※この作品はR-18です。

外法ってやつを見せてやろう   作:山上真

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第59話:つか、そんな下らねえことに俺を巻き込むなよ

「どういうことだよ!? 平田ぁっ!」

 

 社会のテストが終わった休み時間、クラスメイトの男子が叫び声を上げた。

 

(はて……? あやつは誰だったか……?)

 

 それを見て、天嶺は首を傾げた。

 クラスメイトであるのは間違いないし、確かに自己紹介を交わした記憶もあるのだが――その上で叫び声を上げている人物の名前を思い出せなかった。

 

(伊集院……鬼塚……菊地……本堂……牧田……南が二人に宮本……。名前は思い浮かぶのだが、顔と一致せんな。まあ、それだけ俺が興味を失っている面々ということか……)

 

 名前が思い出せる以上、完全に痴呆になったわけではない。そのことに天嶺は安堵し、どうするかを思案した。

 天嶺が首を傾げている間にも、一人、また一人と平田を責める声が強くなったからだ。流石にこの状況を放置はできない。

 正味な話、平田を責めている連中はお門違いも甚だしいと天嶺は認識しているのだが、当の平田がどう受け取るかはまた別だ。

 かつての経験が起因してのことだろうが、平田は自己犠牲の精神が強い。オマケに、『クラスメイトの笑顔』を優先した結果、暴力を振るってまで須藤に勉強を促し、それを以て他のクラスメイト達にも勉強を促し、トドメに『過去問』を提供した事実がある。

 勉強を促したこと自体は間違っていないが、その方法に問題があるのは平田も認めている。

 平田自身は苦渋の選択としてその方法を選んだわけだが、勉強を強要された側にとっては平田の心情など知ったことではないだろう。

 そして、肝心の『過去問』が機能しない事態を迎えた。

 それらが積み重なった結果、平田に対する期待――言い換えれば『信用』と『信頼』が反転し、今のテストの手応えに自信のない生徒ほど過剰に平田を責め立てているわけだ。

 

「おいおい、ちょっと落ち着けって! そこで平田を責めんのは違えだろ。

 過去問が機能しなくなったのは『Eクラス構想』だとかいうのが採用されたからで、俺たち生徒には今日になって知らされたんだぜ? 優秀ではあっても、たかだか一生徒に過ぎない平田が、どうやって事前にその情報を知るんだよ?

 それに、過去問が機能しなかったのは事実だけど、完全に使えなかったわけじゃないぜ? 社会だけあって暗記物が多かったけど、過去問で出されてた問題と関連してる項目が大半だったからな。それこそ、『答えの丸暗記』なんて方法に走らない限り、十分に及第点には届く目安だぞ?」

 

 天嶺が行動を起こす前、池が割って入った。

 立ち上がり、手を打ち鳴らして注目を集め、その上で理路整然と言って聞かせる。彼は不満を述べている者たちとは異なり、どちらかと言えば清隆派閥であり天嶺派閥だ。平田に対する見方は――イケメンに対する不満を除けば――フラットで、だからこそ平田に対する過剰な期待もない。

 尤もな事柄でも、それを優等生が言うか劣等生が言うかで受け取り手の心情は異なるものだ。

 そして池自身、入学時点では程度が低かったのは事実であり、そんな池の言葉だからこそ周りは黙らざるを得ない。

 劣等生からの脱却の過程にある池と、未だ劣等生の域から抜け出すことが出来ていない者たち、その違いが如実に表れていた。

 

「それは……。須藤! お前はどう思ってんだよ!? ある意味で、お前は一番の被害者とも言えるだろうが!?」

 

 あくまでも感情的な反発であり、確たる言い分を持ってなかったのだろうその生徒は、須藤へとパスを投げた。

 天嶺が聞いた話、須藤は平田に左腕を折られかけ、その上で契約で縛られたのだ。そのことを鑑みると無理もない行動だ。

 

「あ……? いや、別に……。そりゃまあ、不満がねえわけじゃねえけど、それで平田に当たんのは違えだろ。

 つか、そんな下らねえことに俺を巻き込むなよ。過去問が通じ切らなくなったからこそ、俺にとっちゃあこの短え休み時間は重要なんだよ」

 

 素っ気なく言い放った須藤は、次のテスト科目である国語の過去問に眼を落とす。

 丸暗記が通用しなくなったのは事実だが、だからといって再びテスト範囲が変わったわけではないのだ。参考資料としては十分以上の価値を持つ。

 

(ほう? 須藤の奴もだいぶ変わったものよな……)

 

 それを見て、天嶺は内心で須藤に感心した。

 以前と比べ、態度がだいぶ改善されている。言葉が荒いのは変わらないが、言っていること自体は尤もだし、勉強そのものに対する意気込みそのものが向上を果たしている。――正直、以前の須藤であれば、周りと一緒になって平田を責め立てていてもおかしくはなかった。

 

「大騒ぎになってるよねえ~」

 

 天嶺に話しかけてきたのは隣席の恵だった。

 

「まあ、無理もあるまいな。……そう言うそちらはどうなのだ? スタート地点は負けず劣らずで酷かったが?」

 

 一緒の拠点で生活しているし、隣席なので学校でも普通に世間話はするが、だからといって何から何までを知っているわけではない。特に学力面に関しては清隆に任せきりなので尚更だ。

 

「いやまあ、高得点を取れる自信はないけどね。でも、50点以上は確実に取れると思うよ。優れた教師から、ほぼマンツーマンかつ付きっきりで教わっているわけだからね。これで成果を出せなかったら清隆に申し訳が立たないって」

 

 苦笑を浮かべた恵は、自らの未熟さを認め、それでも恥じることなく言ってのけた。

 元が酷すぎるのは自他共に認める周知の事実。それで最初から高得点を狙うのは、無謀や蛮勇の類だ。どうやら、恵はそのことをよく分かっているようだ。

 人によってはそれを『向上心がない』と誹るかもしれないが、それで無理をして本番で失敗をしてしまったら意味がない。

 成果を出すことに集中するあまり、安(・)全(・)圏(・)へ(・)の(・)着(・)地(・)を度外視する者こそ無能や低能の極みだ。

 

「安全圏への着地は叶うようで何よりだ」

 

 その言葉を聞いて、天嶺も笑みを浮かべる。

 その直後にチャイムが鳴り響き、休み時間の終了と国語テストの開始を告げるのだった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 全てのテストが終わった頃合いには、教室内の雰囲気はほぼ二分されていた。――暗い雰囲気を漂わせる者と、そうでない者に。

 その理由など、わざわざ考えるまでもない。

 

「さて、今日はご苦労だったな。……今回のテストの結果だが、6月になってからの発表となる。

 採点に時間が掛かることを疑問に思う者がいるかもしれないが、こっちもそれだけが仕事なわけではないからな。どうしたって、採点作業は日常業務の空白時間――いわゆる『アイドルタイム』に行わざるを得なくなる。

 加え、採点基準は定まっているが、部分点を与えるかどうかは個人の采配に任せられている部分が大きいから、同教科の教員同士での話し合いも必要になる。――アイドルタイムを用いての、だ。

 また、今回は例年の救済処置が機能しないから、それだけ結果の予想が付かないんだ。

 それら諸々が積み重なれば、どうしたって時間を掛けざるを得ん」

 

 帰りのホームルーム。

 教団の前に立った茶柱は生徒たちに向けて通達をした。

 これからの仕事を思ってだろう。その表情には哀愁が漂っている。

 

「ああ、先生よ。実は、中間テストの結果が発表されたらクラス内でパーティーを行うことを提案しているのだ。まあ、それを餌にして勉強に意識を向けさせた面があるわけだが、よければ先生も参加せぬか?

 教師ではあるが、先生もまたうちのクラスの一員だからな。誘いをかけぬのは失礼というものだし、こうしてテスト本番も終わった以上、誘いをかける頃合いとしては妥当だろう」

 

 それを見た天嶺は茶柱もパ(・)ー(・)テ(・)ィ(・)ー(・)に誘った。

 そもそもにして、『Eクラス構想』を発案したのは天嶺である。学校側がそれを採用しただけではあるのだが、自身が絡んでいることは否めない。茶柱の今の表情はそれ故でもあるのだから、流石に罪悪感の一つも覚える。

 まあ、元から誘うつもりではあったのだが、このタイミングにしたのは、『それを活力源にしてもらいたい』という意図が生まれたからだ。

 なお、『乱交パーティー』であることを明かさないのは意図的なものだ。明かせばまず間違いなく参加しないだろうし、そもそもにして監視カメラの下で堂々と口に出来る事柄でもない。

 

「パーティー……? 嬉しい誘いではあるが、お前たちにそんな予算があるのか?」

「パーティーと言っても、『ホームパーティー』の類だよ。カラオケやらボウリングやらに行くわけではない。場所は俺たちが仕事用に借り受けている拠点を使うし、料理は各自に無料品やセール品を持ち込んでもらい、場合によっては自分たちで作ればいい。個々人の出費は微々たるものだ。

 今回は入(・)学(・)し(・)て(・)初(・)の(・)定(・)期(・)テ(・)ス(・)ト(・)ということもあるが、学校のシステムの諸々の関係もあって、生徒たちに多大なストレスを与えている。

 それを放置すれば、俺たちの仕事にとっても問題となる可能性があるのでな。気分転換によるストレス発散も仕事の範疇内だよ」

 

 首を傾げる茶柱に、天嶺は堂々と語る。

 

「やや拡大解釈の気がしなくはないが……否定しきれないのも事実だな」

 

 そう答える茶柱の表情は、やや歪められている。

 おそらくは愛里のストーカー事件を思い出しているのだろう。映像越しとはいえ、ライブ映像であったのも事実。人間が『全身に目玉を付けた化け物』へと変生するのを目撃したのだ。そのショックが、そうそう色褪せる筈もない。

 ともすれば、自分や生徒たちがストレスの余りに化け物へと変生するかもしれないと遠回しでも改めて言われれば、表情の一つだって歪むだろう。

 

「……分かった。せっかくの担当生徒からのお誘いだ。そういうことなら、私もありがたく参加させてもらおう。

 だが、赤点を取った生徒――Eクラスに落ちた生徒のことはどうするつもりだ?」

 

 茶柱は当然のことを訊いてきた。

 

「無視をするつもりはないが、俺の方から積極的にどうこうするつもりもない。精々が注意喚起をするくらいだな。

 人間である以上、公の立場でばかりもいられないから私情に走ることもある。――だが、私情に走るにも限度というものがある。

 仕事の観点で各自のストレスを無視しきれないのは事実だが、本来ならストレスなど各自で上手いこと発散するものだ。

 何より、俺は一生徒でしかない。喫緊の事態でない限り、他クラスにまで必要以上に手を差し伸べるつもりもない」

 

 対し、天嶺は努めて冷静に、冷徹に答えた。

 

「おい、九角! そりゃねえだろ!?」

「知るか。そもそも、俺は入学早々に十分な注意喚起をお前たちに行った筈だ。――そして、それを無視したのもお前たちだろうが。

 連休時にお前たちに誘いをかけたのは、極論を言えば平田を慮ったからであり、だからこそお前たちにハッパを掛ける意味でそうしたのだ。そこまでして成果が出なかったのなら、それはお前たち自身の努力不足と危機感不足だ。

 本来、生徒であるお前たちに対して気を配るのは、お前たちの入学を決めた学校側だ。だと言うのに、同じクラスであるのならまだしも、本人の努力不足で違うクラスになった相手に、どうして俺が過剰に気を配らねばならないのだ?」

 

 男子の誰かが叫んだが、天嶺はバッサリと切って捨てた。

 正論だった。紛うことなき正論だった。

 

「厳しくはあるが、九角の言っていることは正しいな。そも、本来なら赤点を取ればその時点で退学だったのだ。そして、私はお前たちにそのことを周知していた。だからこそ、お前たちが真にそのパーティーに参加したかったのであれば、それだけ勉強に努力を費やすべきだった。

 Sシステムの詳細然り、小テスト結果の公表然り、学校側はお前たちの危機感を十分に煽ったつもりだぞ? ――にも拘らず努力を怠ったのであれば、それは本人の危機感不足に他ならない。周りに当たるのはお門違いだ」

 

 学校側・担任としての目線から、茶柱が天嶺のフォローを入れる。

 

「そして、未だテスト結果が出ていない内からその様に当たり散らすということは、それだけテストに対する手応えが悪かった証だろう。そして悔いがある証だろう。

 周りを見てみろ。テストに自信のある生徒、出来る限りの努力を費やした生徒は泰然としているぞ」

 

 茶柱のその言葉に、暗い雰囲気を纏わせていた生徒たちは改めて教室内を見回し――愕然とした。

 彼らの視線の先が向かうのはただ一点。

 クラス内きっての問題児であった筈の須藤が、何一つ不満を口にすることなく、目を瞑り、腕を組んで、泰然と佇んでいる。――自分たちとの大きな違いがそこにはあり、そのことに対して大きなショックを受けざるを得なかった。

 

「分かっただろう? 確かに入学時点の――いや、今月に入っても須藤はクラス内髄一の問題児だったが、それも途中までだ。

 何が原因かまでは分からんが、須藤は途中から態度を改め、勉学にも真面目に取り組んだ。それこそ、悔いを残さないように全力でな。――その結果が、今の態度に表れている。

 お前たちとの最大の違いがそこにある。……過剰に楽観的になるのも問題だが、過剰に悲観的になるのもまた問題だ。少なくとも、テストは終わったばかりで結果はまだ出ていないのだから、自分の可能性を信じて少しは悠然と構えてみせろ。

 ホームルームはこれで終わりだ」

 

 言い捨てて茶柱は教室を出ていった。

 正論でも、言われて簡単に態度を改められるようなら苦労はない。

 結局、現時点で暗い雰囲気を纏っている生徒たちは、テスト結果が発表されるまで暗い雰囲気を引きずり続けるのだった。




Dクラスの生徒って、普通に民度と向上心が低い気がします。
原作だと、その代表格を三バカとか軽井沢グループが務めてるんでしょうけど、巨乳ランキング然り、モブを含めて他の生徒も負けず劣らずだと思います。

そんな連中なわけですから、脅しに屈して勉強を強制させられ、赤点を乗り切るための解決策と提示された『過去問』が通用しなくなった場合、高確率で平田に責任転嫁すると思います。
『赤点取ったと決まったわけじゃないんだから、そんなことをする前に次の科目の勉強をしろよ』……という、至極当然な言い分が通用するようなら、そもそもにしてDクラスに配属されていないでしょう。

その対比を、この時点のDクラスでは最も劣等生だろう須藤を引き合いに出して表現してみました。
本作の須藤はオカルト的な契約によって縛られているので、原作以上に態度の改善が早くなっています。

入学直後から清隆という優れた教師にほぼ付きっきりで勉強を教わっている恵も、この時点で原作以上に学力が向上しています。
高得点は無理でも、普通に50点以上は取れる自信を持てるようになってます。
C評価って『高校生としての一般的な平均評価』なわけで、学力に限定すればDクラスだと普通に上澄みになるんですよね。余裕で赤点圏外です。
本作だと、拠点生活という原作以上の密度で勉強を教われる環境が構築されてますので、それが理由ですね。恵も麻耶も原作以上に学力の上昇が早いです。
この二人の場合、身体能力も同様です。現在は学力に比重を傾けてますが、それでもランニングやストレッチなんかはやってますから。
本作の清隆は育成ゲーム感覚で相手をしてますから、体力向上もさせない理由がないです。

清隆と天嶺という優れた二人から勉強を教わっている池と山内も、恵と麻耶ほどではありませんが、やはり学力は原作以上に上昇しています。

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