甘雨が、小さく身じろぎをした。
三千年の時を生きた仙人の長い眠りから覚める瞬間の仕草だった。雲の上で、彼女の睫毛が震えゆっくりと目が開く。その瞳は、まだ夢の名残を湛えて潤んでいた。
「ん……ここは……」
呑気な声だった。寝起きの、頭がまだ働いていない幼い少女のような声。自分がどこで、何をしていたのか。その記憶が追いつく前に、身体が先に動く。甘雨は上体を起こそうとした。ただ単純に、寝返りを打つつもりだった。
その瞬間。
ずぐり、という感触が彼女の最も深い場所で爆ぜた。
「ひぁああっ!?」
悲鳴は、ほぼ悲鳴の形を成していなかった。喉の奥から絞り出された、獣じみた絶叫。先ほどまで静かだった秘境に、その声がこだまする。甘雨の背中が雲の上で大きくしなる。弓なりに反った身体。宙に浮いた腰。そして、旅人のものを咥えたままの子宮が不意打ちの快感に耐えきれず激しく痙攣した。
ぎゅうう、と。
旅人の剛直をまるで握り潰そうとするかのように、膣壁が収縮する。いや収縮では足りない。搾取。膣壁のすべてが、旅人のものを根こそぎ搾り取ろうとする。そのあまりの刺激に、旅人は目を覚ます暇すらなかった。
「ぅあっ!?」
彼が意識を取り戻した瞬間、それはもう、甘雨の中に注がれていた。どくどくどくと。三時間前の最後の射精で、すでにパンパンに膨らんでいた子宮にさらに新しい精液が注ぎ込まれていく。それが、旅人の意志とは無関係に生理的な反射として起きていた。
「あっ!ああっ!また、出てる!中でまたっ!」
甘雨は、その感覚をはっきりと味わっていた。すでに精液で満たされている子宮が、さらに膨らんでいく。熱い奔流が子宮壁を叩く。圧迫感。充満感。そして、逃げ場を失った先ほどの精液が子宮口と旅人のものの隙間から、ぷしゅりと溢れ出した。その感覚すらも甘雨にとっては快感だった。
「あああっ!いや、またイっ……!」
二度目の絶頂は一度目の余韻が冷めぬうちに訪れた。子宮口が、旅人のものをより強く締め付ける。亀頭を奥へ奥へと引き込もうとする。甘雨の身体は、もはや言うことを聞かなかった。全身が痙攣し、雲の上で跳ねる。白い肌が汗ばみ上気した頬には涙が伝う。その涙が、快感から来るものなのかそれともあまりの刺激に耐えかねてのことなのか、彼女自身にももうわからなかった。
旅人は、ようやく状況を把握した。
(ああ、そうか。俺、甘雨の中で……)
繋がったまま眠ってしまっていたのだ。その事実に気づいた時には、すでに遅かった。二度目の射精が終わりようやく収まりかけた旅人のもの。しかし、甘雨の膣はまだ収縮をやめない。痙攣が断続的に旅人を締め付ける。そのたびに、彼女の子宮口が亀頭を甘噛みするような刺激を与えてくる。
「甘雨。ごめん。起きたら、その」
旅人は、どうにか言葉を紡ごうとした。けれど甘雨はそれに応えられなかった。まだ、絶頂の余韻の中にいた。彼女の口から漏れるのは、意味を成さない甘い吐息ばかり。その声が旅人の理性をまたしても溶かしていく。
「ぁ……あ……空……」
ようやく、彼女が旅人の名を呼んだ。けれどその声はまだ焦点が定まっていない。夢見心地の、とろけた声。
「……まだ、入ってます」
「うん。わかってる」
「……あったかい。それに、いっぱい」
甘雨は、自分の下腹部にそっと手を当てた。そこは旅人のもので満たされている。三時間前の精液と、つい先ほどの精液。それらが混ざり合い彼女の子宮を重くしている。その重みが、甘雨にはたまらなく愛おしかった。
「空」
それは、今までで一番小さな声だった。けれど一番強い意志を帯びていた。
「もう一度、してください。今度はゆっくりと。私の全部を、あなたで満たしてください」
旅人は、その言葉を聞いてようやく自分もまた、彼女を求めていることに気づいた。眠る前と同じくらいに、いや、それ以上に彼女が欲しい。甘雨の、この柔らかな身体を。この温かい内側を。この甘い声を。
「わかった。今度は、ゆっくりと」
旅人は、甘雨の腰に手を添える。彼女はその手のひらの温もりに小さく頷く。まだ身体は震えている。けれど、もう逃げない。いや逃げられない。彼女の身体が旅人のものを離そうとしないのだ。まるでもう二度と離れないと誓うかのように。
旅人はゆっくりと腰を引いた。ずるりという感触。甘雨の膣壁が、名残惜しそうに旅人のものを追いかける。子宮口が、亀頭を離すまいときゅうと締め付ける。その刺激に旅人も小さく息を呑んだ。けれど今度は止まらない。ゆっくりと、確実に彼女の最も深い場所から、旅人のものが抜けていく。
「あ……あぁ……」
甘雨の声が少しずつ大きくなる。子宮口を通り抜ける瞬間の、あの独特の感覚。引き抜かれる。それだけで彼女の全身に電気が走る。足先がぴんと伸びる。雲を掴む指に力がこもる。そして子宮の中から完全に旅人のものが抜け――
「ひぁっ……!」
小さな絶頂が彼女を襲った。膣口から、透明な愛液がぷしゅりと溢れ出す。甘雨の潮吹きを見ながら膣から自分の放った精液を巻き込んで完全に抜き出す。
旅人の精液と甘雨の愛液とが混ざり合い雲の上に小さな水たまりを作った。けれど、この空間の雲はすぐにそれを吸い取ってしまう。まるで、何もなかったかのように。
旅人は、抜いた自分のものをしばらく見つめていた。彼女の愛液と、自分の精液でそれは濡れていた。白く、濁った液体。それでも不思議と不快ではなかった。彼女の一部を、自分の中に感じるようで。いや実際に感じている。彼女の体液が、自分のものに付着している。その事実が旅人をまたしても興奮させた。
「甘雨。まだ、いける?」
「……はい」
甘雨は、小さく頷いた。その顔は少しだけ疲れているようにも見えた。けれど、その目はまだ旅人を求めていた。三千年を生きた仙人の、底知れない欲。いやそれは、この人だけへのたった一人への、純粋な想い。
旅人は、彼女の脚の間に再び身体を滑り込ませた。先ほどまで、あれほど激しく愛し合った場所。けれどその入り口は、まだ柔らかく旅人を受け入れる準備をしていた。いや、準備など必要なかった。彼女の身体はもう旅人のものを覚えている。この形を。この熱を。この重さを。
「入るよ」
「はい」
旅人は、ゆっくりと腰を進めた。先ほどまでとは違い焦らず急がず。ただ彼女の内側を一つ一つ確かめるように。亀頭が膣口に触れる。それだけで甘雨の身体が小さく震えた。旅人はその反応を見逃さなかった。
「大丈夫?」
「はい。……ただ、少し、敏感で」
「だろうね。三時間も、入ってたから」
旅人は少しだけ笑った。甘雨もそれにつられる様に小さく笑った。その笑みはどこか照れくさそうで、それでいてこの上なく幸せそうだった。
亀頭がゆっくりと彼女の中へと沈んでいく。数時間前まであれほど激しく出し入れしていた場所。けれど今は違う。もっと確かめ合うように。もっと慈しむように。甘雨の膣壁が旅人のものを優しく包み込む。先ほどまでの搾り取るような収縮ではない。もっと柔らかなそれでいて確かな圧迫感。まるで彼女の身体そのものが旅人を歓迎しているかのようだった。
「あ……空……」
甘雨の声が旅人の名を呼ぶ。その声はもう先ほどまでの悲鳴のようなものではない。もっと静かでもっと深い。三千年を生きた仙人の魂の底からの声。
「ん。なに?」
「……うれしい」
その一言が、旅人の胸に、深く突き刺さった。嬉しい。ただそれだけ。けれど、その一言に彼女のすべてが込められていた。孤独だった三千年。誰にも触れられなかった、この身体。誰にも明かせなかったこの想い。それを、今、旅人が受け止めている。その事実が甘雨を、この上ない幸福で満たしていた。
旅人は、ゆっくりと腰を動かし始めた。最初は浅く、彼女の入り口付近をそっと擦るだけ。それでも甘雨の身体は大きく反応した。びくんと跳ねる。けれどもう悲鳴は上げない。ただ甘い吐息を静かに漏らすだけ。
「ん……あ……いい……」
旅人は少しずつ深くしていく。彼女の内側をゆっくりと、けれど確実に味わっていく。膣壁の一つ一つの襞を指で確かめるように。いや指ではない。彼の最も敏感な部分で。甘雨の内側は驚くほど複雑だった。先ほどまでの激しい営みのせいで少しだけ腫れているのだろう。それが普段よりも旅人に強い刺激を与えた。
「甘雨の中、すごいよ。熱くて柔らかくて」
「あ……そんなこと、言わないで。……恥ずかしい」
「本当のことだよ。……それに」
旅人はそこで一度、動きを止めた。そして彼女の最も深い場所。子宮口にそっと先端を触れさせた。甘雨の身体がその感触に大きく跳ねた。
「ここが、一番いいんだろ?」
「ぁ……あ……それは……」
「さっき、ここを突かれて何度もイってたもんな」
「あ……あぁ……そんな……言わないで……」
甘雨は顔を赤らめて首を横に振った。けれどその身体は正直だった。子宮口に触れられた瞬間、彼女の膣がきゅうと締まった。もっと、という合図のように。旅人はその反応に小さく笑った。そしてゆっくりと腰を押し込む。
「あぁっ……!」
甘雨の背中がまたしても、弓なりに反る。けれど今度は、先ほどまでのような不意打ちの絶頂ではない。もっと、深い場所からじわじわと湧き上がってくる、確かな快感。旅人のものが子宮口をゆっくりと、けれど確実に押し広げていく。三時間前すでにこじ開けられた場所。けれど、また、締まりかけていたのだろう。旅人のものがその隙間を、もう一度押し開いていく。
「あ……あぁ……空……深い……」
「うん。甘雨の、一番深いにまた入ったよ」
旅人は完全に子宮口を貫いた。亀頭が子宮の中へとすっぽりと収まる。その感覚。三時間前あれほど激しく出し入れした場所。けれど、今はただ静かにそこにいる。動かずにただ、彼女の最も深い場所を感じている。甘雨もその感覚に身を委ねていた。旅人のものが自分の子宮の中にある。その事実だけで彼女はもうイきそうだった。けれど、今度は自分からは動かない。旅人が、動くのを待っている。
「甘雨」
「はい」
「動くよ」
「はい」
旅人はゆっくりと腰を引き始めた。子宮口から亀頭が抜ける。ずるり、という感触。それだけで甘雨は小さく達した。膣壁が収縮する。けれど旅人は止まらない。そのまま彼女の入り口付近まで引き抜く。そしてまたゆっくりと押し込む。子宮口をもう一度こじ開ける。腰を引き子宮口から亀頭が抜ける。その繰り返し。
「んあっ……ぁあっ……うあぁっ……」
甘雨の口から一定のリズムで声が漏れる。旅人の抽送に合わせてゆっくりと、けれど確実に。それは、先ほどまでの激しいものではない。もっと静かで。もっと深い。三千年を生きた半仙である彼女の魂を、少しずつ旅人が解きほぐしていくような。そんな営みだった。
旅人は彼女の顔を見ていた。目を閉じて快感に身を委ねる、その顔。汗ばんだ肌。上気した頬。そして時折、涙。それは快感の涙。けれどそれだけではない。三千年の孤独が溶けていく。そんな涙。旅人はその涙を、そっと指で拭った。
「甘雨」
「……はい」
「気持ちいい?」
「……はい。……すごく」
「よかった」
旅人はそう言って彼女の額にキスを落とした。動きは止めない。ゆっくりとけれど確実に。彼女の内側を愛し続ける。甘雨は、そのキスの温もりにまた小さく達した。けれどもう、悲鳴は上げない。ただ、静かにその快感を、受け止める。三千年を生きた仙人の初めての、本当の意味での悦び。
「ふっ……ふっ……」
「ぁぁ……ぁああっ……!んぁああ!」
やがて、旅人の動きが少しずつ速くなる。彼女の反応が少しずつ大きくなる。それに合わせて。無理にではない。自然に。二人の呼吸が、重なっていく。旅人の吐息と甘雨の喘ぎが、一つのリズムを刻む。まるで最初から、そうなる運命だったかのように。
「甘雨。そろそろ」
「……はい。……私も」
「一緒に、いこう」
「はい」
旅人は最後の挿入を少しだけ強くした。子宮口をもう一度、しっかりと貫く。甘雨の身体が大きく跳ねる。そして二人はほぼ同時に達した。
旅人の、熱い奔流が、甘雨の子宮に注ぎ込まれる。すでに精液で満たされているそこに更に新しいものが加わる。甘雨の膣壁が、それを搾り取るように収縮する。けれど旅人ももう限界だった。全てを彼女の中に注ぎ込む。最後の一滴まで。
「あ……あぁ……空……」
甘雨の声が静かに消えていく。絶頂の余韻の中で、彼女は旅人の名を呼んでいた。その声はもう、悲鳴ではない。ただ、愛しい人の名を呼ぶ声。三千年を生きた仙人が、初めて誰かを、心から、愛したその声。
旅人は彼女の中に自分のものをまだ入れたまま彼女を抱きしめた。汗ばんだ肌。上気した頬。そしてまだ少しだけ震えている身体。そのすべてを抱きしめる。甘雨も旅人の背中に腕を回した。そしてその胸に顔を埋める。
「空」
「ん」
「……幸せです」
その一言に、旅人は何も返せなかった。ただ彼女の頭を撫でる。角の根本を優しく。彼女の最も敏感な場所を。甘雨はその手のひらの温もりに、目を閉じた。そしてまた静かに眠りに落ちていった。
やがて、旅人も静かに眠りに落ちていった。二人の呼吸が、重なり合う。
雲の上の秘境は今日も静かだった。けれど、その静けさの中に確かな温もりがあった。
そして
彼女の中心で新たな命の脈動が芽吹くことになる。
◆◆◆
甘雨が、小さく身じろぎをした。
三千年の時を生きた仙人の長い眠りから覚める瞬間の仕草だった。雲の上で、彼女の睫毛が震えゆっくりと目が開く。その瞳は、まだ夢の名残を湛えて潤んでいた。
「ん……ここは……」
呑気な声だった。寝起きの、頭がまだ働いていない幼い少女のような声。自分がどこで、何をしていたのか。その記憶が追いつく前に、身体が先に動く。甘雨は上体を起こそうとした。ただ単純に、寝返りを打つつもりだった。
その瞬間。
ずぐり、という感触が彼女の最も深い場所で爆ぜた。
「ひぁああっ!?」
悲鳴は、ほぼ悲鳴の形を成していなかった。喉の奥から絞り出された、獣じみた絶叫。先ほどまで静かだった秘境に、その声がこだまする。甘雨の背中が雲の上で大きくしなる。弓なりに反った身体。宙に浮いた腰。そして、旅人のものを咥えたままの子宮が不意打ちの快感に耐えきれず激しく痙攣した。
ぎゅうう、と。
旅人の剛直をまるで握り潰そうとするかのように、膣壁が収縮する。いや収縮では足りない。搾取。膣壁のすべてが、旅人のものを根こそぎ搾り取ろうとする。そのあまりの刺激に、旅人は目を覚ます暇すらなかった。
「ぅあっ!?」
彼が意識を取り戻した瞬間、それはもう、甘雨の中に注がれていた。どくどくどくと。三時間前の最後の射精で、すでにパンパンに膨らんでいた子宮にさらに新しい精液が注ぎ込まれていく。それが、旅人の意志とは無関係に生理的な反射として起きていた。
「あっ!ああっ!また、出てる!中でまたっ!」
甘雨は、その感覚をはっきりと味わっていた。すでに精液で満たされている子宮が、さらに膨らんでいく。熱い奔流が子宮壁を叩く。圧迫感。充満感。そして、逃げ場を失った先ほどの精液が子宮口と旅人のものの隙間から、ぷしゅりと溢れ出した。その感覚すらも甘雨にとっては快感だった。
「あああっ!いや、またイっ……!」
二度目の絶頂は一度目の余韻が冷めぬうちに訪れた。子宮口が、旅人のものをより強く締め付ける。亀頭を奥へ奥へと引き込もうとする。甘雨の身体は、もはや言うことを聞かなかった。全身が痙攣し、雲の上で跳ねる。白い肌が汗ばみ上気した頬には涙が伝う。その涙が、快感から来るものなのかそれともあまりの刺激に耐えかねてのことなのか、彼女自身にももうわからなかった。
旅人は、ようやく状況を把握した。
(ああ、そうか。俺、甘雨の中で……)
繋がったまま眠ってしまっていたのだ。その事実に気づいた時には、すでに遅かった。二度目の射精が終わりようやく収まりかけた旅人のもの。しかし、甘雨の膣はまだ収縮をやめない。痙攣が断続的に旅人を締め付ける。そのたびに、彼女の子宮口が亀頭を甘噛みするような刺激を与えてくる。
「甘雨。ごめん。起きたら、その」
旅人は、どうにか言葉を紡ごうとした。けれど甘雨はそれに応えられなかった。まだ、絶頂の余韻の中にいた。彼女の口から漏れるのは、意味を成さない甘い吐息ばかり。その声が旅人の理性をまたしても溶かしていく。
「ぁ……あ……空……」
ようやく、彼女が旅人の名を呼んだ。けれどその声はまだ焦点が定まっていない。夢見心地の、とろけた声。
「……まだ、入ってます」
「うん。わかってる」
「……あったかい。それに、いっぱい」
甘雨は、自分の下腹部にそっと手を当てた。そこは旅人のもので満たされている。三時間前の精液と、つい先ほどの精液。それらが混ざり合い彼女の子宮を重くしている。その重みが、甘雨にはたまらなく愛おしかった。
「空」
それは、今までで一番小さな声だった。けれど一番強い意志を帯びていた。
「もう一度、してください。今度はゆっくりと。私の全部を、あなたで満たしてください」
旅人は、その言葉を聞いてようやく自分もまた、彼女を求めていることに気づいた。眠る前と同じくらいに、いや、それ以上に彼女が欲しい。甘雨の、この柔らかな身体を。この温かい内側を。この甘い声を。
「わかった。今度は、ゆっくりと」
旅人は、甘雨の腰に手を添える。彼女はその手のひらの温もりに小さく頷く。まだ身体は震えている。けれど、もう逃げない。いや逃げられない。彼女の身体が旅人のものを離そうとしないのだ。まるでもう二度と離れないと誓うかのように。
旅人はゆっくりと腰を引いた。ずるりという感触。甘雨の膣壁が、名残惜しそうに旅人のものを追いかける。子宮口が、亀頭を離すまいときゅうと締め付ける。その刺激に旅人も小さく息を呑んだ。けれど今度は止まらない。ゆっくりと、確実に彼女の最も深い場所から、旅人のものが抜けていく。
「あ……あぁ……」
甘雨の声が少しずつ大きくなる。子宮口を通り抜ける瞬間の、あの独特の感覚。引き抜かれる。それだけで彼女の全身に電気が走る。足先がぴんと伸びる。雲を掴む指に力がこもる。そして子宮の中から完全に旅人のものが抜け――
「ひぁっ……!」
小さな絶頂が彼女を襲った。膣口から、透明な愛液がぷしゅりと溢れ出す。甘雨の潮吹きを見ながら膣から自分の放った精液を巻き込んで完全に抜き出す。
旅人の精液と甘雨の愛液とが混ざり合い雲の上に小さな水たまりを作った。けれど、この空間の雲はすぐにそれを吸い取ってしまう。まるで、何もなかったかのように。
旅人は、抜いた自分のものをしばらく見つめていた。彼女の愛液と、自分の精液でそれは濡れていた。白く、濁った液体。それでも不思議と不快ではなかった。彼女の一部を、自分の中に感じるようで。いや実際に感じている。彼女の体液が、自分のものに付着している。その事実が旅人をまたしても興奮させた。
「甘雨。まだ、いける?」
「……はい」
甘雨は、小さく頷いた。その顔は少しだけ疲れているようにも見えた。けれど、その目はまだ旅人を求めていた。三千年を生きた仙人の、底知れない欲。いやそれは、この人だけへのたった一人への、純粋な想い。
旅人は、彼女の脚の間に再び身体を滑り込ませた。先ほどまで、あれほど激しく愛し合った場所。けれどその入り口は、まだ柔らかく旅人を受け入れる準備をしていた。いや、準備など必要なかった。彼女の身体はもう旅人のものを覚えている。この形を。この熱を。この重さを。
「入るよ」
「はい」
旅人は、ゆっくりと腰を進めた。先ほどまでとは違い焦らず急がず。ただ彼女の内側を一つ一つ確かめるように。亀頭が膣口に触れる。それだけで甘雨の身体が小さく震えた。旅人はその反応を見逃さなかった。
「大丈夫?」
「はい。……ただ、少し、敏感で」
「だろうね。たぶん三時間ぐらい、入ってたから」
旅人は少しだけ笑った。甘雨もそれにつられる様に小さく笑った。その笑みはどこか照れくさそうで、それでいてこの上なく幸せそうだった。
亀頭がゆっくりと彼女の中へと沈んでいく。数時間前まであれほど激しく出し入れしていた場所。けれど今は違う。もっと確かめ合うように。もっと慈しむように。甘雨の膣壁が旅人のものを優しく包み込む。先ほどまでの搾り取るような収縮ではない。もっと柔らかなそれでいて確かな圧迫感。まるで彼女の身体そのものが旅人を歓迎しているかのようだった。
「あ……空……」
甘雨の声が旅人の名を呼ぶ。その声はもう先ほどまでの悲鳴のようなものではない。もっと静かでもっと深い。三千年を生きた仙人の魂の底からの声。
「ん。なに?」
「……うれしい」
その一言が、旅人の胸に、深く突き刺さった。嬉しい。ただそれだけ。けれど、その一言に彼女のすべてが込められていた。孤独だった三千年。誰にも触れられなかった、この身体。誰にも明かせなかったこの想い。それを、今、旅人が受け止めている。その事実が甘雨を、この上ない幸福で満たしていた。
旅人は、ゆっくりと腰を動かし始めた。最初は浅く、彼女の入り口付近をそっと擦るだけ。それでも甘雨の身体は大きく反応した。びくんと跳ねる。けれどもう悲鳴は上げない。ただ甘い吐息を静かに漏らすだけ。
「ん……あ……いい……」
旅人は少しずつ深くしていく。彼女の内側をゆっくりと、けれど確実に味わっていく。膣壁の一つ一つの襞を指で確かめるように。いや指ではない。彼の最も敏感な部分で。甘雨の内側は驚くほど複雑だった。先ほどまでの激しい営みのせいで少しだけ腫れているのだろう。それが普段よりも旅人に強い刺激を与えた。
「甘雨の中、すごいよ。熱くて柔らかくて」
「あ……そんなこと、言わないで。……恥ずかしい」
「本当のことだよ。……それに」
旅人はそこで一度、動きを止めた。そして彼女の最も深い場所。子宮口にそっと先端を触れさせた。甘雨の身体がその感触に大きく跳ねた。
「ここが、一番いいんだろ?」
「ぁ……あ……それは……」
「さっき、ここを突かれて何度もイってたもんな」
「あ……あぁ……そんな……言わないで……」
甘雨は顔を赤らめて首を横に振った。けれどその身体は正直だった。子宮口に触れられた瞬間、彼女の膣がきゅうと締まった。もっと、という合図のように。旅人はその反応に小さく笑った。そしてゆっくりと腰を押し込む。
「あぁっ……!」
甘雨の背中がまたしても、弓なりに反る。けれど今度は、先ほどまでのような不意打ちの絶頂ではない。もっと、深い場所からじわじわと湧き上がってくる、確かな快感。旅人のものが子宮口をゆっくりと、けれど確実に押し広げていく。三時間前すでにこじ開けられた場所。けれど、また、締まりかけていたのだろう。旅人のものがその隙間を、もう一度押し開いていく。
「あ……あぁ……空……深い……」
「うん。甘雨の、一番深いにまた入ったよ」
旅人は完全に子宮口を貫いた。亀頭が子宮の中へとすっぽりと収まる。その感覚。三時間前あれほど激しく出し入れした場所。けれど、今はただ静かにそこにいる。動かずにただ、彼女の最も深い場所を感じている。甘雨もその感覚に身を委ねていた。旅人のものが自分の子宮の中にある。その事実だけで彼女はもうイきそうだった。けれど、今度は自分からは動かない。旅人が、動くのを待っている。
「甘雨」
「はい」
「動くよ」
「はい」
旅人はゆっくりと腰を引き始めた。子宮口から亀頭が抜ける。ずるり、という感触。それだけで甘雨は小さく達した。膣壁が収縮する。けれど旅人は止まらない。そのまま彼女の入り口付近まで引き抜く。そしてまたゆっくりと押し込む。子宮口をもう一度こじ開ける。腰を引き子宮口から亀頭が抜ける。その繰り返し。
「んあっ……ぁあっ……うあぁっ……」
甘雨の口から一定のリズムで声が漏れる。旅人の抽送に合わせてゆっくりと、けれど確実に。それは、先ほどまでの激しいものではない。もっと静かで。もっと深い。三千年を生きた半仙である彼女の魂を、少しずつ旅人が解きほぐしていくような。そんな営みだった。
旅人は彼女の顔を見ていた。目を閉じて快感に身を委ねる、その顔。汗ばんだ肌。上気した頬。そして時折、涙。それは快感の涙。けれどそれだけではない。三千年の孤独が溶けていく。そんな涙。旅人はその涙を、そっと指で拭った。
「甘雨」
「……はい」
「気持ちいい?」
「……はい。……すごく」
「よかった」
旅人はそう言って彼女の額にキスを落とした。動きは止めない。ゆっくりとけれど確実に。彼女の内側を愛し続ける。甘雨は、そのキスの温もりにまた小さく達した。けれどもう、悲鳴は上げない。ただ、静かにその快感を、受け止める。三千年を生きた仙人の初めての、本当の意味での悦び。
「ふっ……ふっ……」
「ぁぁ……ぁああっ……!んぁああ!」
やがて、旅人の動きが少しずつ速くなる。彼女の反応が少しずつ大きくなる。それに合わせて。無理にではない。自然に。二人の呼吸が、重なっていく。旅人の吐息と甘雨の喘ぎが、一つのリズムを刻む。まるで最初から、そうなる運命だったかのように。
「甘雨。そろそろ」
「……はい。……私も」
「一緒に、いこう」
「はい」
旅人は最後の挿入を少しだけ強くした。子宮口をもう一度、しっかりと貫く。甘雨の身体が大きく跳ねる。そして二人はほぼ同時に達した。
旅人の、熱い奔流が、甘雨の子宮に注ぎ込まれる。すでに精液で満たされているそこに更に新しいものが加わる。甘雨の膣壁が、それを搾り取るように収縮する。けれど旅人ももう限界だった。全てを彼女の中に注ぎ込む。最後の一滴まで。
「あ……あぁ……空……」
甘雨の声が静かに消えていく。絶頂の余韻の中で、彼女は旅人の名を呼んでいた。その声はもう、悲鳴ではない。ただ、愛しい人の名を呼ぶ声。三千年を生きた仙人が、初めて誰かを、心から、愛したその声。
旅人は彼女の中に自分のものをまだ入れたまま彼女を抱きしめた。汗ばんだ肌。上気した頬。そしてまだ少しだけ震えている身体。そのすべてを抱きしめる。甘雨も旅人の背中に腕を回した。そしてその胸に顔を埋める。
「空」
「ん」
「……幸せです」
その一言に、旅人は何も返せなかった。ただ彼女の頭を撫でる。角の根本を優しく。彼女の最も敏感な場所を。甘雨はその手のひらの温もりに、目を閉じた。そしてまた静かに眠りに落ちていった。
旅人もそのまま目を閉じた。彼女の中に自分のものを入れたまま。二人の呼吸がまた、重なっていく。
雲の上の秘境は静かだった。けれどその静けさの中に確かな温もりがあった。それは三千年の孤独を溶かす温もり。
そして、新たな命を育む温もり。
旅人は確信していた。彼女の子宮の中に今自分のものが確かに注がれた。そしていつか、新たな命へとなって彼女の胎を独占し大きくなっていくのだろう。
旅人はそっと彼女のお腹に手を当てた。まだ何も感じない。閉じた瞼の裏には浮かんでくる。
彼女のお腹が大きく膨らみ、ゆったりとしたマタニティドレスに身を包んで自分のお腹を撫で、幸せそうに微笑んでいる姿が。
彼女は三千年生きた半仙だ。簡単には妊娠しないかもしれない。けれど旅人は焦らなかった。これから何度でも、彼女と子作りすればいい。何度でも彼女の中に自分のものを注げばいい。そうすればいつか、きっと。
旅人は静かに目を閉じた。彼女の温もりを感じながら。彼女の鼓動を聞きながら。そして自分の鼓動を彼女に聞かせながら。
いつしか二人は、本当に深い眠りに落ちていった。
◆◆◆
旅人が目を覚ますと、甘雨はまだ眠っていた。けれどその姿は寝る前とは少し違っていた。旅人の胸の上で四肢を投げ出して眠っているのは同じだが、甘雨は自分の奥深くに入ったままの旅人のものを愛撫していたのだ。
(そういえば、結局甘雨の中から出るのが惜しくて入れたままだった)
甘雨の腰がゆっくりと僅かに動いていた。まだ彼女は夢の中だから無意識の動き。いや、もしかすると今まさに夢の中でも彼女は旅人と激しく交わっているのかもしれない。
旅人はしばらく彼女の寝顔を見つめていた。それからゆっくりと腰を動かし始める。無理にではない。彼女のリズムに合わせて、優しく。
「……ん。……ふ……んっ……」
甘雨はまだ静かに眠っていたが身体は反応していた。小さく息を漏らし、膣が収縮する。それでも目は覚めない。
旅人は彼女の寝顔を見ながら、彼女の背に両腕を回して優しく抱きしめる。
静かにこの朝の営みを楽しんだ。誰にも邪魔されない、二人だけの時間。彼女の無防備な寝顔の可愛らしさ。無意識に動く彼女の腰の厭らしさ。同時に優しく締める膣の。それだけで旅人は幸せだった。
「……?」
しばらくするとして甘雨がゆっくりと目を開けた。まだ夢の中にいるような、とろけた目。でも腰は動いている。その動きに合わせて旅人の腰も動く。
「…………あ」
そして、自分が何をしているのかを理解した瞬間、彼女の顔が真っ赤に染まった。
「あ!え?あ!」
「おはよう甘雨」
旅人は笑いながらそう言った。甘雨は慌てて身体を起こそうとしたが、旅人に腕ごと抱き締められているし繋がっているしでうまく動けない。
「あの、これは、その!?」
「気にしないでいいよ。俺も嬉しかったから」
「うぅ」
甘雨は恥ずかしそうに俯いた。でも、その口元は少しだけ緩んでいた。旅人はそんな彼女のあごをそっと持ち上げてキスをした。
おはようのキス。それから彼女の耳元で囁く。
「このままもう一度、する?」
「……はい」
甘雨は小さく頷いた。
旅人は返事を聞くや否やそれまで柔らかく回していた腕にぐっと力を込めた。彼女の華奢な体が柔らかな双丘が、旅人の胸板にぴたりと密着する。汗ばんだ肌と肌の間に、朝のひんやりとした空気が挟まりそれがかえって互いの体温を際立たせた。
「ん……っ、空……?」
甘雨が小さく息を呑む。けれど旅人はもう止まらなかった。ゆっくりと、けれど確かな力で腰を引きそして一気に彼女の最奥まで押し込む。先ほどまでと同じ場所。すでに何度もこじ開けられ、馴染みきった子宮口が待ちわびたように旅人の先端を迎え入れた。
「ああっ……!」
甘雨の背中が旅人の腕の中で弓なりに反る。不意打ちの深い挿入に、膣壁がきゅうきゅうと収縮した。けれどそれすらも旅人は愛おしい。彼女の内側が自分の形を覚え、まるで離すまいと絡みついてくる。その感覚が、旅人の理性をじわじわと溶かしていく。
「甘雨……っ」
旅人は彼女の名前を呼びながら、今度はゆっくりとけれど確実に抽送を始めた。先ほどまでの慈しむような動きではない。もっと強く、もっと深く。彼女の子宮を直接上下左右に揺さぶるように。亀頭が子宮壁にぶつかるたび、甘雨の全身がびくんと跳ねた。
「ひぁっ、あっ、あっ……! 空っ、そ、らっ……!」
甘雨の声が、どんどん甘く大きくなっていく。抑えきれない喘ぎ。恥ずかしさも遠慮も、もうどこにもなかった。ただ愛しい人の名を呼びながら、与えられる快感に身を委ねることだけを選んでいた。
旅人の腰の動きが少しずつ速くなる。それに合わせて、甘雨の内側もより強くより激しく旅人を締め付けた。まるで彼女の身体そのものが、もっと欲しいとねだっているかのように。その反応が、旅人の限界を近づけていく。
(まずい……もう、出る……)
旅人は歯を食いしばった。まだ彼女を感じていたい。まだこの時間を終わらせたくない。けれど、彼女の内側があまりにも心地よすぎた。子宮口が亀頭を甘噛みするたび、背筋を電気が走る。腰の奥がじんじんと痺れる。そしてついに、その瞬間が訪れた。
「甘雨っ……出すよ……っ!」
「はいっ……! いっぱい、くださいっ……!」
甘雨の了承を待つ暇もなく、旅人のものが彼女の子宮の中で大きく脈打った。どくどくと、熱い奔流が彼女の最も深い場所へと注ぎ込まれていく。一度目。二度目。三度目。何度目かもわからない射精が、彼女の子宮をさらに白く重く染め上げていく。
「ああっ……! あっ……! あっ……!」
甘雨の声が、絶頂のたびに裏返る。旅人の射精に合わせて彼女自身も何度も達した。膣壁が激しく痙攣し、注がれる精を一滴残らず搾り取ろうとする。その収縮が、旅人の射精をさらに長引かせた。二人はしばらく、声も出せずにただ互いを感じ合っていた。
やがて、最後の一滴が注ぎ終わる。旅人のものがゆっくりと脈打つのをやめた。それでも甘雨の内側はまだ、名残惜しむように収縮を続けていた。旅人はそんな彼女の中に、まだ自分のものを入れたまましばらく動けなかった。呼吸を整えるのが精一杯だった。
「はぁ……はぁ……甘雨……」
「……はい……空……」
ようやく落ち着いた頃旅人は名残惜しさを堪えて、ゆっくりと彼女の中から自分を引き抜いた。ずるり、という感触。それだけで甘雨の身体が小さく跳ねたが、もう声にはならなかった。疲れ果てて雲の上にぐったりと横たわっている。
旅人はそんな彼女の横に自分も腰を下ろした。雲は相変わらずふわりと柔らかく、二人の体重を優しく受け止めてくれる。
旅人はまず、自分の身体を清める。
水元素を指先に集め汗や体液で汚れた肌を丁寧に洗い流していく。それから炎元素で優しく乾かす。同じ手順で衣服も洗っていく。そうして少し時間をかけて綺麗になり乾いたいつもの自分の衣服に袖を通した。
一方、甘雨は座り込んだまま、両腕でそっと胸を隠していた。肌は汗ばみ、髪は乱れ頬は上気している。けれどその姿は、この上なく美しくそして愛おしかった。だが彼女の足元にある彼女の衣服は、旅人が衝動のままに引き裂いてしまったのであちこちが破れ、もう元の形には戻らないただの布切れと化している。
「あ゛……!?」
旅人はそこでようやく思い出した。自分がやったこと。彼女の服を、あんなに乱暴に引き裂いてしまったこと。その事実が、今さらながら旅人の胸に小さな痛みとなって蘇る。
旅人は青ざめた顔で膝をつき、頭を下げた。雲の上の柔らかな感触が、今はやけに冷たく感じられる。自分のしたことの大きさに、言葉が喉の奥で詰まる。
「甘雨……ごめん。服、俺が……!」
その声は、みっともないほどに震えていた。彼女の衣服は無残な姿で雲の上に散らばっている。あれほど美しかった白い仙人風の衣装が、今はただの布切れと化していた。旅人は自分の右手を見た。この手が、あの時彼女の了承を得たとはいえ、あまりにも乱暴に布を引き裂いた。その事実が、今さらながら鋭い棘となって胸に突き刺さる。
だが、甘雨は慌てて首を横に振った。
「だ、大丈夫です!破いてもいいとそう言ったのは私ですから。あの時、破いてほしいと思ってしまったのは私の方です」
彼女の声は、まだ少しだけ掠れていた。三千年を生きた仙人の声とは思えないほどに。けれどその必死な否定は、旅人の罪悪感を少しだけ和らげた。それでも、彼女が両腕で胸を隠している姿を見れば自分がしたことの重さを思い知らされる。
旅人は深く息を吐きゆっくりと立ち上がった。そして、できるだけ優しい声で言った。
「まず、体を洗おう。俺がちゃんとするから」
甘雨は一瞬だけ迷うように目を伏せたがやがて小さく頷いた。旅人は自分の身体を清めた時と同じように、水元素を指先に集める。それから慎重に本当に慎重に、彼女の肌に触れた。
汗ばんだ首筋から。乱れた髪の隙間から覗く角の根本から。旅人の指先が、彼女の肌の上をゆっくりと滑っていく。水の膜が、彼女の肌にこびりついた汗と体液を優しく包み込み、浮かび上がらせる。旅人はそれをあたかも宝物を扱うかのように丁寧に洗い流していった。指の腹で、手のひらで時には水の球を作って彼女の身体を包み込むように。
「冷たくない?」
「……はい。とても、優しいです」
甘雨は目を閉じてされるがままになっていた。その表情からは、先ほどまでの恥ずかしさや後悔が少しずつ消えていく。代わりに浮かんでくるのは、この上ない安堵。誰かにこんな風に大切にされることが、三千年の人生で初めてだったから。
旅人は彼女の背中を洗う時も、決して乱暴にはしなかった。肩甲骨のラインを指でなぞり、腰のくびれに手を添える。尻の柔らかな丸みを洗う時でさえ、その手つきは慈しむようだった。そして風元素を集めて、優しく彼女の髪を乾かしていく。指で髪を梳きながら、風が彼女のスカイブルーの髪を柔らかく揺らす。
最後に炎元素をほんの少しだけ。温かい空気が彼女の肌を包み、残った水滴を優しく蒸発させていく。
そうして、甘雨はすっかり元の姿に戻った。いや元の姿以上に美しく輝いて見えた。洗い立ての肌は、月明かりのように儚げで清らかで。ただ衣服だけが問題だった。
「着替え、どうしようか」
旅人は辺りを見回した。この秘境には当然ながら予備の服などない。壺の中の洞天に戻れば、マルが用意してくれた部屋がある。モナたちの部屋もある。けれど、その前に。
「甘雨、今、外は何時くらいだろう?」
旅人はふと気になった。この秘境は時間の流れが外とは違うと聞いていた。ここでの一時間は、外では十分ほど。二人はどれほどここにいただろうか。甘雨は少しだけ上を見上げて、それから静かに呟いた。
「今は夕方、ですね」
その声は、どこか名残惜しそうだった。けれど旅人にとっては、ちょうどいいタイミングだった。
「そうか。じゃあ、行こうか」
旅人はそう言って、甘雨の手を取った。彼女は一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐにその手を握り返してきた。まだ少しだけ冷たい、けれど確かな温もり。旅人はもう片方の手で、腰に下げた洞天の壺を取り出す。マルが手配してくれた、彼と恋人たちだけのための空間。
「ちょっとだけ、目を閉じてて」
甘雨は素直に頷き、長い睫毛を伏せた。旅人はその姿を確認してから、壺の中の洞天へと二人分の意識を滑り込ませた。
◆◆◆
光が変わる。璃月の夕暮れの色からいつもの柔らかな洞天の光へ。旅人は目を開けて、隣に立つ甘雨の姿を確かめる。
彼女は、そこにいた。裸のまま。旅人は急いで彼女を抱き上げた。甘雨は小さく悲鳴を上げたが、すぐに旅人の首に腕を回して身を預けてきた。
「ごめん、ちょっと待ってて。服を探してくる」
旅人は彼女を近くの長椅子にそっと下ろすと、急ぎ足で洞天の奥へと向かった。マルが用意してくれた衣装部屋には、モナやノエルバーバラのための服がいくつか置いてある。新しいものも、彼女たちが着替えのために置いていったものも。旅人は手早く、甘雨のサイズに合いそうなものを探した。
モナの服は少し小さすぎる。バーバラの服も、胸のあたりがきついかもしれない。ノエルのものはサイズは合うかもしれないが、メイド服だ。うーんと旅人は悩んだ。とりあえず、一番シンプルなワンピースを一枚選ぶ。モナが一度だけ着て、ここに置いていったものだ。柔らかな生地で、色は夜空のような深い青。これなら甘雨にも似合うだろう。
旅人はそれを持って急いで甘雨の元へ戻った。彼女は長椅子の上で、膝を抱えるようにして座っていた。その姿は、いつもの落ち着いた秘書官の面影はなくただの恥ずかしがり屋の少女のようだった。
「甘雨、これ、着て。モナのだけどサイズは大丈夫だと思う」
「あ、ありがとうございます……」
甘雨は服を受け取ると少しだけ迷ってから、旅人に背を向けて着替え始めた。旅人はあえて視線を逸らさずに、彼女の背中を見つめていた。あの滑らかな肌が、一枚の布に覆われていく。その過程が妙に神聖な儀式のように感じられた。
「……どうでしょう」
着替え終わった甘雨が恐る恐る振り返る。深い青のワンピースは、彼女のスカイブルーの髪と絶妙に調和していた。少しだけ袖が長く、裾がふわりと広がるデザイン。それは彼女をより一層、儚げで美しく見せていた。
「うん。よく似合ってる。綺麗だよ」
旅人の言葉に、甘雨は少しだけ頬を赤らめて俯いた。それから、ふと何かに気づいたように顔を上げる。
「あの、旅人。ここは……?」
「ああ。ここは洞天。俺の家みたいなものだよ」
旅人はそう言って、彼女の手を取った。そして洞天の広間へと続く廊下を歩き始める。甘雨はその隣を、少しだけ緊張した面持ちで歩いた。裸足のままだったが、洞天の床はいつも温かいので問題はない。
廊下の突き当たり、大きな扉の前に立つと旅人は一度深呼吸をした。中には、きっとモナたちがいる。彼女たちに甘雨を紹介しなければならない。そして、甘雨に彼女たちを紹介しなければならない。
「甘雨」
「はい」
「中に、俺の大切な人たちがいる。モナ、ノエル、バーバラ。君と同じように俺が愛している人たちだ」
甘雨は静かに頷いた。その目に恐怖や不安はなかった。ただ、静かな覚悟があった。
「紹介するね」
旅人はそう言って、扉を開けた。
パイモンが真っ先に飛び出してきた。
「おおっ! 旅人、新しい子連れてきたのか! って甘雨じゃないか!?久しぶりだな!
「はい。お久しぶりです、パイモン」
「そっかそっか、甘雨も旅人の恋人になったんだな。いひひ、また賑やかになるぜぇ」
甘雨は小さく会釈した。パイモンは空中でくるりと一回転して、満足げに頷く。
旅人は小さく笑ってそれから改めて三人の方を向いた。モナはすでにソファから立ち上がり、軽く腕を組んで待っている。ノエルはテーブルの上の布巾をきちんと畳んでから、まっすぐにこちらへ歩いてきた。バーバラはというと、さっきまで水をやっていた植木に名残惜しそうにもう一度だけ水をやってから、小走りに合流した。
「みんな。紹介するよ。璃月から来た、甘雨だ」
その一言に、三人の視線が一斉に甘雨へと集まる。甘雨は少しだけ背筋を伸ばした。三千年を生きて月海亭の秘書としての落ち着きが、その立ち居振る舞いに自然と表れる。けれどその頬は、ほんのりと赤く染まっていた。
最初に口を開いたのはノエルだった。
「はじめまして、甘雨様。私はノエルと申します。西風騎士団の見習いメイド騎士をしております。栄誉騎士様……空様の恋人としてこの洞天で他お二人含めてさまざなお世話させていただいております。甘雨様のお世話も、ぜひ私にお任せください」
ノエルは完璧な角度でお辞儀をした。銀の髪がさらりと揺れる。その所作は、メイド騎士としての訓練が染みついた美しいものだった。甘雨はその丁寧さに、少しだけ目を丸くした。
「ノエルさん。ご丁寧に、ありがとうございます。……その、メイド騎士というのは璃月にはないお仕事なので、少し興味があります」
「まあ! でしたら、よろしければ後ほどお茶でも淹れながらお話ししましょう。私はこう見えて、お茶を淹れるのも得意ですから」
ノエルはにっこりと微笑んだ。その笑顔は、敵意も警戒もないただ純粋な歓迎の色をしていた。甘雨はほっとしたように、小さく頷いた。
「はい。ぜひ」
次にバーバラが、ぴょんと甘雨の前に跳び出した。
「はじめまして! バーバラです! モンドの教会でシスターをしています! 甘雨さん、とっても綺麗な髪ですね! それにその服、モナさんの?」
「あ、はい。旅人さんが……」
「ふふ、似合ってるよ! あだからモナさんちょっと嫉妬してるんだ!」
バーバラは無邪気に笑った。その明るさに甘雨の緊張も少しだけ解けていく。モナはバーバラの言葉に少しだけ顔を赤らめて、そっぽを向いた。
「べ、別に嫉妬なんてしてません! ただまだ挨拶もしてない人に私の服を着せるのはどうかと思っただけです! ただでさえ美麗の化身とも一部では言い伝えられる麒麟の血を受け継ぐ人なんですよ? それが私が着こなせなかった服を完璧に着こなしているんですから、多少強く当たったってもいいじゃないですか」
「「モナ(さん)、それを嫉妬って言うんだよ」」
旅人とバーバラがそう言うとモナはさらに顔を赤くして、ソファに座り直した。その様子を見て甘雨は小さく笑った。それは決して嘲笑ではなく、ただ微笑ましいという色の笑みだった。
コホンとワザとらしく咳をして見せて今度は自分の番だと言わんばかりに胸を張り長いツインテールの一束を振り払って格好つけて名乗ってみせる。
「私はアストローギスト・モナ・メギストス。旅人の最初の恋人。そして、彼の未来を予言した偉大なる占星術師です。よろしくお願いします、四人目さん」
「よろしくお願いします、アストローギスト・モナ・メギストスさん。素敵なお名前ですね。それに、服までお借りしてしまって申し訳ありません」
「……別に。あなたが謝ることじゃないですから。……しかしまさか私の名前を噛まずに一度で覚えるとは……」
「あの、なにか?」
「いえ、私の事はモナと呼んでください。」
モナはソファに座り直したもののすぐにまた立ち上がった。彼女は甘雨の前に歩み寄り、じっとその顔を見つめた。その目は占星術師としての鋭さを帯びている。
「あなた、麒麟の血を引いているんですってね。しかも三千年以上も生きていると。……本当に?」
「はい。嘘は申しません」
モナは「そうですか」と小さく呟くと、甘雨を上から下まで舐め回すように見つめた。それから、すっと右手を掲げる。途端彼女の周囲に青白い光の円が浮かび上がった。星座盤。無数の星々が複雑に絡み合い、その中心には甘雨の命の星座「仙麟」が静かに輝いている。
モナは片手で盤の一部を回し、流れる星の軌跡を追った。その目は真剣でどこか遠くを見通しているかのようだった。
「……なるほど。これはまた、予想よりも早い予言の成就になりましたね」
モナは星座盤を閉じると少しだけ息を吐いた。そして、甘雨の目を真っ直ぐに見て静かに告げる。
「おめでとうございます、甘雨さん」
その一言に、その場の空気が止まった。バーバラが首を傾げ、ノエルが手を口元に当てる。旅人はモナの言葉の意味を悟って、甘雨の方を振り返った。
「…………」
甘雨自身も、最初は何を言われたのかわからなかった。けれどモナの目があまりにも真剣で、そこに浮かぶ光が優しいものだったから彼女は自然と自分のお腹に手を当てていた。
「……私が、ですか?」
甘雨の声は、少しだけ震えていた。モナはゆっくりと頷く。
「ええ。あなたの命の星座は、はっきりと告げています。あなたの胎に新しい命が宿ったと」
「そんな、まだ今日したばかりで……」
甘雨は信じられないといった様子で首を振った。だが、モナの占いが外れたことなど一度もない。彼女は旅人の最初の恋人であり、その予言によって自分がここにいることもまた事実だった。
「仙獣の血を引くあなたでも、心から望んだのならそれは可能という事なのでしょうか? 心の底から彼の子をあなたが望んだから。かも知れません」
モナの言葉に甘雨は何も言えなかった。頬が、熱い。あの雲の上で、旅人に抱かれながら信じられないほど気持ちい快楽に染まりながら「孕みます」と叫んだ。あれは紛れもなく彼女の本心だった。だからこそ、命は応えてくれたのだろうか。
旅人が、そっと甘雨の肩に手を置いた。
「甘雨」
その声は、優しかった。甘雨は顔を上げられない。涙が、勝手に溢れてくる。三千年の孤独を抱えて生きてきた自分が、今この瞬間この世界でたった一人の愛しい人との間に、新しい命を宿した。その事実が彼女の胸を締め付けた。
「……嬉しい。嬉しくて、涙が止まりません」
甘雨はそう言って静かに泣き始めた。その涙は、もう悲しみではなかった。
パイモンが「ええっ!? もう!? 早くないか!?いやあ嬉しいしおいらも早く出来ろって思ってたけどさ!?ええ!?」と慌てふためき、バーバラが「わあ!おめでとう!」と手を合わせ、ノエルが「これは今すぐお祝いをしなければ……!」とそわそわし始める。
モナだけが、穏やかな顔で甘雨を見つめていた。そしてぽつりと呟く。
「……やはり最初の子供は、あなたでしたか。まあ予言通りと言えば予言通りですけれど」
その声は、ほんの少しだけ寂しそうでけれど確かな祝福に満ちていた。甘雨が涙を拭ってモナを見ると、モナは肩をすくめてみせる。
「何を勘違いしているかは知りませんが、別に私一人が先に子供を作らなければならない決まりなどありませんから。むしろあなたが最初の母になるというのが必然だったのですよ。三千年の孤独を抱えてきたあなたが一番最初に報われるべきなんです。私の予言がそう告げているのですから」
モナはそう言って少しだけ胸を張った。その仕草はいつものモナだったが、その目はどこか優しかった。バーバラが甘雨の手を取ってぶんぶんと振った。
「甘雨さん! 赤ちゃんが出来たのなら、私、教会でお祈りしますね! 元気に育ちますようにって!」
「あ、ありがとうございますバーバラさん」
「私も、お茶を淹れ直します。妊娠中はカフェインの少ないものを選びましょう」
「ノエルさん、そんな、まだ実感もないのに」
甘雨がそう言いながらも、その顔はほころんでいた。実際まだお腹も膨らんでいないし、つわりもない。けれど確かな温かさがそのお腹の中に芽吹いている。彼女は自分の手をそっとお腹の上に置いた。
「空」
「なに?」
「三千年生きてきて、初めて本気で自分の人生を生きたいと思います。もう璃月の為だけではなく、私の、そしてこの子の人生を」
甘雨はそう言って、ようやく旅人の顔をしっかりと見た。その目はもう泣いてはいなかった。確かな覚悟の光があった。旅人は彼女の頭にそっと手を置いた。そして言葉を紡いだ。
「うん。みんなで、一緒に生きような」
そう言って微笑んだ。モナはその様子を少しだけ眺めてから、くるりと背を向けてソファに戻った。
「さて、四人目にして最初の母のお披露目が済んだ所で……」
モナはソファに座り直すと膝の上で星座盤を広げた。青白い光が再び浮かび上がり、彼女の長い指がその上を滑っていく。その横顔には、先ほどまでの優しさとは別の集中の色が浮かんでいた。
「空、あなたの星図がまた動きましたね。次の予言が必要なようです」
「次の?」
「ええ。どうやら五人目以降も続々と現れるようですから」
モナはそう言って少しだけいたずらっぽく笑った。その笑みに旅人はため息をつき甘雨はくすりと笑った。パイモンが「おいおいマジかよ次から次へと」と呆れた声を出すが、その実楽しそうだ。
ノエルは甘雨の袖を引いて洞天の奥へと案内を始めた。
「甘雨様。妊娠中は安静が一番です。ですがこの洞天ではマルのおかげで安全性も快適さも約束されています。まずはあなたのお部屋を決めましょう。何かご希望はありますか?」
「ええと。できれば、静かなところがいいです。それと本を少し置ける場所が」
「承知しました。でしたら東側の棟はいかがでしょう。日当たりがよく静かですし、大きな本棚もあります。すぐにマルに整えてもらいますね」
「ありがとうございます、ノエルさん」
そんな会話を背にバーバラが旅人の袖を引いた。
「空。あのね。甘雨さんって、すごく綺麗な人だね。それになんていうか……雰囲気が柔らかいのに芯が強いっていうか。仙人ぽいっていうか、なんていうか」
「そうだな。三千年も生きてきた人だからな」
「うん。私まだ会ったばかりだけど、仲良くなれる気がする。今度はみんなでお茶会しようね」
バーバラは無邪気にそう言って笑った。その笑顔を見て旅人はほっとした。モナもノエルもバーバラも、みんな甘雨を受け入れてくれた。新しい家族が増える。その喜びを噛みしめながら旅人は改めて思った。この洞天がまた少しだけ賑やかになる。そんな予感が、彼の胸を温かく満たしていた。