※この作品はR-18です。

ガンダムSEED Thunderbolt   作:ナラティブ

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新たなる用意

激動の第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦は、誰もが予想しなかった形で唐突な幕引きを迎えた。

ザフトの創り出した最悪の殲滅兵器「ジェネシス」は、数多の犠牲の末に破壊された。絶対的な破壊力を失ったプラント側、そして指導者アズラエルを失い統制を乱した地球連合軍側は、双方とも戦継続の限界を迎え、電撃的な一時的停戦協定を結ぶこととなったのだ。

その結果、プラントに捕縛されていたイオ・フレミングをはじめとする連合の捕虜たちは、すみやかに釈放・送還されることとなった。

漆黒の宇宙空間。双方の陣営から出撃したジン、ゲイツ、そしてストライクダガーといったモビルスーツ群が、互いに銃口を下げた状態で並び立ち、静かな緊張感の中で警衛をこなしていた。連合の捕虜を乗せた艇がストライクダガーやジンの護衛のもと母艦へと引き渡され、同時にプラント側の捕虜たちもストライクダガー等の警備を受けながら無事にプラント側へと送還されていく。不気味なほどの静寂が、昨日の死闘を嘘のように包み込んでいた。

◇

「よう、無事に戻れたぜ」

母艦の士官区画へ戻ったイオは、待ち受けていた親友のコーネリア、そして自作戦の指揮を執っていた副艦長と顔を合わせた。副艦長は安堵と疲労の混ざった複雑な笑みを浮かべ、イオをあたたかく迎える。

「無事な顔が見られてよかったわ、イオ。……改めて自己紹介するのも変だけど、私はこの艦の副艦長、クローディア・バエラよ。無茶な作戦を最後まで戦い抜いてくれて感謝するわ」

「クローディア、ね。へっ、改めて聞くとやっぱり堅苦しいぜ、副艦長さん」

イオはニッと笑い、首を鳴らした。クローディアは少し表情を曇らせながら、戦後の混迷した情勢を語り始める。

「アズラエル理事は、戦場の露と消えたわ。連合内部も今は後始末で大混乱……これからどうする気? イオ」

「俺か? 一応、まだ連合には残るさ。俺にはまだ、やらなきゃならねぇ『やり残し』があるからな」

イオの頭裏に浮かぶのは、あの死闘を繰り広げた朱色の機体と、ダリル・ローレンツの冷たい眼光だった。

そんなイオの様子を見ていたコーネリアが、ポケットから古いカセットテープを取り出し、ぽんとイオの手に放り投げた。

「ほらよ、イオ。釈放祝いだ。お前が喉から手が出るほど欲しがってた新しいジャズのテープだ」

「……へっ、分かってんじゃねぇか、コーネリア!」

イオの目が輝く。彼はそのまま二人の腕を引いて、船の奥深くにある資材・在庫室へと向かった。埃っぽい部屋の隅に打ち捨てられていたドラムセットや古びた楽器群を引っぱり出すと、イオは手際よくドラムのセッティングを始めた。

スティックを握り、軽快なカウントを刻む。

トントンツトン——カァン!

狭い在庫室に、弾けるようなフリージャズのドラムビートが激しく鳴り響いた。イオの叩く激しいリズムに引きずられるように、コーネリアがキーボードの電源を入れ、クローディアもまたベースを手にしてセッションに飛び込んでくる。

爆音が響くにつれ、殺伐とした戦場を生き延びた兵士や整備士たちが、吸い寄せられるように一人、また一人と在庫室へ集まってきた。悲しみも、恐怖も、敗北の悔しさも、すべてを吹き飛ばすような狂暴で陽気なジャズのグルーヴ。船内は瞬く間に、命の喜びを爆発させる人々の熱気で満たされていった。

◇

一方、ザフトの過激派「ザラ派」のゲイツ部隊によって救出されたダリル・ローレンツは、秘密拠点である小惑星拠点**「アスラ」**へと収容されていた。

義手と義足の調整を終えたダリルが、静かな足取りで地下の巨大変身整備室へと歩を進めると、そこには異様な光景が広がっていた。

巨大なハンガーの中央に鎮座していたのは、ダリルが死闘の末に破砕したイオのフルアーマーガンダムの惨烈な残骸。そしてその隣には、ヤキン・ドゥーエ攻防戦の渦中で大破したとされる、あのフリーダムガンダムの凄惨な残骸が並べられていたのだ。

大勢の整備班が群がり、装甲を剥がし、内部フレームやPS装甲、未知のテクノロジーを必死に解析している。

「よう、目覚めたか、ダリル少尉」

物陰から現れたのは、部隊の指揮官であるアベルだった。アベルは煙草に火を点けながら、巨大な残骸を見上げて語る。

「お前が持ち帰ってくれた実戦データと、回収された愛機の基幹部から、我が軍は**『リユース・サイコ・デバイス』の完全なデータの抽出に成功した**。これさえあれば……あの悪魔のような『サイコ・ザク』を再び完成させることができる」

「サイコ・ザクを……?」

ダリルが問いかけると、アベルは苦々しい顔でかぶりを振った。

「ああ。だがな……現状、我々の拠点にはそのシステムを機体に完全に組み込めるほどの高度な技術者が圧倒的に足りん。完全なサイコ・ザクの再建には、まだ時間がかかる」

「……なら、俺の機体はどうなるんです?」

身体の一部となっていたあの全能感を思い出し、ダリルが焦燥を滲ませて尋ねると、アベルはハンガーの奥を指差し、一機の試作モビルスーツを示した。

「当面の間は、これに乗ってもらう。——ジンのビートカスタムだ」

そこに立っていたのは、既存のジンをベースに高機動スラスターと近接・高精度射撃用のアタッチメントを増設した、凄まじい威圧感を放つ試作型機体だった。

「サイコ・ザクのような神経直結とはいかんが、お前の腕なら十分に乗りこなせるはずだ。……これで戦え、ダリル」

「……了解しました」

ダリルは静かに見上げた。ジンのビートカスタムの漆黒のキャノピーに、己の姿が映り込む。

遠く離れた宙域で響いているであろう、あの胸の悪くなるようなジャズの音色を思い出しながら、ダリル・ローレンツは静かに拳を握りしめた。宿命の二人の戦いは、終わりなき停戦の闇の中で、静かに次の開戦の時を待ち続けていた。第一次ヤキン・ドゥーエ後の・停戦協定が結ばれてから2ヶ月。ヤキン・ドゥーエの死闘が嘘のように静まり返った宇宙で、ザラ派の極秘拠点である小惑星「アスラ」の空気は依然として殺気立っていた。

「ダリル・ローレンツ少尉、入れ」

指揮官アベルの呼び出しを受け、ダリルが執務室に入ると、そこには見覚えのない二人のパイロットが立っていた。一人は鋭い目つきでダリルをあからさまに品定めするように睨みつける若者、ビリー。もう一人は体格が良く、落ち着いた雰囲気を纏ったベテラン風の男、フィッシャーだった。

アベルはデスクのホログラムを操作し、暗礁宙域の航路を示した。

「三人とも、初顔合わせだな。今回の任務は、この宙域を通過する地球連合軍の補給船隊の襲撃および物資の奪取だ。なお、本作戦の隊長はダリル少尉に命じる」

その言葉に、ビリーが露骨に眉をひそめた。

「ちょっと待ってください、アベル司令。四肢のない男が隊長ですか? 前回の戦いで機体を失ったと聞いていますが……」

不満を隠そうともしないビリーに対し、フィッシャーは静かに手を挙げて制した。

「よせ、ビリー。実績のある男だ、理由があるのだろう」

ダリルは二人の視線を正面から受け止めながら、冷静に言い放った。

「口だけかどうかは、戦場で確かめればいい」

出撃の刻。ハンガーには、各自の搭乗機が異彩を放ちながら鎮座していた。

ビリーが乗り込むのは、両腕部に特殊な試験兵装を組み込んだジン高機動戦闘型。両腕の有線式ドラグーンによる多角攻撃を可能とした機体だ。

フィッシャーの機体は、全身を重装甲で覆った重装型ジン。肩部ミサイルポッド、バズーカ、火炎放射器、マシンガン、そして巨大な実体剣を全身に懸架した動く火薬庫である。

そしてダリルの機体は、高精度センサーと推進力を強化した偵察兼局地制圧用MS——ジンのビートカスタム。

「ダリル隊長、いつでもいけます」

通信越しにフィッシャーの声が響く。ビリーはフンと鼻を鳴らした。

「ジン・ビートカスタム、ダリル・ローレンツ、出撃する!」

スラスターの爆風を残し、3機のジンが暗礁宙域へ躍り出た。ターゲットである連合軍の補給船隊は、護衛艦2隻と複数機のストライクダガーを伴って航行していた。

「作戦開始! 各機、突入せよ!」

ダリルの合図とともに、襲撃の火蓋が切られた。

先陣を切ったのはビリーだった。ジン高機動戦闘型の両腕部から射出された有線式ドラグーンが、宇宙空間を複雑な軌道で駆け巡る。

「ハッ! 義足の隊長殿、お先に見せてもらいますよ!」

ドラグーンから放たれたビームの束が、暗闇から現れたストライクダガー3機を同時に穿ち、一瞬で連続爆発を起こした。

続いてフィッシャーの重装型ジンが、護衛艦から放たれる濃密な対空砲火の中へ飛び込む。巨体を揺らしながら猛烈な艦砲射撃を絶妙な機動で回避し、肩部ミサイルとバズーカを掃射。圧倒的な火力で護衛艦2隻のブリッジと機関部を次々と打ち砕いていく。

「隊長! 補給船周りのダガーは頼みます!」

「了解だ!」

ダリルはジンのビートカスタムの推進力を全開にし、補給船に張り付いていたストライクダガーの群れへ突入した。

実体剣を一閃。すれ違いざまに1機の胴体を真っ二つに切り裂き、さらに反転しながら接近してきた2機目の胸部へ突き刺す。3機目の距離を取ろうとしたダガーに対しては、すばやく左手のマシンガンを掃射し、コクピットを蜂の巣にして撃破した。

だが、死角から迫る4機目のストライクダガーが、眩いピンク色の光条——ビームサーベルを引き抜いて襲いかかってきた。

「くっ……!」

ダリルは即座に実体剣で防ぎに入ったが、高温のビーム刃は実体剣の刃を容易く断ち切った。イオのガンダムとの戦いを思い出させる死の接近。ダリルは咄嗟に機体を強引に捻って回避を試みたが、追撃のビームが左腕のシールドを直撃し、木端微塵に粉砕される。

(……チッ! 機体の追従性が遅い……!)

ダリルはコックピットの中で、必死に義手と義足で操作レバーとペダルを叩きつけるように動かしていた。しかし、神経直結で思考と同時に動いていた「サイコ・ザク」のあの快楽と比べ、通常のレバー操作によるモビルスーツの動きには、あまりにも苛立たしい「ラグ(遅れ)」が存在した。

脳が思い描く回避機動に、機体の反応がわずかに届かない。手足の義肢を通して機械を操作するじれったさ。圧倒的な不快感と焦燥がダリルの脳髄を削っていく。

「死ね、ザフトの生身がッ!」

シールドを破ったストライクダガーが、勝利を確信してビームサーベルをダリルのコックピットへ突き立てようと振りかぶった。

(間に合わない——!)

ダリルが歯を喰い縛った瞬間、視界の横から巨大な陰が割り込んできた。

ドドンッ!!

爆音とともに、突きかかろうとしていたストライクダガーの胸部が至近距離から爆発した。フィッシャーの重装型ジンが、巨大なバズーカの砲口から硝煙を上げながらダリルの前に立ち塞がっていた。

「大丈夫か、隊長! 無理をするな!」

「フィッシャー……助かった」

冷や汗を拭いながら、ダリルは荒い息を吐いた。

護衛のストライクダガー隊を全滅させ、護衛艦を失った連合の補給船は、完全に戦意を喪失して白い降伏信号弾を打ち上げた。

「……補給船の降伏を確認。これより物資の回収に移る」

ビリーも無言になり、ダリルの鮮やかな初動と、命拾いしながらも破綻しなかった連携に言葉を失っていた。

壊れかけたシールドの破片を宇宙に散らしながら、ダリルの乗るジンのビートカスタムは、降伏した補給船へゆっくりと近づいていく。物資を根こそぎ奪い、アスラへ帰還するための作業が始まったが、ダリルの胸の奥に燻る焦燥感は消えなかった。

(あの感覚……リユース・サイコ・デバイスでなければ、俺は……あの男には勝てない)

去り行く暗礁宙域の闇を見つめながら、ダリルは失われた己の「真の手足」であるサイコ・ザクへの渇望を、さらに強く深めていくのだった。




ジン高機動戦闘型

有線式ドラグーンを搭載した試作型モビルスーツであり、ヤキン・ドゥーエから盗まれた試作機体、この世界線ではプロヴィデンスの前の機体であり宇宙世紀ではタコザクとも言われていた、、
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