※この作品はR-18です。

外法ってやつを見せてやろう   作:山上真

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第80話:端的に言って、この国は『オワコン』と呼ばれる状態にあるんだよ……

 何やかんやで乱交パーティーは終わりを迎えたわけだが、天嶺と清隆の夜はそれで終わりではなかった。

 個室に移った後で、パーティー中は行為を控えていた女性陣がひっきりなしに牙を剥いたからである。

 その点で言えば、清隆はまだマシだったが、天嶺の方は大変だった。まさに徹夜のオールタイムである。漸く女性陣の全員が満足した頃には、既に陽が昇って空は白みを帯びていた。

 

「……眠い」

 

 仕事の内容によっては徹夜も珍しいことではないし、天嶺も経験はある。

 だが、今はプライベートであって仕事ではない。昨夜から散々と女を抱いて精を放出しまくったこともあり、いよいよ限界が近かった。

 なので、天嶺はそのまま寝た。――最後に相手をした女子の秘所へ、その肉棒を挿し込んだままで。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 さて。

 誰も彼もが天嶺のように朝方まで起きていた筈もない。

 健全な男子故に性欲を持ち合わせているが、健全な男子を自任するが故に健全なお付き合いの果てに性行為に至る関係を是とする幸村輝彦は、一緒に晩餐会場を辞した姫野ユキと共に同じ部屋にこそ戻ったものの、それで手を出すということもなく、ごく健全にお互いのことを語り合い、ごく健全に一緒に勉強を行い、部屋を分かれて就寝に就いた。

 なお、勉強の場には三宅も同席していた。

 そのため、ごくごく普通に、いつも通りか、やや早いくらいの時間に起床した。

 布団やベッドが変わっても問題なく眠りに就ける者もいれば、大なり小なり影響を受ける者もいる。どうやら、幸村もそのクチだったらしい。

 目を覚ました幸村は、見慣れない光景に首を傾げたものの、覚醒の度合いが深まるにつれて問題なく状況を思い出した。

 

「ああ……。そう言えば、いつもとはまた別の場所に泊まったんだったな……」

 

 呟いた幸村は、寝間着として用意されていた浴衣姿のまま、宛がわれた――正確には、自分で選んだ客室を後にする。

 目指す先は大浴場だ。元々が宿泊施設と用意されたこともあり、それぞれの個室には浴室も備え付けられているのだが、どうせならば大きな風呂に浸かりたいのが人情というものだ。

 昨夜のパーティーの開催時間が後ろにズレ込んだのには、当日になっていきなり業者を手配し、大浴場を使えるようにしてもらったのも一因である。

 なお、業者の手配に関しては理事長にお願いしたとのこと。理事長自身、『新たなクラスメイトと親睦を深めるように』……などと言った手前、断り切れなかったらしい。

 理事長という権力者の依頼ということもあってか、業者は見事に無茶振りに応えてくれた次第である。たとえ普段は使われていなくとも、掃除自体は定期的に行われていたのも大きいだろう。

 

「よお。おはよう」

 

 幸村が廊下に出るのとほぼ同タイミングで、隣室から三宅が姿を現した。

 

「ああ。おはよう」

「何て言うか、『家』として考えれば問題はないのかもしれんが、『宿泊施設』として考えれば、部屋に鍵がないのは違和感が大きいわ……」

「それは確かに……」

 

 幸村と三宅は顔を見合わせ、苦笑を浮かべた。

 二人の言葉通り、この家の部屋には基本的に鍵が付いていないのだ。宿泊施設としては何とも驚きであるが、純和風のお屋敷として考えれば理解も出来るのだから、判断に迷うところだ。

 三宅も大浴場に向かうとのことだったので、一緒に向かうことにした。

 

「しかし、俺とお前は男だからまだマシだけど、女子は大丈夫なんだろうか? 特に姫野とか……」

 

 すぐ横の部屋の障子戸が開いたのは、三宅がそんなことを言った直後だった。『噂をすれば影が差す』と言うが、姿を見せたのは姫野である。

 

「……おはよう」

 

 二人に挨拶を行う姫野の目元にはクマが浮かんでいた。

 

「おはよう、姫野。……クマが凄いが、やはり眠れなかったか?」

「まあ、うん。幸いにして嬌声が聞こえてくるとかはなかったんだけど、やっぱり部屋に鍵が掛けられないってのは不安だからさ。短いスパンで寝ては覚めての繰り返し。休めた気はしないね」

 

 幸村の質問に答えた姫野は、口元に手を当ててあくびを行った。

 まあ、昨夜のパーティーの主旨は『乱交』である。

 元からDクラスだった三宅と幸村には前以て伝えられていたが、移籍組の姫野は違う。である以上、主催者である天嶺に対する信用や信頼が低くて然り。

 互いの合意ありきとはいえ、女子としては不安が大きかったことだろう。

 

「……二人は大浴場にでも行くの?」

 

 一般的な旅館であれば、部屋に用意されたタオルなどを浴場まで持っていくものなのだろうが、ここは――ここに限らず、天嶺が拠点として貸し与えられた『元宿泊施設』は、既に営業を停止して久しい。

 だからといって打ち壊すのも勿体ないため、時折部活の合宿場として利用されているのが実情だった。

 そんな内情だから、利用申請されたタイミングで業者さんが各部屋のタオルや着替え、寝具などを準備し、浴場にも『ご自由にどうぞ』といった態でタオル類を準備。施設の利用後に業者さんが後片付けを行ってくれるシステムだ。

 なので、手荷物から目的地を推測するのは難しいわけだが、状況から類推するのは決して不可能ではない。

 今現在は天嶺に貸し出されていても、やはり基本的な運用システムはそれまでと変わりない。何せ、恒常的に利用しているわけではないのだから。

 

「ちょっと待ってもらっていい? 私も行くから」

 

 二人が返事を返す間もなく、姫野は部屋の中へと戻っていった。

 これでは放置するのも寝覚めが悪いし、待ったところで然程のこともない。

 二人同時に同じ結論に至ったのだろう。幸村と三宅は、再び顔を見合わせて苦笑を浮かべた。

 実際、然程も経たないうちに姿を見せた姫野を加えて、三人揃って大浴場へと向かう。

 しかしながら、道中における姫野の足取りは何とも危うかった。その様子を見れば、姫野が二人に同行を頼んだのも無理からぬことと納得できた。

 途中でこけたり、柱か何かにぶつかっていたとしてもおかしくはない。――二人にそう思わせるには十分だったのだから。

 辿り着いた大浴場前で別れ、幸村と三宅は男湯の、姫野は女湯の暖簾をくぐっていく。

 脱衣所も籠式で、ロッカーの類は見当たらなかった。

 この御時世にしては何とも防犯意識の薄いものだ……。否応なく、二人はそう思わざるを得なかった。

 これが『旧き良き日本文化』だと言われれば、否定できないのも確かではあったが……。

 脱衣所内を見渡した二人は、先客がいることに気付いた。誰かまでは分からないが、籠の一つが使用中であることから先客がいるのは間違いない。

 

「誰だろうな?」

 

 などと言いながら、幸村はそこまで興味があるわけではない。

 

「さて……? しかしお前、風呂にまでメガネ装備か?」

 

 それは三宅も同じだろう。首を傾げた次の瞬間には、風呂に入るにも拘らず装着しているメガネにツッコミを入れてきたのだから。

 

「仕方ないだろう? メガネを外すと本当に見えないんだよ」

 

 そんなやり取りを行いながら、浴場へ続くドアを開ける。

 瞬間、多大な熱気が二人を襲った。

 

(これでこそ温泉というものだな……)

 

 そんな感想を抱きながら、視界が変わらず確保されていることに幸村は安堵の息を吐く。

 メガネの施された諸々の処理は、シッカリと機能している様だった。

 

「ん……? 三宅と幸村か、おはようさん」

 

 大浴場内に足を踏み入れた二人に、声が掛けられた。

 視線を回すと、幾つかある湯船の一つに須藤がゆったりとした様子で身を委ねていた。

 

「須藤か、おはよう」

「おはよう」

 

 二人も挨拶を返し、まずは洗身に向かう。入浴前に体と髪を洗うのは、浴槽を清潔に保つ上で必須のマナーだ。中には『かけ湯』だけで済ませる者もいるが、家風呂ならともかく、大多数が使うような施設では立派なマナー違反と言えるだろう。

 タオルを湯船に入れないのも、雑菌や汚れが湯に入るのを防ぐ上で必要なマナーだ。まあ、これまた守らない者が一定数いるのも事実だが……。

 静かに過ごす=大声を出さないのも同様ではあるのだが、今みたいなちょっとした挨拶でも想像以上に響く場合があるので、塩梅が難しいところだ。

 備え付けのシャンプーやボディソープを用いて全身を洗った後は、漸く入浴だ。

 特に目当ての浴槽もなかったこともあり、何となく須藤と同じ湯船を選んだ。

 それでも、性格の違いや交流の薄さは理解しているので、程々の距離を保つのは忘れない。

 

「お前ら、昨日の食事会場にはもう行ったのか? まだなら行かねえほうがいいぞ」

 

 そんな二人に、なんと須藤の方から声を掛けてきた。 

 

「まだだが、どうかしたのか?」

「どうしたもこうしたもねえよ……。何か摘まめる物でも残ってねえかと見に行ったんだけどよ、臭いは酷えし、寛治や春樹は幸せそうな表情を浮かべながら股間を丸出しで寝てやがるし……。

 女子の姿がなかったのは、ある意味で幸いだったけどよ……」

 

 理由を訊くと、須藤は顔を顰めて答えた。

 

『あ~……』

 

 幸村と三宅は、そうとしか返せなかった。

 何となくではあるが、想像の付く光景だ。

 

「なんか腹が立ったから、換気のために戸を全開にして、あの二人は寝かせたままにしてきた」

「いや、お前……。それはテロじゃないか?」

「知らねえよ」

 

 ドン引きした表情で三宅が言えば、須藤は一言で切り捨てた。

 

「まあ、パーティーの主旨が乱交だったからな。テロと言えばテロだが、ある意味では必要経費だろう。少なくとも、そういう光景が生まれ出る可能性自体は無くはないんだからな。そして、実際にそんな光景が生まれてしまい、須藤が第一目撃者になってしまった……。

 須藤にしてみれば災難だろうが、言葉にすればそれまでのことだ」

「災難のお裾分けか……。配られる側は堪ったものじゃないな……」

 

 そこで、全員が遠い眼をして天井を仰いだ。

 

「あ~、やっぱ起こした方が良かったか?」

「須藤の不快感は想像できなくはないが、その方が他の者たちにとってはありがたかったろうな……」

「あの二人と仲のいい須藤でもその反応なんだ。他の奴らが眼にすれば、今以上に株が下がるのは間違いないだろうな……。

 臭いの問題はともかくとして、大多数が使う場所でそのまま寝こけるのは問題ありだ。挙句の果てには、股間を曝け出したままなんだろう? 流石に平田だってキレるんじゃないか?」

 

 ダチの末路を思ってか須藤が不安げに口を開くと、幸村と三宅は慰めるではなく不安の後押しをした。

 臭いに関しては池と山内だけの問題ではない筈だ。

 大衆が使う場に我が物顔で寝こけているのは、迷惑なのは事実だが、状況を鑑みれば理解を示せなくはない。

 それでも、股間を丸出しにしているのは、流石に擁護できないだろう。

 

「ワンチャン期待が持てるとすれば、逆に性経験が豊富な奴らか……? 経験豊富ということは、普通に考えて、それだけ失敗もしてきている筈だからな。逆に、『仕方のない奴だ……』程度の呆れで済むかもしれない」

 

 不意に三宅が口を開いた。

 その言葉に、須藤と幸村も場面を想像する。

 

「あ~、確かに。九角なんかはあり得そうな気がするわ……。呆れを隠しはしねえだろうけど、鼻で嗤って済ませそうな感じがある」

「それで言えば、綾小路も同様だろうな。腹を立てている様子が想像できない」

 

 須藤が天嶺を例に出せば、幸村は清隆を例に出して続けた。

 

「その二人の場合、池と山内に対するそもそもの期待値が低過ぎるからだろうな……。たぶん、印象が高校生の基準値を大きく下回っているんだ。かてて加えて当人が高い実力を有しているから、『子供の失敗』と笑って済ませられる余裕があるんだろう。

 まあ、九角と綾小路が池と山内に持つ印象がどうあれ、事実として池と山内は高校生だ。だから、その事実を踏まえて呆れを隠さずにはいられないだろうが、怒りを露わにするほどではない。

 もちろん、これについては池と山内がクラス残留を果たしたのも大きいだろうけどな」

 

 三宅の推測に、須藤と幸村は納得したように頷く。

 

「これで俺も中学時代は素行不良だったし、地元の不良共に持ち上げられていたからな……。

 で、アイツ等って時折とんでもねえ馬鹿な真似をしでかすんだよ。けど、後から話を聞いてみれば、そこにはアイツ等なりの確かな理由があるんだ。ただ、学が足りねえから、突拍子もねえ方法になっちまうだけなんだよ。

 そんなアイツ等だって、根気強く付き合って、懇切丁寧に説明して導いてやれば、決して分からないわけじゃないんだ。

 排斥されたから道を踏み外したのか、道を踏み外したから排斥されたのか、その最初の一歩は分からない。

 今の世の中、真面目に学校生活に臨んでいるだけで、周りの生徒からは『お高く留まってる』と思われて、『排斥行動』=『イジメ』を受けることも無くはないからな。

 それに対し、学校側が断固たる態度を取れば、そいつが歪むこともないんだろうが、多くの場合、『喧嘩両成敗』の名の下に一方的に被害を受けた側までもが裁かれる。

 或いは、見て見ぬ振りをするかだな……。

 学校の体面だとか、それぞれの保護者の力関係だとか、いろいろと理由はあるんだろうが、導く側がキチンと導けてないのが最大の原因なんだよ。

 そして、そんな状態を変えることも出来ずにいる国自体が最大の問題だ。端的に言って、この国は『オワコン』と呼ばれる状態にあるんだよ……」

 

 静かに、切々と、三宅は語った。

『元不良』ならではのその言葉は、大浴場内だけではなく、須藤と幸村の胸にも響くのだった。




茶室があったり、華道用の部屋があったり、舞踏用の部屋があったりと、『和の体験空間』や『御屋敷』として見ればあまり問題はありませんが、個室に鍵が無かったりと『宿泊施設』として見れば大いに問題があったという話です。
実はVIP用に緊縛用の部屋も用意されている設定です。

幸村&三宅&須藤という、珍しそうであり得そうな組み合わせで会話させてみました。
いわゆる『不良』に対する、『卵が先か、鶏が先か』問題。
『元不良』という原作設定があるからこそ、三宅に言及させてみました。

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