ありがとうございます。
「あ……こら……ちょ……。そんながっつくなって……」
篠原の文句が聞き入れられることはなかった。
そも、篠原よりも先に『相手をしてもいい』と言ってくれた森は、初体験での疲労が溜まって休憩中である。まあ、森自身はそれでも相手をしてくれようとしたのであるが、見るからに疲労困憊な様子と、クラス残留を勝ち取った仲間意識が働いた結果、外村は自分の性欲の発散よりも森の体調を慮った。
そんな外村の判断を、池と山内も無下にすることはなかった。何故なら池と山内も、やはり森に一定の仲間意識を抱くに至っていたからだ。同性ということもあり、外村に対しては森に対するもの以上の仲間意識を感じていた。
だがそれは、池たち三人の性欲をこれ以上ないほどに高める結果に繋がった。
今はもう部屋を去ってしまったが、森下、山村、椎名の三人に手扱きをしてもらい、『現実の女性の素晴らしさ』の一端を堪能した後であるが故に尚更だった。
そんな状況で自分たちの相手をしてくれる女子が現れたのなら、それが森と違って健康体なら、これ以上、性欲を押さえ付けておけるわけがない。
一旦寮の自室に帰ってからやって来たためだろう。現在の篠原は私服姿だ。
制服には制服の良さがあるが、私服には私服の良さがある。
「うるせえ! 相手をするっつったのはそっちだろうが! 高まりに高まった男の性欲を舐めんじゃねえ!」
「そうだそうだ! ほらキスすんぞ、キス!」
「篠原殿から拙者らの相手を提案し、それを拙者らが了承した時点で、『互いの合意』は成立しているのでござるよ。
つまり、拙者らの行いが篠原殿の予想を超えていたとしても、それは篠原殿の想像力不足・危機感不足の表れに他ならないのでござる!」
男共は口々に言い放つ。
その間も、目の前の獲物を思う存分に堪能しようとする動きを止めることはない。
或いはその胸に手を伸ばし、或いは口付けを行い、或いは下着越しに秘所を弄る。
そこには、篠原に対する思い遣りなど微塵もない。あるのはただ、自分たちの性欲を発散しようとする、青く若い衝動の発露だ。
そもそもにして、『年齢』=『彼女いない歴』の童貞に、初体験で相手を慮るような余裕などあるわけがないのである。
篠原が、『自分たちのクラスに害を出してEクラスに落ちた』という事実も、池たちを後押ししていた。篠原に対しては、森に抱いたような『仲間意識』もない。
「ああもう、まどろっこしい! 服脱げ、服! いや、俺たちで脱がす!」
着衣エッチには着衣エッチの良さがあるが、それを堪能する余裕があるのは、ある程度の経験を積んでからであるのが道理だ。
池たちはそんな経験など積んでいなければ、必然として余裕もない。今の池たちが求めるのは、そんなフェティッシュよりも、即物的な女性の裸体である。裸体を堪能する上で衣服など邪魔でしかない。
男共は協力し合って、篠原の衣服を剥ぎ取っていく。
上着を脱がし、スカートを下ろし、篠原が下着姿になったところで、一旦剥ぎ取るのを中止した。下着姿には、下着姿の良さがあるのだ。
「交代だ、春樹。俺にもキスさせろ」
「しゃあねえな。……博士、俺たちも代わろうぜ?」
「畏まったでござるよ」
池的には相手が篠原というのがやや不満ではあるが、それでも女子であることに違いはないのだ。実際、上位陣が凄すぎるだけで、見てくれはそこそこいい。自分たちに対するキツい性格が難なだけだ。である以上、『女子とのキス』を満たす相手としては十分すぎる。
男共はポジションチェンジを行い、池は唇に吸い付き、山内は股間を弄り、外村はブラジャーをズラしておっぱいに吸い付いた。
もう暫くすれば再びのポジションチェンジを行い、一巡したその時こそ、いよいよ本番に移ることだろう。
そのことは、男共も篠原も簡単に予想が付いた。
「誰がどこを最初にヤるよ?」
だからだろう。池がそんな質問を口に出しても、誰も不思議に思うことはなかった。
そもそも、このパーティーの主旨は『乱交』である。参加した以上、そして合意した以上、セックスせずして終わるわけがない。
「俺ら三人に対して篠原一人だからな~。順当に考えると、マンコとアナルと口か?」
「いや、池殿。下準備なしのアナルセックスが成立するのはフィクションの中だけでござるよ。何せ、腸内には雑菌が満載でござるからな。勢い任せに尻穴に突っ込めば、場合によっては病気をもらうでござる」
「うえっ!? そいつは勘弁だな……。するって~と、マンコと口と手になるのか……? なんか、手の奴が物たりなくね? 一人だけ穴じゃね~し」
篠原をお構いなしに、男共は好き勝手に言葉を交わす。
だからこそ、その会話は篠原の危機感を高めるには十分だった。このままだと、十分に濡れていないにも拘らず挿入されるかもしれないのだから尚更だった。
その危機感は防衛本能として働き、肉体に反映される。
「お!? ヌルヌルが増してきたぞ! いや~、俺たちも初めてだから、挿入する上で満足な下準備が出来るか不安だったけど、これなら大丈夫そうだな!」
篠原の股間を弄っていた山内が、イイ笑顔を浮かべて言い放つ。
「そいつはありがてえけど、やっぱ一人だけ手ってのはなぁ……」
「ふむ……。ここは一つ、九角殿に訊いてみようではござらんか。主催者でもあることだし、ともすれば九角殿であれば、オカルト的な方法で問題を解決できるかもしれぬでござるよ」
やはり、この三人での頭脳労働担当は外村になるのだろう。学力はともかく、その知識はバカに出来ないものがある。
「よお、お困りか?」
池たち三人がそんな会話を行っていると、機を見計らったかのように天嶺がやって来た。
「おお、九角! ……なんか、タイミング良すぎじゃね?」
「ハッハッハッ……! まあ、ネタを明かせば手すきの女子がお前たちの様子をそれとなく窺っているのだよ。
何せ、お前たちは揃いも揃って初体験であるからな。である以上、場合によっては限界を見誤る可能性もあるだろう? 主催者としては、実際にそうなると困りものなのだ」
池の率直な疑問に、天嶺は笑って答えた。
その直後、困ったような表情に変えて言葉を続ける。
「いや、実を言うとな。主催者として、お前たちに宛がう相手には俺も困っていたのだ……。
その点について、自発的に三人の相手を買って出た篠原の献身は、クラスへペナルティを与えたことに対する不満を打ち消して余りある。
篠原よ。今後、ポイントに困ることがあったら相談するがいい。お前が
言うて、俺たちのCPもそこまで高くはないが、ゼロCPが確約されているEクラスよりはマシであるからな」
微笑を浮かべて天嶺は篠原へと言い放った。
なお、注目すべきは支援条件と支援内容を限定していることだ。裏を返せば、篠原に対し『援助交際』を斡旋しているに他ならない。
しかし、ただでさえ高校生にしてはお粗末な知性の篠原だ。それが、この異常な状況で更に頭が沸いているのだから、裏の意味に気付ける筈がない。
「え!? ポイント支援をしてくれるの!?」
「お前が
ポイント支援に食いついた篠原に、天嶺は念を押す。
「いや、そんな風に言われても困るんだけど……。もっと具体的に言ってくれない?」
だがしかし、学校側からの知性評価が平均を大きく下回っている篠原には通じない。
困った天嶺を助けるべく、桔梗が割って入った。
「それを自分で考えるのが大切なんだよ。それが、篠原さんを成長させることにも繋がるんだからね。
とは言っても、やっぱり具体例は必要だよね?」
今の篠原は、桔梗のチカラで縛られているため、桔梗の言葉を重視する傾向にある。
この瞬間、篠原には『安直な答えを求めようとはせず、自分で考えることの大切さ』が植え付けられた。
まあ、植え付けられたところで、それですぐに成果を出せるようになるわけもない。
だから、桔梗はあくまでも一例として、具体例が必要かを篠原に訊ねた。
「櫛田さん……。お願いできる?」
篠原は桔梗の優しさに目を輝かせ、具定例の提示を求める。
この間、池たちはどうしても行為を注意せざるを得ない。不満ではあるが、クラス内の力関係で言えば、天嶺と桔梗の方が池たち三人よりも圧倒的に上なのだ。これで空気を読まない行動に出れば、どんな目に遭うか分かったものではない。
「不満は分かるが、ここは黙って見ておけ」
そんな池たちの不満を見て取ったのだろう。天嶺が小声で囁いた。
「そも、篠原がここに来たのはお前たちの相手をするためだ。本人にその自覚があるかはともかく、篠原から電話が来たのを契機に、桔梗がその様に誘導したのだ。
クラス残留を果たしたお前たちと、クラスにペナルティを与えてEクラスに落ちた篠原とでは、お前たちを優遇したところでおかしくはないだろう? 桔梗はそれを実践し、俺はそれを許容しただけだ。まあ、その理由は様々だがな……。
篠原に対して酷いと思うか? それは認めよう。――だが、それによってお前たちがイイ目を見ているのも事実だろう? たとえ本番に及んでおらずとも、手を出した時点で不満を言える筋合いはないさ」
そう言って、天嶺はクスリと笑った。
その内容は道理だった。感情を抜きにすれば、理屈に適っているのは確かである。
篠原に対して冷徹・残酷ではあるが、天嶺と桔梗なりにクラスを優先したが故の選択であるのも間違いない。
「まず、『献身』の説明から入ろうか。――と、その前に、篠原さんはどう思ってるか教えてもらっていい?」
「え~と、精一杯に尽くすこと……?」
「そうだね、間違ってないよ。『自分の身を捧げて尽くすこと』。『ある物事や人のために、自分を犠牲にして力を尽くすこと』。……こんな風に解釈されるのが一般的だね」
天嶺が小声で囁いている間にも、桔梗と篠原のやり取りは進んでいる。
それを見ながら、尚も天嶺は言葉を続ける。
「そして、中間テストこそ乗り越えることに成功したものの、『未だお前たちの能力が満足できる域にない』というのが、俺と桔梗の共通見解だ。
そんなお前たちを今まで以上に『地力の向上』に向き合わさせるためには、鼻先に餌を吊り下げるだけでは足らん。
桔梗はそう判断したからこそ、ハイリスクではあるが、常日頃から篠原をお前たちに宛がおうとしているのさ」
天嶺の言い分を理解しきれたわけではなかったが、何となくの想像は付いたため、池と山内は黙って見守ることにした。
もっとも、外村は理解できたようで、驚きを露わに、その顔を天嶺と桔梗、篠原の間で何度も行き来させていたが。
「こう言ったら池くんと山内くんには失礼だけど、中間テストこそ乗り越えることに成功したものの、彼らがうちのクラスの足手纏いなのは事実として変わらないんだよね。
入学時に比べて多少マシになったのは事実だけど、根底にイケメン嫌いがあるのは今も変わらないし……。
それでも天嶺くんや綾小路くんの言うことを素直に聞いてきたのは、そこに彼らなりの利益を見出したから。すなわち、二人に近付くことで、二人の言うことを聞いて成長することで、女子にモテようとしたのよ。
イケメン嫌いを公言して憚らない池くんと山内くんに、それを信じさせた根拠。……篠原さんはどこにあると思う?」
桔梗は、まず池と山内を扱き下ろした。
それは篠原にとっても頷けるもので、自然と共感を高める。
その上で、桔梗は池と山内が態度を改善させた理由を告げ、その根拠を篠原に問うた。
「綾小路くんと九角くんは、普段から複数の女子を侍らせているから……?」
「そう! 普段の行動が、説得力の底上げになったの!
実際、篠原さんだってそうでしょう? 平田くんは特定の相手を作ることもなく、不特定多数の相手に親身に接していた。
それだけなら『柔弱』と思ったかもしれないけど、須藤くんに対して行動に出たことで、『頼りがいのある部分』も知らしめた。
だから、篠原さんも無理を承知でこの『パーティー』への参加を望んだんじゃないの? もしかしたら、ワンチャン平田くんに抱いてもらえるかもしれないと思ったし、それを強く望んだから」
篠原は自信なさげに答えるが、桔梗は殊更に強調して相槌を打った。
桔梗はそのまま、篠原の行動を引き合いに出す。完全に一致している必要は無い。僅かにでも同調できる部分があるのなら、篠原は桔梗の言葉を否定しきれない。
今の篠原は桔梗のチカラの影響下にあるのだから尚更だ。事実と一般論を述べるだけで、簡単に同意する土壌がある。
「確かにそう……」
桔梗の目論見通り、篠原はその言葉に頷いた。
「でもね。ここに来て、その信憑性に翳りが生じてしまったの……」
桔梗は、殊更に影を含ませた表情で言葉を告げる。
「翳り……?」
「うん。だって、篠原さんを始め、大半のクラスメイトがEクラスに行っちゃったからね……。
もちろん、さっきも言ったように学校側が手を打って、『特別試験』と題打って他クラスから生徒を回してくれたよ。
Aクラスからは、坂柳有栖さん、神室真澄さん、森下藍さん、山村美紀さん。Bクラスからは、網倉麻子さん、一之瀬帆波さん、白波千尋さん、姫野ユキさん。Cクラスからは、椎名ひよりさん、真鍋志保さん、藪菜々美さん、山下沙希さん。……各クラスが選出したのは、揃いも揃って女子ばかりだね。
だけどその内実は、既に天嶺くんや綾小路くんに想いを寄せていたり、そもそもにして池くんと山内くんとは釣り合いが取れないほどに優秀なんだよね。
ほら、この時点で池くんと山内くんの望みは絶たれちゃってるの……。
実際、篠原さんが自発的に相手をしてくれるまで、池くんたちは手持無沙汰だったからね」
桔梗は、この場で千秋からそっと差し出された、特別試験で渡された各クラスの中間テストの成績表を開きながら、この場にいる移籍者を指差しながら、篠原に対して言葉を続ける。
それぞれの様子と資料に載った点数を見れば、篠原が桔梗の言葉を信じるには十分だった。
この場にいないという時点で、その人物が池たちに眼を向けていないのは確実だ。その上で、この場に残った面子も池たちには眼を向けていない。
その結果、篠原が自発的に相手をしようと思ったのだから、それを否定する余地はない。
池と山内ばかりを引き合いに出し、外村に対しては一切触れていないが、そこに関しては如何ともできなかった。実際、池・山内の両名と、外村が態度の改善に取り組んだタイミングは明らかに異なるのだから。
ここで外村をも引き合いに出してしまえば、途端に説得力は減り、誘導が失敗してしまう。
「『女子にモテる』という望みが叶わなければ、必然的に池くんと山内くんは不満を持つ。それはDクラスの安寧を崩すことにも繋がる。――そうなった場合、平田くんはどう思うかな?」
「間違いなく悲しむだろうね」
「そうだね。間違いなく悲しむと思う。だけど、事は平田くんの一存だけじゃあどうにもならない。だって、池くんと山内くんの望みは『女子にモテること』なんだから。
もしかしたら、平田くんが女子に頼めば、頼まれた女子は池くんと山内くんのことを褒めそやすかもしれない。――けどそれは、本当に『モテること』になるかな?」
「……ならないと思う。あの二人はバカだから、最初はチヤホヤされることに満足感を覚えるかもしれない。だけどたぶん、ううん、間違いなく、途中で受けられる想いに中身が無いことに気付く。気付かない筈がない」
「そうだね。……そうなった場合、二人の不満はどこに向かうと思う? 誰に向かうと思う?」
「……望みの叶わないクラスと、サクラを宛がった平田くん」
あくまでも推測・可能性に過ぎない。――けれど、決して否定しきれないのが事実だ。
「まず間違いなくそうなるね。だから、篠原さんが真に平田くんのことを想っていて、真に平田くんの助けになりたいのなら、取るべき行動は――献身は自ずと定まってくる。
そう思わない?」
笑みを浮かべて、桔梗は篠原に問いかけた。
「私が、池と山内を満足させればいい。それが、私に出来る、平田くんへの献身になる……」
「うん、そうだね! 今の篠原さんは池くんと山内くんに良い印象を持ってないよね? だからたぶん、ううん、間違いなく篠原さんは凄く辛い目に遭うと思う。
けど、それで池くんと山内くんが満足できれば、それは間違いなく平田くんの助けになるの!
だって、クラスメイトの池くんと山内くんが満足してるんだから、それは平田くんの満足にも繋がるからね!
だから、篠原さんは、精一杯に池くんと山内くんの要望には応えないといけないよ? 応えることが出来なければ、それは二人に不満を抱かせることになり、引いては平田くんを曇らせることになるからね? ――それは、篠原さんの望むことではないでしょう?」
かくして、桔梗は笑顔のままに篠原を地獄に突き落とした。
篠原に対して、『
「うん! アドバイスありがとう、櫛田さん! 平田くんのためにも、私、頑張る! 精一杯、池と山内の要望に応えて満足させてみせる!」
しかし、篠原がその事実に気付くことはない。むしろ、やる気を上げている。
だけど、それで篠原が傷付くこともない。だってそれは、紛うことなき『平田への献身』に他ならないのだから。――客観的にはともかく、篠原にとってはそれが『真実』なのだ。
「うん! 頑張ってね、篠原さん!」
そしてそれを知りながら、やはり桔梗は笑顔で篠原を応援し、地獄の道行きを歩ませるのだった。
正直、善性と悪性を高レベルで使い分けられる桔梗ちゃんの使い勝手が良すぎます。
篠原を故意に貶めているのは事実ですが、その一方で成長を促してもいます。
まあ、退学されて『池たちの相手を務める人材』がいなくなると困るから、というのが最大の理由ですけどね。
また、ホラ吹きの山内に対し、桔梗ちゃんなりの手本も示しています。
『一発でホラと分かるホラに意味はない』。
『ホラか真実か分からないけど、同意できる部分があるのは間違いない』。
『真の誘導とは、相手が考えてその結論に行き着くこと』。
『その上で、肯定して一気呵成に捲し立てる』。
『言葉での誘導ってのはこうやるんだよ!』というのを、山内の眼の前で篠原相手に実践してみせたわけですね。
ぶっちゃけた話、『桔梗が作中最高峰のコミュニケーション能力を持っている』のは原作設定なわけですからね。
である以上、桔梗ちゃんがその気になりさえすれば、この程度の誘導は軽くやってのけるでしょう。
天嶺も『篠原が献身を続ける限りにおいてはポイント支援を行う』ことを明言していますので、理屈の上では一方的な搾取ではないんですよね。
それは、篠原が実際にやった後で『割に合わない』と感じたとしてもです。
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