考えるのも面倒なので、文中のセリフから適当にチョイスしています。
このDクラスの担任だという茶柱佐枝という女教師による説明が一通り行われた。
基本、クラスは三年間を通して固定。学年ごとのクラス替えは存在せず、担任もクラスメイトの顔触れも一切変わらない。
敷地内において現金が利用されることはなく、全てが全て携帯端末にインストールされた『学生証』アプリのポイントで決済する。
なお、新入生には一律で10万ポイントが支給されているとのこと。1ポイントにつき1円の価値を持つ。
この学校は実力で生徒を図ることを信条にしており、10万という額は価値と可能性を評価されたが故。来月以降は月初めに学校側から支給される。
なお、ポイントは卒業時に学校側が全てを回収する模様。
譲渡は可能だが、カツアゲなどが発覚した場合には断固とした態度を取る。
(一般的な高校一年生にとっては大金だろうな……)
などという感想を抱きながら、天嶺は支給された端末のアプリを開いてポイントを見やる。
学校生活において、私物の携帯は持ち込みが許可されていない。外部連絡禁止というルールを思えば仕方がないだろう。
基本的に、このポイントで買えないモノはないそうだ。
「さて、ここまでで何か質問はあるか?」
教室内をグルリと見回しながら、茶柱が言った。
その言葉を受け、天嶺はすかさずに手を挙げた。――が、元よりまともな返答を期待してなどいない。
そういう意味では茶番と言えるだろうが、この先、仕事を行うにおいて学校をサボる事態だって起こり得るのだ。ならば、必要以上の反感を買わぬよう、初めからある程度の実力を示すと同時、周囲に対して注意喚起を行っておくに越したことはない。
「ふむ。では、クラスメイトに対して名乗ってから質問を」
「九角天嶺だ。……質問はいくつかあるが、数に制限は?」
「特にはない。いや、他にも挙手をした者がいたなら制限を掛けるところだがな。いない以上は制限を掛ける必要もない。――まあ、こちらとしても都合があるから、途中で切り上げさせてもらう可能性は否定できんがな」
質問前の天嶺の確認に、茶柱は口の端を曲げて答えた。
「では、一つ目。この10万は現時点における俺たちの実績と将来性を評価されたもの。その上で、来月は今月の、再来月は来月の実力を評価された額が支給されると考えるべきだが、それは
「……その質問には答えられないな」
天嶺の質問に、やはり茶柱は口の端を曲げたままで答える。
「まあ、だろうな……。二つ目。ポイントで買えないモノはないとのことだが、それはいわゆる権利的なモノも買えるのか? 例を挙げれば、
真面目に授業を受けないのは態度としては問題があるだろうが、既に理解している事柄や可能な事柄に対して真面目に向かうのは時間の無駄でもあるからな。一生徒としては前者を尊重するべきだろうが、実力に重きを置くのなら後者を尊重するのにも筋は通るだろう?」
「その質問にも答えられない」
「三つ目。今までに個人の生徒が貯めたポイントの最高額は?」
「三年ほど前、個人で1200万ほどポイントを貯めた生徒が卒業間近のBクラスにいたな。もっとも、その生徒は卒業を待たずして退学になったがな」
「と言うと?」
「貯めた方法が大規模な詐欺行為だったんだよ。教師という身で言うのもアレだが、世の中が綺麗事だけで回っているわけではない以上、個人的には着眼点は悪くなかったと思っているが、
「四つ目。この学校が生徒を実力で測ることを信条にしている以上、卒業特典が適応されるのは評価の高い一部生徒に限られると個人的には思うわけだが、外部に聞こえる謳い文句だと全員に適用されるように思えてならない。その真偽を教えてほしい」
「悪いが、その質問にも答えられないな。……まともに答えられなくてすまないと思うが、こちらにも事情というものがある。そこを汲み取ってくれると嬉しいな。
それと、こちらも入学式の準備があるのでな。私はここで失礼させてもらう。
残りの時間はそれぞれの自己紹介にでも充ててくれ。三年間を一緒に過ごす相手だからな。その程度は
一方的に質問時間を切り上げて、茶柱は教室を出ていった。
クラスメイト達は、大半が呆けた表情を浮かべ、一部は考え込む様子を見せていた。
そんなクラスメイトに、天嶺は声を掛ける。
「まあ、おそらくは情報制限が掛けられた中で、せっかく担任がありがたいアドバイスをくれたんだ。自己紹介はするべきだろうな。……席順で行うのが妥当だと思うが?」
「あ、ああ、そうだね。賛成だ。――自己紹介という最低限の礼儀すらなっていない生徒、そして時間厳守も出来ない生徒は、低評価を付けられても文句は言えない。仮にそんな生徒がいたなら、来月の支給ポイントが個人評価かクラス評価に基づいていた場合、減額されても文句は言えない。……茶柱先生は僕たちに対して、遠回しにそう教えてくれたって解釈でいいんだよね?」
「さてな? 俺は担任殿ではないから真実は分からんよ。ただ、俺やお前はそう解釈した。この場で唯一確かなことはそれだけだ。
そして、この学校が『生徒の実力』に重きを置く以上、実力のない生徒――言い換えれば、学校の指定するボーダーラインに実力が満たない生徒は退学になってもおかしくはないだろう。高校からは義務教育じゃないからな。
また、組織性を重視するのであれば、能力があっても組織の輪を乱す人材も同様だろう。要はクラスメイトからの反感が強い奴だな。何せ、三年を通して顔触れが一切変わらないんだ。にも拘らずクラスに対して迎合しない輩など、邪魔以外の何でもあるまい。――まあ、そいつの能力や可能性に対して学校側が目を掛けているのであれば、他のクラスに対しての移籍なんかもあるかもしれんがな。
学校だからおかしく感じるかもしれんが、会社であれば部署移動なんてのはおかしくもなんともないだろう?」
好青年の質問に対し、微笑を浮かべながら天嶺は答えた。こうして気付いてくれた生徒がいるのなら、先の茶番にも意味はあったということだろう。
気分が上向いたこともあって、更なる注意喚起を行っておく。
「ッ……!? そうか、そうだね。確かに、その可能性も否定はできない……」
好青年は天嶺の言葉に息を呑み、難しい顔で唸った。
それを見て、更に天嶺は言葉を続ける。
「そしてそう考えた場合、このクラスの生徒は間違いなく危ういだろうな。A、B、C、Dをランク付けした場合、Dは下位も下位だ。或いは『DEAD』を暗喩してる可能性もある」
「ッ……!? 流石にそれは……」
「あり得ないと思うか? 確かにそうかもしれん。だが、一般高校生にとっては大金にも等しい10万という金額をポンと与えられ、そのことに対して疑問に思うでもなく、真っ先に浮かれ切るような輩を、学校側が重視する理由があると思うか?
たぶん、このクラスに配置されているのは、どこかしらに問題を抱えている生徒だろうよ。『高い能力を持ってはいるが、他者に対する配慮に欠ける』、『学力を重視する余り、身体能力に無頓着だったり、勉強の出来ない生徒を見下す』、その逆もまた然り。或いは、俺のように『高い能力を持ってはいるが、出席日数が致命的に足りていない』なんて例もあるだろう。
そういう、人として、或いは学生として、どこかしらに問題を抱えていたり、不足していたりする生徒。その上で、能力や可能性を見込まれた生徒。そんな生徒のごった煮がこのクラスの特色である可能性は否めない」
天嶺のその言葉に、分かりやすく表情を変えるクラスメイトは多かった。隣席の軽井沢や、好青年もその一人だ。
まあ、危機感を与えるだけだとアレなので、分かりやすく救いの糸も垂らしておく。
「自分の強さを認め、自分の弱さを認め、その上で高みを目指す。この学校の差す『実力者』は、おそらくそんなところだろうよ」
要は『日々の努力を欠かすな』ということだが、僅かに安堵した空気が教室内に流れる。
「九角くんはさっき席順での自己紹介を提案したけど、流れとはいえせっかくクラス全体に対して名乗ったんだ。まずは君が手本を見せてはくれないか?」
「やれやれ……。ま、構わんがな。
改めて、名は九角天嶺。都内某所の山奥にある、『鬼哭村』という小さな村の生まれだ。そこでは村人総出で『鬼道衆』という退魔組織を営業していてな。俺とそこの伊吹澪はその一員で、仕事を兼ねてこの学校に入学したんだ。
基本的に、この学校が部外者の立ち入りを歓迎していないこともあって、依頼主にとっても俺たちの存在は渡りに船だったろうさ。そんなわけで、家業のある俺と澪は進路希望などどうでもいいのが実情だ。正味な話、そんなものよりは高校生活や高卒という資格の方に重きを置いている。無論、仕事を欠かす気はないがな。
ま、そちらの認識としては『拝み屋』、『祓い屋』、『呪い師』……何でもいいさ。元より胡乱な商売だというのは自覚しているからな。そっちの分かりやすい形で覚えてくれればそれでいい。
そちらの認識がどうあれ、技術職だの芸術職だのは、とかく実力が物を言う。そこに年齢などは関係ない。そして、俺たちは確かに生徒ではあるが、幼き頃より修練を積んでいたことも事実なら、仕事のために訪れたのも事実。然るに、場合によっては学校生活よりもそちらを優先する。プロとしては当然のことだ。
とはいえ、この学校の生徒という自覚が無いわけでなければ、クラスメイトのお前たちに迷惑を掛ける自覚が無いわけでもない。故、詫び代わりとして一連の質問をしたわけだ」
こんなものでいいだろう。そう判断して、天嶺は着席した。
「ありがとう、九角くん。あの四隅の盛り塩も、その仕事の一環なのかな?」
そうして着席した天嶺に対して、間を置かず、今度は女生徒が質問した。
「ああ。分からん奴の方が大半だろうが、この学校は酷く氣が淀んでいてな。未だ実態は知らぬが、学校のシステムが生徒や教師に影響を及ぼし、その生徒や教師による影響が校内の氣に影響を及ぼし、それがまた生徒や教師に影響を及ぼしているが故だろうと推測を立てた。
良くも悪くも、周辺の氣が乱れていればそこにいる人も悪影響を受ける。それ故、取り敢えずは応急処置をしたわけだ。
推測通りであれば、根幹には学校のシステムも絡んでいる筈だからな。また、システムの詳細も聞き及んでいない以上、どこまで手を出していいか分からないのも大きい。落としどころを定めない限りにおいては、応急処置か場当たり的な対処が精々だろう。
仕事に困らないのは嬉しいが、その一方で人手不足なのも事実だからな。難儀なものだよ」
女生徒の質問に対しても可能な限り真摯に答えた天嶺は、再びカードファイルをパラパラとめくる。今の女生徒然り、先の好青年然り、担任然り、軽井沢に負けず劣らず強い陰氣を放っているのだ。気付いた以上は放置できない。
そんな天嶺を余所に、生徒たちは盛り塩へと目を向けていた。不思議なことに、三角形の形は崩さぬまま、天頂部付近は燃えたかのように黒ずんでいる。白と黒の対比が映えるからこそ、天嶺の言葉を一概に否定できなかった。
「解!」
天嶺も天嶺で、クラスメイトを余所に再び装飾具を解放していた。
「おい、さっきの二人」
言って、天嶺はそれを二人に投げ放った。
「これは……?」
「アクセサリー……?」
「隣席のコイツもそうだが、お前たち二人もこの環境の悪影響を強く受けているようで、その身に帯びる陰氣が強い。可能な限り身に着けておけ。それには精神力を高める効果がある。多少はマシになるだろうさ。
強制はせんが、それで文字通りの鬼になったところで俺は責任を取らん。あくまでも本人の意思を尊重したまでだからな」
「はは……。鬼って、いくら何でもそんな……」
顔を引きつらせて女生徒が呟いた。
「忠告は素直に受け取っておいた方がいいよ、プリティガール。九角というのは、鬼道衆の頭領と同じ苗字だ。事情を知る者にとっては、それだけで十分な信憑性がある。
ああ、私は高円寺六助。『高円寺コンツェルン』の御曹司さ。ネットで調べれば、その事実はすぐに分かるだろう」
そんな女生徒に対して忠告する男子がいた。態度はともかく、その言葉は確かに天嶺の援護をしていた。
「本当だ。高円寺コンツェルンのホームページに、確かに彼が載ってる」
そして、軽井沢の言葉が高円寺の言葉を裏付けた。
名と肩書が本当だったのだ。立場のある者がそれを行ったのだ。である以上、他の部分に対しても信憑性は大きいことになる。
これで嘘だった場合、間違いなく高円寺の評判は下がるのだから。
まして、それは彼本人だけでなくコンツェルンそのものにまで波及するかもしれないのだから尚更だ。
そのことに思い至った瞬間、三人は慌てて渡された装飾具を身に着けた。天嶺も学生が身に着けておかしくない範疇の物を渡しているのでおそらく問題はないだろう。
仮に言及されたら、仕事の観点で反論するまでだ。根本的に人手不足なのは間違いないので、一度にあれもこれもは出来ないのだ。その上で、対処のしやすさというものもある。
「取り敢えず、サッサと自己紹介を進めたら? 時間がなくなるわよ」
澪による冷めたツッコミが入り、慌てて自己紹介が続けられるのだった。
基本、オリ主である天嶺は優秀です。なんせベースが『外法帖』の天戒様ですから。
人望と能力を兼ね備えているのは当然として、霊場探索で手に入れた『霊水』や『神水』によるドーピングも欠かしていません。
ドーピングを欠かしていないのは澪も同様です。
なお、霊水や神水は『魔人』に登場する道具で、RPGによくある能力値上昇アイテムです。
極論すれば、天嶺は清隆の上位互換です。
その一方で、清隆に負ける部分も普通にあります。
ドーピングの甲斐もあって大学の問題を悠々と解けるだけの知能は持ち合わせていますが、解き方が分からないと解けないのは道理ですから。
要は、清隆に比べると学力が足りない状態です。まあそれとて、テキストをパラパラとめくれば覚えられるのも事実ですが。
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