。
やる気下げるようなことしないでほしいって言ってるのに、何でわざわざ☆1入れてくんですかね?
誤字脱字とかなら対応も出来ますけど、大抵の場合は対応できない場合が多いんですよね。
つまらないとか言われても、感性の問題はこっちじゃどうすることも出来ませんし。そもそも評価だけでコメント入ってませんし。
気に入らないならそっ閉じすればいいだけでしょうに。
読者には申し訳ありませんが、吐き出さないとやってられませんわ。

まあ、気を取り直して、今回はプール回ですね。
教師が来る前の光景を、幸村と三宅を軸に描写しました。

原作だと、水泳部専用のプールが授業用のとは別に存在することが読者に明かされるのは4.5巻が最初だと思いますが、まあ普通に考えて、この時点で部活動説明会やパンフレットを介して生徒には周知されているだろうなと。
反面、部活動説明会に参加しなかったり、参加してパンフレットを持ち帰った生徒と交流のない生徒には知る由がないということでもありますが……。
それを『金かけてんなぁ……』とか、『すっげえ設備……』とかで単純に受け流すんじゃなく、そこから一歩進んで疑問を抱き、危惧を覚える。
幸村と三宅の組み合わせなら、それも可能かなと思います。

原作だとこの時点の幸村って割と視野狭窄に陥りがちなんですけど、それって意見交換できる相手がいないからでもあると思うんですよね。
本作ではそこら辺を改善してますので、原作ほど視野狭窄には陥りません。

一方、三宅と言えば長谷部な組み合わせのイメージがありますが、それが読者に周知されたのって原作の6巻で、それも『元々交流があった』的な過去形表示で、厳密にいつから交流があったかは不明なんですよね。
たぶん、中間に対する勉強会辺りが切っ掛けだと個人的には思ってます。
勉強会には巻き込まれたくはない、だけど一人でいると無駄に声を掛けられる……こんな意識が働いた結果じゃないかと考えてます。
或いは、平田が橋渡しをした可能性もあるでしょう。

リクエスト結果を踏まえ、本作では長谷部波瑠加を天嶺のヒロインとする路線ですので、上記の解釈も合わせ、『入学して間もないこの時期だと、三宅と長谷部はまだ本格的な交流を持っていない』設定で行かせていただきます。
男チャのやり取りで、そこら辺は示唆しています。

ただ、それはそれとして、原作での人間関係を極端に壊す気もありませんので、『清隆グループ』の面々は普通に馬が合う設定です。

ただ、軽井沢グループは……うん。あっちはどこからどこまでが『軽井沢グループ』なのか分からないんですよね。
早期から佐藤と篠原が目立ってて、そこに松下が目立ち始めてって感じで、でもそれぞれがそれぞれ他にもモブ女子と交流を持ってるのは所々で描写されてますので。
目的意識が先に来ているため、メンバー固定なのが清隆グループ。気楽さが先に来ているため、その時々でつるむ相手が入れ替わるのが軽井沢グループだと解釈しています。

まあ本作だと、既にこの時点で恵の『イジメられないための方針・方法』が原作とは異なってますし、千秋も実力隠さずシビアに学校生活に臨む予定ですので、軽井沢グループが結成されるかも分かりませんし、結成されるにしても目的意識が先に来ることになり、原作ほどの気楽さはなくなります。
佐藤は清隆にロックオン&フィッシュされたために、加わることが確定してますが……。

感想・中~高評価・リクエスト・お気に入り登録お願いします。

学校生活で演じる清隆の性格路線について。クール系の天嶺と、温和系の平田とは別路線を歩みます。基本的には自身の社交性を鍛えるためですが、対象やその周辺人物との友好関係や実力、五月のCPに影響が出ます。

  • チャラ男ルート。対象は池。CP上昇大。
  • オレ様ルート。対象は佐藤。CP上昇小。
  • その他。具体的にはリクエストを。
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