「今年のDクラスは大したものだな」
採点を終えた真嶋が、感心したように唸った。
「今回の問題は、80点を取るのが基軸路線だ。こちらなりの目的があり、ラスト2問の難易度を極端に高くすることで意図的にそのような問題構成にしてある」
真嶋のその説明に、生徒たちは大半が納得の表情を浮かべる。――そんな中で、軽井沢一人だけが顔を青褪めさせていた。
「そんな難問混じりの小テストだったわけだが、満点を取った者が二人いる。90点は三人。80点も三人。――そして、敢えて点数は言わないが、一人だけ極端に点数が低い者がいる」
言葉を紡ぐにつれて、真嶋の表情も変わっていく。最後には、頭に手を当てて溜息を吐かんばかりだった。
生徒たちは、各々が顔を見合わせる。警戒、疑心、驚愕……浮かべている表情は実に様々だ。
「まずは満点から発表する。……綾小路清隆! そして九角天嶺! おめでとう。お前たち二人は、先々までシッカリと十分過ぎる予習していることが明らかになった。
端末を出せ。クラスは違うが、一教師として、また学年主任として、俺はその努力を賞賛しないわけにはいかない。せずにはいられない。それぞれ1万ポイントをプレゼントする」
真嶋は、やや勿体付けて綾小路と天嶺の名を呼んだ。
途中で宣言して教室を抜け出した天嶺はともかく、綾小路は注目の的となった。
「家業のためとはいえ、学校を休むことの方が多かったのでな。予習復習は欠かしておらんよ。取り敢えず、テストで好成績を叩き出しておけば、学校が文句を言ってくることもないのでな」
「言い分はともかく、今回の小テストの結果が、お前の努力の程を物語っている。その事実を否定はできないし、する気もない。今後も継続を期待する」
先に立ったのは天嶺。事実を告げながら真嶋の前に立つ。
真嶋は、その率直な言い分に呆れを露わにしながら、それでも天嶺を褒め称えた。
(どうする……? これは流石に想定外だ……)
その間、綾小路は必死に思考を回していた。
綾小路は、小テストの難度の程をシッカリと理解していた。流石に、この問題数の少なさで50点を狙うのは余りにも不自然が過ぎるほどの理解はあったため、当初は無難に80点を狙うつもりだった。
しかしながら、天嶺がだいぶ余裕を持って小テストを終えたことや、席こそ立ちはしなかったものの、途中でペンを置いて机に身を伏せる姿がチラホラと見えたため、その判断に疑問を抱いてしまったのだ。
(もしかして、二学年ぐらいの予習は普通なのか……?)
結果、そのように考えてしまったのである。綾小路の対人関係の希薄さ、一般常識の薄さが如実に表れた形だ。
実のところ、難問故に見切りをつけたのが正解なのだが、綾小路にはその解答を導き出せるだけの判断材料がなかった。
いや、判断材料自体はあったのだが、その可能性を却下したのだ。彼にとって、課題をクリアするための、自己を成長させるための努力はやって当然のことだったから。
解けないなら、解答を導き出せるようにギリギリまで思考を巡らせるのが当然で、途中で諦めるなどという選択肢は無いも同然なのである。
だからこそ、彼は周りが次々と机に頭を預けたことで、全問を解いたと判断してしまったのだ。
ところが、蓋を開けてみれば、満点は自分と天嶺だけである。目立ちたくないが故に、平穏な日々を送りたいが故に、今の彼はその事実に対して非常に頭を悩ませていた。必死に言い訳を考えていた。
「実のところ、だいぶ厳しい環境で育ったものでして……。いやまあ、オレにとってはそれが当然のことで厳しいなんて認識はなかったんですが、どうもここに入学するために学んだ世間一般的な常識と比較すると、『厳しい』と評するのが妥当なみたいでして……。
正直に言えば、学校に通うのもここが初めてなんです。小学や中学は学校に籍こそ置いてはいたみたいですが、実際に通ったことは一度もありません」
散々に悩んだ末、綾小路は割と正直に答えた。自らの異常性を誤魔化しきれないならば、世間知らずを押し通すことにしたのである。
自分は教育熱心な毒親の犠牲者であり、そのために世間知らずであるが故、まずは初めての学校生活を存分に堪能したい。……そういうスタンスで通すことにしたのだ。
「……なるほどな。昔から、子供を道具化する親がいないではないとは聞くが……」
「よくあるのは、自分の果たせなかった夢を子供に代替させるとかだね……」
綾小路の言葉を聞いた真嶋と星之宮は顔を顰めてそう言った。言葉こそ発していないが、坂上も顔を顰めていた。
茶柱はバツの悪そうな表情を浮かべているが、誤魔化すためにか口を開いた。
「納得がいったよ。お前が入試であんな真似をしたのはそれ故か」
「まあ、はい」
茶柱の言葉に綾小路は頷いた。
「佐枝、あんな真似とは?」
当然ながら、その言い分に疑問を抱いたのだろう。周りの視線が茶柱と綾小路に向く。
「言っても構わないか?」
「どうぞ」
茶柱が綾小路に確認すると、綾小路は了承した。
「端的に言えば、コイツは全教科を50点で揃えたんだよ。入試という大事な一戦でだ……。普通の神経をしていれば、まず以てあり得ない。単純なコンピュータ判断なら、その時点で失格になっていてもおかしくはない。
人の目を介していたからこそ、その異常性に気付けたし、受験でそんな真似をやらかしたからこそ、その異常性は際立っていた。
私が覚えていたのも、担任として事前に受け持ち生徒のデータを確認した際に悪目立ちしていたからだ。そうでなきゃ、いくら受け持ち生徒だからって、いちいち成績を把握なんざしちゃいない。
それで言えば、全教科で満点を取った九角も別の意味で目立っていたけどな」
茶柱の言葉は天嶺にも波及したが、その内容は、奇しくも綾小路の世間知らず振りを強調するには十分な効果を持っていた。
周りの人物たちは、揃いも揃って綾小路に対して気まずげな、或いは同情的な視線を向ける。
「お前の表情筋が仕事をしていないのも、それだけ厳しい環境だったが故か……。くっ、素直に感情を表に出すことさえ出来なくなってしまったのだな……。
ここは世間一般的な高校とは一線を隔しているが、それでも、一教師として、一人の大人として、俺はお前が学校生活を堪能できることを望んでいる。
一つアドバイスをするとすれば、その実力は素直に出していった方がいいだろう。この学校では、何よりも実力が尊ばれるのでな。
実社会に出れば、何をするにも、それを裏付ける実力がないことにはお話にならないのが実情だ」
「分かりました」
(どうにか誤魔化せたか……。いや、これは誤魔化せたと言うのか……?)
内心で安堵と疑問を抱きながら、それでも綾小路は神妙に――少なくとも、周りからはそう見えるように――頷いた。
「気を取り直して、次は90点の三人だ。……幸村輝彦! 伊吹澪! 堀北鈴音! 三人は前へ。
綾小路と九角には及ばないが、三人もまた十分な予習を行っていることが分かった。それぞれに5000ポイントをプレゼントする」
「ありがとうございます。先の二人に追いつけるよう、今後も精進します」
「やるじゃない」
「そっちこそ」
幸村がカッチリとした口調で礼を述べる横で、澪と堀北は微笑を浮かべて互いを称え合っていた。
(澪の奴め……。まあ、無粋を言うのは止めておくか……)
澪もまた高校三年分の予習は既に行っているのだが、やはり元来の性格というか、勉強への興味関心の薄さというか、それらが原因で覚えても長続きしないのだ。ケアレスミスなどしょっちゅうである。
「80点は平田洋介、櫛田桔梗、松下千秋。現状では十分な学力を有している。この調子で励むように」
80点の三人に対してはプレゼントがなかった。問題的には『出来て当然』であり、格別な評価に至るほどではないのだろう。
「そして最後に軽井沢恵。……まあ、なんだ。敢えて点数は言わないが、正直に言って高一でこれはヤバい。まずは復習からキチンと行うように。幸い、クラスメイトには教師役が不足していないようだからな。
我が校は生徒の自主性を重んじるが故に、決してそれぞれのスタンスに強制はしない。
そして、先も綾小路に言ったが、この学校では何よりも実力が尊ばれる。そして学力というものは、非常に分かりやすい実力だ。
故に、まずは地力の向上を目指すことだ。引いては、それが自ずとカーストの上位に位置させることになる」
軽井沢に軽いお説教と激励をして、教師たちは教室を後にした。
「九角くん、綾小路くん、私に勉強を教えてください!」
返されたばかりの小テストを差し出しながら、軽井沢は二人に対して頭を下げた。
『これは酷い……』
軽井沢の点数を確認した天嶺と綾小路の声が重なった。
「まあ、分かった。流石にこの点数は放置できん。
幸い、仕事の関係もあって寮以外の拠点も幾つか手に入れたばかりだ。人数の都合もあって、仕事を行うにもまずは情報の収集がメインとなることから時間的な余裕もある。実際に現場を確認して見ないことには断言できんが、教える分には問題ないだろう」
「九角、オレも同行して構わないか? 先の事情もあって、オレは人付き合いそのものが不得手でな。まずは手近な部分からコミュニケーションを図りたい部分もある。その点、軽井沢には接触しやすい理由がある。――正直、隣席の堀北はオレにとっては余りに荷が重かった」
天嶺が頷けば、すかさずに清隆が同行を希望した。
その理由は尤もなものであり、締めの言葉は切実な響きを伴っていた。片やコミュニケーションの経験が不足な者、片やコミュニケーションを最初から切り捨てている者。荷が重すぎるのは当然だ。
「ああ、まあ、そうだな。構わんぞ。こちらとしては住居の確認もしなければならないし、情報収集がメインとは言え敷地内の各所には一通り足を延ばさなければならないのでな。
本格的な仕事が始まったらに比べると時間的な余裕があるのは確かだが、付きっきりでいられないのも事実だ。その間、お前が軽井沢に勉強を教えてくれると言うのなら、それはそれで助かる」
チラリと堀北に視線をやった天嶺は、綾小路に了承を返した。
「九角、僕も構わないか? 先も言ったが、僕は身体能力には自信がない。だからこそ、学力だけは周りの足を引っ張りたくはない。だが、独力で頑張るだけでは限界があるのも事実だ。少なくとも、お前と綾小路が僕以上の学力を有しているのは証明されたからな。余裕があるなら、僕にも教えてもらいたい」
「余裕がある、という前提に則った上でなら構わんさ」
綾小路に引き続いて幸村にも許可が出たこともあり、櫛田や千秋も希望した。
平田も同様だ。彼の場合はサッカー部に入るらしいので基本はそちらを優先するつもりのようだが、だからこそ時間的な余裕が出来た時には教えてほしいとのことだった。
自然、その場の視線は堀北に向かう。この場で意思表示を示していないのは彼女だけだ。
「私は……」
「アンタも来な。自分に自信を持つのは勝手だけどね。人は一人だけじゃ生きていけないのよ。必ず、どこかしらで周りに頼っている。知人、友人、他人を問わずね。
アンタの場合、その自覚がないのよ。だから、他人に対する配慮が欠けている。私みたいに確かな寄る辺があるなら、寄る辺以外を切り捨てても構わないだろうけど、今の御時世、寄る辺がないならそんなんじゃ生きてはいけないわよ。
どんだけ頭が良くてどんだけ身体を動かせようが、周りに受け入れられなければ働けるとも限らないのが現実なのよ。今のアンタが働きに出たら、まず間違いなく首になるわね。てか、私だったらまず雇わない。私以上に余裕のある天嶺なら雇うかもしれないけど、そのくらいには可能性が低い。
アンタはまず、人の輪の中に入ることでそのことを実感しなければならない。アンタが孤高を気取るなら、まずは天嶺をよく見て手本にすることね。彼は確かに能力が高いけど――決して独りじゃないんだから」
悩む堀北を、澪が挑発がてらに誘った。
散々な言いようではあるが、堀北はそれを否定しきれなかった。
寄る辺と言うのであれば、天嶺と澪には鬼道衆がある。第一印象だけだと『胡乱な仕事』というイメージが付き纏うが、実際にそれっぽいことをやって見せた以上、『仕事を兼ねてやって来た』という言い分を覆すほどの材料を堀北は持ち合わせていない。
ある意味では堀北以上にコミュニケーションを切り捨てている高円寺にも、高円寺コンツェルンという寄る辺がある。
しかし、堀北にはそのような寄る辺がない。起業しない限りはどこかに就職することになるだろうし、そうなったなら、確かに会社の雰囲気に迎合することを求められるだろう。
その際に、すんなりと迎合できる自信が堀北にはなかった。
堀北は自分に自信がある。自分の能力に自負がある。それもこれも、憧れである兄に追いつかんと努力を欠かさなかったからだ。――だけど、いつからか兄は自分を認めてくれなくなった。
その確かな理由は分からないが、自分の至らなさが原因なのは訊かなくても分かる。
だから、更なる努力を重ねたし、更なる能力を身に着けた。
だから、無能低能に迎合するのを快く思わない自分がいるのを否定はできない。
そして、澪の言葉が堀北を揺らしたのも事実だった。
(もし、兄さんが私を認めない理由が、容易く他人を切り捨てる私の態度にあるのなら……)
そう考えずにはいられず、だから堀北も了承した。
「分かったわ」
「決まりね」
勝ち気な笑みを浮かべ、澪は頷いたのだった。
天嶺と澪は、仕事と学校のどちらを優先されるかを天戒にキチンと確認されています。
二人は仕事への動向を希望したため、学校を休むことが増えるだろうから、せめてテストでは好成績を取ることを条件に仕事への動向を許可された経緯があります。
決して天戒による強制ではありません。
原作からすればあり得ないほどに澪が高得点を出していますが、彼女の努力の結果です。霊水や神水によるドーピングの効果もありますが。
入学初日、周囲にいるのは比較的真面目勢などといったこともあり、綾小路は擬態に失敗しました。
ぶっちゃけた話、原作であれだけ長く擬態に成功できたのって、主なコミュニケーション相手が鈴音に限られていたのも大きいでしょう。
恵も原作以上に危機感を抱かざるを得ません。天嶺から渡された装飾具で精神力が高まっているのも一因です。
虚勢張ってる場合じゃねえ! ってのが、正直なところです。
その一方で、卑屈な寄生虫精神は既に宿っていますので、寄生の仕方を変えただけでもあります。
幸村は原作だと『俺』が一人称ですが、本作では『僕』を基本としています。
ただ、感情が高ぶった際には『俺』になります。親に矯正された結果と思ってください。
ぶっちゃけた話、アレだけ学力に傾倒させて育てた親が、『俺』という一人称を許容するとは思えないんですよね。『僕』か『私』だと思わずにはいられません。
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学校生活で演じる清隆の性格路線について。クール系の天嶺と、温和系の平田とは別路線を歩みます。基本的には自身の社交性を鍛えるためですが、対象やその周辺人物との友好関係や実力、五月のCPに影響が出ます。
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チャラ男ルート。対象は池。CP上昇大。
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オレ様ルート。対象は佐藤。CP上昇小。
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その他。具体的にはリクエストを。