サイバーパンク:エッジランナーズIF 月は堕ちゆく 作:オクタッシュ
「ミスター・ファラデー、ひとつお伺いしてもよろしいですかな?」
「何なりと」
紺碧プラザの1階ラウンジでファラデーを出迎え、一番奥の席に通した四代タカトミは、同席したキーウィを一瞥した後言葉を続ける。
「あなたの視覚インプラントだが、いかなる思想の元そのように配置なさったのです?」
「……はっ?」
金刺繡がされた袖のある派手な真紅のスーツを着た複眼のフィクサーは、アラサカの徽章を付けたダークスーツ姿のアジア人相手に気の抜けた声を上げた。
「複眼それ自体の意義は推測できます。死角を減らす為とか。ですがあなたは頭部正面右側に3つ、左側に1つと偏らせている上に、右側の3つは縦に隙間なく並んでいる」
外見上、最低限のインプラントしか搭載していないように見える四代タカトミは、殆ど中身が減っていないファラデーの猪口に銘酒「歌川」を注ぎ足した。
「私にはその優位性が分からない。もし愚鈍で平凡な私が目を4つ持てるなら、やや後ろ寄りの側頭部に2つ付け足して全周囲を見ようとするでしょうな。ですので、ミスター・ファラデーの深遠なるお考えを拝聴したいのです。ご教示頂けませんか?」
「は……」
商談と自分自身の売り込みとで頭が一杯になっていたファラデーは、アラサカ幹部の突然の問いかけに動揺と苛立ちを悟られまいと息を深く吐き出し、猪口を口元へ持っていった。すぐ横のスペースでは、眼鏡をかけた世界的ゲームデザイナーがBDの持つ感情表現の限界について持論を語り、支援者たちがうっとりと聞き惚れている。
グラスをテーブルに置いたファラデーは、にこやかな笑みを浮かべ若干身を乗り出した四代タカトミを見つめ返した。自分のインプラントの位置など、今の彼にとってはどうでも良い。アラサカのハッカー殺しの件で依頼を受け、その下手人が自分の手の中にあると確信した直後に紺碧プラザへの呼び出しを受けた。ほかならぬアラサカ本社の常務が自分との会談を望んでいると聞いた時の高揚感は、今や焦りに置き換わっていた。
四代タカトミの馬鹿げた質問には何か深い思惑があるに違いない。培ってきたフィクサーとしての実績が、ファラデーにそう確信させていた。そればかりではない。思想を知りたいということは、アラサカに迎え入れる用意があることを示唆しているのではないか。サイバーパンクを飼い慣らして儲けを掠め取っていた自分が、遂にコーポの一員として迎え入れられるのではないか。ファラデーの中で高揚感が蘇る。これこそ、またとない飛躍の機会なのだと。息を短く吸い込む。
「……私は常々」
「ああ、いや」
演説を始めようとしていたファラデーを、四代タカトミは片手を挙げて制止する。
「よくよく考えれば不躾な質問でした。どうかお忘れ下さい、ミスター・ファラデー」
「は……」
「お呼び立てしたのは、依頼の件が解決したからです」
「……解決?」
「はい。弊社従業員の損失に関わる問題については解決しました。よって」
四代タカトミの視覚インプラントが点滅し、ファラデーの口座に以前約束されていた前金を2割増しした額のユーロドルが振り込まれる。
「本日はご足労頂きまして、誠に有難うございました」
「なっ!?」
「それではこれにて。お帰りの手配は整えてあります」
立ち上がった四代タカトミが膝に手を当てて頭を垂れた後、ファラデーとキーウィを残してラウンジを後にする。その丸い背中を見送るしかなかったフィクサーが握りしめた手を震わせた。
「……こうもコケにされるとはな」
「けど良かったじゃないか。前からコーポに仲間入りしたかったんだろ? アラサカ本社の幹部と直に話せたフィクサーなんてあんまりいないよ」
「黙れ……!」
悪気のなさそうなキーウィに対し押し殺した声を上げたファラデーは、顔の右半分を手で覆う。指の間で3つの視覚インプラントが忙しなく動き回った。
「良いだろう……あのニヤケ面に、動かぬ証拠を叩きつけてやる」
「何か手があるのかい?」
「とぼけるなよ」
キーウィに顔を近付けたファラデーが声を低くする。
「タナカの件、お前のバックアップはルーシーだった」
「……ふむ」
熟練のネットランナーは、ファラデーの食い入るような目つきを見てマスクに手をやり、考え込むような素振りを見せる。
「お前にも分かっている筈だ。ナイトシティで上に行くには、コーポに入り込むしかない」
「一理ある」
「お前がこちら側だということは知っている。今更下らん仲間意識などに捕われはしないだろう?」
「有り得ないね」
即答したキーウィに、ファラデーはようやく頬を緩めて彼女の肩に手を置いた。
「連絡を待っているぞ」
「ああ」
後ろ手に手を振ったキーウィは、紺碧プラザのラウンジから足早に立ち去った。
――――
「裸に?」
「そうなんだよ。服を着ていない身体のデータを取らないと、BD内で着替えられないでしょ?」
「別に着替えたくなんかない」
「ルーシーはそうかもしれないけど、テスターとしてサービスの拡張に協力して欲しいんだ。ダメかな?」
コーポ・プラザのマンションにて、ルーシーはキンゴを睨みつけた。いつのまにか馴れ馴れしい口をきくようになったアラサカ幹部の息子に不快感を露わにしつつ、彼女は溜息をつく。
「……まあ良いけど、それくらいなら」
「有難う! 助かるよぉ」
「言っとくけど、触ったら切り落とすから」
「ど、どこを?」
「どこでもよ」
縮み上がりながら股間を手で覆うキンゴを横目で見つつ、ルーシーはジャケットとポーチに手を掛け、マンションのソファに投げた。続いてレオタードのファスナーを指で摘まんで一気に引き下ろし、相手を睨みつけながら左右に開く。雪肌と胸の膨らみ、そしてその頂が露わになるや否や、キンゴは手を叩いた。
「うわあ凄い。凄いよぉルーシー」
「何でこれでテンション上がるの? 気持ち悪っ」
「えっ? そうかな。好きな人の裸が見られたら嬉しいでしょ」
「裸くらいで? だってあんたは私に……」
ブーツも脱いでタイツを引き下ろしつつ言いかけたルーシーはふと動きと言葉を止め、右のこめかみに指を這わせる。キンゴのBDに没入する度、自分の中で何かが変えられている気になる。だがその正体は分からず、またこの協力関係が自分たちチームを助ける以上、理由もなく拒絶は出来ない。こめかみを押し揉みながら、ルーシーは首を横に振った。
「大丈夫? ルーシー。頭でも痛いのかい?」
「……あんたの存在そのものが頭痛の種なのよ。自覚ないの?」
「ちょっとは……」
上目遣いのキンゴはそう言いながら、最後の布を取り去ったルーシーへ、両側にハンドルがついた板状のスキャナーを向ける。そして彼女の周りを一周した男は、薄笑いを浮かべて特製のBDヘッドセットをルーシーに差し出した。
――――
「僕の綺麗なルーシー。全部見えてるよ」
「だから、ぁっ……そういうの、気持ち悪いって……んんっ!」
VR空間の中、大きな鏡の前に一糸まとわぬ姿で立ち、両手を突かされたルーシーは、背後から抱き付いて身体をまさぐってくるキンゴを鏡越しに睨みつけた。柄が埋まるまで膣内深くに突っ込まれたバイブ、ジョン・マラコック卿がモーター音と粘着質な水音を立ててうねり、ルーシーの中を掻き混ぜる。
「これ、すごく凝ってるね。虹のイメージなのかな?」
「髪、触るなっ……あ、くっ」
キンゴの手がアシンメトリーの銀髪に伸び、染め分けられた左側の長いひと房に指が触れる。拒絶の声を上げたルーシーを笑うキンゴは、背後から回した手で彼女の乳首をつまみ上げた。
「ねえルーシー? 君は僕が大嫌いだけど、僕は君が大好きなんだ。だから何か、君の喜ぶことをしてあげたいんだよぉ」
「……はっ……ふぅっ」
ルーシーの細い背中と腰に腹肉と男根を押し付けながら、キンゴは彼女の固くなり始めた乳首を摘まみ上げ、クリトリスに中指を押し当てて転がす。バイブの振動とくねりで膣内から掻き出され、内股を伝い落ちるねっとりとした愛液に、ルーシーは歯を食いしばった。
「もちろん……くふふっ! こうして、やることはやって貰うけどね? もっと他の、例えば、君の恋を応援することは出来るんだ」
「何、言って……」
「デイビッドへのアピールは勿論だけど、ライバルの排除だって大事だろ? ほら、ツインテールの子……レベッカっていうんだよね?」
「っ!」
耳元で囁かれたルーシーが、悪寒に背筋を震わせた。
「君たちのことは父上の部隊が監視している。いつ誰が、どこで何をしているかは概ね把握できているんだ。僕も調査結果を見た」
「やめて。聞きたくない」
「君がいない間、レベッカとデイビッドは随分上手くやっているようだよ」
「やめろって言って……んあぁっ!」
バイブの震動と円運動が強化され、頬を染めたルーシーが大鏡の前で甘く囀り、身を捩る。自分の方へ突き出された張りのある尻を撫でながら、キンゴは彼女の膣内を掻き混ぜる玩具を掴んだ。
「これって不公平じゃないかい? デイビッドを守りたい君はたった1人で僕に協力しているのに、当のデイビッドは他の女と仲良くしているんだ。君の努力が、君の成果が、チームメイトに盗まれているんだよ」
「違う! そんなこと……あっ! はあぅっ……んんっ!」
クリトリスに押し付けた中指を左右に動かして刺激しながら、愛液まみれのバイブを出し入れするキンゴ。行為に馴らされていく自身の意識を恨めしく思いながら、ルーシーは熱い吐息と共に男の言葉を否定する。
「ルーシー、君はもっと正しく評価されるべきだよ。少なくともライバルとは負担を分け合うべきだ。ね、そうだろう?」
「あっ! ……ああぁっ!」
バイブの角度を変え、反り返った部分でクリトリスの裏側を重点的に刺激しながら、にやけ面のキンゴは身体を震わせ快楽に耐えるルーシーに囁き続ける。
「僕としても、BDのテスターは多いに越したことはない。君のちょっとした協力があれば、レベッカも此処へ呼んでこられる。そうすれば、デイビッド争奪戦の環境が少しでも公平に近付くじゃないか。お互いにとって悪い話じゃないだろう?」
「くうぅっ」
一度奥まで突っ込んだバイブを引き抜いた男が、濡れ光りながら蠢く玩具と、泡立つ愛液を垂れ流す半開きの肉穴を見下ろして舌なめずりする。そして脚を開いて鏡に両手を突き、荒い呼吸を繰り返すルーシーの美貌を鏡越しに覗き込んだ。
「返事を聞かせてくれるかい? ルーシー」
自信に満ちたキンゴの薄笑いを鏡越しに見返したルーシーは上半身を倒し、彼に向って腰を突き出した。
「……あんたにとって、女は人間じゃないんでしょ? ただの穴。気が向いた時にチンポを突っ込んで射精するだけの肉便器。レベッカの話を持ち出したのだって、使い心地の違うオナホールを試したかっただけ。違う?」
声を低めたルーシーが続ける。
「それはこっちも同じ。私にとってあんたはただの棒、ただの金蔓」
「ルーシー、僕は……」
「偉いパパに甘やかされたお坊ちゃんは知らないだろうけど、ナイトシティの傭兵はキツい仕事なの。それに比べれば、こんなジョイトイの真似事なんて負担でも何でもない」
快楽に頬を上気させた彼女は肩越しにキンゴを振り返った。
「アラサカに関わった時点でこうなることは分かってた。あんた達の監視から逃れられるなんて思ってないわ。でも覚悟はしておいて。もしあいつらに何かあったら……全部台無しになったって、滅茶苦茶にしてやる」
目を細めたルーシーの笑みに、ずっと薄笑いを浮かべていたキンゴが息をのむ。
「レベッカに手は出させない。あんたのオナホールはこの私だけよ」
「さ……」
鏡に映る太った男は、震える手でルーシーのくびれた腰を掴んだ。
「最高だよぉ、ルーシー」
「ぐっ! ……ん゛うぅっ」
キンゴの長い肉棒で濡れた割れ目を広げられ、奥まで征服される感覚に、ルーシーは鏡に突いていた両手を握り締めて項垂れ、冷たげな美貌を銀髪が覆い隠した。バイブとは比べ物にならない長さと熱と肉感に、繋がった場所から新たな愛液が溢れ出て床の水たまりを広げていく。
「君は素晴らしい人だ」
「うぅっ!あっ! あぁっ! んっ!」
キンゴの腰がルーシーの尻に打ち付けられる度、膣口から愛液が飛び散る。まだ3回目だというのに、嫌悪感しか抱かない相手だというのに身体がしっかり反応し、無意識の内に腰を振り返してしまうことに羞恥と屈辱を覚えたルーシーは、鏡に映った男を睨みつけた。
「僕は君を尊重する。君がノーと言っている間は、僕は君としかセックスしないよ。君だって乗り気のようだし」
「はあ゛っ、黙って……さっさと、出しなさいよっ」
キンゴに犯される度に外も内も敏感にされてしまうルーシーが上ずった声で言うと、男は不意に彼女の両腕を掴んで、手綱のように自分の方へ引き寄せた。
「ちょっと、何っ……ひあぁっ!?」
立ちバックの姿勢で両手を引かれたルーシーは、愛液が湧き出し続ける膣内に深々と突き刺さる男根に目を見開いた。肉厚の亀頭で子宮口を突き上げられ、甘い悲鳴を上げる。そして、鏡に映る自分の顔を見てしまった。まるで最愛の人と交わっているかのような、媚びて蕩けた顔を。そう認識した瞬間、かつてない快楽がルーシーを襲う。キンゴの肉棒を飲んだ割れ目がきつく締まり、陰唇から飛沫が上がった。
「代わりに、君を徹底的に僕好みに仕込んであげる。もっとも……こっちが努力をしなくたって、自分から変わっていっているようだけどね」
背後から貫かれるルーシーには言い返す余裕さえなかった。レイプ同然のセックスに付き合わされている筈なのに、快楽は高まり続ける。大嫌いな男のモノで突かれ、拡げられる女の場所からはこんこんと蜜が湧き出し、憎まれ口を叩かなければならない唇からは意味を為さない嬌声しか生まれない。
「気持ち良いんだよね? ルーシー。イきそうなんだ。そうでしょ?」
あんたのBDの所為だ、とルーシーの理性は言う。最初の時のように、外部から何かのパラメーターを弄ったんだろう、と。しかし口には出せない。本能が恐れているからだ。もしキンゴの気に沿わないことを言って、この快楽が終わってしまったらどうしよう、と。
「ルーシーをイかせるのはこれが初めてだね。イく時はイくって言うんだ。良いね?」
冗談じゃない。そう言うべきだったルーシーの唇は閉じたまま、鏡越しにキンゴへと頷く。途端、抽送が一層激しさを増して小刻みになる。膣内で男根が膨れ上がるのを感じた。射精される。自分の身体で気持ちよくなった男が、自分の中に欲望を迸らせようとしている。その考え自体が新しい快楽を生み、ついに決壊した。
「ああぁっイくっ! イっく、ううぅっ!!」
「出すよっ」
かつて面白半分に数秒間視聴したポルノ映画の女優そっくりなセリフを叫び、ルーシーは背後からキンゴに抱き竦められる中全身を痙攣させた。殆ど同時に膣内で粘りつく熱の塊が弾け、無意識のうちに腹筋に力を込めて自身を征服した肉棒を締め付け、精液を搾り取る。両脚が震えて倒れそうになるも、キンゴの両腕と勃起した男根がそれを許さない。
「くふふっ! 僕のルーシー、僕だけの……」
ねっとりとした口調で独占欲を露にする男に抱かれたまま、ルーシーは半開きの口から震える吐息を零し、時折快楽の余韻に震えながら、大嫌いな男に汗だくの身体を任せ切っていた。