フィーリウス様がエリック中佐とランス中佐に甘々にわからせられる話 作:実秋
「フィーリウスは私が嫌い?」
これはどういう状況だろう。
エリック中佐にソファに押し倒されて、そう問われた。
意図が分からない。
端正な顔が微笑みながら私の答えを待っている。
フィーリウスは逡巡すると素直に告げた。
「いえ」
「そう、ならいいよね」
何がいいのか?
相変わらず分からない。
中佐はどうしてこんなことをなさっているのか。
私に何を求めているのか。
いつも冷静沈着なフィーリウスが珍しく戸惑いを顔に表し始めた時、
エリックは目を細めた。
「君が欲しいんだ」
「は?」
思わず怪訝な声が出た。
失礼だった、と訂正を申し出る前にエリックは笑う。
「誰かのものになる君は見たくない」
エリックは真っ直ぐにフィーリウスを見据えて言う。
フィーリウスも視線を外さずにいた。
いや、正確には視線を外せずにいた。
何か、何か言わないと。
脳内で警鐘が鳴る。
「私は誰かのものにはなりません。私は私です」
本心だ。
誰かのものになる、誰かをものにする、
その意味がわからないわけではない。
それを理解した上でフィーリウスはエリックの言葉を否定した。
「そういう所が唆る」
「そんなつもりは⋯」
ありません、と言いかけたが、
不意に首元にエリックの顔が埋められ、
フィーリウスは固まった。
いつもエリックを漂っている上品な香りが強く鼻腔をくすぐる。
近すぎる。
「い、や⋯」
振り絞って出た声は女のようで自分で驚いた。
すぐそばでエリックが静かに笑い、
その吐息が首に触れ、びく、と体が震えた。
美しいと持て囃されていた母に似たらしく、
色目で見られるのが嫌だった。
モビルスーツの訓練に明け暮れて、
認められて、やっと軍属となったのに。
何故こんなことになっているのだろう。
何を間違えたのだろう。
つう、とエリックの舌がフィーリウスの首筋をなぞる。
抵抗しようにも、大人の男には腕力も何も敵わない。
フィーリウスは強く目を瞑った。
撫でられた首筋がじわ、と熱を持ち、甘い吐息が漏れる。
はっとして手で口を塞ごうとするが、
両手はエリックのそれに磔にされ動かない。
⋯耐えるしかない。
首筋にエリックの唇が触れ、
ちゅう、と音を立てて薄い肉を吸われる。
「んっ⋯」
淡い快感に身を捩る。
途端、エリックの顔が首から離れ、
フィーリウスはそっと目を開けた。
「ああ」
エリックがフィーリウスの首筋を見ながら困ったように呟く。
「見える所に付けてしまった」
「え⋯?」
フィーリウスはその言葉の意味がわからず、
「まあ、ちょうどいいか」
一人納得したエリックに置いてけぼりにされる。
理解ができずにゆっくりと瞬きをした隙に再び首に顔を埋められ、
「あ⋯ふ⋯っ」
ちゅ、ちゅ、と音を立てて首に口付けをされ、
痺れるような快感に甘い吐息を漏らす。
途端、
「今日はここまでにしようか」
不意に離された顔を見上げ、小さく息を吐いた。
それは自分でもわかるほどに熱を持っていた。
フィーリウスの顔は赤らみ、その扇情的な姿にエリックは目を細める。
ここまで快感に弱いとは思わなかった。
楽しみができたと内心、ほくそ笑む。
「休んだら起きておいで」
エリックはソファから起き立ち上がると、背中越しに声をかける。
いつもの上司の声音にフィーリウスは安堵した。
***
フィーリウスの首の痕は瞬く間に噂になった。
元々、少年兵ながら少女と見まごう美しい容姿をしている上に、
モビルスーツの戦闘シミュレーションにおいて
優秀な成績を修めている逸材であるために、
彼の一挙一動は何かと注目されていたのだ。
そんなフィーリウスの華奢な首に、誰かの所有物であるという
象徴の証が現れれば、周りが黙っていられるはずもない。
ガイウスとバネッサは頭を抱え、
答えの出ることのない問いを脳内で繰り返していた。
「2人とも、どうしたんだ?」
フィーリウスは何事もないように振舞い、彼らの心配をしている。
二人が頭を上げ、主の顔を伺えば、
滅多に表情を変えないフィーリウスが不安の色を示していた。
「フィーリウス様⋯」
バネッサが意を決してその名を呼ぶ。
フィーリウスは顔を微かに傾けた。
「その首の痕は、お怪我か何かでしょうか」
「⋯!」
バネッサの言葉に、フィーリウスは目を見開くと首を手で抑えた。
その反応にガイウスとバネッサは確信した。
主は誰かと体を重ねているかもしれないと。
その事実を捉えた瞬間、
バネッサはテーブルに突っ伏し反応しなくなった。
フィーリウスは目を丸くして彼女を見据え、
ガイウスは慌てて取り繕う。
「ご心配なさらず」
「…そうか?」
「バネッサは具合が良くないようですので、俺が何とかします。
フィーリウス様はお部屋にお戻りになってください」
ガイウスにそこまで言われてしまえば、
フィーリウスも頷く他ない。
後ろ髪を引かれる思いを感じながらも、
食堂を後にし自室に歩を進めた。
***
自室まで通路を曲がってすぐの所まで来た頃、
首の痕について考え込んでいたフィーリウスは
通路の角で人とぶつかった。
「おっと」
相手は自分の胸に飛び込んだフィーリウスを左手で抱きとめると、
体を離して顔を見据える。
「大丈夫かい?」
防衛大隊のエース、ランス・ガーフィールド中佐の姿に、
フィーリウスは面食らう。
この間、親衛隊のザクIIをグフカスタムで掬い投げ、
圧倒的な操縦技術と戦闘力を披露したその人だ。
フィーリウスが返事をできず固まっていると、
ランスは、おお、と口を開く。
「君はペズン帰りの⋯。こちらでも噂は聞いているよ」
ランスは優しく微笑む。
フィーリウスはやっと我に返り、返事をした。
「は⋯失礼いたしました。フィーリウス・ストリーム少尉です」
「気にしないでくれ、少尉。しかし」
ランスが言葉を切り、フィーリウスを見つめる。
私の顔に何かあるのだろうか、とフィーリウスが
恥ずかしく感じてきた頃、ランスは再び口を開いた。
「首の痕は、今付いてしまったものだろうか」
その言葉に、フィーリウスは再び目を見開き首元を抑える。
ランスは事情を察すると顔を逸らした。
「⋯元々ですので、大丈夫です」
フィーリウスの返事にランスは頷く。
大方、自分とぶつかって付いた傷ではないかと
心配して聞かれたのだろう。
フィーリウスはどこまでも自分を縛り付けているような
この痕が億劫に感じてきた。
「では、失礼するよ」
ランスは横目にフィーリウスとすれ違い、
彼の返事を待たずに去っていった。
一人残されたフィーリウスはランスの背中を見送る。
良かった。
ガイウスやバネッサ然り、詮索を入れられて困るのは自分だ。
首の痕が消えるまで服はよく選ばなければいけないな、と
フィーリウスは静かに息を吐いた。
***
「⋯ん?少年兵⋯」
フィーリウスと別れたランスはふと呟く。
親衛隊に着任して間もなくペズン計画のテストパイロットに抜擢された、
親衛隊モビルスーツ隊のエリック・マンスフィールド中佐の秘蔵っ子。
間近で見て噂にたがわない美貌に驚いたが、
着ていたのは女性物の服のようだった。
そのような好みなのだろうか、
よく似合っていたので問題はないが。
些細なことに気を向けている自分に気づき、
ランスは歩みを止めて目を閉じる。
数秒後、再び目を開けると、その顔は歴戦の戦士のそれに戻っていた。