※この作品はR-18です。

外法ってやつを見せてやろう   作:山上真

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6月
第60話:今日はいよいよ中間テストの結果を発表する


 それは、6月を迎えて数日が経った頃のことだった。

 

「さて、待たせたな。今日はいよいよ中間テストの結果を発表する」

 

 朝、ポスターの筒を手に教室にやって来た1-D担任の茶柱は、教壇前に立つや否やそう言った。

 生徒たちは固唾を呑む。手を組んで神頼みをしている者もいる。

 

「質問がなかったから答えなかったが、当校における赤点の算出基準を教えておこう」

 

 言って、茶柱はチョークを手に黒板に計算式を記入していく。

 

「『クラス平均点/2=赤点』……これが当校における赤点の算出基準だ。

 こうでもしないと、入学早々にクラス間の格差が酷くなるのでな。たとえば、『赤点は50点だ。退学したくなければ51点以上を取れ』と言って、お前たちに取れる自信があるか? 実際に取れるか?

 まあ、一部の生徒たちは取れるだろうさ。だが、先の小テストですら赤点を取った連中にそれが可能か? 中学の内容も覚束ず、4月の授業も真面目に受けていないんだ。普通に考えて無理だろう? ――たとえ救済処置を用いてもだ。

 そのため、可能な限り退学者を減らすべく、赤点はクラス毎に算出される仕組みとなっているわけだ。この方式であれば、少なくとも51点を取っていれば退学はないし、それ以下でも助かる可能性があるからな。――まあ、いつまでも続くわけでないのも事実だが……。

 CPがなく人数も足りずでは、クラス逆転の可能性が減る一方だ。それはクラス間の切磋琢磨を損なわせることに繋がる。学校側としては上手くないのだよ。

 今言ったことは、お前たちに渡されている諸々の情報をすり合わせれば見えてくる単純な理屈だ。だから質問がなくとも放置していたが――どうやら、気付いていない生徒もいたみたいだな……」

 

 赤点の算出式の説明をした茶柱は、教室内を見渡して溜息を吐いた。

 

「大方、小テストの赤点だと思い込んだのだろうが、そもそもアレは五科目を一枚に纏めてある上に意図的な難易度調整が施されている問題だぞ? これを正式な定期テストに適用する方こそ無理があるとは思わなかったのか? うん?」

 

 口元に弧を浮かべた茶柱は、受け持ち生徒へと向かって挑発的に言い放つ。

 至極御尤もなその言い分に、気付いていなかった生徒たちは表情こそ歪めるものの言い返す言葉がない。

 

「まあ、そんなお前たちだから、この結果にも納得せざるを得ないのだがな……。『過去問』という救済処置が通用しなければ、この程度ということだ……」

 

 言いながら、茶柱は筒から取り出した紙を黒板へと貼っていく。

 国・数・英・理・社……五科目それぞれの個人得点が全て載っているだけあって、その紙は酷く大きい。

 生徒が分かりやすいようにか、或いはテンプレートに沿って作成しているからか、生徒の名前は男子から順に縦へと五十音順に並んでいる。その横に、各自の各教科の点数。一番上には教科名と、今回のテストにおける平均点と赤点。

 その上で、基本的には黒で印字されている点数が、赤点未満の点数は赤色で印字されている。非常に分かりやすく、赤点を取ったかどうかが一目瞭然だ。

 

「嘘だろおおおぉぉ……っ!?」

「嫌あああぁぁ……っ!?」

 

 瞬間、男女を問わず絶叫が上がる。

 

「あまりの赤点獲得者の多さに、嘆きたいのはこちらの方だ……。過去問の丸暗記が使えなくなっただけでこれとは、お前たちは普段何を勉強していたんだ?」

 

 頭を押さえて溜息を吐いた茶柱は、特に赤点を取った生徒を詰めたく見据えた。

 

「それに引き換え――須藤! よく頑張ったな。本音を言えば、お前が赤点を免れるとは思わなかった」

 

 直後、須藤の名前を呼んだ茶柱は、一転して柔らかな笑みを向けた。

 その言葉に、誰しもが須藤の点数に注目する。その点数は決して高くはない。どの教科も赤点ギリギリだ。教科別で言えば、赤点を取った生徒に負けている教科もある。――だが、どの教科も赤点を取っていないのは事実だった。

 

「っす。でも、正直に言って、俺だけだと無理だったと思う。九角のだっていう怪しげな契約書で無理矢理に強制されたことと、とにかく頭のいい奴らが最低でも一人は付きっきりで勉強を教えてくれたこと。この二つが揃って、初めての結果だと思う。

 特に、怪しげな契約書で縛られてなければ、俺はすぐにバスケに向かってただろうから、間違いなくこの点数は取れなかった」

 

 対する須藤は、苦々しい表情で語った。そこには、赤点を免れたことに対する喜びも自信もない。

 

「そして、そこまで手助けしてもらって、漸くこの程度の点数でしかねえんだ。とてもじゃねえが喜べねえっすよ。俺が今まで、バスケを言い訳にしてどんだけ勉強から眼を背けてきたのかが嫌でも分かるっすから……。

 付け加えれば、これからどんどんと授業の内容は難しくなってくんだ。バスケ練習に良好なこの環境を逃さないためには、俺は今まで以上に勉強に向き合わなきゃならねえ。そして、怪しげな契約によって、俺はそれから逃げられねえ……。

 正直に言って憂鬱っすわ……」

 

 言葉通り、契約で縛られている須藤は、嫌でもそこから逃れることが出来ない。少なくとも、須藤が本腰を入れてバスケに集中するためには、生活態度やら学力やらで平田からお墨付きを得なければならないのだ。

 基本的には優しい平田だが、厳しい部分は厳しい。赤点不可避と判断すれば、容赦なく勉強を強制してくることだろう。

 そしてそれに反発すれば、契約のペナルティにより左腕に支障が出る。そのことは既に体験済みである。目を盗んでバスケの練習に走った時には、一時的にだが左指の感覚がなくなった。確かにボールを持っているのに、その感覚がないのだ。右手は感覚を感じるからこそ、その恐怖は余計に筆舌に尽くしがたい。

 実際にそんな経験をしたからこそ、須藤は本腰を入れて勉強に向き直ったのだ。それがなければ、この結果はなかっただろう。

 

「良薬口に苦しという。方法はどうあれ、それはお前の糧となり、お前を成長させる要素となる。お前が本当に将来プロバスケ選手になりたいのなら、自己投資と思って諦めて受け入れるのだな」

 

 須藤の嘆きに対し、茶柱は笑って受け流した。

 

「いやいや、ホントですね。正直、『怪しげな契約による勉強強制術』は大した効果ですよ。私も、コレのおかげで毎日コツコツと自習に取り組めましたから!」

 

 カンラと笑って言ったのは、1-Dのスポーツ少女――小野寺かや乃だった。

 

「同感。コレをやってなければ、ぶっちゃけ赤点だったかも。人間、どうしても苦手な教科からは目を背けがちになっちゃうからね。或いは、苦手教科に意識を割くあまりに得意教科が疎かになっちゃうか……」

 

 続いて、ギャル系女子の一人である森寧々が。

 そう。実のところ一部の生徒たちは、須藤の変貌を目の当たりにして契約書の効果を感じ取り、秘かに真似していたのである。

 正味な話、ポイントがなくても十分な生活は出来る。だから、『この環境から逃れたくはない』という思いはある。

 だがその一方で、趣味嗜好――言い換えれば『プライベートの充実』という点では物足りず、それが『必死に齧り付かなくてもいいかな……?』という思いを生じさせる面があるのは否めない。

 卒業特典の『進路の推薦』がAクラスの卒業生に限られることもあり、特に入学早々にCPの暴落を招いた1-Dの生徒たちはやる気の喪失を招いているのも大きい。

 この状況で、尚も勉強に向き直ろうと思えば、怪しかろうと何だろうと、須藤の行動に変化を生み出した契約に縋るのが一番だったのである。

 ペナルティの効果範囲を自分である程度指定できるのであれば、それから逃れるためにも集中力は嫌でも増すから尚更だ。

 

「……なるほどな。まあ、方法はどうあれ、各々が抱いた危機感と、それへの対処の一端が、このテスト結果には表れている」

 

 そう言った茶柱は、改めて貼り出した紙へと視線を転じた。

 

「今回の中間テスト、一年で赤点を取ったのはAクラスとDクラスだけだ。BクラスとCクラスからは、ただの一人も赤点獲得者は出ていない」

 

 茶柱のその言葉に、特に赤点を取った生徒たちは大きな衝撃を受けた。

 

「まあ、BクラスとCクラスが取った方法も決して褒められたやり方ではないのも事実だがな。しかしそれは、あくまでも学校側から見た場合のこと。各クラス目線で見れば、優先順位を何に置くかで十分にありな方法ではある」

「……なるほど。上位勢が敢えて点数を下げることで赤点も下げたか」

 

 茶柱の言葉を聞いて、天嶺が言及した。

 実際、天嶺も一度は考えたやり方だ。もっとも、クラスメイトの劣悪振りに却下せざるを得なかったが……。

 

「九角の言う通りだ。1-Bは学力上位勢が点数を最高でも80点に揃えてきた。これにより、赤点が下がった面があるのは否めない。

 上位勢は『優秀』という評価を得られるだろう範囲を堅実に取る一方、そこには『これなら赤点を免れるだろう』という学力下位勢に対する信用と信頼が見受けられる。そして、学力下位勢は見事それに応えて赤点を免れた。

 一方の1-Cは、全員が20点に揃えてきた。平たく言えば、どんなバカでも取れるだろう点数を設定し、クラス全員にそれを強制させたんだ。統制力という点ではピカ一だろうな。

 また、当校の赤点基準を逆手に取った方法でもある。一般的な学校のように、赤点に特定点数が採用されている場合には通じない方法だ。その点でも上手いと言わざるを得ない。

 どちらのクラスも、学力評価という部分では低く見ざるを得ないだろうが、協調性や統制力という点では高く見ざるを得ない部分がある」

 

 茶柱の説明を聞いた平田は顔を歪めた。

 

「自分一人でも点数を下げていれば、などと思っているのかもしれないが、それは現実的ではないぞ、平田。クラスメイトに『甘え』を招かせることになるからな。せっかく『厳しさ』を見せたというのに、それでは意味がない」

「九角くん……。そうか……。そうだね……」

「そもそもの話、うちのクラスでは『チームプレイ』を主とした『チームワーク』など望むべくもない。そんなのは不可能だ。やるだけ時間の無駄でしかない。

 うちのクラスで通用するのは、『個人プレイ』を主とした『チームワーク』しかあり得ないのだからな。それぞれが自分の目的や長所を主体にして、苦手分野は最低限の成果を出す。その結果、クラスとしては多方面に対して成果を示す。そんな歪な『チームワーク』しか、成功する道理はない。

 そして、それについてこれない者は落ちるしかない。――残酷なようだが、それが現実だ」

 

 項垂れながらも認める平田に対し、尚も天嶺は突き付ける。

 

「何せ、甘い顔をしていれば、クラス全体が落ちる一方だからな。そんなのは最初の一ヶ月で十分に分かったことだろう? その結果が、CPのダントツな下落だ。

 PPの獲得が学校からの支給に基づく以上、クラス逆転を目指すにしろ、私生活の充実を図るにしろ、CPの上昇は必要不可欠。必然、クラス内の引き締めはせざるを得ん。至極当然の判断だ。

 極論、それに適応できない生徒は、クラスの不要分子でしかない。自分のための必要最低限の努力すら出来ない生徒が、クラス内で居場所を掴める道理はない」

 

 こちらはクラスメイトを見回しながら。

 赤点を取った生徒が項垂れる。天嶺の言葉は、厳しいが正論なのだ。

 努力はした。しかし足りなかった。……世の中、それが通用する場面ばかりではないのだ。

 元より、赤点を取れば退学だと周知はされていたのだ。である以上、赤点を取らないのはクラスのためであり――究極的には自分のためだ。直前で退学ではなくEクラスへの移籍となったが、クラスから去ることに変わりはない。

 パチパチパチ……。

 拍手の音が鳴った。担任の茶柱が手を打ち鳴らしていた。

 

「いやはや、私の言うことが減って助かるよ。時にはな(・)あ(・)な(・)あ(・)も必要だが、毎回それでは成長していないのと同じだからな。厳しさを示してくれる生徒は貴重だ。

 さて、そろそろ本番に入ろうか。今回赤点を取った生徒はEクラスへの移籍となる。そして、Eクラスの教室は特別棟に用意された。今から案内するから、赤点を取った生徒は荷物を持ってついてこい。

 ああ、ついてこなくても構わんが、その生徒に対しては『退学の意思あり』と見做すことになる。このクラスどころか学校から『さよなら』というわけだな」

 

 冷たく残酷な最後の一言に、赤点を取った生徒たちは抵抗を失った。

 おとなしく立ち上がり、荷物を手に、項垂れながら足取り重く茶柱の後を追っていく。

 その数、男女を問わず、実にクラスの半数近い。主を失い、ガラリとした席が異彩を放っている。

 

「やれやれよ。学校に思惑があるのは認めるが、学生として必要不可欠な学力の及ばぬ生徒が一クラスにこれだけ纏められているのは、ハッキリ言って問題だろう……」

 

 主を失った席を見回しながら、天嶺が紡ぐ。

 その言葉は、静かな教室内に響き渡ったのだった。




原作では明言されてないですが、中間突破のご褒美である100CPの繁栄が7月であることから、本作においては中間テストの結果発表は6月に設定しています。

というか、60話も使って漸く6月に入ったんですね。我ながらビックリです。

なお、AクラスでEクラス行きになった生徒は戸塚です。戸塚だけです。
彼って一年時における学力評価がCなんですよね。
その上で、『上』を持ち上げる要領の良さがあります。過去問に行き着いてもおかしくありません。
そして過去問を使った結果、学校側の突如の方針変更で通用しきらなくなり、赤点を取ったという流れです。

まあ、それで言えば真澄も一年時は学力評価がCなんですけど、彼女の場合は有栖という教師役がいて、ほぼ付きっきりで教わってますから。
なお、チェスの相手や紅茶の淹れ方も強制的に教わってます。
そのため、原作と違って真澄は美術部に入部していません。そんな余裕はありません。

そして、本作のAクラスには『坂柳派』なんてものは存在しません。
何せ、有栖の優先順位が違ってますからね。
途中までは原作通りに派閥を形成するつもりで、そのために真澄の弱みを握ろうとしたわけですが、結果的にそれが原因で心疾患に回復の兆しが見えるようになりましたので。
そうなると、有栖的には派閥よりも自身の体調が一番です。
一刻も早く健康体に! となるのが当然でしょう。

それにより、橋本や鬼頭といった面々も葛城派へと流れています。
その結果、戸塚の立ち位置も原作より低くなっています。
戸塚が過去問に走ったのは、それだけ焦りがあったからでもあります。彼って優越感には浸るくせに、それに相応しい能力は持ち合わせてませんので。
戸塚自身は早々に葛城に近寄ったのに、最初は有栖に靡いてて、後から葛城に転んだ橋本と鬼頭の方が優遇されている=頼りにされているとあっては、そりゃあ危機感の一つも覚えます。
でもまあ、どう見たって能力的には橋本・鬼頭>戸塚なので仕方ありませんね。
この三人が自派閥なら、葛城だって橋本と鬼頭の方を頼りにするでしょう。
極論、戸塚の取り柄って『ヨイショ』だけですし……。

学力評価だけならOAA発表時点でC+の鬼頭も怪しいところですが、そこは橋本が積極的にカバーしたということでご了承をお願いします。
少なくとも、水泳の授業で鬼頭の身体能力が優れていることは判明している筈ですので、橋本なら手を伸ばしても不思議はないと思います。
Aクラスでも勉強会なんかはされたでしょうが、葛城自身は特定個人を贔屓することもないでしょうし、そうなると、あとは個人の印象が物を言います。

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