※この作品はR-18です。

外法ってやつを見せてやろう   作:山上真

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第53話:……ああ、僕たちは秋月の分家の者だ

「取り敢えず、いつまでもここでこうしてはいられんのでな。俺は結界を強化してくる」

 

 元々は天嶺と京の手合わせの予定でしかなかったため、現在展開されている結界は道具任せだ。効果は結界外部に対する遮音と幻惑のみ。

 まあ、効果が限定的なだけにコストの割には強力な方ではあるのだが、流石にこんな『怪獣大決戦』的な状況をカバーしきれるほどではない。音然り、光景然り、限界を迎えれば普通に破れる。

 そして結界が破れれば、音と光景に興味を惹かれた者たちが次から次へと近付いて来ることだろう。

 

「ああ、その問題がありましたか……」

 

 頭に手を当てて零す理事長は、実に頭が痛そうだ。

 後学のためにと時間を捻出して見学に赴いてみれば、予期せぬ異常事態が展開されてしまったのだから無理もない。

 

「急いだほうがいいでしょうね。既に二人、ここに近付いてきてますよ。植物が教えてくれました」

 

 顔を上げてそう言ったのは森下だった。

 現在展開されている結界は、前述の通り中(・)を(・)外(・)に(・)洩らさぬようにするためのもの。方法さえ確立されていれば、外(・)を(・)中(・)に(・)知らせることは十分に可能である。

 

「植物によると、どちらも男で、おそらくは学生だろうとのことです。最初から足が真っ直ぐにこちらに向いていたようですので、元から目的地がここである可能性が高いです」

 

 続く森下の言葉に、全員が顔を顰めた。

 

「基本、ここは一般開放されている運動場だからな……。一応、今回のために学校側で使用禁止の手続きは取ったが、無難な理由は用意できなかった。本当に『使用禁止』としか公表していない。だからこそ、それを知った人物の興味を引き付けてしまった可能性は否定できん……」

 

 頭に手を当て、溜息を吐きながら真嶋が呟く。

 無難な理由だと『メンテナンス』になるのだろう。いくら僻地で普段から利用客が少なかろうと、逆に言えば僻地だからこそ、継続的な利用には定期的なメンテナンスが欠かせない。

 しかしながら、今回は人払いを設定する側が氣やら何やらについて門外漢に過ぎた。

 天嶺と京の手合わせの末、ある程度の周辺被害が出るだろうことは予想できる。予想できるからこそ、屋内ではなく屋外に手合わせ場所を用意した。

 その一方で、出るだろう周辺被害――『ある程度』の範囲を想像しきることが出来なかったのだ。

 理事長然り、他の教師陣然り、彼らにも子供の時代はあった。だからこそ、魔法が飛び交ったり、斬撃の軌道に合わせて衝撃波が飛ぶような『ファンタジー的光景』の想像は出来る。

 出来るが、その手の光景は、作品によって規模が本当に千差万別なのだ。

 それが問題だった。メンテナンスを利用して人払いを図り、手合わせの結果として本格的なメンテナンスが必要になった場合の上手い言い訳が思い付かなかったのだ。

 先述の通り、メンテナンス自体は定期的にされているのだ。普段の利用客が少ないからこそ、その分だけ都度都度に入念なチェックが可能であり、だからこそ『予期せぬ経年劣化が見付かった』などの理由は使えない。

 普段から利用客が少なかろうと、そこら辺にもキチンと力を入れて維持管理に努めているからこその高度育成高等学校でもあるのだ。制度上、生徒に不便を強いている面があるのは否定できず、余計にフォロー部分に手抜きが出来ない実情がある。

 ポイントがなくても一定の環境に身を置くことはできる。その前提があるからこそ、ポイントのない生徒の不満がある程度宥められている側面もあるのだ。

 

「いえ、それです。今回はそれを逆手に取りましょう、真嶋先生。いわゆる『オカルト的な理由』だからこそ、具体的な理由を公表することが出来なかったとすれば……」

「ッ……! 確かに、それなら誤魔化せるかもしれません。連休を利用して、その道のプロである九角に本格的な調査を依頼・実行している最中だとすれば……」

「相手の信じる信じないはさて置いて、一定の筋は通るな。仕事を請け負った九角くんに加え、教師と生徒会役員が同行していれば、説得力は更に増すだろう」

 

 顔を見合わせあい、頷き、天嶺、真嶋、鬼龍院は足早にこの場を後にした。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 一方、近付いている二人の人物は対照的な表情を浮かべていた。

 片や興味津々に。――片や面倒臭そうに。

 

「もう少し楽しそうな顔をしろよ、裕也」

「阿呆。俺はお前とは違うんだよ、克己。こうして付き合ってやってるだけありがたく思え」

 

 浮かべる表情はともかく、互いの態度には確かな親近感があった。

 

「僕の占いでも見通せないほどの光景……。俄然、楽しみになるってもんだ!」

「へえへえ、そうかい。生憎と俺は逆だな。お前の占いでも見通せない景色なんざ、おっかなくてしょうがねえ。

 実際、こうして目的地に一歩近付くたびに肌が泡立ってきやがる。尋常ならざる光景が繰り広げられてるのは間違いねえな」

「む……。君がそう言うってことは、確かに警戒して然るべきか……」

「そう言いながら、足を止めることはしねえんだからコイツはよ……」

 

 そんなやり取りをしながら、二人は確かに目的地である郊外の運動場へと近付いていた。

 

「お前たちは……1-Bの時任克己と1-Cの時任裕也か」

 

 やがて、三人の人物と遭遇し、うちの一人から声を掛けられた。

 声を掛けてきたのは一年の学年主任であり、1-Aの担任であり、英語の担当教員でもある真嶋だった。

 

「真嶋先生……? と、他の二人は……」

「俺は知らねえ」

 

 克己が首を傾げながら呟けば、その横で裕也が首を横に振った。

 

「この先にある運動場を利用しに来たのかもしれないが、生憎と今日のところは利用禁止だ。ともすれば、暫く続くことになるかもしれないが……。

 ここまで来て無駄足を踏ませることになるが、今日はおとなしく帰れ。再び利用可能になったら、ホームページなり何なりで公表する」

「俺は1-Dの九角天嶺だ。俺はいわゆる『退魔』だの『除霊』だのを生業にしている家系の者でな。今日は学校から調査依頼を受けて、今はその仕事中というわけだ」

「私は2-Bの鬼龍院楓花だ。生徒会役員でもある。……で、私と真嶋先生はそれに同行中というわけだな」

「……まあ、そういうことだ。その場限りの口頭で言うのと、ホームページとはいえ文章に残すのとでは重(・)み(・)が大きく違ってくるのでな。

 馬鹿正直に『本日は除霊調査のために郊外運動場の利用を禁止します』……などと公表して、どれだけの人物がそれを信じると思う?

 いや、信じないだけならまだマシで、場合によっては学校が今以上にお前たち生徒からの信頼を失いかねん。システムの都合ではあるが、ただでさえ生徒に不便を強いている側面がないではないのでな……。

 ならば、『利用禁止』とだけ公表しておいて、やってきた生徒を追い返すようにした方が遥かにマシという判断だ」

 

 三者がそれぞれに言葉を告げる。

 それは確かに筋が通っており、納得できるかはともかく理解は出来る内容だった。互いの立場の問題もあり、よほどに物わかりの悪い人物でない限りはおとなしく引き下がるだろう。

 当然、真嶋はそうなることを想像していたし、期待していた。――しかし、克己の対応は違った。

 

「九角……? もしかして、君は鬼道衆の九角に縁の者かい? ……ああ、僕たちは秋月の分家の者だ。――『星視の秋月』の……ね」

 

 そう問いかける表情は、より興味の色が強まっていた。

 そして、続く言葉を聞けば、天嶺も一考の余地を示さざるを得なかった。『星視の秋月』。これは天嶺らの業界では酷く有名である。

 この世の中、占い師というだけであれば真贋を問わずに溢れている――というのは言いすぎにしても、決して珍しい存在ではない。身近にいるかはさて置いて、それらを売りにしてテレビに顔出しする人物もいる。時期が時期なら占星の本などが書店に並ぶだろうし、カバーに顔写真が載っていたりなどもするだろう。

 そんなピンキリな占い師の中で、最高峰とも言える実力を誇るのが『星視の秋月』である。特に当主一族は須らく『星視』の宿星を宿しており、そのチカラを以てすれば『自然災害や社会的大事件の発生を100%の確率で当てられる』とすら言われている。

 結果、秋月一族もまた鬼道衆と同様、時の権力者と持ちつ持たれつの関係を築いているのが実情だった。

 かつて幕末の折には、件の秋月の当主が名を変えて龍閃組に、引いては鬼道衆にも協力していたとの伝承も残っている。

 そういった事情があり、天嶺も『星視の秋月』の名は知っていた。――まあ、よほど有力でもない限り、流石にその分家まではいちいち把握しておらず、『時任』もその例に洩れなかったが。

 

「『星視の秋月』の分家か……。そういうことなら話は違ってくるな。時任の名は聞いたこともないが、所詮は外部の者同士。全てを把握している方がおかしい」

「そういうことだね。こちらも鬼道衆に関して知っていることなど限られている。結成当時のことこそ多少は詳しいつもりだけど、時代の流れの中で変遷を迎えた部分も相応にあるだろうしね。

 ま、教室を想像するのが分かりやすいよね。他のクラスのことについて知っていることなんて限られているのが現実だ。担任や顔役の生徒のことは知っていても、そのクラス全員の名前と顔を把握していることの方が稀だ」

「そういうことだな。俺も何人かは1-Bや1-Cの生徒を知っているが、お前たちのことは知らなかった。……ああ、そちらの想像通り、俺は鬼道衆の九角だ。次期頭領の予定でもある」

 

 天嶺と克己の間で言葉が交わされ、互いが互いに最低限の事情を認識した。特に克己が引き合いに出したクラス事情が分かりやすく、それによって真嶋も鬼龍院も最低限の把握が可能だった。

 

「あ~、つまり、この二人はそちらの業界の関係者という認識で構わないか?」

 

 だが、あくまでも最低限。それを踏まえれば、真嶋が確認を取るのは当然だった。

 

「そう受け取ってもらって構わん。『星視の秋月』は分かりやすく言えば占いの大家だ。その分家というのであれば、この二人もそっち方面を得手としているのだろうよ」

「ご明察。宗家には及ばないけど、占術に関しては僕もそれなりに得意としていてね。……ただ、そんな僕にも見通せない光景が映ったんだ。そうなると、興味を惹かれるのも已む無しというわけさ」

「んで、俺はそれに巻き込まれたわけだ……」

 

 真嶋の確認に天嶺が答えれば、克己が肯定しながら補足を入れ、裕也が面倒臭げに頷いた。

 

「『星視の秋月』であれば、私もお爺様から聞いたことがあるな……」

 

 顎に手を当て、記憶を漁るようにしながら鬼龍院も呟いた。

 

「まあ、関係者なら無理にここで追い返す必要もない。今現在、この先ではさながら『怪獣大決戦』が行われている。それでも構わなければ進めばいい」

「怪獣大決戦……? それは何かの比喩かい?」

 

 当然だろうが、天嶺の言葉に克己と裕也は揃って首を傾げた。

 

「端的に言えば、四神の宿星持ち同士が変生してぶつかり合っている」

『はあっ!?』

 

 克己と裕也は揃って大口を開けて驚いた。このことから、両名がある程度の知識を有しているのは明らかだった。

 

「四神が揃っていること自体が驚きではあるけど、前例がないわけではないからそこについては置いとくとして、何だってまたそんなことになってるのさ?」

「言っておくが、俺たちにとっても想定外の事態だからな。元は俺と神夷による剣の手合わせの予定だったのだよ」

 

 そう前置きして、天嶺は事情を説明した。

 

「マジで!? 一之瀬さんが朱雀!?」

「龍園が青龍だと!?」

 

 クラスメイトに当事者がいたことに、克己と裕也は再度驚愕を露わにした。

 

「ってそうか……。以前の一件って、そういう……」

 

 直後、克己は何かしらの心当たりに思い至ったようである。

 まあ、十中八九は覚醒の一件だろう。可能な限り隠蔽の手は打ったが、元から関係者なら誤魔化しきれる筈がない。条件が揃い次第、思い至っても不思議はなかった。

 

「いつだったか、占いの結果に従って登校を早めた日があったんだよ。そしたら、その日に薬品漏れがあったとかで、通学路で倒れ込んだ生徒が続出したらしくてね。まあ、その発表自体は日を置いてから行われたわけなんだけど……。

 ただ、チカラの残滓はある程度感じ取れたから、その発表がフェイクであるとは思ってた。

 そして、その際に膨大なまでの炎氣も感じ取れた。状況的に、それが一之瀬さんの覚醒だったんだろう?」

「まあ、そんなところだ」

 

 敢えて否定する理由もないので、天嶺は頷いた。

 

「ああ……。そんなこともあったっけな……」

 

 その横で、裕也も頷いていた。

 

「そして、今は四神同士の共鳴により、未だ目醒めていなかった葛城くんと堀北さんが覚醒、変生して暴走している。それに対し、既に目醒めていた一之瀬さんと龍園くんも自発的に変生することで対処している……。

 また、一年生たち――特に堀北さんに引きずられる形で、お兄さんの生徒会長も覚醒。こちらは完全な暴走には至っていないものの、半暴走状態であるのは変わらない。ただ、理性と身体の行動権は残っていたので、南雲副会長に自分を止めるように要請。

 そうして請われた南雲福会長までもが氣の目醒めを果たし、会長に対処している真っ最中……」

「ゲームのイベントじゃあるまいし、何でそんなことになってんだよ……」

 

 事情を聞いた克己は復唱。それを受け、裕也は呆れを隠さずにツッコミを入れた。

 

「俺が知るか」

 

 気持ちは分かるが、天嶺としてもそう返すより他にない。

 

「まあ、そんなわけでな。俺たちは部外者がやってこないように結界補強の真っ最中というわけだ」

「じゃあ、僕たちもそれに同行させてもらうよ。怖いもの見たさでここまでやって来たはいいけど、別に自殺志願者ってわけでもないんでね。何の手立ても打たず、変生した四神同士がやり合ってるところに近付くなんて冗談じゃない」

 

 天嶺の言葉に対し、克己は一も二もなく同行を宣言したのだった。




全員というわけではないですが、メイン・サブ・モブを問わず、『よう実』のキャラに『魔人』との関連性を持たせていきます。
基準はマチマチです。基本的には『よう実』原作で目立っているキャラに宛がいますけど、今回のようにモブも引っ張ります。
時任を宛がったのは、その名字が個人的に『予知』や『占い』を連想させるものだったからです。
結果、『魔人』でそっち系の筆頭とも言える『星視』の能力を持つ『秋月』と関連を持たせました。
モブを引っ張る場合、そもそもの描写が少ないので、基本的には名前で決めます。
伝奇モノでは名前の字や響きが重要だったりする場合も珍しくはありませんし、モブだからこそオリジナル成分が高くなっても支障は少ないと思いますので。

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