※この作品はR-18です。

外法ってやつを見せてやろう   作:山上真

66 / 68
第64話:え!? ホームパーティーをするの!?

「さて……。率直に訊くが、Dクラスに移っても構わねえって奴はいるか?」

 

 1-Cでは『王』を称する龍園がクラスメイトを見回しながら端的に訊いた。

 

「私は移りたいですね。正直、このクラスだと本の話題で盛り上がれる方もいませんし……」

 

 真っ先に口を開いたのは、椎名ひよりという女生徒だった。

 言葉通り、休み時間を始め暇さえあればいつでも本を読んでおり、図書館に赴くことも多い。端的に言えば『文学少女』というやつだが、そのイメージに違わず高い学力を誇る。

 正味な話、学力という点においてCクラスでは貴重すぎる戦力だ。

 一人でいるのを忌避しない一方で、強面の生徒にも普通に話しかけられるような度胸もある。

 Cクラスの少数派(マイノリティー)であるのは否定しようがないが、その一方で『Cクラスに相応しい』とも言えるだろう。少なくとも、一般的な文学少女だとCクラスの面々は忌避されて然りだ。

 

「まあ、お前ならそう言うだろうな、椎名。

 そして残念なことに、俺にはその言い分を否定することが出来ねえ。俺や京、金田なんかは本を嗜まねえわけじゃねえが、生憎とそれだけに拘ってもいられねえのが実情だからな……」

 

 肩をすくめた龍園は、椎名の言い分を認めて溜息を吐いた。

 そもそもにして、理事長の言葉を信じるなら、Cクラスには反骨心を買われた生徒が集められている。普通に考えて、読書とは無縁な連中だ。精々が、流行りのドラマや映画を追いかけた結果、原作にも手を伸ばす程度だろう。

 先に行われた小テストでも、椎名は全てではないが難問を解いていたのだ。金田でも不可能だったことを考慮すれば、その学力を手放すのは正直に言って惜しい。

 しかし、言った通り、龍園には椎名を引き留める材料がない。やってやれなくはないが、椎名を引き留めれば読書に時間を割かれることになり、必然的にそれ以外に差し障りが出る。

 率直に言って、『所属生徒の程度の低さ』という点では、1-Cは1-Dと負けず劣らずなのだ。単にクラスの方向性が纏まっている分、その方向性に沿ったやり方なら統率が簡単だっただけである。

 だからこそ、少数派に対する統率は難しいし、クラスの得手不得手もハッキリと分かれている。

 クラスの学力を底上げしなければならない以上、教師役となる学力の高い生徒は必須だ。その一方で、学力面での地力が上がるまでは、クラスの癌ともなりやすい。

 特に椎名の場合、クラスのリーダーである龍園に侍っているわけではない。その点において、側近を務める京や金田以上に反感を買いやすい面があるのは否めない。

 古来より、武官と文官の衝突など珍しくもないのだ。たとえCクラスが龍園の支配下にあろうと、同じことは起こり得る。むしろ、どちらかと言えば脳筋連中が揃っているからこそ、文学派の立場は余計に危うい。

 京は身体能力もズバ抜けているから個人でどうとでも対処できるだろうが、金田や椎名はそうもいかない。金田が龍園の側近となっているのは、金田の防衛を考えてのことでもある。

 龍園は椎名にも側近となるように声を掛けていたのだが、結果は毎回変わらない。龍園が強引な行動を取るか、椎名が考えを改めない限り、椎名が龍園の側近になることはないだろう。

 そして、元々椎名の安否を考えての勧誘なのだから、強引な行動は悪手だ。

 その一方、赤点=退学ではなくなったことで、余計に文学派は危機に追いやられることになったのも確かだ。

 赤点=退学であるのなら、身体を動かすことが不得手な奴が偉そうにアレコレと言ってきても、どうにか抑えることは出来ただろう。

 だが、退学=赤点でないのなら、クラスは変われど学校に留まれるのなら、『何だって偉そうに言われなくちゃならねえんだ!』という意識がどうしたって募るだろう。

 そうして反感が高まれば、ついには直接的な行動に出る可能性だってあるのだ。

 先々を考えれば悪手でしかないのだが、そんな理性的な行動を取れるのであれば『反骨的』とは言われない。理性よりも感情に重きを置いた行動を取るから、それが社会的ルールに反する傾向が強いから、『反骨的』という認識をされているのだ。

 

「『王』としてクラスのことを考えれば、学力の高いお前は貴重だ。故に引き留めるべきなんだろうが――引き留めたところで、俺はお前を守り切れんし、満足させることも出来ねえ。

 いいぜ。うちのクラスで一人目の移籍者はお前で決定だ、椎名」

「ありがとうございます。……これまでの善意をフイにするようなことになってしまい、申し訳ありませんね、龍園くん」

「そう言うんであれば、もっと早くに手を取ってほしかったんだがな。結局、すり抜けてんじゃねえか……」

 

 申し訳なさげに礼を言う椎名に対し、龍園は頭に手を当てての溜息で答えた。

 

「取り敢えず、これで一人は確定だ。他に三人……。誰か立候補する奴はいるか?」

「私たちが移るわ」

 

 手を挙げたのは三人の女子だった。真鍋志保、藪菜々美、山下沙希の通称『真鍋グループ』である。

 

「将来の働き口を世話してくれるっていう龍園くんの言葉にはとても惹かれるものがあるのは事実だけど、それが『ヤクザ屋さん』となると、どうしても考えざるを得ないのよ。

 だけど、そう思ったところで、このクラスにいたままだと甘えちゃいそうなのも事実だしね。……私たち、そんなに心は強くないのよ。

 でも、だから、敢えて別環境に身を寄せるのはありだと思ったのよ」

 

 世間一般的に考えて、ヤクザに対する印象は低いのが世の常だ。そればかりは、龍園がどうこう言ったところで一朝一夕には変わらないだろう。

 その一方、未だ学生の彼ら彼女らであっても、『就職難』の波をそこはかとなく感じているのが実情だ。

 自身が『アウトロー』の自覚を大なり小なり持ち合わせているからこそ、1-Cの生徒たちは龍園の誘いに乗った。

 だが当然ながら、そういう生徒ばかりではないのだ。何せ、高校生活は三年あり、自分たちは入学して未だ間もないのも事実なのだから、自分の可能性に見切りを付けるには早過ぎるのも確かである。

 そういった心情に理解を示せない龍園ではない。

 

「フン……。いいだろう。椎名の他に移るのは、真鍋、藪、山下の三人で確定だ」

 

 だからこそ、笑みを浮かべた龍園は素直にその言い分を認めた。

 こうして、思いの外早くにDクラスへの移籍者が確定したのだった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「いや、これはどうなんだ……?」

「見事なまでに女子ばかりだな……。いや、個人的には嬉しいけどな」

 

 眼の前に並ぶ、各クラスから選出された移籍者を見ての、天嶺と清隆の言葉である。

 

「正式な自己紹介の時間は後に設けるから、取り敢えずは元の所属クラスと名前だけでも名乗ってもらっていいかな?」

 

 移籍者は確定したわけだが、未だに学校からの試験に対する終了宣言は出ていない。そのことから、平田は各自へと自己紹介を促した。

 名乗ってもらい、受け入れ、歓迎の言葉を発する。そのスタンスを踏むことで、初めて試験が終了すると判断したのだ。

 

「御尤もですね。では、元Aクラスの面々から先に行わせていただきましょうか。分かりやすさ重視で、五十音でやった方がいいでしょうね。――というわけで、お願いしますね?」

 

 平田の言葉に、真っ先に同意を示したのは杖を突いた少女――坂柳だった。

 彼女は自身の隣に佇む少女へと目を向ける。

 

「ま、理には適ってるからいいけど……。神室真澄よ」

 

 溜息を一つ吐いて真澄が名乗った。

 そこから坂柳有栖、森下藍、山村美紀と続く。

 次はBクラスに移り、網倉麻子、一之瀬帆波、白波千尋、姫野ユキへと。

 そして、最後はCクラスに移り、椎名ひより、真鍋志保、藪菜々美、山下沙希で終わった。

 

「さて……。簡易的ながら自己紹介は終わったようですね。幸い、明日からは週末の連休に入りますので、Dクラスの皆さんはそこで仲を深めてくれることを期待します。

 それでは、これで『移籍特別試験』を終了いたします」

 

 それを確認した理事長が、やはり柔和な笑みを浮かべたまま、特別試験の終了を宣言した。

 特別試験が終了した以上、いつまでも大会議室を使ってもいられない。当然ながら生徒たちは退室を余儀なくされる。

 

「取り敢えず特別試験とやらは終了したわけだが、この後はDクラスの教室に集まって自己紹介の続きを行いたい。皆には手荷物を回収した後でうちの教室に集まってもらいたいのだが構わないか?」

 

 とはいえ、新たにDクラスに加わる面々には名前を名乗ってもらったが、精々が名前程度。元からDクラスに所属している生徒は名乗ってもいない。

 それでは流石に問題があるだろうと判断した天嶺は、教室で自己紹介の続きを行うことを提案した。

 

「構いませんよ。こちらも見知った顔と見知らぬ顔がおりますので、自己紹介の続きを行うのは必須でしょう」

「私たちもそれでいいよ」

「右に同じく」

 

 天嶺の提案に、元々のクラス別で顔を見合わせた面々は、一つ頷いてそれを快諾。

 場所を1-Dの教室に移し、自己紹介の続きを行うことになった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「それでは改めまして」

 

 場所を1-Dの教室に移し、元々の所属者は自席に、移籍してきた生徒たちが適当な席に着いたところで、自己紹介の続きと相成った。 

 起立した坂柳が、そう前置きして軽く一礼した。

 

「坂柳有栖と申します。当校の理事長である坂柳成守の娘でもあります。

 こうして杖を手にしていることから想像が付くと思いますが、私は身体が非常に弱いです。生まれつき心疾患に患わされており、現代医学ではどうしようもならず、病院から運動の一切を禁止されておりまして、こうして杖を使わなければ日常歩行も儘なりません。――と、これが今まででした。

 どうにも、私の心疾患はオカルト的なモノが原因だったらしく、そこについてはそちらの九角くんが手を打ってくれました。おかげさまで病状にも回復の兆しが見えたわけですが、流石に一朝一夕で完治とは参りませんのでね。今暫くは杖を手放すことが出来ません。

 必然、体育祭や運動系の特別試験などでは足を引っ張ることになると思いますが、『天才』を自負する程度には頭脳面に自信がありますので、そちらで貢献できればと思っております」

 

 理事長に負けず劣らず柔和な笑みを浮かべ、坂柳は改めて自己紹介を行った。

 

「正直、そう臆面もなく『天才』だの言われると、嫌味に感じてならないんだけど?」

 

 そう言ったのは、Cクラスから移籍してきた真鍋だった。藪と山下も頷いている。

 

「これは失礼。……いやまあ、どうしても頭脳面でマウントを取りにいきがちなんですよ。身体が不自由なこともあって尚更ですね。

 我ながら悪い癖だとは思っているのですが、身に沁みついた慣習は一朝一夕ではどうにも……」

 

 軽く謝罪した坂柳は、申し訳程度に理由を告げて首を横に振った。

 その仕草が癪に触ったのだろう。真鍋らは尚も顔を顰める。

 

「まあ、ヘタな同情は御免だということだろう。

 身体面で足を引っ張るのは認めるが、その分だけ頭脳面では貢献する。だから五分で扱え。――坂柳はそう言いたいだけであり、『天才』云々は分かりやすくするための指標だろう。ただ『頭がいい』と言った程度では、どうしても同情と無縁ではいられないだろうしな……。

 お前たちが嫌味と感じたのも無理のない言い方ではあるが、その一方で、お前たちも怒りのあまり、身体面に対する同情が消えていたのではないか?」

 

 見兼ねた天嶺が仲裁に入った。

 

「そう言われれば……」

 

 分かりやすく言葉を直されたことで、真鍋たちも納得したように頷いている。

 それを見て、次は真澄が口を開いた。

 

「神室真澄。まあ、坂柳の世話役的なポジションとでも思ってもらえれば……。今しがたのやり取りで分かったと思うけど、コイツって慇懃無礼って言うか、潜在的に相手を逆撫でする言葉を使うことがあるから、慣れないうちはキレることも多いと思う。

 身体を動かすことにはそこそこ自信があるけど、勉強面は苦手。でもまあ、コイツに強制的に教えられたおかげで上昇してる自覚はある。あとはチェスとか紅茶の淹れ方とかも……」

 

 坂柳の頭にポンポンと手を置きながらの言葉に、そして当の坂柳は溜息一つでそれを受け入れている辺りに、周りは自ずと親密性を感じ取った。

 その後も順調に自己紹介は続けられ、元からDクラスだった面々も含め、全員が自己紹介を終えた。

 そのタイミングで、天嶺が口を開く。

 

「それでだが、そちらさえよければ外泊許可を取ってくれないか? 元々、中間テストを乗り越えられたら祝勝会を兼ねたパーティーを行うつもりだったのだ。――まあ生憎と、元々の面子は半数近くが教室を去ることになってしまったわけだがな……。

 日付は特に決めていなかったわけだが、明日からは土日の連休になるから都合がいいと言えば都合がいい」

「場所に関しては、私らが仕事用に借り受けている拠点がいくつかあるから、そのうちの一つを使う。言ってみれば『ホームパーティー』ね。

 そもそもにして、私と天嶺の二人だけじゃあ仕事を行う上では人手不足だし、この学校が『クラス評価制』を取り入れている以上、クラス内の親睦を図るのは仕事を行う上で必要不可欠なのよ。

 そんなわけで、直接的に仕事に関係ない部分で拠点を使うのも、内容次第では許容範囲と受け取っているわ。

 まあ、予算に余裕があるわけじゃないから、食事に関しては自炊がメインになるとは思うけどね」

 

 天嶺に続く形で澪が補足を入れた。

 

「賛成! 私たちはありがたく参加させてもらうよ! 皆で協力して手作り料理ってのも楽しそうだし! ――あ、姫野さんはどうする?」

「ここで参加しなかったら、空気を読まないみたいじゃん。これからは同じ教室で過ごすことになるんだし、参加するだけは参加するよ。人付き合いを好まないのは事実だけど、そこまでコミュニケーションを度外視してるわけじゃないから」

 

 帆波が乗り気で宣言すれば、僅かに顔を歪めて姫野に訊いた。

 大方、自身の人付き合いの苦手さに考慮を示すことなく、一方的に言ってしまったことを気に病んでいるのだろう。――そう受け取った姫野は、帆波のお(・)人(・)好(・)し(・)さに呆れながら参加を承諾した。

 瞬間、帆波はホッと安堵の息を吐く。

 元Aクラスの面々と元Cクラスの面々も全員が参加を承諾し、連れ立って職員室へと向かう。協力者登録をしている面々はともかく、それ以外は外泊許可を取らねばならない。

 

「え!? ホームパーティーをするの!? 私も参加してい~い?」

 

 対応した知恵が小首を傾げて訊いてきたので、天嶺は素直に承諾した。どうせ乱交に移る予定なので、事情を知っている教師の参加は望むところだ。

 

「おい知恵。一応、コレはDクラスのパーティーなんだぞ?」

「まあまあ佐枝ちゃん。堅いことは言いっこなしで。パーティーともなれば無礼講だろうし、佐枝ちゃん一人でこの人数を面倒見るのも無理があるでしょ?」

「そう言われると……」

 

 流石に口プロレスでは勝てないのか、苦言を呈した茶柱はアッサリと知恵によって丸め込まれた。

 

「では、そういうことで。会場については、あとで端末に連絡させてもらう」

 

 女教師二人のやり取りを尻目に、生徒たちは職員室を後にするのだった。




Cクラスは割とアッサリ目に。
本作の龍園は将来的にヤクザ組織を継承することが確定しているので、当然ながらクラスメイトには真っ先に誘いを掛けています。
風聞が悪いのは事実ですが、『就職先の確約』が出来たのは普通に大きいです。
そのため、この時点で龍園は原作以上にクラスメイトの心をガッチリと掴んでいます。

これは『推薦の確約はAクラスだけ』と周知されたのも大きいです。
学力的な意味で自分たちのバカさ加減を自覚している面々が多いため、諦めが先に来たわけですね。
『推薦の確約』一つのために態度を改めて勉強に身を入れることが出来るなら、もっと早くにやってます。
理由はどうあれ、まともにやれてなかったから『不良』認定を受けている生徒が大半なわけです。
である以上、無理にAクラスを目指して頑張るより、面白おかしく学生生活を送って龍園の世話になった方が遥かにマシ。……そう考える生徒が多数を占めてもおかしくありません。

感想・中~高評価・リクエスト・お気に入り登録お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。