「天嶺くんって男の子なのに髪の毛長いよね」
風呂場にて、わしゃわしゃと天嶺の髪を弄ってシャンプーを泡立てながら言ったのは麻子だった。
「うむ。まあ、ご先祖さまも長かったと伝わっているからな。血筋なのだろうよ」
自身は目を瞑りながら天嶺が答えた。
代わる代わると相手を抱き、絶頂を迎えさせては気絶させる。無事なのは、天嶺に負けず劣らず鍛えている澪くらいだ。
その合間に天嶺は風呂に入りに来たのだが、僅かに遅れて麻子もやって来たのである。
もはや羞恥心なんぞどこかに吹き飛んでいるのだろう。タオルで肌を隠すでもなく、むしろ興味津々で天嶺に接近した麻子は、風呂場ならではの世間話を繰り出し――その果ての光景がコレだった。
「しかし、ひとたび街に降りれば、その利便性の高さを実感せずにはおれん。一つボタンを押すだけで後は勝手に風呂が沸くなど、俺の村では信じられんことだ」
麻子の為すに任せながら、天嶺は感心深げに呟く。
「山奥にあるんだっけ?」
「うむ。鬼哭村という」
天嶺は、改めて鬼哭村についてを麻子に語った。
「まあ、そんなわけでな。決して電気が届いていないわけではない。電話もネットも繋がればテレビも見れる。
しかし、如何せん山奥だからな。冬になれば雪も降るし、積もる。場合によってはそれで断線という事態も無くはない。故、何でもかんでも電気任せだと逆に不便な面もある。
もっとも、村の診療所なんかには自家発電機が備え付けられているがな。或いは、うちの村で一番文明が進んでいるのはそこかもしれん」
そこまで言って、天嶺は笑った。
「昔ながらを通り越して時代劇の世界みたいだね……」
天嶺の髪を洗いながら、麻子は呆れたように呟く。……髪が長いと、洗うのにもそれだけ時間が掛かるのだ。
「違いないな。だがまあ、全部が全部というわけではない。時代劇の世界よりは余程にマシだろうよ」
麻子の言葉にも、天嶺が不快感を示すことはなかった。
しかし、笑って肯定しつつも、全肯定はしていない。
それはつまり、そういった不便な部分も合わせて、天嶺が村を好いている証左と言えるだろう。
「流すよ~」
「頼む」
シャワーヘッドから流れ出るお湯が、天嶺の髪にまとわりつく泡を洗い流す。
「うちの村では、石鹸なんかも自作の物を使っているのでな。こういう市販品を使うことの方がむしろ稀だな」
「石鹸を自作してるの!?」
天嶺の言葉に、麻子は全身で驚いた。
確かに、細かな効能や香り、出来映えに拘らなければ、石鹸は割と簡単に作れるとは聞く。けれど、それに村総出で取り組むとなれば俄かには信じ難い。
「まあな。俺が会得した鬼道は、元来は邪馬台国の女王である卑弥呼が用いたとされている。彼女はそれを『陰』と『陽』の二部に分け、今では初代の天戒以降がそれらに改変を加えた『邪』の三部から成り立っている。
この内、『陽』には練丹や占術について載っている。占術は分かりやすく占いのことだが、練丹は中国古代の神仙思想より発展した長生術のことだ。要は、長生きするための方法だったり薬だったりだな。それらの一つとして石鹸作りも載っているのだ。
昔の不老長寿というと鉛や水銀なんかが取り沙汰されがちだが、鬼道では現代と同じく毒の扱いだ。だから、そこについては心配いらぬ」
「へえ~、そんな昔から衛生問題について認知して取り組んでたんだ……。正直、俄かには信じられないね……」
天嶺の説明に麻子は感心を示しながらも、素直には信じきれないようだ。
天嶺自身、その反応を尤もだと思っているので、特に咎めることもない。信じようと信じまいと、自分たちにはそのように伝わっているのが現実だ。
「故、小学校時の自由研究なんかは割と楽だったな。自作した石鹸を提出して終わりよ」
「あ~」
カンラと笑う天嶺に、麻子は納得を示した。夏休みや冬休みなどの長期休暇には、宿題と称して自由研究が出されるのが常だった。自分で石鹸を作れるのなら、細かなバリエーションを変えることで回数を重ねることが出来るだろう。
「最初は拙くとも、やっていれば自然と慣れる。よければそのうちに教えるか?」
「いいの?」
「構わんよ。石鹸作りなど、今ではネットで簡単に調べられるからな。俺が教えたところで誤差の範囲よ。何なら、セットで占いや健康運動も加えるぞ」
「健康運動?」
「おう。言ったろう? 練丹とは長生きするための方法だったり薬だったり、とな。身体を整える方法が載っているのは、むしろ当然であろうが。分かりやすく言えば、太極拳とかヨガの類よな」
「うわぁ~、そう聞くと途端に興味が湧いてくるかも!」
現代において、ヨガは『健康体操』だったり『美容にいい』というイメージを持たれていたりする。
麻子もその例に洩れないのだろう。途端に目を輝かせた。
「なら、折を見て教えるとしようか。連休はまだ続くし、それ以外にも休日はある。勉強や仕事とやることがあるのは事実だが、暇を見つけることは可能だろうよ」
「約束だよ!」
「ああ、約束だ」
天嶺と麻子は指切りをする。
「さて。洗ってもらったのだから、今度は俺が洗ってやろう。なに、心配するな。女を洗うのは慣れている。頭も、身体もな」
「……お願いします」
クツクツと笑いながら天嶺が言えば、その意味を察したのだろう。頬を赤らめて縮こまりながらも、麻子は素直に頼む。慣れた部分はあっても、初心な部分も残っている証左だった。
「ふわぁ……。気持ちいい……」
予想と違う心地よさに、麻子は身を委ねていた。
「言ったろう? 女を洗うのは慣れている、とな」
その反応に笑みを浮かべて言いながら、天嶺の手付きは柔らかく丁寧だ。言葉に偽りがないことを行動で示していた。なお、その技術は妾や異母姉妹らで培ったものである。
実のところ、天嶺はこの齢で子持ちだった。幹部格と若奥様の年齢差を鑑みた場合、天嶺にお鉢が回ってくるのは仕方のない部分もあり、今とは違って子作り目的で抱いているのだから、子供が生まれない方がおかしい。
そういう意味では、まさに戦国時代さながらである。
ちなみに、書類上は適当に誤魔化している。流石にそこを馬鹿正直に書くわけにはいかない。
「そら、流すぞ。目を閉じていろ」
先ほどと同様に、けれど今度は麻子の髪にまとわりつく泡が流れていく。
「さあ、次は身体を洗うとするか。――お互いにな」
「……うん」
天嶺の誘いに、麻子は目を情欲に輝かせて頷いた。
二人はボディソープを泡立て、互いの身体を洗っていた。もっとも、年頃の男女が一緒に入浴をしていて、普通で済む筈がない。タオルやスポンジなどという無粋な物は使わず、互いの体そのものが洗体用具だった。
それでも、最初は無難に互いの身体を洗い合っていた。しかし、いつしか快楽を得んとする行為に移行していた。
である以上、やはりここでも一日の長があるのは天嶺だった。その両の手は麻子の胸を揉み解し、先端の突起を捏ね繰り回す。
麻子も負けじと攻勢に出るが、快感に耐えながらでは攻撃力の低下は否めない上に、そもそもの経験値が圧倒的に不足している。然るに結果は伴わない。むしろ、攻撃に転じた分だけ守りが疎かになってしまった。
「ふあっ……❤ あうっ……❤」
か細い悲鳴を上げ、麻子は全身を小刻みに揺らす。胸を弄られた結果、軽度の絶頂を果たしたのだ。
洗い流してもいないのに、麻子の股間部の泡が消えているのがその証左だ。洩れ出た愛液が、泡を流してしまったのである。
それを見て軽く笑みを浮かべた天嶺は、今度こそシャワーで互いの全身を洗い流す。
そのまま麻子を抱きかかえ、ゆっくりと浴槽に浸かる。家の大きさに違わず、浴室も浴槽もそこそこの大きさを誇っている。温泉の湯舟ほど大きくはないが、一般家庭の浴槽よりは普通に大きいだろう。
だから、二人並んで入浴することも可能なのだが、敢えて天嶺はそうしなかった。
麻子も、その選択を選ばなかった。彼女は、天嶺に身体を重ね合わせることを選択したのだ。
ズプリ。
天嶺の雄々しき逸物が、麻子の秘裂へと埋まっていく。
だが、そこまで。互いに身体を動かすことはなく、湯と相手の身体が齎すじんわりとした熱に身を委ねる。
「はぁ……。私もそうだけど、帆波ちゃんも千尋ちゃんも、たぶん愛里ちゃんに波瑠加ちゃんも、今日だけでだいぶ変わっちゃったよ……。
あれ……? 今日……? 日付って変わってたっけ?」
天嶺に身体を預けた麻子は、感慨深げに呟き、かと思えば小首を傾げていた。
「さて、どうだったかな……?」
天嶺も答えられない。正直、時間なんて気にしていなかった。既に日付が変わっていてもおかしくはないし、まだ変わっていない可能性も普通にある。
温泉ならば浴場に時計が設置されていてもおかしくはないが、大きいとはいえ一軒家にそれは望むべくもない。
「まあ、どっちでもいいか……。そりゃあ、法律や校則、常識で考えれば間違っているんだろうけど、気持ちよかったし……」
言って、麻子はウンと伸びをする。
「この学校に入る前はね、そりゃあ日本政府直下の進学校だからそれなりに厳しいだろうことは予想してたんだけど、それでも普通に学校生活を送って、友人を作って、そのうちに同期や先輩後輩の中から彼氏が出来ちゃったりなんかして……なんてことを考えたりしてたわけ。
でもほら、現実はアレじゃん? 現金は使えないし、通貨はポイント制で、基本的には学校から支給されるものだけ。アルバイトは禁止で、肝心のポイントはクラス評価制に基づいた上で毎月支給されるシステム。
いやまあ、現金が使えなくてポイント制って辺りは入学前から知らされていたわけなんだけど、『学校側から無償で提供される』って話だったし……。
確かに嘘ではないんだけど、肝心な部分が隠されてたって言うか……。定期テストで一科目でも赤点を取ったら退学っていうのもそうだし……。
何だってそんな騙し討ちみたいなことをするんだろうね? いや、そうすることで、いろんな生徒を入学させようって狙いがあるのは分かるよ。最初っから細かな部分を明らかにしちゃったら、その時点で入学を諦める生徒だっているだろうし……。
だからね? 決して学校側の行いに理解が出来ないわけじゃないんだ……。出来ないわけじゃないけど、納得はしきれないって言うか……。
『日本の次代を牽引する人材の輩出』が目的ならさ、そこら辺を最初から明らかにして、その上で希望する生徒だけを受け入れたらいいじゃん。その方が効率的だし理に適ってるじゃん。
それを肝心な部分を隠して生徒を受け入れて、そのくせ学校は放任主義で、肝心要の部分を一ヶ月間隠し通して、挙句の果てには『連帯責任制』の下に生徒に面倒を押し付ける……。
いくら前向きに考えようとしたって、学校に理解を示そうとしたってしきれない。心の奥底では人間不信になりそうだったよ……」
天嶺に身体を預けながら、麻子はポツポツと語った。
それは麻子の笑顔の下に隠された
天嶺は言葉を挿むことなく、黙ってそれを聞いていた。抱え込んだ
「今はまだ、この不信感は学校に対するものだけで済む。けど時間が経てば、他のクラスや、クラスメイトに対しても向けられるかもしれない……。
そう思うと怖かった! そう考えてしまう自分が嫌だった! でも考えずにはいられない! だって学校側がそう仕向けてるんだから!
『次代の牽引者』ってなに!? そうまでしなきゃ成れないものなの!? そうまでして求めるものなの!? そうまでして求められて、本当に日本を良くできるの!? 引っ張っていけるの!?
私にはそうは思えない……。確かに厳しさは必要だよ。狡賢さだって必要かもしれない。けど積極的に他人を疑って! 切り捨てて! 優しさを失った人がどうやって国を良くできるっていうのさ!?
武田信玄曰く『人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり』。批判的な意見もあるけど、私はこの概念こそが、国を統治する上で必要な概念だと信じたい。――信じてる」
協調性があるということは、他人を思い遣れるということだ。他人を思い遣れるということは、当人の身になって考えられるということだ。判断基準はあくまでも自己に依ってしまうが、ある意味では視野が広いことを示している。
だが、そんな協調性の高い人物にとって、この学校のシステムはトコトンまで相性が悪い。それも当然で、『他人の嫌がることを行うのは止めましょう』、『自分がされて嫌なことを他人に行うのは止めましょう』なんてのは、それこそ義務教育前の園児時代から言われていることだからだ。
それを積極的に守り抜いてきたからこそ、他人を思い遣れることが出来るし、モラルの高さが際立つのだ。――にも拘らず、学校のシステムはここに来てそれを捨てさせようとしている。
そんなこと、容易く受け入れられる筈がないのだ。それこそ、今まで培ってきたモラルがそれを許さない。
結果、対策を考えてしまっても、それは自己否定に繋がってしまう。対策を考えるとは、他者を疑うことになってしまうからだ。
だからこそ、今までの自分を守るためにも、これからの自分を守るためにも、協調性の高い人物は正攻法しか選べない。――搦手を許容し推奨するこの学校のシステムと相性が悪いのは道理である。
「まあ、そんな風に考えて潰れそうになってたんだけどさ。今回、ウンとセックスしたことでスッキリできたんだよね!
ぶっちゃけた話、
今回のことで、それがよく分かったんだ。だから、ありがとう、天嶺くん。それを私に気付かせてくれて」
振り向いた麻子は、笑顔を浮かべて天嶺に口付けを落とすのだった。
今回は一話丸々麻子ちゃんとです。
麻子ちゃんに限らず、原作で『協調性が高い』ことを謳われている1-Bの面々は同じような闇を抱えてそうです。
あと、本作の麻子ちゃんは歴女になりそうな感じです。気付いたら山中幸盛とか武田信玄とか持ち出してました。
今回明らかにしましたが天嶺は子持ちです。
実のところ、そこら辺は迷ってたんですが、子作り目的で妾をバンバン抱いてたら出来ててもおかしくはないなと……。
また、山奥に位置することもあって、鬼哭村は文明の利器との相性が割と悪いです。
決して使えないわけではないですけどね。
こんな感じで、書いてるうちに、ふんわりとしていた部分が徐々に定まっていきます。
後出しの事実というよりは、後になってから決まるわけですね。
一応、既に描写済みの部分とは矛盾が無いように気を付けているつもりですが……。
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