※この作品はR-18です。

外法ってやつを見せてやろう   作:山上真

25 / 26
第23話:女は化けると言うが、これは見事に化かされたわ……

 その日の放課後、天嶺は校舎内を練り歩いていた。

 入学直後、特に危険な箇所がないか一通りの確認は済ませたつもりだが、佐倉の事例を見るとそれに胡坐をかいてはいられなかった。

 心当たりがないかを確認したところ、『あちこちで自撮りを行ってました』との返事である。

 普段の佐倉の様子からは結び付かない行動だが、化粧一つで()()()のが女という生き物でもある。それすなわち、擬態能力の高さを表している。佐倉がそうであったとしても不思議はない。

 

「ここか?」

「えっと、はい……」

 

 天嶺の確認に、佐倉は言葉少なく首肯で返す。

 そこは特別棟の一室だった。特別棟は特に監視カメラが少なく、その名の通りに特別教室が揃っているのが特徴だ。

 理科室や美術室、家庭科室など、中には部室としても活用されている部屋が無くはないが、そういう部屋はキチンと監視カメラがあるし、一つの階に集中している。

 逆に言えば、階を跨げば使用率の少ない部屋が集中しており、だからこそ人気も無ければ監視カメラもない。それでいて部屋ごとに趣が違うのだから、ヒッソリと自撮りを行うには最適ではあるのだろう。

 納得した天嶺は、佐倉を廊下に待たせ、澪をその護衛として残し、室内へと入り込む。

 

(外れか……)

 

 室内に足を踏み入れた天嶺は注意深く周囲を確認し、その結果として結論を出した。

 そも、確かに学校という建物は『学校の七不思議』を始めとする怪談――怨霊怪異と縁深いが、だからこそ、その舞台となり得る箇所や方向性は固まりがちだ。

 曰く、『誰もいない音楽室で勝手にピアノが鳴る』。

 曰く、『誰もいない体育館でボールのバウンド音がする』。

 曰く、『理科室乃至は保健室の人体模型が勝手に動く』。

 曰く、『偉人を描いた人物画の視線が動く』。

 一例を挙げればこんな形で、どこもかしこも大抵は似たり寄ったりだ。また、代表格の『トイレの花子さん』を忘れてはならないだろう。

 その事実がある故に、天嶺も入学直後に最低限の確認は済ませている。

 しかしながら、学校によっては偶に()()()()の怪談があるのも事実であり、場合によってはそれを見逃している可能性も否めない。だからこそ、確実性を高めるためにも、佐倉の案内で彼女が自撮りを行った各所を確認しているのだ。

 

「ここは外れだ」

 

 部屋を出た天嶺は端的にそう言って、次の場所への案内を佐倉に促す。

 巡回結果次第で、佐倉に纏わりついていた微弱すぎるチカラの残滓は、誰かが人為的に行ったものである可能性が高まる。

 真に覗き目的だったとしたら、それは確かに恐怖ではあるが、自室には結界を張ってくれるとのことであるし、外での自撮りを中止すれば今後の被害は防げることになる。――今までのは、諦めるより他にないが……。

 そういう理由がある故に、佐倉も案内を買って出ていた。自分の足跡を辿られることに恥ずかしさがないではないが、訳が分からぬまま恐怖に縮こまっているよりは遥かにマシなのも事実であった。こうと決めた際の行動力が高いのは、当人も認めるところである。

 

「外れだ」

「外れだ」

「外れだ」

 

 同じ建物内といえど、この一週間ほどでよくもまあ……と、天嶺らが呆れざるを得ないほどに、佐倉は特別棟の各部屋を回っていた。実際に室内を確認してから自撮りを行うかどうかの判断を下すのは当然のことで、単に足を踏み入れただけの部屋も含めれば、確認する箇所は一気に増えた。

 それでも、幸いなのは特別棟に限られていたことだろう。これ以上に日が経っていれば、確認する場所はもっと増えていたに違いない。

 

「へえ~、佐倉さんって意外に行動的だったんだね。教室の姿だけだと見えてこないや」

 

 そう零したのは長谷部波瑠加だった。

 聞けば、以前から巨乳同士ということで佐倉には一廉の共感意識を持ってはいたそうなのだが、自身の性格や佐倉の様子もあって接触するのは控えていたとのこと。

 しかし、それも今日の水泳授業で、自分の意思とは関係なく半強制的に接触を取らざるを得なくなったため、いっそのことこの機会に距離を縮めようという魂胆のようだ。

 

「私って一人を苦にする性格じゃないんだけど、だからって友達が要らないかって訊かれるとまた別なのよ。

 とはいえ、好き嫌いや得意不得意に対して素直に行動するタチでもあるから、それで相手を不快にさせることもしばしばでさ。

 気付いた時には素直に謝るようにはしているけど、いちいちそういうのを気にして人間関係を構築するのも面倒で、結局は『一人でいっか、気楽だし……』って結論に落ち着いちゃうわけ。

 佐倉さんの場合、見るからに人付き合いを苦手にしてるって言うか拒否ってる感じだったから、私としても気を使って接触を我慢してた面が無くはないんだけど、そんなん関係なく距離詰めることになっちゃったんだから、交流を図らないと損でしょ」

 

 とは、同行前に語った長谷部の言である。

 そう言われてしまえば、我慢していた相手に対して切っ掛けを作ってしまった側である天嶺らは拒否できない。

 佐倉自身も、普段の様子とは裏腹にその実は友達を欲しがっていたらしい。ただ、無駄に騒がしい相手は苦手で、一匹狼タイプは怖い、おとなしいタイプはおとなしいタイプで既に固まっており、その波に乗り遅れてしまった佐倉は今から合流するのも難しく……と、諸々の理由から半ば諦めていたそうだ。

 佐倉自身は口に出さなかったが、他にも佐倉の過去が関係している。今は活動休止中だが、佐倉は新進気鋭のグラビアアイドル『雫』として活動していたのだ。その事実がある故に、どうしても人間関係の構築に対しては慎重にならざるを得ない部分もあった。

 佐倉の過去はさて置き、水泳の授業を機に実際に話してみれば、長谷部は一匹狼タイプでこそあるものの佐倉にとって決して話しにくいタイプというわけでもなく、むしろ交流を深めるのは佐倉にとっても望むところであった。

 

「人付き合いが苦手だから、友達がほしくても話しかける勇気が出なくて、相手から話しかけられても緊張が勝ってつい逃げ出しちゃうの。

 昔からそんなだから、自分の方から距離を取りがちになっちゃったんだよね……」

 

 ともすれば、佐倉の方も長谷部に対して共感意識を持っていたのかもしれない。

 天嶺と澪という()()()を気にすることなく、二人の間で会話が紡がれていく。

 

(いい傾向だな……)

 

 思いながらも口に出すことはなく、天嶺は調査を進めていく。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 結論から言えば、本日の調査は空振りだった。

 逆に言えば、特別棟の安全性は最低限の確認が取れたことになる。

 言い換えれば、やはり佐倉に纏わりついていたチカラの残滓とも言えない残滓は、人為的なものの可能性が高まったことになる。

 そこで問題となるのは、ここが新入生にとっては訪れて間もない()()()であることだ。

 以前からの知人と遭遇する可能性がないではないが、果たしてその可能性は如何ほどか。それよりは、偶然出会った初見の相手に何らかの理由で目を付けられたと見るべきだろう。

 とはいえ、確率が少ないながらに前者の可能性が無くはないので、一方的に佐倉を確認した昔からの知人が、保護する目的で何らかのチカラを行使した可能性が微弱ながらに無くはない。

 

「取り敢えずはこれで良かろう。インテリアにそぐわないのは理解しているが、そこは我慢をしてほしい」

 

 佐倉の寮室内にお札を貼って、天嶺はそう言った。

 室内はもちろん、トイレやバスルームも結界の対象に含める必要があったため、言葉通りそこかしこにお札が貼られている。――もっとも、天嶺的にはこれでもお札の数を抑えた方なのだが……。

 

「だがまあ、これで外からの干渉は余程強力なものでなければ遮断できる筈だ。少なくとも、そんじょそこらの素人に破れるほど柔なものではない」

 

 腕を組んで告げる天嶺からは、確かな自信と自負が見て取れた。

 界隈には疎い――と言うより門外漢な佐倉と長谷部だが、だからこそ、その自信ありげな様子に安心感を得ることが出来た。正確には、無理にでも抱かざるを得なかった。

 二人の少女は改めて室内を見回す。

 やはり、お札がアンバランス感を醸し出しているのは否めない。しかし、それは室内が基本的に洋風の造りをしているからでもあるだろう。

 

「まあ、入学直後で私物が少ないことも相俟って、これはこれでインテリアとして見ることが出来なくはないかな……」

 

 両手の親指と人差し指を合わせて四角形を作った長谷部は、そこから覗くようにして室内を再確認。感想を呟いた。

 ここは佐倉の部屋だが、長谷部の部屋も負けず劣らず私物が少ない。大部分の生活用品は元から用意されることもあって、私物の持ち込み自体に制限が掛かっているからだ。

 例えば高額商品の場合、楽器などであれば割と容易に持ち込み許可は下りる。技量を磨くには日々の練習が欠かせないからだ。そして楽器というものは、基本的に高額であるが故に改めて購入するのも容易ではない。

 その一方、同じ高額商品でもテレビなどは許可が下りない。画面は小さくとも、個室に元々用意されているし、テレビから情報を得るにはそれで十分ではあるからだ。敢えて大きな画面を求めるのは、極論すれば個人の我儘に過ぎない。

 あまり高額でない商品に関しては、特に許可を得なくとも持ち込みがOKされているが、それも場合によりけりだ。

 巻数にもよるだろうが、何十冊もあるようなシリーズ物の全巻などとなればキチンと許可を取る必要がある。そのうちの、一、二冊程度なら許可を取る必要はないが。

 そして事実、持ち込んだ私物を抜きにしても、使い勝手や配置などによる慣れなさからくる不便がある以外には、生活する上での不足はない。

 逆に言えば、元々の付属品と、このお札を軸にしてインテリアの方向を定めることも十分に可能ではあるわけだ。言わば和洋折衷である。

 

「ねえ、もし九角くんたちさえよければだけど、私の部屋にもこのお札を貼って結界を張ってもらえない? 佐倉さんと違って被害に遭ってるわけでもないからポイント払った方がいい?」

「結界を張るのは構わんし、この程度でクラスメイトから費用を受け取ろうとは思わんよ。基本的に公私混同は避けるべきだが、完全に公私の別を付けるのが難しいのも事実なのでな。

 どうしても費用を徴収する必要に迫られたのなら、それこそ学校に請求するさ」

 

 長谷部からの質問に、天嶺は微笑を浮かべて答えた。

 

「ま、お前の危惧も分からないではない。客観的に見た場合、佐倉は確かに優れた容姿の持ち主だが、他にも優れた容姿の持ち主は多い。然るに、佐倉が選ばれた理由として容姿以外も考えるのは理に適っている。

 その理由として真っ先に思い浮かぶのは、やはり()()()()()になるのは否めないだろう。次点で、当人の性格や人間関係などになるか……」

「そういうこと。で、そこら辺を考えた場合、私も佐倉さんも胸がクラスで一、二を争うほどに大きい。

 この短時間で性格までを性格に測ることはできないだろうけど、普段から一人で行動していることが多いのは簡単に分かるでしょ。

 新入生ということもあって、ただでさえ人間関係は薄いしね。ここ最近になって現れた制服を着た見慣れない人物ってなれば、たとえ学校の関係者じゃなくても新入生と結び付けるのは容易だろうし……。

 これだけだと、私と佐倉さんのどっちが選ばれてもおかしくはなかった。そんな中で決め手となったのは、佐倉さんの普段の姿勢が原因なんじゃないかと思うわけ。髪結んで、メガネかけて、常に猫背気味で俯き加減でって、絵に描いたような()()()一直線で、交流関係の薄さが透けて見えるようじゃん。

 でも、だからこそ、犯人が調子に乗った場合、いつ私までもターゲットにされるか分かったものじゃないわけよ」

 

 本人も相応の危機感を抱いているからだろう。長谷部の言葉は十分に筋が通っていた。

 

「あの、私が選ばれた理由、たぶんもう一つあります」

 

 そこに、覗きの被害に遭っていると思われる佐倉本人が口を挿んできた。

 

「もう一つ? 断言はしてないにしろ、可能性は高いと思ってそうね。何か根拠でもあるの?」

「一応。ちょっと時間が掛かるので、少し座って待っていてもらっていいですか?」

 

 言って、クッションを差し出した佐倉は、最初から部屋に備え付けられているパソコンの電源を入れた。

 全寮生の部屋に備え付けとあって型落ち品なのは否めないが、それでも流石は高育の寮というべきか。十分な現役能力は持っている。読み込み時間も、決して我慢できないほどじゃない。

 パソコンを起動した佐倉は手慣れた様子でネットに接続し、お気に入りからブログを開いた。

 それは新進気鋭のグラビアアイドルであり、人気が出始めたばかりだというのに突如として活動を休止した『雫』のホームページでもあった。

 そして佐倉は、開設者だからこそ可能なページへとアクセスし、それを成功させた。

 

「いや、ちょっと待って……。今のを成功させたってことは……」

 

 己が頭に手を当てて澪が呟く。

 

「これ、私なんです」

 

 しかし、佐倉から齎された言葉は、推測を裏付けるものでしかなかった。

 それだけでは足りないと思ったのか、佐倉は眼鏡を外し、結んでいた髪を解いて手早く髪形を変え、服装はそのままにグラドルらしいポーズを取った。その表情も見事な笑顔を浮かべており、服装の違いにさえ目を瞑れば、表示されてる投稿写真と瓜二つであった。

 いや、おそらくは当人であることを証明するために、敢えて表示された写真と同じポーズを取ったのだろう。

 

「女は化けると言うが、これは見事に化かされたわ……」

 

 天嶺も口を開けて呆けている。

 

「で、注目してほしいのは、ブログのこのコメントなんですよね」

 

 そんな周囲の反応を余所に、佐倉は再度パソコンを操作して、とあるコメントを表示させた。

 コメントの投稿内容は佐倉との出逢いを喜ぶものであり、その投稿時期は見事なまでに入学後だ。

 

「もちろん、私に心当たりはありません。雫としての活動なんて、自撮り写真の投稿くらいしかしてませんので……」

 

 つまり、このコメント主は元々が雫のファンであったが故に、佐倉を雫と見抜いた可能性が高いということだ。

 

「タイミングを鑑みれば、このコメント主が下手人の可能性が高いか……」

 

 険しい眼差しでパソコン画面を覗く天嶺が呟いた。

 氣というものは一朝一夕で目醒めるものではない。多分にして()()()()()()()()()()が必要になる。

 そして認めるのが癪ではあったが、客観的に見て、このコメント主は氣に目醒める可能性を十分に宿しているように思えた。

 行き過ぎたファン心理が氣に目醒めさせ、そのチカラを用いて覗きに走らせた可能性は決して否定できないのだった。




ここまで書けば分かると思いますが、佐倉のストーカーは氣に目醒めています。
まあ、せっかくの『魔人』クロスなのでね。
ネタバレすると、能力は『遠視』、『超聴覚』、『遠隔透視』、『念写』といったところです。戦闘には役に立ちません。所詮はファンを拗らせたストーカーが欲したチカラですしね。
極論、このストーカーって佐倉との距離を縮めるためのギミック・カマセの類ですし。
ただ、弱い分だけ対処しようにも対処できないのが現状であり、相手の出方を見るしか出来ないのが実情です。

私物の持ち込み許可品に関しては独自設定です。
いわゆる部活に関連あるタイプのmy○○――シューズとか、ボールとか、楽器とか――で高額な物は、事前許可を得れば持ち込みOKとしています。

感想・中~高評価・リクエスト・お気に入り登録お願いします。

学校生活で演じる清隆の性格路線について。クール系の天嶺と、温和系の平田とは別路線を歩みます。基本的には自身の社交性を鍛えるためですが、対象やその周辺人物との友好関係や実力、五月のCPに影響が出ます。

  • チャラ男ルート。対象は池。CP上昇大。
  • オレ様ルート。対象は佐藤。CP上昇小。
  • その他。具体的にはリクエストを。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。