人間、一朝一夕で変われるような器用な人物ばかりではない。
そのことは、日頃の授業風景にもよくよく表れていた。過日の水泳授業が例外。そう言わんばかりに、真面目に授業を受けない生徒は未だに一定数存在している。
それでも、歯止め効果は確かに出ているのだろう。その数が極端に増えることもなかった。
「あ~、ここどうやるんだ……?」
「なんか、こないだも似たような問題をやった気がすんだけど……」
なんなら、池や山内のように、清隆手製の小テストに取り掛かる人物が現れている分、プラス効果が出ていると見ても構わないのかもしれない。
もっとも、その小テストの難度が高校ではなく中学相当で、それに四苦八苦している事実を思えば、余り楽観視していられないのも事実ではあったが。
「確かに、この間も似たような問題をやったな。それが分かって、しかし解き方が分からないのであれば、とっととノートをめくることだ」
それを見て、天嶺は厳しくも尤もな対応をする。
仕事がない日は、その分だけ天嶺もクラスに関わる余裕があった。少なくとも、校舎内の処置が一通り終わるまでは、敢えて街中に繰り出すつもりはない。
女子にモテたい一心は本物ということか。水泳の授業を境に、池と山内は清隆へと教えを乞うた。
そして、清隆もまたそれに応えた。
とはいえ、清隆の優先順位はあくまでも恵と麻耶である。いくら清隆が優秀であっても、人に教えた経験はない。一度に何人も抱え込める余裕などありはしなかった。相手のレベルが低いなら尚更だ。
レベルが低いということは、その分だけこちらの言いたいことが伝わらないということである。それを伝えようとするならば、相手が理解できるくらいにまで落とし込まなければならず、必然として時間が掛かる。
実際に恵と麻耶の二人に対して教えることで、清隆は否応なくそのことを実感したのだ。
恵には通じるが、麻耶には通じない。逆に、麻耶には通じるが恵には通じない。そんなことが多々重なれば、否応なく実感せざるを得ない。
すなわち、この二人を鈴音レベルまで引き上げるのが如何に困難なのかまでも、実感せざるを得なかった。
それはそれでやり甲斐があると言えたが、ここに池と山内が加われば、清隆といえど完全にキャパオーバーである。相手のことを一切鑑みないのであればまだまだ余裕だが、それでは効果が出る筈もない。押し付けるだけで成果が出るなら苦労はないのだ。
だが、恵と麻耶の低レベルを実感したからこそ、クラスを思えば、それが齎す自身の収入を思えば、清隆としても池と山内を無下には扱えない。自分から乞うてきたのであれば尚更だ。
困り切った清隆は周りに相談し、結果として今は比較的時間に余裕のある天嶺が二人を受け持つことになったのだ。
とはいえ、天嶺も四六時中付きっきりでいられるわけでもないため、池と山内に対しては清隆手製の小テストを解かせ、それに対する解説を天嶺が行うことにした。これであれば、隔日対応であっても然程の問題はないと踏んでのことだった。
今の二人は、授業を余所に清隆から与えられた小テストを解くことに着手している。
この二人に限ったことではないが、備えていて然るべき中学の内容からしてあやふやに把握している状態なのだ。そんな状態で真面目に授業に臨んだところで、理解が進む筈がない。それでも微々たる効果は得られるかもしれないが、効率で考えればバッサリと捨てて中学範囲の復習に充てた方がよほどいい。
天嶺が池と山内の面倒を見るに当たり、二人の過剰に楽観的な分野は削ぎ落している。楽観的である分には困らないが、過剰なのは問題だ。
具体的には――
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「自分を大きく見せたい。そういう虚栄心を持つことを俺は否定しない。それもまた、人が行動する上での立派な原動力となるからだ。
しかしな? だからといって、すぐにホラと分かるホラを吹いてどうする。それでは自分を大きく見せるどころか、矮小さを露見させるだけだぞ? どうせホラを吹くのであれば、真偽定かならぬホラを吹け。相手を惑いの内に誘い込むのだ。
だがそのためには、自らと相手をよく知らねばならぬ。ホラをホラと分からせぬために相応の知識が必要になる。
自己紹介の時に『インターハイ』で怪我をしたとか言っていたが、そもそもにしてインターハイとは『全国高等学校総合体育大会』のことだ。高校入学したばかりの一年生が、インターハイで怪我を負う筈などないのだよ。
早い話、お前は誰もが知ってるであろう言葉を掲げたが、その一方でその実態を知らぬことを自分で明らかにさせてしまったのだ。そら、この時点で大きさよりも小ささが目立っている。
周囲は受け狙いのジョークと取って笑って済ませたようだが、その一方で冷静に思考した奴もいる筈だ。『ああ、コイツは口だけだな。敢えて仲良くする必要はないか……』とな。
桔梗、お前はどう思ったのか、山内にハッキリと教えてやれ。それで潰れるようならそれまでよ。しかし、潰れぬようなら見所はある」
「ハッキリね……。ん~、じゃあ、率直に言うけど、同じ学校の生徒でなかったらお近付きにはなりたくないかな。
私、個人目標として全校生徒とお友達になることを掲げているけど、山内くんがこの学校の生徒じゃなかったら声も掛けてないね」
天嶺にズタボロに指摘され、その上で桔梗による直言である。
それは山内のなけなしのプライドを剥ぎ取るには十分だったし、事実として山内は潰れかけた。
だが、それを救ったのが池だった。
「馬鹿野郎! 諦めるんじゃねえよ、春樹! お前が女子にかける情熱はそんなものか!? 女子にモテたいと誓ったのは噓だったのか!?」
「か、寛治……」
「俺たちゃ確かに底辺だ! だがな! 底辺ってことは、ただ真っ直ぐに目標に突き進めばいいってことだろうが!
確かに、俺たちだけなら道に迷うかもしれねえ! けど、そこは綾小路や九角が道を指し示してくれるって話じゃねえか!
なら、下らねえプライドなんか捨てちまえ! 今はただ、二人が指し示してくれる道を信じて突き進むしかねえんだよ! ――本当に女子にモテたいんだったらな!」
「ああ! 分かったぜ、兄弟! 一緒に進もう、この果てしなきモテロードを!」
二バカの間で寸劇じみたやり取りが行われ、それによって二人なりに勉強に向き合うことになったのである。
また、天嶺が二人に教える時は、桔梗なり千秋なりが傍について補佐をすることが多いのも、二人が手を抜かない一因だった。
モテない二人としては、美少女を侍らせる天嶺と清隆が羨ましく、気に入らなくはある。しかし、『美少女を侍らせている』という事実が、指示の信憑性を跳ね上げる要因となっていた。
今すぐでなくてもいずれは……! そしてその『いずれ』は、もしかしたら数年後かもしれないし、一年後かもしれないし、何だったら数ヶ月後の可能性だってある。
確かなところは分からず、けれど確実なのは、自分たちの努力次第、成長次第でその時期が早まりもすれば遅くもなるということだ。
自分たちの進む道の先、天嶺に清隆という成功例を己が耳目で確認できるのも大きい。
その事実が、池と山内のやる気を阻害させなかった。
二人の指示に従ううち、徐々に、しかし確実に、女子からのウケがよくなったのも大きかった。その大半は天嶺と清隆の周りにいる女子だが、決してそれだけというわけでもない。代表格は1-Cの椎名ひよりという女生徒だろう。
天嶺と清隆の双方から、池と山内は読書の習慣を付けるように命じられた。指示には従い、けれどポイントを使いたくない二人は、必然として図書館に向かった。
さりとて、これまでまともに読書なんかしたことのない二人だ。どれを読めばいいのか、自分がどんなジャンルに興味を持っているのかの目星すら立てられない。
そんな時に出会ったのが、椎名である。図書館内をウロウロとする二人が気になったのだろう。椎名は二人に声をかけ、二人は美少女に声を掛けられた事実に舞い上がる一方で、この機会を逃さんとばかりに理由を説明した。
そして椎名から、初心者でも読みやすいと思われる本をいくらか紹介された経緯がある。
以後、椎名に嫌われたくないという思いも合わさり、二人は暇さえあれば読書をしている。読書に不慣れなこともあって読み込む速度は然程でもないが、椎名からの――
「読み終わりましたら、ぜひ感想を聞かせてくださいね!」
という言葉もあり、キチンと感想を言えるように読み込んでいる。
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――こんな感じである。
ともあれ。
天嶺と清隆の指示に従うことで
天嶺のアドバイスに従い、二人はノートをめくる。
二人のノートは、あくまでも自分が分かりやすいように、内容を理解しやすいように書かれている。
「自分が見て分からぬようではノートを取る意味がない。闇雲に板書したところで役になど立たんよ」
天嶺から口を酸っぱくして言われたことだった。
言われてみれば、二人にも心当たりはあった。中学時代、授業に置いていかれまいとしてノートを取り、されど後から確認してもサッパリと意味が分からない。……そんなことが何度もあったのだ。
そういうことが続いたから、必然としてテストでいい点を取ることなど出来るわけがない。
結果、二人の勉強に対するやる気は大いに削がれたのである。
分かる者へはフォローを厚く、分からぬ者へのフォローは最小限に。言ってみれば、池と山内はそんな学業体制の被害者とも言えた。……そこら辺は、学校によって大いに差があるだろう。
今の二人は、清隆の用意した小テストを介して、まさに中学時代の復習をしている。
根本的な部分でノートの取り方を指摘されたことで、中学時代のように分からぬまま詰まることもない。
あくまでも中学の範囲に限ったことだが、二人の学力は見る見ると補填されていくのだった。
(いやはや、虚仮の一念岩をも通すとは言うが、この調子でいけば、この二人は本当にこのクラスの主戦力になりそうだな……)
そんな池と山内の様子を見て、天嶺は内心で感嘆する。
(1-Cの椎名だったか……。二人のやる気を引き上げてくれたことに関しては感謝するとしよう)
同時、椎名に対して感謝をする。
椎名のことを教えてくれた桔梗に対しても。
「では、解説に移るとしよう」
二人が受けている小テストはいくらかのプロセスから成り立っている。
二人が問題を解く。→天嶺が解説をし、二人はノートに取る。→清隆が新範囲を加えた別の問題を渡す。→二人が問題を解く。
この先だが、既に解説した内容で適用できる問題であれば、天嶺は解説をしない。二人にノートを確認することを促し、これまでの解説をキチンと理解しているのであれば解けることを示唆する。
これで解けないのであれば、
無論、ノートを確認することで解けるのであれば、当座の問題はない。後は類似問題を重ねることで、問題の傾向そのものに慣れさせるだけだ。
そこまでやって、初めて新範囲の解説に移るのだ。
もはや二人も手慣れたもので、天嶺の説明をキチンとノートに取る。その際、何度も確認することを忘れない。
誰も彼も、一度や二度の説明を受けただけで理解できるようなら苦労はないのだ。
天嶺はそれを知るが故に、日を分けて同じようなことを何度も訊かれるよりも、その日のうちに、短時間で、少しずつ、何度も確認される方が遥かに楽なのだ。そのことを二人にも周知している。
故に、二人は一説をノートに取ったら、次の一説に移る前に天嶺へと間違いがないかを確認する。その上で、次の一説をノートに取る。……そんなスタイルが板についてきていた。
「っかぁ~! 終わった終わったぁ~!」
「疲れるけど、分からなかったところが分かるようになるって、気分のいいもんだな……!」
解説をノートに取り終えた池と山内は、揃って伸びをする。
「その境地に至れれば、勉学に対する心構えとしては上々よ。
さて。何度も言うが、須藤の勉強はお前たちに任せたぞ。あやつに教えることは、お前たちの復習にもなる」
「分かってるって! でもなぁ~、正味な話、健の奴、部活に熱を入れすぎで、どこまで効果があるか分かんねえんだよなぁ~」
「そうそう! 部活終わって寮に帰ってきたら、アイツもう本当にクタクタになってっからさぁ~。
俺らが訪ねりゃ部屋には入れてくれるし、勉強道具も広げっけど、いつの間にか寝落ちしてんだよね」
「アイツが本気でバスケのプロを目指してんのは俺たちも分かってから、部活やってねえ俺らが、そっからアイツを起こして勉強させんのも気後れすんだよね」
「そんなわけで、アイツが寝ちまったら俺らも退散せざるを得ねえわけ。……そんなのが、もう何日も続いてんのよ」
天嶺の言葉に対し、池と山内は肩をすくめて答えた。
「ま、それならそれで仕方あるまい。それが須藤の選択というだけのことよ」
対する天嶺は、そう言って頷いた。
須藤の行動に一定の理解は示すが、それはそれだ。可能性は提示し、池と山内を介して手も差し伸べている。
その上での須藤の選択が、部活動への一極集中だ。授業は遅刻・無断欠席・居眠りが当たり前と化しているのが現実である。
「心からの忠告だが、お前たちも須藤には見切りを付けておけ。部活への熱意と身体能力の高さは買うが、クラスを思えば害の方が大きい男だ」
天嶺自身は、既に須藤健という男に見切りを付けている。
その事実を、改めて池と山内に――須藤と並び『三バカ』と称される二人に突き付けたのだった。
端的に言えば、池と山内のフォロー回です。
山内=退学のイメージが付き纏っているので、敢えて退学させないのも面白いかなと思ってみたり……。
池と山内は『男の欲望一直線』な部分がありますので、天嶺や清隆にしてみれば扱いやすい部類です。
反面、須藤は扱いにくいです。
『バスケ一直線』で扱いやすいかと思いきや、暴力事件を起こして『全国でも屈指のバスケ強豪校』からの推薦を白紙にさせてしまったにも拘らず、それで反省するではなく『俺って人間はクズの両親から生まれたクズなんだ』……という責任転嫁ですからね。
その事情を天嶺らは知りませんが、そういった部分は日頃の態度から透けて見えることもあり、身体能力の高さを認めてこそいるものの、クラスを鑑みた上で既に内心では切り捨てています。
ただ、平田の意向もあるので、完全には切り捨てていない状況です。
言ってしまえば、『輪の内側に入るまでが至難』であり、それを自覚しているからこそ、天嶺は池と山内を使って須藤に干渉しています。
既に須藤から『ダチ』認定を受けている二人の言葉であれば、自分よりかは話を聞くだろうという判断です。
須藤に言うことを聞かせるには、バスケで交流し、バスケで分からせるのが一番だろうということは天嶺も清隆も分かっていますが、如何せん二人にはそれだけの技量がありません。
対抗、乃至圧倒できるのはスペックだけで、点を取ることに結び付かないのです。
点を取ることだけに集中すれば、点を取ることは出来るでしょうが、その分だけ守りが疎かになってしまい、アッサリとボールカットされて点を取られてしまいます。
かといって守りに比重を置けば、今度は点を取れなくなります。
試すまでもなくそれが分かっているから、池と山内にどうにかしてもらうのが、現状では一番可能性の高い方法です。
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学校生活で演じる清隆の性格路線について。クール系の天嶺と、温和系の平田とは別路線を歩みます。基本的には自身の社交性を鍛えるためですが、対象やその周辺人物との友好関係や実力、五月のCPに影響が出ます。
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チャラ男ルート。対象は池。CP上昇大。
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オレ様ルート。対象は佐藤。CP上昇小。
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その他。具体的にはリクエストを。