旅人と心を通わせ合って正式に恋人となったニィロウとナヒーダ。他の恋人たちと違ってまだ清らかな関係ではあるものの、それも今夜にでも淫らなモノへと変わるだろう。
旅人は左右に手を広げた。その手のひらは、すでに二人のための場所を用意している。
「部屋に案内するよ。歩きながらでいいか?」
「うん!」
ニィロウが真っ先に旅人の左手に自分の手を重ねた。踊り子の手は、指先がほんのりと冷たい。けれどその握り方には、迷いがなかった。ナヒーダは一歩遅れてそれから静かに旅人の右手に触れた。小さな手のひらが、旅人の指を確かめるように一本ずつ握っていく。五百年の時を生きてきた神の、たどたどしい指の動き。
「こういうのは、慣れていないの」
ナヒーダが小さく呟く。それは言い訳めいた響きだったけれど、その声はどこか嬉しそうでもあった。
「俺も、慣れてないよ」
旅人は正直にそう言った。ナヒーダが不思議そうに見上げてくる。
「あなたは、四人も恋人がいるのでしょう?」
「ああ。でも、ナヒーダと手を繋ぐのは今日が初めてだ。だから、俺も緊張する」
「それは、そうね」
ナヒーダはふっと小さく笑った。その笑顔は、神としてのものではなくただの少女のものだった。旅人はそんな彼女の手を、そっと握り返した。小さな手のひらが自分の手の中にすっぽりと収まる。その温もりが、胸の奥にゆっくりと染み込んでいくのを感じた。
三人は並んで洞天の草原を歩き始めた。屋敷までは、ゆっくり歩いても五分とかからない。けれど旅人は、あえて更にゆっくりと歩いた。右手にはナヒーダ、左手にはニィロウ。二人の歩調はそれぞれ違う。ニィロウは時折小跳びをするように、弾むような足取りで歩く。ナヒーダは小さな歩幅で、けれど一歩一歩を確かめるように地面を踏みしめる。旅人は、そのどちらにも合わせて自分自身の歩みを調整した。誰かを置いて行かないように。誰かの歩みを止めないように。
「ここ、広いね」
ニィロウが感嘆の声を上げた。彼女の視線は、洞天の果てまで続く草原とその向こうに広がる夜空へと向けられている。スメールの熱帯雨林では決して見ることのできない、遮るもののない星空。そこには無数の星がまるでこぼれ落ちそうなほどに輝いていた。
「スメールの森の中だと、ここまで星は見えないよ。木が邪魔しちゃうから」
「ああ。だから、天気のいい日はここでよく星を見てるよ。パイモンと二人で」
「パイモンと?」
ナヒーダが小首を傾げる。その仕草に、旅人は少しだけ笑みを零した。
「あいつ、星を見るのは好きだけどすぐに眠くなっちゃうんだよ。だから途中で俺の肩で寝ちゃう。で、朝になって『おいらは星を見てたんだぞ!』って言い張るんだ」
「ふふ。パイモンらしいわね」
ナヒーダは小さく笑った。その笑い声は洞天の静けさに溶け込むように柔らかかった。ニィロウも、その話を聞いてくすくすと笑っている。
「私も、パイモンと星を見てみたいな」
「ああ。今度、三人で見よう」
旅人はそう言って、二人の手をそっと握り直した。その瞬間洞天の夜風が強く吹いて、ニィロウの長い赤毛がふわりと舞い上がった。彼女の髪から、スメールの花の香りがふわりと旅人の鼻腔をくすぐる。それに混じって、ナヒーダの白い髪からは雨上がりの森のような清々しい匂いがした。二人の匂いが混ざり合って、旅人の胸の奥に新しい感情の形を刻んでいく。
歩くことしばらく。やがて洞天の中心にそびえる大きな屋敷の扉が見えてきた。木の香りがする、あたたかな佇まいの屋敷。その扉の前にはすでに二つの影が待っている。
一つは、雲の上に乗ったティーポットの鳥。壺の精霊、マル。もう一つは宙に浮かぶ小さな相棒、パイモン。
「おーい! 旅人! 遅かったじゃないか!」
パイモンがぷんぷんと宙を飛びながら近づいてくる。その表情は、待ちくたびれたという色とそれでも嬉しそうな色が混ざり合っていた。
「マルに部屋の準備を頼んで、それからずっと待ってたんだぞ! おいら暇で暇で仕方なかったんだからな!」
「悪い。ちょっと遠回りしてきた」
旅人はそう言って二人の手をそっと離した。それから、パイモンとマルの前にニィロウとナヒーダを立たせる。洞天の柔らかな灯りが、二人の姿を優しく照らしていた。
「紹介するよ。これが、この洞天の管理人であり俺たちの味方である壺の精霊、マル」
旅人がそう言うと、マルは雲の上でぺこりとお辞儀をした。その丸い身体が、嬉しそうにふわふわと揺れている。
「そして、こっちがこの洞天の真の建築家のパイモン」
「んえ!?え、ええっと……パイモンだぞ! 旅人の一番の相棒にしてこの洞天のいろんな建物や設備デザインを監修したテイワット一のガイドだ!」
パイモンは胸を張ってそう言った。その誇らしげな姿に、ニィロウは「ふふ」と小さく笑い、ナヒーダは「よろしくお願いするわ」と丁寧に頭を下げた。
「それで、この二人が」
旅人は、ニィロウとナヒーダの背中にそっと手を添えた。その手のひらから伝わる体温が、二人を前へと押し出す。
「ニィロウ。ズバイルシアターの踊り子で、スメールで一番の舞を見せる少女だ」
「えへへ。よろしくね、パイモン、マル」
ニィロウがそう言って、ぺこりと頭を下げる。長い赤毛がふわりと揺れた。
「それから、ナヒーダ。スメールを統治する草神だ」
「クラクサナビデビ、とも呼ばれているわ。でもここではナヒーダと呼んでちょうだい」
ナヒーダはそう言って静かに微笑んだ。その笑顔は、神としての威厳と少女としての柔らかさを同時に湛えている。
マルは、二人の紹介を聞き終えると雲の上でくるりと一回転した。それから、まるでダンスをするようにティーポットの中からひらひらと光の粒を撒き散らす。その光は、ニィロウとナヒーダの周りをふわりと舞いそして消えていった。
「ようこそ、旅人の新しい恋人たちよ。この洞天はあなたたちの新しい家であり、そして旅人との愛を育む場所です」
マルの声は、洞天の空気に溶け込むように優しく響いた。その言葉は、まるで祝福の歌のようだった。
「ここでの暮らしは、今までのあなたたちの生活を大切にしながら、旅人との時間を過ごすことができます。仕事や使命を果たしながら、いつでも旅人に会いに来てください。この通行証を通せば、どこからでもこの洞天へ来ることができます」
マルはそう言ってニィロウとナヒーダそれぞれに、木片の姿をした洞天への通行証を渡される。旅人の恋人だけが持つことを許される、特別な鍵。
「これは、洞天への鍵とも言うべき物です。あなたたちが望む時にいつでも旅人に会えるように」
ニィロウは、その木片を両手で大切そうに受け取った。その瞳は、洞天の灯りを映してきらきらと輝いている。ナヒーダは、石を受け取るとじっとそれを眺めた。五百年の知恵の神でさえ、この洞天の仕組みは未知なのだろう。彼女の指先が、石の表面をそっと撫でる。
「そして、もう一つ」
マルの声が、少しだけ真剣な響きを帯びた。それはこれから告げる言葉が、この洞天で暮らす上で最も大切なことだとそう示しているようだった。
「この洞天では、旅人との子作りは自由です。いつでもどこでも、どのようにでも。あなたたちが望む時に望む形で、旅人との愛を形に表現してください」
その言葉に、ニィロウの頬がボンッと音が聞こえてくるほど一気に赤く染まった。夕暮れのグランドバザールで見せたのと同じ、いや、それ以上に鮮やかな赤。彼女は両手をぎゅっと握りしめた。ナヒーダは、というとほんの少しだけ目を見開いた。けれど、すぐにいつもの落ち着いた表情に戻る。その頬だけが、ほんのりと桜色に染まっていた。
「子作り、か」
ナヒーダは小さく呟いた。その声には戸惑いと、そして確かな好奇心が混ざり合っている。五百年の時を生きてきた神は、あらゆる知識を持っている。けれど実体験としてのそれは、まだ彼女の中に刻まれていない。
「ああ。マルが、そのための環境を整えてくれている。防音も、清掃もすべて完璧に」
旅人はそう言ってマルに小さく頷きかけた。マルは、嬉しそうに雲の上でくるりと回る。
「はい。旅人の恋人たちが、安心して子作りに励むことができるように。この洞天のすべてが、あなたたちをサポートします」
パイモンが、二人の前にひょこりと飛び出した。その表情は、いつもの茶化すようなものではなくどこか真剣で、それでいて嬉しそうだった。
「二人とも! 旅人の赤ちゃんは、おいらが一番に可愛がるからな、子守は任せておけ!! だからどんどん産んでくれ!」
「パイモン」
旅人が窘めるようにその名を呼ぶが、パイモンはまったく気にしない。むしろ胸を張って言葉を続ける。
「だって本当のことだぞ! 旅人の子は、おいらの子でもあるんだ! おいらはその子たちを誰よりも愛して、誰よりも大切に育てるんだ!」
その言葉に、ニィロウはくすくすと笑った。その笑顔はもう先ほどまでの照れを含んだものではなく、ただただ嬉しそうなまっすぐなものだった。
「パイモンは、優しいんだね」
「お、おいらは相棒の子だからな! 当然だぞ!」
パイモンは少しだけ照れたように宙でくるりと回った。その仕草が愛らしくて、旅人は思わず笑みを零した。
ナヒーダは、そんなパイモンの様子をじっと見つめていた。その深い緑の瞳に、何か新しい感情が灯っている。それは五百年の時を生きてきた彼女が、初めて触れる種類の温もりだった。
「パイモン。あなたは、旅人の子を、自分のことのように愛してくれるのね」
「ああ! だって、旅人の子って事は、旅t人とその大事な人との宝物だろ? だったら旅人の相棒であるおいらが愛さない理由なんてないんだぞ!」
その言葉は、あまりにもまっすぐであまりにも純粋で。ナヒーダは、小さく息を吐いた。それから旅人を見上げて、静かに微笑んだ。
「いい相棒を持ったわね、空」
「ああ。パイモンは、俺の自慢の相棒だ」
旅人はそう言って、パイモンの頭をそっと撫でた。パイモンは気持ちよさそうに目を細める。その様子を見て、ニィロウもナヒーダも同時に小さく笑った。
洞天の夜風が四人の間を柔らかく通り抜けていく。その風は、モンドの草原の匂いと璃月の港の匂いと、スメールの熱帯雨林の匂いをほんの少しずつ混ぜ合わせて運んでくる。この洞天に集まったすべての愛が、今この瞬間を祝福しているかのように。
「さて、そろそろ部屋に案内するよ」
旅人はそう言って、再び二人の手を取った。右手にナヒーダ左手にニィロウ。両手に花、とはよく言ったものだ。けれど旅人にとっては、どちらの手も等しく大切で、等しく愛おしい。
「二人の部屋は、マルが用意してくれからな。お前らは隣同士だからいつでも行き来できるぜ!」
「本当? 嬉しい!」
ニィロウが嬉しそうに声を上げる。その弾むような声に、旅人も自然と笑みが零れた。
「ナヒーダは、どんな部屋がいい? 何か希望があればマルに伝えるよ」
旅人がそう尋ねるとナヒーダは少しだけ考えて、それから静かに口を開いた。
「そうね。本がたくさん置ける部屋がいいわ。それから、窓が大きくて星が見える部屋」
「わかった。マル、頼めるか?」
旅人がそう言うとマルは雲の上でこくりと頷いた。その丸い身体が、嬉しそうにふわふわと揺れている。
「はい。ナヒーダ様のご希望に添えるよう、すぐに整えます」
「ありがとう、マル」
ナヒーダはそう言って、マルに小さく頭を下げた。神が精霊に頭を下げる。その光景は、不思議と自然でそして温かかった。
「ニィロウは? 何か希望はあるか?」
旅人が尋ねるとニィロウは少しだけ照れくさそうに、それから嬉しそうに言った。
「私ね、窓から星が見える部屋がいいな。それから広いところ。踊りの練習ができるくらいの」
「わかった。マル、ニィロウの部屋もそうしてくれ」
「はい。ニィロウ様のご希望も、必ず」
マルはそう言って嬉しそうにくるりと回った。その姿を見て、旅人はふとこの洞天が、本当に多くの愛に満ちた場所になったのだと、そう実感した。モナノエル、バーバラ甘雨。そして、ニィロウナヒーダ。六人の恋人たちが、この洞天で旅人との時間を過ごし愛を育み、そして新しい命を宿していく。そのすべてが、旅人にとってはかけがえのないものだった。
「それじゃあ、行こうか」
旅人はそう言って二人の手を引いて、屋敷の中へと足を踏み入れた。その背中をパイモンとマルが嬉しそうに見送っている。洞天の夜は、まだ始まったばかり。けれど旅人にとっては、この静かな時間が何よりも大切なものだった。
洞天の夜はすでに深い帳を下ろしていた。それでも屋敷の中は柔らかな灯りに満ちていて、帰る者をいつまでも温かく迎え入れてくれる。旅人がニィロウとナヒーダの手を引いて広間へと足を踏み入れると、そこには夕食の準備を始めようとしていた四人の恋人の姿があった。
真っ先に気づいたのはノエルだった。銀色の髪をふわりと揺らして、ぱっと花が綻ぶような笑顔を見せる。
「おかえりなさいませ、ご主人様! それに……まあ、可愛らしいお二人ですね」
その声に続いて、モナが顔を上げた。深い星空を閉じ込めたような瞳が、旅人の右手と左手にいる二人の少女を捉える。それから、すぐに合点がいったように小さく笑った。
「なるほど。あなたがスメールから連れてくると言っていた恋人たちですか。ふむ……どちらもなかなかに強力な星の巡りをお持ちのようです」
バーバラも小走りに近づいてきて、ニィロウとナヒーダを交互に見つめた。それから、まるで昔からの友達に会ったみたいに明るい声を上げる。
「おかえり、空! それに初めましてだね! 私はバーバラ。西風協会でシスターをしてるの。よかったら、私のことはバーバラって呼んでほしいな」
甘雨は四人の後ろからそっと歩み出て、深く一礼した。スカイブルーの髪が灯りを受けて静かに輝く。
「おかえりなさいませ、空。それからようこそ洞天へ。私は甘雨と申します。どうか、末永くよろしくお願いいたします」
ニィロウは少しだけ緊張した面持ちで、けれどしっかりと顔を上げて笑った。
「えっと、ニィロウです! スメールで踊り子をしてます。みなさん、これからよろしくお願いします!」
ナヒーダも、小さな身体をまっすぐに伸ばして微笑んだ。その笑みは、神としての威厳よりも年相応の少女らしいあどけなさを強く滲ませている。
「初めまして。私はナヒーダ。スメールの草神。けれど、ここではただのナヒーダとしてみなさんと仲良くできたら嬉しいわ」
その言葉を聞いた途端、ノエルがぽんと手を打った。
「まあ! スメールの神様がいらっしゃるなんて、光栄です。ご主人様は本当にすごい方をお連れになるのですね」
「空の恋人は、みんな特別な人ばかりだからな! おいらは最初から知ってたぞ!」
いつの間にか旅人の肩の上に戻っていたパイモンが、得意げに胸を張る。その様子に広間の空気がふっと和らいだ。
恋人たちの自己紹介が終わり、楽しく夕食が始まる。
[#ユーザー]
新たな恋人のニィロウとナヒーダは既に甘雨が妊娠している事を知り驚いたり、経験者たちから連日連夜昼夜問わずこの洞天の中の至る所で旅人と子作りしている事や旅人の尽きぬ精力と体力と恋人が増える程に高まり続ける性欲の良さと困った所など、一切旅人が口を挟めない内容ばかりが食事中の話題だった。
[#アシスタント]
モナが艶やかな黒髪を揺らしながらグラスをそっとテーブルに置いた。深い星空を映したような瞳が、ニィロウとナヒーダを順番に見つめそれから悪戯っぽく細められる。
「そうなのです。ここでは昼夜を問わず、場所も問わず空が私達を求めてくるのですよ。まあお二人もすぐに慣れるでしょう。覚悟しておいてくださいね」
その言葉に、ノエルが給仕の手を止めてふわりと微笑んだ。銀色の髪が柔らかな灯りを受けて輝いている。
「ご主人様は本当にお優しい方ですから、私達が少しでも疲れを見せるとすぐに休ませてくださいます。ですが、その代わりと言っては何ですが元気な者にはとことん甘えてこられます。先日も、大浴場でバーバラちゃんが」
「ちょ、ちょっとノエル! そういう話は食事中にはちょっと……!」
バーバラが顔を真っ赤にして遮る。クリーム色のツインテールが、その動きに合わせてふわりと揺れた。彼女はスープの入った皿を両手で持ち、その湯気で顔を隠すようにしながら小さな声で付け加える。
「でも、空がそうしたいって言うから私もつい……」
甘雨はそんな三人の様子をいつもの穏やかな微笑みを浮かべて見守っていた。スカイブルーの髪が、まるで月光を受けた水面のように静かにきらめいている。彼女は箸を置くと、ナヒーダとニィロウに向き直りゆったりとした口調で言葉を紡いだ。
「私は……空のお子を授かりました。まだお腹は目立ちませんが、この中に確かに新しい命が宿っています。仙獣の血を引く私が子を宿すのは容易なことではありませんでしたが、空が何度も何度もそれはもう熱心に私の中へ精を注いでくださったおかげで……」
「か、甘雨! そういう事実はもっとオブラートに包んでくれ!」
旅人が顔を赤くして遮るが甘雨は不思議そうに首を傾げるばかりだ。その無自覚な様子に、ニィロウは思わず吹き出しナヒーダは深い緑の瞳を静かに輝かせた。
「なるほど。では、ここでは妊娠もまた、皆で分かち合う喜びなのね。良い事だと思うわ。命の誕生は尊いものだもの」
ナヒーダのその言葉に、パイモンが宙でくるりと一回転した。小さな身体を精一杯に反らせて、まるで世界のすべてを祝福するかのように。
「そうだぞ! おいらはこの子が生まれてくるのがもう待ちきれないんだ! それに、ニィロウもナヒーダも早く旅人の赤ちゃんを産んでくれよな! 子守はおいらに任せておけ!」
パイモンの無邪気な宣言にニィロウの顔がぼんと赤く染まった。長い赤毛の先を指で弄りながら、彼女はちらりと旅人を見上げる。その瞳は期待と戸惑いと、そして確かな熱を帯びていた。
「えっと、私、まだそういうのよくわからないけど……でも、空が望むなら私……」
「ニィロウ」
旅人はそっと彼女の手を取った。踊り子のしなやかな指先が、微かに震えている。その震えごと包み込むように、旅人は優しく握り返した。
「無理にとは言わない。君のペースで、ゆっくりでいいんだ。ここはそういう場所だから」
その言葉に、ナヒーダも静かに微笑んだ。
「私も、知識としては知っていても、その意味を本当に理解するにはきっとあなたの助けが必要なのでしょうね。この体でできるかは私にもわからないけれど」
「ナヒーダ様……」
ニィロウが感極まったように呟く。その隣で、バーバラが小さく拍手をした。
「すごい! これで六人だね! 空、本当にすごいや!」
「バーバラ、君も十分すごいからな。この間なんて脱衣所で……」
「わ、わーっ! 空! そういう話は後でね! 後で!」
バーバラが慌てて旅人の口を塞ぐ。その様子に広間の全員が笑い声を上げた。暖かな灯りが揺れ、柔らかな空気が流れる。洞天の夜はこうして新しい家族を迎え、少しずつでも確かに賑やかさを増していくのだった。
食事が終わりに近づいた頃、モナが居住まいを正して口を開いた。その仕草は、占星術師としての顔を覗かせるものだった。
「それで、お二人には是非知っておいていただきたいことがあるのです。空は底知れぬ精力の持ち主でして、一人でお相手をするのは正直申し上げて限界があるのですよ」
「ええ、ご主人様は本当に素敵な方なのですがその……一度火がつくと、なかなか終わらないというか……。それが良いというか……」
ノエルがほんのりと頬を染めて付け加える。普段は凛とした騎士の顔を見せている彼女が、こうして乙女の顔を覗かせるのはこの洞天の中だけの特別な光景だ。
「私も、もう何度気を失ったかわからないかも。でも嫌じゃないの。むしろ、空が私にそんなに夢中になってくれるのが嬉しくてつい……」
バーバラが照れながらも正直にそう打ち明けると、甘雨も静かに頷いた。
「私は仙獣の血を引いているせいか、少しだけ長く耐えられますが……それでも空が本気になると、私もすぐに意識が遠のいてしまいます。初めての時なんて私が――」
「待って甘雨! あの時の事は言わないで!反省してるから許して!」
旅人が頭を下げて叫ぶ。その様子を見たニィロウとナヒーダは、顔を見合わせてくすくすと笑った。
「大丈夫だよ、空。私、頑張るから。体力には自信あるしそれに……」
ニィロウは少しだけ俯いてそれから顔を上げて、まっすぐに旅人を見つめた。
「空と一緒なら、何でも嬉しいから」
「ええ、そうね。それに無茶はしないつもりなのは、ちゃんとわかっているわ」
ナヒーダのその言葉に、モナが深く頷く。
「お二人とも、その心意気ですよ。では早速、私たちの連携に明日から入れるように今夜は三人で子作りの初夜を楽しんでください」
モナの一言に広間の空気が一瞬だけ、ふわりと揺れた。ニィロウもナヒーダも旅人も困惑する。そ
ニィロウは長い赤毛の先を指に絡めたまま、きょとんとした表情でモナを見つめている。ナヒーダは深い緑の瞳を静かに瞬かせて、まるでその言葉の意味を頭の中で組み立てているようだった。旅人はというと、左手で顔を覆いながら小さく唸っている。甘雨の黒歴史を掘り返した直後だけに、反撃のタイミングを計っているのかもしれない。
「えっと……三人で、っていうのは」
ニィロウが遠慮がちに口を開く。その声は普段の舞台で響かせるよく通る声ではなく、どこか頼りない少女のそれだった。モナはそんな彼女に、深い星空を閉じ込めたような瞳を向けて実に落ち着いた口調で答える。
「ええ。空は一人では満足できないお方ですからね。それに初めての夜というものは、誰かがそばにいた方が心強いものですよ。私もノエルさんも、バーバラさんも甘雨さんも、そうしてこの関係を築いてきたのですから」
「そうそう。私も最初はびっくりしたけど、今はすっかり慣れちゃった。ね、ノエル?」
バーバラがそう言って隣に座るノエルの肩にそっと手を触れる。クリーム色のツインテールが、その動きに合わせてふわりと揺れた。ノエルは給仕の手を止め、銀色の髪を耳にかけながらいつもの丁寧な口調で続ける。
「はい。バーバラちゃんの言う通りです。ご主人様は決して無理を強いるような方ではありません。ただ、その……一度火がつくと、なかなか止まらないというか。ですからお二人だけでお相手するよりは、私たちも一緒にいた方が結果的にご主人様も満足されて、お二人も安心できると思うのです」
ノエルはそこまで言って、ほんの少しだけ頬を染めた。騎士としての凛々しさと、恋人としての柔らかさが同居するその表情は、この洞天でしか見ることのできないものだ。
甘雨はスカイブルーの髪を静かに揺らしながら、箸を置いて二人に向き直った。その動作は三千年を生きてきた仙人の血を感じさせる、ゆったりとした所作だった。
「私からも、お願いいたします。お二人さえよろしければ……。空の気持ちを、お二人で分かち合えたら嬉しいと思うんです」
甘雨のその言葉には、一切の打算がなかった。ただ純粋に新しい仲間を迎える喜びと、彼女なりの気遣いが込められていた。ニィロウはその声音に、少しだけ肩の力を抜いたようだった。
ナヒーダは、しばらく黙って四人の言葉を聞いていた。その深い緑の瞳は、まるで書物を読み解くように一人ひとりの表情を丁寧に追っている。やがて、彼女は小さく息を吐くと隣のニィロウを見上げた。
「ニィロウ。あなたはどうしたい?」
「えっ、私?」
「ええ。私だけでは決められないから。あなたと、そして空と、三人で決めたいの」
ナヒーダのその言葉に、ニィロウは目を丸くした。草の神が自分の意思を問うている。その事実が、彼女の中の何かをそっと温かくした。
「私、は……」
ニィロウはちらりと旅人を見た。旅人はまだ片手で顔を覆ったまま、指の隙間からこちらを窺っている。その仕草が、なんだか可笑しくてそれでいて愛おしくて。ニィロウは、ふっと小さく笑った。
「空が、私とナヒーダ様を大切にしたいって思ってくれてるのなら……私も、みんなと一緒にいたい。だって一人より二人、二人より三人の方が、きっと楽しいもん」
それは、実にニィロウらしい答えだった。難しい理屈ではなく、ただ心がそう感じたから。旅人はようやく手を下ろすと、真っ赤になった顔を隠すこともせず二人を見つめた。
「……ありがとう、二人とも。それじゃあ今夜は……その、よろしく頼む」
旅人のその声は、いつもの落ち着いたものではなくほんの少しだけ上ずっていた。モナが「ふふ」と小さく笑う。
「空さん、そんなに緊張なさらなくても。お二人ともあなたのことをちゃんと信じていますからね」
その言葉にノエルもバーバラも甘雨も、そろって静かに頷いた。広間の灯りが六人の影を柔らかく床に落としている。パイモンはというと、いつの間にか食卓の上の果物を一つ掴んで窓辺のほうへと飛んでいった。その小さな背中が、「おいらは空気を読むぞ」と語っているようで、旅人は思わず笑みを零した。
「それでは、お部屋にご案内しますね」
マルの声が、洞天の空気に溶け込むように響いた。雲の上のティーポットが、くるりと一回転して廊下の奥へとふわふわと飛んでいく。その導きに従い、旅人はニィロウとナヒーダの手を取った。右手にナヒーダ、左手にニィロウ。二人の手はどちらも少しだけ汗ばんでいた。けれど、その温もりは確かに旅人の指先に伝わっている。
廊下を歩く間三人はほとんど言葉を交わさなかった。ただ、足音だけが柔らかな絨毯の上に静かに響く。ニィロウは時折、旅人の左手をきゅっと握り直した。ナヒーダは、旅人の右手の指の一本一本を確かめるように触れている。その不器用な指の動きが、旅人の胸の奥を静かに締め付けた。
「ここが、お二人のお部屋です」
マルが案内したのは、隣り合う二つの扉だった。ニィロウの部屋には、大きな窓と広い床。ナヒーダの部屋には、壁一面の本棚と天窓から星が見える小さなベッド。どちらも、彼女たちの希望がそのまま形になったような部屋だった。けれど、今夜はまだそれぞれの部屋には入らない。三人で過ごす部屋は、そのさらに奥にある。
「それでは、私はこれで。何かあればいつでもお呼びください」
マルはそう言って、ふわふわと廊下の奥へと消えていった。残されたのは、三人だけ。旅人は一度深く息を吸った。洞天の夜の空気が、肺の奥まで静かに染み渡っていく。
「……入ろうか」
旅人のその一言に、ニィロウとナヒーダは同時にこくりと頷いた。旅人が扉に手をかけてゆっくりと押し開ける。その先には、柔らかな光に満ちた広めの寝室が広がっていた。中央に大きなベッドが一つ。天蓋には薄い布がかけられていて、窓の外には洞天の満天の星が輝いている。
ニィロウは部屋の中へ一歩足を踏み入れると、長い赤毛を揺らして大きく息を吐いた。それから、旅人の方を向いていつもの太陽のような笑顔を見せる。
「空。私、頑張るから」
ナヒーダも、旅人の手を離すと小さな身体でベッドの方へと歩いていく。その背中は、五百年を生きた神のそれではなくただの少女のもののように小さく見えた。彼女はベッドの端にちょこんと座ると、深い緑の瞳で旅人を見つめ静かに言った。
「私も、あなたに教えてほしい。全部」
旅人は二人のその姿をしばらくの間、ただ見つめていた。二人とも震えている。ニィロウの指先も、ナヒーダの肩も。けれどその瞳の奥には確かな信頼と、そしてほんの少しの好奇心が灯っている。旅人はゆっくりと部屋の中へと歩みを進め、二人の前で立ち止まった。それから右手と左手を、そっと差し出す。ニィロウがその左手をナヒーダが右手を、それぞれ取った。三つの影が洞天の星明かりの中で一つに重なる。
「こちらこそ、よろしく頼む。二人を絶対に大切にするから」
その言葉に、ニィロウは目を細めて笑いナヒーダはほんの少しだけ頬を緩めた。洞天の夜は、まだ始まったばかり。けれど旅人にとってこの静かな時間こそが、何よりも大切なものになるとそう確信していた。
旅人の手がそっとニィロウの頬に触れた。いつもの踊り子姿の彼女の肌はほんのりと汗ばんでいて、けれどその手触りは絹のようだった。親指の腹で頬骨の線をなぞるように撫でると、ニィロウは目を細めてまるで旅人の手のひらに自分の輪郭を預けるように、頭を傾けた。
「空の手、あったかいね」
その声は、舞台で響かせるよく通る声ではなくてただの少女のささやきだった。旅人はそれに何も答えず、ただもう一方の手でナヒーダの白い髪に触れた。絹糸のような感触が指の間を滑っていく。ナヒーダはびくりと肩を震わせたけれど、逃げなかった。むしろその小さな身体をほんの少しだけ、旅人の方へと傾ける。
「ごめんなさい。こういうのは、本当に初めてなの。だからこういう時、どうしたらいいか……」
ナヒーダの声は、いつもの落ち着いた神の響きではなくどこか遠慮がちだった。五百年の知識を持ちながら、経験の伴わないその声音が旅人の胸の奥を静かに締め付ける。旅人は彼女の髪から手を離すと、今度はその小さな肩へと触れた。骨の在り処が手のひらに伝わるほど華奢な肩。
「大丈夫。ゆっくりでいい」
旅人のその言葉にナヒーダはこくりと頷いた。それから、ニィロウが旅人の左手をきゅっと握り返した。その手のひらは、先ほどよりもずっと熱くなっていた。旅人は二人を交互に見つめ、それからゆっくりとニィロウの肩にかかる赤い髪の一房を、そっと耳の後ろへと流した。露わになった耳朶が、洞天の灯りを受けてほんのりと朱に染まっている。
「ニィロウ」
名前を呼ぶと彼女は上目遣いに旅人を見た。その瞳はもう潤んでいて、けれどその奥には確かな期待が揺れている。旅人は彼女の耳朶に、そっと唇を寄せた。触れるだけのごく軽い口づけ。それだけでニィロウの肩が跳ね、喉の奥から小さな吐息が漏れた。
「あ……っ」
その声に、ナヒーダが微かに身じろぎをした。旅人はそれを見逃さなかった。耳から唇を離すと、今度はナヒーダの方へと顔を向ける。彼女の小さな顔は、すでにほんのりと桜色に染まっていた。旅人は彼女の頬に手を添え、ゆっくりと唇を近づける。
「ナヒーダ」
「……ええ」
その返事は、いつもの「いいわよ」ではなく、ただの頷きに近いものだった。旅人は彼女の唇に、そっと自分のそれを重ねた。二度目になるキスは、けれど最初のそれよりもずっと深く長い。ナヒーダの小さな口が、旅人の唇を受け入れて、それから微かに開いた。旅人はその隙間にそっと舌を差し入れる。彼女の口内は、相変わらず驚くほど温かかった。
ナヒーダの小さな舌が、旅人のそれに触れると彼女は小さく息を呑んだ。それでも逃げずに、むしろ自分から微かに舌を伸ばしてくる。五百年の知恵の神が、今、初めての経験に戸惑いながらもその手触りを確かめようとしている。旅人は彼女の舌をそっと絡め取りながら、右手でその背中を優しく撫でた。
その間、ニィロウはというとただ二人の様子を見つめていた。長い赤毛の先を弄る指が、ほんの少しだけ震えている。けれどその瞳には、嫉妬ではなくもっと温かな感情が灯っていた。旅人がナヒーダに向けるまっすぐな想いを、彼女は自分のことのように感じていた。
やがて旅人がナヒーダから唇を離すと、彼女の深い緑の瞳は涙で膜が張ったようにきらきらと光っていた。その頬は、先ほどよりもずっと濃く朱に染まっている。
「……すごく、長かったわ」
ナヒーダは掠れた声でそう呟いた。その言葉は、決して抗議ではなくてただ素直な感想だった。旅人はそんな彼女の頭をそっと撫でると、今度はニィロウの方へと身体を向けた。
ニィロウは、旅人が自分を見た瞬間ほんの少しだけ後ずさった。けれどその瞳は、逃げるためではなくてむしろもっと近くに来てほしいと訴えている。旅人はそんな彼女の腰に、そっと手を回した。踊り子の身体は驚くほどしなやかだった。無駄な肉が一切なくて、けれど触れた場所からは確かな温もりが伝わってくる。
「ニィロウ」
名前を呼ぶと彼女はこくりと頷いた。それから、自分から旅人の胸に手のひらを添えてゆっくりと顔を近づけてきた。旅人はその意図を理解して、自分からは動かずに彼女のキスを待った。ニィロウの唇が、旅人のそれに触れる。最初はただ触れるだけのものだったけれど、次第に彼女は自分から角度を変えて吸い付くように唇を重ねてきた。
旅人はその一生懸命な動きに胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。彼女は、自分からキスをするのも初めてなのだろう。けれどその不器用な動きの中に、確かな愛情があった。旅人はそっと彼女の腰を引き寄せて、より深く抱きしめる。ニィロウの小さな胸が、旅人の胸に押し当てられた。その鼓動が早鐘のように伝わってくる。
「ん……っ」
ニィロウの鼻から甘い吐息が漏れた。旅人は彼女の唇を割って、そっと舌を差し入れる。ニィロウの口内はスメールの太陽を浴びて育った少女の生命の温度そのものだった。彼女の舌は、最初はどうしていいのかわからないように戸惑っていたけれど、旅人の舌がゆっくりと触れると、次第にそれに応えるように動き始めた。まるで新しい振り付けを身体で覚えていく時のような、真剣な動きだった。
くちゅ、と小さな水音が静かな寝室に響く。ニィロウの背中に回した旅人の手が、そのしなやかな背骨の線をなぞるように動いた。彼女はびくりと身体を震わせたけれど、逃げなかった。むしろ自分から腰を微かに揺らして、もっと旅人を感じようとしている。
やがて旅人がゆっくりと顔を離すと、ニィロウの瞳はもう完全に潤んでいた。けれどその口元には、ふにゃりと緩んだ笑みが浮かんでいる。それは彼女が舞台で見せるどんな笑顔とも違う、ただ好きな人にキスをされて嬉しいというまっすぐな感情だけの笑顔だった。
「空……私、今、すごく嬉しい」
その言葉はあまりにも率直で、あまりにも飾り気がなくて。けれどそれがニィロウという人間のすべてだった。旅人はその言葉に何も答えず、ただ彼女の頭をそっと撫でた。
旅人はニィロウの腰に回した手をゆっくりと上へと滑らせた。踊り子衣装の薄い生地越しに、彼女の背中の筋肉が微かに緊張するのがわかる。指先が背骨の窪みをなぞり、肩甲骨の間を抜けて首の付け根へと辿り着く。そこには、細い紐が一つ結ばれているだけだった。
「ニィロウ、脱がすよ」
囁くような確認に、彼女はこくりと頷いた。赤い髪がその動作に合わせてさらりと揺れる。旅人は指先でそっと紐を解いた。結び目がほどけると、彼女の胸元を覆っていた布が重力に従ってするりと落ちる。露わになった双丘は、洞天の柔らかな灯りを受けてほんのりと汗ばんだ肌が真珠のような光沢を放っていた。決して大きくはない。けれどその形は、熟した果実のようにふっくらとしていて頂には淡い桜色の蕾が二つ、慎ましげに息づいている。
「あ……」
ニィロウが小さく息を呑んだ。両腕で胸を隠そうとする仕草は、けれど途中で止まる。旅人がその腕をそっと掴んで、優しく下ろしたからだ。
「隠さないで。すごく綺麗だ」
それは世辞ではなかった。旅人は、目の前の光景に息を呑んでいた。毎日のように彼女の舞を眺めていた。しなやかな肢体が、音楽に合わせてしなる姿を何度も見てきた。けれど、こうして間近で何も纏わない姿を見るのは初めてだった。踊りの時とは違う、無防備でけれど確かな女の形をした身体。
旅人は片膝をつくと彼女の左の蕾にそっと唇を寄せた。触れるか触れないかの、ごく軽い口づけ。
「ひぁ……っ」
ニィロウの背中が、びくりと反った。旅人はその反応を確かめるように、もう一度今度は少しだけ強く唇を押し当てる。そして、舌先で蕾の周りを円を描くように舐めた。汗の名残が、ほんのりと塩気を帯びている。けれどその下からは、彼女自身の匂いがふわりと立ち上ってきた。スメールの花の香りに似た、甘くてどこか青い匂い。
「あっ、あの、空……っ」
「ん?」
「くすぐったい……です……」
その声は、いつものよく通る踊り子の声ではなくどこか遠慮がちで、それでいて感じていることを隠しきれないものだった。旅人は顔を上げずに、そのまま舌を這わせ続ける。蕾が少しずつ硬さを増していくのがわかった。触れるたびに、ニィロウの呼吸が浅くなり時折、喉の奥で小さく引っかかるような音が漏れる。
やがて旅人は口を離すと今度は右の蕾に同じように唇を寄せた。左と同じだけの時間をかけて、丁寧に味わう。その間左手はずっと彼女の腰を支えていて、時折、指の腹で腰骨のくぼみを優しく撫でた。彼女の膝が、少しずつ震え始めている。
「ニィロウ、気持ちいい?」
問いかけると、彼女は顔を真っ赤にしながら、けれど素直に頷いた。その瞳はもう潤み始めていて、灯りを映してきらきらと揺れている。旅人は彼女の背中に回した手で、するりと下着の端に指をかけた。踊り子衣装の下には、白い小さな布が一枚あるだけだった。
「これも、脱がすよ」
ニィロウは一瞬だけ躊躇ったように唇を噛んだ。けれど、すぐに小さく息を吐いて自分から腰を浮かせた。旅人はその協力に感謝しながら、布をゆっくりと下ろしていく。露わになったばかりの部分は、彼女の脚の間でほんのりと湿り気を帯びていた。恥ずかしさからか、太ももをきゅっと閉じている。
「脚、開いて」
その言葉に、ニィロウはしばらく迷ってからゆっくりと脚を開いた。洞天の灯りが、彼女の一番奥までを照らし出す。薄く色づいた花弁が、呼吸に合わせて微かに震えているのが見えた。旅人は彼女の太ももの内側にそっと手を添えて、閉じようとする力を優しく制した。
「きれいだ」
囁くと、ニィロウはまた顔を真っ赤にしてけれどどこか嬉しそうに、目を細めた。旅人は片手で彼女の片脚を抱え上げるように支えると、もう一方の手で花弁をそっと開いた。中はすでに蜜で濡れていた。艶やかな光を放つそこに、旅人はゆっくりと顔を近づける。
まず、花弁の一枚一枚に軽く口づける。それから、舌先で割れ目をなぞった。ニィロウの腰がびくんと跳ねた。
「ひゃうっ!?」
悲鳴にも似た声が静かな寝室に響く。旅人は気にせずに、舌をさらに奥へと差し入れていく。彼女の中は熱くて、狭くてそして驚くほど味わい深かった。甘さの中に、ほんの少しの酸味。スメールの果実酒を思わせる、芳醇な味わい。旅人は夢中になって舌を動かした。上へ下へ、時には回すように。クリトリスを探り当てると、そこだけを集中的に攻める。
「あっ、あ、そこ……っ、だめ……っ」
ニィロウが旅人の頭を両手で押さえようとする。けれどその力は弱く、まるで抵抗しているのかもっと感じていたいのか、わからないような力だった。旅人はそんな彼女の手を振り払うことなく、ただ舌の動きを止めなかった。蜜が次々と溢れ出し、旅人の口元を濡らしていく。それを全て飲み干しながら、彼女が達するまで何度も何度も同じ場所を刺激し続けた。
「あっ、あっ、あっ……っ、きちゃ……っ、なんかきちゃう……っ」
ニィロウの声がだんだんと高くなっていく。背中が大きくしなり、爪先がぴんと伸びる。旅人は彼女のクリトリスを唇で包み込み、そっと吸い上げた。その瞬間。
「っ!!」
声にならない悲鳴とともに、ニィロウの全身が大きく痙攣した。太ももが旅人の頭を挟むように締め付けられ、膣がひくひくと収縮を繰り返す。旅人はそんな彼女の絶頂を、ただ静かに受け止めていた。味わうように最後の一滴まで飲み干してから、ゆっくりと顔を離す。
「はぁ……はぁ……」
ニィロウは、ベッドの上で荒い息を吐いていた。長い赤毛が、汗で額に貼り付いている。その頬は洞天の灯りよりもずっと赤く染まっていた。旅人はそんな彼女の隣に腰を下ろすと、汗ばんだ髪をそっと掻き上げてやった。
「大丈夫?」
「……うん。すごく……すごかった……」
掠れた声で、けれど笑顔でそう答えるニィロウ。その笑顔は、舞台の上で見せるどんな笑顔とも違う。ただ好きな人に触れられて、嬉しいというまっすぐな感情だけの笑顔だった。旅人はそんな彼女の頭を撫でると、今度は隣で息を呑んでいる小さな影の方へと身体を向けた。
ナヒーダはベッドの端にちょこんと座ったまま、じっと二人の様子を見つめていた。その深い緑の瞳は、いつもの静かな光ではなくどこか揺れている。五百年の知識を持っていても、実際に目の前で繰り広げられる行為は彼女にとって初めてのものだった。白い頬は、ほんのりと桜色に染まっている。
「ナヒーダ」
旅人が名前を呼ぶと、彼女はびくりと肩を震わせた。それからすぐにいつもの落ち着いた表情に戻る。けれどその頬の赤らみは、消えなかった。
「次は、君の番」
そう言うと、ナヒーダは小さく息を呑んだ。けれど逃げなかった。むしろ、自分から旅人の方へとほんの少しだけ身体を寄せてくる。
「ええ。お願いするわ」
その声は、いつもの落ち着いた神の響きではなくどこか少女めいた、それでいて確かな意志を宿したものだった。旅人は彼女の前に跪くと、その小さな身体を包み込むようにそっと両腕を回した。ナヒーダの身体は、驚くほど華奢だった。骨の在り処がわかるほどに細くて、けれどその肌は絹のように滑らかだった。
旅人は彼女の神の衣装に手をかける。白と若草色の、シンプルなワンピース。その留め具を一つ一つ、丁寧に外していく。ナヒーダはされるがままに、けれどその指先は旅人の服の裾をぎゅっと握っていた。不安と、期待とその両方が混ざり合ったような握り方だった。
ワンピースがするりと彼女の肩から落ちる。露わになったのは、見た目相応のけれどどこか神秘的な雰囲気を纏った裸体だった。胸は、本当に小さかった。けれどその先端には、ほんのりと色づいた蕾が二つ慎ましげに息づいている。膨らみはないけれど、触れたらどんな反応をするのだろうかと思わせるような、繊細な形をしていた。
「……こんな身体で、ごめんなさい」
ナヒーダが、小さく呟いた。その言葉はけれど旅人にはまったく理解できないものだった。彼女は、五百年の時を生きてきた神だ。知識も知恵も、この世界の誰よりも深い。けれど自分の身体のことを、ただの少女のように気にしている。
「どうして謝るんだ?」
旅人は、本心からそう尋ねた。ナヒーダは少しだけ目を逸らして、それからぽつりぽつりと話し始めた。
「私は、この姿で長い時間を生きてきたわ。知恵の神として、多くのことを学び多くのことを教えてきた。けれど、自分の身体については何も知らない。どうすればあなたを満足させられるのかも、わからない。他のみんなみたいに豊かな身体でもないし」
その声は、どこか寂しげだった。五百年の孤独がその声には滲んでいた。旅人は、彼女の言葉を最後まで聞いてからそっと首を振った。
「俺は、ナヒーダの全部が欲しいんだ。この身体もその心も、五百年の記憶も。小さかろうが、大きかろうが関係ない。俺は目の前のナヒーダに、触れたいんだ」
そう言って、彼女の胸の蕾にそっと唇を寄せた。ナヒーダの身体が、びくりと大きく震えた。旅人はその反応を確かめるように、もう一度今度は少しだけ強く吸い付く。彼女の小さな口から、初めてのけれど確かな甘い吐息が漏れた。
「ぁ……っ」
その声は、五百年の時を生きてきた神のものではなくただの少女のものだった。旅人はその声に励まされるように、左の蕾を舌で転がしながら右手で右の蕾をそっと摘まんだ。指の腹で優しく捏ねるように刺激すると、ナヒーダの背中が大きく反った。
「あっ、あの、これ……っ」
「ん?」
「すごく、変な感じ……っ。身体の奥が、熱くなって……っ」
ナヒーダは自分の身体に起きている変化を、まるで観察するように言葉にした。それが彼女の初めての感覚への戸惑いと、そして好奇心の現れだった。旅人はそんな彼女の反応を面白く思いながら、蕾を吸い舐め、時には甘噛みした。その間、左手はずっと彼女の背中を支えていて時折、脊椎の線をなぞるように撫でた。
やがて、旅人は口を離すと今度は彼女の脚の間に手を滑らせた。ナヒーダは一瞬だけ脚を閉じようとしたけれど、旅人の手がそれを優しく制した。
「ナヒーダ、脚を開いて」
その言葉に、彼女はしばらく迷ってからゆっくりと脚を開いた。洞天の灯りが、彼女の一番奥までを照らし出す。そこは他の誰よりも神秘的な光を放っていた。薄く色づいた花弁は、まるで新芽のように瑞々しくそして奥からは、ほのかに甘い香りが立ち上っていた。旅人はその香りに誘われるように、ゆっくりと顔を近づける。
まず、花弁の一枚一枚に軽く口づける。それから、舌先で割れ目をなぞった。ナヒーダの腰がびくんと跳ねた。けれど、ニィロウの時とは違うもっと抑制された反応だった。旅人は気にせずに、舌をさらに奥へと差し入れていく。彼女の中は、驚くほど熱くて狭かった。けれど、味わいは今まで味わったどの女性とも違っていた。甘さの中に、ほんの少しの清涼感。まるで、植物の葉に溜まった朝露を舐めているかのような爽やかな味わい。旅人は夢中になって、舌を動かした。上へ下へ時には回すように。クリトリスを探り当てると、そこだけを集中的に攻める。
「あっ、あの……っ、そこは……っん!」
ナヒーダが旅人の頭を両手で押さえようとする。けれどその力は、ニィロウの時と同じく弱かった。旅人はそんな彼女の手を振り払うことなく、ただ舌の動きを止めなかった。蜜が次々と溢れ出し、旅人の口元を濡らしていく。それを全て飲み干しながら、彼女が達するまで何度も何度も同じ場所を刺激し続けた。
「あっ、あっ、あっ……っ、これは……っ、なにかきそう……っっ!」
ナヒーダの声がだんだんと高くなっていく。五百年の時を生きてきた神が、今、初めての絶頂を迎えようとしている。その事実が、旅人の胸を熱くした。彼女のクリトリスを唇で包み込み、そっと吸い上げた。その瞬間。
「っっ!!」
声にならない悲鳴とともにナヒーダの全身が大きく痙攣した。小さな身体が、弓なりに反る。膣がひくひくと収縮を繰り返し、その奥から透明な蜜が溢れ出した。旅人はそんな彼女の絶頂を、ただ静かに受け止めていた。味わうように最後の一滴まで飲み干してから、ゆっくりと顔を離す。
「はぁ……はぁ……」
ナヒーダはベッドの上で荒い息を吐いていた。白い髪が、汗で額に貼り付いている。その頬は先ほどよりもずっと濃く朱に染まっていた。旅人はそんな彼女の隣に腰を下ろすと、汗ばんだ髪をそっと掻き上げてやった。
「大丈夫?」
「……ええ。これが、絶頂……イク、というものなのね。知識としては知っていたけれど、実際は……もっと、ずっと……」
ナヒーダは掠れた声でそう呟いた。その言葉は、決して抗議ではなくてただ素直な感想だった。旅人はそんな彼女の頭を撫でると、今度は隣で息を整えているニィロウの方へと身体を向けた。
「ニィロウ、もう大丈夫?」
「うん……。あのね、空」
ニィロウはまだ少しだけ息を弾ませながら、けれどしっかりと旅人の目を見て言った。
「私、もっと空と……その、続きがしたい」
その言葉は、あまりにも率直であまりにも飾り気がなくて。けれどそれがニィロウという人間のすべてだった。旅人はその言葉に、そっと微笑みを返すと彼女の頭を撫でた。
「ああ。俺も、二人とも、もっと感じたい」
洞天の夜は、まだ始まったばかり。けれど旅人にとってこの静かな時間が何よりも大切なものになると、そう確信していた。
旅人はニィロウとナヒーダをベッドの中央に並べて寝かせた。天蓋の薄い布が洞天の夜風に揺れ、満天の星が柔らかな灯りを二人の肌に落としている。ニィロウは長い赤毛をシーツに散らし、ナヒーダは白い髪を枕元に広げてどちらも息を整えながら旅人を見上げていた。
二人の視線が旅人の手の中にある自身の剛直に集まる。固く反り返ったそれは、洞天の灯りを受けてほんのりと艶めいた光を放っていた。ニィロウはごくりと喉を鳴らし、ナヒーダは深い緑の瞳を静かに細める。五百年の知識を持つ神でさえ、実物を目の前にするのは初めてなのだろう。その瞳には、戸惑いと好奇心が入り混じった光が揺れていた。
「ニィロウ、先に君と」
旅人がそう言うとナヒーダは小さく頷いてベッドの端へと身体をずらした。その動作は実に自然で、まるで最初からそうする約束事だったかのようだった。ナヒーダは枕元に置かれた自分のワンピースを手に取り、それを胸元に抱えて静かに二人の様子を見守る姿勢をとる。その瞳は、これから始まる行為をただ観察するのではなく、学ぼうとしているように見えた。
ニィロウは旅人が自分の上に覆いかぶさってくるのを感じて、小さく息を呑んだ。長い赤毛がシーツの上で扇状に広がる。旅人は彼女の額にそっと口づけ、それから頬顎、首筋へと唇を滑らせていった。鎖骨のくぼみに舌を這わせると、ニィロウの身体がびくりと震える。
「んっ……」
その声は、舞台で響かせるよく通る声ではなくただの少女のものだった。旅人は左手で彼女の左の胸を包み、親指と人差し指で蕾をそっと摘まむ。同時に右手は彼女の太ももの内側を撫で、ゆっくりと上へと滑らせていった。ニィロウの脚が、旅人の腰を挟むように自然と開いていく。そこはすでに、先ほどの絶頂の名残で濡れていた。
「ニィロウ、いくよ」
旅人は右手の指先で彼女の入り口をそっと確かめると、ゆっくりと腰を進めた。亀頭が花弁に触れ窄まりを押し広げていく。ニィロウの眉がきゅっと寄り、唇が小さく開いた。
「あ……っ」
初めての感覚に、彼女の全身が微かに強張る。旅人はすぐには奥へ進まず、そこで一度止まった。指先で彼女のクリトリスを優しく転がしながら、耳元で低く囁く。
「痛かったら言って。すぐに止めるから」
ニィロウはこくりと頷いた。その瞳はもう潤んでいて、けれどその奥には確かな信頼の光が宿っている。旅人はゆっくりと、けれど確実に腰を進めていった。狭い膣壁が、旅人のものをきつく締め付ける。処女の証が、ゆっくりと押し広げられていく。
「んぁ……っ、あ……っ」
ニィロウの指が、シーツをぎゅっと握った。痛みは思ったよりも少なかった。それよりも、身体の内側に異物が入り込んでくる感覚の方が強くて、彼女は自分の内側が旅人の形に変わっていくのを、ただ静かに感じていた。
「痛い?」
「ううん。違うの……なんかね?お腹の奥が……熱いの」
彼女の声がとても甘く震える。旅人は彼女の腰に手を添え、少しずつ本当に少しずつ、抽送を始めた。最初は浅くゆっくりと。彼女の内側が旅人のものに慣れていくのを、丁寧に確かめるように。
ニィロウの呼吸が、少しずつ深くなっていく。痛みはいつの間にか快感に変わっていた。旅人のものが引くたびに、名残を惜しむように膣壁が収縮し押し込まれるたびに、身体の奥がじんと熱くなる。
「あっ……、空……っ、これ……っ」
「ん?」
「すごく……っ、変な感じ……っ。でも、もっと……っ」
ニィロウは自分でも無意識に腰を旅人の方へと突き出していた。踊り子として鍛えられた彼女の身体は、実にしなやかに動く。旅人はその動きに合わせて、少しずつ抽送の速度を上げていった。パンパン、と肌のぶつかる音が、静かな寝室に響き始める。ニィロウの小さな胸が、抽送のたびに揺れた。
「あっ、あっ、あっ……っ」
彼女の声がだんだんと高くなっていく。旅人は彼女の左脚を抱え上げ、より深く結合できる体位へと変えた。亀頭が、子宮口に触れる。そのたびにニィロウの背中が大きく反った。
「んぁっ! そこ……っ、なんか……っ」
「ここ?」
旅人はわざと子宮口を小突くように先端でその入り口を刺激した。ニィロウの全身が、びくびくと痙攣する。膣が旅人のものを奥へ奥へと引き込むように収縮した。旅人はその収縮を感じながら、今度は自分から腰を深く打ち付けた。一度二度、三度。亀頭が子宮口を優しくノックする。
「あっ、あっ、きちゃ……っ、また……っきちゃうぅ!!」
ニィロウの爪先がぴんと伸びた。旅人は彼女が達する瞬間を逃さないように、腰を深く押し付けたまま子宮口に先端をぴったりと密着させた。そして、彼女の絶頂と同時に旅人もまた、その最も奥へと精を放った。
どくん、どくん、と脈打つように注ぎ込まれる熱い飛沫をニィロウは子宮の奥で感じていた。彼女の全身が、大きな波に攫われるように痙攣しそしてゆっくりと弛緩していく。旅人はそんな彼女の内側に、まだしばらく留まっていた。射精の余韻で彼女の膣がひくひくと収縮するのが、愛おしくてならなかった。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
ニィロウは荒い息を吐きながら、それでも幸せそうに目を細めていた。汗ばんだ赤毛が、額に貼り付いている。旅人はそんな彼女の髪をそっと掻き上げ、額に口づけを落とした。
「よく頑張ったね」
その言葉に、ニィロウはふにゃりと笑った。それは彼女が舞台で見せるどんな笑顔とも違う、ただ好きな人に抱かれて満たされたというまっすぐな感情だけの笑顔だった。
旅人はゆっくりと彼女から身を引くと隣で息を呑んでいる小さな影の方へと身体を向けた。ナヒーダは、先ほどからずっと二人の行為を食い入るように見つめていた。その深い緑の瞳は、いつもの静かな光ではなくどこか熱を帯びている。白い頬は、ほんのりと桜色に染まっていた。
「ナヒーダ、次は君の番だ」
旅人がそう言うと、ナヒーダは小さく息を呑んだ。けれど逃げなかった。むしろ、自分から旅人の方へとほんの少しだけ身体を寄せてくる。その小さな手が、旅人の腕にそっと触れた。
「ええ。お願いするわ」
その声は、いつもの落ち着いた神の響きではなくどこか少女めいた、それでいて確かな意志を宿したものだった。
旅人はナヒーダの小さな身体をそっと自分の目の前に横たわらせる。天蓋の薄い布が洞天の夜風に揺れ、満天の星が柔らかな灯りを彼女の白い肌に落としている。ナヒーダは若草色のメッシュが入った白い髪をシーツに広げ、深い緑の瞳でじっと旅人を見上げていた。その瞳には五百年の知恵と、そして初めての経験へのほんの少しの不安が揺れている。
「ナヒーダ、緊張してる?」
旅人は彼女を包み込むように覆いかぶさると、汗ばんだ額の髪をそっと掻き上げた。ナヒーダは小さく息を吐いて、それから正直に頷く。
「ええ。知識としては知っているのだけれど、実際は……やっぱり、少し怖いわ」
その声は、いつもの落ち着いた神の響きではなくどこか少女めいたものだった。旅人はそんな彼女の頬にそっと手を添える。絹のような滑らかな肌が、ほんのりと熱を持っていた。
「無理はしない。痛かったらすぐに止めるから」
「……ありがとう」
ナヒーダは目を細めて、旅人の手のひらに自分の頬を預けるようにした。その仕草は、まるで今まで誰にも見せたことのない無防備なものだった。旅人はそんな彼女の唇に、そっと自分のそれを重ねる。最初はただ触れるだけの優しいキス。けれどナヒーダは自分から微かに顎を上げて、より深い接触を求めてきた。その健気な仕草に、旅人の胸の奥がじんと熱くなる。
「ん……っ。んん……」
旅人は彼女の唇を割って、そっと舌を差し入れる。ナヒーダの口内は相変わらず驚くほど温かかった。小さな舌が、旅人のそれに触れると微かに震える。けれど逃げずに、むしろ自分から絡め取ろうとする。
その瞳はもう潤んでいて、けれどその奥には確かな信頼の光が宿っている。旅人は彼女の小さな腰にそっと手を添えると、ゆっくりと自身を彼女の入り口に当てた。亀頭が、花弁に触れる。ナヒーダの身体が微かに強張った。ゆっくりと腰を進めていく。亀頭が窄まりを押し広げて彼女の内側へと入り始める。ナヒーダの眉がきゅっと寄る。けれど、声は上げなかった。ただ旅人の背中に回した手に、ぎゅっと力がこもる。
「ん……っ」
旅人はすぐには奥へ進まず、そこで一度止まった。指先で彼女のクリトリスを優しく転がしながら、耳元で低く囁く。
「痛い?」
「……少し。でも、平気よ」
ナヒーダはそう言って、旅人の目をまっすぐに見た。その瞳には五百年の時を生きてきた神の誇りと、そして目の前の男を心から信じる少女の想いが、同時に宿っていた。旅人はその瞳に励まされるように、ゆっくりとけれど確実に腰を進めていった。狭い膣壁が、旅人のものをきつく締め付ける。けれど彼女の身体は驚くほど柔軟だった。まるで、旅人を受け入れるために生まれてきたかのように、少しずつ形を変えていく。
旅人は、ゆっくりと腰を進め続けた。ナヒーダの内側は驚くほど熱く、そして狭かった。五百年の時を生きてきた神の身体は、けれど今はただの少女のそれと同じように、旅人という異物を必死に受け入れようとしている。膣壁がきゅうきゅうと締め付けてくる。その圧迫感が痛みではなく、むしろ心地よい刺激として旅人の背筋を駆け上がった。
「ん……っ、あ……ぅっ」
ナヒーダの小さな口から初めての声が漏れる。それは悲鳴ではなく、戸惑いとそして確かな悦びの入り混じった音だった。旅人は彼女の反応を確かめるように、さらに少しだけ腰を進める。
「……んくっ!?」
亀頭が子宮口に触れた。けれど彼女の中はまだ、旅人のすべてを受け入れるには足りない。大体三分の二が挿入されたぐらいで先端が、子宮の入り口を優しくノックするような形で止まる。
「ナヒーダ、ここまでしか入らない」
旅人は正直にそう告げた。ナヒーダは汗ばんだ白い髪をシーツに散らしながら、深い緑の瞳を細めて旅人を見上げる。その瞳には、知識として知っていたことと現実との違いに触れた、初めての驚きが浮かんでいた。
「そう……。でもこれが、あなたの全部ではないのね」
その声は掠れていて、けれどどこか嬉しそうでもあった。五百年の知恵の神は、自分の身体の小ささを今この瞬間に初めて実感したのだろう。旅人はそんな彼女の頬にそっと口づけを落とす。
「ナヒーダの全部が欲しい。この身体の大きさも、この内側の狭さも全部」
囁くように告げるとナヒーダの膣がきゅっと収縮した。まるで、その言葉に応えるように。旅人はゆっくりと抽送を始めた。浅く、そして深く。彼女の内側が旅人の形に変わっていくのを、丁寧に確かめるように。
「あっ、あの……っ」
ナヒーダの指が、シーツをぎゅっと握る。その握り方は先ほどよりも少しだけ強くなっていた。痛みではない。彼女の身体が、旅人をより深く感じようとしている。旅人は彼女の左脚をそっと抱え上げ、より密着できる体位へと変えた。小さな身体が、旅人の腕の中にすっぽりと収まる。
「ナヒーダ、抱きしめてていい?」
旅人がそう尋ねると、ナヒーダは小さく頷いた。その両腕が旅人の首にそっと回される。五百年の孤独を抱えた神の、初めての抱擁だった。旅人はその華奢な身体を壊さないように、けれど確かに愛していると伝わるようにゆっくりと腰を動かし続けた。
「あっ、あっ、空……っ」
名前を呼ばれる。その声はいつもの落ち着いた神の響きではなく、ただの少女のものだった。旅人は彼女の名を呼び返しながら、抽送の速度を少しずつ上げていく。パンパンと肌のぶつかる音が、静かな寝室に響き始める。ナヒーダの小さな胸が、その動きに合わせて揺れた。
「んっ、んんっ、これ……っ」
ナヒーダの声がだんだんと高くなっていく。五百年の時を生きてきた神が、今、初めての絶頂を迎えようとしている。その事実が、旅人の胸を熱くした。彼女の内側がきゅうきゅうと収縮を繰り返す。膣壁が、旅人のものを奥へ奥へと引き込もうとしている。
「ナヒーダ、一緒に」
旅人は囁くようにそう言うと彼女の最も奥、子宮口に先端をぴったりと密着させた。そして、彼女の絶頂の瞬間を待った。ナヒーダの全身が、弓なりに反る。小さな口が声にならない悲鳴の形に開いた。その瞬間、旅人もまた彼女の最も奥へと精を放った。
「っっ!!」
どくん、どくん、と脈打つように注ぎ込まれる熱い飛沫をナヒーダは子宮の奥で感じていた。彼女の全身が、大きな波に攫われるように痙攣しそしてゆっくりと弛緩していく。旅人はそんな彼女の内側に、まだしばらく留まっていた。射精の余韻で幼い見た目の彼女の膣がひくひくと収縮するのが、愛おしくてたまらなかった。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
ナヒーダは荒い息を吐きながらそれでも幸せそうに目を細めていた。汗ばんだ白い髪が、額に貼り付いている。旅人はそんな彼女の髪をそっと掻き上げ、額に口づけを落とした。
「よく頑張ったね」
その言葉に、ナヒーダはふにゃりと笑った。それは彼女がこれまでに見せたどんな笑顔とも違う、ただ好きな人に抱かれて満たされたというまっすぐな感情だけの笑顔だった。旅人はゆっくりと彼女から身を引くと、隣で息を整えているニィロウの方へと身体を向けた。
「ニィロウ、もう大丈夫?」
「うん……。あのね、空」
ニィロウはまだ少しだけ息を弾ませながら、けれどしっかりと旅人の目を見て言った。
「私も、もっと空と……その、続きがしたい」
その言葉は、あまりにも率直であまりにも飾り気がなくて。けれどそれがニィロウという人間のすべてだった。旅人はその言葉に、そっと微笑みを返すと彼女の頭を撫でた。
「ああ。俺も、二人とも、もっと感じたい」
洞天の夜はまだ始まったばかり。けれど旅人にとって、この静かな時間が何よりも大切なものになると、そう確信していた。
◆◆◆
それからというもの、洞天での暮らしは旅人にとってそして恋人たちにとって、新たな彩りを帯びていった。旅人は洞天の中にいる間は、恋人全員といつも愛し合うことを一番に考えた。彼女たちが嫌がらない程度のエッチなスキンシップを、自然な形で日常に織り込んでいく。
朝、広間で朝食の準備をしているノエルの後ろを通りかかる時、旅人はそっと彼女の腰に手を回し耳元で「おはよう」と囁く。ノエルは一瞬だけ肩を跳ねさせて、それから「おはようございます、ご主人様」と少しだけ頬を染めて返す。その声は、いつもの丁寧な口調のままだがどこか甘さを含んでいる。
「ご主人様、朝からそんな……」
「だってノエルが綺麗だから」
旅人はそう言って彼女の銀色の髪にそっと口づける。ノエルはくすぐったそうに身をよじりながらも、決して逃げはしない。むしろ、旅人の腕の中にほんの少しだけ身体を預けてくる。その仕草が、彼女の素直な愛情を示していた。
リビングで本を読んでいるモナの隣に腰を下ろす時、旅人は彼女の肩にそっと手を回す。モナは一瞬だけ目を上げて、それからすぐに本へと視線を戻す。けれどその口元はほんのりと緩んでいる。
「空、読書の邪魔をしないでくださいな」
「してないよ。ただ、モナのそばにいたいだけ」
旅人がそう言うとモナはふっと小さく笑う。その笑みは、普段の占星術師としてのものではなくただの恋人に向けるものだった。彼女は本を閉じると、旅人の肩に自分の頭を預けてくる。黒いツインテールが、旅人の腕にさらりと触れた。
「あなたは、本当に私の星を狂わせる人なんですから」
その言葉は、いつもの壮大なモナの言い回しだったけれど、その声には確かな愛情が込められていた。
大浴場で身体を洗っているバーバラを見つけると、旅人はそっと後ろから近づきそのクリーム色のツインテールに口づける。バーバラはびくりと肩を震わせて、それから振り返り少しだけ怒った顔をする。
「もう、空! びっくりするでしょ!」
「ごめん。でも、バーバラが可愛いからつい」
旅人がそう言うとバーバラは顔を真っ赤にして、けれどどこか嬉しそうに俯く。その反応が愛らしくて、旅人は思わず彼女を抱きしめた。バーバラは最初は抗議の声を上げていたが、すぐに旅人の胸に顔を埋めて小さく息を吐いた。
「空のいじわる」
その声は、もう怒ってはいなかった。
甘雨が縁側でうたた寝をしている時旅人はそっと隣に座り、彼女のスカイブルーの髪を撫でる。甘雨はすぐには目を覚まさない。けれど、旅人の手のひらにそっと自分の頬を寄せてくる。それは無意識の仕草なのだろうけれど、旅人にとっては何よりも愛おしいものだった。
「空……」
甘雨が寝言のように呟く。その声は柔らかな温かみと、どこか冷たさが合わさる不思議な音色だった。旅人はそんな彼女の頭を、そっと自分の膝の上に乗せる。仙獣の血を引く彼女の身体は、驚くほど軽かった。
ニィロウが洞天の草原で踊りの練習をしている時、旅人はそっとその様子を遠くから眺める。彼女の舞は、スメールのグランドバザールで見た時と同じように、しなやかでそして力強かった。やがてニィロウが旅人に気づくと、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「空! 見ててくれたの?」
「ああ。ニィロウの舞は、いつ見ても綺麗だ」
旅人がそう言うと、ニィロウは照れくさそうに笑ってそれから旅人の腕に自分のそれを絡めてくる。長い赤毛が、旅人の腕にふわりと触れた。その温もりが旅人の胸の奥を静かに温める。
「じゃあ、もっと上手になる。空にもっといいところを見せたいから」
その言葉は、実にニィロウらしいまっすぐなものだった。
ナヒーダが自室の本棚の前で本を選んでいる時、旅人はそっと後ろから抱きしめる。ナヒーダは一瞬だけ身体を強張らせて、それからすぐに旅人の腕の中に身体を預けてくる。
「空。私、今、本を選んでいるのだけれど」
「知ってる。でも、ナヒーダを感じていたかったんだ」
旅人がそう言うと、ナヒーダは小さく息を吐いてそれから本を閉じた。彼女は旅人の方を向くと、深い緑の瞳でじっと旅人を見上げる。その瞳には、五百年の知恵とそして初めての恋を教えてくれた人への、まっすぐな想いが宿っていた。
「あなたは、本当に不器用な愛し方をするのね」
その声は、いつもの落ち着いた神の響きではなくどこか少女めいたものだった。旅人はそんな彼女の頭を、そっと撫でた。
「でも、それがいいの」
ナヒーダはそう言って、旅人の胸に、そっと自分のそれを押し当てた。
賢者タイムで読み切った人へ。どんな部分が癖に刺さりました?
もし、こんなシチュエーションで子作りしてる女の子の姿が見たいというのがあれば全部読んだ詳しい感想と一緒により詳しく書いてあったら、
もしかしたら参考にするかもしれない。
でも感想とかよりお気に入りにしてくれる方が嬉しいので、感想が面倒な人は、お気に入りにしてくれると嬉しいです。