俺の知らないMODが適用された『ZERO Sievert』の世界に転生したようだ。 作:シコルスキー・ジョボジョボヴィッチ
そのMODが機能する場面が来たり、主人公が確かめようとしない限りは、すべてを説明するのは冗長なので書かないです。
気になる方は感想とかで聞いてくれたら、都度答えます。
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バーマンに案内されたのは、作業台とチェストボックスがすみっこにポツンと置かれただけの、薄暗くだだっ広いばかりの空間・区画だった。
バーの奥にある通路を通り抜けた先にある区画ということもあり、初めてきた場所のはずなのに奇妙な既視感を感じる。
バーマンの説明を聞くに、ここは俺…アダム専用として与えられる区画であり、アダムにはハンターとしての活動の他、拠点の拡張と施設開発も任せる。…という話だった。
これは、ゼロ・シーベルトのゲームにもある、プレイヤー専用区画だな。
他のハンターと違って、何故かプレイヤーの区画は異常に広く、色々な機能を持つ「モジュール」と呼ばれる施設機能を開発・設置できる仕様になっている。
…はずなのだが。よく考えたら、なんでプレイヤーだけに、こんな専用区画を…?
これに関してはゲーム中でも特に説明がなく、ゲームの時はなんとなくそのまま受け入れてしまっていたけど、どうしてここに初めてやってきたはずなのにすでに専用区画が与えられることになっているんだ?
…ゲームの世界がリアルになって目の前に広がっている今、その事実が妙に不気味に感じられてしまう。
この区画自体は自由に使わせてもらうつもりではあるが、それはそれとして「どうして、ここを俺に…?」と、その疑問については尋ねておくことにした。
「それが、君をここに招いた理由だからさ」
そう言ってから、バーマンは少しだけその事情を明かしてくれた。
先に話していた通り、元はネットワーカーと呼ばれる男が拠点開発を担当していたが、彼の専門分野は電気系統およびネットワーク関連であり、それ以外の施設は各組織が独自に・ネットワーカーに通電の協力を得るなどして、それぞれ開発されていった形になる。
ハンターたちが寝泊まりするための各部屋と、ベースキャンプのゲートをくぐってすぐに左へ向かうと、飲食提供スペースである「バー」があり、そこの開発は当然バーマンの主導によるもの。
バーマンとしてはそういうつもりはなかったのだが、他組織から見た場合はある意味ハンター勢力のスペースという扱いになっているらしい。
ゲートをくぐってからしばらく奥へと進み、行き止まりまで行ってから左へ向かうと、「緑軍の駐屯所」がある。
その区画は緑軍が主導で開発したものであり、彼らは信頼のおけない者なら同じ拠点の仲間であっても絶対に区画へ通さないという、鉄の規律を敷いている。
バーマンから活躍が伝わり、緑軍からの評価が一定以上に達したものに関してのみ、ハンターであっても該当区画への出入りと、緑軍が独自に仕入れているらしい武器や弾薬の購入を許可されるそうだ。
ゲートをくぐってすぐに右へ向かい、そのまま突き当たりまで進んでもう一度右へ曲がると、科学者チームが開発した「医療区画」がある。
ハンターや緑軍などの派閥・組織に問わず、金さえあれば治療を受け付けてくれる。
また、専門ではないものの、「縫い物」が非常に得意な連中であるため、ある程度の防具までなら金で修理を請け負ってくれる。
…こう聞くと「なんだ、良い連中じゃあないか」と勘違いしそうになるが、科学者チームはアノマリーに対して異常な好奇心と執着を抱いており、アノマリー関連の稀有な症例や傷病を負った人に対し、「サービス」などと称してタダで治療する代わりに、勝手に不気味な実験の被検体にすることがあるとのことで、あまり信用はするなと忠告された。
このゼロ・シーベルトと呼ばれる拠点は、そういった複数組織の協力体制と、各々に活躍の場が設けられた環境、そして各分野のスペシャリストが集まっているため、他の拠点と比べると圧倒的に充実していて平和である。
…が、しかし。それでも万全とは言い難い。
それぞれの派閥・組織に、無視できない問題を抱えている状態であり、この拠点もいつか破綻して空中分裂などしてしまうかもしれない。そんな状況にあるようだ。
バーマンは、この拠点が現状抱えている具体的な問題について、幾つか教えてくれた。
例えば、ハンター派閥として扱われているバーマンは、その目利きと器用さによってゴミクズのような食料品でも一応ちゃんと食べられる食品を作り上げることが出来るのだが、「食材そのもの」を用意することができない。
バーマンだって、元はハンターであり、バーマン自身が物資を集めに出かけられればある程度の問題の解決を図れなくはないが…それは本当に最後の手段だとも語る。
この拠点は、バーマンが顔役として在り、必要に応じて仲立ちや口利きなどするから平和が保たれているという状況であり、規律に厳しい緑軍・バーマンが居なければ統率など不可能なハンターやスカベンジャーたち・好奇心が勝ち過ぎて暴走することがある科学者チーム…と、バーマンが不在になってしまったときに何が起こるかわかったものではない連中が集まり、そして巨大になりすぎた。
加えて言うなら、緑軍は独自に食料調達ルートを持っているが、ソレをハンターや科学者チームに分け与えることは絶対にない。
食糧難が限界に達した時、食料を持つもの・求めるもので争いになる懸念があることからも、バーマン…ひいてはハンター派閥としては、早急な食料供給ラインの強化を望んでいる。
緑軍にも、詳しくはまだ語ることが出来ないと前置きしつつ、重大な問題があると言う。
そもそも緑軍とは、核汚染によって荒廃した地域に残された人たちを救助や支援する目的で派遣された、正式な国軍の1つになる。
…ただし、それは表向きの目的であり、実際には世界が核汚染で荒廃してしまった原因の調査や、なにか特別な物か施設を探しているというのが実情だった。
そうでなければ、彼らがいつまでもこのベースキャンプを拠点とし続けている理由としておかしいのだ。
現に、盗賊たちや野良のハンターたちは、明らかに救助を拒否するどころか、緑軍と遭遇しただけで即時発泡するくらいに完全に敵対しており、救助する理由がない。
彼らが本当に救助そのものを目的にしているという場合、これ以上ここにいる理由がほとんどない状況で、むしろスカベンジャーなどの無力な人々を連れて国が管理するより安全な場所へと拠点を移すべきなのだ。
ゼロ・シーベルトに所属するハンターとしては、瀕死の重傷を負ったときに運が良ければ助けに・回収しに来てくれたり、表にある装甲列車に乗せて移動させてもらえているので助かってはいるが…ずっときな臭い雰囲気を醸し続けている。
そんな彼らの抱える問題とは、ざっくり言えば「緑軍に敵対している奴らが邪魔」なのだ。
評判が上がれば緑軍から依頼が降りてくる事があるはずだが、その内容の多くは「あそこに行って、ダレソレを殺してきてくれ」という物騒なものになる。
緑軍は、腕の立つハンターを求めている。…自分たちの目的のために役立つ、優秀な捨て駒を。
科学者チームは、良くも悪くも隠し事がなく、求めているものはシンプルだ。
アノマリー関連の検体。
もしくは、そのための調査そのものを求めている。
彼らの求めるものは狂気的で、極めて危険だ。
例えば、「放射能レベルが非常に高いポイントにまで足を踏み入れ、調査用の機器を設置してきてほしい」だとか、「その、設置した機器を回収してきてほしい」だとか、「生物型アノマリーの一部、または全身を持ち帰ってきてほしい」だとか、とにかく誰もが顔をしかめるほどに難易度が高いし気味の悪い依頼ばかりを放り投げてくる。
しかし、その見返りが高度な医療技術なので、ハンターも緑軍もあまり無視はできない。もちろん、バーマンとしても。
誰もやりたがらないが、誰かがやらなければならない。
そんな依頼をこなせる、優秀でやる気のあるハンターを、ハンターたちも緑軍の連中も、とても強く求めている。
「…ソイツが誰かって? そりゃあ、もちろん。アダム、君のことだ」
バーマンは少し申し訳なさそうな表情と声音で、しかしハッキリとした口調でそう言った。
要するに、アダムはこの拠点の問題を解決する、何でも屋のような扱いで呼ばれたのである。
食料問題。外敵の駆除。科学者たちのお手伝い。
…それらをすべてこなせる可能性がある、そんな人物を探し当て、招待した。
それこそが、アダムがここにやってきた「事の経緯」というものであり、理由であった。
大きな区画が与えられたのは、その見返り…というわけではなく、問題解決に必要な施設を自分で開発していけというだけのことである。
もちろん、それらの問題解決のためにも、バーマンは「出来る範囲での協力は行う」とも言う。
…これまでの説明を聞いたところだと、バーマンは拠点の外に出られない状況だし、協力すると言われてもどことなく空手形感が否めないが…。
しかしまあ、ゲーム知識を引っ張り出したり、この肉体の記憶?のようなものを掘り下げても、ここ以上に安全と思える拠点があるわけでもなく、この拠点で生活するならそれらの問題を解決しなければならなくなる。
むしろ、この広い…今はまだ何もない区画を、ある程度自分好みに開発していけるのだと思えば、ありがたいとすら思うべきか。
そう思い直した俺は、それらの問題の解決に可能な限り尽力すると答え、与えられた区画は遠慮なく色々と使わせてもらうことにした。
*
バーマンと共にバーに戻れば、そんなに長く離れたわけではないはずなのだが、灰皿に吸い殻の山を築き上げていたヴィクトルが待ってくれていた。
「おお、戻ったみてえだな。 ちょっと前に、バーマンはどこだ?って聞いてくる奴が来たぜ。アンタに買取を頼みたかったそうだが、ちょっと用事で離れてるって教えたら、また後で顔を出すってよ」
「おお、そうかい。 仲間が生きて帰ってきてくれただけでも嬉しい話だが、こっちに売れる分まで回収してきたとは、なかなか豪勢な話でいいな!」
ヴィクトルの伝言に、バーマンはニッカリと笑みを浮かべて喜んだ。
「おう。それで、内緒話は済んだってことでいいのか?」
「内緒話ってわけじゃあないんだがね」
そう言うバーマンだったが、しかし俺に対しては小声で「本当に、内緒話ってわけじゃあないんだが…状況が良くなるまでは、あんまり問題のことについては言いふらさないでくれ。…混乱の元になるだろうからな」と耳打ちし、それからすぐにバーカウンターの方に移動していった。
「さて、さて。それじゃあ、やっと、俺とアダムの取り分の話に移れるってもんだ!」
ヴィクトルはそう言いながら、背負っていたバックパックをカウンターに下ろし、ここに来るまでに集めてきた戦利品の数々を取り出していく。
…そうだった、少しゴタゴタしていてド忘れしていたが、集めた戦利品をまだ分け合っていなかった。
ヴィクトルに続くカタチで、俺もバックパックを下ろし、中身をカウンターテーブルの上に並べ置いていく。
その物資の数々に驚いた様子のバーマンが、思わずといった様子で「す、すごい量だな…」とつぶやく。
バーに屯していたハンターの数人がその様子を遠巻きに見ていたようで、「ヒュー!やるねぇ!」「ウチらにもちょっと分けてくれよ!」と野次が飛ぶ。
バーマンは、俺達2人に向かって小声で「分けてやるかはあんたらの判断だが、気をつけろよ?カモだと思われたら次また次へと君たち2人のところに他のハンターもやって来るだろうからな」という、実にゲンナリするアドバイスをくれた。
「それにしてもこんなにたくさん…いったいどこから集めてきたんだ?」
そう聞かれて、どこかと言われてみると…はて、アレは具体的にどこなのか、俺には答えられるだけの地理感が無かった。
あえて言うなら、緑軍の列車に乗れるターミナルがあるから、彼らなら知っているかもとだけ、俺からは答えておく。
ヴィクトルはそれに補足するように、「まあ、場所というより、これが手に入るだけの状況だった。って言うべきだろうがな」と語りだす。
「ここに来るまでに盗賊団に襲われたって言ったろ? きっちり報復して、皆殺しにしてやった。つまり、これらはその時の戦利品だ」
…言われてみれば、確かに。
いや、隠しスタッシュ漁りを道中でしまくったから、殺して奪い取った戦利品ばかりというわけでもないんだが…まあ、そこまで言う必要もないだろうし、説明としてはそれで十分か。
それを聞いたバーマンは、少し残念そうしながら「そうか…良い稼ぎ場があったら、俺としてはハンター同士で共有しあうのもオススメしておくぞ。 そのせいで取り分が減ると思うやつも居るが、誰も知らない狩場には誰も助けに行けないからな、生きて帰れなきゃ稼ぎ場の意味がないってなもんだ」と言い、今後そういう場所があったらぜひ教えてくれと頼み込んでくる。
まあ、ここに来たばかりの俺とヴィクトルがそんな場所を知っているはずもなく、ヴィクトルは「そんな場所、こっちが教えてほしいくらいだよ」と、煙を吐きながらツッコミを入れていた。
「ついでに、君らの戦利品の目利きと値付けもしてあげようか?」
バーマンはそう言って、この拠点での買取の仕組みについて軽く説明してくれた。
物には「基本価値」と「買取相場」がある。
「基本価値」は、文字が読めるなら紙に印刷されたリストがあり、この拠点内で「物品の販売をしている窓口」を担っている場所なら、どこでも確認させてもらえる。ただし、持ち出し・流出は厳禁だ。
物の売値は、この基本価値を元にして決められており、買値のベースもこれで決まる。
ただし、買値に関しては「買取相場」が反映されるので、この限りではないとも言う。
「買取相場」は、その時の需要によって買取の値段が上がったり下がったりするということだ。
基本は毎日更新で、価格の上がり幅と下がり幅は、一律で30%。…結構大きいな。
その日に何が足りない・何が大量に欲しいなどの需要に応じて、買取価格が上がることがある。
買取価格が下がるというのは、「その日、または前日に、その物品について大量に買い取りを行う・行った場合」に発生し、例えば買取価格が高い日でも、その物品をその日のうちに50個買い取ったら、それ移行は基本価値のマイナス30%での買取にする。…と、なったりするそうだ。
つまり、物品の売却で利益を稼ぐというのは早いものがちなところがあり、ハンターたちはよほど金が必要にならない限り「売り控え・物品を換金せずに抱えたままでいる」ということが結構あるのだそうな。
ただし、物品の状態によっては「劣化品」とみなされ、買取相場とは別に大幅な値下げが行われたりする。
抱えっぱなしでは売り時を逃して損をすることがあるから、基本的には売り控えなんてせずに、いらないものは多少安値になろうともすぐに手放したほうが良いとのことだった。
ふむ…。買取相場というのは、ゲームでは聞かなかった言葉・仕様だ。
ゲームでは、どんなときでも、買値も売値も一律で変化がない。
あと、アイテムの劣化について指摘があったが、ゲームでは「時間の経過でアイテムが劣化する」ということはなかった。
…いや、現実なら当然、特に食品関連は時間の経過でわかりやすく劣化するはずだし、劣化したら値段が下がるというのも納得ではあるのだが。
これも、ゲームの世界がリアルになった影響というやつなのだろう。
先ほどバーマンが説明してくれた「基本価値」だったり、プレイヤーに対し謎にデカい専用区画が与えられるというのは、ゲームの仕様そのままだった。
しかし、ゲームの仕様そのままではおかしい部分…説明不足だったり、リアルで考えたらありえない仕様などは、現実に即した理屈やルールが当てられている…という感じなのかもな。
バーマンが提示してくれた基本価値と、この日の買取相場、そしてバーマンの目利きによる低品質品の値下げなどを諸々込みで見積もったところ、総額にして43980ルーブルと計算された。
俺のゲーム知識による買取価格と、バーマンが提示してくれた基本価値には恐らく相違がなく、品質についても…特に武器や防具の損耗率に応じた値下げも違和感のないもので、俺もヴィクトルもその値段に納得した。
ただし、俺とヴィクトルは、すべての物品を売ることはしない。
お互いに手元に残しておきたいものを選び・取り置いてから、残りを換金して取り置いたものと含めて価値がおなじになるように分け合ったのである。
並べられた品物の中から、俺は特に優先して、電気部品や工具をいただいた。
与えられた区画の開発を進めるために必要で、こういった物は今後も積極的に集めていかなければならない。
対してヴィクトルは、酒と保存食と綺麗な水を幾つか確保し、残りは金にして持っておくことにしたようだ。
意外だな…と思ったこととして、ヴィクトルはせっかく俺から買い集めた「生肉」の山すら差し出し、売ってしまうことにしたようだ。
それをヴィクトルに売った時は「いつでも食料品が手に入るわけではない」と忠告してくれたはずなのに、どういう心変わりなのだろうか。
…と思ったが、「バーマンからの心象が良くなれば、もっと多くのタバコを売ってくれるようになるかもだろ?」と、その思惑を教えてくれた。相変わらずのタバコ狂いである。
それを聞いたバーマンも、「そういうことなら、期待してくれて良い」と返し、そんな返事をもらえたヴィクトルはホクホク顔で新しい赤箱を開け始めた。
それは「バーマンの独断でヴィクトルにタバコを用意してあげよう」…という話ではない。
今後も、もっと多くの物資を回収して、それを率先して流通させてくれるなら、そうしてくれたハンターを評価するのは自然なことであり、そのうち「タバコを用意してやればよく働くやつ」と思われるだろうという、そんな話なのである。
ゲームの仕様として、物の売り買いをすると評価が微妙に上がる仕様は確かに存在していたと思うが、それがこのようなカタチで反映されているということなのだろう。
俺とヴィクトルで戦利品を分け合っている最中に、徐々にバーの中が騒がしくなり始めていた。
チラリと振り返って見てみると、先程まで居なかったと思われる人々が増えており、俺達のやり取りを遠巻きに観察している。
その様子を気にしていた俺に向かって、バーマンは「もう、君たちがたくさんの食料品を持ち帰ってきたことが噂になっているんだろう」と言う。
いやいや、確かに鑑定と見積りに少し時間がかかったが、そうは言っても戦利品を取り出して見せてから30分も経っていないのに、もうこんなに集まるほど噂になってるのか?
「すまないが、俺は少し忙しくなる。 君らの寝床については、バーを出て左に真っすぐ行き、その後に右に曲がると、他のハンターたちと相部屋になるがベッドが使えるから、空いてる場所を適当に使うと良い。…スリには気をつけろよ」
バーマンはそう言って、俺達から買い取った食料品の下ごしらえやら保管やらを手早く進めていく。
バーマンが俺達に構うのをやめたところ見計らったように、他のハンターたちが早速「よう、バーマン!注文良いかい!」という声が飛び出し、その言葉に続くように次から次へと注文が殺到した。
*
俺は、騒がしくなり始めたバーを出て、俺に与えられた区画へと足を運ぶ。
ヴィクトルは、しばらくバーで過ごし、顔わせやら情報収集やらをするつもりのようだ。
…俺も同じようなことをするべきかと思ったが、ぶっちゃけ、俺はコミュ障気味なので、ああいう騒がしさは得意じゃない。
今後はコミュニケーションも頑張らないと行けないだろうな…と内心でつぶやきつつ、今回は逃げさせてもらうことにする。いきなり大人数に囲まれるのは、俺の精神に悪い。
…さて、1人きりになったところで、デバイスを取り出し、ポチポチと操作を行い、色々確かめていく。
最初にヴィクトルに端末の操作方法を教えてもらったときも、バーマンに何かの登録のために渡してから返してもらった後も、ずっと気になっていたことがあったのだ。
それまでは、とりあえずその時の状況や会話に併せて動いていたため、確認する余裕がなかったが…1人になった今ならちょうどいい。
気になっていたこととは、デバイスのメニュー画面そのものであり、一部は俺の知らない機能・メニューが表示されているが…基本的には、ゲームの仕様とほぼ同じ画面がそこにあった。
つまり、「ステータス」やら「ハンタースキル」やら「銃器スキル」やら…これが現実だと考えたときに、妙に現実感が損なわれる項目が並んでいたのだ。
俺が、どうしてもこの世界を「ゲームの世界」と認識してしまう要因の1つがこれであり、実際のところどんなメニューなのかを確かめたくて、ずっとウズウズしていた。
「ステータス」は、これまで何人を殺したとか、どこを何回探索したかなど、ゲーム中でプレイヤーが何をしたのかを正確にカウントした数値が並んでいる…はずであった。
…このデバイスでその画面を開くと、ゲームの時とは若干異なり、俺自身のプロフィールが表示される形となった。
通信用の周波数やアドレスなどもこの画面で確認でき、誰かと協力するときにはここに表示されている情報を共有し合うのだろうと思えた。
「ハンタースキル」は、…これは完全に、ゲームの時の仕様そのままと思える画面が表示されていた。
経験値バーと、ハンターレベルが表示され、習得中のスキルと選択可能なスキルスロット…が、現在はどちらもないので、バーとレベル以外は真っ暗な画面となっている。
この状態では、本当にスキル習得ができるのか、そして何が習得できるのかが、何も確認できない。
これが本当にゲームの仕様通り・そのままだというのなら、恐らくレベルが上がればスキル選択が可能になるのだろうが…それは、本当に俺自身の能力として反映されるのだろうか?
「銃器スキル」は、先程のハンタースキルと同じく、ゲームの時の仕様と全く同じ画面が表示された。
こちらは、これまで扱ってきた武器のスキルレベルが確認できる状態となっており、ピストルとショットガン以外はすべてレベル0。
そして、ピストルはレベル2、ショットガンはレベル1に上昇している状態となっている。
銃器スキルのスキルレベルが上昇すると、命中率やリロード速度などのステータス上昇補正がかかる他、一定レベルまで到達するとハンタースキルと似たような固有のスキルを習得できる。…はずである。
銃器スキルの習得可能スキルは、ハンタースキルと違って最初から「どの銃器レベルをどこまで上げると、どんなスキルを習得できるのか」が確認可能となっている。
確認してみると、これもゲームの時と同じ。
相手の視界の範囲外から狙い撃つとダメージが上昇するとか、リロードして1発目だとダメージが上昇するとか…。
今はまだ習得できないが、この操作感や表示された情報を察するに、スキルレベルが上がれば本当にスキルが習得できるんじゃないだろうか…?
それ以外のメニューを見てみると、「拠点施設」「評価」「依頼」「地図」…など、地図については既に確認済みだったが、やはりゲームの仕様とそっくりなメニューが並ぶ。
…逆に、俺の記憶にはない、全く見慣れないメニューも存在する。
「ミュータントスキル」「雇用」「好感度」「MOD」というもので、どれも項目名だけではあまりよくわからないと言うか、あんまり理解したくない名前のメニューがあるというか…。
俺は、少し訝しみながら、恐る恐るといった様子で、「ミュータントスキル」のメニューを選択してみる。
表示された画面には、ハンタースキルと似たような経験値バーとレベル表記。…現在は、ミュータントレベルというものがレベル0という表示になっている。嫌な名前のレベルだな…。
ハンタースキルと似たようなUIらしく、恐らくレベルが上ったら何かしらのスキルを選択できるようになるのではないかと思うが…どうやってこのスキルの経験値を上げるのか、そしてどんなスキルが習得できるのか、全くわからない。
次に「雇用」のメニューを選択してみると、複数の空の枠が画面に表示された。
ざっと見たところ、傭兵枠が2つ。拠点用の枠が1つ。
…雇用という表示名通りなら、おそらくここに「今誰を雇っているのか」が表示されることになるのだと思うが、拠点用の雇用可能枠が1つだけって、少なすぎないか?
…よく見れば、拠点用の雇用枠の左上に、小さい文字で「スタッシュ:Ⅰ」と表示されている。
もしかして、拠点の施設の数だけ、雇用枠が増える仕様なのだろうか?
ソレにしたって、スタッシュ用に1人を雇うってどういうことだ?荷物整理でもしてくれるってことなのだろうか…。
「好感度」の項目には、俺が連絡先を取得している人からの、個人的な評価のようなものが表示されるようだ。
各組織からの評価は「評価」のメニューで確認できるが、こちらはその個人版ということだろう。
現在確認可能なのはヴィクトルのみなので、恐らくそうなんじゃないかという予測でしか無いが。
ヴィクトルとの好感度は、マイナス500からプラス1000までの数値で表示されたメーターに、85と表示されている状態だ。
初期状態が0だとして、85は低いと思うべきか…それとも、1度同行しただけでそれだけ上がっているということは、かなり上がりやすいと思うべきなのだろうか?
13回も同行してもらったら、この数値がほぼマックスに到達するという計算になる。…まあ、それが何だという話なのだが。
「評価」の項目の場合、各組織からの評判が上がることで解放されるストーリークエストの追加や、購入可能商品の追加などのメリットが発生する。
ソレと同じか近い仕様ということなら…個人同士の取引で優位に働く、とか?
最後に「MOD」だが…まさかとは思うが、ゼロ・シーベルトのゲームとしてのMODってことか?
ゼロ・シーベルトというゲームは、開発者がMOD導入の方法どころか、その作成方法まで公開しているという驚きの自由度を誇っており、例えば「デフォルトではなぜかショットガンと同等かそれ以下の射程距離しか持たないサブマシンガンの射程を(無難なところでピストルと同じくらいに)伸ばす」という設定の追加や変更を自由に行える。
…が、適用されているMODの状況などは、デバイスメニューではなく、ゲームそのもののシステムメニューを開く必要があったはずだ。
ゲームそのもののシステム画面というのは、さすがの俺も今の状況でどうやって確認すれば良いのかわからず…というか、そもそも出来るかどうかも不明だし…その急在措置のために、MODの確認画面だけデバイスのメニューに追加されている。ってことなのだろうか?
ともかく、実際にどんな画面が表示されるか見ること無く考え続けても仕方がないので、メニューから「MOD」を選択してみることにする。
……なんじゃ、こりゃ?
表示された画面には、ただひたすら、単語のような名称のような文字列が、リスト形式でずらりと並んでいるだけになっている。
このメニュー自体の名目が「MOD」であり、そこにリスト形式で文字が並んでいるということは、これは適用されているMODリストということになるのかもしれない。
しかし、そのリストに並ぶ名称それぞれがどんなものなのかという詳細は、一切記載されていない。
…詳細はわからないが、その中身・機能はうっすらとだが想像できるかもしれない。そんな名称が、それぞれに与えられている。
傭兵MOD。ミュータントヒューマンMOD。拠点拡張MOD。売春MOD。変態MOD。……。
…想像できるかもしれないというだけで、その中身はあんまり想像したくないものばかり。
便利系というか、QOL系のMODがいくつかありそうでありがたいが、完全にエロ目的のMODだったり、どういう機能なのか全く想像できないMODもある。「ミュータントヒューマン」ってなんだ?
というかこれ、最初から最後まで、リストに並ぶ名前に、1つも心当たりがない。
俺が作ったものでも、誰かが作ったものを俺のPCのゼロ・シーベルトにインストールしたものでもない、見たことも聞いたこともないものばかりになっている。
逆に、俺の記憶にあるMODがが1つも適用されていない様子まである。
デフォルトの状態だとサブマシンガンがあまりにもゴミ性能すぎるのだが、まさかそれがリアルで再現されるってことなのか…。
…俺はてっきり、自分が遊んでいたゲームだったから、その世界に転生することが出来たとか、そんな都合の良さそうな話なのかと思っていた。
しかし、部分的にはそうなのかもしれないが、その実態は俺の想像と大きく異なり、何やら俺の知らないMODが適用された世界になっているようである。
一応、このデバイスからMODのオンオフができないかを試してみる…が、ダメ。
この、どう考えても嫌な予感しかしない「ミュータントヒューマンMOD」というやつだけでもオフにしておきたいんだが…ダメかなぁ…。
*
▼プロフィール_04:ケイネス(ネットワーカー)
・カテゴリー:人間(英国人)
・所属:無所属/中立(ゼロ・シーベルトの顔役)
・性別:男
・年齢:32
・身長/体重:164cm/49kg
・一人称/二人称:私/君
・備考:「ゼロ・シーベルト」という拠点の礎・基礎を作り上げた立役者。最古参メンバーの1人。
ゼロ・シーベルト内のバーの個室に居座り、フィクサー(黒幕)を気取ったり、外交官やブローカーでもあると名乗る、ちょっと横柄な感じがあって早口で口数が多い、痩せぎすな男。
バーマンとは長年の付き合いがあり、世界が崩壊・荒廃するより以前からの知り合いで、バーマンにとっては「顔なじみの子供か、年の離れた弟」という感覚。
同時に、ケイネスにとってのバーマンとは、良き兄貴分であり、早くに両親を無くした(祖父母に養育してもらった)ケイネスにとっての親代わりのような存在でもあった。
元はただの通信技師・電気技師だったが、世界が崩壊・荒廃したときに、運良くバーマンに着いていくことができ、ゼロ・シーベルトという拠点を得るまでの間もなんとか生存し続けることができ、紆余曲折を経て現在の立場・地位を得ることになった。
いわゆる「妙な工作技術や知識を持つオタク」というキャラで、フィクサーと自称するのは遅れてやってきた中二病のようなものなのだが…しかし、外交官やブローカーであるというのは事実であり、ケイネスが「ネットワーカー」というコードネーム(偽名)を用いて各組織や特定個人からの依頼の窓口として機能している。
▼主な能力
1,電気技師・ネットワーク技術者:ジャンクパーツから使える部品だけを回収し・集めて、きちんと動く完成品を作り上げることが出来るといった、かなり上等な技術者としての知識と腕を持つ。ただし、あくまでそういった物を作れるというだけであり、作ったものの正しい使い道まではよくわからない…ということがそこそこある。例えば、農耕用の農薬散布機や、タイマー付きの水やり機などを作ってはみたが、それらをうまく活用できず農業による自給自足に失敗したという過去がある。
2,外交能力:バーマンを見倣い・仕込まれて、バーマンに劣らないほどの交渉能力がある。…が、そもそもコミュ障寄りの気質だったことが災いし、バーマンのように不特定多数と顔を合わせてTPOに応じた会話をつなげるということは得意にはなれなかった。文面でのやり取りなら、喋る必要がなく落ち着いて校正してから送信が行えるため、依頼の受付・窓口としてその能力を存分に発揮している。
3,語学力:これもバーマン仕込みで、ケイネスもマルチリンガルとなっている。ただし、聞き取りと読み書きには強いが、発語は得意ではなく、結局会話が必要な場面ではバーマンに任せきりになっていた。