※この作品はR-18です。

外法ってやつを見せてやろう   作:山上真

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第51話:揃ったぜ――四神が

 ゴールデンウィークの連休二日目。

 天嶺は神夷京との手合わせを行うべく、学校に用意してもらった試合場へと足を運んでいた。

 もっとも、『試合場』と言っても板張りの空間ではない。高等学校の敷地内に存在しているものの、立地的には郊外も郊外だ。

 一応、屋外競技場として無料利用が可能だし、定期的に一定の整備は施されているが、郊外すぎて利用者がいない。……そんな場所だった。

 何故そんな場所を選んだかにも、キチンとした理由が存在する。

 一応のルールはあるが、スポーツ試合ほど安全性を念頭に置いてはいないことも一因だが、ある程度までであれば氣の使用も前提にしていることが最大の要因だ。

 現在、高度育成高等学校の敷地内にいる面子の中で結界術に一番長けているのは天嶺になるわけだが、今回はその天嶺が手合わせを行うのだ。

 必然的にどっちつかずの対応になるのは眼に見えており、天嶺も京も不満が溜まることになる。ならばいっそのこと、最初から結界を度外視しようという判断だった。――それでも、道具を用いての結界は張るが。

 体育館などの屋内競技場ならば建物への被害が怖いが、広く障害物もない屋外競技場ならばその限りではない。

 また、僻地すぎて普段から人が寄り付かないのも大きなセールスポイントだった。

 

「やれやれ。結構な観客が集まったものよな……」

 

 周りを確認した天嶺は肩をすくめた。

 その言葉通り、この場には結構な観客が揃っていた。

 

「取り敢えず、互いの自己紹介をするとしようか」

 

 天嶺の言葉に反論は上がらなかった。全員が全員を知っているわけではないことを踏まえれば、ある意味では当然だろう。

 まず、教師陣からは理事長と一年各クラスの担任が勢揃いしている。

 次に生徒会の面々。こちらも堀北学、橘茜、南雲雅、桐山生叶、鬼龍院楓花が揃っている。

 一年では、Dクラスからは綾小路清隆、平田洋介、三宅明人、幸村輝彦の男子が四人。伊吹澪、軽井沢恵、櫛田桔梗、佐倉愛里、佐藤麻耶、長谷部波瑠加、堀北鈴音、松下千秋、王美雨の女子が九人だ。

 天嶺が呼んだのは、澪は当然として、他には平田、恵、桔梗、鈴音――既に氣に目醒めている、乃至は目醒める可能性の高い人物だけだった。他の面々は、それぞれの理由でやって来た付き添いである。

 Cクラスからは、龍園翔、石崎大地、金田悟、山田アルベルトの四人。女子はいない。石崎以下の三人は、龍園が側近として見込んでいる面子とのこと。

 Bクラスからは、一之瀬帆波、網倉麻子、白波千尋の三人。こちらはCクラスとは反対に男子がいない。帆波に声を掛けたら他の二人が付いてきた形だ。

 Aクラスからは、葛城康平、坂柳有栖、神室真澄、森下藍、山村美紀の五人。天嶺が声を掛けたのは坂柳と森下の二人だけだったのだが、他の三人はそれについてきた形だ。

 

「坂柳、その後の調子はどうだ?」

「ええ。心疾患は回復傾向にありますよ。まあ、当然ながらすぐに完治するわけではありませんけどね。今はお医者様の指示で、食事量を増やしてエネルギーの確保に取り組んでいるところです」

「そのことについては私からも礼を言わせてもらうよ、九角くん。正直、娘の病状に関しては諦観が強かったんだ」

「それも無理はあるまい。原因が宿星の位置ズレではな、現代医学ではどうしようもないだろうよ」

 

 天嶺は、まず坂柳と挨拶を交わした。

 

「真澄も問題はなさそうだな」

「おかげさまでね。まあ、坂柳の奴に便利使いされてはいるけど、コイツの病弱振りを踏まえると誰かが補佐するのは已む無しでしょ……」

 

 次に真澄と。

 

「そちらも元気そうだな、森下」

「ええ、私はすこぶる元気ですよ、九角天嶺。……紹介します。こちらは私の友人にしてクラスメイトの山村美紀さんです」

「えっと、山村美紀です。初めまして。今回は森下さんに誘われまして、よく分かりませんけどお邪魔させてもらいました」

 

 天嶺が森下に声をかけると、彼女は胸を張って答え、隣の少女――山村美紀を紹介した。

 

「そなた……」

 

 山村を見た天嶺は絶句した。――絶句するだけの理由があった。

 

(今度は『無魂症』の体質者だと!? 一体全体どうなっている……!?)

 

 その内心で天嶺は荒ぶっていた。

 天嶺の見る限り、山村は生者の氣――すなわち生氣を全くと言っていいほど発していない。

 生氣を発していない以上、それはすなわち『死者』に他ならない。――にも拘らず、現実として山村は生きている。

 そのような事例など、天嶺の知る限りでは『無魂症』の体質者しかあり得ない。

 

「やはり貴方にも彼女の厄介さが分かりましたか、九角天嶺」

 

 そんな天嶺の様子から察しを付けたのだろう。森下が言葉を発した。

 

「存分にな。俺もそれなりにこの業界に関わって来た自負があるが、無魂症の実例など初めて目にしたわ……」

 

 森下の言葉に、天嶺は肩をすくめて溜息を吐かざるを得ない。

 天嶺の知る限り、かつての鬼道衆に参加していた元新撰組隊士――壬生霜葉くらいしか心当たりがない。それほどに希少な体質者なのだ。

 それにも理由があり、生氣を発しないが故に周囲の人物に気付かれにくく、結果として乳幼児期に亡くなる可能性の方が高いからだ。

 

「あの、そのムコンショウ……? っていうのは一体なんですか?」

 

 至極当然ながら山村が訊いてきたので、天嶺は無魂症について説明した。

 

「生氣を発しない……ですか。我ながら影薄で、周りの人にもなかなか気付いてもらえないと思ってましたが、そんな理由が……」

「うむ。俺たちのように氣を認識できる者であれば、其の方を認識することは容易な部類だ。サーモグラフィーなんかを想像すると分かりやすいだろう。

 それ以外でも、空間認識能力の高い人物ならばまだ気付きやすいだろうが――そうでないならお察しだな……」

 

 心から納得したかはさて置き、それっぽい理由を告げられて落ち込む山村に対し、天嶺は補足を入れた。

 他にも初顔がいるため、山村のことは森下に任せて天嶺はその場を離れる。

 

「よお。お前のことは話に聞いて知ってはいたが、初めましてだな。1-Dの九角天嶺だ」

「ああ、初めまして。1-Aの葛城康平だ。俺も、お前のことは話に聞いていた。

 九角、お前には感謝するべきなんだろう」

「感謝……? 心当たりはないが」

 

 葛城の言葉に天嶺は首を傾げた。

 

「だろうな。……簡単に言うと、坂柳のことだ。ある日を境に、クラス内におけるアイツの態度が一変した。――いや、この言い方は正しくないな……。

 何と言うべきか……。アイツの優先順位に変化が出たと、そう言い表すべきだろうな。それによって、アイツはクラスのリーダー争いから自発的に一歩退いたんだ。

 そして、それにはお前が関わっていると神室から聞いた。

 俺自身は坂柳の能力を認めているつもりだ。しかし、アイツの攻撃的に過ぎる性格までは認められない。アレでは余計な敵を作りすぎる。

 CP評価というクラス対抗を学校に仕組まれているのは事実だが、それでも俺たちは同じ学校の生徒なんだ。その点において、アイツの攻撃的に過ぎる性格は問題になりかねなかった。

 だからこそ、アイツに変革を齎してくれたお前には感謝せずにはいられんわけだ。……俺が保守的な性格をしていることも一因だろうがな」

 

 葛城の説明を聞いた天嶺は頷いた。そういうことなら分からないでもない。

 タカ派とハト派の争いなんてのは昔からよくあることだ。組織内における最高権力者・最高指導者ががシッカリと定まっているのならまだ問題は少ないだろうが、クラス内におけるそれを定めようという争いなのだから、そう簡単に済む筈がない。

 早い話、1-Aはタカ派の坂柳とハト派の葛城がぶつかり合っている状況にあったのだ。

 この一ヶ月、それを他クラスに悟らせずにいたのは大したものだが、クラス対抗が明らかになった以上、リーダー争いは激化する筈だった。――本来なら。

 クラスは違うが、坂柳の天才性は天嶺の元にも届いている。

 そこから想像するに、彼女の攻撃性は、その天才性と相反する体の不自由さに由来するものなのだろう。持って生まれた病状であり、現代医学ではどうしようもない現実が、彼女の攻撃性をより高めることに繋がった可能性は決して否定できない。

 だがそうだとするならば、病状に回復の兆しが見えたことで、攻撃性が減少する可能性は十分にあり得る。

 早い話、精神的に落ち着いたことにより、四方六方八方への噛みつきが治まったということだ。

 別の言い方をすれば、これまでは自身の身体能力の低さと、それをどうすることも出来ないやるせなさに関し、『現代医学ではどうしようもない自身の病状』を理由にすることで目を逸らすことが出来ていた。

 自身の身体能力の低さを度外視することが出来ていたのだ。

 だが、改善の兆しが見えたことで、いつまでも度外視することが出来なくなった。

 これで度外視を続けるようなら、そんなのは本人の怠慢でしかない。……プライドが高いからこそ、坂柳はそのように考えた。

 結果、それが態度の改善、攻撃性の減少に繋がった。そう考えるのは、決して不可能ではない。

 そう考えれば、その切っ掛けを齎した天嶺に対し、葛城が感謝の念を抱いたとしてもおかしくはない。

 

「こっちはこっちの仕事をしただけだが、そういうことなら礼は素直に受け取っておこう」

「ああ。そう言ってくれるとありがたい」

 

 天嶺と葛城が言葉を交わしているところに、近付いてくる人影があった。

 

「よお、九角。今日は楽しませてもらうぜ」

 

 ニヤニヤとした笑みを浮かべながら言ってきたのは龍園だ。

 

「神夷とはお前を楽しませるために手合わせするわけではないのだがな……」

「んな堅いこと言うんじゃねえよ。――これで俺もアイツの遊び相手を度々務めてるが、やっぱ本分が違うからな。『戦士』としてのアイツを満足させることは出来ても、『剣士』としてのアイツを満足させることは出来ねえ。正直、そこについちゃあ思うところがあるんだよ」

 

 笑みを浮かべていることは変わらなかったが、それでも笑みの質は変えて龍園は言葉を続けた。

 そして、龍園は葛城へと視線を向けた。

 

「んで、そっちは1-Aの葛城か。1-Cの龍園翔だ。噂は色々と聞いてるぜ」

「龍園か、こちらもお前の噂は色々と聞いている。取り敢えず、名乗られたからには名乗り返すとしようか。1-Aの葛城康平だ」

 

 挑発的な笑みを向ける龍園と、仏頂面で返す葛城。その視線はぶつかり合い、見えない火花を散らしていた。

 そんな折、何かに気付いたように龍園は眉をしかめた。そのまま、何かを確かめるかのように、ジッと葛城を見やる。

 

「な、なんだ?」

 

 理由が分からず、流石にたじろぐ葛城。

 そんな葛城を無視し、龍園は天嶺へと向き直り、高らかに声を掛けた。

 

「よお、九角! 何ともめでてえじゃねえか! 揃ったぜ――四神が」

「……なに?」

「しかもだ! ものの見事に所属クラスが分かれてやがる! コイツはいったいどんな偶然だ!? 出来過ぎにも程があるってもんだろうがよ、おい!?」

 

 ハイテンションのまま龍園は言葉を続け、同意を求めるかのように天嶺の肩を叩く。

 

「ちょっと龍園くん! 天嶺くんにウザ絡みするのは止めてよね!」

 

 そこに、帆波が近付いてきて龍園へと一言文句を言った。

 

「貴方、また九角くんに絡んでいるの?」

 

 同時、鈴音も近付いてきて龍園に声を掛けた。おそらく、過日の一件で龍園を注視していたのだろう。

 

「って、あれ……?」

「む……?」

「これは……?」

 

 帆波、葛城、鈴音が、三者三様に不思議そうに呟く。

 

「少陽青龍たる俺、老陽朱雀たる帆波、少陰白虎たる葛城、そして老陰玄武たる鈴音。すなわち、四神が一堂に揃ったことによる共鳴だろうよ。

 葛城と鈴音は未だ目醒めてはいねえようだが、俺と帆波は覚醒済みだからな。この近距離で四人が固まれば、互いの影響が強まってもおかしくはねえさ」

 

 対する龍園は、笑みを浮かべたまま余裕ありげに言葉を紡ぐ。

 

「そしてそれは、未だ目醒めていない二人の覚醒を促す」

「うぐっ……!?」

「くうっ……!?」

 

 龍園の言葉を裏付けるかのように、葛城と鈴音は苦悶の表情を浮かべる。強制的に目醒めを促されているのだから無理もない。

 

「ウオオオオォォーーーッ!!」

「アアアアァァーーーッ!!」

 

 そして、葛城と鈴音は揃って絶叫を上げた。

 葛城の身体は白と黒からなるまだら模様の毛皮に覆われていき、鈴音の周囲には水が渦巻く。

 

「ヤバッ……! これ、私も引っ張られてる……!? ならいっそ、この状況を利用する……! 朱雀変ッ! ハアアアアァァーーーッ!!」

 

 帆波が慌てたような声を上げた。――かと思えば、気合の入った雄叫びを上げる。

 見やれば、帆波の身体がまるで炎のように揺蕩い、その背には炎で模られた翼が広がっていた。四神の宿星保持者の本領を発揮するための変生――『四神覚醒・朱雀変』を行使したのだ。

 どうやら、葛城と鈴音の両名とは違い、帆波は自意識を保っているようだ。

 

「ウアアアアァァーーーッ」

 

 天嶺が安堵したのも束の間。

 次の瞬間、少し離れた場所からも男性の絶叫が聞こえてきた。

 

「会長!? 会長!?」

 

 直後に、慌てたような橘書記の声も。

 生徒会長である堀北学は鈴音の実兄だ。である以上、彼もまた玄武の宿星保持者であっても不思議はなく、鈴音たちに引きずられる形で覚醒を果たしたとしてもおかしくはなかった。

 

「ええいっ! あっちもこっちも! 一度に事が起こりすぎだろう! 俺にどうしろというのだ……!?」

 

 さしもの展開に、天嶺も叫ばずにはいられない。

 

「九角、お前は向こうに行きな。こっちの二人は、俺と帆波でどうにかしてやるよ。――つーか、どうにかするしかねえ」

「うん。天嶺くんは会長の方に向かって。パワーバランスから言っても、それが最適だから」

 

 そんな天嶺を、龍園と帆波が促した。

 正直、二人の言う通りである。

 目醒めたばかり、かつ暴走状態ということもあって技量的な部分を気にする必要はないだろうが、単純にエネルギーという点で四神は別格だ。

 そして単純に考えた場合、四神と互角に渡り合えるのは四神だけだ。――にも拘らず、その四神が、向こうは三でこちらは二である。

 四神なのに数がおかしいが、兄弟関係などによってはあり得ないことではない。また、事実としてそうなっているのだから否定する余地はない。現実を認めるしかない。

 である以上、葛城と鈴音は龍園と帆波にどうにかしてもらい、学に対して残りの面子で集中対応するのが、この場における最適解なのだ。

  

「任せたぞ!」

 

 逡巡は短く、天嶺は学の元へと駆け出した。

 

「ヘッ。さぁて、戦るとするか……! 足引っ張んじゃねえぞ、帆波ぃ!」

「そっちこそね! てか、許可してないのに名前で呼ばないでよ!」

「ハッ。この状況でそれだけ吠えられる元気があんなら上等だ! 

 今こそ引き出す! 青龍変ッ! カアアアアァァーーーッ!!」

 

 龍園が叫び、彼の身体にも変化が表れる。その全身が鱗で覆われていく。『四神覚醒・青龍変』を行使した影響が出たのだ。

 今まさに、四神同士による超常大決戦が行われようとしているのだった。




本作では山村美紀の『影薄』の理由として『無魂症』を持ち上げました。
『魔人』原作の無魂症にそんな面があるかは分かりませんが、『生氣を発さない』というのは公式設定です。
そこから『生氣を発さない』=『活氣を発さない』=『影薄』と解釈しました。

『魔人』の原作はゲームであり、その上で仲間になるキャラ数が一定以上存在するので、キャラごとのクセはあっても、キチンと育てれば誰もが強くなるんですよね。
ですが、その中において『四神』は別格と言わざるを得ない部分があります。
『魔人』の戦闘はキャラクターごとに『行動力』が設定されており、この行動力以内であれば1ターン以内に何度でも行動可能という仕様になっています。
で、『魔人』は『剣風帖』と『外法帖』が存在していますが、この双方において、四神の宿星持ちは『四神覚醒・○○変』を習得します。
これを使用すると、ターン制限こそありますが、特定のパラメータが最大値まで上昇するんですよね。
特に、『外法帖』では『四神覚醒』を行うのに全ての行動力を消費しますが、『剣風帖』では僅か1の消費で済みます。
また、『剣風帖』では白虎の宿星持ちがイベントで習得するので、一気に使い勝手が上昇する面があります。
そこら辺を加味した結果として、本作において『四神』は別格の位置づけとしています。

予定が予定通りに進むこともそうはありませんのでね。
四神の方々には早々に覚醒して頂きました。
極論、個別の覚醒シーンを考えるのが面倒だったからでもありますが、無理のない理由はでっち上げられていると思います。

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