※この作品はR-18です。

俺の知らないMODが適用された『ZERO Sievert』の世界に転生したようだ。   作:シコルスキー・ジョボジョボヴィッチ

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チュートリアル③:ようこそ、ゼロ・シートベルトへ

 

 

 

やってきた装甲列車に乗り、ベースキャンプ…「ゼロ・シーベルト」と呼ばれる一大拠点に辿り着いた。

 

 

結局、ヴィクトルはここまで着いてきてしまったが…まあ、見知らぬ土地で生活を始めるのに、命を預け合った関係で人柄的にも信頼できそうな人がいるというのは、心強いと思っておこう。

 

ゲームでは、この場には一人でたどり着いたはずだが…それはあくまでゲームの話。

 

NPCがゲームの中のデータ上の存在でしかなかったときと違い、それこそヴィクトルを含め、みんな血が通った命と意思を持つ者たちとなったのが現状なのだ、

当然、それぞれに個人としての考えがあり、それぞれの思惑で行動する。

 

 

…運命と言うか、展開というか、そういうのはやはりゲームの内容に酷似しているが…それも、ただそれだけのことだと思っておこう。

 

ゲーム知識は、時々役に立っている気もするが…ゲーム知識がそのまま使えているという場面は、よく考えたらそんなに多くない。

引き続き、過信は禁物だと考えるべきだ。

 

 

 

 

「ここが、ゼロ・シーベルトか。 …なるほど、聞きしに勝る規模の大拠点だ。ここなら確かに、俺たちの安住の地になるかもしれねえなぁ。 …できることなら、イヴァンたちも生きて辿り着いてほしかったぜ」

 

ベースキャンプの入口・門前で、巨大なゲートを見上げたヴィクトルは、そうぼやきながら慣れた手つきで赤箱のタバコを開け、ヘルメットのバイザーを上げて、その場でタバコをふかし始める。

 

中に入ってから吸えばいいのに、それほどまでの愛煙家なのか、それとも意外と呑気なのか…と思ったら、どうやらそうではないらしい。

 

一見すると、完全にリラックスしているようにも見えなくもない。

だが、口では安住の地だと言いながら、しかし完全に警戒を解くようなことはなく、その目つきは鋭く野外探索時の時と変わらぬ強かさが感じられる。

 

あえて言うなら、「コイツが最後の一服になるかも」みたいな、奇妙な雰囲気を纏っているように感じる。

 

 

…あらためて自分たちの状況をよく考えてみると、招待されている(?)身とは言え、入ったことのない施設に足を踏み入れることになるのだ。

 

これが例えば、組織ぐるみの罠で、ここが安住の地どころか命の灯火が消える場所だとしたら…今が、最後の一服を吸うチャンスと言えなくもない状況なのだな…と気づいた。

 

そんなヴィクトルに対して、俺の方こそ本当にリラックスしていたというか、「へー、ドット絵の世界では簡素化されて表示されてたからよくわからなっかところもあるけど、リアルになるとこんな感じなんだなぁ」とか思いながら、完全に警戒を解いてしまっていた。

 

 

いかん、いかん。

 

無意識にというか、ふとした時にゲーム知識が前提にきてしまって、勝手にこの中は安全だと確信してしまっていた。

 

いや、ゲーム知識通りなら安全と言って間違いないのだが、本当に安全かどうかを今の俺が確かめたわけじゃないのだ。今はまだ、油断して良い状況ではなかった。

 

 

うーむ…。

 

何度も「ゲーム知識がどこまで通用するかわからない」と気を引き締め治しているはずなのに、気がつくとゲーマー思考になってしまうというか、ゲーム知識ありきで考えたり行動してしまったりと、我がことながら危なっかしいところがあるな…。

 

俺もヴィクトルを見習って、少しだけ周囲にうっすらと警戒しながら…本当に安全なのかを確かめることを意識しないとな。

 

 

ゲートを潜り、中へ進む。

 

少し歩けば、初めて合ったはずなのに、なぜだかよく知っている気がする2人のゲートキーパーらしき緑軍の軍人が、通路の左右に立ってゲートを通ってくるものを観察・警戒している。

 

 

「よう、ハンター! …いや、見ないツラだな。ここまで入ってこれたっていうなら、新人か?」

 

「……」

 

 

ゲートを入って左側に立つ軍人が、陽気な口調で声をかけてくる。

 

反対に、右側に立つ軍人は、ただ静かに武器を抱え、こちらの様子を観察しているようだ。

 

ゲーム知識通りなら、この2人は兄弟で、クソ真面目で寡黙な弟と、陽気でお喋りな兄というコンビのはずだ。

 

 

俺は、まずは武器をしまい、「紹介状を持ってる。今、見せる」と言い、怪しまれないようにゆったりとした動作でそれを取り出し、見せる。

 

ゲートキーパーの2人は、ジッと黙って、俺が紹介状を取り出すのを待ち…取り出した紹介状の封筒から中身を取り出す前に、陽気な口調が飛び出てきた。

 

「…オーケー!ソイツは確かに、ここの紹介状だ! どこに持っていくか、他のヤツから聞いてるか?バーテンダーの男…バーマンっつうヤツに渡せば手回ししてくれる。中をうろつくのは、バーマンの許可が出てからにしな! ああ、バーの場所は入って最初の左に曲がる通路の先だ、間違えんなよ。 …じゃ、よろしくな、新人ハンターさんよ!」

 

「……」

 

陽気な男がツラツラとまくし立て、寡黙な人の方はすっと肩の力を抜き、「もうお前たちには興味はない」と言わんばかりに、ゲートの外へ視線を向けた。

 

二人の間を通り抜ける際にも、陽気な男は「グッドラック!荷物を捨ててでも生きて帰ってくるんだぜ?生きてりゃいくらでもやり直せるからな!」と軽口混じりに檄を飛ばしてきて、ここまでくるといっそ喧しいと思うくらいだった。

 

 

ただ、おかげでこちらもいい感じに毒気が抜かれたと言うか、俺もヴィクトルもいい感じに肩の力を抜くことができた。

 

やかましくはあるが、コイツが出迎えてくれるのだと思うと、なんというか、暖かいと言うにはちょっと違うが、日常に帰ってきたという感じがしてありがたくはあるんだなぁ…と、実感した。

 

 

 

 

ゲートキーパーの男に言われたとおりに通路を進み、確かにバーに辿り着いた。

 

 

バーは、特定の一室に設けられていると言うわけではなく、通路の途中に広い空間ができていて、そこをバーに使えるように改装したというような様子であった。

 

現に、バーと通路を隔てる扉というものは存在せず、バーの奥にはさらに別の場所続くと思われる通路が見えている。

 

内装は間違いなくバーそのものだが…天井一帯や壁面の一部を這う配管やそれに不随するバルブなどを見るに、ここはもともと何らかの水道設備かガス設備が置かれていて、それが撤去された後の空間なのではないかと思われた。

 

 

バーの中には、8卓の円形テーブルとそれぞれに4脚の椅子が用意されており、それとは別に8脚の椅子が並んだバーカウンターがある。

 

円形テーブルのいくつかには、酒や食事、もしくはカードゲームを嗜む…装備からして緑軍の軍人ではない人たちが見かけられた。

 

ゲートキーパーの男が、俺達に向かってそう呼んだように、彼らもまた「ハンター」と呼ばれる存在なのだろうなと思う。

 

 

彼らは、俺達のことには気づいているようで、チラリと視線を送られるなどしたが、すぐに興味を失ったかのようにそれぞれの向かい合っていたものへ視線を戻していった。

 

…うん?

えっと…彼ら、っていうか…彼女ら、って言うべきか?

 

ハンターらしき人たちは、俺やヴィクトルと同じようにアーマーを着込んでいるので体型からは判別しにくいが、ヴィクトルのように頭を隠すほどの装備を揃えているやつは少ないようで、その顔立ちをよく見ると…女性が多いような気がする。

 

いや、俺の勘違いじゃないなら、この場にいるやつはほとんど全員女性なんじゃないか?

どうだろう…元は日本人だった俺には、外人さんの顔の男女の区別っていうのが正確にはわからない…。

 

いや、外人さんの方が、男女の顔立ちの区別がはっきりしている人が多いし、やっぱり見たまんまなのだろうか?…うーん、よくわからんな…。

 

 

ま、まあ、いいか。

今は彼女ら…?のことより、俺達自身のことだ。

 

バーカウンターの向こうに視線を向ければ、そこにはバーテンダーが1人だけ。…つまり、彼がバーマンなのだろう。

 

バーカウンターには客が1人も座っておらず、ならばと遠慮すること無くバーテンダーの眼の前の席に座らせてもらうことにした。

 

 

「…おや、新顔だね。 いらっしゃい、俺はバーマンという。このバンカー…ずいぶん巨大になっちまったベースキャンプだった何かの、顔役みたいなものだ。 早速だが、紹介状か、紹介者はいるか?」

 

バーテンダーの男・バーマンに催促され、俺はすぐに紹介状を取りし、渡す、

 

「ふむ。封筒は、確かに…。 …いや…なんだ?なんか、ちょっと臭いな…?」

 

ああ、気にするな…その、ちょっと、アレだ。まあ、ちょっと変なシミが付いてるだけだよ…。

 

 

バーマンは、封筒の中身を確認し、その後に俺のデバイスを貸してくれと求められ、言われるままに差し出す。

 

デバイスを受け取ったバーマンは、慣れた手つきで何かを操作し、デバイスから『ピピッ、ピポン!』という軽妙な音がなったかと思ったら、「オーケー、これでアンタはここの出入りが自由になった」と言って、デバイスを返してくれた。

 

どうやら、このベースキャンプの中をうろつくには先程の登録作業が必要なようで、デバイス同士が近づくと識別信号を拾い、仲間かどうかがわかる仕様になっているらしい。

 

ここでの登録を済ませていないやつが不用心に緑軍の軍人に近づくと、反射的に攻撃される危険があるとのことで、「このデバイスは絶対になくすんじゃないぞ」と念押しされた。

 

 

「それで…紹介状には、彼の救助と案内に協力してくれた現地協力者たちも仲間に迎えるってことだったが…事前の申告では10人って話じゃなかったか?他のやつはどこに居るんだ?」

 

バーマンは、ヴィクトルの方に視線を向けて、そんなことを聞き尋ねた。

 

「…死んじまったよ。俺以外、みんな。 事前の知らせと違って悪いんだがね、俺だけでも仲間に加えてもらえるかい?」

 

「ああ、そうかい…大変だったみたいだな。 …俺が謝ることじゃないし、納得して依頼を受けたはずだという話ではあるが…それでもだ、今日の飯代くらいは、俺の奢りにしといてやるよ。 ああ、もちろん歓迎するとも。…ようこそ、ゼロ・シートベルトへ!」

 

そう言ってからバーマンはヴィクトルが所持していたデバイスも受け取り、手早く登録を済ませ、その後に2人分の飯を作って俺とヴィクトルに振る舞ってくれた。

 

 

 

 

…差し出された飯は、ハッキリ言ってかなり粗末なものだった。

 

 

匂いはそんなに悪くはないが…ボロボロのクズ肉と、カチカチに固まったパン、牛乳っぽく見えるがちょっとヨーグルトっぽくなってる液体、ほんのりカビが生えたチーズが数切れ…食用カビっぽくは見えない。

 

眼の前の食事に少し引いてしまった俺だったが、それに対しヴィクトルは「こんなに出してくれて奢りとは、ありがてえな」と言って、むしゃむしゃとかっ食らい始めた。

 

…ゲームのゼロ・シートベルトでは、簡単とまでは言わないが、空腹になりすぎて困るということにはならないくらいにぽんぽんと食料が手に入ったはずだが…リアルになった影響で、ゲームのときよりも食料事情はかなり厳しいのかもしれない。

 

 

それはそれとして、俺の空腹も限界に近い。

なんか傷んでそうな食料品が並べられたからといって、今の俺にそれを食べないという選択肢もなかった。

 

ヴィクトルより遅れて、俺も目の前の飯を口へと運ぶ。

 

うむ、うむ…。…まあ、うん。

想像通りだったというか、肉だけは味付けがされてて美味しいが、他が壊滅的だ。

 

パンは固すぎて口の中が痛いし、牛乳はちょっと嫌な匂いがするわ、口当たりがニュルニュル・ブヨブヨしてて気持ち悪いわ、チーズはシンプルに埃臭い。

 

それぞれ、どうにか味付きクズ肉と食べ合わせることでなんとか喉を通せるが、これがなかったらいくら腹が減っていたとしても完食は厳しかったかもしれない。

 

 

というか、腹が減りすぎていたこともあって完食するまで食べ進めちゃったけど、これってあとで下痢ピーになったりしないか?

 

ここ、ちゃんとしたトイレがあるのかな…そういえば、ゲームではなぜかベースキャンプ内にトイレがなかったんだよな…まさか野糞?

 

俺は恐る恐る、どうかウォッシュレット付きのトイレがあってくれと願いながら、バーマンに「ここってトイレはどこにあるんだ?」と尋ねてみた。

 

「この中には無いが、ゲートを出てから右に向かって少し歩いたところに、共同トイレが建てられてる。安心しな、ちゃんと座って出せる、水洗式のトイレさ。 …ああ、だが気をつけろよ、紙はタダじゃないからな。 トイレ掃除を仕事にしてる奴がトイレの傍にいつもいるんだが、ケツ拭きを持参しないと、そいつから相場の20倍近い値段ふっかけられて買わされることになるぞ」

 

よかった、トイレはあるんだな…ところで相場の20倍っていくらだ?

 

「確か、1巻きで4000ルーブルだったかな? 俺の店で出す1回分の飯代が150ルーブルくらいだから、1日に1食か2食だと考えて、軽く1ヶ月分くらいの食費がぶっ飛ぶことになる。 あとはまあ、1巻き丸々買えないやつは、ちょっと割高になるが、ペーパーをメートル単位で買えたりもするらしい。 そっちだと、1メートルで、240ルーブルって話だな」

 

なんだそれは、たまげたなぁ…。

いや、ボッタクリにもほどがあるだろ…。1メートルで1日の飯代を越えてるじゃねえか…。

 

クソッ、ゲームではトイレットペーパーなんて場所を取るだけのゴミアイテムだったが、リアルになって生理現象が普通にある状況だと、損しないために集めておく必要がある備品になってくるのか…。

 

 

「おい、人が飯を食ってる横で、いつまで便所の話を続けるつもりだよ…そのへんでやめてくれ」

 

横から、ちょっとげんなりとした顔のヴィクトルのストップがかかった。

 

ああ、そりゃそうだ…飯時にする話じゃなかったな…。

 

 

 

 

「それじゃ、あらためて。ようこそ、アダム。それに、ヴィクトルも。 ここはゼロ・シートベルト。最初はただのハンターたちの避難所みたいなもんで、色々あって緑軍を助けたり助けられたりして協力関係になって、ここは安全だと噂が立ったあたりで科学者やら医療スタッフやらも駆け込んでくるようになって、いつのまにやらこんなに巨大になっちまった、そんな場所だ」

 

バーマンは、初めてここにやってきた俺とヴィクトルのために、この場所について色々と教えてくれた。

 

 

ハンター。

 

俺やヴィクトルを含め、どこか特定の組織に正式に所属しているわけではない、一介のサバイバーのことを、主には緑軍の人たちがそう呼び始めたことをキッカケに定着した呼び名だそうな。

 

拠点の外に出て、物資を集め、持ち帰る。

その中には、盗賊や獣を撃ち殺す…つまり、ハンティングしてでも集めてくるという行為が含まれていることから、そう呼ばれるようになったらしい。

 

実は、バーマンも元はハンターだったが、ベースキャンプが巨大化するにつれて、顔役として各組織やハンターたちとの折衝を担うまとめ役が必要になってしまい、古株だからという理由で仕方なくその役目を請け負っているうちにだんだんと拠点から離れることができなくなってしまって、顔役として完全に固定さてしまってから紆余曲折を経てバーテンダーとして落ち着いた。…ということらしい。

 

 

緑軍。

 

緑の軍服・アーマーで統一された、統率された軍組織。そして、そこに所属する人たち。

 

ゼロ・シートベルトに所属するハンターたちとは協力関係にあるが、ゼロ・シートベルトに所属していないハンターとは基本的に敵対関係にあるため、フィールドに出ている時に出くわしてしまったら勘違いされて殺されないように注意しろと言われた。

 

それから、この拠点には居ないが「クリムゾン社」と呼ばれる組織の人たちと極めて険悪な関係であり、緑軍とクリムゾン社の人たちががフィールドで出会ってしまったら、即座に殺し合いに発展するほどである。

 

緑軍もクリムゾン社も、武器や防具の品質が極めて高いので、その戦闘に巻き込まれるようなことになったら普通に死ぬから、どちらか片方でもフィールドで見かけることがあったら、あんまり近づかないほうが良いというアドバイスを貰った。

 

 

科学者たち。

 

放射能汚染が蔓延してしまったこの世界について、こんな状況でも研究を続けている人たち。

 

科学者たちから「ドクター」と呼ばれるまとめ役のような人物がおり、かなりマッドだが高い医療技術を兼ね備えていることもあって、邪険に出来る存在ではないとのこと。

 

あいつらは研究のためなのか、森林エリアをうろついている事が多くよく見かけることになるだろう。…との話だが、あまりにもマッド過ぎてトラップ型アノマリーの群生地帯の中にデータ収集目的で突っ込んでいき、そのまま死んでいることがあるのだという。

 

本当にイカれた連中だから、あいつらをフィールドで見かけても近づかないほうが賢明だと、かなり強めに忠告された。

 

 

スカベンジャー。

 

一応はゼロ・シートベルトの仲間として認められているが、拠点の平和のためを考えた場合には殆ど役に立たっていないので蔑まれていたりする者たち。

つまり、スカベンジャーというのは蔑称のようだ。

 

…ゲームでは、NPCとしてはそんなキャラクターは存在しなかったが、確かにそういう奴が居てもおかしくはないのか。

 

一応、ゲームにおいては「拡張モジュール」と呼ばれる拠点改造アイテムの1つに「スカベンジャー」というものがあり、それを拠点に設置・適用すると、スカベンジャーと呼ばれるゴミ漁りのペット?のような何かを仲間にすることが出来るようになる。

 

1日1回、それなりに大量のアイテムを集めてきてくれて、モジュールのレベルを上げると結構レアで高価なアイテムも拾ってきてくれたりする。

…まあ、そのモジュールのレベルを上げられる頃には、金策なんてほとんど不要になっていることが多いし、実質的に役に立たない存在ではあるんだよな…。

 

 

…で、この世界でスカベンジャーと呼ばれる存在の人らは、緑軍や科学者チームなどの特定の組織に所属していない(実力的に、できないというべきか…)が、かと言ってハンターのようにまともに物資を集めてくることはなく、ゴミクズ同然の物を拾い集めては日銭を稼ぎ、その日暮らしをすることしか出来ない…この世界における、社会的弱者たちのことのようだ。

 

スカベンジャーの中には、元はハンターとして活躍していた人も居たりするのだが、腕や脚のいずれかを失うなどして活動が困難になり、スカベンジャーに身を落としてしまったものが居るらしい。

そういった欠損がなく、五体満足なのにスカベンジャーをやっているようなやつは、そもそもまともに生き残れるだけの実力がないってだけになる。

 

彼らは社会的弱者であり、そう考えると可哀想にも思えるが、こんな世界で簡単に同情する素振りを見せると骨の髄までしゃぶられるほどたかられることになるから、下手な施しはするんじゃないぞと釘を刺された。

 

 

ネットワーカー。

 

これまで紹介した人々の他に、バーの個室の1つを事務所代わりに貸し与えている変わり者、通称「ネットワーカー」と呼ばれる男がいるらしい。

 

その男は、オタク口調でちょっとキザったらしく鬱陶しい言葉選びが玉に瑕だが、極めて優秀な電気技師かつネットワーク技術者であり、奇妙な人脈と情報網を持っていることから、ハンター向けの高報酬な依頼の仲介を行ってくれる存在である。

 

…ただし、報酬が高い分、依頼の難易度は基本的にかなり高い。

熟練ハンターでも、依頼のために出向いたと思ったら手負いで帰ってきて、そのままスカベンジャーにまで身を落としたなんて話は珍しくもない。

 

 

稼ぎたい理由がないなら頼る必要はないが…できれば、自身の実力に見合った依頼だと思えるものがあったら、積極的に受けてほしいとも、バーマンは言う。

 

あの男はこの拠点の古株の1人であり、バーマンと共にフィールドを駆け巡り、電子部品や工具を集めまわって、この拠点をここまで大きくした立役者なのだ。

 

ネットワークを利用して活躍するというのが、あの男の本来の天職のはずだから、できればそれを続けさせてやりたい。

 

しかし、やはりそのためには依頼をこなしてくれるハンターが必要であり、高難易度の依頼になるからと行って尻込みされてばかりでは、バーマンとしても困るのだ。

 

 

「彼の依頼をこなしてくれるなら、俺からもこの拠点の他の顔役に名前を売り込んでやる。 評判が良くなれば、並の相手には売ってくれない協力な武器やアーマーを取引のテーブルに並べてくれるかもしれない。 あとは、ちょっとだけ割引してくれるとか、な。 そのへんの匙加減とかは俺には確約までは出来ねえが、悪いようにはならないようにしてやるから、どうか頼むよ」

 

バーマンはそう言いつつ、「コイツはおまけだ」と言って、とても芳醇な香りのコーヒーを淹れて差し出してくれた。

 

他のことは確約できないが、バーマン自身としてはこういうサービスだってするつもりはあるという意思表示なのだろう。

 

食上事情の改善は、今後この世界で生きるうえでどうにかしなければならないだろうと思っていた明確な課題だ。

 

そのうち、自分で作れるように慣ればいいとは思うが…怪我や病気なんかで自分で作れなくなってしまったときでもバーマンが作ってくれるようになるというなら、この話に乗らないわけには行かない。

 

ヴィクトルは、「気が向いたらな」というそっけない返事を返すだけだったが、俺は「準備ができてからになるが、積極的にこなしてみるよ」と返しておいた。

 

それを聞いたバーマンは、少し驚いたように目を見開いてみせてから、「頼んでおいてなんだが、君はまず、装備を揃えたほうが良いと思うよ…?」と、冷静に諭された。

 

やめろろよな、ちょっと恥ずかしい雰囲気にするのはよぉ…。

 

 

この拠点の関係者たちについては、「そんなところだ」と言って説明が終わった。

 

緑軍のネームドキャラとか、クリムゾン社の詳細については語ってくれない様子だったが、まあその辺は、おいおい知っていけばいいだろう。

 

 

バーマンは「それよりも…」と、少しだけ声量を落とし、俺に向かって値踏みするような視線を送りながら、「アダム、君が紹介状の通りの人物だと言うなら、君に案内しなきゃならない場所がある」と、何か含みのある言い方をしてきた。

 

「ヴィクトル、早速ですまないが、少し店番を頼めるかな。 なに、そんなに難しい頼みじゃない。俺に用があるという人が来たら、少し席を外してるからまた後で来るか、適当なテーブルで待っていてくれと伝えてくれれば、それで良い」

 

「ああ、いいぜ。 …ところで、報酬代わりに聞きたいんだが、この拠点でタバコを売ってくれる奴がいるなら教えてくれないか? しばらくは問題ないと思うんだが、手持ち分が無くなったときには、ちっとキツくてね」

 

「ふむ…? そうだな、誰が売るかと言ったら、そりゃあは俺になるんだろうが…。 俺の方でハンターたちから買い取ったものを、欲しい組織に流通させるってことがある。その中に、タバコも含まれてるってだけだな。 あとは、個人同士での売り買いになるんじゃないかとは思うが…ボッタクリには注意しなよ? まあ、君が欲しいと言うなら、今度から君に売る分もちょっと残しておくことにするよ。それでいいかな?」

 

「ちょっと。じゃ足りねえから、あるだけ全部売ってくれ」

 

「…いやあ、それは流石に…他に欲しい人もいるからねぇ。入ってきた分から、一部だけを取り置きできる程度になると思うよ。 だいたい、週で7から10箱くらいになるんじゃないかな…?」

 

「…1日に1箱くらいか。まあ、まあ。そのくらい吸えるってんなら、前よりマシか…。 いいぜ、店番くらいしといてやるよ。だから、タバコの件は頼むぜ」

 

…現金なやり取りだと言うべきか、ハードボイルドチックと言うべきか、そんなやり取りが挟まれた後、俺はバーマンの案内でバーの奥側の通路…その先へと進んでいった。

 

 

 






▼プロフィール_03:バーマン

・カテゴリー:人間(西欧人)
・所属:無所属/中立(ゼロ・シートベルトの顔役)
・性別:男
・年齢:42
・身長/体重:174cm/62kg

・備考:「ゼロ・シーベルト」の顔役。最古参メンバーの1人。

ゼロ・シートベルト内のバーでバーテンダーをしている男。だからバーマン。
…というわけではなく、「バーマン」というのが本名なのである。

元ハンターであり、「ネットワーカー」と呼ばれる男と長くコンビで活動していた。
超巨大拠点となったゼロ・シートベルトの開発の立役者の1人であり、当初はただの難民キャンプだったはずが、いつの間にやら複合軍事拠点みたいになっていて、バーマン自身もちょっと困惑している。

元は難民キャンプを立ち上げたつもりだったということもあり、物資を集める能力がない人間でも助けてあげられる場所として、このベースキャンプを築いたはずだった。

…それが今では、紹介無しでは入れてあげることが出来ないし、そもそも拠点内の食料事情も劣悪の一途を辿っていて誰かを助けるどころではない、そんな現状に酷く苦慮している。

バーマンはアダムに対し、現状の問題を大きく解決できる可能性と希望を見出しており、そのためにはアダムに対しては冷酷に見えるような振る舞いも辞さないと決意しているようだ。


▼主な能力

1,調理能力:クズ食料素材でも、一応ちゃんと食べられる食料品に仕上げることが出来るという、高い調理能力を持つ。ゼロ・シートベルトの食料事情はほとんどバーマンの調理能力に頼っているところがあり、そのバーマンが「もう限界に近い…」と言っているのは、本当にヤバイ状況なのである。

2,審美眼:アダムの鑑定能力が超能力の一種だとしたら、バーマンの鑑定能力は長年培われてきた経験と知識に基づく技術によるもの。つまり、審美眼である。物の価値を正確に見抜き、値段を付けることが出来る。そのことに対する信頼があるおかげで、ハンターたちが集めたものの買取は、基本的にバーマンが窓口となっている。

3,折衝能力:複数の派閥・組織が混在するゼロ・シートベルトを平和に運営できている理由は、バーマンの折衝能力にある。バーマンが間に入らなければ血で血を洗う大激戦を繰り広げていた可能性がある人たちは少なくない。そのような事情もあって、バーマン自身はゼロ・シートベルトを離れることが難しくなってしまっている。

4,語学力:マルチリンガルであり、会話も筆記もお手の物。そのおかげで、交渉にも強いという一面を発揮することが出来たというところもある。筆記能力が低いハンターの題字をしてあげることもある。…が、それを頼まれる場合というのは、概ね遺言であったため、題字はあんまり好きではなかったりする。
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