※この作品はR-18です。

外法ってやつを見せてやろう   作:山上真

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第57話:それが誠意というものなんだろうね

 ゴールデンウィークの連休後は瞬くが如くに時が過ぎた。

 基本、それが普通なのである。日常というものは、然程変わり映えしないからこそ『日常』と言われるのだ。

 時折、多少なりとアクセントが入るのは否めないが、それはアクセントが入る余地のある行動を取ったればこそとも言える。そして場合によっては、そのアクセントがアクシデントへと昇華する。

 今月の末には中間テストがある。そして高度育成高等学校では、定期テストで一科目でも赤点を取ったら退学になるルールだ。

 それは仕事を受けて入学を果たした天嶺と澪も変わらない。然るに、高得点を取る実力と自信があったとしても、念には念を入れて勉強に時間を割かざるを得ない。油断して赤点を取り、退学にでもなったら目も当てられないからだ。

 そのため、今の天嶺らはテストが終わるまで仕事は最低限に留めてある。するにしても、あまり動き回る必要のない事柄に限定してあった。資料の確認だったり、簡単な調薬・調合の類などだ。

 資格? 天嶺らが作るのは、あくまでも『オカルト方面』の物だ。そこに一般的な資格など何の役にも立たない。その点で既に認可は取ってある。

 口出ししてくるのならばメカニズムを解明し、自分たちで再現してみせろ。それが出来ないのであれば、素直に領分違いを認めることだ。……とまあ、そんな話で、もはや過去に決着は付いているのだ。

 なお、理事長に要請した『高度育成高等学校の設立資料』は、今以て用意できていないとのこと。流石に、学校そのものの設立資料は校舎に保管されてあるが、町割りやらそこら辺も含めるとなると、それはもう日本政府の取り扱いになってしまうそうだ。

 確たる理由がある以上、取り寄せそのものは可能だが、肝心の理由が胡乱に過ぎる部分もあるため、どうしても請求・取り寄せルートが限定されてしまうとのこと。そのため、必然的に時間が掛かってしまう。

 まあそんなわけで、今の天嶺たちは学校が終わったら即座に帰還し、資料確認、噂話などの情報精査、仕事に使う消耗品の補充、余り時間で勉強といったルーチンを取っていた。

 行動範囲が限定されているため部外者の立ち入る余地は少なく、必然的にアクシデントに昇華する余地も少ない。

 結果、連休後は割と平和な時間を過ごせている。――『嵐の前の静けさ』な可能性は否定できなかったが……。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 それは中間テストが近付いたある日のことだった。

 

「最近さ、クラスの皆から向けられる視線が若干怖いんだよね……」

 

 拠点での夕食時、疲れた表情で平田が呟いた。

 

「あ、平田くんも~? 私もそうなんだよね~」

「分かるわ~。天嶺くんが言った『乱交パーティー』に対する期待が強いんだろうね。視線だけで私とか桔梗ちゃんのことを『ビッチ』とか『性女』認定してるのが分かるんだよね。

 いやまあ、その結果、クラスの男子たちは余計真面目に勉強に向き合いだした側面があるから、一概に否定はできないんだけどね……」

 

 平田に続いて発言したのは桔梗と千秋だった。

 

「いや、それを言ったら池くんとか山内くんとかも同じなんだけど。私と恵ちゃんに向ける視線から、『コイツ等なら俺らでもヤれるんじゃね?』的なことを考えてるのが丸分かりなんだよね」

 

 更には麻耶が。

 

「まあ、学力って点で見れば、私も麻耶ちゃんも池くんや山内くんとは大差ないからね。その分だけ甘く見られるのは仕方ないって諦めは付くんだけどさ」

 

 そして恵が。

 

「あら、そうなの? 私はちっともそんな視線は感じないわね」

 

 首を傾げて言ったのは鈴音だ。

 

「僕もだな。一応、それとなく周囲に注意は向けているつもりなんだが……」

 

 同じく幸村。

 

「二人の場合、最初っから無駄だと思われてんでしょ。こっちはウザッたくて仕方ないってのに……」

 

 そして澪。

 

「意外だな。伊吹にはそんなに視線が向けられているのか? どちらかと言えば、学校での伊吹は僕らと同様に交流範囲が狭い方だと思っていたが……」

「その認識で別に間違っちゃいないわよ。単に私の場合、その交流対象が視線を引き付けんのよ」

『あ~……』

 

 澪の言葉には、この場の全員が頷かざるを得なかった。

 普段の澪は、愛里と波瑠加と一緒にいることが多い。そして、愛里と波瑠加は学年でも最高峰の巨乳を誇る。その時点で人目を引き寄せる要素は十分だ。

 挙句の果て、ストーカー事件を機に、愛里は入学当初の野暮ったい恰好を止めている。知名度の高い『雫』としてのそれに切り替えている。その結果、同じような仕草に対する反応からして異なっているのが実情だった。

 猫背気味な仕草や俯き気味な仕草は、これまでの経験でこびりついた愛里自身の素と言ってもいい。ここら辺も矯正のために動いているが、一朝一夕で成果が出るわけもない。ある程度の時間が必要なのは否めない。

 そんな仕草も、愛里では地(・)味(・)さ(・)や暗(・)さ(・)を底上げする要素にしかなっていなかった。――だが『雫』が行えば、それは憂(・)い(・)を演出する要素に早変わりする。

 愛里の意思とは関係なく、それを見た相手が、勝手にそのように受け取ってしまうのだ。そしてその憂(・)い(・)は、『雫』を輝かせるためのアクセントへと変貌する。

 

「オマケに、そんな容姿には優れる相手が、学力や身体能力はそれほど高くないときたわけだからね。

 そして、そんな相手が揃いも揃って天嶺には気を許している様子が散見される。

 結果、『性的ハードル低いんじゃね……?』、『俺にもワンチャンあるんじゃね……?』って考えを男子に助長させているわけね。

 他の面子に視線が向くのも、極論すればこれと同じ。要はハーレムの一員だから敷居が低いと見られてるんでしょ。

 無論、そこにはそれぞれの能力や普段のコミュニケーションも勘案されている筈だから、幸村と鈴音は『望み薄』と判断せざるを得ないんでしょ」

 

 その意見には、これまた全員が頷いた。

 

「ま、提案した俺が言うのもなんだが、成立条件に『互いの合意』が必須な以上、乱交パーティーに参加したとて必ずしも美味しい目に遭えるかは分からんわけだからな。

 そんな中で『美味しい目』に遭うのを狙うとすれば、自然と条件は限定されてくる。

 今の連中は、その条件、一要素にのみ眼を向けている最中だ。別の言い方をすれば、『囚われている』と言ってもいいだろう。だから、『高嶺の花』相手にも希望を持てているわけだな。

 そしてそれは、連中の態度にも表れている。より集中して勉強に取り組みだしたのがその証拠だ。たとえ動機が邪でも、それが自己成長のエネルギーになるのなら良いことよ」

 

 言って、天嶺は味噌汁を口に運んで一息吐いた。

 

「ま、世の中そんなに甘いものでないのも事実だがな。『高嶺の花』を望む限り、連中の目的が叶うことはない」

「……それは、餌だけぶら下げて、実際には与えないということかな?」

 

 天嶺の発言に対し、平田が睨み付けた。

 解釈次第では、平田の言うようにも受け取れるのが事実だ。だがそれは、平田の望むところではない。

 

「別にそんなつもりはないさ。言ったろう? 『高嶺の花』を望む限り、と。――相手を選り好みしなければ、セックスが成立する余地は十分に用意してある」

 

 平田の眼光も何のその。天嶺は澄まし顔で受け流した。

 

「だから平田よ。クラスの一員として、クラスのためを思ってパーティーに参加するのはいいが、そう簡単に誰しもの願いを受け入れるなよ?

 こういう言い方はアレだが、俺、綾小路、そして平田は、多方面で優秀な能力を誇る。それはすなわち、連中にとって『極上の餌』でもあるのだ。

 そんな『極上の餌』にそう簡単にあり付けるようでは、連中の自助努力を妨げることにもなりかねん。――だがその一方で、誰しもが味わえないようでは、それはそれで連中の自助努力を損なうことにもなるだろう。

 だからこそ、重要なのは塩梅だ。そしてそのために、『互いの合意さえあればアブノーマルプレイも可』とした部分がなくもない」

 

 そして、天嶺も平田を静かに見据えた。

 

「天嶺くんの言うことは尤もだよね。うちのクラスの連中って、とかく『楽』に溺れがちだから。簡単に平田くんとのセックスが叶ったら、それで是として最低限の努力しかやらなくなりそう。

 付け加えると、天嶺くん、綾小路くん、平田くんという総合的に優秀な三人の中で、一番ハードルが低いと思われてるのも平田くんなんだよね。

 そりゃまあ、確かに天嶺くんと綾小路くんにもそういう部分が無くはないけど、間違いなく平田くんよりはハードルが高いと思われてるだろうし……」

 

 冷静に告げたのは千秋だ。

 

「天嶺くんの場合は、まず間違いなくハーレムメンバーの数が挙げられるよね。パーティーの提案をした際に、入学してからこの短期間で経験済みなことも周知しちゃったから、尚更敷居は低くなる。

 まあ、言葉だけで皆にとっては確証もないわけだけど、日頃から天嶺くんと親しくしている私たちを、そのお相手として想像するのは理に適っている。

 ただ私たちの場合、全員が何かしら『優秀』な面を持ち合わせているわけじゃない? 逆に言うと、その分だけ女子にとって天嶺くんの敷居は高くなるのよ。

 個人的に、1-Dにおける天嶺くんのハーレムメンバーの中で、能力的に底辺となるのは愛里ちゃんと波瑠加ちゃんになると思うのよね。

 だけど、片や『雫』だし、能力的な部分での不足は補って余りある。……少なくとも、周りは勝手にそんな風に納得すると思う。

 もう片割れの波瑠加ちゃんも、『学年最高峰の巨乳』という、これまた強力な武器がある。

 最底辺でもコレだもん。一抹の望みがあるのは否定しないけど、普通に考えて、女子にとって天嶺くんは非常に敷居が高いよ」

 

 ピッと人差し指を立てて、桔梗が天嶺に対する女子評を告げた。

 その言い分は、客観的に見れば決して間違っていない。

 

「で、清隆は中間層だね。九角くんより敷居は低いけど、平田くんよりは敷居が高い。

 これは、普段の清隆のコミュニケーション範囲から周りが勝手にそう思っているだけで、個人的には一番敷居が低いとは思っているけどね」

「あ、分かる分かる。私たちみたいに『普段からもお付き合いを……』ってなったら途端に敷居は跳ね上がるけど、単に『ヤるだけ』って考えたら一番ハードルが低いよね。清隆くん、根本的な部分で他人に対する興味関心が低いし。

 正味な話、私がここに加わっているのも運の要素が強いし……。ま、『運も実力の内』っていうから、私としては何の問題もないけどね!

 あ~でも、いい加減、私も清隆くんとセックスしたいんですけど! そりゃあね、私もこの面子に加わってからそれなりの時間が経ったわけで、ここの女子陣ともそれなりの仲は築けた自負があるんだけど、だからこそ、時折挟まれるセックスの話題についていけないのが辛いんですけど!」

 

 清隆評に移ると、恵が真っ先に口を開いた。

 麻耶が笑顔で続けたわけだが、ついでとばかりに己が欲求を叩きつけた。

 麻耶の言葉を聞いた女性陣はそっと眼を逸らす。

 その様子からして、日常会話の中でセックスの話題が挙げられるのは事実なのだろう。

 そして実のところ、その言葉通り、麻耶は未だに清隆とのセックスに及んではいなかった。

 ヤろうと思えばヤる機会はあったが、清隆も麻耶もどうせなら生(・)を希望した。そしてそのためには、天嶺の協力が必要不可欠である。だが、肝心の天嶺の都合が合わなかったが故に、こうして延び延びになっているのが実情だった。

 

「そんなわけで、私は我慢が出来なくなっています! もう件の乱交パーティーで、衆人環視の中でいいから清隆くんとヤりたくて堪りません! 女子にだって性欲はあるんだよ!」

 

 麻耶、魂の絶叫だった。かなり追い詰められている。

 

「分かった。約束だ。件の乱交パーティーで、オレはお前を抱く。お前はオレの女だと、クラスメイト達に見せつけてやろう」

「清隆くん!」

 

 清隆の言葉に麻耶は瞳を輝かせた。

 欲求不満が溜まりすぎて、麻耶の頭がバカになっている。周囲はそう認識しつつも、そっと眼を逸らした。

 

「衆人環視はともかく、件のパーティーには私も参加するから、清隆くんにはキチンと相手をしてもらうわよ」

 

 澄まし顔で呟いたのは鈴音だった。

 それを受け、視線が一斉に鈴音を向く。

 

「……なにかしら?」

「いや、鈴音ちゃんらしからぬ言い分にちょっと驚いちゃってね……」

 

 小首を傾げる鈴音に対し、答えたのは桔梗だった。

 

「だって仕方ないじゃない。さっき麻耶さんも言っていたけれど、女子にだって性欲はあるのよ。そして私も恵さんも、セックスしたのはあの日の一回限りなのよ。――初体験であんな目に遭って、いつまでも耐えられ続けるわけがないでしょうが!」

 

 それに対し、これまた澄まし顔で対応していた鈴音だが、最後には絶叫した。

 経験済みだからこそ、麻耶とは別の意味で欲求不満が溜まっていたようだ。

 だからこそ、場の視線は自然と恵に向いた。

 

「あ~、そりゃまあ、私も欲求不満は溜まってるけど……。

 そうだね。いい機会だから、私も件のパーティーを利用して悪女に磨きを掛けようかな……?

 そんなわけで、九角くんと平田くんは清隆と一緒に私の相手をよろしく。……まあ、あれよ。アブノーマルプレイであれば極上の餌にもありつけるっていう、女子に対するアピール的な……?」

 

 視線を向けられた恵は人差し指で頬を頬を掻いた。

 次いで、僅かに思案した様子を見せ、天嶺と平田に声を投げた。

 

「ここでさっきのやり取りを引き合いに出すのかい? まあ、今の僕は恋愛云々は考えられないから、軽井沢さんと綾小路くんがそれでいいのなら構わないけれど……」

 

 困った様子で言葉を紡いだのは平田。

 平田の過去を鑑みれば、『恋愛云々は考えられない』というその言い分にも、周りは自然と納得が出来た。

 

「まあ、平田くんの恋愛観についてはさて置き、そうなるとみーちゃんにも声を掛けないわけにはいかないよね」

 

 桔梗の言葉に、何人かが頷く。

 話に挙がった王美雨が平田に想いを寄せている様子なのは、分かる者には分かっていた。

 だからこそ、王のことを鑑みれば、誘いをかけ、事情を説明し、平田に対して理解を求めるより他にない。――もっとも、王が受け入れられないのであればそれまでだが。

 

「……そうだね。それが誠意というものなんだろうね。――だいぶ歪んだ形ではあるけど」

 

 他者をよく見ているだけあって、平田もまた王が自分に想いを寄せている風なのは分かっていた。およそ、そのきっかけも後から考えれば予想が付いた。

 その上で、余裕のなさから平田は確たる態度を取らずにいた。王が明確な行動に移してこなかったことも一因だ。

 だが、恋愛感情と肉体関係が結び付かない一方で、強固に結び付いている一面があるのも事実だ。

 だからこそ、パーティーに参加しないのであればともかく、参加するのならば何かしらの行動を起こさないわけにはいかない。恋愛感情はさて置き、平田洋介は確かに王美雨という少女のことを想っているのだから。

 飛び降り自殺を図り、一命は取り留めたものの脳死状態になってしまった、平田の幼馴染みの杉村。

 平田はその責任を『自らの愚行にある』と認識している。全部が全部ではないが、一因として認めているのは確かだ。

 それ故に、平田は自らを強く戒めている面があるのは否めない。――だがその一方で、平田は機械にはなりきれないのだ。

 だって、機械では能動的な行動を起こせない。能動的に行動を起こしている様ではあっても、その実はプログラムに沿った動きでしかない。それでは杉村を目覚めさせることが出来ない。

 だからこそ、真に杉村の目覚めを願うのであれば、平田は人間であり続けるしかないのだ。

 そして人間だからこそ、平田洋介は自身に想いを寄せる王美雨を想わずにはいられないのだった。




具体的な描写をしていないだけで、当然ですがそれぞれがクラスメイトと多かれ少なかれ交流はしています。

澪、幸村、鈴音→交流範囲:極小。
積極的には交流に動かないこと、散見される能力の優秀さも相俟って、クラスメイトからは敬遠されています。

清隆、恵、麻耶、千秋→交流範囲:小。
恵、麻耶、千秋は主にギャル系の生徒との交流を当たり障りない範囲で行っています。
清隆は積極性こそありませんが、グループメンバーや池と山内のお零れに預かっている感じです。
とにかく色々な事柄に対して興味津々な状態なので、ひとたび話を振られれば質問の鬼と化します。
人によってはそれを敬遠しますが、人によっては布教を兼ねて積極的に受け入れます。

天嶺→交流範囲:普通。
交流に対しては積極的に動きこそしませんが、仕事に必要とあれば積極的な行動を辞さないため、自然とクラスメイトからの印象も大きくなっています。
敬遠されがちではありますが、周りに集う人物が人物のため、そこから交流範囲も広がっています。

平田、桔梗→交流範囲:極大。
原作ばりに交流を図っています。

自然、クラスメイトからの印象もこれに基づいたものとなり、そこに+αが加わる形です。
その結果が、本文中のターゲット描写ですね。

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