黄泉川が教会に帰っていたのを機に、天嶺たちもまた各個に動き出した。
食材なんかは、学校からの帰りがけにケヤキモールに寄って購入してきている。とはいえ、出来合いの総菜ばかりではないため、どうしたって料理の必要に迫られる。米を炊く、パンを焼くといった作業だって必要だ。
その一方で、今回の『パーティー』が、言わば『一部』と『二部』に分かれるのも事実。食事会・祝勝会・歓迎会に主を置いた『一部』と、乱交に主を置いた『二部』である。
その上で、ここにいるのは前以て『二部』のことを伝えられている面々ばかりではない。特に他クラスから移籍した面々はそれが顕著だ。――まあ、中には気付く者もいるだろうが、全員な筈もない。
である以上、二部のための準備を進めるにも手間がかかるのは否めない。特に、黄泉川との邂逅により時間が押しているのだから尚更だ。
「ああ、愛里に波瑠加よ。スマンが、前に使った家から『遊び道具』を持ってきてはくれないか?」
だからこそ、天嶺は愛里と波瑠加にそれを頼んだ。
「ふ~ん。いいよ、分かった、了解。帆波たちに手伝ってもらっても構わない?」
幸い、波瑠加は天嶺のやや迂遠な言い回しに気付いたようだ。笑みを浮かべて頷いてくる。
だが、やはり二人だけでは持ってくるにも不安があるようで、以前の家を知っており、事情にも察しが付くだろう帆波たちの助力を求めてきた。
「ああ。その方がそちらも助かるだろう。言うまでもないだろうが、当人に確認は取れよ?」
「分かってるって」
天嶺が頷き、忠告を加えて鍵を渡すと、二人は意気揚々と帆波たちに声を掛けに行く。
「さて。こちらもこちらのすべきことをせぬとな……」
任せた以上、いつまでも気にしてはいられない。一つ呟いて、天嶺は厨房へと向かうのだった。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「まあ、長々と挨拶をするのも面倒なのでな。手短に行くとしよう。これより、諸々を兼ねたパーティーを開催する。……乾杯!」
『乾杯!』
天嶺の声がけが終わるや否や、一斉にグラスが打ち合わされた。
ほぼほぼ未成年ばかりのため、中身はお茶やジュースだ。監督役として参加した大人の女教師二名がいるが、彼女らのグラスの中身もノンアルコールである。
夕食としては遅い時間帯だが、女教師二人の合流が遅くなったため、ある意味では都合がよかった。当初の予定時刻の通りに開催していれば、女教師二人が参加した頃には料理が冷めていたことだろう。
所詮は学生の手料理が主のため、豪華絢爛とは言い難いが、それでも身近な料理が所狭しと並んでいる。
「美味え! 美味え!」
普段から自炊と縁遠いだろう三バカを始めとした男子たちは、ガツガツと料理を掻き込んでいる。
「う~ん、美味しい!」
帆波も笑顔を浮かべて箸を動かしている。母子家庭という、ある種のハンデを背負った家庭で育ったからこそ、彼女は普段から何かと抑え気味な生活を送っているのである。――にも拘らず、その胸部装甲は実に立派に育っているのだから、これはもう、食生活云々と言うよりは遺伝の面が大きいのだと思われた。
「これは中々……」
楚々とした仕草ながら、やはり食が進んでいるのが坂柳だった。
生来の心疾患が改善に向かっていることで、彼女の肉体は常にエネルギーを求めている状態にある。少なくとも、そう言いきって間違いのない状態にある。
その一方で、これまでの状態が常態だったので、すぐに満腹になってしまうのも否めない。
しかし、それもすぐにエネルギーへと変換され、然程時間を置かずに満腹感が薄れるのが実情だった。
そうして獲得したエネルギーは、これまで未熟だった心肺機能の強化に充てられている。……らしい。
あくまでもお医者さんからの聞きかじりであるが、有栖自身、ある種の筋が通っている様には思っている。
「ちょっといいかな? 実は、皆に言っておかなきゃならないことがあって……」
ある程度食事が進んだ頃合い、そう声を発したのは桔梗だった。
面々の注意が自分に向いたのを確認した桔梗は、第二部に篠原が参加することを告げた。
「おいおい、マジかよ……」
「俺らだって、頑張って中間を乗り越えた結果、こうして参加してるんだぜ……」
案の定と言うべきか、真っ先に不満の声を上げたのは池と山内だった。
「第二部って~と、アレか……。俺はあんまり興味ねえんだけどな……」
その一方、同じ三バカの一人である須藤は、頭を掻いて顔を顰めた。どうやら、須藤は第二部自体に乗り気ではないようだった。
「前にも言ったが、興味が無いなら無理に参加することはない。
しかし、そうか……。篠原がな……。平田や桔梗の人柄を思えば、誰かしらが頼み込んでくる可能性も考慮していたが……」
「もちろん、篠原さんには前以てシッカリと釘を刺してあるよ。皆からの心証は悪くなるだろうこともキッチリと伝えてある。最初の立ち位置が悪くなるんだから、参加したところで、彼女の思うように進まない可能性もキッパリと伝えてある。
でも、だからこそ、その上で参加を望まれたら断り切れなかったな……」
桔梗の言い回しのその意味を、理解する者は理解した。
「ま、本人が覚悟の上なら構うまいよ。――本当に覚悟できているかは分からんがな……」
笑みを浮かべた天嶺は、そう言ってアッサリと篠原の参加を認めた。もっとも、その笑みが苦笑か冷笑かは判断の分かれるところだ。
天嶺から許可が出たことで、桔梗も安堵の息を吐く。
大丈夫だろうとは思っていたが、直接に許可を聞けば安心感も一入だ。
「ところでさ、第二部って何やんの? いや、これが大人の飲み会とかだったら『二次会なんだろうな~』って漠然とした予想もつくんだけど、私らって未成年じゃん? お酒とか飲めないじゃん?」
「そうそう。家の中を全部見たわけじゃないけど、カラオケとかもなさそうだし……」
「ボードゲームとかカードゲームでもすんの?」
そんな中、1-Cから移籍してきた『真鍋グループ』から質問の声が上がる。その想像は、高校生としては至極妥当な内容だろう。
見やれば、他にも怪訝そうな表情を浮かべている者たちがいる。
「ああ……。そう言えば、茶柱先生や移籍組にはまだ説明をしていなかったか……」
天嶺は一つ頷いた。そして結論を口にした。
「簡単に言えば乱交パーティーだ」
「は……?」
「乱」
「交」
「パー」
「ティー」
「ですか……?」
「何だそりゃ!?」
順に、茶柱教諭、真鍋グループ、椎名、山村、姫野である。
呑み込めているのか、呑み込めていないのか。その反応を無理もないと思いつつ、天嶺は詳しく説明するのだった。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「そう言われると、否定はしきれない、のか……?」
頭を押さえ、痛そうに茶柱は呟く。
天嶺の言葉は、現在の法や常識に当て嵌めると暴論や極論の類ではあるのだが、決して否定しきれない側面を孕んでいるからタチが悪かった。
「……知恵、お前は知ってて参加したのか?」
ギギギと擬音が鳴りそうな仕草で知恵へと顔を向けた茶柱は、言葉を絞り出すようにして問いかけた。
「別に知ってたわけじゃないよ。――ただ、想像がついただけ」
その返答を聞いた茶柱は安堵の息を吐き、直後にガクリと肩を落とした。
「いや、お前……それはどうなんだ?」
「いい、佐枝ちゃん。それに女子の皆も。……女にはね、
生徒の皆はまだいいよ。若いし
私は別に正規の結婚が出来なくたって構わない。ただ、旦那さんと一緒に暮らして、子供を産んで……そんな、女性として普通の暮らしがしたいだけなのよ。
だけど先述の理由から、現実としてそれも難しい。そんな状況で、これ以上ないほどの優良物件が現れた!
なら、齢の差なんて些細なモノでしょうが! こちとら『一夫一妻』なんていうくだらない常識に拘ってはいられないんだよ! 常識を守ってたら、旦那と一緒に暮らすことも出来ないし、子供を産み育てることだって出来やしないんだよ!」
それは絶叫だった。紛うことなき絶叫だった。追い詰められた大人の悲哀が、これでもかと言わんばかりに詰め込まれていた。
しかし、だからこそ、その叫びはこの場の面子の胸を打った。
法と常識を守り抜いた末に、夢が叶わずに苦しんでいる人物が眼前にいるのだ。自分が二の舞にならないと、誰がどうして言えようか!
「そりゃあ、私だって大人で教師だ。未成年の学生に性行為を勧めることに問題があるのは認めてるよ。
だけど、子供が出来ないならいいじゃない! レイプなら問題だけど、互いの合意があるならバンバンセックスして何の問題があるのさ!
発情期に無理に性欲を抑えさせるようなことをしてるから、いざ大人になって本番を迎えても、必要以上に夢見ちゃってるから結婚まで漕ぎ付かないんだよ! 私がどれだけの男と経験したと思ってるのさ! ――未だ処女の佐枝ちゃんとは違うんだよ!」
こぶしを握り締めて知恵は叫んだ。
そも、『夜遊び』で出会えるような相手など、『気軽さ』を求めている人物が大半だ。セックスまで漕ぎ着けるのは早くとも、その先――『結婚』には二の足を踏む面々ばかり。
それが知恵の経験則であり、その一端が生々しく語られたのである。
そして、ついでとばかりに茶柱の秘密を暴露した。
「ちょっ!? 知恵! おま……っ!?」
流石に、この齢で処女というのは恥ずかしいのか、茶柱は慌てた。
「皆して特別試験を終えたことだし暴露するけど、私も佐枝ちゃんもこの学校のOGなのよ。卒業間近でBクラス。特別試験の結果次第では、Aクラスでの卒業も夢じゃなかった……。
その時の特別試験の内容が、『クラスメイトが1人退学になる代わりに100CPを得る』というもの。ただしそれは、制限時間以内にクラスメイト全員の意見を一致させることが出来ればの話。『制限時間以内に意見の一致を見なければ、300CPをマイナスされる』というペナルティがあった……。
当時、私たちのクラスリーダーを務めていたのが、佐枝ちゃんの恋人だった。彼は他のクラスメイトたちが犠牲となる事を良しとせず、自ら退学になると立候補した。
それは一見、『自己犠牲』という立派な行いに見える。――だけどね、現実にはそんな綺麗なもんじゃない。
根回しも何もしてないんだ。――まあ、事前に試験内容を知らない限り、することも出来ないだろうけどさ……。
結果、佐枝ちゃんは反対し続けた。当然、私たちクラスメイトは意見の一致を阻む佐枝ちゃんに怒りの矛先を向け、佐枝ちゃんと恋人が庇い合う状態になった。当然、時間切れでペナルティを食らい、私たちはDクラスへと転落。
そしてタチが悪いのは、そんな風に盛大にクラスメイトを巻き込んでおきながら、佐枝ちゃんと恋人が自然消滅したこと。
以来、佐枝ちゃんは過去に縛られたまま、男を作ることなく日々を過ごしていますとさ……」
知恵は赤裸々に己が過去を語った。
なお、大量にEクラス行きの生徒を出したことにより、現在のDクラスのCPはゼロである。『実力不足の生徒のフォローを怠った』という理由でCPが引かれたのだ。人数が人数のため、ゼロになるのは仕方がない。一抹の筋が通っているのも確かだから、反論しきるのも難しい。
まあ、そんな生徒を大量に配置させたのはそもそも学校側であり、過去問の通用しない状況で中間テストの結果が出たことによって『バランスの悪さ』がこれ以上ないほどに露呈してしまった。
それ故の各クラス間の人員調整であり、Dクラスのみ特別試験の報酬CPが多い理由であった。
また、そのペナルティ故に、特に池たちはEクラスに落ちた面々に対する反感が強くなっている。途中からではあるが、自分たちはクラスの足を引っ張らぬように努力をし、残留という結果を掴みとったのだから尚更だった。
そりゃあ、Eクラスに落ちた生徒は、今後CPゼロ生活を余儀なくされるらしいが、それはそれである。
一方、ギリギリすぎる残留を果たした須藤は、Eクラス行きとなった生徒への反感や不満はそれほどない。一歩間違えば自分もそうなっていたのだから、そんな余裕など持ち合わせてはいなかった。
自分が劣等生だという自覚があり、その上で努力をし、ある程度の余裕をもって中間テストを乗り越えた人物ほど、Eクラスに落ちた生徒に対する不満や反感が強いのが実情だ。
「なるほど……。本日、私たちが受けさせられた特別試験と傾向は似ていますね……」
ポツリと呟いたのは坂柳だった。
彼女たちが元いたAクラスも、戸塚というEクラス行きの生徒を出している。それによってCPが減らされてしまった。最初の貯金分があるからAクラスを維持出来てはいるが、退学者を出すことなく中間テストを乗り越えたBクラスやCクラスから差を縮められたのは否めない。
そしてこれから先、知恵たちが受けさせられたのと同様の試験が待ち受ける可能性は否めない。そしてその際は、本当に『退学者』との二択を迫られる可能性もある。
繰り返すが、『Eクラス構想』は、現状のシステムに疑問が抱かれたからこその措置でもあるのだ。
だがその一方で、学校側は何も現状のやり方の全てを否定しているわけではない。時として
今までのやり方だと
「まあ、だからこそ、こうして話したんだけどね。でなきゃ、いくらなんでも特別試験の内容を口にしたりはしないよ。あくまでも、既に受けた試験から想像の付く範囲だから口にしたわけ。
この試験の何が問題かって言うと、クラス内で統制が利いてなかったことなんだよね。リーダーの人柄は十分だったし、頼れるだけの能力もあったけど、苛烈さが足りなかった。だから、自己犠牲なんて悪手を打った。
そして私たちも、そんな人物をリーダーに据えてしまっていた。――言ってしまえば、それが何よりの間違い。
確かにクラスメイトからの信頼と信用は必須だけど、リーダーを務める以上、何よりも必要なのは、本人の『Aクラスでの卒業』に対する熱意。それが足りないから、私たちは途中で崩壊した。そしてそのことに、私たちは最後まで気付けなかった……。
私自身、それに気付いたのは高校を卒業して暫く経ってからのことだしね」
「にゃはは……。姫野さんの危惧、見事に的中だ……」
帆波は人差し指で頬を掻きながら呟いた。
「そうだね。本音を言えば、帆波ちゃんにクラスを移られたのは痛い。――だけど、同時に『良かった』と思っている自分がいるのも否定はできない。
それだけ、帆波ちゃんはうちのクラスにとって劇薬だから」
「……その劇薬を、うちのクラスは押し付けられたことになるんだが?」
「特別試験の結果だから仕方ないね」
睨み付ける茶柱に、知恵は肩をすくめて答えた。
「この際だから率直に言わせてもらうが、うちのクラスはAクラスを目指すつもりはない。個人で目指す連中はいるだろうが、クラスで目指すには意欲も地力も足らん連中が大半だ。コレでは目指すだけ無駄足を踏むことになるからな。
そも、推薦を受けたところで、地力が足りないようなら結局はついていけない事態になる。
とはいえ、あくまでも積極的に目指さないだけだ。例えば今しがた言われたような試験の場合、CPのために必ずしも退学者を出すつもりはない。
だがその一方で、足を引っ張っていると思われる生徒がいたなら、容赦なく排斥に掛かる。組織を維持する上では、綺麗事だけでは罷り通らんのだ。組織の一員たろうとする努力を怠っている者にまでかける慈悲はない。
移籍してきた面々も、元からDクラスの面々も、その点は改めて意識しておいてくれ」
改めて告げられたDクラスの方針。その優しさと厳しさに、一部の生徒は息を呑む。
「ま、そんな感じで厳しさを背負い込ませるからこそ、愉しむときは目一杯に愉しもうということだ」
「……で、乱交ってわけ?」
「に、限ったことではないがな。だが、クラスの輪を縮める上で効果的なのも事実なのだよ。
互いが互いに綺麗も汚いも知っていればこそ、過剰な期待を掛けずに済むし、過剰な不安を抱かずに済む面があるのは否めない。
自らの汚点を知っている相手に対し、恰好付ける必要がどこにある? むしろ、恰好付ける必要がないからこそ、素直に弱さを曝け出せるし、頼み込むことも出来るというものだ。
もっとも、頼みを引き受けてもらえるかどうかは、日頃の振る舞い一つだろうがな」
言って、天嶺は真澄を引っ張り、その唇を奪った。
「ま、論より証拠だ。口であーだこーだと議論するより、実際に身体を重ね合わせてこそ、肉欲をぶつけ合ってこそ分かることもある。
さあ、篠原がまだ来ていないが、そろそろ第二部を始めるとしよう」
そして天嶺の口から、パーティーの第二部――『乱交パーティー』の開始が宣言されたのだった。
本作における茶柱先生は処女の設定です。
付き合ってたけど初体験はまだで、でも、だからこそ、それが逆に拗らせる一因になったのかな~……と。
茶柱のリーダーに対する想いは強くて、けど、リーダーの茶柱に対する想いは茶柱ほど強くはなかった。
だから、リーダーは恋人である茶柱を放置するような、『退学への立候補』なんて手段を取ることが出来た。
クラスが崩壊した後もリーダーとの恋人関係が続いていれば、茶柱も原作ほどに拗らせることはなかったと思います。
真に茶柱が求めているのは『Aクラスでの卒業』ではなく、自分が向ける想いに対し、比肩するほど強い想いをぶつけ返してくれるような、『本物の恋人』。
本作ではそういう解釈です。
いやだって、茶柱自身はクラスよりも恋人選んで失敗したわけですし……。その時点で、恋人>クラスだったわけです。
じゃあ、それを成功体験に塗り替えるためには、前の恋人よりもマシな恋人を掴み取るのが一番でしょう。
自分のクラスをAにまで引き上げて卒業させたところで、茶柱が真に救われることはないと思います。
原作での茶柱がAクラスに拘っているのは、トラウマによってリーダー関連から意図的にか無意識的にか目を背けているからな可能性は否定できません。
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