正味な話、放課後の教室にすき好んで残る生徒などそうはいない。
おしゃべりに興じたまま残っている生徒もいないではないだろうが、そんなのは極僅かだろう。どうせおしゃべりに興じるのなら、カフェなどでお茶やお菓子を摘まみながらの方が楽しいというものだ。
「やあ、待っていたよ。君が九角くんであっているかな?」
だからこそ、出会い頭にそんなことを訊いてきた人物は、明確な目的意識を持ち合わせているのが明らかだった。
「鬼龍院、何だってお前が九角の奴を待ってるんだよ?」
天嶺が誰何する前に南雲が言葉を発したことで、自ずと相手の正体は知れた。
鬼龍院楓花。生徒会副会長南雲雅が、『自分の遊び相手が務まる』と認めるほどの人物だ。――生憎、鬼龍院は南雲を袖にし続けているそうだが。
実際、鬼龍院は南雲に応えるそぶりを見せない。その眼は真っ直ぐに天嶺を見据えている。
「如何にも。俺が九角天嶺だが。……失礼だが、どこかで会ったことでもあったかな? こちらにはとんと心当たりがない。
先輩の苗字である『キリュウイン』が指す漢字が、俺の想定しているものと――すなわち『鬼』と『龍』であるなら親近感は抱くがな」
「であるなら、君の想像は間違っていないし、私の想像も間違っていなかったということになるだろうな。
私の苗字である『鬼龍院』は、『鬼道衆』と『龍閃組』から一字ずつ頂いたと伝わっている。
そして、我が家に残されていた資料によると、鬼道衆の頭目は九角天戒という名前だったとある。
そら。同じ『九角』という名字を持ち、同じ『天』の一字を引っ提げた君のことを、私が気にしたとしても不思議はないだろう?
で、どうなのかな?」
表情には笑みを浮かべながら、それでも眼は真っ直ぐに天嶺を見つめて鬼龍院は言う。
その言葉を聞いた天嶺は俄かに驚いた。表情に表れる辺り、かなりの驚きであることを意味している。
そも、今現在は退魔組織として名を掲げている鬼道衆はともかく、龍閃組の名を知る術は正しく限られているのだ。その名は表舞台には伝わっていないのだから尚更である。
「確かに、俺は鬼道衆が頭目――九角天戒直系の子孫だ。
幕末の折、最初は敵対し、後に協力し、最後には解散したのが両組織だ。現在の鬼道衆は、解散後に元鬼道衆と元龍閃組が手を取り合って再編された組織が基になっている――と伝わっている。
その一方、一度は組織が解散されたのは事実であり、かつてのメンバーの全員が集ったわけではないらしいことも資料には残されている。
である以上、去った後に戻らなかった者たちの中から、『鬼龍院』を名乗った者がいないとも言い切れない。
或いは、直接のメンバーではなくとも、関わりの深かった人物が名乗った可能性もあるだろう」
鬼龍院の質問に対し、天嶺は記憶から情報を引っ張り出して答えた。
「おや? その言い分からすると、今現在も鬼道衆は残っているのかな?」
「うん? 知っていたのではないのか?」
「生憎と。――いや、私の家は知っている可能性もあるがね。
うちはそれなりの名家なんだが、私は親の敷いたレール通りの人生を歩むことを是とはしていないわけさ。
とはいえ、家に誇りを持っていないわけではない。鬼龍院を名乗るに相応しい人物足らんと努力を怠ったつもりもない。文武両道を通ってきた自負はあるし、家伝の体術も一通りは修めている。私にそれらを教えてくれた、師とも言える祖父のことは好きだし尊敬している。
実のところ、先の情報も祖父より伺ったことだ」
肩をすくめながら語る鬼龍院の言葉を聞き、天嶺は眉を動かした。
鬼道衆と龍閃組には、それぞれ実働戦力だけで十人以上が参加していたという。組織としては小規模だが、実働戦力の最低条件が『氣を扱えること』であり、それを踏まえればまさしく少数精鋭と言えるだろう。
そして、そんな参加者の中には体術の使い手も少なくはなかったらしい。
天嶺が体術と聞いて真っ先に思い浮かべるのは自身も学んだ龍技だが、当然ながらそれ以外の体術の使い手もいた。
また、今現在九角家に伝わる龍技は、当時の仲間である緋勇と風祭から伝わったとされている。
そのような事情がある故に『家伝体術』の言葉だけで絞り込むのは難しいが、決して気に掛からないわけではない。
「なるほど。その祖父は一廉の人物であり、我らのことも知っている可能性はあるだろうな。
ともすれば、単に俺が知らないだけで、現在の頭領である父は鬼龍院家を知っている可能性もある。
如何に次期頭領とはいえ、俺は父に斡旋された仕事を行う立場でしかない。立場柄触れられる情報は多いが、全ての情報に触れられるわけでもない。
その証拠――と言えるかは微妙だが、先輩の身体を流れる氣は淀みがない。得たチカラに安易に溺れず、習熟に努めた証であろうよ」
天嶺の眼は、氣が鬼龍院の身体を淀みなく巡っているのを捉えた。
陰には寄らず、陽にも寄らず。中立中庸。されど、必要とあれば陰陽どちらにも寄らせることが出来るだろう。
確かな修練を積まないと、決してこうはならない。そして、闇雲な修練だけではこうなる道理はない。
「……と、いつまでも立ち話をしているわけにはいかんな」
本来は仕事のためにやってきたのだ。天嶺は話を切り上げ、応急処置に取り掛かる。四隅に盛り塩を置いて結界を張るだけの簡単な仕事だ。
「ほう? 見事なものだな。生憎、この手の結界なんかは私は門外漢だからな。私に出来ることなど、いわゆる発勁で以て祓うくらいだ。……が、チカラを入れすぎれば教室がボロボロになってしまうからな。自分ではどうすることも出来ず、忌々しく思っていた部分が無くはない」
「まあ、如何なる分野であろうと、誰しもに向き不向きはあって然りだからな。
ところで、もし先輩さえよければ、こちらの南雲副会長殿に氣の使い方を御享受してやってはくれないかな?
正味な話、南雲副会長殿は非常に危うい状態にある。
オマケに、自分と渡り合えると目を付けた鬼龍院先輩と生徒会長殿には袖にされ続けているとのことで、尚更に危うい状態にある。
だからどうだろう? 俺と副会長殿を助けると思ってやってはくれないかな?」
どうせだからと、天嶺は鬼龍院に一つ頼みごとをすることにした。
結局のところ、人手不足はどうしようもない。現状、あちらを立てればこちらが立たなくなるのは道理。ならば、ダメ元でも頼むだけの価値はあった。
「なに? ……いや、本当だな。南雲、お前、どうしてその状態で無事でいられるんだ? 普通であればとっくに陰の氣に呑まれているぞ?」
天嶺の言葉を聞いた鬼龍院は瞳に氣を集中し、その上で南雲を見やった。その後、実に不思議そうに首を傾げて問いかけた。
「知るか!」
対する南雲としてはそう返すより他にない。鬼龍院と違って門外漢なのだから。
「まあ、分かった。流石にこの状態を放ってはおけんだろう。
正直、これは私の落ち度でもある。氣を扱えるかどうかだけを判別材料にして、扱えないと分かったら気にしてもこなかったからな……」
己が額に手を当てた鬼龍院は、溜息を吐いてそう言った。
鬼龍院が修めているのは知識や技術に寄っているのだろう。修めてはいても
言ってしまえばそういうことだろう。一定の筋は通っている。
そも、一端の経験を積んでいるのなら、程度はともかく常時瞳に氣は回しているし、自身の領域を展開しているものだ。それを怠っている時点で、鬼龍院が経験不足なのは明らかだった。
「あ~、つまり、俺は鬼龍院から氣の使い方を教われと?」
「そういうことになる。無論、余裕と都合が合えば俺も教えるが、率直に言って人手不足なのだよ」
「……だろうな。そういうことらしいからよ、これからはよろしく頼むぜ、鬼龍院」
天嶺の言葉に頷いた南雲は、素直に鬼龍院へと頭を下げた。教わる側としての礼儀は備えている証左だった。
「素直に頭を下げるお前は気味が悪いが、まあ、よろしく頼む。……もっとも、私は私が教わった方法でしか教えることが出来んからな。そこは了承しておけよ」
「おう」
こうして、鬼龍院楓花も同行者に加え、天嶺は再びの結界行脚に繰り出した。
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その後は特に問題もなく1-Cまでの応急処置を済ませ、一行はその足で生徒会室へと向かっていた。――もっとも、1-Bだけは別だが。万一を思えば保健医が長く保健室を空けておくことは出来ないため、1-Bだけは後回しにすることが前以て決められていたのである。
生徒会室に向かう目的は、生徒会長に南雲のことを頼むためだ。
既に鬼龍院にも頼んでいるが、如何せん分野が違う。
頼みを引き受けたとはいえ、鬼龍院も連日連夜南雲に付き合う気はないだろう。
南雲の方も、一朝一夕で氣を扱えるようにはならない筈だ。南雲であればその難度を楽しく思うかもしれないが、延々と使えないとなれば、それはそれでストレスが溜まるのは道理だ。
ならば、そのストレスの発散法を用意しておくに越したことはなく、学が南雲の
「……なるほど。言わんとすることは分かった。
振り返ってみれば、俺は南雲を導こうとはしていたが、その多くは押さえつけてばかりで、頼みを聞くことはなかったように思う。
鞭だけを与えられて、素直に従う道理はない。俺は飴を与えるのを怠っていたということだな……」
天嶺の言葉を聞いた学は、神妙な表情で頷いたのだった。
それを受け、南雲が非常に上機嫌になったのは言うまでもない。
そのまま、天嶺は協力者に関する書類を提出する。これを提出しているかどうかで協力者の外泊等に関する融通が変わるとあれば、都度都度提出しておいて損はなかった。
「鬼龍院、お前も生徒会に入る気はないか? ついでだから、俺にも氣とやらを教えてほしい」
「……教えるにしてもその方が好都合ではあるか。入会する以上、生徒会の仕事も必要最低限には行うが、それ以上を行う気はないぞ?」
「ああ、それで構わん。為人はともかく、お前の能力が高いことは知っている。お前が協力してくれる分だけ仕事が早く片付くことになるだろうし、その分だけお前に氣を教わる時間が増えるだろう」
「会長が学ばれるなら私も教わります! 構いませんか、鬼龍院さん!?」
「ああ。私自身、未だかつて誰に教えたこともないんだから、一人に教えるも複数に教えるも同じだよ。
ただ、これは南雲にも言ったが、私に出来るのは私が教わったことをそっくりそのまま教えることだけだ。その点は了承しておいてくれ」
こんな一幕があり、生徒会が氣の習熟所じみた側面を持つようにもなったが、それはそれである。
「では、俺はこれで失礼するぞ」
一言告げて天嶺は生徒会室を辞した。
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そして、天嶺と茶柱教諭はその足で保健室へと向かった。
「失礼する」
「待ってたよ、九角くん! って、佐枝ちゃんも来たんだね……」
「私が同行するのは予め通達しておいただろうが……」
ノックして保健室に入った天嶺をハイテンションで迎えた星之宮教諭だったが、その横に茶柱教諭の姿を認めてガックリと肩を落とした。
対する茶柱教諭は、手で己の頭を押さえて溜息を吐いていた。
「そうだけどさ~」
茶柱に答える星之宮はふくれ面だ。その仕草は年齢不相応に幼さを醸し出している。それを見て
「仲がいいのは分かったから、とっとと行こうではないか」
「は~い!」
「ああ」
天嶺が呆れ気味にツッコめば、星之宮教諭は元気に手を挙げて応え、茶柱教諭は静かに頷いた。端から見ればどっちが教師なのか分かったものではない光景である。
「ねえねえ、九角くん! うちの教室が終わったらさ、よければ保健室もやってくれない?」
道中、星之宮は天嶺に訊いてきた。
「まあ、構わんよ。時間もあることだしな。それに、保健室は
「そうは言うが、流石に特別教室まで回る余裕は私にはないぞ? こっちにも仕事があるんだからな……」
天嶺が星之宮に答えれば、泡を食ったのは茶柱である。言葉通り、彼女には彼女で仕事がある。可能な限り天嶺の仕事に協力姿勢を示すように上から指示は出ているが、それにも限度があるのは否めない。
「分かっているとも。今日、手を付けるのは保健室だけだ。そこであれば、星之宮教諭が同席すれば問題はない」
「なら、いい。1-Bが終わったら私は職員室に戻らせてもらう」
茶柱の危惧は天嶺も承知している。そこに理解を示せないほど度量が低いわけではない。
天嶺の言葉を聞いた茶柱は、ホッと安堵の息を吐く。
そうこうしている内に1-Bの教室に着いた。
「もう! 遅いですよ、星之宮先生!」
教室内には何人かの生徒が残っていた。その内の一人である女生徒が、腰に手を当てて星之宮に食って掛かる。
「いや、遅いって言われても……。私は別に待つようには強制してないよ、一之瀬さん?」
「それはそれです! 正直、あんな興味をそそられるようなことを言われれば、気になって仕方がないですよ!」
「星之宮教諭よ、いったいどのようなことを言ったのだ?」
二人のやり取りを目にすれば、天嶺も興味深げな視線を星之宮に向けざるを得なかった。
「そんな大したことは言ってないよ! さ、ちゃっちゃとやっちゃおう! ――あ、その前にせっかくだから自己紹介をした方がい~い?」
その言葉で、天嶺は察した。おそらく、星之宮の目的は互いを紹介させることにあったのだ。
同じ学校の生徒である以上、いずれは面識を持ったであろうが、違うクラスである以上はその分だけ遅れても仕方がない。
おそらく、星之宮はそれを嫌ったのだ。それは天嶺のチカラが故か、或いは学力の一端を知ったが故かは分からないが……。
「まずはやることを済ませる。自己紹介はその後でも構わんだろうよ」
言って、天嶺は手慣れた様子でファイルからカードを取り出し、盛り塩と食器を顕現。それを四隅に置き、結界を発動させる。
一連の様子を見ていた1-Bの生徒たちは、いずれも驚きに目を丸くする。
「驚いたな……。手品――ではなさそうだ。こんなものを見せられれば、星之宮先生の勧め具合にも納得がいくというものだ……。
ああ、挨拶が遅れたな。俺は神崎隆二という」
唯一の男子生徒が真っ先に名乗り、次いで女生徒たちが名乗っていった。
それぞれ、網倉麻子、一之瀬帆波、白波千尋というらしい。なお、1-Bでは独自に委員長システムを採用しているそうで、一之瀬は1-Bの委員長で神崎は副委員長なんだとか。
神崎と一之瀬が残っていた理由は主にそれであり、網倉と白波は個人的に付き添っていたらしい。
「俺は1-Dの生徒で九角天嶺という。以後はよろしく頼む」
男同士、天嶺と神崎は握手を交わす。一之瀬、網倉、白波の順で手を差し出してきたのでそちらにも応じる。
こうして、天嶺は神崎や一之瀬らと面識を持ったのであった。
(そのうち、一之瀬の部屋にも結界を張りに行った方がいいかもしれないな……)
佐倉と長谷部にも負けず劣らずの立派な胸部装甲を一之瀬は備えている。
その事実を踏まえ、天嶺はそんなことを考えたのだった。
本作の鬼龍院はこんな感じです。
家に誇りを持ってはいますが、だからこそ家の体面よりは己の生き様を重視するタイプのキャラにしています。
そして、その誇り高さ故に、南雲の状態を見過ごしていたのは彼女にとって落ち度でしかありません。
本文中で描写した通り、実践と実戦が足りないが故の弊害ですが、落ち度は落ち度。
それを事実として認めるからこそ、比較的容易に天嶺の頼みを引き受けた感じです。
もちろん、家のルーツに深い関係のある『九角』に対する好感度が最初から割かし高く、その直系である天嶺の言葉を無下に出来なかった面もあります。
鬼龍院家の起こりとしては、『外法帖』の澳継が風祭家を継いだ後で分派した想定です。
澳継の子供が、澳継の命令で名乗ったのが始まり……みたいな。
いや、『魔人』とのクロス作品としては、鬼龍院なんて如何にもな名字の家は関係性を持たせたくなります。
ただ、鬼龍院家はその流れで現在まで氣を伝えており、名家の立ち位置を掴んでこそいますが、別に退魔を生業にしているわけでもないため、天嶺は鬼龍院家を知らなかった感じです。
あとは、一之瀬を始めとする1-Bの一部と天嶺を出会わせました。
本当なら1-Aや1-Cの面々とも出会わせたかったのですが、長くなりすぎるので泣く泣くカットです。
入学して間もない四月中の放課後ということもあり、教室に残っている姿が想像できなかったのも一因です。
その点、1-Bの一之瀬達なら、星之宮先生がちょっと吹き込んでおくだけで残っている姿が容易に想像できました。
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学校生活で演じる清隆の性格路線について。クール系の天嶺と、温和系の平田とは別路線を歩みます。基本的には自身の社交性を鍛えるためですが、対象やその周辺人物との友好関係や実力、五月のCPに影響が出ます。
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チャラ男ルート。対象は池。CP上昇大。
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オレ様ルート。対象は佐藤。CP上昇小。
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その他。具体的にはリクエストを。