※この作品はR-18です。

外法ってやつを見せてやろう   作:山上真

54 / 69
第52話:酷えっすよ、会長!

「ウアアアアァァーーーッ」

 

 突如として堀北学が絶叫を上げ、かと思いきや、その体を覆うように水柱が立った。

 

「会長!? 会長!?」

「おい鬼龍院! 一体全体どうなってんだ!?」

 

 それを見た橘茜が叫び近付こうとするのを止めながら、南雲は鬼龍院へと問いかけた。

 最近は氣やら何やらについても暇を見付けて鬼龍院から教わっている生徒会の面々だが、学校生活や生徒会業務の余り時間を用いてのこと。

 元が優秀な面々だから、それでも時間の割に進捗率は高いが、知識的には不明な部分の方が多い。

 

「さて……? 確証はないが、状況的に見て共(・)鳴(・)が何かだと捉えるべきだろうな……。向こうでも同じような状態に陥っている一年生がいる」

 

 努めて冷静さを保ちながら、鬼龍院は南雲からの問いに返した。

 多分に推測混じりだが、状況的にはそう考えるのが妥当なのは間違いない。

 

「向こうでも……? ッ! そういや、さっき叫び声が聞こえてきたな……」

 

 鬼龍院の言葉に首を傾げた南雲だったが、学がこうなる前に向こうからも叫び声が聞こえてきたのを即座に思い出した。

 学や橘から意識を離しきらないようにして、南雲はチラリと視線を向ける。

 

「ッ……!? マジか……。ある意味、向こうはこっち以上にヤベえじゃねえか……。何だありゃ? 怪獣大決戦か?」

 

 意識を保つためだろう。敢えて南雲は軽口を叩く。

 

「あながち間違いじゃないわね。まさかこうなるとは想定外だったわ……」

 

 そこにやってきたのは澪だった。分かりやすいまでに顔を顰めている。

 

「伊吹か。何が起こってんだ?」

「平たく言えば、宿星持ち同士の共鳴よ。それも四神のね。状況的には、そうとしか思えない。

 帆波が朱雀なのは既に明らか。自己申告によると、龍園が青龍。そんな龍園の指摘によると、堀北が玄武。白虎については何の言及もされてなかったけど、いたんでしょうね、この場に」

「そして、ごく狭い範囲に四神が勢揃いしたことにより、共鳴具合が深まったわけか……」

 

 南雲の問いに澪は答える。

 筋が通っていることを認め、鬼龍院も同意した。

 

「そんなわけだから、南雲先輩はサッサと退避しちゃって。目醒めたて、かつ暴走状態とはいえ相手は四神。正味な話、こっちも余裕はないわ」

「……分かった。さあ、下がりますよ、茜先輩。俺たちがここにいても邪魔なだけです」

「……分かりました。あの、会長のことをお願いします」

 

 普段の余裕が微塵も見られないことに、南雲は嫌でも澪の言葉を信じざるを得なかった。橘を促してこの場を離れる。

 橘もまた、一声かけて素直に離れていった。 

 

「ごねずに素直に下がってくれたのは助かるが……」

 

 それを見送り、鬼龍院が呟いた。

 

「どうなっている!?」

 

 そこに、天嶺が駆け寄ってきた。

 

「生徒会長が、たぶん四神同士の共鳴によって覚醒した。ただ、幸いにして動きはなく、非戦闘員の避難状況は順調――と言っていいのかは分からないわね。正味な話、四神相手だとどれだけ距離を取ればいいかなんて分かったものじゃないし……」

 

 天嶺の問いかけに、澪は学から意識を外さずに答えた。

 

「そうか……。被害が出ていないのであれば何よりよ。

 察しの通り、向こうでは堀北と1-Aの葛城が四神同士の共鳴によって覚醒・暴走状態にある。

 それを利用して、帆波と龍園が同じく四神のチカラを引き出して変生することで対応してくれている。

 早い話、俺たちは会長の対応に専念すればいいわけだが……」

 

 学が何もアクションを起こさないので、天嶺たちも対応に困っている面があるのは否めない。

 一年に引きずられる形で覚醒したが、学と一年の四神の間には物理的な距離が相応に広がっているのも事実なのだ。

 そこを踏まえると、その分だけ暴走が弱い可能性は否めず、場合によっては学が独力で暴走を抑え込める可能性も捨てきれない。

 本音を言えば四神の相手などやってられるものではないので、天嶺たちとしてもそうなってくれるのが最上だ。

 

「いやもう、参ったよね。ボクも流石にこれは予想外だよ」

 

 そこに、京も近付いてきた。

 その顔に浮かんでいるのは不満と困惑だ。制限付きとはいえ、一介の剣士として尋常に手合わせをする予定が、それどころでなくなったのだから無理もないだろう。

 

「『噂をすれば影が差す』とは言うけれど、流石にこのタイミングでは起こってほしくはなかったかな。

 で、青龍は翔、朱雀は一之瀬さん、玄武は堀北さんとして、白虎は誰だったんだい? いやまあ、何となくの想像は付くけれどね……」

「その想像に誤りは無かろうな。1-Aの葛城だ」

「なるほど……。一年に四神全てが揃っていて、オマケに全員が違うクラスときたわけだ……。

 これもう、偶然じゃなくて必然の類でしょ」

 

 京は肩をすくめて首を横に振る。余裕があるのではなく、ただの空元気だ。

 しかし、空元気でも元気は元気だ。装うことで真に繋がることはある。

 緊張は隠せず、それでも敢えて普段通りの態度を心掛ける面々の前で、学に変化が起きた。

 学を覆い隠した水柱が天頂部から周囲へと分散し、今度はそちらで水柱が立ったのだ。

 代わりに学の様子を具に窺がえるようになったわけだが、見た限りではこれといった変化はない。

 

「ふううううぅぅーーーっ!!」

 

 やや顔を俯けた学の口から呼気が洩れた。

 そして、顔を上げた学は真っ直ぐに南雲を見据えて言った。

 

「来い、南雲」

 

 不意に視線を向けられ、言葉をぶつけられた南雲は、困惑を隠しきれなかった。

 

「あの、会長? 大丈夫なんですか?」

 

 慎重に近付きながら問いかける。

 

「大丈夫と言えば大丈夫だが、そうじゃないと言えばそうじゃないな。

 今、俺に対して無条件に干渉できるのは、お前と鈴音ぐらいのものだ。それ以外の面々は、俺に近付くだけで周りの水柱が迎撃するだろう」

 

 南雲の質問に学は答える。だがそれは、俄かには受け止めづらい答えだった。

 

「へ……? あの、それってつまり……」

「ああ。お前が俺を止めるんだ、南雲」

 

 語尾が尻すぼみになる南雲に対し、学が決定的な一言を放った。

 

「いやいやいや! ちょっと待ってくださいよ、会長!? 止めるったって、どうやってっすか!? 俺、氣にも目醒めてないんですよ!」

「ああ、知っている。だから、今この場で目醒めてみせろ。――出来るだろう、お前なら」

 

 慌てる南雲に対し、やはり学は真っ直ぐに視線をぶつけ、至極当然に、問題など何もないかのように言ってのけた。

 

「ッ――!?」

 

 しかし、だからこそ南雲は息を呑んだ。学のその言葉は、南雲に対する信用と信頼の表れに他ならなかったからだ。

 南雲雅であれば、この鉄火場で氣に目醒めてみせる。その上で、自分を止めてみせる。――学は、暗にそう言ったのだ。 

 自身が尊敬する先輩から真っ向切ってそんなことを言われて奮い立たない南雲ではない。

 

「ああもう! 酷えっすよ、会長! 普段は素っ気ないのに、こんな時だけさあ!

 でも俺は、相手によっては単純なので、そんなリップサービスでも燃え上がっちまうんですけどね!」

 

 髪をかき上げ、獰猛な笑みを浮かべ、こちらも真っ直ぐに学を見ながら宣言する南雲の足元では、地面が灼けて赤熱化していた。――学の期待通り、南雲はこの土壇場で氣に目醒めてみせたのだ。

 

「名前の通り、雅に往くぜ!」

 

 南雲の言葉に応えるかのように、彼の周囲に火柱が立った。

 水と炎の違いがあるだけで、学とそっくりである。

 そして当の南雲本人は、真っ直ぐに学へと向かって行った。

 

「正面から堂々とくる心意気は見事だ。――だが!」

 

 こちらも真っ向から南雲を迎え撃った学は、南雲の勢いを利用して彼を投げ飛ばした。

 

「どわったぁっ!?」

「お前な……。これでも俺は空手と合気道の段位持ちだぞ。お前の身体能力の高さは認めるが、何の工夫もなく真っ向から来るようでは対処は容易い」

 

 どうにか受け身は取った南雲に対し、学は呆れを隠さずに言ってのける。

 

「ヘッ……! 上等っすよ! 簡単には乗り越えられない壁だからこそ、挑み甲斐があるってもんです!」

「フッ……! なら、来い! 見事、俺という壁を乗り越えてみせろ!」

 

 そんな感じに生徒会会長と生徒会副会長の熱いやり取りが繰り広げられているわけだが、それによって天嶺らは手持無沙汰になってしまった。

 南雲を手助けしようにも、水柱と火柱から邪魔されるのは明白である。もはや完全に二(・)人(・)の(・)世(・)界(・)が構築されている。

 かといって、一年組の方に干渉しようにも――

 

「おおぉらああぁぁーーっ!」

「うおおおぉぉーーっ!」

 

 片や龍爪と虎爪がぶつかり合い。

 

「はあああぁぁーーっ!」

「ああああぁぁーーっ!」

 

 片や炎の羽根と水の針がぶつかり合っている怪獣大決戦である。

 

「何の手立てもなくアレに割り込むのは自殺行為に他ならんしなぁ……」

「ええ」

「ああ」

「そうだね」

 

 天嶺の呟きに、澪、鬼龍院、京が同意する。

 

「取り敢えず、俺たちは外野に被害がいかないよう、様子見と警戒に徹するか……」

「それが無難だろうな。如何にエネルギー量に差があると言っても、流れ弾の対処くらいなら出来るだろう」

「人的被害だけに注意を向けるのなら、対処はより簡単でしょうしね」

「僻地なのが不幸中の幸いだね」

 

 四人は顔を見合わせて頷き合い、そういうことになったのだった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「九角くん、アレはどうなっているのか訊いても構わないかな?」

 

 見学席と言うか、避難場所と言うか、そこに辿り着いた天嶺らを待ち受けていたのは、当然ながら状況に対する質問だった。

 

「最大の要因は宿星同士の共鳴だな。少陽青龍である龍園翔、老陽朱雀である一之瀬帆波、少陰白虎である葛城康平、老陰玄武である堀北鈴音が、この狭い範囲で一所に会したことにより、互いが互いに対する影響を自然と高めてしまったのだ。

 これは、既に龍園と一之瀬が氣に目醒めていたことも一因だろう。葛城と堀北はそれに引っ張られたと見るべきだろうな。

 そして、四神が一塊になっていること、更には堀北が覚醒したことに引きずられて、距離はあったが堀北の兄である生徒会長殿も覚醒するに至った」

 

 理事長から向けられた問いに、天嶺はまず前提となる答えを返した。ここを理解してもらわないことには始まらない。

 

「四神同士の共鳴と覚醒……ですか。門外漢ではありますが、筋が通っている様には感じます。――続けてください」

「うむ。……宿星同士の共鳴による強制的な覚醒だからな。これで何の問題も起こらない方がおかしい。

 結論から言うと、現在の葛城と堀北は暴走状態にある。目醒めたてで技量こそ備わってはいないが、暴走しているが故に、四神としての膨大なエネルギーを振るう分には些かの問題もない。

 一方、龍園と一之瀬は既に氣に目醒めていたこともあってか、キチンと自意識を保っている。その上で、二人を止めるべく、この状況を利用して未だ眠っていたチカラを引き出し、見事制御することに成功したのだ。

 現状、あの四人は一時的に人間ではなくなっている。変生したことで、文字通りに四神の代行状態にある。ならばこそ、人の身にあるまじき膨大なエネルギーを振るうことが出来ているのだ。

 そんなわけで、何の手立ても打たずに割って入るなど自殺行為に他ならない。それは俺たちであっても同じだ。俺たちも鍛えてはいるが、あくまでも人の身であることに違いはないからな……。どうしても限度というものが存在する」

「私たちも、宿星のチカラを引き出しきることが出来れば、可能性があるとは思うのだけどね……。

 何となくだけど、まだブレーキが掛かっていることが分かるのよ。そして今の私たちは、そのチカラを引き出しきることが出来ないことも分かる。

 何て言うか、親和性の問題ね。信仰と加護の不均等さと言うか……。

 四神の連中は、元々が四神を信仰していた者たちの血筋であり、四神もまた加護を与えていたと見るべきね。

 実際、私たちの文献だと、玄武にはそういう存在がいたことが明らかになっている。『飛水一族』というのだけどね。飛水一族は、主に玄武を想起させる――言い換えれば、水、北方、黒色に関連する名を好んで名乗ったそうよ。

 対し、私たちは信仰自体はしていたのかもしれないけれど、それは一方的なものであり、加護を与えられることはなかった。

 或いは、血筋とかの関係なく宿星を持つに至ったため、それだけ本領を発揮するためのハードルが高い。

 難しいけど、敢えて言葉にするならこんな感じかしらね……」

 

 天嶺が答えると澪が続けた。

 

「なるほど……。必ずしも努力が実るとは限らず、神頼みをしても応えてくれるとは限らない。……伊吹さんたちの状態を言葉にするなら、そういうことでしょうか?」

「そのような解釈で問題ないと思う」

「『堀』に『北』だからな。堀北兄妹が、その飛水一族とやらの末裔である可能性は捨てきれんわけか……」

 

 理事長の質問に天嶺が頷くと、茶柱が顔を顰めながら呟いた。

 

「一年の方はあんな感じだが、距離があったからか、或いはそれだけ自制心が強かったのか、会長の方は完全な暴走状態には陥っていない。――だが、完全な制御も出来ていないようでな。

 今の会長は、自身に無条件に干渉できる相手を南雲副会長と堀北に限定することで、どうにか理性と身体の自由を保っている状態にある。

 それは取りも直さず妹への親愛の証であり、南雲副会長に対する信用と信頼の証だ。

 それを告げられた南雲副会長は、喜びの余りか氣に目醒めることに成功したのだ。

 そして今は、端的に言ってじゃれ合いの最中だな。見事なまでに二(・)人(・)の(・)世(・)界(・)が展開されている。邪魔をするのは野暮というものだし、そもそもにして邪魔をすることも出来ん」

 

 これを告げる際には、天嶺も肩をすくめずにはいられなかった。

 

「私たちに出来るのは見守ることだけですか……」

「うう……。会長ーーーーっ!!」

 

 神妙に呟く理事長の横では、橘書記が大泣きしているのだった。




原作でも、学は南雲の能力は認めていましたからね。
そこら辺を加味しての流れです。

南雲の宿星は四霊の一角である『鳳凰』にしました。原作の『魔人』には登場しない宿星ですね。
また、本作において『玄武』と『霊亀』、『青龍』と『応龍』、『朱雀』と『鳳凰』、『白虎』と『麒麟』は、言わば『表と裏』の関係にあると設定しています。
自然、司る方角や属性も同一としています。

これは『魔人』の龍技において、陽の龍技が四神の名を冠し、陰の龍技が四霊の名を冠していることも考慮しています。
ただ、原作設定のままだと、特に陰の龍技の名前や技の配置で首を傾げざるを得ない部分があります。
原作だと、技名が『四霊・麒麟』、『四霊・鳳凰』、『四霊・龍王』、『四霊・亀聖』なんですよ。特に後半二つで首を傾げざるを得ません。
また、陽では『弦嶄』という技から『秘拳・白虎』へと昇華するのに対し、陰では相当するであろう『逆弦嶄』から昇華するのが『四霊・亀聖』なんですよね。
座りが悪いので、龍王は『応龍』に、亀聖は『霊亀』に変更し、その上で霊亀と麒麟の配置変更を行います。やっぱり、亀は亀と相対して然るべきですし。

中央はいずれも黄龍です。『魔人』が絡む以上、ここは絶対です。

ぶっちゃけ、南雲の宿星は学と関係し、その上で相対するものにしたかったのが最大の理由です。
ただ、玄武の学と相対させる上で既に帆波を朱雀に宛がっていましたので、関連のある四霊を引っ張ってきた次第です。
ご了承をお願いします。

感想・中~高評価・リクエスト・お気に入り登録お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。