俺の知らないMODが適用された『ZERO Sievert』の世界に転生したようだ。 作:シコルスキー・ジョボジョボヴィッチ
*
無事に治療薬を回収できた俺は、帰り道でも恐る恐ると警戒しながら移動し、ヴィクトルの元へと戻ってきた。
ゲームのチュートリアル通りなら、帰りの途中で突然エネミーと遭遇するということはなかったはずだが、ゲーム知識がどこまで信用できるかまだわからず、慎重になってしまう。
ヴィクトルの様子は少し苦しそうではあったが、あの後に特に誰かに襲われたということはなく、互いに無事の再会となったことを軽く言葉だけで喜びあった。
治療薬を受け取ったヴィクトルが、ヘルメットのバイザーを持ち上げ、飲むタイプの鎮痛剤を飲み込み、アーマーの一部を外してバインバインのデカメロンをもろ出しにしながら、脇腹の舌辺りにある、開いてしまったという傷口の治療を進めた。
…ジッと見入ってしまったが、ヴィクトルはどうやら女だったらしい。
バイザー越しの声が少しくぐもっていて、あとはアーマーを着込んでいることもあって、女だと気づかなかった。
「…おいおい、見世物じゃねえんだ、あんまり見るなよ」
俺の視線に気づいたのだろう、ヴィクトルは口頭で軽く注意するが、手は治療を続けて止まる様子がない。
そして、自身の巨大な乳房が邪魔をしていて、上手く治療が行えていない様子ですらあった。
あんまり見るなと言われたが、妙に危なっかしく見えてしまうその治療の手際にヤキモキとしてしまい、「貸してくれ、俺が治療する」と、つい名乗りを上げてしまった。
幸い、治療薬や道具の使い方が知識や記憶として存在しているのは確認できているので、今の俺なら問題なく治療に当たれるだろう。
俺の提案に対して、ヴィクトルは少しだけ考える素振りを見せてから、「じゃあ、すまないが頼む」と言って、治療薬と道具を俺に預けてくれた。
なんならそのまま、赤箱のタバコを取り出し、一本咥えて火を点け、煙をふかし始めるまで行っていた。
怪我に響かないか?と思ったが、「吸ってたほうが楽なんだよ」とのことだった。
…そう言えば、俺はゲームでも使ったこと無かったが、タバコも被爆値という環境ダメージを下げることが出来る回復アイテムだったはずだ。
目に見えた変化はなかったが、実は結構ヤバい状態なのかもしれない。
俺は命を救ってくれた感謝の気持も込めながら、丁寧に治療にあたった。
…治療中、巨大な乳房がどうしても邪魔になり、ヴィクトルに軽く持ち上げていてほしいと頼んだのだが、「おいおい、今吸い始めたばっかりだぞ?やるって言ったのはアンタなんだから、それも自分で持ち上げてくれ」と言われてしまった。
ヴィクトルの乳房は、肌艶の若さを感じる割に少し垂れて伸びており、乳輪がドーム状に膨らんでいて乳首も大きく、牛の乳というほどの長さではないが、なんだか似ていると思うくらいには大きく、印象的であった。
見ての通りであり、その大きさと柔らかさ・長さのせいで、脇腹あたりの傷口が絶妙に隠されて、邪魔になっている。
ヴィクトルはタバコに夢中で乳房を持ち上げてくれる気配がないので、仕方なく俺は腕や肘、時にはこめかみ辺りの頭部などを支えにするなどして、怪我の治療のために尽力した。
正直めちゃくちゃやりづらくて想定していたより面倒な作業となったが、女体特有の柔らかさや、血の匂いに混ざるヴィクトルの汗の臭いなどを堪能し、まあまあ役得ではあるなと思った。
治療を終えてもまだタバコをふかし続けていたヴィクトルに、治療の状態に問題がないかを尋ね、確認する。
「…ああ、いいね。 アンタ、相当腕がいいな。ありがとうよ、アダム」
相変わらずの男勝りな口調で、しかしバイザーが上げられたそこから見える素顔には、女性らしい柔和な笑みが浮かび、少しドキッとしてしまう。
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「よし、これなら俺も動けそうだ。 …と、その前に。アンタ、盗賊から何か掻っ払ってきたか?ああ、ソイツを寄越せっていうわけじゃねえよ。ただ、アンタのいらねえものがあったら、俺に買わせてくれ。もしくは、物々交換でもいいぜ」
アーマーを着直し、バイザーを下げ直してしまったヴィクトルは、治療後の動きに問題がないことを確認しながら、俺に取引を持ちかけてきた。
この流れは覚えがある。ゲームのチュートリアルでも、似たような展開になっていたはずだ。
ヴィクトルが持っているものは、応急治療薬や包帯などの治療道具。それから、水と食料。そしてお金…ルーブルだ。
いくら持っているのか詳細は不明だが、確かそれなりに大金を持ち歩いているはずである。
あとは、残念と思うほどではないが、チョコレートとタバコは自分用らしく、取引には提示してくれなかった。
ヴィクトル自身が扱う武器と防具、そして弾薬も同様である。
取引を行う前に、ついでに狼から「生肉」や「毛皮」を剥ぎ取る。
毛皮は序盤のうちは微妙に性能の良い金策アイテムになるので、ちょうどいいからヴィクトルに買い取ってもらおう。
生肉はそのままでも食えるが、この世界の野生動物はみんな被爆しており、生肉を食うと被爆値が結構溜まることになる。
野外調理は…ゲームシステム的には出来なかったが、リアルになった今なら焚き火があれば焼肉位は作れるんじゃないだろうか?
今度、機会があれば試してみたいところである。
そんな事を考えながらサクサクと剥ぎ取っていると、それを横から見ていたヴィクトルが「…アンタ、凄い手際が良いな」と褒められた。
…確かに、よく考えたら獣から肉や皮を剥ぎ取るって、結構な専門技術だよな。
この世界の人たちは…っていうかヴィクトルは、肉を取るために獣を狩ったりしないのかと聞いてみると、「それが誰でも簡単に出来るっていうなら、苦労して手に入れた食料を奪い合ったりしてねえと思うぜ」と、苦笑交じりに答えられた。
…ちょっと、無遠慮なことを聞いてしまったかもしれない。
今の状況をよく考えてみれば、ヴィクトルは仲間を沢山失ったばかりで、食料などを狙った盗賊団に住処を追われて逃げている最中というところだったはずだ。
そんなタイミングで、こんな質問をされても、苦笑しか出来ないのはその通りだろう。
苦笑だけでなく、ちょっと迂遠な表現ではあったが答えを返してくれるあたり、やはりヴィクトルは人が良すぎる気がするくらいだ。
…やはり、今は何かを考えるよりも、早く安息の地を目指すべきだな。
このまま色々疑問に思ったことをこの場でヴィクトルに聞き続けても、また不快に思わせてしまうかもしれないし、あらためてこの状況を打開することを最優先に行動するよう、意識を改めよう。
先程のような無遠慮なやり取りがあっても、ヴィクトルは問題なく取引に応じてくれた。
ゲームでは序盤の金策として、「アーマー」や「バックパック」がかなり優れている。
特に、バックパックはシステム上の重量が0kg(ただし、所持スロットは要求し、結構なスペースを圧迫する)ので、金策アイテムを持ち帰りたいけど重量過多による鈍足にはなりたくないという場合、バックパックを集めると良い。
なので、ヴィクトルにはアーマーの方を買い取ってもらう。
アーマーは圧迫するスロットサイズも大きい上に重いので、持ち運ぶにはあまりにも不便だ。
取引可能NPCと出会えたなら、「アーマースクラップ」という素材を大量に集めたいなどという理由がない限り、最優先で処分・売却して良いアイテムになる。
それから、女盗賊から回収したサブマシンガンも撃ってしまう。
武器には損耗率と呼ばれる耐久値が存在し、これが6割を下回るとジャムりまくるのだが、盗賊から奪い取れる武器は高確率で損耗率が6割を下回っている状態になる。
俺の眼の能力で詳細を確認したが、やはり修理しなければまともに使えそうにない状態だったので、重くて邪魔だし買い取ってくれるというならそうするに限る。
幸いなことに、弾薬はピストルに流用できるので、銃器本体だけを売った。
男盗賊が使用していたショットガンは、損耗率が65%とギリギリだが、この後に戦う可能性が高いミュータント「グール」に対して特攻に近い性能を持つ武器なので、こちらは俺のサブ武器としてそのまま使わせてもらうことにする。
弾薬は7発しか残っていないが、チュートリアルで使い回す分には十分な弾数だろう。
あとは、狼の皮を含め、狼から剥ぎ取った生肉全部も売り渡し、代わりにヴィクトルが取引してくれるだけの回復アイテム全部と、アイテムの売却総額からもらうアイテムの値段分だけを差引いた残りの額となる、2940ルーブルを受け取り、取引完了となった。
「…こんなに、というかさっき剥ぎ取った肉を全部もらっちまって、いいのか?」
ヴィクトルが、若干申し訳なさそうに、そして少し訝しむように、これで本当に良いのかと確認してくる。
ヴィクトルには見せていないが、盗賊から腐っていない「牛乳」を1つと、「コーラ」を1つ回収できているので、直近の食料については実は全く問題がない状況だった。
どちらも、空腹と水分を同時に回復でき、コーラに関しては疲労値まで回復してくれるレア食品である。
ただ、先程ヴィクトルが苦笑交じりに溢した「食料を奪い合う」というワードが脳裏に引っかかり、そのようなものを持っているとは伝えられずに、無難な感じで「良いんだ、その代わり金も薬も貰ってる」とだけ返した。
「…そうかい?まあ、金も薬も確かに便利だからな。と言っても、金や薬じゃあ、実際には腹は膨れねえっとことは忘れるなよ。 アンタは変なところでもの知らずなところがあるからな、ちょっとしたアドバイスだと思って、覚えておきな」
ヴィクトルはそれだけ言って、あとはもう納得したという様子で、俺が渡した生肉の塊を大事そうに自身のバックパックへとしまい込んだ。
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ヴィクトルは、俺にデバイスを使ったマップの確認方法と、ピンを付け方を説明してから、「それじゃあ、手紙を回収しに行こうか」と言って、俺と共に行動するようなことを言ってきた。
……?
どういうことだ。
いや、状況的には何もおかしくないだろう。
むしろ、俺が先程単独で行動していたほうがヤバくて、協力しあえるなら一緒に行動するべきというのは、俺だって理解できる。
だが、ゲームでの話になるが、チュートリアルの案内役とはここでお別れとなり、この後はプレイヤーが1人で行動することになるはずだった。
ゲームでは、チュートリアルの案内役から「ゼロ・シートベルトへの紹介状」を持ったまま死んでしまった仲間の位置を教えてもらい、そこに1人で向かって小規模な盗賊団のアジトを襲撃・壊滅させて、手紙を回収してから拠点に行くための列車の発着場を目指す。…という流れになるはずだ。
その一連の流れに、友好NPCが同行するという展開になった覚えはない。
チュートリアルは数回しかプレイしたことがなかったが、そんな存在が居たなら少なからず印象に残るはずであるため、俺の記憶違いというわけでもないはずだ。
…まあ、ゲームの世界や展開に似ていても、ゲームそのものではないんだ。そういうこともあるのかもな。
今はとにかく、考えるより、安全な拠点にたどり着くことが優先だ。
なにやら違和感や疑問が思い浮かぶが、心強い協力者が同行するのだと考えたら、むしろ喜ばしいことのはずである。
少し困惑し、呆けてしまっていたが、気を取り直して俺も立ち上がり、あらためて互いに協力し合っていこうと激励しあい、固い握手を交わしてから、行動を開始した。
目的地に向かう道中、数匹の狼の群れに遭遇し、それをヴィクトルが瞬殺して、俺が剥ぎ取りを行うという流れがあった。
ヴィクトルは、相変わらず感心したように俺が剥ぎ取るところを横で眺めて、「いいなあ。生きて一緒にベースキャンプにたどり着けたら、俺にもやり方を教えてくれよ」と言った。
やめろよ、そんな縁起でもない。
これから殺し合いに行くっていうのに、今から死亡フラグみたいなセリフを吐くんじゃないよ。
俺は、「絶対に教えてやるから、生き急ぐなよ」と言い返した。
…言った後で気づいたが、なんだか死亡フラグを補強したみたいになっていないか?
いやぁ、どうなんだ…いやだなぁ、ヴィクトルに死んでほしくないよ、俺は…。
盗賊団のアジトが見えてきた。
と言っても、俺は目を凝らしたら草木を透視できるので見えているというだけで、ヴィクトルの視界にはまだ捉えられていないようである。
俺はヴィクトルに、それ以上は進むなと言って止めて、少し迂回することを提案する。
このままヴィクトルに進行方向を変えずに進ませたら、盗賊団数人の真正面に歩み出てしまうことになる。
先程の縁起でもない会話のこともあるし、ヘタをしなくてもそんなところに歩み出たら一瞬で蜂の巣にされて死んでもおかしくはない。
やはり、狙うなら端から、できれば孤立した瞬間を狙って、1人ずつ確実に仕留めるに限る。
…その戦法と、そのためのルートをヴィクトルに提案したところ、ヴィクトルは少し沈黙してから言い淀むような感じで言葉を溢し、「なんか、アンタが味方で良かったよ」と、苦々しさが交じる口調で呟いた。
その言葉を溢した正確な意図はわからないが、あまり良い印象を与えられていない様子であるのは、何となく分かる。
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俺の提案した戦法がドンピシャでハマり、盗賊団の生き残りだった4人の盗賊たちを、1人ずつ確実に各個撃破していった。
盗賊団には妙に女性が多く、男が1人、女が3人となっていた。
先に殺していた奴らを含めるなら、男が2人、女が4人の盗賊団だったということになる。偏ってるなぁ。
そんなことをぼやいたら、ヴィクトルの耳に拾われていたらしく、「そんなの、どこだってそんなもんだろう」と答えてくれた。
……?
なんだ、やっぱりなんかおかしくないか。
どこもそんなもんだってことは…つまり、男が少なくて、女が多いってのが、普通だってことなのか?
それは…どうなんだ?
いや、ゲームのゼロ・シートベルトでは、一応全キャラが男だけだったはずで…って、今はそれがリアルになった世界なんだから、女性も居なきゃおかしいってところまで考えては居たんだっけか?
いかん、なんか絶妙にもやもやするが、そのもやもやに対してこれといったハッキリとした答えが出てこなくて、答えを求めようとして考えるほどに、なんだかこんがらがってきた。
ええい!だから、考えるのは後だ、後!
ヴィクトルが一緒にいるおかげで戦闘面に大幅な余裕があるとは言え、考え事をし続けられるほどの余裕があるわけじゃねえ!
いつのまにやら結構時間が経過してるし、もうすぐ日が暮れてしまう。
このゲームでは、暗くなると「暗視」という特殊能力を持っていなければ、本当に一寸先も見えない真っ暗闇の中を歩かされる羽目になるはずだ。
少なくとも、夕日が沈みきるまでに列車の発着場へ、紹介状を持った状態でたどり着きたい。
俺とヴィクトルは盗賊団の全滅を確認できたところで、紹介状を持ったまま音信不通だったイヴァンという男を探し回り…死体になって転がされている姿を発見した。
装備や荷物は全て剥ぎ取られていたようだが、紹介状の存在だけは死守したらしく、イヴァンの履いていたパンツの中(股間側)から出てきた。…ヴォエッ!!
「イヴァン…ありがとうな。アンタも、いい男だったよ…」
ヴィクトルはそう言って、パンツから紹介状を取り出した後で上手くパンツの中にチンポが収まらなくなってしまった状態のイヴァンの亡骸に向かって悼み、しかし死体を丁重に葬っているだけの余裕はなく、その場に放置することに決めた。
チンポロリしたイヴァンの亡骸に、飢えた烏が舞い降り、肉厚な虫にでも見えたのか、イヴァン亡骸ののチンポロリを率先してついばみ始めた。
ゼロ・シートベルトの世界のカラスは、死体を発見するとこうしてすぐに舞い降りてきてついばみ始める、ほぼハゲワシみたいな存在である。
骨と皮ばかりで食いでがなく、殺しても何も回収できないから、撃ち殺すだけ弾の無駄遣いにしかならない。
だから、すまないイヴァン。ありがとう、イヴァン。
お前のチンポロリのことは忘れないよ。来世ではパンツの中に物を隠すのだけはやめてくれよな!
心の中でそう呟きながら黙祷し、その後は盗賊団のアジトで保管されていた物資の回収と、盗賊団の死体からアイテムをはぎ取れるだけ剥ぎ取り、次の目的地への移動を開始した。
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ゼロ・シートベルトというゲームには、隠しスタッシュというルート…探索場所が存在する。
ざっくり言えば、誰かが地面に穴を掘って埋め直し隠した、隠し宝箱のことである。
そのようなゲーム知識を前提としつつ、俺の眼が持つ透視能力を駆使することで、道中で結構な数の隠しスタッシュが発見できた。
ゲームにおいては、隠しスタッシュにはそれなりにレア度が高いアイテムが1~2個と、ゴミアイテムが多数保管されているというケースが多い。
武器や防具はほとんど手に入らないが、極稀にレア武器が手に入ったりするので、見つけたら積極的に漁るのがオススメだ。
特に、隠しスタッシュには「食料」や「回復アイテム」が優先的に保管されている事が多く、空腹や水分不足の時こそ探し当てたいルートになる。
今回、道中で見つけた隠しスタッシュの中には、赤箱のタバコが大量に見つかった他、「軍用携帯食料(MRE)」というレア食品が複数個手に入ったのがありがたい。
俺は転生前もタバコは嗜んでおらず、ゼロ・シートベルトというゲームにおいてもタバコが必要になる場面がまったくなかったはずというのもあって、赤箱のタバコに関しては全部ヴィクトルの取り分にして良いということにした。
「いいのか!? へへ、あとでやっぱり欲しくなったとかは言わないでくれよ…こいつばっかりは、俺も我慢ができねえからな。あればあるだけありがてえってもんさ、へっへっへ…!」
そうしてヴィクトルは嬉しそうなニヤケ声を漏らしながら、早速この場で赤箱のタバコを一箱開け、1分とかからずに1本を吸いきってから、次また次へと箱の中のタバコに火を点けては一本ずつ丁寧に吸い切りながら、しかし惜しげもない様子で、ものの10分ほどで1箱丸々吸いきってしまった。
「ぷぁ~~~…ひっさびさに、生きてるって感じだぜ…」
ヘビーどころではないスモーカーっぷりにちょっと引いてしまったが、うっとりとした表情でタバコを楽しむヴィクトルの姿は、これまでのクールな印象とのギャップが凄すぎて、奇妙な可愛らしさを感じた。
ヴィクトルは、「タバコを優先的に貰う代わりだ」と言って、隠しスタッシュの1つから出てきた特に高価なアイテムである「スマートフォン」は、俺のものにして良いと言ってくれた。
価格としては全く釣り合っていない、いくら山積みのタバコがもらえるからと言ってもスマートフォンが高すぎるはずなのだが、それでもヴィクトルは「タバコってのは、手に入らない時はまったくだからな。金があってもそれでタバコが買えなきゃ、マッチ代わりの紙くずにも出来やしねえのさ」と言いながら、ホクホク顔で残りのタバコの山をバックパックに押し込んでいる。
そういうことなら、遠慮なくスマートフォンの方をいただくことにした。
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この世界には、「アノマリー」と呼ばれる危険存在がいる。
アノマリーというのは、放射能汚染などの要因により変質してしまったナニカであり、大体は人間に対して害がある。
例えば、火を吹き出したり毒ガスを撒き散らすなどといった、いわゆるトラップ型のアノマリーが群生している場所があったり。
例えば、「グール」と呼ばれる生き物…上手く言い表すのは難しいが、人と犬を配合したかのような見た目で、口周りに触手を生やしたみたいなゲテモノ生物がいたり。
トラップ型の方は、俺の眼の能力があれば余裕で回避できるが、ゲテモノ生物の方はかなり危険だ。
この世界では野生動物以上にどこにでも生息している上に、「巣」というカタチで10体以上のバケモノが一箇所に集まっていることが有り、そういう場所に近づいたりちょっかいを掛けたりすると、その巣の中から一斉に化け物共がワラワラと飛び出して襲いかかってくるのである。
この時点で、全く移動しないトラップ型よりも危険度が高いのがわかる。
さらに、極至近距離まで迫ってきて近接攻撃を仕掛けてくるのだが、その距離に対応できる銃器のタイプというのが、結構少ない。
しかも、この化け物共には装備という概念がなく、つまり人間と違って常時身軽なのだ。
ゼロ・シートベルトに登場する化け物共は、例外無く超高速で移動してくるので、可能なk切り見つかる前にぶっ殺すか、見つかっても対処できる至近距離対応可能な武器をサブで持ち歩いておきたい。
ショットガンがそんなバケモノに対して特攻に近い能力を持つというのは、その距離適性と瞬間単発火力の威力のおかげである。
そんな、絶対に遭遇したくない、もし遭遇したとしても絶対に先手を取ってぶち殺したいバケモノが、ちょうど俺とヴィクトルに向かって2方向から別々に全力疾走でやって来るのが見える。
人のような肌を持ちながら、口元から不気味な触手を垂らして振り乱し、四足歩行で爆走してくるバケモノ。
リアルな見た目になったことでさらにキモくなっているが、間違いなくグールである。
片方はヴィクトルが相手をするとして、この状況なら流石にもう片方は俺自身で相手をしなければならないだろう。
俺は、故障しかけのショットガンを構え、狙いを定める。
まずは一発。
凄まじい発砲音とともに、散弾が飛散してグールの全身・至る所を撃ち削る。
だが、グールは怯まず突進を続ける。殺しきれていない。
少し焦って早めに撃ち放ってしまったせいか、広く当たりはしたものの、その殆どがカス当たりになり、致命傷に至らなかったようである。
俺の使用するショットガンの弾倉には、1度に2発まで装填でき、つまり2連射までしか出来ない。
リロードには、それなりに時間を要する。次を外せば、グールの突進からの噛みつき攻撃をモロに食らってしまう可能性が高い。
少し、怖い。
…いいや、本当なら足がすくんで動けなくなってもおかしくないほどの恐怖を感じているはずだ。
それほどまでに、リアルになったグールという存在が、そして眼の前のバケモノが俺に噛みつこうとしているという状況そのものが、恐ろしいものだという実感をがじわじわと湧き出してくる。
だが、それでも俺の身体と頭は、不思議なほどに冷静で居てくれた。
心が恐怖に震えているはずなのに、身体だけは芯が入ったようにどっしり・しっかりとしてくれていて…おかげで、なんだか心強かった。
俺はすかさず、ショットガンに装填されたもう一発の弾丸を撃ち放つ。
これを外せば、間違いなく噛みつかれ、下手したら連続で攻撃を受け続け、そのまま死ぬ。…そんな予感をひしひしと感じながら、俺は努めて冷静に、狙いを定め、引き金を引いた。
今度はグールの頭にクリーンヒットし、首から上が四散して吹き飛んだ。
ピクリとも動かなくなったことを確認し、俺はすぐにショットガンのリロードを行いつつ、ヴィクトルの方は問題ないかを見やる。
…ヴィクトルの方に駆け出していたグールも、駆除できたらしい。
ただし無事とはいかず、至近距離まで接近を許してしまったらしく、片腕をグールに噛みつかれて、血がダバダバと垂れ流しになっている。
俺は急いでヴィクトルの元へ駆け寄り、すぐに手元の回復アイテムを使って治療を開始する。
「おいおい、せっかく俺から買ったのに、俺に使っちまうのかよ…」
ヴィクトルは、こんな事になってしまった自身に対する皮肉も含んでいるのか、苦しそうにしながらもそんな悪態を溢した。
俺はヴィクトルの治療を続けながら、「いいんだ、怪我したときに使うために買ったんだから、これで合ってる」とだけ伝えた。
「…へっ、お人好しめ」
…お前がそれを言うのか?とは、言わないでおいてやった。
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ヴィクトルが片腕に重症を負い、ちょっと立ち回りがしづらくなったらしい。
ゲーム的に言えば、リロード速度の低下とか、そんな感じの状態だと思うが…はて。
ゲームの時なら、どんなに重症を負っても、包帯を巻いて傷を塞いで、HPの回復さえしてしまえば、そういうpenaltyなんて発生しなかったはずだが。
こうして何もかもがリアルになった影響で、ただ治療するだけですぐに全快する…とはならなくなったらしい。
やはり、この世界はゲームのゼロ・シートベルトに酷似しているが、何かが違う。あらためて、そう確信した。
そんな状態だが、結局ゲームの展開通りに状況は進んでいくらしく、このチュートリアルの最後の関門として、小規模な盗賊グループの拠点が待ち構えている。
ここで相対する敵も盗賊ではあるのだが、地味に結構強い装備を抱えて登場するので、結構厄介だ。
ちょっとレベルの高いアーマーと、ちょっとレアな武器を持っていることがあり、油断したゼロ・シートベルト初心者のプレイヤーをここでぶっ殺しにかかってくるのだ。
特に見た目はピストルのくせにフルオート射撃ができる「ETS」というレア武器を持っている奴が発生していると、マジの初見殺しでHPを溶かされて死ぬ可能性が高い。
他のレア武器は見た目がゴツくてわかりやすく警戒しやすいが、見た目がピストルだとどう見ても侮っちゃうよね…。じゃあ、殺すね…。
ただ、それらの装備を奪い取れたら、序盤から非常に心強い相棒となってくれるので、奪い取れると言うなら奪っておきたい。
ゲームでは、戦わずに回避して逃げるための道が用意されており、盗賊どもをぶち殺して制圧するか、その回避用ルートを使って命からがら逃げ出すかの2択になるのだが、ここはどちらで行くべきか。
それに、今回は同行者も居る。
それも、片腕を負傷していて、満身創痍とまでは言わないが確実に万全ではないという状況だ。
どうするべきか、その同行者であるヴィクトルと軽く作戦会議をする。
「うん。じゃあ、盗賊なんて生かしておくメリットがないし、ぶち殺そうぜ」
ヴィクトルは、クールっぽい口ぶりのまま、クソほど血の気が多いセリフを吐いた。
というか、ヴィクトルは仲間を盗賊どもに皆殺しにされ、以前の共同体の中では唯一の生き残りになってしまった人だった。
仲間を皆殺しにした盗賊団は壊滅させて報復は完了したかと思ったが、恨み骨髄ということか。
もはや、盗賊として活動している相手ならどんなやつでも殺したくて仕方がないらしい。
言うやいなや、ヴィクトルは俺に対して奇襲に適したルートと逸れがドイツか見分けて指示するようにと要求し、そのとおりにしてやるとすぐさま1人、また1人とぶっ殺してしまい、片腕の自由が効かないはずなのに今度は無傷で4人の盗賊を始末してしまった。
俺は、ヴィクトルが敵じゃなくて本当に良かったと、このとき心の底から安堵した。
ここに居る盗賊団たちの装備は、やはり序盤にしてはかなり性能が良い物を持っていたようで、期待していた自動ピストルの「ETS」が専用ストックのオプション付きで手に入った。
売却価格がそれほど高いわけではないことと、武器についてヴィクトルにはそれほど拘りがないらしく、「ならソイツはアンタのものでいいぜ」と快く明け渡してくれた。
ありがたい…。
ピストル弾は安く買えるし、ピストル弾自体の重量も軽くて大量に携行しやすいというメリットがあって、実のところ中盤までずっとサブ武器として愛用し続けられるくらいのスペックを持つのだ。
銃器本体の軽さもメリットであり、その分より多くの荷物を持ち帰りやすいということにもなる。
それからもう一つのレアアイテムとして、盗賊の装備の1つにちょっと性能が良いバックパックがあった。
これについては、ヴィクトルが現在装備しているバックパックとほとんど同じ性能をしていたので、これも俺が使わせてもらうということですぐに話がまとまった。
最終的な分前は2人で別ける約束だが、そのためにも2人で大量の物資を持ち帰らなければならないので、俺の所持重量が増やせるというのならヴィクトルにもメリットが有る。
アーマーについては…一応、ちょっと高いランクのアーマーを着ていたようだが、ヴィクトルの殺意が高すぎたせいか、もしくは手入れを行っていただけなのか、ともかく品質が酷く損耗率がボロボロだった。
このままじゃあ修復しなきゃまともに機能しないし、高ランクアーマの修理には法外な料金が要求されるので、コイツは素直に売却して金に変えてしまおう。
アーマーは、結構ボロボロでも割と高値(数千ルーブルくらい)で買い取ってもらえるはずなので、装備としてほしいわけではないが、持ち帰れるなら持ち帰りたい。
その他には、換金用のアイテムが多数と、食料と薬、それからいくつかの電子部品や食器るいなどの雑貨、などなど…。
さらには、ちょっとレアな「青箱のタバコ」というものが2箱だけ見つかり、ヴィクトルが捨てられた子犬のようなつぶらな瞳で、目だけで「これ、ほしいなぁ~」と訴えてきたりした。
まあ、いいよ、持っていきなよ、うん。
俺の許可得たヴィクトルは、小さな身振り手振りだけで小躍りしながらその場で青箱を1つだけ開封し、その中の一本だけを取り出してすぐさま火を点け、じっくり味わうように吸い始めた。
「くふぅ~~~……キくぅ~~~……おほぉ~~~……」
…ええ?
若干焦点が合ってない気がするけど、それ本当にタバコ?大丈夫なやつ?
*
俺は、青箱をキメてちょっとラリったヴィクトルの腕を引きながら、ついに目的地であった列車の発着場へと辿り着いた。
発着場の出入り口となるゲート付近とその奥には、緑色のアーマーで統一された人たち…いわゆる「緑軍」と呼ばれる組織のものと思われる軍人たちが、厳しい武器を抱えつつ警戒を行っている。
「止まれ。…何者だ」
入口に立っていた緑軍の…男?
…ガスマスクタイプのフェイスガードとヘルメットで頭部が隠されているため、ハッキリとは性別がわからないが、ともかくその軍人に止められる。
ゲームでは、特に検閲などされること無く素通りさせてもらえたはずだが…。
まあ、それはゲームの進行上の都合のようなものだろうし、実際はこういう場所では検閲するべきだろうというのは納得できる。
俺は、手持ちのデバイスを身分証代わりに提示し、併せてイヴァンのパンツから回収した、なんかちょっと変なシミが付いている紹介状を手渡した。
「…なるほど、確認した。ずいぶんと大変な旅だったようだな、生きてここまでたどり着けてよかった。 このまま奥へ行き、列車の到着を待つと良い。その紹介状は、ベースについたらバーにいる男に渡してやれば、後は必要なところに必要な話が回るはずだ。忘れずにな」
緑軍の人は俺のデバイスと紹介状を確認してから、そう言ってそのまま返してくれた。
…いやあ、紹介状の方は、もうそっちでなんとかしてくれねぇかなぁ…ダメかなぁ…。
列車への乗車を許可された俺とヴィクトルは、ついに安住の地に…その手前にまで辿り着いた。
向かう先は、ベースキャンプ『ゼロ・シートベルト』。
俺はこれから、どうやって生きることになるのか。そもそも生き残ることが出来るのか。…そんな漠然とした不安感が、今更になって胸中にうずまき始める。
辿り着いた抱きで、安全が確保できると革新できたら、そろそろこの世界のことについて、詳しく考えたいなぁ。
そんな事を考えながら、まだ少しトリップしているヴィクトルの頭を肩に乗せ、2人並んでベンチに座り、いまはただそんな不安を風に流してしまいたくて、少し黄昏れることにした。
*
▼プロフィール_02:ヴィクトル(ヴィクトリア)
・カテゴリー:人間(北欧人)
・所属:無所属(Hunter)
・性別:女
・年齢:27
・身長/体重:157cm/67kg
・スリーサイズ:102cm-58cm-78cm
・経験人数:3人(18回)
・一人称/二人称:俺/アンタ
・好き/嫌い:煙草/盗賊
・備考:北欧の大地が生み出してしまった、煙草を燃料に動く「リトル・キリング・マシーン」。
小柄な割に、反射神経と筋力・持久力に優れているという特徴を持つ女性。
銀髪碧眼で、このような時代でなければ「妖精のようだ」と言われるであろう、可愛らしい顔立ちをしている。…が、現在はほぼ常にフルフェイスメットで頭を防護しており、髪も短くスポーティに切りそろえていて、口調まで男勝りになってしまって、妖精という印象からはやや遠い。
超がつくほどの爆乳だが、探索や戦闘の邪魔になるためアーマーの中に押しつぶすようにしてしまい込んでいたら、潰れたり伸びたりしてしまって年齢の割にちょっと長過ぎる形状をしている。
相手をしたことがある男たちからは「胸以外は最高の女」とバカにされていたため、ちょっとだけコンプレックス。
銃器の取り扱いの腕は立つが、凄まじいヘビースモーカーで、タバコのためならちょっと割の悪い取引でも応じてしまう、そこそこのダメ人間。
煙草欲しさに肉体関係を持った男が何人か居たが、盗賊団の襲撃に遭いみんな死んでしまった。
長年苦楽をともにしてきた相棒と呼べるイヴァンまで殺されてしまい、最後に残った理性の糸が切れてしまっていて、盗賊に対しては一切容赦のない殺意を向ける。
表面的にはまともそうに見えるが、実のところ、もうメンタルが限界に近い。
▼主な能力
1,痛覚鈍化:痛みに鈍くなり、大怪我を負っていても大きなデメリットなく戦闘を継続できる。ただし、あくまで怪我や痛みにより動きが鈍くなったりしないだけであり、重症による動きの制限が消えるわけではない。
2,精神鈍化:恐怖や悲しみなどによる精神的苦痛での行動の制限を全く受けずに戦闘を継続できる。精神的なミュータント化とでも言うべき症状であり、感情がだんだん麻痺してきてしまっている。煙草による鎮静作用が、自分が人間だったことを思い出させてくれる特効薬。
3,強靭な心肺機能:凄まじいまでの心肺機能を有しており、どれほど走り回ってもスタミナ切れを起こさない、究極のランナー体質。ただし、強靭なのは心肺機能に限り、筋肉疲労や怪我による鈍化までは無視できない。どれほどタバコを吸いまくり、肺が真っ黒になっても、一生現役で戦える。
4,ライフルエキスパート:ライフル弾系の武器が得意。ライフル系の武器の損耗のしやすさが低下し、エルゴノミクスや命中精度などにプラス補正がかかる。