「くそっ、やっぱりコーディネイター専用のOSは身体に合わねぇな……!」
奪い取ったジンスナイパーカスタムのコックピットで、イオ・フレミングはマニュアルのモニター表示を睨みつけながら操縦桿をギクシャクと動かしていた。ナチュラルには極めて扱いづらい繊細な反応とインターフェースに悪戦苦闘しながらも、なんとかワイヤーで曳航する機体をコントロールし、イオは母艦へと針路を向けた。
だが、命からがら帰還を果たした母艦のハンガーを待っていたのは、あまりにも凄惨な現実だった。
暗礁宙域の死角からの精密な狙撃により、出撃した25機のストライクダガーカスタム隊のうち、実に10機が大破、12機が中破。五体満足で無事に残ったのは、わずか3機という壊滅的な打打撃を受けていたのだ。
「ふざけやがって! なんだあの狙撃は! 俺たちの仲間が何人死んだと思ってんだ!」
「全滅しなかったのが奇跡だぞ! これでどうやってヤキン・ドゥーエを制圧しろってんだよ!」
暗いハンガーには、生き残った部下たちの怒りと悲痛な叫びが渦巻いていた。あまりの被害の大きさに殺気立つパイロットや整備士たち。その最中、突如として艦内に凄まじい警報音が鳴り響いた。
『緊急警報! 本艦に向かって敵MS1機が急速接近中! 識別、ザフトのジン!!』
「何だと!? まだ追撃が残っていたのか!」
生き残った「虎の子」である無傷の3機のストライクダガーカスタムが、即座に再出撃のため武器を構えようとする。ブリッジの艦長も緊張に顔をこわばらせ、迎撃命令を出そうとした。
だが——接近してくるジンの通信波線から、突如として激しく弾けるようなフリージャズの旋律が漏れ聞こえてきた。
「……待て! 敵じゃない!」
メインコンソールを操作していたコーネリアが、即座に叫んだ。
「このジャズは……イオだ! イオが敵の機体を奪って戻ってきたんだ!」
コーネリアはすぐさま通信を開き、イオ・フレミング本人、そして艦長と、緊迫していた虎の子の3機のストライクダガー隊へ状況を伝達した。
『全員、射撃を中止しろ! 接近してくるジンはイオの鹵獲機だ!』
緊張が霧散し、驚愕へと変わる中、滑り込むように1機のジンスナイパーカスタムが母艦のハンガーに着艦した。
ズシン、と足音が響くと同時に、待機していた整備班と解析班が一斉に群がった。敵の最先端狙撃機の構造、データバンクに残された敵の位置情報、暗号通信、武器のスペック、そして機能を根こそぎ洗い出すため、熟練の作業員たちが手際よく装甲の分解とデータ抽出作業に取りかかる。
「へっ……手荒な運転で悪かったな」
ハッチが開き、コックピットからイオが軽やかに降り立った。
タラップを降りた先、通路の途中で待ち構えていたのは、凛とした表情を浮かべた幼馴染の女性副艦長だった。
「無事だったのね、イオ。……相変わらず無茶ばかりして」
安堵と呆れを混ぜ合わせたような彼女の視線に、イオは軽薄に肩をすくめてみせる。
「あいかわらず心配性だな、副艦長さん。お望み通り、最高の土産を持ち帰ってやったぜ」
「まったく、あなたのそういう身勝手さには昔から肝を冷やされるわ。でも……帰ってきてくれてよかった」
幼馴染らしい距離感で短く言葉を交わすと、イオは作業の手を止めてこちらを見ていた親友のコーネリアのもとへと歩み寄った。そして、ポケットから先ほど借りたティッシュの箱を取り出すと、コーネリアの手元へ差し出した。
「ほらよ、コーネリア。助かったぜ」
「……たく、敵機を1機分捕って帰ってくる男が、真っ先にやることがティッシュの返却かよ」
コーネリアは呆れ果てたように笑いながら、それを受け取った。
「俺は自分の部屋で少し休ませてもらうぜ。次の『演奏』の出番が来たら呼んでくれ」
冷めやらぬ戦場の興奮を胸の奥に押し込めながら、イオは不敵な笑みを残し、静かに自分の部屋へと足を向けるのだった。
自室のベッドで身体を休めていたイオだったが、急報のブザーによってその短い急速は終わりを告げた。
「イオ・フレミング大尉、直ちに第一ブリッジ横の士官会議室へ向かわれたし。艦長および副艦長がお待ちだ」
身づくろいを整えて会議室へ向かうと、そこには険しい表情を浮かべた艦長と、凛とした佇まいの副艦長が待っていた。部屋に入った瞬間、副艦長が端末のホログラムを操作しながらイオに向かって告げた。
「待たせたわね、イオ。急な呼び出しで悪いけれど……あと15分後に、月面のダイダロス基地から当艦へ『新型』が直接搬入されることになったわ」
「新型だと? この期に及んでか?」
「ええ。本来なら、あなたより階級が上の熟練エースがパイロットとして着任する予定だったの。でも……先ほどの暗礁宙域での狙撃で、受領予定だったパイロットが戦死してしまったのよ。だから、生き残りで最も高い戦果を挙げているあなたに白羽の矢が立ったというわけ」
艦長が深いため息をつきながら言葉を継ぐ。
「機体の名は——フルアーマーガンダム。地球連合軍が極秘裏に開発を進めていた、対要塞用の決戦仕様機だ」
「ガンダム、ねぇ……ハッ、そいつは面白そうじゃねぇか」
イオはニヤリと口の端を吊り上げると、副艦長と共に搬入カタパルトのある特設ハンガーへと向かって歩き出した。無機質な通路を進みながら、副艦長は隣を歩くイオに視線を向ける。
「ねえ、イオ。さっき渡したティッシュ、本当にコーネリアに返したの? あいつ、呆れ顔で作業に戻っていったわよ」
「おう、借りたものは返す主義なんでね。それより副艦長さん、アンタこそ顔色が悪いぜ? いくら幼馴染の俺がガンダムに乗るからって、そう心配すんなよ」
「心配しないわけないでしょう。……あ、コーネリア」
通路の先、特殊ハンガーの入口で待っていたのは親友のコーネリアだった。副艦長は二人を促し、重厚なセキュリティドアの先へと招き入れる。
「二人とも、よく聞いて。今回の作戦目的は、当初のヤキン・ドゥーエ内部への直接制圧から変更されたわ。メインの目的は、ザフトの最終兵器——『ジェネシスの破壊』。そして、それを阻む**『敵スナイパー部隊の正確な位置の特定と排除』**よ」
重々しく語る副艦長の言葉に、コーネリアが眉をひそめる。
「作戦の変更……? ブリッジの独断じゃないな」
「ええ。あの『ブルーコスモス』——ムルタ・アズラエル氏からの直々の緊急指令よ。あの男、ジェネシスの存在を極度に恐れているわ。何としてでも我々の手で打ち砕け、とね」
話しながら辿り着いた特設ハンガーのシャッターが、重厚な音を立てて持ち上がった。
そこに鎮座していたのは、濃紺と深いグラファイトに彩られた、重装甲と圧倒的な武装を全身に纏った巨大な鋼鉄の巨人だった。増設された多重装甲、背部にそびえる巨大な推進ユニット、そして圧巻の火力を予感させる数々の兵器——。
「……へっ、これがフルアーマーガンダムか」
その禍々しくも美しい雄姿を目にした瞬間、イオの瞳に狂気と胸の高鳴りが宿った。背筋を電気のような衝動が駆け抜け、全身の血が激しく湧き立つ。
「最高じゃねぇか……! これなら、あの狙撃手どもも一網打尽にできる!」
「気に入ったみたいね。急いでパイロットスーツに着替えて。時間が足りないわ」
イオは高揚感を抑えきれないままパイロットスーツを身に纏うと、タラップを駆け上がり、フルアーマーガンダムのコックピットへと滑り込んだ。追ってコンソール側に乗り込んできたコーネリアが、迅速にOSの初期化を行っていく。
「イオ、安心しろ。OSの基本操作系は、お前が乗り慣れてる通常のストライクダガーとほぼ同じにプリセットしてある! 違和感なく動かせるはずだ」
「助かるぜ、コーネリア! ついでに頼みがある」
イオはコンソールの一角を指差した。
「ジャズのオーディオセットとスイッチの接続、それと主砲のビームチャージを最優先で頼む! あのノリノリのジャズがねぇと、俺のエンジンがかからねぇ!」
「まったく、相変わらず無茶ばかり言いやがる……!」
コーネリアは素早い手つきで配線を割り込ませ、ビーム兵器のジェネレーター出力を限界まで引き上げると、オーディオのスイッチを強引にメインコンソールと同調させた。
次の瞬間——コックピット内に、前回の比ではないほど激しく、狂暴に躍動するフリージャズの旋律が爆音で響き渡った。重厚なドラム、暴走するベース、サックスの鋭い叫びが、イオの細胞ひとつひとつを覚醒させていく。
「よし、セット完了だ! 行ってこい、イオ!」
コーネリアがタラップへ飛び降り、ハッチが重々しく閉じた。
フルアーマーガンダムの巨大な足音がリニアカタパルトの上にセットされる。全身のジェネレーターが猛烈な咆哮を上げ、四条のメインスラスターが蒼い光の濁流を吐き出し始めた。
『フルアーマーガンダム、発進準備完了! カタパルト、オールグリーン!』
爆音で響くジャズのリズムに合わせ、イオは操縦桿を握り締め、不敵な笑みを極限まで深めた。
「イオ・フレミング、フルアーマーガンダム——出る!!」
閃光と共に解き放たれた重装甲の巨躯は、暗黒の宇宙へ、そしてジェネシスと死神の待つ激戦の渦中へと突き進んで行った。
CE版フルアーマーガンダム
大型モビルスーツであり、アズラエルが作ったエクステンデッド専用だったが、戦果を挙げれず、OSを変更し一般兵用にしたものであり、武装は背部ミサイルコンテナ、全身に追加装甲であり、装甲の下はPS装甲であり、追加装甲にはミサイルが両肩、胸部、脚部にあり、両腕部にはビームキャノンが2つずつ、そしてソレを隠すように、シールドが2個あり、サブアームもあり、そこにはシールドを着けていて、腰部にはビームサーベル、背部に、ビーム砲を搭載している