※この作品はR-18です。

旅人を愛する孕神たちの純愛   作:ニコネーム、フラフラ

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 風の国モンドは、自由を愛する国。
 誰が誰を想おうと、誰が誰と手を繋ごうと、それ自体を誰かが咎めるような国ではない。風神バルバトスが謳った自由とは、すなわち他者の心を縛らぬこと。ゆえにこの国には、一人の相手だけを生涯愛さねばならぬなどという不文律は存在しない。
 だが、だからといって何もかもが許される訳でもない。

──人が人を想う以上、そこには必ず誰かの感情が横たわるのだ。





神の庇護を超えし国の仙獣1(甘雨)

 

 

 あの噂がモンド中を駆け巡ったのは、バーバラが旅人の恋人になった翌日の昼下がりだった。

 

 最初にそれを口にしたのは西風教会の庭で洗濯物を干していた年老いたシスターだった。「ねえ、聞いた? バーバラ様があの旅人様と……」という囁きは、干されたばかりの白い布の間を縫うように広がり、夕方には教会の鐘楼の下にまで届いた。翌朝には、モンドの市場の露店の主たちが声を潛めて噂し合い、三日と経たぬうちにその話は風そのものとなって国中を巡った。

 

 けれど、今回ばかりは様相が違っていた。

 

 数ヶ月前、旅人とモナの関係が囁かれた時もそれは確かに大きな話題だった。だがその時はどちらかと言えば好意的な好奇が中心だった。あの占星術師の娘が、あの旅人と。似合いではないか。そういう温かい茶化しのような空気がモンドには満ちていた。モナはモンドに馴染みの薄い少女だったからこそ、人々は遠巻きに微笑むだけで済んだのだ。

 

 しかし、今回は違う。

 

 ノエル。西風騎士団の見習いメイド騎士。街の誰もがその健気な働きぶりを知っている少女。孤児院の掃除も、教会の手伝いも市場の荷運びも、断らずに引き受けてきた。誰に対しても丁寧で、誰に対しても真摯でそして誰よりもこの街を愛している少女。

 

 バーバラ。西風協会の祈祷牧師でありモンド中の声援を一身に浴びるアイドル。教会に通う者も、通わぬ者もあの歌声に救われたことのない者はいない。彼女の微笑みは、この街の癒しそのものだった。

 

 その二人が、同じ男の恋人になった。

 

 そして、モナも含めれば三人。

 

「……暴動には至らず、と」

 

 と、後日、騎士団の執務室でガイアがぽつりと漏らした。その言葉は、半分は本心からの安堵でありもう半分はまだ信じられないという響きを帯びていた。実際、モンドは暴動など起きなかった。投石も罵倒も、教会への押しかけも何もなかった。

 

 けれど、静かだった。

 

 静かすぎた。

 

 市場の露店の主たちは、ノエルが買い物に来るといつもより少しだけ声を潛めた。教会の信者たちは、バーバラの説法を聞きながら時折その顔をじっと見つめては、何かを呑み込むように視線を逸らした。騎士団の詰め所では、若い騎士たちが旅人の話をしようとしてしかし誰かが咳払いを一つすると、その話題はすっと空気に溶けて消えた。

 

 嫌がらせはなかった。けれど、距離が生まれていた。

 

 それは暴力ではなく、もっと静かでもっと冷たいものだった。誰かが傷つくのを恐れて、誰も何も言わない。けれどその沈黙そのものが、時に刃よりも深く刺さる。モンドの自由は決して冷たさを意味しない。けれど自由の名の下に、人々は自分たちの感情をどう扱えばいいのかわからず、ただ息を潛めることしかできなかったのだ。

 

 その空気を、一番敏感に感じ取っていたのは誰でもない。他ならぬ、ノエルとバーバラの二人だった。

 

 

 ノエルは、旅人の恋人になったことを後悔などしていなかった。それどころか、あの日モナの後押しを受けて旅人に告白された瞬間のことを思うたびに、胸の奥が温かくなる。あの人の傍にいていいのだという許しを得た、あの瞬間。それは彼女の短い人生の中で最も輝いた記憶の一つだった。

 

 けれど、街の空気は確かに変わった。

 

 ある日の午後ノエルはいつものように市場に買い出しに来ていた。両手には旅人の夕食の材料が入った袋が三つ。そのうちの一つが重みで崩れかけた時、向こうから歩いてきた年老いた八百屋の主人が、とっさに手を貸そうとして──その手を途中で引っ込めた。

 

「あ……いや、すまんな、ノエル嬢ちゃん。最近忙しいんじゃろうて」

 

 その言葉は、何も悪意などなかった。ただの気遣いだった。けれどノエルは、その引っ込められた手を見て自分の胸の内側が、すっと冷たくなるのを感じた。ノエルは笑った。いつも通りの、丁寧な笑顔で。「いいえ、大丈夫です。ありがとうございます」と。そして重い袋を抱え直して、その場を離れた。

 

 けれど、宿舎へ戻る道すがら彼女は何度もその光景を思い返していた。

 

──私、何か、してしまったのだろうか。

 

 ノエルは馬鹿ではない。むしろ、この街の誰よりも人の機微に敏い少女だった。だからこそ、わかっていた。人々が自分から距離を取っている理由を。それは自分の行いのせいではない。けれど、自分が選んだ道のせいだということもまた理解していた。

 

 

コンコン

 

「ノエルさん」

 

 その夜、洞天の自室でノエルが一人旅人のために明日の献立を考えていた時、扉のノックと共に向こうから静かな声がした。モナだった。

 

「……モナさん。どうされましたか?」

「入っていいですか」

「ええ、どうぞ」

 

 扉を開けて入ってきたモナは手に一杯の茶と、そして包みを一つ持っていた。モナはノエルの隣に静かに座ると、その包みをそっと差し出した。

 

「これは?」

「空からです。モンドの街で、ノエルさんとバーバラさんが少し疲れているように見えたから、これで二人で何か美味しいものでも食べてきてほしいと」

 

 包みの中身はモンドの市場でも有名な、あの高級菓子店のクッキーだった。ノエルはその包みを見て、少しだけ目を細めた。旅人は気づいていたのだ。何も言わずに、けれど確かに二人の心の澱みに。

 

「空様は、いつもそうなんですね」

「ええ。本当に、お節介な人です」

 

 モナはそう言って湯呑みを一つノエルの前に置いた。そして、自分も一口茶を含んでから静かに切り出した。

 

「ノエルさん。あなた、最近、街の人たちの視線が気になっているでしょう」

 

 ノエルは、答えなかった。ただ茶の湯気を見つめた。その沈黙が、答えだった。モナは責めるでもなく、慰めるでもなくただ静かに続けた。

 

「私も、最初はそうでした。モンドに来たばかりで旅人の恋人になった。それだけで、あなたの何十倍も街の目は冷たかったです。まあ私は余所者ですからね。ノエルさんやバーバラさんみたいに、この街に根を張ってきた人間ではない。だからこそ、最初の数日間は本当に……」

 

 モナはそこで言葉を切った。その横顔には今はもう消えているけれど、確かにあった傷の痕のようなものがうっすらと浮かんでいた。

 

「でも、気づいたんです。あの視線の冷たさは私に向けられているんじゃない。人々が、自分たちの大切なものをどう守ればいいのかわからないだけなんです。ノエルさんも、バーバラさんもこの街の大切な人だからこそ、みんなどう接していいかわからない。嫌っている訳じゃない。ただ、戸惑っているだけなんです」

「……そう、なのでしょうか」

 

 ノエルの声は、少しだけ震えていた。モナはそっとその手を握った。

 

「ええ。だから、ノエルさん。あなたは何も変わる必要はない。いつも通り、街のためにみんなのために、あなたのままでいてください。そうすればいつかきっと、街もまたいつも通りのあなたを受け入れてくれるから」

 

 その言葉に、ノエルはゆっくりと顔を上げた。モナの目は、真っ直ぐにノエルを見ていた。その瞳に嘘はなかった。ノエルは、ようやく小さく笑った。泣きそうなけれど確かに、前を向いた笑みだった。

 

「モナさん。……ありがとう、ございます」

「いいえ。私たちは、同じ家族ですから」

 

 モナはそう言って、茶を一口含んだ。それからふと思い出したように、ノエルに告げた。

 

「そういえば、旅人が近々、璃月へ行くそうです」

「璃月に?」

「ええ。少し、確認したいことがあるのだとか。私にも詳しいことは教えてくれませんでしたが……ただ、珍しく真剣な顔をしていました」

 

 その言葉に、ノエルは首を傾げた。旅人が璃月へ。しかも、モナにも詳しいことを話さないほどの用事。ノエルは、何となく胸の内側に小さなざわめきのようなものを感じた。それは不安というより、この数週間で身に付けた旅人専用のエッチな予感に近いものだった。

 

「も、もしかしてそれは、その……」

 

 流石に慣れたとはいえ合えて言葉にするのは未だにはずかさが消えてくれないノエルは口をモゴモゴさせて腰や手をモジモジとくねらせて赤面する。

 それを見たモナは(まだ慣れないんですか)と少し呆れつつもその可愛らしい挙動に胸の内をキュンと締め付けられる。

 

「ええそうですね、きっと貴女の思っている通りの事が起きます。わたしの占いによれば次は……」

 

 モナは立ち上がると本棚に向かい、旅人に告白する前に作り上げた「対旅人用占い人物資料集」と書かれた分厚い本を手に取り、記憶を遡りながらページをめくって探す。

 

「あ、ありましたコレですコレ」

 

 該当のページを見つけたモナはそれ一部指でなぞりながら言う。

 

「私たちの中でもっとも沢山子を産むことになる――

 

 

――美しき麒麟が運命に加わる事となるでしょう」

 

 

 

 モンドを出発してから、二週間が経とうとしていた。

 本来ならとっくに璃月港に着いていてもおかしくない距離。それが未だに到着していないのは、ひとえに旅人の歩みが遅いからに他ならない。だがそれは決して道に迷っているわけでも、ましてや体調を崩しているわけでもなかった。

 

 理由はただ一つ。旅人には、いつでも帰れる場所があるからだ。

 

 洞天。マルが用意してくれた彼とその家族のための楽園。モンドにいようと璃月への道中だろうと、通行証さえあればいつでも瞬時に帰ることができる。パイモンがその利便性に気づいてからというもの、旅人の旅は明らかにスローペースになった。

 

「おいら思うんだけどさ、旅人。別に急ぐ旅でもないんだし疲れたら洞天に帰って休めばいいんじゃないか?」

 

 昼下がりの道中パイモンがそう囁いたのはもう何度目かのことだった。その言葉の裏に何が隠されているのか、旅人が気づかないはずもない。だが、あえて乗った。乗ってしまった。だって会いたい人がいるから。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 モナは洞天の自室で分厚い星図の本を広げていた。最近は「対旅人用占い人物資料集」の改訂作業が彼女の日課になっている。新しい家族が増えるたびに書き加えねばならない項目があり、それが意外と骨の折れる仕事だった。

 

 そこへ、後ろからそっと腕が回された。

 

「空……!?」

 

 振り返る間もなく、旅人はモナの身体を抱き寄せるとそのままベッドへと押し倒した。星図の本が床に落ち、ページがばらばらと散る。モナは一瞬抗議の声を上げかけたが、旅人の目を見てその言葉を飲み込んだ。彼の目はもう、そういう目をしていたから。

 

「……本が、散らかってしまいます」

「あとで一緒に片付けよう」

「……そういう問題では」

「モナ」

 

 旅人は、モナの頬に手を添えて静かにその名を呼んだ。モナは観念したように、そっと目を閉じた。服がゆっくりと剥がされていく。肌が露わになり、旅人の手のひらがその上を滑る。彼女の身体はもう、旅人の触れ方を覚えてしまっていた。どこに触れられると声が出るか、どこを愛されると腰が浮くか。旅人はそのすべてを知っていた。

 

 正常位で、ゆっくりと繋がる。モナの膣は相変わらずの柔らかさで旅人を迎え入れ、そして奥へと誘った。旅人は彼女の脚を抱え上げ、より深く腰を沈める。モナの口から甘い声が漏れる。

 

「あっ♡……空…そ、こ……!」

「ここがいいんだろ」

「そ、そうです……もっと……深くぅ!」

 

 旅人はモナが達するまで腰を止めなかった。一度達した後も、彼女が「まだ」と言う限り続けた。そして最後には、子宮口にぴったりと先端を押し当てて直接その奥へと精を注ぎ込んだ。モナは射精の間ずっと、旅人の背中に爪を立てていた。

 

 別の日には、モナはテーブルに手をつかされていた。背後から旅人が腰を打ちつける。立ったままの後背位。モナの小さな胸が、抽送のたびに揺れる。彼女はもう声を抑えようともしなかった。どうせ洞天の中には自分たちしかいないし、何よりこの時間が愛おしかったから。

 

「あっ……あっ……!空…これっ……すごくっ……」

「奥まで届いてる?」

「届いてっ……ます……!」

 

 旅人はモナの腰を掴み、より激しく突き上げた。モナの膣がきゅうきゅうと締まり、旅人のものを搾り取ろうとする。旅人はその感覚に耐えながら、更にもう一度彼女を絶頂させて激しく収縮する膣のもっと奥へ向けて熱い奔流を解き放つ。

 

 更に別の日には、モナを本棚に押し付ける様に立ち、片脚を持ち上げ自身の肩に引っかけた体勢で彼女の膣を自身の剛直で刺し貫く。

 旅人よりも小柄なモナの身体が僅かに宙に浮き、旅人のものだけが彼女を支える体勢になる。その不安定さが、逆に快感を増幅させた。

 

「おぉっ……!これぇ……深すぎてぇ……い、イクゥッ!?」

「モナ、好きだろこういうの」

「好きッ!ですっ!もっと……もっとしてください……♡」

 

 モナの自重をも利用して膣の奥深くへと肉棒を押し込み子宮を圧迫する。まるで自分の体がオモチャの様にブラブラと旅人の腰の動きに連動して揺り動かされて、モナは言い表せない悦楽に浸る。そのまま達したまま降りてこない快感を感じながら旅人の熱い精液を子宮で受け止める。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ノエルは相変わらず忙しかった。旅人の恋人になったことで街の空気が少しだけ変わったけれど、彼女自身の生活は何も変わっていない。朝は早くから騎士団の訓練、昼は街の奉仕活動夕方は孤児院の手伝い。その合間に、旅人がふらりと現れる。

 

「ノエル」

「ご主人様……!?」

 

 ある日の昼下がり、ノエルが教会の倉庫で備品の整理をしていた時だった。背後から声をかけられ、振り返る暇もなく旅人は彼女を倉庫の奥の物陰へと引き込んだ。積み上げられた木箱の影、外からは見えないその場所で旅人はノエルのメイド服のスカートを捲り上げた。

 

「ここで……ですか……?」

「静かに。誰か来るかもしれないよ」

「そ、そんな……あっ」

 

 旅人の指が、ノエルの下着の中へと滑り込む。今か性行為をするという期待だけで濡れ始めていたそこを、旅人は丁寧にしかし確実に愛撫した。ノエルは口元を手で覆い、声を殺しながらそれでも腰を震わせる。旅人は彼女が一度達するのを確認すると、今度は自分のものを取り出した。

 

「ご主人様の……」

「ご奉仕してくれる?」

「はい……喜んで……♡」

 

 ノエルはその場に膝をつき、旅人のものを口に含んだ。全力のフェラ奉仕。彼女は旅人を悦ばせるためだけに、その舌と口と喉を使った。時折先端を舌で転がしながら、時折根元まで咥え込みながら。旅人はそんなノエルの銀色の髪を撫でた。

 

「上手だよ、ノエル」

「ん……んぅ……♡」

 

 長々と彼女の愛らしい口内を堪能し、ご褒美として大量の精を飲ませて上げる。ノエルは溢れ出る旅人の精液を慣れた喉と舌使いで一滴も溢さずゴクリッゴクリッと味わって飲み干していく。

 その日の夜、旅人は騎士団のノエルの部屋に忍び込み、彼女が眠る前にもう一度その身体を味わった。

 

 いつかの早朝には、ノエルから旅人への性奉仕で起床させる。彼女は自分から進んで旅人のものを口に含み、その大きくも慎ましい胸の谷間に旅人のものを挟み、舌先で先端を転がす。旅人は起きて最初に見るその光景に朝からすっかり満たされた。

 

「ノエル、今日は駅弁でしようか」

「駅弁……ですか?」

「ああ。俺が立ったまま、君を抱えて……」

 

 旅人はノエルを抱えて挿入し持ち上げる。彼女の脚を自分の腰に回させ、そのまま立ったまま腰を降る。ノエルの身体は軽く、旅人にとっては造作もないことだった。抽送のたびに、ノエルの全体重が旅人の肉棒を奥深くまで沈み込ませる。彼女は旅人の首にしがみつき、小さく喘いだ。

 

「ぉっ……ご主人様っ……!これっぇ……すごい……!?」

「ノエルの中、今日も気持ちいいよ」

「嬉しい……です……♡」

 

 旅人はそのまま、ノエルが達するまで腰を動かし続けた。そして最後には、彼女の子宮の奥へと朝一番の濃いものを注ぎ込んだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 バーバラは、しばらく公演を控えていた。旅人の恋人になったことで、彼女の心は今まで以上に揺れ動いていた。アイドルとしてステージに立つこと。シスターとして祈りを捧げること。そして旅人の恋人として彼を想うこと。その三つが、彼女の中でまだうまく整理できていなかった。だからこそ、しばらくは静かに過ごそうと思った。協会の奉仕活動に精を出す日々。それだけが、今の彼女の居場所だった。

 

 そこへ、旅人が現れる。

 

「バーバラ」

「空……!? どうしてここに……」

 

 ある日の午後、バーバラが教会の庭で洗濯物を干していた時だった。旅人は周囲に誰もいないことを確認すると、バーバラの背後に回り込んだ。そして洗濯物を干す彼女の手の上から、自分の手を重ねる。指を絡めるのではなくただ、そっと。

 

「空……? あっ……」

 

 旅人の指が、バーバラの背中をなぞる。シスター服の上から、背骨のラインを。そのまま腰へ。スカートの上から、そっとお尻を撫でる。バーバラは声を上げそうになり、必死に堪えた。周りには信者たちがいる。誰かがこちらを見れば、一発でわかってしまう。

 

「だ、だめ……ここは……」

「静かに。バレたら大変だよ」

「そ、そういう問題じゃ……あっ」

 

 旅人の手が、バーバラのスカートの中へと滑り込む。下着の上から、秘所を撫でる。すでに少しだけ濡れている。旅人はその感触を確かめると、指で下着の布をずらし直接そこに触れた。バーバラは洗濯物を干す手を止められないまま、必死に声を殺して立っていた。

 

「バーバラ、感じてる?」

「んっ……だめ……声が……出ちゃう……」

「じゃあ、あとで。場所を変えよう」

 

 その日の夕方、旅人はバーバラをモンド城の外へと連れ出した。風立ちの丘。そこには大きな木が一本立っている。バーバラはその木に手をつかされ、背後から旅人に抱かれた。立ったままの後背位。彼女の白い脚が、木の根元で小さく震える。

 

「あっ……空…ここ……外…」

「誰も来ないよ。大丈夫」

「でも……あっ……ああっ……」

「バーバラの可愛い声、もっと聞かせて」

 

 旅人の腰が、ゆっくりと、しかし確実にバーバラを追い詰めていく。彼女はもう声を抑えることをやめていた。誰もいないから。そして、この瞬間を誰よりも待ち望んでいたから。旅人はバーバラの腰を掴み、彼女が達するまで止まらなかった。そして最後には、彼女の子宮の奥へとたっぷりと注ぎ込んだ。

 

「はぁ……はぁ……空…」

「バーバラ、今日も可愛かったよ」

「もう……そういうこと言うの……ずるい……」

 

 

◆◆◆

 

 

 夜は夜で、旅人は洞天に戻った。

 モナの部屋に行けばモナがいた。

 バーバラの部屋に行けばバーバラがいた。

 時折ノエルも交えて、あの広い寝室のベットの上で三人を相手に、絶え間ない営みが続いた。

 喘ぎ声が響き、汗が混ざり何度も何度も互いを求め合った。旅人はそのすべてを、心から愛していた。彼女たちの声肌の温度、繋がった時の感覚。その一つ一つが旅人をこの世界に繋ぎ止める枷になっていく。

 

 そんな日々を送っていたからモンドから璃月への道のりは、一向に進まなかった。本来なら二、三日で着くはずの距離を二週間近くかけて歩いている。それでも旅人は焦らなかった。焦る理由がなかった。この旅の目的は、璃月に着くことではない。璃月で何かを見つけることでもない。

 

ただ、彼女たちと共に在ること。それだけが今の旅人の目的だった。

 

 そして旅人の脳裏には依然ある人物と交わした約束が思い起こされていた。

 

――仕事を終えたらお礼として、私も一緒にあなたの旅に参加させてくれませんか?

 

 璃月港の手前、天衡山の麓に差し掛かったのはモンドを発ってから数えて十七日目の夕暮れだった。

 

 夕陽が山の稜線を金色に染め上げ遠くに見える璃月港の灯がぽつぽつと点り始めている。旅人は崖の上に立ち、その光景を眺めていた。風が強く彼の金の髪を煽る。パイモンは今日も先に洞天に帰ってしまって、今ここには誰もいない。久しぶりの一人の時間だった。

 

(甘雨……)

 

 旅人はあの日璃月で交わした約束を思い出していた。月海亭の秘書官である彼女とは、璃月に滞在していた折りに何度も顔を合わせていた。仕事熱心で、どこか浮世離れしていてけれど旅人の言葉を一つ一つ丁寧に聞いてくれる人だった。

 

『旅人さん。あなたの旅は、いつも誰かのためにあるんですね』

 

 ある日の帰り道そう言われたことを覚えている。あまりに唐突で、少し照れた。けれどその言葉は確かに旅人の胸の奥に残った。

 璃月の政務の合間を縫って、甘雨は時折旅人を茶会に誘った。仕事の話をしながらも、その目の奥にはいつも何か言い出せないでいるものが揺れていた。旅人はそれに気づいていたが、あえて踏み込まなかった。彼女の仕事は璃月の要。簡単に動かせるものではないと知っていたから。

 それでも、璃月を発つ日。旅人は彼女に言った。

 

「仕事が落ち着いたら、また会おう」

 

 甘雨は一瞬間を置いて、それから静かに微笑んだ。

 

『ええ。その時は……私も、あなたの旅に連れて行ってくれませんか?』

 

 それは、旅人に対する彼女なりの告白だった。旅人はその言葉に頷いた。いつになるかはわからないけれど、と前置きをした上で。甘雨はそれでいいとそう言った。

 

 あの約束からもう数ヶ月以上の時が経つ。璃月は目と鼻の先。けれど旅人はすぐに港へ向かおうとはしなかった。彼女がまだ仕事を終えていないかもしれない。

 旅人は天衡山の麓の宿に一泊することにした。明日、月海亭を訪ねよう。そう決めて質素な宿の部屋に入る。窓の外では、璃月港の灯が少しずつ数を増やしていた。

 

◆◆◆

 

 翌朝、旅人は璃月港の喧騒の中を歩いていた。港町の朝は早い。商人たちが荷を運び、船員が船を整え料理人が屋台を並べていく。旅人はその雑踏の中を縫うようにして、月海亭へと向かった。途中何人かの璃月の住人が旅人に気づき声をかけてきた。璃月の英雄と慕われている旅人が久しぶりに戻ってきたとあれば、その知らせはすぐに広まるだろう。けれど旅人はそれには構わず足を進めた。

 

 月海亭の入り口に着くと、受付の女性が旅人を認めて目を丸くした。

 

「旅人様……! お久しぶりです。甘雨様にお会いですか?」

「ああ。彼女に伝えてくれませんか。旅人が来たと」

「少々お待ちください」

 

 女性はそそくさと急ぎ足で奥へと消えていった。旅人はその場でどれほど待っただろうか、おそらくは数分のことだった。

 やがて廊下の奥から、小走りで来る足音が聞こえた。そして旅人の前に現れたのは、見慣れた水色の髪の女性。会いたかった相手の甘雨。尻尾の様な一束の長髪を揺らしながら現れたその手には、仕事の途中だったのだろう、手には書類の束を抱えたままその顔には驚きと、そして確かな喜びが浮かんでいた。

 

「旅人!」

「甘雨。久しぶりだね」

「はい、お久しぶりです。あ、申し訳ありませんこんな状態で出迎えてしまって 」

 

 甘雨は書類を抱えたまま、嬉しそうに目を潤ませていた。その姿を見て旅人は胸の内が温かくなるのを感じた。璃月の要として働き続けてきた彼女が、自分の顔を見てこんなにも嬉しそうにしてくれる。それだけで、ここまで来た甲斐があったと思った。

 

「少し、話せますか」

「はい。……あの、少しだけお待ちいただけますか。仕事の区切りをつけてきます」

「ああ。待ってる」

 

 甘雨は小さく頷くと廊下を引き返していった。その足取りは、自分が知っている落ち着いた雰囲気の彼女らしくなかった。少しだけ弾んでいたように思う。旅人はその背中を見送りながら、月海亭の中庭に続く窓の外を眺めた。

 璃月の港には、今日も変わらず船が行き交っている。彼女と会うのは久しぶりだった。けれど、その間に旅人の周りには多くのことが起きた。モナのこと、ノエルのことバーバラのこと。それらを甘雨にどう話すべきか、旅人は悩んでいた。

 

 

◆◆◆

 

 

 甘雨が戻ってきたのはそれから小一時間ほど経ってからだった。仕事の引き継ぎを済ませてきたのだろう、先ほどまでの書類の束はなく代わりに小さな包みを手に提げていた。その包みからは、ほのかに甘い香りが漂っている。

 

「申し訳ありません!お待たせしてしまいした!」

「大丈夫。それより、どこか落ち着ける場所はないかな」

「ええ。港の外れに、静かな茶屋があります。ご案内しますね」

 

 甘雨はそう言って、旅人の少し前に立った。その歩調は旅人に合わせてゆっくりと。璃月の街並みを抜けて港の外れへと向かう道すがら、二人はぽつぽつと近況を話した。甘雨の仕事の話。璃月の情勢の話。旅人の旅の話。モンドに戻っていたこと。璃月には久しぶりに来たこと。話は尽きなかった。けれど、互いに互いの心の内側に触れるような話題には、あえて触れなかった。

 

 茶屋に着くと、甘雨は先に席を取って旅人を招いた。窓際の、港が見える席。彼女は慣れた手つきで茶を注文すると、旅人の前に湯呑みを置いた。

 

「旅人さん。璃月を発ってから、ずっとお元気でしたか」

「ああ。それなりに」

「それなりに、ですか」

 

 甘雨は少しだけ笑った。その笑みは、以前より少しだけ柔らかく見えた。旅人はその変化に気づきながらも、あえて指摘しなかった。代わりに包みから漂う匂いについて尋ねた。

 

「それは?」

「ああ、これは月海亭で出している茶菓子です。旅人さんが甘いものもお好きだったでしょう?」

「覚えててくれたのか」

「ええ。あなたとのことは、大体覚えていますから」

 

 その言葉は、何気なく発せられたものだった。けれど旅人の胸には、少しだけ重みを持って届いた。甘雨は自分の言葉の意味に気づいたのか、少しだけ顔を赤らめて湯呑みに口をつけた。旅人もそれに倣って、茶を一口含む。温かい。璃月の茶はモンドのものより少しだけ渋みが強い。それが今は、妙に心地よかった。

 

「甘雨。約束の件だけど」

「……はい」

「仕事の方は、落ち着いたのか?」

 

 甘雨は湯呑みを置いて、旅人を真っ直ぐに見た。その目は以前旅人が見た時よりも、ずっと強くそして決意に満ちていた。

 

「はい。半年前から、引き継ぎを進めていました。後任も育ちましたし、璃月七星からの許可も得ています。……いえ、正確にはまだ完全にというわけではありませんが、長期の不在は問題ない状態です」

「つまり……」

「旅人さん。もし、まだ私を必要としてくださるのなら。……あの時の約束を、果たさせていただけませんか」

 

 旅人はしばらく甘雨を見つめていた。彼女の手が、膝の上で小さく震えているのに気づいた。璃月の要として、常に冷静沈着であろうとしてきた彼女が今、目の前で震えている。その震えが、旅人の胸に深く響いた。旅人は静かに頷いた。

 

「ああ。実は俺も今日君に聞こうと思ってたんだ。俺と一緒に旅をしたいって言ったあの時の気持ちが、今もあるかどうか」

 

 その言葉に隠れた意味を理解した瞬間。甘雨の目から一筋の涙がこぼれた。彼女は慌ててそれを拭ったが、それでも涙は止まらなかった。

 

「だから答えは一つだよ。これからは、俺と一緒に旅をしてほしい」

 

 旅人は席を立ち、甘雨の隣に移った。そしてそっと彼女の手を握った。甘雨の手は冷えていた。けれど、旅人の手の温もりが伝わると少しずつ温かくなっていった。

 

「甘雨。璃月の仕事、お疲れ様」

「……はい。ありがとうございます」

 

 甘雨はしばらく旅人の手を握り返して静かに泣いた。旅人はその間、何も言わずに彼女の隣にいた。璃月の港の喧騒が、遠くに聞こえていた。窓から差し込む陽光が、二人の上に柔らかく降り注ぐ。その光の中で、甘雨はようやく顔を上げた。泣きはらした顔で、それでも彼女は笑った。それは旅人が初めて見る笑顔だった。仕事の時でも、茶会の時でもない。ただ一人の女性としての、素直な笑みだった。

 

「旅人。これから、どうかよろしくお願いします」

「こちらこそ。甘雨」

 

 旅人はそう言って、甘雨の手を握り直した。璃月の風が茶屋の暖簾を揺らしていた。その風は、モンドのそれとは違う。けれど旅人の心には、どちらの風も同じように優しく感じられた。彼女が加わることで、旅人の家族がまた一つ大きくなる。それは旅人にとってこの上ない喜びだった。けれど同時に、彼女のこれまでの人生を思うと少しだけ胸が痛んだ。璃月の要として、ずっと一人で背負ってきたものがある。それを手放して、自分の元へ来るという決断。その重さを旅人は理解していた。

 

「ねえ甘雨」

「はい……?」

「璃月のことは、これからも君の大切な場所だ。だから無理に捨てなくていい。洞天の通行証をあげるから璃月に戻りたい時は、いつでも戻ればいい。好きに此処で暮らして、好きに仕事をしたらいい。そして好きなだけ俺の所に居てくれていいんだ」

「……そんな、甘いことを言ってくださるのですか。そんな……自分勝手にも程がある我儘を許すと……?」

「俺は、君の全部を受け入れたいと思っているし、君の全てが欲しい。だから捨てないでほしいんだ。璃月の仕事も、君の過去も、これからのことも」

 

 甘雨は旅人の言葉を聞いて、また少しだけ泣いた。今度は先ほどよりも静かに。そして、その涙は旅人への感謝と、そして自分自身への許しの涙だった。彼女は長い間、璃月のために生きてきた。自分のことは後回しにして。そんな自分が、誰かのために生きてもいいのだと。誰かに愛されてもいいのだと。そう思えた瞬間だった。

 

「旅人。私、あなたのことが……ずっと、好きでした」

「知ってるよ」

「えっ」

「俺も、甘雨のことが好きだ。だからあの時約束したんだ」

 

 甘雨はその言葉に今度は泣き笑いのような表情を浮かべた。その顔は、年相応のけれどずっと年上に見えていた彼女の、初めて見せる無防備な表情だった。旅人はそんな甘雨の頭を、そっと自分の肩に預けた。彼女は少しだけ抵抗したが、すぐにその重みを預けてきた。璃月の港の風が、二人の間を優しく通り過ぎていく。

 

「甘雨。今日は、ゆっくり休もう。明日洞天に案内する」

「はい……。あ、あの、旅人」

「なに?」

「今夜は……その、一緒にいてもいいですか」

 

 その言葉は、甘雨が勇気を振り絞って発したものだった。旅人は少しだけ驚いた。彼女がそんなことを言うとは思っていなかったから。けれど、その申し出は素直に嬉しかった。旅人は甘雨の手を握ったまま、小さく頷いた。

 

「ああ。一緒にいよう」

 

 甘雨はその返事に、安心したように微笑んだ。その笑みは璃月の夕陽のように、柔らかくそして温かかった。旅人はその笑顔を、ずっと見ていたいと思った。けれどそうしているうちに、彼女の身体が少しだけ旅人に寄りかかってきた。どうやら、疲れていたらしい。当然だ。緊張もしていたはずだし大泣きこそしてはいないがまだ涙の後がその頬には残っているし、きっと長い間この日のために準備をしてきたのだろう。

 旅人は甘雨の肩を支えながら、しばらく彼女の存在を感じて、気持ちと体が落ち着くまで待つ事にした。

 

 甘雨が落ち着きを取り戻したのは、ちょうど正午を回った頃だった。

 茶屋で軽い食事を済ませた二人はこれからの予定を相談していた。甘雨の仕事の引き継ぎは、今日と明日で大方片付くという。それは彼女が長年かけて後任を育ててきた成果であり、璃月七星からの信頼の証でもあった。

 

「では、一度月海亭に戻ります。引き継ぎを済ませて、休暇届を出してきますので」

「わかった。待ってるよ」

 

 月海亭に戻った旅人は、受付の片隅で甘雨の帰りを待った。彼女が奥の執務室で後任の秘書官に仕事を引き継いでいる間、旅人は窓の外の港を眺めていた。船が行き交い、人々が行き交う。活気のある港町の風景。けれど旅人の意識は、その奥にある静かな決意へと向かっていた。

 小一時間ほどで甘雨は戻ってきた。手には小さな荷物と、そして一枚の紙切れ。休暇届の控えだった。

 

「お待たせしました。これで、しばらくは自由に動けます」

「それじゃあ、案内してくれる場所って?」

「はい。旅人に、どうしても見ていただきたい場所があるんです」

 

 そう言って甘雨は歩き出した。旅人はその後に続いた。

 璃月港を出て天衡山の麓を回り込むようにして山道を登っていく。整備された道ではなく、獣道に近い細い道。けれど甘雨の足取りは確かで、迷いがなかった。彼女はこの道をよく知っているのだろう。

 

「普段は誰も来ない場所なんです。私も、仕事で疲れた時にたまに来るだけの秘密の場所」

「秘密の場所か」

「ええ。今日は、旅人にその秘密を教えたくて」

 

 甘雨は振り返らずにそう言った。その声は、少しだけ照れているように聞こえた。

どれほど歩いただろうか。おそらくは一時間ほど。山道を抜け、岩陰を抜け、そして甘雨が立ち止まった。

 

「ここです」

 

 彼女が手をかざすと、目の前の空間がゆらりと揺れた。そこには確かに何もなかったはずの岩壁が、水のように波打ちそして消えた。現れたのは、ぽっかりと口を開けた洞窟の入り口。けれどそこから漏れる光は、洞窟のものではなかった。

 

「どうぞ」

 

 甘雨に促されて旅人が中へ足を踏み入れると、そこは洞窟ではなかった。洞窟の奥に広がる、異質な空間。天井はなくけれど空でもない。どこまでも続くような柔らかな光に満ちた、閉じられた世界。

 足元は羊毛のようにふわふわとした雲に覆われている。踏みしめても沈み込まず、それでいて確かな柔らかさがある。不思議なことに、その雲は落ちることもなければ千切れることもない。まるで大地のように、そこに在り続けている。

 光は、太陽のそれよりも柔らかく、夕暮れよりも明るい。ちょうどよい明るさで、ちょうどよい温かさ。空気は澄んでいてけれど冷たくはない。呼吸をするたびに、身体の内側が満たされていくような感覚があった。

 

「ここは……」

「かつて、仙人が修行に使っていた場所だそうです。今は誰も管理していませんし、魔物も近づきません。時間の流れも外とは少し違います」

「時間?」

「ええ。ここでの一時間は、外では十分ほど。だから私がここで昼寝をしてしまっても、外ではほんの少ししか経っていないんです」

 

 甘雨は少しだけ恥ずかしそうに言った。彼女がここで昼寝をする。その光景が、旅人の脳裏に浮かんだ。柔らかな雲の上で彼女が丸くなる姿。それはきっと、この上なく愛らしい光景だろう。

 旅人は辺りを見回した。広さは、やや広めの部屋一つ分ほど。天井のない開放感がありながら、外の世界とは完全に切り離された静けさがある。風の音も、鳥の声も遠くの喧騒も、何も聞こえない。ただ静かな光だけが満ちている。

 

「すごい場所だな」

「ええ。私はここが好きなんです。一人で来て、ぼんやりと過ごすのが」

 

 甘雨はそう言って雲の上にそっと座った。その仕草は、慣れたものだった。旅人も彼女の隣に座る。雲は、座っても沈まなかった。まるで空気の椅子に座っているかのような、不思議な感覚。

 

「旅人さん」

「ん?」

「ここに、あなたを連れてきたかったのは……その」

 

 甘雨は言葉を切り、膝の上で手を組んだ。その手は先ほど茶屋で握った時と同じように、少しだけ震えていた。

 

「璃月の仕事を離れて、あなたと一緒に旅をする。それは私にとってとても大きな決断です。でも、その前にどうしてもあなたと二人きりで話がしたくて」

 

 旅人は黙って甘雨の言葉を待った。彼女が何を言おうとしているのか、何となくわかっていた。けれど急かさなかった。彼女のペースで話してほしかったから。

 

「私は、半仙です。麒麟の血を引いています。だから、普通の人間とは違うところがたくさんあります」

「うん」

「たとえば、寿命も。たとえば身体の作りも。たとえば……その、感じ方も」

 

 最後の言葉は、ほとんど消え入りそうだった。けれど旅人の耳には、はっきりと届いた。

 

「感じ方、か」

「はい。私は、普通の人間よりもずっと……その、敏感なんです。それに仙獣の血を引いているせいか、私の……その、体液は人とは少し違うらしくて」

「体液?」

「ええ。あなたにとっては、それが……とても強い影響を与えるかもしれないと」

 

 甘雨はそこまで言って俯いた。耳まで赤く染まっている。旅人はその言葉の意味を、すぐには理解できなかった。けれど彼女がそれだけ言うのにどれほどの勇気が必要だったかは、理解できた。

 

「甘雨。それは、君が俺に知っておいてほしいことなんだな?」

「はい。……知らずに、あなたを困らせたくなくて」

 

 旅人は少しだけ考えた。そして、そっと甘雨の手を取った。

 

「わかった。知っておくよ。それで……俺は、どうすればいい?」

「どう、すれば……?」

「君が、どうしてほしいか。俺に何を望んでいるか。それを聞きたいんだ」

 

 甘雨は顔を上げた。その目にはまた涙が浮かんでいた。けれど、今度は泣かなかった。旅人を真っ直ぐに見て、そして言った。

 

「私は、あなたと一つになりたい。あなたのものになりたい。あなたの子を、この身に宿したい。……それが、私の望みです」

 その言葉に、旅人は静かに頷いた。もう迷いはなかった。彼女の覚悟は、言葉の端々から伝わってきていた。璃月を離れること。仕事を捨てること。それだけの覚悟をして、自分の元へ来る。ならば自分もそれに応えなければならない。

 

 旅人はそっと甘雨の頬に手を添えた。彼女の肌は驚くほど柔らかく、しかしその下には三千年の時を生きた確かな重みがあった。甘雨は目を閉じた。長い睫毛が、ふるりと震える。

 

「甘雨」

「はい……」

「君の初めてを、俺に任せてくれるか」

「……はい。お願いします」

 

 その返事を確かめてから、旅人はゆっくりと顔を近づけた。触れるだけの、軽いキス。けれどそれだけで甘雨の肩が小さく跳ねた。旅人はすぐに離れ、彼女の反応を確かめる。

 

「……もう一度、いい?」

「はい……」

 

 二度目のキスはさっきより少しだけ長く。唇を重ねたまま、角度を変えて何度も触れ合う。啄むようなそれでいて確かな熱を帯びたキス。甘雨の唇は柔らかく、少しだけ冷えていた。けれど重ねるうちに少しずつ温かくなっていく。

 三度目は、もっと深く。旅人は彼女の唇をそっと吸った。下唇を、上唇を。ゆっくりと。甘雨は戸惑いながらも、されるがままにそれを受け入れた。けれど次第に自分からも唇を押し返すようになる。ぎこちないけれど、一生懸命なキス。旅人はその健気さに胸が締め付けられた。

 

(三千年生きてきてキスの仕方も知らないんだな)

 

 その事実が、旅人にはたまらなく愛おしかった。彼女はずっと、璃月のために生きてきた。自分のことは後回しにして。恋をすることも、誰かに愛されることも知らずに。だから今こうして自分が彼女にそれを教えている。そのことが、旅人にとってこの上ない喜びだった。

 やがて旅人は、甘雨の唇を割って舌を差し入れた。彼女の口内は温かく、少しだけ驚いたように震えた。けれど逃げようとはしなかった。旅人の舌が彼女の舌に触れると、甘雨は小さく息を呑んだ。

 

「ん……」

 

 その声は、旅人の口内に吸い込まれていく。旅人はゆっくりと彼女の舌をなぞった。上顎を、歯茎を舌の裏を。一つ一つ、確かめるように。甘雨もまたおずおずと舌を動かし始めた。旅人の舌に絡めようと、拙いながらも応えようとする。

 その瞬間、旅人の口内に甘雨の唾液が広がった。

とろりとしているのに、さっぱりとしている。不思議な味わいだった。甘いのに、後味は爽やかで。まるで彼女という存在そのものを味わっているかのようだった。旅人はその感覚に、思わず喉を鳴らした。

 

(これが……甘雨の味)

 

 唾液を交わすたびに、その味が旅人の全身に染み渡っていく。もっと欲しい。もっと彼女を味わいたい。その欲求が、旅人の理性をじわじわと侵食していく。けれど旅人はあえてそこで止めた。彼女の初めてを、急いで台無しにするわけにはいかない。

 ようやく唇を離すと、二人の間を透明な糸が繋いでいた。唾液の糸。それがゆっくりと切れると、甘雨の口元を一筋の透明な液が伝っていく。その光景が、旅人にはたまらなく煽情的に映った。彼女の服装も相まって、その美しさは際立っていた。

 普段は無自覚に晒されているその肌が、今は旅人の視線を意識してかほんのりと赤く染まっている。口元を伝う唾液の筋。上気した頬。潤んだ瞳。三千年を生きた仙人の、初めての性の乱れ。旅人はその光景を脳裏に焼き付けるようにじっと見つめた。

 

「甘雨……綺麗だ」

「そ、そんなこと……」

「本当だよ。今の君は、今まで見たどんな君よりも綺麗だ」

 

 甘雨は顔を赤くしながら俯いた。けれどその口元は少しだけ綻んでいた。嬉しさを隠しきれていない。旅人はそんな彼女の手を取ると、そっと雲の上に押し倒した。柔らかな雲が彼女の身体を優しく受け止める。旅人は彼女の上に覆いかぶさり、もう一度キスをした。さっきよりも深くさっきよりも長く。甘雨は目を瞑りながら今度は自分から舌を絡めてきた。拙いながらも、一生懸命に。旅人はそんな彼女の健気さに胸の奥が熱くなるのを感じた。

 

(この人を、絶対に幸せにする)

 

 三千年分の初めてを、最高の思い出にする。その誓いを旅人は心の奥に固く刻んだ。

 

 一頻りキスを堪能した後、旅人はゆっくりと上体を起こした。甘雨を真上から見下ろす形になる。

 雲の上に横たわる彼女の姿は、この上なく美しかった。水色の髪が柔らかな雲の上に扇状に広がり、その隙間から黒に赤の模様が特徴的な角が覗いている。

 首から足先までを覆う黒いハイレグのタイツ。その上から重ねられた白い仙人風の衣装は、ノースリーブで脇と胸部全体を露わにしている。そしてその胸元は、タイツ一枚だけが覆っている。下着をつけていないそのふくよかな乳房は、仰向けになった今もその形を崩すことなくゆるやかな弧を描いて天を仰いでいた。

 旅人は思わず喉を鳴らした。生唾を飲み込む音が、静かなこの空間にやけに大きく響く。今からこの三千年の時を生きた美しい身体を、自分の好みに染め上げていくのだ。そう思うと、自然と口の中に唾液が溜まっていく。その様子を、甘雨はじっと見上げていた。彼女の目は少しだけ潤んでいる。けれどそれは悲しみでも不安でもない。ただ、自分を見つめる旅人のその眼差しの熱さに胸の奥がきゅっと締め付けられるからだった。

 

「ふふ……」

 

 甘雨は小さく笑った。可笑しそうにけれど嬉しそうに。

 

「そんなにじっと見つめられると、少しだけ恥ずかしいです」

「あ、ごめん。でも、目が離せないんだ」

「いいえ。嬉しいですよ。旅人さんにそう思っていただけて」

 

 甘雨はそう言うと自分からゆっくりと雲の上に身を預けた。力を抜いて完全に無防備になる。腕はだらりと頭の横へ雲の上に投げ出され、脚も少しだけ開いた自然な姿勢。それは旅人を誘うためのものではなかった。ただ、心からこの人に身を委ねるというその無垢な信頼の表れだった。

 

 けれどその姿は旅人にとってはこの上なく妖艶だった。無自覚に晒された脇の下。タイツに包まれたしなやかな脚。そして何より、下着をつけていないその胸元。彼女が呼吸をするたびに、タイツの下でそのふくよかな双丘がゆっくりと上下する。その光景が、旅人の理性をじりじりと焦がした。気づけば旅人の手が、甘雨の衣装にかかっていた。そのまま一息に引きちぎりたい。その衝動が、腕に力を込めさせる。布が彼女の肌から離れかける。

 

(っ!?……あ、あぶない……)

 

 旅人は寸前で我に返った。慌てて手を離し深く息を吐く。乱暴にしていい理由はない。彼女の初めてだ。大切にしなければ。旅人は深呼吸をして、落ち着こうとした。けれどそんな旅人の様子を、甘雨は見逃さなかった。

 

「旅人さん」

「……ん?」

「遠慮しないでください」

 

 その声は、いつもの柔らかなものではなかった。もっと強く、もっと確かな意志を帯びていた。

 

「この服は、私があなたのために用意したものです。だから……破いて脱がせてください」

「甘雨……」

「あなたが今、何をしたいのか。わかっています。私でよければ……その衝動、私にぶつけてください。あなたのそういうところも、全部受け止めますから」

 

 旅人はしばらく甘雨を見つめていた。彼女の目は真剣で、そして少しだけ挑むようで。三千年を生きた仙人が、今初めて誰かに自分の全部を預けようとしている。その覚悟が、旅人の迷いを吹き飛ばした。

 

「……わかった。じゃあ、遠慮なく」

 

 旅人はそう言って甘雨の胸元を覆う黒いタイツに手をかけた。思い切り引くと、布がぴりりと音を立てて裂ける。タイツの生地が破れ、その下から白い肌が露わになる。ふくよかな双丘が、解放された瞬間にプルンと揺れた。その揺れが、旅人の目に焼きつく。色白の肌。その頂点には、桜色の乳首が慎ましやかに主張していた。

 

「あ……」

 

 甘雨が小さく息を漏らした。けれど逃げようとはしなかった。むしろ、自分から胸を少しだけ旅人へと差し出すように、背中を反らせた。その仕草は無意識のものだったのだろう。けれどその無意識が、旅人をより一層煽った。自然と旅人の顔がその乳房の頂点へと吸い寄せられていく。桜色の乳首。まだ誰にも触れられたことのない、彼女の初めての場所。旅人がそこに顔を近づけると、甘雨は恥ずかしそうに頬を赤く染めながら小さく、けれどはっきりとこう言った。

 

「どうぞ……」

 

 その一言が、旅人の背中を押した。彼は静かに唇を開きその桜色の頂点をそっと口に含んだ。

 

――美味しい。

 

 甘雨の乳首を口に含み舌で転がした瞬間、旅人の頭の中にはその一言だけが浮かんでいた。

 モナの小さな胸も、ノエルの大きくも慎ましい双丘も、バーバラの控えめな乳房もそれぞれに味わい深かった。けれど甘雨のそれは、それらとはまるで質の違うものだった。

 口内に広がるのは、ほのかな甘さとそして清涼な香り。汗の味はしない。それでいて、彼女という存在そのものが溶け出しているかのような深い味わい。仙獣の血を引く彼女の体液は、やはり人とは違う。旅人はその味を少しずつ確かめるように堪能した。

 

 まずは右側。桜色の乳首を舌先でそっと転がし、その周囲の乳輪を丁寧になぞる。ふくよかな乳房に顔を埋めるようにして、ゆっくりと吸い付く。吸うたびに甘雨の胸が旅人の口の中へと形を変えて収まっていく。

 

「あ……ぁ…」

 

 甘雨の口から小さな声が漏れた。それはこれまでの彼女からは想像もできないような、甘く掠れた声だった。

 旅人はその声に励まされるように、今度は左側へと口を移す。右で味わったものを左でも同じように。いや、それ以上に丁寧に。左の乳首を口に含みながら、右手で右の乳房を揉みしだく。指の腹で柔らかな膨らみを包み込み、ゆっくりと円を描くように。

 

「ん……ふ…ぁ……」

 

 甘雨の背中が、わずかに反る。雲の上に投げ出された腕がぎゅっと雲を掴んだ。けれど彼女は逃げなかった。旅人にされるがままに、その身を委ねている。

 旅人はまた右に戻る。今度は少しだけ強く吸った。乳首を歯の先で甘く噛み、そのまま舌で押し潰す。同時に左手で左の胸を揉みしだき、親指で乳首をこりこりと転がした。

 

「あっ……あぁ……旅人……」

 

 甘雨の声が、少しだけ大きくなった。けれどそれは決して拒絶ではない。もっと、という欲求。もっと感じたいという正直な願い。旅人はその声に応えるように、左右の胸を交互に時には同時に、夢中で愛した。右を吸いながら左を揉み左を吸いながら右を揉む。その繰り返し。まるで彼女の胸を全部自分のものにしようとするかのように。

 口の中に広がる甘さと手のひらに伝わる柔らかさと、そして耳に届く彼女の感じる喘ぎ声。その全てが旅人を夢中にさせた。気づけば彼は、甘雨の胸だけをずっと味わっていた。それほどまでに、彼女の乳房は旅人を惹きつけてやまなかった。

 

(これが……甘雨の味)

 

 旅人は心の奥でそう呟きながらまだ見ぬ彼女の最も深い場所へと思いを馳せた。胸だけでこれほど夢中にさせられるのだ。その先には、どれほどのものが待っているのだろうか。けれど今はまだ、その時ではない。まずはこの胸をこの肌を、この声を。三千年分の初めてを少しずつ解きほぐしていく。それが今の旅人の務めだった。

 

 旅人が胸に吸い付くたび、舌で乳首を転がすたび、両手で乳房を揉みしだくたびに下腹部の奥がきゅんきゅんと疼くのだ。その感覚は決して痛みではない。もっと温かくて、もっと甘くてそしてもっと切ない。何かが足りない。何かが欲しい。けれどそれが何なのか、甘雨にはわからなかった。

 

 三千年生きた。その間に、人の世のあらゆる営みを知識としては学んできた。男女が交わることも、子を成すことも頭では理解していた。けれど実体験として知ることはなかった。ましてや、こんな感覚を味わうことなど。

 

「あっ……あぁ……あっ!」

 

 旅人が右の乳首を強く吸った瞬間、甘雨の腰が小さく浮いた。下腹部の奥で何かが弾けるような感覚。けれどすぐにそれは引いていく。あっという間の出来事で、それが何だったのかもわからないまま、また次の小波がやってくる。旅人はそんな甘雨の様子を、胸に顔を埋めながらも感じ取っていた。彼女の身体が、一定のリズムで小さく跳ねる。声も時折高く裏返る。それは明らかに、絶頂の反応だった。けれど甘雨自身はそれに気づいていない。ただただ、与えられる快感に翻弄されているだけ。

 

(もしかして……気づいてないのか?)

 

 旅人は少しだけ顔を上げて甘雨を見た。彼女は目を潤ませ、頬を上気させただ旅人を見つめていた。その目には戸惑いと、そして確かな悦びが混ざっている。旅人は彼女の腰が浮いた瞬間の感覚を思い出した。あれは確かに達していた。けれど本人はそれを「何かわからない気持ちいいもの」としか捉えていない。三千年を生きた仙人が、自分の絶頂すら自覚できずにいる。その事実が、旅人にはたまらなく愛おしかった。

 

「甘雨」

「は……い…」

「今、気持ちいい?」

「はい……とても……。なんだか、お腹の奥が変で……」

「変、か。それはね、甘雨」

 

 旅人はそっと彼女の胸から口を離して、顔を近づけた。

 

「気持ちいいって思うと、身体は勝手に反応するんだよ。今君が感じてるそれも、そういうものなんだ」

「そう……なのですか?」

「うん。で、今まで何度かあっただろ?急にふわってなって、すぐに消えちゃうやつ」

「あ……はい。ありました。あれは……?」

「あれは、イッてるんだよ。甘雨は今何度も達してるんだ」

 

 甘雨の目が、少しだけ大きく見開かれた。イッてる。その言葉の意味を、彼女は知識として知っていた。けれどそれが今自分の身に起きていることだとは、思いもしなかった。あまりに一瞬であまりにささやかで。もっと劇的なものだと思っていたから。

 

「私が……イッて……? でも、あんなにすぐ……」

「そういうこともあるんだよ。特に、初めての時はね。でも……」

 

 旅人はそこで一度言葉を切り、甘雨の胸にそっと手を置いた。

 

「もっと大きなのも、あるんだよ」

「大きな……?」

「うん。今から、それを教えてあげる」

 

 旅人はそう言ってもう一度甘雨の胸に吸い付いた。今度はさっきまでとは違う。遠慮なく、思い切り。彼女の右の乳首を口いっぱいに含み、強く吸い上げる。同時に左手で左の乳房を掴み、乳首を指の腹でぐりぐりと押し潰した。

 

「ひぁっ……!?あっ……!?」

 

 甘雨の身体が、大きく跳ねた。今までにない反応だった。旅人は構わず吸い続ける。乳首を舌で転がしながら、時折歯の先で甘く噛みそしてまた強く吸う。左の胸も、揉むだけでは足りず今度は指で乳首を抓むように転がした。

 

「あっ……あっ……!なに……これ……!?なんか……来る……!?」

 

 甘雨の声が、どんどん大きくなる。それまでとは比べ物にならないほどに。彼女の全身が震え始めた。雲の上で、脚がつま先までピンと伸びる。旅人は最後の一吸いとばかりに、右の乳首を思い切り吸い上げた。その瞬間甘雨の身体が大きく仰け反った。

 

「ああああっ!!」

 

 初めての、自覚のある絶頂。全身を電流が駆け巡るような感覚。下腹部の奥から、何かが弾けて溢れ出す。旅人はそれを見逃さなかった。彼女の秘所から、透明な液が噴き出したのだ。潮吹き。甘雨は知らなかった。自分の身体が、こんなことができるなんて。びしょ濡れになった下腹部。雲の上に、小さな水溜りができていく。その光景を甘雨は自分の目で見た。信じられなかった。けれど、確かにそれは自分が生み出したものだった。

 

「あ……ああ……」

 

 甘雨は息を切らしながら自分の下腹部を見つめた。タイツが濡れて、肌に張り付いている。その下に小さな水の膜ができていた。けれど、それもすぐに消えていく。雲が吸い取るように。この空間の雲は、水を吸収する性質があるのだろう。水溜りは少しずつ小さくなり、やがて跡形もなく消えた。けれど甘雨の身体には、確かな余韻が残っていた。

 

「これが……イク……ということ……」

「そう。これが、本当の絶頂だよ。気持ち良かった?」

「はい……!とても……!あんなに……大きなのが……来るなんて……」

 

 甘雨は、まだ少しだけ息を切らしながらそれでも嬉しそうに笑った。三千年生きて、初めて知った。自分の身体が持つこんな感覚を。そしてそれを教えてくれたのが、この人でよかったと心から思った。旅人はそんな甘雨の頭をそっと撫でた。まだ彼女の身体は、完全に満たされてはいない。胸だけでこれほどなのだ。その先には、もっと大きなものが待っている。けれど今は、この余韻を大切にしたかった。彼女の初めての絶頂を、初めての潮吹きをゆっくりと味わわせてあげたかった。

 

「甘雨」

「はい……」

「まだ、続けるよ」

「……はい。お願いします」

 

甘雨は、少しだけ照れくさそうにけれどはっきりと頷いた。旅人は彼女の頬にキスを落としてから、またゆっくりと身体を下へと移動させていく。その先にある、まだ誰も触れたことのない場所へ。

 

 旅人は甘雨の頬に落としたキスを今度は全身へと広げていく。

 首筋に、肩に、鎖骨に。一つ一つ丁寧にけれど確実に彼女の肌の上へと唇を落としていく。時には舌を這わせ、彼女の肌の味を確かめるように。甘雨の肌は汗ばんでいて、それでいてさらりとしていた。旅人はその味を少しずつ堪能しながら、ゆっくりと下へ下へと移動していく。胸元にキスを落とし、胸の谷間に顔を埋めまた少し下へ。お腹にキスを落とす。甘雨のお腹は柔らかくて、それでいてしなやかだった。筋肉のラインがうっすらと浮かんでいる。三千年を生きてきた身体。けれどその肌は、まるで十代の娘のように瑞々しかった。

 

 その間に旅人の手は、甘雨に残った衣服を片付けていく。すでに破いた胸元のタイツ。それをさらに下へと引き裂いていく。ぴりぴりと布の裂ける音が静かな空間に響く。甘雨は少しだけ身じろぎしたが、逃げようとはしなかった。旅人の手が腰のあたりまでタイツを引き裂く。そしてその下に隠れていたものを、ゆっくりと露にしていく。

 白い肌。産毛の一本もない、滑らかな肌。腰のくびれ。そしてその先にある、彼女の最も深い場所。旅人は息を呑んだ。彼女の秘所は、興奮で薄ピンク色に発色していた。そしてまるで別の生き物の様に、ひくりひくりと開いたり閉じたりを繰り返している。とても良い香りが、そこから放たれていた。甘く清涼で、そしてどこか官能的な香り。旅人はその香りを胸いっぱいに吸い込んだ。すると、自然と口の中に唾液が溜まってくる。彼女を味わいたい。その衝動が、旅人の全身を駆け巡った。

 

 旅人は改めて、甘雨の秘所をじっくりと見つめた。薄ピンク色に染まったそこは、産毛の一本も生えていなかった。つるりとした肌。まるで初めてモナの裸体を見た時と同じ感動を、旅人は感じていた。いやそれ以上かもしれない。モナの時は、まだ旅人も慣れていなかった。けれど今は違う。彼女の身体を、心から愛おしいと思える。そしてその最も深い場所を、自分のものにしたいと心から思える。

甘雨はそんな旅人の視線を感じて少しだけ恥ずかしそうに脚を閉じようとした。けれど旅人はそっとその脚を掴んで、閉じさせなかった。

 

「閉じないで」

「さ、流石にこれは、少々恥ずかしいです……」

「もっと見たいんだ。甘雨の全部を」

「ぅぅ……わかりました」

 

 甘雨は観念したようにゆっくりと脚を開いた。完全に、旅人の前に自分のすべてを晒す形になる。恥ずかしさで顔から火を出しそうなほど赤らめながらも、彼女は旅人を真っ直ぐに見つめていた。その目には、信頼とそして確かな期待が浮かんでいる。旅人はそんな彼女の太ももに、そっとキスを落とした。内側の柔らかな部分に。それからまた少しだけ上へ。彼女の最も深い場所へと、ゆっくりと近づいていく。甘雨の息が少しだけ荒くなった。

 

「旅人さん……」

「ん?」

「私……まだ、よくわからないんです。どうすればいいのか」

「何もしなくていいよ。ただ、感じてくれれば」

「はい……」

 

 旅人はそう言って今度は彼女の秘所のすぐそばまで顔を近づけた。香りが、さらに強くなる。甘くて清涼で、そして少しだけ酸味のある香り。旅人はその香りに誘われるように、ゆっくりと舌を伸ばした。まずは外側の柔らかな部分を。つるりとした肌の上を、そっと舐める。

 

「あ……」

 甘雨の腰が、小さく跳ねた。けれど旅人は止まらない。舌を少しずつ奥へと進めていく。彼女の最も敏感な場所へと、ゆっくりとけれど確実に。

 

 旅人は彼女の秘所に顔を埋めたまま、まずは一滴だけ、その入り口から滲み出た愛液を舌先で掬い取った。ほんの少しのその雫が、旅人の口内で弾ける。それはもう言葉にできない味だった。極上の美酒。かつて妹と別の世界で飲んだ、あの世界で最高と謳われた酒の味。甘さと僅かな酸味、そして喉の奥に残る深い余韻。たった一滴で、旅人の理性は根こそぎ持っていかれた。

 

(なんだ、これは)

 

 旅人はすぐにもっと欲しくなった。舌を彼女の割れ目に沿って這わせ、愛液を集めていく。とろりとした液体が舌の上で広がり、そのたびに旅人の喉が鳴った。もっともっと奥へ。彼はゆっくりと舌を彼女の中へと差し入れた。ぐにゅりとした温かい肉の壁が、旅人の舌を迎え入れる。その瞬間旅人の動きがぴたりと止まった。

 甘雨が不思議に思って声をかけた。

「旅人……? どうかされましたか……?」

 

 その声は、震えていた。旅人の舌が止まったことで彼女は何か問題があったのかと不安になったのだ。けれど旅人は答えなかった。いや、答えられなかった。今彼の脳内はたった一度味わった甘雨の味でいっぱいだった。この味をもっと欲しい。もっと奥まで。もっと深く。その欲求だけが、旅人を支配していた。

 そして、彼女の中へ差し込んだ舌を旅人は突如として激しく動かし始めた。

 

「ひぁっ!?」

 

 甘雨の口から悲鳴にも似た声が上がった。突然押し寄せてきた快感の波に、彼女は思わずのけ反る。けれど旅人は止まらない。舌を膣壁に押し付け、こそげ取るように抉る。愛液が次々と溢れ出し、旅人の口の中へと流れ込んでくる。それを旅人は夢中で飲み干した。味わうというより、貪るように。

 

「あっ!あっ!旅人っ!急にっ……ああっ!」

 

 甘雨は逃げようと腰を捻った。けれど旅人の両手が、彼女の腰をしっかりと掴んでいる。逃げるどころか、彼女の腰はむしろ旅人の方へと引き寄せられてしまう。その体勢のまま、旅人は彼女の最も敏感な部分を舌先で探し当てた。膣口のすぐ内側、小さなざらつきのある場所。そこを集中的に舐め上げる。

 

「あああっ!そこっ!だめっ!そこはぁっ!」

 

 甘雨の声が、裏返る。腰がびくびくと痙攣し太ももが旅人の頭を挟もうとする。けれどそれすらも旅人にとっては悦びだった。彼女の太ももの柔らかな感触が、彼の頬を包む。

 一度目の絶頂は、あっという間に訪れた。膣壁がきゅうきゅうと収縮し、旅人の舌を搾る。同時に透明な液がぷしゃりと噴き出した。潮吹き。旅人はそれをも逃さず、口で受け止める。甘露とも呼べるその液体を、一滴残らず飲み下した。

 けれど旅人は止まらない。いや、止まれなかった。彼女の味をもっと欲しい。もっと奥を舐めたい。もっとイかせたい。その衝動が、旅人の中でどんどん膨れ上がっていく。次はクリトリスだった。彼女の最も敏感な芽を、旅人は唇で包み込んだ。そしてそっと歯を立てる。強く噛みしめるのではなく、甘く、けれど確実に刺激するように。

 

「ひぅっ!?あっ!そこ噛んだらっ!あっ!ああっ!」

 

 甘雨の身体が大きく跳ねた。クリトリスを噛まれる快感に、彼女の脳が追いつかない。痛みではない。快感。それも、これまでに味わったことのない種類の。旅人はその反応を確かめながら、今度はクリトリスを舌先で転がした。右に左に上に下に。そしてまた、甘く噛む。

 二度目の絶頂。また潮を吹いた。旅人はそれを飲み、また舌を彼女の中へと戻す。膣壁を抉り愛液を掬い、クリトリスを転がし噛みそしてまたイかせる。その繰り返し。まるで彼女の身体を自分のものにしようとするかのように。いや、彼女の味を自分のものにしようとするかのように。

 

「あっ!あっ!まって!旅人っ!まってくださいっ!まあ゛っっでぇ!」

 

 甘雨の声が、必死に旅人を呼び止めようとする。けれど旅人の耳には、その声は届いていなかった。いや届いていたけれど止まれなかった。彼女の愛液の味が、彼の理性を完全に溶かしていた。

 三度。四度。五度。甘雨の絶頂は、間隔を詰めながら続いていく。最初は旅人も少しだけ加減をしていた。けれど回数を重ねるごとに、彼女の中から溢れ出る愛液の量が増えていき、その味がどんどん濃くなっていく。それが旅人の理性をさらに深く蝕んでいく。

 

「ああっ!もう!もうやめてっ!旅人っ!おかしくぅ!おかじくなっちゃいますっ!」

 

 甘雨の声は、もはや悲鳴だった。けれど旅人は止まらない。彼女の太ももを掴む手に、さらに力が入る。逃げようとする彼女の腰を、無理やり自分の方へと引き寄せる。その間も、舌は休むことなく動き続ける。膣壁を抉り愛液を飲み、クリトリスを噛む。もう旅人は自分が何をしているのかすら、よくわかっていなかった。ただ彼女の味をもっと欲しい。その一念だけだった。

 六度。七度。八度。甘雨の声がだんだん掠れていく。最初は必死に旅人を止めようとしていた彼女の言葉も、途中からは意味を成さなくなっていく。快感の波が、次から次へと押し寄せてきて彼女は息をすることすらままならなくなる。まるで津波だった。一度引いたかと思えば、次の瞬間にはもっと大きな波がやってくる。その波に呑まれ、揉まれ押し流される。彼女はもう、自分が何度イッたのかもわからなくなっていた。

 

「あああ!!ひぁあっ!はぁ、はぁあああ!!んぁああああああ!!」

 

 九度。十度。十一度。甘雨の目から涙が溢れ始めた。快感の涙。けれどそれは、悦びだけの涙ではなかった。あまりの激しさに、彼女の心が悲鳴を上げ始めていたのだ。三千年生きた。その間に、彼女は多くのことを知った。けれどこんな感覚は知らなかった。自分が自分でなくなるような。自分の身体が、自分のものではないような。その恐怖と悦びが入り混じった感情が、涙となって溢れ出した。

十二度。十三度。十四度。甘雨の身体は、もうほとんど力が入っていなかった。雲の上にぐったりと横たわり、ただ旅人にされるがままになっている。けれど旅人はまだ止まらない。彼女の膣壁を舐め、愛液を飲みクリトリスを噛む。その動きは、最初よりもさらに激しくなっていた。

 十五度目の絶頂を迎えた時だった。

 

「もう……やめて……ください……」

 

 甘雨の声は、掠れていた。けれどその一言は今までとは違っていた。悲鳴でも、喘ぎでもない。静かなけれど確かな拒絶の言葉だった。

 

「お願い……です……もう……限界……なんです……」

 

 そして、甘雨は静かに泣き始めた。声を上げて泣くのではなかった。ただ、涙が止めどなく溢れてくる。その涙は快感の涙ではなかった。恐怖と、そして悲しみの涙だった。自分の身体が自分の制御を離れてしまったことへの恐怖。そして、こんなに乱れてしまった自分への言いようのない悲しみ。

 その涙を見て旅人はようやく正気を取り戻した。

 

(はっ、俺……何を……)

 

 旅人は弾けるようにして甘雨の股から離れた。顔を上げると、そこには見るも無残な甘雨の姿があった。脚を大きく開いたまま、力なくぐったりと横たわって、ビクンッビクンッと不規則に痙攣し続けている。

 下腹部は愛液と潮でびしょ濡れになり、太ももには旅人が掴んだ痕が赤く残っている。そして何より、その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。三千年を生きた仙人が、まるで子どものように泣いていた。

 

「甘雨……!」

 

 旅人はすぐに彼女を抱きしめた。彼女の身体は、小刻みに震えていた。

 慌てた旅人は彼女を抱きかかえの背中をゆっくりと撫でた。何度も何度も。落ち着かせるように。自分のしてしまったことの大きさに、旅人は言葉を失っていた。彼女の味に夢中になるあまり、彼女自身のことを見失ってしまった。彼女が初めてだということも、彼女がどれほど繊細な心を持っているかも全部忘れてしまっていた。

 

「ごめん……。ごめんよ、甘雨……。こんなひどい事するつもりなかったのに……!ごめん」

 

 旅人は掠れた声で謝罪の言葉を綴った。けれどその言葉は、彼女の涙を止めることはできなかった。彼女は旅人の胸の中で、ただ静かに泣き続けていた。旅人はそんな彼女を、ただ抱きしめ謝り続けることしかできなかった。自分の愚かさを、心の底から呪いながら。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 一時間近くが経過していた。

 その間、旅人はずっと甘雨を抱きしめ続けていた。彼女の背中をさすり、髪を梳きそして何度も何度も謝り続けた。声が枯れるまで。喉が痛くなるまで。それでも足りないと思った。どれだけ謝っても、自分がしたことの重さには到底及ばないと知っていたから。

 

 やがて甘雨の身体の痙攣が治まり呼吸がゆっくりと落ち着いていく。旅人の腕の中で、彼女は静かに目を開けた。泣き腫らした目は赤く充血している。けれどその瞳は、もう涙で曇ってはいなかった。

 甘雨はゆっくりと自力で座り直した。裸体を手と足で巧みに隠し、乱れた髪を手で整える。その仕草の一つ一つが、いつもの落ち着いた彼女らしさを取り戻していくようだった。

旅人はそんな彼女の前に膝をついた。顔は青白く、唇は震えている。後悔と申し訳なさでまともに彼女の顔を見ることすらできなかった。

 

「甘雨……本当に……本当にごめん。俺は……」

 

 旅人の謝罪の言葉を、甘雨は静かに制止した。

 

「旅人。顔を上げてください」

 

 その声は、いつもの柔らかなものだった。けれどその奥には、確かな強さがあった。旅人は恐る恐る顔を上げる。甘雨は真っ直ぐに旅人を見つめていた。泣き腫らした顔。けれどその目は、逃げていない。旅人から目を逸らさずに彼女は静かに語り始めた。

 

「旅人。私は、やめてほしいと何度も言いました」

 

 旅人は小さく頷いた。言葉が出なかった。

 

「それでも、あなたは止まってくれなかった。次々に襲い来る絶頂の渦が、私は恐ろしかった。苦しかった。自分の身体が、自分のものではないみたいで。どこまで行ってしまうのかわからなくて。底なしの穴に……落ちていくような感覚でした」

 

 旅人の喉が、ぐっと詰まる。

 

「そして何より……」

 

 甘雨は少しだけ目を伏せて、それからまた旅人を見た。

 

「あなたが、あなたで無くなるのが怖かった。あの時のあなたは、私の知っているあなたではなかった。私の知らない誰かで、私の知る旅人はどこか遠くに行ってしまったみたいでした。それが……一番、悲しかったんです」

 

 旅人は自分の唇を噛んだ。血が滲むほどに強く。

 

「……ごめん。本当に、ごめん。俺、自分でも何が起きたのか……君の味に、夢中になってしまって。君を大切な人を、ただ自分の欲のために傷つけた。最低だ。俺は……君に相応しくない」

 

 旅人は絞り出すようにそう言った。自分でも思っていた。モナもノエルもバーバラも、そして甘雨も。彼女たちを幸せにするために自分はここにいるはずだった。それなのに一番大切にしなければならない瞬間に、一番大切な人を傷つけた。そんな自分が彼女の隣にいてはいけないのではないか。そう思った。

 

 だが、甘雨はそんな旅人の内心を見透かしたように、そっと首を振った。

 

「いいえ。あなたは、相応しくないなんてことありません」

「でも……」

「旅人。私は、あなたのことをよく見ています。璃月港を救ったあなたの後ろ姿。街の人に優しくするあなたの姿も。そしてさっき、私を傷つけてしまった後のあなたの顔も。全部、見ていました」

 

 甘雨はそう言って、少しだけ微笑んだ。その笑みは泣き腫らした顔の中で、それでも確かに温かかった。

 

「あなたは、後悔しました。自分のしたことを心から悔いました。そして、謝り続けました。私が泣き止むまでずっと。……それだけで、十分です。あなたが本当は優しい人だって、私は知っていますから」

 

 旅人は言葉を失った。そんな風に言ってもらえるとは思っていなかった。自分は最低なことをした。けれど彼女は、その上で自分を赦そうとしてくれている。

 

「旅人さん。私は、もう一度、あなたにチャンスをあげたいと思います」

「甘雨……」

「ただし、条件があります」

 

 甘雨は真剣な目で旅人を見た。その目は、もう泣いてはいなかった。三千年を生きた仙人の、確かな意志の光が宿っていた。

 

「今度は、ちゃんと気持ち良くしてください。私の初めてを、ちゃんと貰ってください。もう私の知らないどこかへ、行かないで。私の知っているあなたでいてください。私を、ちゃんとあなたのものにしてください」

 

 その言葉に、旅人は深く息を吸った。そして自分を奮い立たせた。彼女は赦してくれた。もう一度、チャンスをくれた。ならばそれに応えなければならない。今度こそ、彼女を幸せにしなければならない。

 

「甘雨。もう一度、お願いします」

 

 旅人は彼女の前に、深く頭を下げた。それから顔を上げて真っ直ぐに彼女を見た。その目には、もう迷いはなかった。

 

「俺は、君のことが好きだ。。君と一緒に旅がしたい。君と、これからの時間を共にしたい。君の恋人になりたい。そしていつか……君のことを、妻にしたい。君に俺の子供を産んでほしい。だから――」

 

 それは、旅人なりの精一杯の告白だった。モナにもノエルにもバーバラにも、こんなに長い言葉で想いを伝えたことはなかった。けれど今、甘雨にはそれだけの言葉が必要だった。彼女が三千年を生きて、それでもなお誰かを愛することを躊躇ってきた人だから。だからこそ、旅人ははっきりと言葉にして伝えたかった。

 

「俺に、君を永遠に幸せにさせてください」

 

 甘雨は、その言葉を聞いてゆっくりと目を閉じた。それから、静かに開いて旅人を見た。その目には、また涙が浮かんでいた。けれど今度は悲しみの涙ではない。嬉しさと、そして確かな決意の涙だった。

 

「はい。喜んで」

 

 甘雨はそう言って、旅人に微笑みかけた。三千年を生きた仙人が、今初めて本当の意味で誰かに心を開いた瞬間だった。旅人はその笑顔を見て、ようやく自分も笑うことができた。まだ上手く笑えていないかもしれない。けれど、確かに笑った。そして改めて誓った。自分が楽しむ為にこの人を気持ちよくするのではない。この人を、今度こそ幸せにする。そのために自分はここにいるのだと。

 

 旅人は改めて甘雨の前に座り直した。先ほどまでの激情はもうどこにもない。あるのはただ、目の前の女性を心から大切にしたいという静かな想いだけだった。

 

「甘雨。今度は、ちゃんとするから」

 

 その言葉に甘雨は小さく頷いた。旅人はゆっくりと顔を近づけ、そっと唇を重ねた。先ほどまでの激しさはない。触れるだけの、確かめ合うようなキス。それでも甘雨は目を閉じ、その温もりを全身で受け止めた。旅人は彼女の背中に腕を回し、ゆっくりと抱き寄せる。甘雨の身体がすっと旅人の胸の中に収まった。互いの鼓動が、重なる。どちらのものかわからないほどに近い。旅人の心臓は落ち着いていた。彼女を幸せにしたい。ただそれだけが、今の旅人を満たしていた。

 

 キスをしたまま、旅人は彼女の身体をそっと雲の上へと横たえた。甘雨は抵抗しなかった。むしろ、自分から雲に身を預け旅人を迎え入れるように両腕を伸ばした。旅人は彼女の脚の間にゆっくりと身体を滑り込ませる。そして、すっかり硬くなった自身のものを彼女の割れ目にそっと宛がった。先ほどまであれほど愛した場所は、まだ十分に濡れていた。いや先ほどよりももっと濡れているかもしれない。旅人は彼女の目を見た。

 

「いい?」

「はい」

 

 その一言を確かめてから旅人はゆっくりと腰を進めた。亀頭が彼女の入り口に触れ、そして中へと沈み込んでいく。甘雨の膣口が、旅人のものを優しく包み込んだ。温かく柔らかく、そして確かに彼女の一部が今旅人を受け入れようとしている。

 

「あ……」

 

 甘雨の口から小さな吐息が漏れた。けれどそれは痛みの声ではなかった。旅人は注意深く、少しずつ少しずつ、彼女の奥へと進んでいく。処女膜を破る瞬間も、甘雨はただ静かに息を吐いただけだった。先ほどまであれほど激しく絶頂を繰り返したせいだろう。彼女の身体は十分に解されていて、痛みはほとんど感じられなかった。それよりも彼女の意識を占めていたのは、初めて味わう感覚への戸惑いとそして、確かな快感だった。

 

「空が……私の、中に……」

「うん。今、甘雨の中にいるよ」

 

 旅人はそう言って彼女の両脚をそっと自分の腰に回させた。甘雨は言われるままに脚を絡め、そして両腕も旅人の背中に回した。全身で旅人を抱きしめる形になる。彼女の柔らかな胸が、旅人の胸に押し付けられた。互いの体温が直接伝わってくる。

 

「ん……」

 

 旅人が少しだけ腰を引くと甘雨の膣壁が名残惜しそうに収縮した。それからまたゆっくりと奥へ。その繰り返し。彼女の内側を、一つ一つ確かめるように。甘雨はその感覚に、必死に耐えていた。初めての感覚。異物が体内に入り込み、それが少しずつ動く。けれどそれは決して不快ではない。むしろ、もっと奥へ。もっと深く。そう思ってしまう自分に、甘雨は少しだけ戸惑った。

 

 旅人の動きは、最初はとてもゆっくりだった。彼女の反応を見ながら、少しずつペースを上げていく。甘雨の呼吸が、少しずつ荒くなっていく。それでも旅人は焦らなかった。彼女の内側を、優しく丁寧に、そして確実に愛していく。

 

「あ……あぁ……」

 

 甘雨の声が、少しずつ甘くなっていく。旅人は彼女の耳元で静かに囁いた。

 

「気持ちいい?」

「はい……少しずつ……」

「よかった」

 

 旅人はそう言って、またキスをした。今度はさっきより少しだけ深く。そしてそのまま、腰の動きを少しだけ強くする。甘雨の声が少しだけ大きくなった。それでも、彼女は逃げなかった。旅人の背中に回した腕に、少しだけ力を込めた。その仕草がもっと、という合図のように旅人には感じられた。

 

 旅人は彼女の腰をそっと抱え、少しずつ抽送のスピードを上げていく。彼女の中は、先ほどまでの激しい愛撫のせいか驚くほど柔らかくそしてよく締まった。引き抜こうとすると名残惜しそうに絡みつき、押し込むと嬉しそうに受け入れる。まるで生き物のようだった。旅人はそんな彼女の内側に、次第に夢中になっていく。けれど今度は自分を見失うことはなかった。彼女の顔を見ながら、彼女の声を聞きながら彼女の反応を確かめながら。一歩ずつ、二人で登っていく。

 

やがて、旅人の先端が彼女の最も深い場所に触れた。子宮口。甘雨の身体が、その瞬間小さく跳ねた。

 

「あ……」

「ここが……」

 

 旅人はそこで一度動きを止めた。彼女の最奥。三千年を生きた仙人の、最も深い場所。そこに今自分が触れている。その事実が、旅人の胸に深く響いた。甘雨もその感覚を感じ取っていた。彼女の膣壁が、旅人の先端をきゅうきゅうと締め付ける。もっと奥へ。そう促すように。けれど旅人はすぐには動かなかった。彼女の反応を確かめたかったから。

 

「甘雨。ここが、一番奥だよ」

「はい……わかりますっ……」

「入ってもいい?」

 

 旅人の先端が、甘雨の子宮口にぴったりと密着していた。

 その瞬間、旅人の脳裏をよぎったのは数日前のバーバラの記憶だった。あの時もこうして、最も深い場所に触れそしてその向こうへと入っていった。バーバラの子宮を食い破ったあの感覚。あれは決して痛みではなかった。互いの限界を超えて、より深く繋がるための通過儀礼。そして今同じことが甘雨の身に起きようとしていた。

 旅人はゆっくりと腰を押し込んだ。ぐりと子宮口が押し広げられる。僅かな隙間。そこを少しずつ、少しずつ押し開いていく。

 

「あぁ……っ」

 

 甘雨の腰が震えた。子宮口を弄られる感覚。それは彼女にとって未知の悦びだった。これまで三千年、自分の身体の最も深い部分に触れられたことなど一度もなかった。それが今、旅人の熱いものでこじ開けられようとしている。圧迫感。けれど痛みではない。もっと深い場所から湧き上がる、甘い痺れのような感覚。

 

「甘雨」

 

 旅人は一度、動きを止めた。彼女の顔を覗き込む。潤んだ瞳。上気した頬。けれどその目は、しっかりと旅人を見ていた。

 

「君の一番大事な場所に、入らせてほしい。君の子宮の中に俺を受け入れてほしい」

 

 それは、確認ではなくお願いだった。旅人は彼女の意思を尊重したかった。無理に奪うのではなく、彼女自身が望んで受け入れてほしかった。

甘雨は、旅人のその言葉を聞いて静かに目を閉じた。それからまた開いて、真っ直ぐに旅人を見つめた。

 

「……来てください。私の子宮へ」

 

 その言葉は、震えていたけれど確かな意志を帯びていた。三千年を生きた仙人が、今、自ら望んでその最も神聖な領域を旅人に差し出した。その瞬間、旅人の理性は完全に彼女のものになった。

 

「——っ」

 

 旅人は腰を、一気に押し込んだ。子宮口がぐりゅりと押し広げられていく。抵抗は一瞬だけだった。すぐに、亀頭がその奥へと滑り込んでいく。ぬるりとした、けれど確かな手応え。甘雨の最も深い場所。三千年間、誰も触れたことのない聖域。そこに今旅人のものが侵入していく。

 

「ひぁ……ああああ……っ!」

 

 甘雨の身体が大きく仰け反った。目の前が、白く弾ける。強い圧迫感。子宮をこじ開けようとする旅人の肉棒の感触。それらが混ざり合って、彼女の脳を焼く。痛みはない。あるのはただ圧倒的な快感。自分の内側から、自分が塗り替えられていくような感覚。

 旅人も、その感覚に息を呑んだ。彼女の子宮口がきゅうきゅうと収縮し、旅人のものを締め付ける。まるで逃がすまいとするかのように。そして、その奥の柔らかな空間。彼女の最も神聖な領域。そこを今、自分が初めて汚している。その事実が旅人にさらなる快感を与えた。

 

(ああ……で、でるぅ!)

 

 動いていないのに旅人の腰が震えた。彼女の深部に到達しただけで、射精感が込み上げてくる。いや一度目の射精はすでに始まっていた。子宮口を貫いた瞬間、彼女の膣壁が収縮しそれが旅人のものを搾り取ろうとする。その感覚に耐えきれず、旅人は熱い奔流を彼女の子宮の中へと解き放っていた。

 

「ああっ……!」

 

 甘雨も、同時に達した。子宮を貫かれた快感。旅人の精が注ぎ込まれる感覚。それらが重なり合って、彼女は全身で絶頂を迎えた。膣壁が激しく痙攣し、旅人のものをより深くより強く締め付ける。旅人はその収縮に耐えながら、まだ射精を続けていた。彼女の子宮の中へ直接。三千年の時を生きた仙人の、最も深い場所へ。その光景が旅人の脳裏に焼き付く。

 

(これが……甘雨の……子宮の感触……す、すごい♡)

 

 一度目の射精が終わっても旅人のものはまだ硬いままだった。いや、むしろ先ほどよりも硬度を増している。彼女の聖域を侵したという事実が、旅人をさらに興奮させていた。そして二度目の波が、すぐにやってきた。

 

「あ……ま、またっ……出、て……?」

 

 甘雨が、小さく呟く。彼女の内側で旅人のものが再び脈打ち始めていた。動いていない。なのに、二度目の射精が始まる。それは彼女の子宮を初めて汚したという感覚。そのイメージが、旅人に更なる快感を与えた。彼女の最も神聖な領域を、自分のもので満たす。その事実が旅人の理性を再び溶かしていく。

 

「か、甘雨……!」

 

 旅人は、彼女の名前を呼んだ。それだけで精一杯だった。二度目の精が、彼女の子宮を更に白く染め上げる。それでも足りないとばかりに、旅人の腰が小さく動いた。彼女の深部でゆっくりと。その動きに合わせて、甘雨の身体も再び震え始める。

 

「あ……あ……」

 

 甘雨の声が、また甘くなっていく。二度目の絶頂が彼女を襲おうとしていた。子宮を貫かれたままの状態で、旅人のものが少しだけ動く。それだけで彼女の全身に電気が走る。先ほどとは比べ物にならないほどの敏感さ。三千年分の初めてを、今すべてこの人に捧げている。その感覚が甘雨をさらに高みへと連れていく。

 

「そ、らっ……!空ぁっ……!」

 

 甘雨は、初めて旅人を名前で呼んだ。それは彼女が完全にこの人を自分のものだと、自分は彼のものだと認めた瞬間だった。旅人はその声を聞いて、ようやく動きを止めた。いや止まらざるを得なかった。彼女の内側が、あまりにも強くあまりにも優しく、旅人を締め付けるから。

 

「甘雨」

 

 旅人は、そっと彼女の額にキスを落とした。汗ばんだ肌。上気した頬。けれどその表情は、この上なく幸せそうだった。旅人はまだ彼女の大事な最奥に入ったまま。深く深く繋がったまま、二人はしばらく動けなかった。絶頂の余韻が、まだ全身を駆け巡っている。

 

「君の中……すごかった、いやすごいよ」

 

 旅人が、ぽつりと漏らした。甘雨は小さく笑った。

 

「私も……です。こんなの……初めて……」

 

 その言葉に、旅人の胸が熱くなった。初めて。三千年を生きた彼女の初めてを、自分がもらった。その事実が旅人をこの上なく満たした。

 

「甘雨。もう一度、いい?」

「……はい」

 

 甘雨は、すぐに答えた。もう迷いはなかった。旅人も、彼女の返事を聞いてゆっくりと腰を引き始めた。まだ彼女の中にいる。それだけで、また射精感が込み上げてくる。けれど今度は、もっと彼女を感じながら。もっと彼女を愛しながら。そう思って、旅人は再び腰を進め始めた。

 

 旅人は再び腰の律動を始めた。最初は彼女の子宮を気遣うように、浅く、ゆっくりと。けれど数度の抽送のうちにある違和感のようなものを覚える。バーバラの時とは明らかに違う。バーバラの子宮口は確かに柔らかかったが、それでもどこかしっかりとした弾力があった。けれど甘雨のそれは、まるで雲の上を歩くようなそんな柔らかさだった。押せば沈み、離せば戻る。まるで生きているかのように旅人のものを優しく包み込む。

 

「甘雨の子宮……すごく柔らかいな」

「あ……そう……なのですか……? 私……自分では……わからなくて……」

 

 甘雨は目を閉じたまま小さく喘いだ。旅人のものが自分の最深部をこねるように動く。その未知の感覚に、彼女はただ身を委ねるしかなかった。子宮を直接、上下に揺らされる。まるで身体の芯から自分が作り替えられていくような感覚。怖い。けれど、もっと欲しい。その矛盾した感情が甘雨の口から甘い声を溢れさせる。

 

「あ……あぁ……空…」

 

 旅人は彼女のそんな声を聞きながらそっとタイミングを計っていた。一度、大きく腰を引く。彼女の子宮から自分のものを引き抜く。ずるり、という感触。あっさりと抜けた。バーバラの時は、まるで子宮が吸い付いて離れないかのようだった。けれど甘雨のそれは、実にあっけないほど滑らかに旅人を解放した。

 

 けれどその衝撃は甘雨の全身へと波及した。

 子宮口を通り抜ける瞬間彼女の最も敏感な部分が、大きく擦られる。引き抜かれるという感覚が、彼女の脳を白く染め上げる。一瞬の空白。そして、全身を貫くような絶頂。

 

「ひぁあっ!!」

 

 甘雨の背中が、大きく反った。雲の上で彼女の身体が弓なりにしなる。脚が、旅人の腰をきつく挟み込む。膣壁がまるで旅人のものを名残惜しむかのように、激しく収縮した。それでも旅人は完全に彼女から離れた。そして、彼女の状態を伺う。

 

「甘雨……大丈夫?」

 

 彼女は、目を開けた。その瞳からは一筋の涙がこぼれていた。快楽の涙。けれどその口元には、確かな笑みが浮かんでいた。

 

「はぃ……大丈夫……です。すごく……気持ちよくて……それだけ……」

 

 その笑顔を見て、旅人は安堵した。そして再び彼女の腰を掴む。今度は、さっきまでとは違う。彼女の子宮へ向けて大きく腰を叩きつける。無抵抗な彼女の最奥を、再び抉り貫く。

 

「ああっ!」

 

 甘雨の声が、また上がる。けれどもう逃げない。旅人も、もう止まらない。二人は名を呼び合いながら、夢中でそれを繰り返した。

 

「甘雨っ!」

「空っ!空ぁっ!」

 

 互いのものを、全力で求め合う。彼女の子宮を抜き差しされるたびに、甘雨は絶頂し痙攣した。旅人も、数回の往復ですぐに射精してしまう。それでも、二人は止まれなかった。一度達してもすぐにまた欲しくなる。彼女の中は、あまりにも心地よすぎた。彼女の声はあまりにも愛おしすぎた。

 

 やがて、流石の二人でも体力の限界が近づいてきた。旅人の腰の動きが、少しずつ鈍くなる。甘雨の声も掠れてきた。それでも、二人の目はまだ相手を求めていた。次が最後だと、旅人は理解した。そして彼女に告げる。

 

「甘雨……出すよ。最後に、本気の射精。甘雨の子宮に……直接、種付けするよ」

 

 その言葉に、甘雨の目が、大きく見開かれた。そしてすぐに、それを乞う。

 

「はいっ!くださいっ!空の……いっぱい……私の子宮にっ!」

 

 旅人は、ラストスパートをかけた。腰をこれまでで一番激しく振る。彼女の子宮口を、何度も何度もこじ開ける。そして、叫ぶ。

 

「孕めっ!孕め、甘雨!俺の子種で孕めぇえ!!」

 

 甘雨も、それに応えるように叫んだ。

 

「はぃいっ!孕みますぅ!今日、妊娠しますっ!空の赤ちゃんっ!孕ませてぇええ!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間旅人の理性は、完全に消え去った。彼女の子宮の中で今日一番の、大量の精液を解き放つ。熱い奔流。彼女の最も深い場所を、白く染め上げる。

 

「あああっ!!」

「ひぁああっ!!」

 

 二人の雄たけびのような、歓喜の悲鳴が静かな秘境に響き渡った。甘雨の膣壁が、旅人のものをきゅうきゅうと締め付ける。まるで、一滴残らず搾り取ろうとするかのように。旅人も、その収縮に耐えながらまだ射精を続けた。彼女の子宮が、彼女の身体が自分のもので満たされていく。その事実が、旅人をこの上ない幸福で包んだ。

 

 甘雨の子宮を精液で限界まで膨らませながら、旅人は最後の一滴まで注ぎ続けた。彼女の最も深い場所が、自分のもので満たされて塗り替えられていく。その感覚に旅人の全身が震えた。

 

 甘雨は、旅人の肉棒が子宮の中で射精に合わせて跳ねるたびに、小さく声を漏らしていた。びくっびくっ、と脈打つ感覚。そのたびに子宮の中に熱いものが注ぎ込まれていく。僅かに膨らんで、少しずつ重くなっていく自分のお腹。その感覚が、甘雨に甘く痺れる快楽を断続的に与え続けた。彼女は軽く絶頂し続けていた。大きな波ではない。けれど確かに、何度も何度も小さな波が彼女を洗っていた。

 

 やがて、最後の一滴が注ぎ終わる。旅人のものがゆっくりと脈打つのをやめた。それでも、彼女の中はまだ収縮を続けていた。名残惜しむように。けれど、旅人も甘雨ももう限界だった。

 

二人は無意識に止めていた呼吸をようやくまともに戻した。はあ、はあ、と乱れた呼吸が静かな秘境に響く。旅人の身体は、今にも崩れ落ちそうだった。体力の限界。腰の奥が、じんじんと痛む。それでも倒れこむわけにはいかなかった。彼女をこのまま、雲の上に放り出すわけにはいかない。

 

旅人は歯を食いしばって、なんとか身体を支えた。そしてゆっくりと彼女を抱え上げる。甘雨はもう、自力で動くことすらできなかった。ぐったりと、旅人の腕に身を預けている。旅人は慎重に彼女を抱えたまま身体を反転させた。自分が下になって、雲の上に仰向けに寝転ぶ。その上に甘雨をそっと寝かせる。勿論、甘雨の子宮に自身の肉棒は入ったままだ。繋がったまま、体位を入れ替える。ずるりと中で旅人のものが動く。その感触だけで、甘雨の身体が小さく跳ねた。

 

「ぅぁっ……」

 

 けれどそれ以上の声は出なかった。もう声を出す力も残っていない。それは旅人も、同じだった。

 仰向けになったことでようやく身体を休めることができた。雲の上は、驚くほど心地よい。ふわふわとしていてそれでいて確かな支えがある。まるで、この場所そのものが二人を包み込んでくれているようだった。

 

 旅人の胸の上で、甘雨が静かに呼吸をしている。彼女の胸が旅人の胸にぴったりと重なってその柔らかな双丘を押し潰す。二人の心臓の音が、重なり合う。どちらのものかもうわからない。旅人はそっと、彼女の頭に手を置いた。水色の髪に指を差し込む。角のすぐそば。彼女の最も敏感な場所の一つ。けれど今は、ただ優しく撫でるだけだった。甘雨はその手のひらの温もりに、小さく息を吐いた。

 

「空……」

「ん?」

「私……まだ、入ってます……」

「うん。わかってる」

「あたたかい……」

 

 甘雨は、旅人の胸に頬を預けたままぽつりぽつりと話し始めた。その声は、いつもの丁寧な口調ではなくもっと素直で、もっと柔らかなものだった。

 

「お腹の中が……いっぱいで……でも、もっと欲しいって……思ってしまいます」

「……そうなんだ」

「はい。三千年、生きてきて……こんなに欲張りな自分を、知りませんでした」

 

 旅人は、少しだけ笑った。自分も同じだった。彼女の中にいる。それだけで、また欲しくなってしまう。けれど今はこの静かな時間を大切にしたかった。彼女の温もりを、彼女の重みを彼女の存在そのものを、ゆっくりと味わいたかった。

 

 旅人はしばらく甘雨の髪を撫でていた。

 その手のひらの温もりが心地よくて、甘雨は目を閉じてその感触に身を委ねていた。旅人の胸の上で、彼女の呼吸がゆっくりと整っていく。けれど旅人の心は、別のところにあった。伝えなければならないことがある。甘雨が落ち着いた今こそ、話すべきことが。

 

「甘雨」

「はい」

「まだ君に言っていない事があるんだ」

 

 甘雨はゆっくりと顔を上げた。その目は、少しだけ眠たそうだった。三千年を生きた仙人でも、ここまでの激しい営みの後では眠気が勝るらしい。けれど旅人の声のトーンが、いつもと少し違うことに気づいたのだろう。彼女は静かに旅人の顔を見つめた。

 

「本当なら、もっと先に言わなければならなかったことなんだ。でも……君と想いが通じ合ったのが嬉しくて、つい言いそびれてしまって」

「何ですか?」

 

 甘雨の声は、静かだった。責めるでもなく急かすでもなく、ただ真っ直ぐに旅人の言葉を待っている。

 旅人は、ゆっくりと話し始めた。

 

「俺は、モンドで三人の女性と恋人になっている」

 

 その一言に、甘雨の目が少しだけ見開かれた。けれど彼女は何も言わなかった。旅人の言葉を、ただ静かに聞いている。旅人は続けた。

 

「モナ、ノエル、バーバラ。占星術師でメイド騎士で、シスターだ。三人とも俺の大切な人たちだ。君と同じように、心から愛している」

 

 甘雨は、ゆっくりと瞬きをした。それだけだった。表情は、あまり変わらない。けれどその瞳の奥で何かが静かに動いているのが旅人にはわかった。

 

「それでね、甘雨。俺の周りにはこれからも多くの女性が現れるだろうって、モナが予言したんだ。彼女は占星術師だから、その予言は確かなんだ。俺は多くの女性と関係を持ち、その全員と恋人を経て妻とし一人につき何人もの子供を孕ませることになるって」

 

 旅人の声は、静かだった。けれどその言葉の一つ一つは、確かな重みを持っていた。甘雨はただ黙って聞いている。旅人は続けた。

 

「もう、洞天には三人のための部屋が用意されている。マルが作ってくれたんだ。彼女たちは、それぞれの生活を続けながら洞天に住んで俺と過ごしている。ほぼ毎日、彼女たちとの子作りに励んでいるよ」

 

 甘雨の手が、旅人の胸の上で少しだけ動いた。けれど彼女はまだ何も言わない。旅人は、最後の言葉を紡いだ。

 

「甘雨。俺は、君にもその一員になってほしい。俺を支えてほしい。今日みたいに俺と子作りして、いつか俺の子を産んでほしい。そしてこれから先も増えていくであろう他の女性たちを、受け入れてほしい。……身勝手なのは、わかっている。でもこれが俺の正直な気持ちなんだ」

 

 全てを語り終えた時旅人はようやく息を吐いた。胸の内を明かすことで、少しだけ楽になった。けれど同時に恐怖もあった。甘雨が、この話を聞いてどう思うか。三千年を生きた仙人が、自分のような男のハーレムの一員になることを、受け入れてくれるのか。

 

 甘雨は、しばらく黙っていた。旅人の胸の上で静かに呼吸をしている。その時間が、旅人には永遠にも思えた。やがて彼女はゆっくりと顔を上げた。その目は、涙で潤んではいなかった。怒りに燃えてもいなかった。ただ、静かで深い。三千年の時を生きた仙人の、底知れない静けさがあった。

 

「空」

 

 彼女は、旅人の名を呼んだ。その声は柔らかかった。けれど、確かな意志を帯びていた。

 

「あなたが今、全てを話してくれたこと。それが嬉しいです」

 

 旅人は、少しだけ驚いた。怒られるか失望されるか、そう思っていたから。

 

「本当なら、もっと早く知りたかった。けれどあなたが隠し続けることもできたのに、それをしなかった。それは私を信じてくれたからですよね」

 

「甘雨……」

「私は、三千年生きてきました。その間に多くの人の愛を見てきました。一人だけを愛する人もいれば、多くの人を愛する人もいました。どちらが正しいとか、そういうことではないと私は知っています」

 

 甘雨は、少しだけ身体を起こした。旅人の上に跨ったまま、彼の顔を真っ直ぐに見下ろす。その姿は神々しいほどに美しかった。汗ばんだ肌。乱れた髪。それでも、彼女の目は澄んでいた。

 

「あなたが、多くの女性を愛しその全員を幸せにしようとしていること。私は、それを否定しません。むしろ……」

 

 彼女は、少しだけ微笑んだ。それは先ほどまでの快楽の笑みではなく、もっと深い魂の底からの笑みだった。

 

「むしろ、素敵だと思います。あなたは誰も見捨てない。誰も傷つけない。そのために、自分が傷つくことも厭わない。そんなあなたを、私は愛しいと思っています」

 

 旅人は、言葉を失った。まさかこんな風に言ってもらえるとは思っていなかった。

 

「モナさん。ノエルさん。バーバラさん。私は、まだお会いしたことがありませんがきっと素敵な方たちなのでしょうね」

「うん。みんな、素敵な人だよ」

「ふふ。でしたら、私もその一員になれることを光栄に思います」

 

 甘雨は、そう言って旅人の胸に頬を預けた。その重みが、旅人の心を満たしていく。彼女は受け入れてくれた。自分の全てを、受け入れてくれた。

 

「ただし、条件があります」

 

 甘雨は、顔を上げずに言った。その声は少しだけいたずらっぽかった。

 

「条件?」

「はい。私は、あなたの一番でいたいとは思いません。でも、あなたの特別でいたいとは思います。他の誰でもない、私だからこそできることを見つけてください。そして、それを私にください」

 

 旅人は、少しだけ考えた。そして答えを見つけた。

 

「甘雨は、甘雨だよ。それだけで俺にとっては特別だ。でも、そうだな……」

 

 旅人は、彼女の頭に手を置いて角の根本を優しく撫でた。甘雨の身体が、小さく震えた。

 

「君のその角。俺だけが触れることを許される、そういう存在でいてほしい。他の誰でもない、俺だけ。この世界でただ一人、俺だけが君の角をこうして愛撫できる権利」

 

 その言葉に、甘雨は少しだけ身体を強張らせた。それから、小さく笑った。その笑みは照れ隠しのようにも見えた。

 

「それは、とても特別なことですよ。麒麟の角は私たちにとって最も神聖な場所です。それをあなたに許すということは……」

「うん。わかってる。だから、言ったんだ」

 

旅人は、真剣な顔でそう言った。甘雨はしばらく旅人の顔を見つめていた。それから、ゆっくりと頷いた。

 

「わかりました。私の角は、あなただけのものです」

 

 その言葉に、旅人の胸が熱くなった。彼女の最も神聖な場所を、自分だけに許してくれる。それ以上の愛の証が、他にあるだろうか。

 

「甘雨。ありがとう」

「いいえ。こちらこそ、ありがとうございます。こんな私を愛してくれて」

 

 甘雨は、旅人の胸に頬を預けたまま小さく呟いた。その声は、もう眠たそうだった。

 

「空。私、少し眠ってもいいですか」

「ああ。ゆっくり休んでいいよ。俺も、このままでいるから」

「はい。おやすみなさい。空」

「おやすみ、甘雨」

 

 甘雨の呼吸が、少しずつ深くなっていく。彼女は旅人の胸の上で、静かに眠りに落ちていった。その寝顔は三千年を生きた仙人とは思えないほど、幼く、そして安らかだった。

 

 旅人は、そんな彼女の頭を撫で続けた。雲の上の静かな時間。洞天に戻れば、モナたちが待っているだろう。けれど今はこの時間を大切にしたかった。彼女の温もりをその体の内側で直接感じながら、彼女の重みを彼女の存在をそっと抱きしめて。旅人は、そっと目を閉じた。

 疲れていた身体がゆっくりと休息を求めていた。けれど、心は大いに満たされていた。新しい家族がまた一人増えた。その事実が、旅人をこの上なく幸福にしていた。

 

 やがて、旅人も静かに眠りに落ちていった。二人の呼吸が、重なり合う。

 

 雲の上の秘境は今日も静かだった。けれど、その静けさの中に確かな温もりがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクン

 

 

 

 そして

 

 

 

ドクン

 

 

 

 彼女の中心で新たな命の脈動が芽吹くことになる。

 

 

 

 

 

 

 

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