サイバーパンク:エッジランナーズIF 月は堕ちゆく 作:オクタッシュ
ナイトシティのコーポ・プラザにあるアパートのエントランス。そこへ、場にそぐわないストリート風のジャケットを着た女が1人やってきた。目深に被ったフードからは銀色のアシンメトリーヘアが覗く。金色のプレートを装着したコンシェルジュに用件を告げた彼女はセキュリティゲートを抜けてエレベーターに乗り、指定された部屋の前に立つ。
監視カメラが女を認識してドアが開いた。そして、ホログラムではない本物の竹林を再現したインテリアと、その前で立つ2人の和装の男を見て目を細めた。
「初めまして、ルーシー=サン。ようこそ私共の慎ましい住処へ」
親子ほども歳の離れた2人のアジア人は、両膝に手を添え深々とお辞儀する。日本語の「さん付け」を使う彼らに「故郷」の匂いを嗅ぎ取ったルーシーは、応える代わりにサイバーデッキを起動させた。彼女の両目が赤く明滅したその時、年かさの方の男が笑って右手を上げる。
「それはお控え下さい」
ハッキングを感知したかのような男に、ルーシーはほんの一瞬目を見開く。さりげなく視線を天井の隅、竹林を模した観葉植物の合間に走らせる彼女を見て、男は首を横に振った。
「ルーシー=サン。貴女がその若さに似合わぬ優れたネットランナーであることは存じております。電子戦では到底敵わない。しかし……いえだからこそ、幾重にも予防策を張り巡らせているのです。心より忠告します。今は、攻撃の時ではない」
男が浮かべる柔らかな、しかし抜け目のない笑みに口角を下げたルーシーは肩を竦め、ジャケットの内ポケットから紙の封筒を取り出す。
「今時、こんな古臭い連絡手段を使うなんてね」
「お察しのことと思いますが、ルーシー=サン。私はアラサカ・コーポレーションに勤めております四代タカトミと申します。これは息子のキンゴです」
「……あんたたち「本国」のアラサカには、気に入ってる所がひとつだけあるの。ベタベタ握手を求めないこと。こっちの連中みたいにね」
柔和な笑みを浮かべる男と、ペコペコと頭を下げる若者を、ルーシーは視覚インプラントで調査しつつ冷めた目で睥睨する。キンゴは、彼女が思いを寄せる男の全てをひっくり返したような存在だった。おかっぱ頭に生白い肌、丸々と肥えた身体に、覇気の欠片もない緩んだ笑顔。
「良いわ。もう不意打ちはナシ。あんた達が親子だってことも、詐欺師じゃないってことも、まあ分かった。……彼のこと、何処まで知ってる?」
「デイビッド・マルティネス=クンのことは、カツオ・タナカ=クンが話してくれました。ああカツオ=クンというのはですね、最近御父上を亡くされて……」
「本題に入って」
「お望み通りに」
タナカという名前に目を細めたルーシーが、四代タカトミの「さん付け」「くん付け」に辟易としながら冷たく言葉を遮る。
「彼の、もとい彼のサンデヴィスタンへの特殊な適性を使った実験は、デイビッド=クン自身にとっても、彼を守りたい貴女にとっても望ましくない。そうではありませんか?」
「だったら?」
「もし協力して頂けるのであれば、デイビッド=クンへの追跡を妨害しつつ、彼がインプラントを更新する必要がなくなるよう仕向けることが出来ます」
「……もっと説明して」
突然差し出された、自分の懸念をすべて解決するかのような「魔法の杖」に、ルーシーは腕組みしつつ先を促した。
「アラサカの防諜部門はごく一部の例外を除けば入れ替えが激しい上に、彼らのターゲットは日に日に増える一方。ほんの少しのインセンティブと競争意識を煽るだけで、タナカ=サンのデータに関する調査の優先順位は幾らでも下げられます」
「あんた達幹部なら簡単なことでしょうね。……インプラントの話は?」
「高性能な部品で自分自身を改造するのは、結局のところユーロドルの為でしょう? 私たちならば、低額ではありますが危険が少ない仕事を安定して斡旋できる。それこそ、NCPDスキャナーを併用すれば手堅い利益が出せるはず。違いますか?」
ナイトシティで傭兵稼業を営んできたルーシーは、四代タカトミの言葉に頷く。
「それで? 協力と言っていたけれど、あんたたちのご親切の値段は幾ら?」
「キンゴ、ご説明しなさい」
「はい、父上」
一歩進み出たキンゴが、丸顔に浮かべた笑みをルーシーへ向ける。
「インタラクション機能を搭載した、次世代ブレインダンスのテスターになって頂きたいのです」
「冗談じゃない。誰が……」
軽蔑しきった表情とともに拒否しようとしたルーシーは、不意に言葉を切った。その後、鼻を鳴らして笑みを浮かべる。
「インタラクション機能付きのBDテスターってことは、私から何か操作をしても良いんでしょうね?」
「勿論。むしろ、是非そうして頂ければ」
「分かった。けどアラサカの防諜部門はともかく、依頼の方は今すぐに何かのオファーが欲しいのだけど」
「既に見繕っています。ご査収ください」
口を挟んだ四代タカトミの視覚インプラントが発光し、ルーシーのARモニターに通知メッセージが表示された。男が言葉を続ける。
「便宜上、フィクサーは私ということになりますが、勿論手数料は頂きませんよ。報酬は全て貴女がたの物です」
「……確かに悪くない。良いわ、商談成立」
「素晴らしい! では早速BDヘッドセットを。……キンゴ?」
「はい、こちらです!」
重厚なスーツケースから、赤銅色をした首枷のような機器を取り出したキンゴが、笑顔でそれをルーシーに差し出す。若干顔を顰めつつそれを装着したルーシーは、青い光を放ち始めるヘッドセットに手慣れた様子でアクセスし、デーモンを走らせた。
全てはデイビッドを守るため。アラサカの内輪揉めに乗じつつ、絶対の自信を持つハッキング技能で自分を利用しようとする親子にそれと知られぬよう損害を与える。
「……えっ?」
そんな追い詰められた彼女の思惑とブリーチプロトコルは、即座に活性化したICEによって打ち砕かれた。ハッキングの進捗を表示するARモニターに表示された、格子状に展開するアルファベットと数字の組み合わせ。それが1秒足らずで何万倍にも増殖し、画面を埋め尽くしていく。そしてグリッドが赤く染まり、視界が開けたその時、ルーシーはキンゴと2人きりになっていた。
「何、が……?」
「よし、同期完了です。ところで、ルーシーって処女なんでしょうか?」
「は……?」
「まあ初対面だし、処女ってことにしましょうか」
笑顔のキンゴが和装の帯を解く。そして既に勃ち上がっている黒光りする男根を見て総毛だったルーシーは、咄嗟にモノワイヤーを伸ばそうと手首を返そうとする。しかし身体は動かない。
「何で……っ近付くな!」
「ああ良いですね。そういう感じでお願いします。そうか。凄腕ネットランナーなら、こんな感じで……」
「嫌……嫌だ! ああぁっ!?」
入ってきたドアに背中を押し付けていたルーシー。その身体が彼女の意思に反して動き出し、ドアに両手を突き、キンゴに向かって腰を差し出した。
「どうして、こんな……絶対に思い知らせてやるっ……あんたも、あんたの父親も! クロームをインストールしたことを後悔させてから殺してやるッ!!」
「わあ、最高ですよルーシー! あ、衣装を編集しますね」
「ひっ……い゛っ!? あああぁっ!!」
キンゴがルーシーのくびれた腰を掴むと、レオタードの股布部分が裂けて膣口が露わになる。そこへ何の躊躇いもなく男根が突き立てられた。ぶつん、という膣内の何かが破れるような感覚と衝撃、そしてその何倍もの喪失感に、ルーシーは1人の男を思い浮かべながら瞳を潤ませた。
「あぁっ! いっ……痛、ぁっ」
「良いですね! 強気なセリフからの涙声と強烈な締まりは高得点です。後は感度を弄って、オキシトシンの分泌を……これでどうかな?」
「いぎっ……痛っ……う、あぁっ……」
破瓜の直後にがつがつと腰を突き上げられたルーシーは、キンゴのピストンにスレンダーな身体を震わせドアに爪を立てて脂汗を流す。しかし長くは続かなかった。
「ひっ……痛……あっ! うっ! ……はぁっ……あっ、ああっ」
「気分はどうです? ルーシー」
「最、悪にっ……あっ、決まってるでしょ。んんっ! 痛く、て……んうっ! 気持ち悪くて、んあぁっ!」
肌がぶつかり合う音に水音が混じり、自身の内股を垂れ落ちていく粘り気のある液体を感じながら、ルーシーは息を荒げつつ頭を振る。
「数値はそう言っていないんですが……テスターとして、正直なコメントをお願いしたいです。あ、それともそういう演出をしているんですか?」
「違っ……あぁっ! はあっ! あっ! ……くうっ!?」
背後から突かれてアシンメトリーの銀髪を揺らし、頬を染めるルーシーが歯を嚙み締めた。彼女にしがみ付いて男根をねじ込むキンゴが、左手を前に回してクリトリスを弄る。
「もうすっかり濡れてますし、締め付けもちょうど良いんですけど、本当に気持ち良くないんですか?」
「良く、なんてっ……うっ! くぅんっ……はあぁっ」
「分かりました。とりあえず僕側の調整を優先しますね。5秒後に射精します」
「えっ!? い、嫌っ! やだっ! 止め……」
キンゴが自身の怒張で膣奥を叩き、亀頭で子宮口をくじった次の瞬間、白濁が迸る。身体の深い場所に押し寄せる粘りついた欲望に、ルーシーは身体を震わせた。彼女はそれを嫌悪感の所為だと必死に思い込もうとしたが、床に広がる染みがそれを嘲笑う。
「あっ……あぁっ……嘘……中にっ……デイビッド……私……」
望まぬ相手による破瓜からの膣内射精で味わう快楽。まさしく女性性の蹂躙といっていい暴虐に、ルーシーの頬から涙が伝った。
そして次の瞬間、彼女はドアを背にして立ち尽くしていた。呆然とした表情のルーシーから特製BDヘッドセットを取り外したキンゴが、ヘッドセットに繋いだケーブルの先を自身のこめかみのソケットに差す。腕組みした四代タカトミが息子を見遣った。
「……え?」
「どうだ?」
「完璧です父上。第1回のテストは大成功ですよ」
「おお、やはりネットランナーのルーシー=サンに頼んだのは正解だったなぁ」
呑気に話す親子を見て無意識の内にホルスターへ手を伸ばすルーシー。しかし直前で手を止めた。なぜ自分がそうしようとしていたか忘れたからだ。
「どうされました?」
ケーブルを自身から抜いたキンゴにきょとんとした表情で見上げられ、ルーシーは深呼吸して赤みがかった紫色の視線をずらす。
「……ちょっと気分が悪くなっただけ。試作型のBDなんて、やっぱりロクな物じゃないわ」
「すみません。双方向性のテストを早めに完了させたかったので。次回のテストですが、もう少し長く時間をとって違うシチュエーションでセックスをしても大丈夫でしょうか?」
若干申し訳なさそうに訊ねるキンゴにルーシーの瞳が揺れる。ややあって、アシンメトリーの銀髪を揺らした彼女がわざとらしくため息をついた。
「……それは良いけど、先にあんた達が紹介した依頼を試させて貰うわ。幾ら期待できる情報と言ったって、実際にエディーが入ってこなきゃどうしようもないんだから」
「勿論です、ルーシー=サン。追って連絡させて頂きます」
「ええ、それじゃ」
代わりに応えた四代タカトミの言葉を背に、ルーシーはコーポ・プラザのアパートから出て行くのだった。