サイバーパンク:エッジランナーズIF 月は堕ちゆく 作:オクタッシュ
「ルーシー……なあ、ルーシー?」
「っ!」
2度名前を呼ばれ、銀髪を波打たせたルーシーは弾かれたように隣のデイビッドを振り返った後、自分が何処にいるか確かめるように周囲を見回す。木目調の床材と、そこに敷かれた大きなカーペット。ソファに、大画面のテレビ。馴染み深い我が家に、ルーシーは身体の力を抜いて息を吐きだした。彼女の顔を覗き込んだデイビッドが、気づかわしげに眉根を寄せる。
「平気か?」
「うん。ちょっと考え事してただけ。ほら、これからフィクサーに会うから」
「……ずいぶん気軽に呼びつけるよな、そいつ」
「コーポの重役の息子だからね。人を顎で使うのに慣れてるんでしょ」
軽く返事をした後、ルーシーの冷たげな美貌が強張る。四代タカトミとキンゴを混同した上に、何を犠牲にしても守ると決めた男に必要のない情報を渡してしまった。彼女の心配通り、デイビッドが身を乗り出す。
「そうだったのか? コーポって、どの?」
「分からないわ。データが手に入らなかったの。直接聞くわけにもいかないし、余計な調べ物はリスクにもなる。自称コーポ重役の単なる成金ってのも有り得るから」
「そりゃそうだろうけど……でも息子ってことは男だし、直接会うんだよな? もしフィクサーだからって無理言ってくるなら、俺も一緒に……」
「駄目よ!」
自分で考えていた以上に大きな声を出してしまったルーシーは、言葉を遮られたデイビッドにかぶりを振ってみせる。
「あんたは短い期間で有名になり過ぎた。インプラントへの耐性の高さだって何人にも知られてる」
そこまで言った後、ルーシーは次に言う言葉を整理した。まさかデイビッドの情報を守るためにアラサカのネットランナーを始末していたとは言えないが、相手が危険な状況に置かれているということは自覚して貰いたかった。軽く息を吸って、デイビッドの目を見る。
「これ以上目立たれたら、私たちまで危なくなるわ。だから交渉は私に任せて」
「……そっか」
力無く頷いたデイビッドは、強化された体躯を俯かせる。そんな彼を見て微笑んだルーシーは、デイビッドの肩に手を置いた。
「そういうとこ、変わってないね」
「そういうとこって?」
「自分のことは心配になるくらい無頓着なのに、他人の話になるとそうやって飛び出そうとする」
「ルーシーは他人じゃない。レベッカも、キーウィも」
デイビッドがルーシーを真っ直ぐに見返した。
「だから俺、決めた」
「え?」
「クロームのことだ」
一呼吸置いた後、デイビッドは大きく頷く。
「外すことは出来ないけど……この間みたいな仕事が続くようなら、負荷の低いやつにダウングレードする。もう、プランは作った」
彼の言葉にルーシーが息を呑む。
「デイビッド……!」
「正直これが良いことかどうかは分からない。俺はまだ何も出来てないし、メインに言われたことだって覚えてる。まだ走り続けなきゃって思ってもいる。けど」
苦笑いしたデイビッドが頬を掻いた。
「自分に付いてくる人たちを振り返れっていうのは……あれは、効いたよ」
「安心して、デイビッド。後悔はさせない。絶対に」
声を震わせたルーシーが、デイビッドの手を握って頷く。
「約束するわ。しばらくはこの間みたいな仕事が続く。今日フィクサーの所に行くのだって、それを確実にする為なんだから」
「そうか。でも重役の息子ってワガママっぽいし、もしそれで……」
先ほどの決意に満ちた表情から一転、視線を彷徨わせるデイビッドに、ルーシーは口角を吊り上げた。
「ふーん、そういうこと?」
「何が? どういうこと?」
「そっちの心配をしてくれてたんだ、デイビッドは」
人差し指で相手の額を突いたルーシーが、ソファに片膝をついて彼と距離を詰める。一気に顔が近づき思わず身を引くデイビッド。
「あ、いや違っ」
「大丈夫。だってあいつパパに甘やかされ放題でナヨナヨしてるし、太ってるし、背も私より低いくらいで、デイビッドと張り合うなんて絶対無理。一発殴られたら1日中部屋の隅でシクシク泣いてそうな感じ」
「そ、そういう心配はしてないよ! たとえルーシーが……万一、そいつとその……そうなったって俺は……お、応援するから!」
インプラントで造られた強靭な肉体で忙しなくジェスチャーしつつ離れようとするデイビッドの顎を、ルーシーの指が捉えて持ち上げ、愛おし気に頬を撫でる。赤面する彼の瞳の中に自分の姿を見つけたルーシーが目を細めて笑いかけ、唇が触れ合う寸前まで更に顔を近づけた。スレンダーな身体がデイビッドの分厚い胸板に押し付けられる。
「ね、デイビッド。もし良かったら……」
思いを寄せる男に跨り、頬を両手で包んだルーシーが一拍置いて言葉を続ける。
「あいつと会う前に、ね?」
「会う前に……な、何?」
互いに互いの息遣いを感じる中、デイビッドの声が上ずる。そしてごつい両手がルーシーの細身を抱き寄せようとした時、彼女は吹き出した。
「冗談よ」
「なっ……ったく。行くなら早く行って来いよ」
「はいはい」
ソファから降りたルーシーがデイビッドを振り返る。彼はわざとらしく腕組みした後、笑顔を作った。
「早く行ったら、早く帰ってこられるかもだろ?」
「ええ。……またね、デイビッド」
軽く手を振ったルーシーは部屋を出て、閉まったドアに凭れ掛かり、自身の唇を指でなぞった。
――――
「くふふっ、良い眺め」
次世代BDが造り出す仮想空間の中で、全裸でベッドの端に座ったキンゴの薄笑いを、彼の前に跪いたルーシーが睨みつけている。今日は彼女が身に着けているのはランナースーツ機能付きのレオタードではなく、黒光りするエナメル生地のボンデージ衣装だ。白い肌を締め上げる衣装は乳房を際立たせ、股間はハートの形に大きく切り抜かれている。重厚な首輪と手枷、足枷にはテープライトが巻かれ、照明を弱めた薄暗い部屋の中、全裸よりも卑猥な格好をしたルーシーの肉体をぼんやりと浮かび上がらせていた。
「この間、ジョイトイの真似なんて大したことないと言っていたからね。格好も合わせて貰ったんだ。どうだい、ルーシー? 僕のデザインは」
「悪趣味ね。童貞の夢をそのまま突っ込んだみたい」
「でも違和感はないでしょ? 普段からあんなにエッチな恰好してるし。あれって、やっぱり男を誘惑してるんだよね?」
キンゴの自信たっぷりな問いかけに、跪いたままのルーシーは眉間に皺を寄せ、無言で嫌悪感を露わにする。腹をゆすって笑った重役の息子は、ルーシーを見下ろして舌なめずりする。
「まあ良いや。僕は理解があるからね。好きな子が開放的な性格だって許しちゃうよ。それじゃあ、今日はキスをして貰おうか。愛情たっぷりにね」
「……っ」
キンゴの要求にルーシーは表情を曇らせた。出かけ際の、デイビッドとの会話。あの時、冗談めかして身を引いていなければ、と。小さく頭を振った彼女はベッドのシーツに手を突いて身体を起こし、キンゴに顔を近付ける。
「ああ、待った!」
相手の分厚い唇を見て瞼を震わせ、覚悟を決めかけたルーシーが紫色の目を瞬かせる。
「幾ら何でも、他に好きな男がいる女の子にキスしろっていうのはやり過ぎだったね。撤回するよ」
「……そう」
「代わりにチンポをしゃぶって貰おうかな」
にやつくキンゴの言葉に、ルーシーは身体を強張らせた。大嫌いな男の性器を口に含んで奉仕する。そんな屈辱的で淫らな行為の要求に、長い睫毛が揺れた。
「どうしたのかな? ジョイトイなら出来て当然でしょ? 分からないってことないよねえ? デイビッドにだってしてあげてるんでしょ?」
「うるさい!」
「まぁまぁそう怒らないでよぉ。デイビッドとの暮らしが上手く行くかどうかは、僕の父上次第なんだからさ。彼との幸せな生活を続けたいんでしょ? なら僕の要求には答えたほうが……」
「……ゲス野郎」
吐き捨てるように言った後、ルーシーはキンゴの薄笑いから、反り返っている黒ずんだ長い男根へと視線を移す。仮想世界で幾度も自分を犯したそれは、忘れようもない雄の匂いを放っていた。こんなのは何でもない。単なる変わり種のBDでやる、悪趣味なおままごとでしかない。自分にそう言い聞かせたルーシーはきつく目を閉じ、肉棒の裏筋に顔を寄せた。
「おほぉっ」
デイビッドとキスしそびれた唇でキンゴの男根に口付けたルーシーは、相手の間抜けな声を聞きながら肉棒のあちこちへ唇を押し当てる。目をつぶったままなので唇には勿論、鼻先や頬にも男根が当たり、その度にキンゴから受けた凌辱を思い出す。身体の自由を奪われた状態で犯されたこと、挿入と射精をせがむ言葉を言わされたこと、そして鏡で自分の痴態を見せられながら、絶頂するまで指と玩具と男根で嬲られたこと。
「っ!?」
「……へへ、なるほどぉ。ルーシーにはこっちの才能もあるようだ」
肉棒へのキスを繰り返し、下腹部が熱くなっていくのを感じたルーシーを見下ろし、心地よさそうに鼻を鳴らしながらキンゴが言葉を続ける。
「データを介して相手に影響を与えるって意味では、これも一種のハッキングだからね。ICEへの対応能力が、ここでは身体の敏感さになるってわけか」
「んぁっ……馬鹿なことをっ……」
一刻も早くキンゴを満足させて終わりにしようと、裏筋を舐め上げ鈴口をくすぐったルーシーが、玉袋を揉みながら相手を見上げて睨みつけた。そんな彼女の背後にぽっかりと黒い穴が開く。
「君の感じやすさもオマンコの具合も、ネットランナーならではってことだよ。そういう意味じゃ僕ら、こっちの世界での身体の相性は抜群だね」
「そんなわけないでしょ。誰があんたなんかと……っ!?」
自身の太股に何かが触れて総毛だったルーシーは、慌てて背後を振り返った。黒い穴から現れたぬめる触手が、彼女の股間に向かって這い上がる。
「ひっ」
「くふふっ! 大丈夫だよ、ちょっと変わった形のバイブみたいなものさ。折角BDの中に居るんだから、工夫をしないとね」
「やめて! 気持ち悪……あぁっ!」
3本の触手がルーシーの局部に伸びる。1本目はクリトリスに吸い付き、2本目は割れ目をなぞって膣内への侵入を試み、3本目は肛門にぬめりをまぶした上で腸内に入り込もうとする。
「そこ、嫌っ……!」
「平気だって。嫌だ嫌だと言いながら僕のチンポでイったでしょ? きっとアナルも気に入るよ。さあ、息を吐いて力を抜いて?」
「ふ、うぅっ……ぐっ! あ゛はぁっ……うう゛っ!」
触手自体が纏う粘液と、クリトリスと膣口への愛撫で身体の力が抜けていた所に肛門を貫かれ、ルーシーの見開かれた目が潤んだ。デイビッドにも許していない穴に入り込まれ、弄ばれる恥辱と汚辱感に歯を食いしばり、涙目でキンゴを見上げる。
「ふひっ! 良い顔するねぇルーシー。けどチンポの世話も忘れちゃいけないよ? さもないと、朝まで僕とこうしているハメになるからね」
「……っ!」
「おっほほ! そうそう、頑張ってね」
勃起した男根を頬張ったルーシーが、相手を睨みつけながら唇と頬の内側で扱き始める。まるでそれと呼応するかのように触手で掻き混ぜられる膣内から愛液が溢れ出し、後ろの窄まりを出入りする触手の動きもスムーズになっていった。
「流石優秀なネットランナー。飲み込みが早いね。自分の役目を良く分かっている」
「んっ……んん゛っ! っふ……」
「君はこれからもずっとこうして生きていくんだ。デイビッドの為に、仲間の為に、BDの中で男に抱かれ続ける。それこそが、皆が幸せになるための道なんだよ」
「んも゛っ……ん゛っ!」
猫なで声で言い聞かせるキンゴに髪を撫でられたルーシーは、眦を吊り上げながらも頬に涙を伝わせ、薄紅のアイメイクが滲む。男根を口内で扱く音と触手が前後の穴を出入りする音が合わさり、薄暗いベッドルームが熱と湿り気で満たされていく。
「くふふっ! 気持ち良いよ、ルーシーの口マンコ。……全部飲んでね」
「ん……ん゛っ!? ん゛うぅっ!」
ルーシーの銀髪を撫でていたキンゴが不意に彼女の頭を押さえつけて、口内の奥めがけて射精する。亀頭で喉奥を突かれたルーシーは流し込まれる欲望に目を見開き、言いなりになって白濁を嚥下する他ない。やがて放出が終わり、満足げに笑うキンゴが手を離した。
「ふーっ、ごめんごめん。興奮し過ぎちゃったよ」
「ぷはぁっ! ゲホッゲホッ! ……うえ゛えっ」
「酷いなぁ。そんな汚いものみたいに」
解放され、両手を床に突いて激しくえずくルーシー。触手が引いていき、愛液で濡れた膣口と半開きの肛門がヒクついた。
「オマンコにも上の口にも出せたし、後少しで君の全てをモノに出来そうだね」
「っ! ……これで、気が済んだでしょ?」
キンゴの物言いに嫌悪感を覚えて身震いしたルーシーが、ふらつきながら立ち上がる。
「そうだねぇ。もう結構な時間だ。君とデイビッドの幸せを壊したくない」
「どの口が……!」
「僕は本気だよ、ルーシー。少なくともアラサカのネットランナーを殺しつつ、決して諦めない防諜部門から逃げ続けるよりマシさ。そうは思わないかい?」
その問いにルーシーは沈黙をもって答えた。しばらくした後、キンゴが笑う。
「合意に至れて嬉しいよ。尤も、現実世界の君とBDの中の君との間にはまだ認識のずれがあるんだけどね……」
ARモニターでコンソールを呼び出し、ルーシーのデータを退室させながら男は続ける。
「ただ、それもいずれ解決するさ」
意味深な言葉を無視したルーシーの前に光が飛び散り、次の瞬間、彼女の意識はコーポ・プラザのアパートにあるベッドで覚醒した。頭にまとわりつく不快感に顔をしかめた彼女から特製のBDヘッドセットを外した全裸のキンゴが手を差し伸べる。
「具合はどう? ルーシー」
「相変わらずよ。嫌な感覚」
差し出されたキンゴの手を取って上半身を起こした一糸まとわぬルーシーがベッドから降り、服を着ないままオープンキッチンのカウンターに置かれたカップを手に取る。
「ねぇキンゴ。この次世代BDって何の役に立つわけ?」
「よくぞ聞いてくれたね。事業計画は2段階に分かれていて……」
「やっぱり良いわ。長くなりそう」
「……今のところ、安全性と、いわゆる生っぽさの両方を求める富裕層向けサービスとして開発中なんだ」
「ふうん」
めげずに説明するキンゴをさして興味なさそうに見遣ったルーシーが湯気を立てるコーヒーを飲む。
「何やってるかは、あんまり覚えてないんだけどね。セキュリティソフトの効果か何か?」
「そんな所だ。気になるかい?」
「別に。アラサカのプロジェクトなんて、利益よりもリスクの方が大きいし」
「賢明だね。そういえばデイビッドとの仲はどう?」
「あんたに言う必要ある?」
背後から肩を抱くキンゴに、ルーシーが煩わし気な視線を送った。その後男の手を軽く払いのけ、置いてあった服に手を伸ばす。
「もう帰るわ。パパによろしく伝えといて」
「……またね、ルーシー」
自分を一顧だにせずレオタードを身に着けブーツを履くルーシーを見て、キンゴはにんまりと笑った。