※この作品はR-18です。

俺の知らないMODが適用された『ZERO Sievert』の世界に転生したようだ。   作:シコルスキー・ジョボジョボヴィッチ

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小説概要の通り、転生主人公モノです。
ご都合主義的な都合の良い理解力と洞察力を持ちます。そういうのが嫌な方・苦手な方はご注意ください。

書き溜め無し、亀更新。


チュートリアル①:治療薬を求めて

 

 

 

20XX年。世界は、核の炎に包まれた。

 

 

 

 

そんなことある?としか言いようがない方法で、死んだ。

 

ある日突然、核戦争が勃発して、俺は痛みを感じる間もなく光と衝撃に包まれて、死んだ。

いや~、AI研究競争が過熱しすぎて、それが原因である日突然核戦争にまで発展するって、人間ってやっぱバカなんだなって思うわ…。

 

 

で、俺は確かに死んだはずなのだが、どうやら俺は運良く?転生したらしい。

 

輪廻転生なんて信じちゃいなかったが、まさか次の人生ってやつが本当にあるとは驚きだ。

 

ただし、転生した世界が俺のよく知るゲームと酷似していたり、いきなり成人男性として生まれ変わっているという点で、これが本当に転生ってやつなのか懐疑的になっちまうけどな。

 

 

 

 

「よう、どうにかアンタだけでも助けられたようで良かった。 改めて、俺はヴィクトル。アンタは?」

 

目が覚めてからすぐに、サバイバルアーミーとでも言うべき厳しい格好をした男が声を掛けてきた。

 

手には銃器をぶら下げ、頭を完全に覆うフルフェイスヘルメットと、映画でしか見たことがないようなボディアーマーを装備している。

 

 

その男の名前は、どこか聞き覚えがあるようで、しかしハッキリとは思い出せない。

 

その言葉から察するに、俺はこの男に助け出されたということになるようなのだが、そのことについては…記憶を辿れば、確かにその通りだと思い出せるのがわかる。

 

俺は、つい先ほど目覚めたばかりだったはずなのに、それを体験したという実感はないまま、記憶だけはある。…不思議な感覚だ。

 

 

しかし、自己紹介となると…俺の名前は、どう名乗るべきだろうか。

 

転生前の、元の名前を伝えるべきだろうかと迷ったが、ここは偽名で通すことにした。

状況がはっきり理解できて、問題ないと思ったら、その時こそ自己紹介をし直せば良いだろう。

 

 

俺は、「アダム」と名乗ることにした。

 

相手の名前を聞いた限りでは、日本人でないことは間違いない。もしくは、この男も偽名かもしれない。

ともかく、アダムというのはただの思いつきだが、その場しのぎというなら無難で良いのではないかと思う。

 

「アダムか、良い名前だ」

 

俺の名を聞いたヴィクトルは、そう言ってウンと頷いてみせた。

 

ヴィクトルの頭は、バイザーつきヘルメットで覆われていて、どんな表情をしているのかはわからない。

ただ、その声音から、心優しそうな人だと感じ取ることだけは出来た。

 

 

しかし、優しい声音は一瞬だけで、ヴィクトルはすぐに声を重くして、今の状況を語りだした。

 

「早速だが、アダム。非常に申し訳ないが、状況は極めて最悪だ。 たまたまアンタだけは助けられたが、俺の仲間達はみんな死んじまったらしい。途中ではぐれてしまったイヴァンのやつも、盗賊に襲われているという通信を最後に、音信不通…生きていればいいが、望み薄だろうな。 悼んでやりたいところだが、悲しんでいられる状況でもない。実はそのイヴァンが、俺達が向かっていたベースキャンプ…『ゼロ・シーベルト』に移り住むための紹介状を持っていた。 その手紙を回収しないことには、俺も、お前も、どこにも逃げられない。 …そんなところか。まくし立てちまったが、状況は理解できたか?」

 

…なるほど。

 

要するに、俺達は孤軍奮闘の状況で、援軍や救助は望めない。

安全な場所に行きたいけど、そのためのチケットが手元にない。

 

今、まともに立ち回れるのはヴィクトルだけだ。

俺は完全に、確実に足手まとい以外のナニモノでもないという状態である。

 

というのも、俺の姿は着の身着のままと言った様子で、武器を持っていないどころかアーマーすら着込んでいない。

よくこれで、ここまで無事に来れたもんだと思うよ。

 

 

しかし、「ゼロ・シーベルト」か。

 

その名前は、はっきりと聞き覚えがある。

聞き覚えというか、見覚えというべきか。

 

それは、俺がよく知るゲームのタイトルと全く同じであり、現実には存在しないはずの場所の名前だ。

 

 

 

 

『ZERO Sievert』というタイトルのゲームがある。

 

ジャンルは「エクストラクションシューティング」と呼ばれるもので、1人プレイ用の完全PvE型。

 

要は、危険な野外を探索して物資を持ち帰り、拠点を強化したり装備を整えたりして、より難易度の高いエリアに挑んでいくという感じのやつである。

 

PvEというのは、プレイヤーの敵はすべてNPCのみということであり、プレイヤー対プレイヤーの構図は発生しないという意味だな。

 

 

探索のたびにマップがランダム生成され、マップごとに決められたオブジェクトが毎度違う場所に発生しているので、目的地を探しながら移動し、道中で死体や死骸からアイテムを剥ぎ取るなどしてハイエナ(誰かが殺した死体からアイテムを抜き取る行為)をしながらクエストをこなしていくというのが、このゲームの一般的な遊び方になるだろうか。

 

序盤は特に、弾代や薬代がバカにならないほど高く、一度に購入できる量がそもそも少ないので、可能な限り資源の節約と拠点強化用の資源集めに苦労することになる。

 

ある程度拠点を強化してしまうと、ほとんど無尽蔵に弾薬を作れるようになるので、資源集めより装備集めやクエスト達成を目的に走り回ることになる。

 

ただし、このゲームのボスキャラども・エリアボスたちは、最初のマップのボスですらかなり理不尽な強さをしているので、舐めた装備でいくと一瞬で蒸発して全ロスするという、結構ピーキーな難易度をしているので、そこが苦手という意見が結構多い様子はある。

 

 

俺は、セーブデータを三つ作って遊び倒すほどハマったけどな。

 

いわゆるファーム…ルートと呼ばれる探索場所を探し回り、資源集めを行う。という遊び方だけでも、全然楽しめるってタイプだったのもある。

 

この光景と状況は、…いや、光景は全然違うと言うべきなんだろうけど、状況を考えたらそのゲームのチュートリアルの光景に酷似していると言っていいだろう。

 

 

 

 

「コイツは俺の予備の装備だが、俺が1人で持つより、アンタに使ってもらったほうが良いだろう。 金は取らねえから、そいつを急いで身に着けな。 なあに、金の代わりに、働いてもらえりゃ良い。こんな状況だ、助け合っていこうぜ」

 

ヴィクトルはそう言って、アタッシュケースのような箱が置かれている場所を指差し、その箱を開けて中を確認するよう指示してくる。

 

 

俺は、ヴィクトルから言われるがままに箱を開け、中身を確認し、装備を身に着けていく。

 

…この状況、なんとなくだが覚えがある。が、同時に違和感もある。

 

ゲームでは、プレイヤーキャラクターに名前なんて無くて、ただ「Hunter(ハンター)」とだけ呼ばれる存在だったはずだ。

 

いや、まあ、そもそもが2Dドットゲームの世界だったはずなのだから、それがリアルな現実になった今の状況が本当にゲームの世界そのままなはずがないだろう。と言うなら、その通りでもあるんだけどな…。

 

 

アイテムを確認していた最中に、俺の視界には明らかな異常が浮かび上がっていた。

 

病気や怪我の類でないことは間違いないだろうが、少なくともここが何らかのゲームの世界なのではないかと思わせるような、そんな説得力のある異常だ。

 

今の俺の視界には、視認するだけで武器やアイテムなどの名前が正確に映って見える。

それどころか、武器や防具なら損耗率や性能などの詳細が、食料品ならどの程度空腹や水分が回復するのかまでわかる。

回復する値が数値で現れている辺り、まんまゲームみたいだなと思った。

 

 

ただし、名前や詳細情報の確認のためには、そのアイテムに視点をしっかり合わせなくちゃいけないようで、視界の端に映るアイテムの名前が複数同時に映るということはない。

 

ゲームのゼロ・シーベルトでも、マウスカーソルをアイテムに合わせると名前や機能などの詳細情報が確認できたから、その仕様が再現されてるということなのか…?

ということは、やっぱりこの世界はゼロ・シーベルトの世界ということなのだろうか。

 

また、この能力を使用するにはかなり近づいて確認しなきゃならないらしく、およそ1m以内まで近づいていないと詳細が確認できない。

 

遠目に見るだけでアイテムの詳細とかわかるなら、特定の敵を遠距離から探し当てて一方的に狙い撃ちにする…みたいなことが出来そうかもと思ったが、そう甘くはないらしい。

 

今はまだ安心して確かめられる状況じゃないが、安全が確保できたらその方向で色々調べてみるのが良さそうだと、頭のメモに刻んでおいた。

 

 

武器・防具・バックパック、そしていくらかの食料品と弾薬を手に入れ、「デバイス」の操作の仕方も教えてもらった。

 

デバイスというのは、放射線測定機能を持つ万能通信端末であり、ベースキャンプ『ゼロ・シーベルト』の紹介状とセットで用意されていたものだ。

 

このデバイスは居住資格を示す身分証を兼ねており、ゲームにおいて自身の生活拠点の拡張・改造のためにも使用される他、スキル獲得などの成長要素にも使っていたはずである。

軽く操作した感じでは、ほとんどゲームと同じ機能を有しており、成長機能の部分はどういう仕組なのか生体認証式で能力を数値化してくれるようである。

 

 

さてベースキャンプ『ゼロ・シーベルト』に加入するには、このデバイスと紹介状がセットで必要となり、どちらか片方だけを持って行った場合は、おそらくは略奪者と誤解されて蜂の巣にされる。

 

ヴィクトルが教えてくれた通り、「紹介状」が手元にない現状では、とてもではないがベースキャンプに足を運ぼうなどとは言えないし、紹介状が盗賊の手にわたっている可能性を考えると、今度はこのデバイスを狙って襲われる懸念があるため、立ち往生し続けるということも出来ない。

 

確かに、非常に厄介な状況だ。

 

 

最低限の装備の確認、デバイスの操作方法、そして武器の応急修理のためのアイテムの使い方を学び終えたところで、生い茂る草の壁の奥の方から、唐突に獣の唸り声が聞こえてきた。

 

「来るぞ、構えろ!」

 

ヴィクトルがすぐさま戦闘態勢となり、銃器を構える。

 

 

…ああ、思い出したぞ。

 

ゲームのゼロ・シートベルトでは、チュートリアル中に狼の群れに襲われるのだ。

 

唐突に3匹の狼が現れたと思ったら、かなりの速さでプレイヤーの方へ向かってくるので、初見のプレイヤーだと結構ビビる場面だろうと思う。

 

ただし…

 

 

 ─ズダダッ!ズダダダッ!ズダダンッ!

 

 

…チュートリアル案内役のキャラの装備がえげつないほど強いので、プレイヤーが何をするまでもなく、余裕で返り討ちにしてくれるという、結構拍子抜けのイベントだったりもする。

 

今回も例に漏れずに、チュートリアル役をになってくれているであろうヴィクトルが、狼の群れを瞬殺してくれた。

 

「無事か、アダム」

 

獣の唸り声が消えたことをしっかりと確認してから、しかし周囲への警戒を続けたままに、ヴィクトルが声をかけてくる。

 

一撃も食らっていなくて無事であるどころか、弾丸を一発も放っておらず、ヴィクトルを囮にするべく少し距離を離れたくらいである。…などとは流石に言えないので、「ああ、無事だ。ありがとうな」とだけ返事をしておく。

 

 

さて、もう完全に、今の状況がゼロ・シートベルトのチュートリアルであることは間違いないだろうと確信したところで、ちょっと気づいてしまったことがある。

 

ゼロ・シートベルトというゲームは、本来は2Dドットゲームであり、視点は見下ろし型(トップビュー)となっている。

 

なぜか?

そうしないと、草がボーボーに生い茂っているような場所で、遠方にいるキャラを視認できないからだ。

 

特に、狼などの地を這う獣に対する視認性は絶望的だ。

先程の遭遇戦で確信したが、極至近距離に迫られるまでその姿を視認できず、音以外にその存在を認識する術がない。難易度がバカ高すぎるだろ。

 

 

あと、この後の展開のことを考えると、狼との遭遇戦で棒立ちなどせず、動く的を撃つ練習でもしておくべきだった。

 

なぜなら、チュートリアルの展開どおりなら、この後すぐに、プレイヤーがたった1人で盗賊と撃ち合いをしなければならなくなるのだ。

 

この場合のプレイヤーとは、つまり俺自身のことである。

 

 

 

 

案の定、チュートリアルの展開どおりに、ヴィクトルから「ここから北に落としてきてしまった、医療品ボックスから治療薬を持ってきてくれ」と頼まれた。

 

先程の戦闘での影響により、ここまで逃げてくるまでに負っていた傷が開いてしまい、治療しなければ移動が難しいとのことである。

 

 

ヴィクトルは先程の戦闘でも見せてくれた通り異常なほど強いので、固定砲台として居るだけなら死ぬ心配もあまりないだろう。なので、ヴィクトルに関しては心配いらない。

 

むしろ、心配してもらうべきなのは俺の方だ。

現実で銃なんて撃ったことがないし、当然だが人を殺したことなんてあるわけがない。

 

ヴィクトルからのアドバイスとして「盗賊に出くわしたら容赦なく撃ち殺せ」なんて言われているが、非銃社会である日本で暮らしていた俺にそんな事いきなり言われても…。

 

 

…なんて思ったが、やはり銃の扱いや人を殺す感覚については、なぜか記憶として存在しているのを感じる。ひえ~。

 

あらためてよく見たら、俺の身体ってすんごいムキムキで、いかにも「あ、戦えますよ~」って感じの威容をしている。そりゃあ、ヴィクトルだってこんな貧弱装備でも「イケるやろ」みたいな雰囲気で送り出しますわ。畜生め。

 

せめて、ヴィクトルが今その手に持ってるクソ強そうなオートマチックライフルを貸してくれないかな…って羨ましそうに見つめてみた。

 

ヴィクトルは、ただ少し苦しそうに、命綱の銃をしっかりと構えて周囲を警戒するばかりだ。クソッ、貸してくれと言える雰囲気じゃねえ…!

 

 

さて、俺が今所持しているのは、ゲームにおいてはほぼ最弱の性能を誇る「PN Pokarov(ポカロフ)」というピストルが一丁だけである。

 

…よく考えたら、このピストル一丁だけってことは、俺の初期職業というかゲーム難易度は、最低でも「サバイバー」になるのか?

 

サバイバーというのは、ゲーム知識でいうところの装備パターンの一つであり、これを選ぶと最も貧弱な初期装備で始まることになる。

 

職業選択による難易度とは別に、基本となる4段階・または詳細にカスタムを行うことが出来る難易度もあるが、俺の持つデバイスではゲームの難易度的な情報を確認することは出来なかった。

 

ゲームの仕様そのままなら、オプションか実績の画面あたりで確認できたはずなんだが、そういった完全メタ要素の部分はデバイスからごっそり無くなっている。

 

…「銃器スキル」や「サバイバースキル」の習得状況とかは表示されるのに?

これもメタ要素なんじゃないかなぁ…と、俺は訝しんだ。訝しんだところで、答えを与えてくれるような相手は存在しないのだが。

 

 

まあ、初期装備が貧弱なことくらいで、全てを投げ出すほど絶望的ってわけでもないだろう。

 

これが本当にチュートリアルの状況であるなら、登場する敵もそんなに強くないはずだ。

 

ただし、初期装備の難易度とは別に選ぶ難易度もあって、そちらが最高難易度だとチュートリアルでも普通に死ぬから、舐めた真似ができるわけでもない。

 

なんなら、最初に登場する敵の時点ですでにプレイヤーよりちょっと良い装備を身に着けているので、普通に強い。

あくまで、敵の中ではそんなに強くないやつが出てくるはずであるというだけで、このゲームはチュートリアルの時点で結構理不尽なのである。

 

 

 

 

周囲の音へと気を配りながら、恐る恐ると北へ移動する。

 

どのくらい移動すれば盗賊たちと会敵するのかもわからないので、その歩みは文字通り亀の如き遅さである。

 

 

そうしてしばらく移動していると、かすかではあるが俺の耳に足音や人の声らしきものが届いてきた。

 

集中し、音がした方にじっくりと耳を傾ける…。

 

「……警戒しろ…」「……誰も居ないな…」

 

…たしかに、人の声が聞こえる。それも、2人分。

 

声の質感から、片方は男性で、もう片方は女性であるのがわかる。

 

…女性?

ゼロ・シートベルトは、すべてのキャラクターの性別が不詳というか、名前などから察するにみんな男キャラのはずなのだが…。

 

…まあ、今はゲームじゃなくてリアルになったわけだし、そりゃあ女性だって居なきゃおかしいか。

 

ともかく、どれだけ耳を澄ませても、2人以外の声と足音は聞こえない。

 

 

…うーん、やっぱり視認できないのは厳しいな。

 

不用心に近づけば、逆に相手に俺の動きが音となって伝わる可能性がある。

できるだけ相手の死角から近づいたり、孤立している敵から順次仕留めていきたいものだが…。

 

そう思いながら、音のする方に意味もなく目を凝らしてみたところ、不意に視界を覆う雑草どもが薄ぼんやりと透けて見えるようになり、その向こうにある景色が視認できるようになった。

 

 

うおっ。

…思わず声が漏れそうになり、どうにかその声を飲み込んだ。

 

どういうことだ?

そう思い、もう一度ジッと目を凝らしてみると、また同じように雑草や木々などの障害物を透過して、その奥がかなりしっかりと見える様になった。

 

集中するのをやめると、視界は元通りになり、植物たちが消えて無くなったわけではないことがわかる。

 

…なるほど、アイテムの詳細情報がわかるという能力だけではなく、ある程度の物体透視能力まであるのか、俺の眼には。

 

 

いや、たしかにプレイヤーキャラクターには似たような能力があったり、もしくは習得できたりしたが、それが現実のものになったら…なんというかバケモノすぎるというか…。俺って本当に人間だよな?

 

ま、まあ、良い。使える能力は便利に使わせてもらおう。

 

俺は目を凝らして透視能力を発揮し、敵の姿を視認した。

 

 

周囲を見渡しても、やはり盗賊の人数は2人だけであることがわかる。

 

漏れ聞こえてくる会話から察するに、どうやら俺達を追いすぎて仲間の盗賊たちと逸れてしまった様子だ。

つまり、俺達を追い詰めることを諦めていない、明確な敵だ。

 

人を殺すことに抵抗がないとは言わないが…ここはゼロ・シートベルトの世界である。

盗賊相手に会話を試みようなどと考え、不用心に近づいたら、それだけですぐさま発泡されるという割と頭がおかしい世界観をしているはずなのだから、容赦など出来る場面ではない。

 

 

パッと見た限りでは、女の方が装備が貧弱で弱そうだ。

 

こういうときのセオリーとして、殺せる相手から殺すというのが鉄則になる。

盗賊に限らず、敵対生物は1体が攻撃を受けただけで周囲の奴らも攻撃に気づく事が多く、一気に集団戦にもつれ込むリスクがある。

 

装備がショボかろうとも、数に任せて弾幕を張られたら、一瞬でHPが溶けて死ぬ。だから、殺せるやつからガンガン殺すべきなのである。

 

 

女が孤立した瞬間。

男の方から距離が離れたところを狙い、視界に入らないように近づき、射程距離にまで迫る。

 

ここまで近づいてしまえば、いつ相手に気づかれてもおかしくない。

躊躇などしていられない。ピストルを構え、頭を狙い、発泡する。

 

 ─パンッ!

 

「ギャッ! …ぐっ、警戒しろ!」

 

狙い通り、頭に命中する。

だが、一撃では殺せなかった。女の顔・頬に穴が空き、ダラダラと血を垂れ流しているが、すぐに迎撃の構えを見せる。

 

嘘だろ、脳を貫かなかったとは言え、頭部直撃だぞ。

ゲームのときにも思ってたけど、ゼロ・シートベルトの人間どもって、やけに頑丈だよな…。もしくは、このピストルがあまりにも雑魚すぎるだけか…。

 

 

女の装備は貧弱とは言え、握っているのはサブマシンガンである。

 

命中精度はお察しだが、ばら撒かれまくって身体にカス当たりしまくるだけでも、アーマーやHPがゴリゴリ削れていく。自分で使う分には弱すぎて話にならないが、使われると非常に厄介な武器の1つだ。

 

なので、発泡される前に、さっさと仕留める。

 

頭を狙い、撃つ。

頭を狙い、撃つ。

そうしして、発目の弾丸が頭部に直撃したところで、女は崩れるようにその場に沈んだ。

 

…俺は確かに、初めて銃を握ったはずなんだが、やはりどうしたことか、この身体と記憶にはしっかり染み込んでいるらしく、考えた通りに・思い通りに扱うことが出来た。

 

 

「クソッ!どこかだ!」

 

生い茂る草の向こうから、男の声が聞こえる。

 

俺は急いで今居た場所から離れて、男の姿が視認できるギリギリの位置まで距離を置き、冷静に男の様子を観察する。

 

男は、女の死体の近くまで移動してから、しばらくその場をウロウロとせわしなく動き回っている。

 

ゲームの時も、攻撃行動を受けた敵やそのグループは、狙撃を回避するためにしばらくウロウロし続けることがある。

 

その行為は狙撃したい側にとっては実際に厄介であるし、プレイヤーが同じように動き回って敵の狙撃を回避するのに役立てられたりするので、結構大事なテクニックなのだ。

 

 

ただし、いつまでもウロウロし続けるわけではない。

 

NPCにもスタミナの概念があるのか、ある程度動き回った後に急に移送速度が低下したり、その場で立ち止まったりするのである。

 

リアルな持久力のことを考えても長続きする動きじゃないとは思ったが、そういうところもゲームの仕様通りとはありがたいと思いながら、男の動きが鈍くなったところ狙うべく、こっそりと近づいていく。

 

 

男が所持している武器はショットガンであり、至近距離かつ低レベルアーマーや生身の相手には凄まじい殺傷力を持つ。つまり、俺に撃たれたらワンチャン秒速で死ぬということだ。

 

ショットガンの弱点として、弾込めに時間がかかる物が多いということと、適切な射程距離がピストルより短いということだろう。

 

適切な射程距離が短いからと言って、ピストルとの撃ち合いで弾が届かないというわけではないのだが、カス当たりしかしない場合が多いので大ダメージを受けにくくなる。

 

ただし、その状況はピストル側が先手を取れた場合でしか発生しない。

ショットガンに先手を許せば、確実に撃ちながら極至近距離まで接近してくるし、そうなると秒殺される危険がある。

 

 

女を撃ち殺した時は、ヘッショ一発で殺せなかったことに驚いて少し手間取ったが、今回は頭を狙って死ぬまで連射するつもりだ。

 

今の俺の装備では、一発でもショットガンの反撃を受けたらヤバイ。

ピストルの適切な射程距離かつ、ショットガンの適切な射程距離から絶妙に外れたポジションに位置取り…頭を狙い、発泡。連射。

 

「グアッ!ギッ、ギャアッ!?」

 

男が振り向き、ショットガンを構えながらこちらに向かって来る。

 

だが、それにも戸惑うこと無く、頭を狙い、発泡。

 

死ね。さっさと死んでくれ。

 

「ペギュッ…」

 

…連射によるブレもあり、何度かカス当たりになってしまったことで若干無駄弾を使ってしまった気もするが、どうにか相手に反撃を許すこと無く殺すことが出来た。

 

 

…俺は、初めて人を殺してしまったことによる恐怖より、他に人の足音や声が聞こえてこないかを恐れ、しばらく硬直する。

 

敵グループは常にひと塊に行動するのではなく、最初に女を仕留めたときのように、グループから逸れて行動する奴がいたりする。

 

だから、後から3人目移行がやってきて、不意打ちでこちらを殺しにかかってくる。という状況が発生しやすいのである。

 

 

他に敵が居ないか、耳を澄ませ、目を凝らし、じっくりと確認してから。俺は、やっと一息ついた。

 

その時になって、やっと額から汗が滲み出し、人を殺したという実感が遅れてやってきて、小さくフルフルと手指が震える。

 

しかし、この身体に宿る胆力というものがそれを弾き返してしまって、恐ろしいことをしてしまったと思うはずなのに、心が痛むようなこともないという…喜んで良いのか悪いのか、ともかく奇妙な感覚と共にすぐに落ち着きを取り戻した。

 

 

狼に襲われた場面を除き、この世界で初めてまともな会敵と銃撃戦を行ったが、存外しっかりと動けるものだと、我が事ながら感心してしまう。

 

…さて、ゲームであれば、敵の死体から装備やアイテムを剥ぎ取って持ち帰ったり、状態が良い武器やアーマーやバックパックならその場で装備するのが良いのだが…。

 

そこに転がっているのは、頭部だけを執拗に狙われて、穴だらけ・一部が弾けた、あんまり直視したくないグロテスクな死体が2つ。おげぇーっ…!

 

 

ゲームの時はドット絵だったからこんなにグロくなかったが、リアルで頭を狙い撃ちなんかしてたら、そりゃあこうなるわな…。

 

俺は、かなり嫌々ながらも死体を弄り、可能な限りのアイテムを回収した。

 

ちなみに、女の方は意外と豊満でムチムチとした体型をしており、殺すのはもったいなかったかもな…。なんて思ったりもしたが、今はそんなことを考えている場合じゃないと思い直す。

 

ともかく、早く安全な拠点にたどり着くのが先決であると気を取り直して、そのへんに転がっているはずの医療品ボックスを探すべく、辺りに目を凝らした。

 

 

 





▼プロフィール_01:アダム

・カテゴリー:人間(人種不明)
・所属:無所属(Hunter)
・性別:男
・年齢:不明
・身長/体重:178cm/85kg

・備考:「ゼロ・シーベルト」に名指しで招かれた、謎の異常生存能力者。

原作のプレイヤーキャラクターに、日本人ゲーマーの知識や精神が混ざり合っている。
なので、肉体自身の記憶や精神が混在しており、主人公自身が体験していない記憶が存在している。

アダムというのは、実はただの思いつきではなく、本当にこの肉体の持ち主の名前。


▼主な能力

1,透視能力:ゲームでも備わっていた、障害物透視能力。ただし、透視できるのは雑草や木々だけであり、岩やフェンスなどの障害物は透視できず、視界を遮られてしまう。隠しスタッシュや敵性存在を視認しやすいていどのもの。

2,鑑定能力:視界にAR技術による鑑定能力が備わっている。転生特典とかではなく、アダムの身体に備わった機能。鑑定能力は記憶されている知識をデータベース化して引き出されるものであり、本来はこの時点では無知すぎるアダムに主人公の精神が融合したことで凄まじく便利な能力に昇華している。

3,戦闘能力:軍人レベルの戦闘技術がインプットされており、それを実現できる身体能力も併せ持つ。初期状態ではエネルギー消費が激しいため、すぐに腹が減ったり水分不足になったりする。

4,工学・科学知識、技術:拠点を拡張・改造を自力で行うことが出来る知識と技術を有している。ただし、それらはあくまで「完成形が存在する模型(プラモデルなど)の作り方がわかる」というような知識でしかなく、それを応用・活用して新しい研究が出来るということにはならない様子。実用面では事足りるが、発展性は低い。

5,強靭な消化能力:腐ったもの・カビたものを食べても、ちょっと腹痛になったり少量の被爆だけで済むという、強靭な消化能力を持つ。これに関しては、アダムだけの特別な能力というわけではなく、ゼロ・シートベルトというゲームの世界で生き残ってしまったすべての人間が、多少の性能差はあれどみんなが標準的に持っている異能力となる。アダムはその中でも最強の消化能力を持っていると言って良い。ゼロ・シートベルトの世界の人間は、純粋な人間ではなく、誰しもが少なからず放射能汚染により変異の影響を受けた、ミュータント人間だと思って良い。

…その他、デバイスに連動したスキル強化が可能など、ゲームシステムに近い異能力を持つ。
スキルはこの世界の人間であれば誰もが何個かは習得しており、スキルの所持状況については個人差がある。
なお、スキルリセットと選び直しができるのは、この世界では唯一、アダムのみとなっている。
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