モンド城下町は今日も自由と活気に満ちていた。
噴水広場では吟遊詩人がリュートを爪弾き、市場では商人たちの威勢のいい声が飛び交っている。そんな中、旅人とモナは並んで歩いていた。二人の距離は以前よりずっと近く、時折肩が触れ合う。その度にモナはほんのりと頬を染め、旅人は優しく微笑む。
「今日はどこへ行きましょうか」
「そうだな……せっかくだから、気ままに散歩する?」
「構いませんよ。キチンとエスコートして貰いますからね」
そう言って旅人が差し出した手を、モナはためらいがちにしかし確かな嬉しさを込めて握り返した。指を絡め合い、恋人繋ぎで歩く二人の姿は誰の目にも明らかな「恋仲」だった。
「見てよ、あれ」
「まあ! あの占星術師のモナさんと、あの有名な旅人さんが……」
「いやぁ、栄誉騎士がついに付き合い始めたんだってね」
街行く人々のささやき声が風に乗って聞こえてくる。モナは少し恥ずかしそうに帽子のつばを下げたが、旅人は気にしないというように彼女の手をぎゅっと握り返した。
その様子を、遠くから見つめる影があった。
銀色の髪を風に揺らし特注のメイドをあしらった鎧服のエプロンをぎゅっと握りしめながら、ノエルはただ立ち尽くしていた。
「栄誉騎士様……と、モナさん……」
彼女の声は震え、瞳は潤んでいた。
胸の奥が、ぎゅうっと締め付けられるように痛む。それは憧れと尊敬、そして——恋という名の痛みだった。
西風騎士団見習い騎士、ノエル。
彼女は旅人と初めて出会った時のことを今でも鮮明に覚えている。風魔竜の脅威からモンドを救った英雄。自由の都に突然現れ、誰よりも強く誰よりも優しく、そして誰よりも遠くを見つめる金色の瞳。
あの日からずっと、彼の姿を追いかけていた。
彼の役に立ちたい。彼の隣に立ちたい。そしていつか——彼の心に寄り添える存在になりたい。
だが、その願いは叶わなかった。
モナという、美しく聡明で美しい女性が彼の隣に立っていた。彼女が旅人に相応しくない品位に賭けた人物であればどれほど心が楽だっただろう。だが彼女の子はノエル自身もよく知っている。モンドでは珍しくも非常に優れた占星術で運命を占い、困っている人の悩みの解決を時折している事などを目撃したこともあるし手伝ったことだってある。それらはノエルにとって、あまりにも残酷な現実だった。
「おめでとう……ございます……」
口に出してみるが、その言葉は空っぽだった。胸にぽっかりと穴が開いたような虚無感が広がる。
ノエルは噴水広場の端に立ち尽くし、溢れそうになる涙を必死にこらえた。泣いてはいけない。彼が幸せなら、それでいいはずなのに。
「あら、ノエルさん」
突然背後から声をかけられ、ノエルはびくりと肩を震わせた。振り返ると、そこには藍色の帽子をかぶったモナが立っていた。その後ろには、旅人の姿もある。
「モナさん……それに、栄誉騎士様……」
「どうかされましたか? 顔色が優れないようですけれど」
モナは優しく、しかしどこか探るような眼差しでノエルを見つめた。その銀糸のような瞳には、星の輝きが宿っている。彼女は何かを感じ取っているのだろうか。
「い、いえ……! 大丈夫です。少しぼんやりしていただけで……」
ノエルは慌てて首を振り無理に笑顔を作る。しかしその笑顔はあまりにも脆く、今にも崩れてしまいそうだった。
旅人が一歩前に出る。
「ノエル……浮かない顔だけど、何か困ってることでもあるのか?」
「え……?」
旅人の金色の瞳が、まっすぐにノエルを見つめている。その優しい眼差しに、ノエルの胸はさらに締め付けられた。何も知らない彼は、ただ純粋に自分を気遣ってくれている。それが心が跳ねるほど嬉しくて、でも苦々しいほど苦しくて。
「いいえ……何も。私はいつも通りです。栄誉騎士様こそ、お二人ともお幸せそうで……その、本当におめでとうございます!それでは、失礼します」
ノエルは精一杯の笑顔でそう言い放つとぺこりと深くお辞儀をしてその場を走り去った。エプロンの裾が風に翻り、銀色の髪が夕日にきらめく。
「ノエル……」
旅人がその背中を見送っていると、隣に立つモナが静かに口を開いた。
「彼女、あなたに恋をしていますね」
「えっ?」
旅人は驚いてモナを見た。しかしモナは真剣な表情のまま、ノエルが消えていった方角を見つめている。
「星が教えてくれました。彼女の運命の線が、あなたに向かって強く伸びている。……とても、深い想いです」
「モナ……」
「私があなたを独占する権利は、ありません」
モナはくるりと旅人に向き直り、まっすぐに彼の目を見つめた。
「私は初めから知っていました。あなたが多くの女性に愛され、多くの運命を変えていくことを。星は私にそう告げていたのです」
「……それって、最初に言ってた予言のことか?」
「ええ」
モナは小さくうなずき、旅人の手をそっと握った。
「あなたは特別な存在です。テイワットの運命そのものを変えてしまうほどの力がある。そしてそれは、人の心さえも変えてしまう。ノエルさんの心も、私の心もそしてこれから出会うであろう多くの女性たちの心も——あなたは知らず知らずのうちに掴んで離さないのです」
「そんな大げさな……」
「大げさではありません」
モナは少しだけ頬を赤らめながらも、言葉を続けた。
「でも、私はそれでいいと思っています。むしろ……一人ではあなたの愛情を受け止めきれないと、正直思っていますから」
「え?」
「……言わせないでください、恥ずかしい」
モナは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。どうやら昨夜も彼女の部屋で行った旅人との激しい情事を思い出してしまったらしい。
彼女があまりにも敏感で、告白して恋人になったあの日の夜以降、旅人の精を数度子宮に放たれる頃には果てて気を失ってしまい、彼を満足させてあげられていない事を気にしているのだろう。もっともその度にパイモンに「あんまり無茶させるなよ!これから何人も旅人の赤ちゃんを産んでくれる大事な恋人なんだぞ!?」と怒られている。
「だから……もし、ノエルさんがあなたに想いを告げたいと願うなら、私はそれを応援します。もちろん他の誰かであっても」
「モナ……お前って本当に……」
「変ですか?」
「いいや、すごく嬉しいよ」
旅人はモナの手を握り返し、そっと彼女を抱き寄せた。
「でも、ノエルがどう思ってるかはわからないし……まずはちゃんと話を聞かないと」
「ええ、そうですね。あの様子だとかなり思い詰めているようですし」
「今夜にでも、ノエルのところに行ってみるよ」
「そうしてください。私は……少し、パイモンさんと先に私の部屋に戻っていますね」
「ああ、ありがとう」
旅人はモナの額にそっと口づけを落とし、ノエルの消えた方角へと歩き出した。
ノエルは騎士団本部の裏庭にある小さな庭園で、ひとり涙をぬぐっていた。
ここは彼女がよく自主訓練を行っている場所であり、誰にも邪魔されずに心を落ち着けられるいわば秘密の場所だった。
「どうして……こんなに苦しいんだろう……」
彼女は薔薇の茂みのそばに膝を抱えて座り込み、すすり泣いていた。
栄誉騎士様が幸せならそれでいい。そう思っていたはずなのに、いざその姿を目の当たりにすると胸が張り裂けそうなほど痛んだ。
(私は……やっぱり、栄誉騎士様のことが好きなんだ……)
でも、その想いを伝えることはできない。なぜなら彼にはすでに恋人がいるからだ。それにモナは素晴らしい女性だった。美しく賢く、旅人を支えるにふさわしい人。自分なんかが入り込む隙間はどこにもない。
「……私、何をやってるんだろう。こんなところで泣いて……それじゃあ立派な騎士になんて、なれないのに」
そう呟いた瞬間、背後から優しい声が聞こえた。
「ノエル」
ノエルははっとして顔を上げる。そこには、夕日に照らされた金色の髪と瞳を持つ旅人の姿があった。
「え、栄誉騎士様……!? どうしてここに……」
「ごめん、つけてきたわけじゃないんだ。たださっきの様子が気になって……それで、ノエルは自分を責める時は割と此処に居る気がして」
「……っ」
ノエルは慌てて涙をぬぐい立ち上がろうとした。しかし足がしびれてしまったのか、バランスを崩してしまう。
「わっ……!」
倒れそうになった彼女の体を、旅人がしっかりと支えた。
「大丈夫か?」
「は、はい……すみません、お見苦しいところを……」
「見苦しくなんかないよ。それより……」
旅人はノエルを優しく抱きとめたまま、静かに言った。
「話してほしい。君が何に悩んでるのか、俺でよければ聞かせてくれないか?」
「……栄誉騎士様……」
ノエルの瞳から再び涙がこぼれ落ちる。それは悲しみだけではない、彼の優しさに触れたことによる安堵の涙でもあった。
「私……私、ずっと……栄誉騎士様のことを……」
ノエルは震える声で、自分の想いを語り始めた。
初めて会った日のこと。彼の強さに憧れたこと。いつか彼の隣に立ちたいと願ったこと。そして——彼を愛していること。
「……でも、それは叶わない願いです。だって栄誉騎士様にはもう、モナさんという素敵な恋人がいらっしゃいますから」
「ノエル……」
「だから私は、この想いをしまっておきます。これからもずっと、あなたの力になれるように……まだ見習い騎士ですが、精一杯頑張りますから」
ノエルはそう言って笑顔を作ろうとした。しかしその笑顔はやはり脆く、涙が次々とこぼれ落ちてしまう。
そんな彼女を見て、旅人は深く息を吸い込みそしてゆっくりと口を開いた。
「ノエル、俺は……」
「はい……?」
「俺は、君に嘘をつきたくない。だから正直に言う」
旅人はノエルの両肩に手を置き、まっすぐに彼女の瞳を見つめた。
「俺はモナを愛してる。そしてモナも、俺のことを愛してくれている」
「……っ」
その言葉に、ノエルの胸が再び締め付けられる。だが旅人の言葉はまだ終わらなかった。
「でも、モナは言ってくれたんだ。『自分一人ではあなたの愛情を受け止めきれない』って。だから、他の誰かが俺を想ってくれるならそれを応援したいって」
「え……? それって……」
ノエルは驚きに目を見開いた。
「だから俺も、自分の気持ちに正直になるよ。ノエル、君は俺にとって、とても大切な人だ。いつも誰かのために頑張って、誰よりも優しくて……そんな君を、俺はちゃんと見てきたつもりだ」
「栄誉騎士様……」
「もし、君がさえよければ……俺の隣にいてほしい。モナだけじゃなく、君にも支えてほしいんだ。わがままかもしれないけど……」
「そ、それは……!」
ノエルの心臓が激しく跳ねる。まさかそんな言葉を聞ける日が来るなんて、夢にも思っていなかった。
「でも……それって、つまり……」
「ああ。ノエル、俺も君が好きだ。もし君が許してくれるなら、モナと一緒に……君とも、これからの旅を歩んでいきたい」
旅人の言葉は真摯で、嘘偽りのないものだった。
ノエルはしばらく呆然としていたが、やがてその瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。それはもう悲しみの涙ではなかった。
「よろしいのですか……? 本当に……私なんかで……」
「君じゃなきゃだめなんだ」
「……っ!」
ノエルはもう我慢できず、旅人の胸に飛び込んだ。
「私……私も、栄誉騎士様のことが大好きです……! ずっとずっと、お慕いしておりました……!」
「ノエル……」
「叶わない恋だと思って、諦めようとしていたのに……こんな、夢みたいな……!」
ノエルは旅人の胸に顔を埋めて泣きじゃくる。旅人はそんな彼女の背中を優しく抱きしめ、そっと髪を撫でた。
夕日が沈み、星が瞬き始める。
庭園の薔薇が風に揺れ、甘い香りを運んでくる。
「ノエル、モナのところに行こう。ちゃんと三人で話をしよう」
「はい……はい!」
ノエルは涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、それでも最高の笑顔でうなずいた。
その夜、モナと旅人が泊まっている宿の一室に三人は集まった。
部屋の中央にあるテーブルには、パイモンがどこからか見つけてきたお茶と茶菓子が並んでいる。
「いやぁ、まさかこんな展開になるとはなあ」
パイモンは腕を組みながら、興味津々といった様子で三人を見回した。
「でもおいらは大賛成だぞ! ノエルは料理もうまいし、戦闘も強いしそれに何より旅人のことを誰よりも尊敬してるからな!」
「パイモンさん……ありがとうございます」
「おいらはただ、旅人が幸せならそれでいいんだ! それに……」
パイモンは悪戯っぽくニヤリと笑った。
「この調子だと、これからもっとハーレムが大きくなりそうだしな!」
「パイモン……」
「だって仕方ないだろ! 旅人はモテるんだから!自覚が無いお前が悪いぞ」
パイモンの言葉にモナはクスリと笑い、ノエルは顔を真っ赤にしてうつむいた。
「ではノエルさん、改めて……」
モナが優雅な仕草で立ち上がり、ノエルの前に立った。
「ようこそ、私たちの運命の輪の中へ」
「モナさん……」
「私は、あなたの事も大切にしたいと思っています。だから、仲良くしてくださいね」
「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いします! モナさん!」
ノエルは深々と頭を下げた。そんな彼女の肩を、旅人がそっと抱き寄せる。
「よかったな、ノエル」
「はい……! 本当に、夢みたいです……!」
ノエルは嬉しそうに微笑み、旅人の腕に自分の腕を絡めた。その様子を見て、モナもまた微笑み旅人の反対側の腕に自分の腕を絡める。
「さて、せっかく三人になりましたし……」
「え?」
モナはちらりとノエルを見て、意味深に微笑んだ。
「今夜は、少し賑やかになりそうですね」
「……え? ええっ!?」
ノエルが何かを察して顔を真っ赤に染め上げた時、パイモンはすでに部屋の窓を開けて外に出ようとしていた。
「それじゃあ、おいらはちょっと夜風に当たってくるぞ! 明日の朝までには戻るからな!」
「ちょ、パイモン!?」
「いひひ! 子作りがんばれよ旅人! ノエルも!」
そう言い残し、パイモンは夜空へと飛び去っていった。
部屋に残された三人はしばしの沈黙の後、顔を見合わせて笑い合った。
「ノエルさん、覚悟はできていますか?」
「も、もちろんです! 栄誉騎士様のためなら……って、でもやっぱり緊張します……!」
「大丈夫。私も最初はそうでしたから」
「モナさんも……?」
「ええ。でも、彼はとても優しいですから」
そう言ってモナは旅人の頬にそっと手を触れた。
「さあ、ノエルさんにも……教えてあげてください。あなたの愛を」
旅人はうなずき、ノエルを優しく見つめた。
「ノエル、こっちにおいで」
「は、はい……!」
緊張で震えるノエルの手を引き寄せ、旅人はそっと彼女の唇に自分の唇を重ねた。
初めての口づけ。それはノエルにとって何よりも甘く、何よりも温かなものだった。
「ん……」
「ノエル……愛してる」
「……っ、私も……愛しています……!」
ノエルの瞳から再び涙がこぼれ落ちる。それは、これまでの悲しみを洗い流し、新たな幸せを迎えるための涙だった。
部屋のランプは淡いオレンジ色の光を投げかけ、壁際に置かれたモナの占星道具がかすかに輝いている。
ベッドにはモナが先に腰かけていた。
彼女はゆっくりと藍色の衣装に手をかけると、魔法のように布地がほどけて、するりと滑り落ちた。
薄暗がりの中、彼女の肌は星屑を纏ったかのように透き通って見える。
「……こういう時こそ、冷静に。星の導きには抗えませんよ?」
冗談めかした微笑みの奥には微かな緊張と興奮が潜んでいた。
一方で旅人も外套を床に落とした。鍛えられた胸板が灯りに映り込み、無造作な仕草にさえノエルは視線を奪われた。
「ほらノエルも脱いで」
低く紡がれる声には支配感より慈しみが濃く漂う。
「は……はいっ」
ノエルの動きは緊張で手が思ったように動かず、メイド服の紐一本引くだけで震えが走る。ぎこちない慣れていない女の子そのものだ。
「わっ!?」
ボタンを外しかけた指が滑り、上半身を守る鎧衣服がばらばらと落ちた。
晒された裸体は想像以上に繊細だった。陶器じみた白さにくっきりとした鎖骨が浮き上がり、モナの胸よりも豊かな乳房が弾むように揺れる。
「す……凄く綺麗……」
思わず洩らしたモナの呟きが耳朶を打つ。
「そっ、そんな……わたし……」
羞恥で顔を伏せたノエルを旅人が優しく抱き寄せた。
「隠さないで。これから俺たちみんなで共有する身体なんだから」
囁きと共に掌が背中を這い、温もりがノエルの体温と溶け合う。
硬直していた四肢から徐々に力が抜けていくのがわかった。
「モナ」
「ええ」
呼応してモナも近づいた。彼女はノエルをそっと旅人が緩く抱きしめたままにベットの淵まで連れてゆき治部伸はその上で両膝で跪く、そして華奢な両手をノエルの頬に添えて自分へ正面となるように優しく向ける。
「怖かったら言ってくださいね。これから身も心も私たちと一つになる貴方が傷つくのは、私にとっても耐え難いことです」
言葉を交わす間にも、彼女の指先が鎖骨から谷間へと辿る。
そこには旅人と抱き合って緊張から滲んだ微かな汗が粒として光っていて――モナの唇が吸い付くようにそこに触れた。
「ひゃっ……!?」
短い甘い悲鳴。胸板越しに感じる熱と湿り気。
「私の味はどうですか?」
挑むように見上げるモナと視線が絡むと、思考は霞み始めた。柔らかい舌先が円を描き、ぴくりと跳ねる頂きを煽る。
「ノエル」
背後から低い呼び声と共に抱擁が深くなる。旅人は二人の世界を隔てる境界線を消すようにノエルの首筋へ吸い付き、彼女の胸下を苦しめないように強く抱きしめ、空いている手で艶やかなで柔らかな、でもしっかりと鍛えられているお腹を優しく撫でる。
「わた……し…っ」
二人分の鼓動が皮膚を通して流れ込む。
その中心でノエルの心臓は祭り太鼓みたいに暴れ踊り始めた。
「大丈夫ですよ。準備するだけですから、身を委ねてくださいね」
モナが囁きながら掌でノエルの胸を包み込み、そっと持ち上げた。先端に親指を添え、ゆるやかに往復する。
擦れるたびに小さな雷が脊椎を這い上がり、ノエルは身悶えした。
「こんな……自分で触るのとぜんぜん違って……」
「当たり前です。ここは愛する人専用の感度センサーでしょう?」
耳元で嘲笑うような優しい声音――なのに確かに彼女の感情は昂ぶっている。
「ノエル、こっち向いて」
後ろから旅人の唇が唇を塞いだ。吸われ、舌で歯列をなぞられ、上顎の裏を探られる。
「んぅっ……!」
呼吸は奪われたが不思議と苦しくない。むしろ口からに注がれる温かな空気が欲望を呼び覚まし続けた。
絡め取られた舌が離れるとノエルの熱い吐息と共に唾液の橋がかかって滴り落ちる。
モナはそこを舐め取り、「塩辛くて甘い」と小さく微笑んだ。
「どうします? このまま私と交代してもらえる?」
モナはそう言ってベットから立ち上がるが、すぐに自分の下腹から疼きが湧き起こり咄嗟に指で抑える。先程からの2人の愛撫や口づけをされているノエルを見て我慢ができなくなっているようで、もう既にショーツが意味を為さないほどグチュグチュに濡れてしまっている様だった。
「ごめんなさい、ノエルさんは初めてなんだからもう少し慎重に行くべきだと思うんですけが……私の方が、もう我慢できません」
「はっ……はい……分かりましたっ」
モナが顔を赤らめて素直に白状し、自分の身体の準備が整っていると言うとノエルは何故か安心したような安堵の息をついた。
「じゃあノエルは後ろに回ってモナとキスして」
「そ……そんな大胆なっ!」
「いいよね?モナ」
「はい……ぜひ♪」
モナは自分の裸体をノエルに見せつけている事で、気持ちが盛り上がって既にかなりの興奮状態にあるようで恥ずかしがるそぶりなど見せず寧ろ好意的にその提案を受け入れた。
二人が承諾した事でノエルは旅人から離れてモナを挟み込んで向かい合う様に座る。
まだ少し不安げな顔つきをしたノエルだったがモナが優しく微笑みかけると恐る恐るといった具合に顔を近付ける。
初めて触れる同性同士の口づけに不思議な興奮に胸を高鳴らせつつも緊張しているのかなかなか踏み出せない様子だったので、
痺れを切らしたのか今度は逆にモナの方から唇を奪った。
「んぅ……!」
驚いて反射的に身体を退かせようとしたノエルだったが、
「逃がしません……」
モナがそのまま両手で顔を挟んでしまって逃げることができなくなる。角度を変えながら興奮して顔の赤いモナと舌と舌を絡ませる様な深いキスを半ば無理やり交わされていた。
だが、不思議と嫌な気持ちにはならず、むしろ僅かに興奮している自分に困惑していた。そんなノエルの気持ちとは裏腹にモナは激しく自分の舌をノエルの口腔へと侵入させる。
「んっ……ふ…ぁ……」
お互い初めての体験に戸惑いつつも相手の温もりを感じながらお互いの口の中を蹂躙していく。舌と舌が絡まり水音を立てる。その音に耳を澄ますように聞き入りながら二人はより強く抱き合っていた。
「んんぅっ!」
突然モナの声が変わり、びくっと身体が跳ねる。何事かと思い旅人の顔を見ると旅人が指を2本モナの秘所に挿入していた。
「んくっ……!んんっ!」
その瞬間ノエルはモナが旅人にされている事を理解する。そして自分の番が来ることに対する恐怖と期待が入り混じり複雑な心境になってしまう。だがそれ以上に気になるのは、
(なんでこんなに……)
さっきまでの甘く優しい愛撫と打って変わって激しい舌使いに混乱していた。
普段はもっと落ち着いた印象があるのに今は別人かと思うくらいに大胆になっていて――
そんなことを考えている間にも次々と送り込まれる快楽によって思考能力を奪われてしまう。
「な、んちゅ……じゅる……れぇ……?」
「……じゅるぅ、んはぁ……むぁ、ぁっ……」
二人は自分でも信じられないほどのいやらしい音を立ててしまい頬が火照って熱くなるのを感じた。だが止められそうもない。むしろもっとして欲しいという欲求すら湧いてきてしまうほどだ。
(どうして……!)
(どうしてこんなに気持ちいいの……)
初めて知った女同士の愛撫と他人の前でする恥ずかしさに翻弄されながらもどこか心地よく感じている自分がいることが信じられなかった。
「んっ……んぅっ!」
ノエルと絡めていない方の手で自慰するかのように自身の胸を弄っているモナの姿を見て、ノエルは恥ずかしさが増した。
「あぁっ……」
そして遂にその時が訪れる。
「―――っ!!!!?」
今までで一番大きくノエルの身体が跳ね上がった。それと同時に全身を襲う強烈な快感に目の前が真っ白になる。あまりの衝撃で頭の中で何かが弾けたような錯覚さえ覚えるほどの凄まじい絶頂だった。
(なに……いまの……!)
生まれて初めて味わう絶頂に茫然自失となっていると耳元で囁きかけられる声が聞こえてきた。
視線を向けるとそこにはいたずらっぽく微笑むモナの顔があった。
「ふふっ……♪ ノエルさん、もう準備出来てますよ♡」
「えっ……?」
言われている意味が理解できなかったが次の瞬間理解することになる。目の前にあるモナの股間からは太ももを伝って透明な液体が流れ落ちている。
それは紛れもなく性的興奮によって分泌された愛液だった。
「え……これ……」
思わず言葉を失ってしまった自分に優しい声色で答えが返ってくる。
「はい♡ ノエルさんのせいですよ♪」
そう言ったあと彼女は嬉しそうな表情を浮かべると再び唇を重ねてきた。そのまま激しく求められてしまい頭が真っ白になり何も考えられなくなってしまう。
「んっ……ぷはっ……はぁ……♡」
ようやく解放され荒くなった呼吸を整えながら目の前にある整った顔を見つめる。
するとこちらの視線に気づいたのか彼女が微笑みかけてきた。その笑顔があまりにも魅力的だったものだからドキッとしてしまう。
「あの……一つ聞いてもいいですか?」
「なんでしょう?」
「どうしてこんなに……慣れてるんですか?」
「慣れてる……?」
思わず口をついて出てしまった疑問に対して首を傾げる仕草を見せたあと少し考えてから答えてくれた内容は意外なものだった。
「あぁそういうことですね。えっとこれはですね……実は私こう見えて経験豊富なので」
その言葉を聞いて愕然とした。まさかそんなことあるわけないと心の中で否定するも納得できる部分もあり混乱するしかなかった。
(まさか本当に……)
そんな考えを巡らせているうちにふとあることに気づく。それは今目の前で行われている行為についてだ。確かに二人とも上手すぎると言ってもいいレベルだと思う。そしてそれは必然的に一つの可能性を示唆していた。
(ということはつまり……)
そこまで考えた時点で更なる疑惑が芽生える。それはつまり――
(栄誉騎士様ともう既にエッチな事をしてる?!)
その考えに至った瞬間怒りとも嫉妬ともつかない感情が胸の中に湧き上がってきた。
「ちょっと待ってください!どういうことですか!?」
「あらら~バレちゃいましたか」
「誤魔化さないでください!ちゃんと説明してくれないと怒りますからね!」
「はいはい……わかりましたから、落ち着いてください。せっかくの雰囲気が台無しですよ」
モナは観念したようにため息をつきながら簡単に説明を始めた。彼女の口から語られた内容を聞く限りでは今この部屋の中で行われている事とは異なり練習ではなく本番であり、しかもこの数日の間ずっと続いてきたことなのだという事が判明した。
「そういう、ことなのでっ……!」
どうやら自分が思っていたよりも遥かに重大な問題だったらしいことを知り愕然とするしかなかった。しかしそれ以上に気になったことがある。それは―――
「んぅっ!あ……ぅく」
モナの体が小さく震えたのを見て言葉を詰まらせてしまう。どうやらモナの膣内に挿入れられて説明している間もずっとかき回され続けていた指がちょうど良い所に当たってしまったようだ。その証拠に顔は真っ赤になりつつも目は潤んでおり明らかに興奮しているのがわかる。
「んっ……ふぅ……あっ……そ、空ぁっ!」
モナはノエルの肩を掴んで自重を支えながら切なそうな声を上げながら旅人に助けを求めた。
その表情があまりにも艶めかしくてノエルは思わず魅入ってしまったほどだ。すると次の瞬間にはもう既に新しい波が訪れようとしていたのか体を大きく仰け反らせ始め―――
「ぁんんっ!」
小さく悲鳴のような声を上げると同時に全身を震わせて達してしまった様で、ぐったりと項垂れてしてしまった。
(すっごく可愛い……)
普段は大人っぽい印象を受けることが多いけれどこういう時は年相応な雰囲気があってギャップ萌えという奴だろうか。とにかく見ているだけでも幸せになれそうな光景だった。
「っ……!んぅああっ!ぉぅおっ……!?」
そんなことを考えているうちに今度は完全に脱力してしまっているモナに対して、旅人が後ろから覆い被さるようにして抱き締めたかと思うとそのまま一気に最奥まで貫くように腰を打ち付けていた。それにより与えられる快楽のあまりに普段の彼女からは想像できない大きな嬌声が上がったかと思うと、背中を反らせる彼女の表情は旅人の剛直に貫かれて子宮を穿たれてバチバチと頭の中で弾ける様な快楽から逃れようと必死だった。
「モナっ、もう一回聞くけど……誰が君を一番気持ちよくできる?」
背後から覆いかぶさるようにして旅人が耳元に甘く囁く。その言葉は優しさと僅かな独占欲を秘めており、モナは子宮口をゴリゴリと掻き回されて意識が飛びそうな快楽に抗うようにして必死に返答しようとする。
「そ……う…っ!空っ、です!あなたしかいません!」
「本当に?」
「本当、です……私はっ……あなたにしか感じませんっ!あなただけが、私の一番です……!だかぁ、らあ!とまっ……!」
「ごめんね。ちょっとだけお仕置き」
「んあぁぁああイグぅうっ!?」
モナは膣奥深くまで無理やり捻り込まれたまま更に奥へと押し込められ、目を見開きながらノエルの肩に無意識に爪を立ててしまいそうになるほどの圧迫感に襲われる。同時に膣内に侵入していた二本の指も巧みに動かされ前後の粘膜が擦り合わされるとその瞬間新たな刺激が生まれて、爪を立てないように指をまげたまま一気に指を引き抜きまたも絶頂させられてしまう。
「あ、……。ごめん、なさいっ……空以外考えられません……っ!」
モナは瞳の焦点が合わなくなるほどの快楽に涎を垂らして打ち震えながら、懺悔するかのように謝罪の言葉を紡ぐ。
「もう二度と勝手に他の女の子と楽しもうとしないって約束できる?」
「します!……誓います……!私は生涯空だけのものですっ!」
「うん。じゃあご褒美あげる」
そう宣言すると旅人は一旦動きを止めたかと思うと、次の瞬間には猛然とピストン運動を開始した。
パンッ!パチュッ!グチュ!ヌチャ……!
粘っこい水音とともに双臀部同士がぶつかり合う乾いた破裂音が繰り返し室内に響き渡る。
その荒々しい抽送によって膣内の性感帯を擦り上げられ続けたモナは全身から力が抜けて崩れ落ちてしまいそうになる。しかしそれを、旅人は察してノエルに目配せした。モナの激しく犯される痴態に夢中になりながらも旅人の意図に気づいたノエルは、ガクガクといまにも力が抜けて滑り落ちそうな両腕を支え、旅人がモナの腰と胸に腕を回して倒れる事すらも許さないと言うかの如く、その強靭な腕で抱きすくめられたまま揺さぶられる。
「ああッ!深いッ!奥までぇ、来てますッ!」
もはや絶叫に近い声を張り上げるしかないほど連続的な快感が押し寄せてくると視界が真っ白になり意識が飛びそうになってしまう。しかしそれを阻止するかのように強烈な衝撃が襲いかかる。
「ぁん!そこダメェ!」
子宮頸部を押し潰されると同時に視界が点滅するような感覚に襲われる。しかしまだ終わらない。旅人の抽送によって膣奥を穿たれるたびに神経を焼き切られるような凄まじい快感が迸り続けた。
グチュ!ジュポォ!ズボォン!!
結合部から泡立つ愛液が四散して飛び散るほどの激しさで部屋の外にまで響き渡るかのような音を響かせ責め立てられるモナは、もう何も考えられなってきていた。
「ひぐぅッ!壊れる!おかしくなるぅぅッ!!」
ガクガクブルブルと全身を痙攣させながらもなお求められるままに身体をくねらせるしかない。
「出すよ!モナ!君の子宮の中にっ!」
「ぁぁあっ!?イグゥゥウウ……!!?」
ビュルルルゥウウウッ!!!!
焼け付くような熱量を伴って体内へ流れ込んでくる大量の白濁液を受け止めると同時に今日一番の凄まじい絶頂感に襲われた。
熱く滾る奔流が子宮の奥深くを目指して注ぎ込まれていく感覚に、モナの意識は白く灼けた。身体中が震え膣壁が意思を持ったかのように激しく収縮を繰り返し、旅人の精を一滴残らず子宮内へ搾り取ろうと蠢く。
「あぁっ……あ、あつい……。ぅ……おなかのなか……いっぱい……♡」
モナはだらしなく舌を垂らし、とろけきった表情でつぶやいた。その瞳はまだ焦点が合っておらず、全身は絶頂の余韻で小刻みに震え続けている。
旅人はノエルの手から優しくモナの腕を離させて、未だ快感に震えて旅人の肉棒を味わい、まだ少し射精し続けてながらその体を愛おしそうに抱きしめる。
「モナ、大丈夫?ごめん、激しくして。でも気持ちよかったよ」
旅人が優しく声をかけるとモナはぼんやりとしたまま、しかし確かな幸福感を浮かべて微笑んだ。
「はぃ……しあわせ、ですぅ……♡」
旅人はゆっくりと彼女の中からまだそそり立ったままの自身を引き抜いた。クチュ、ゴポォッ……と淫らな水音とともに、溢れ出した白濁液がモナの内腿を伝いベットシーツに染みを作っていく。
その様子を、すぐ目の前で見ていたノエルは両手を口元に当て、真っ赤な顔で固まっていた。鼓動は早鐘のように打ち、呼吸は早く、手のひらには汗が滲んでいる。
今、自分の目の前で行われた光景は、あまりにも衝撃的だった。愛する人と同じく彼を愛する女性との激しい交わり。その生々しさと、同時に感じたのは——羨望だった。
(私も……あんな風にしてほしい……)
ノエルは自身の内に湧き上がる感情に戸惑いを隠せない。つい数時間前までは、自分なんかがと遠慮していたはずなのに今は違う。
モナが旅人に抱かれその全てを委ね、蕩けるような表情を見せる姿に自分もそうなりたいと強く願っている。
「ノエル」
既に意識を失ったモナをベットに寝かせた旅人の声が、ノエルの耳に届く。その声は先ほどの情事の余韻を残しつつも、とても優しかった。
「は、はいっ」
「こっちにおいで」
旅人はベッドに腰掛けたまま、ノエルに向かって手を差し伸べる。ノエルは心臓が飛び出しそうになりながらも、震える足を一歩ずつ前に進めた。
「次は、君の番だ」