俺の知らないMODが適用された『ZERO Sievert』の世界に転生したようだ。 作:シコルスキー・ジョボジョボヴィッチ
一文字ずつ丁寧にチェックするということが苦手なので、滅茶苦茶助かります…。ラブ・ユー…。
*
バーマンに与えられた個室はさほど広くはなく、宿舎エリアの各部屋と同じくらいの広さに、円形テーブルと4脚の椅子が並べられているだけだった。
ベッドやクッションのようなものはないが、それについてはシャオシュンから事前に聞いていたため、バックパックや適当なボロキレを布団代わりに使う。
個室はほんのりと空調が効いており、息苦しさや暑さ・寒さはあまり感じない。
扉もあるので、これならそんなに立派な寝床じゃなくても、確かに寝るには十分だろうと思えた。
寝るための準備を整えている最中、扉がノックされ、その向こうから小さくバーマンの声が聞こえる。
シャオシュンは慣れた様子でわずかに扉を開け・応対し、バーマンからの差し入れの軽食…茹で肉が少しに、2粒のオリーブが添えられ、小指の先ほどの少量の塩・胡椒が盛られている。
受け取ったシャオシュンは「なんだ、思ったより豪勢な軽食だね」なんて軽口を叩き、バーマンは「出しきれなかった生肉を保存食にする途中だったのさ、運が良かったな」なんて言い返す。
扉を締め直し、小綺麗に盛られた皿をテーブルに置いたシャオシュンは、俺に向かって「アタシはちょっとでいいよ」なんて言いながら、ただでさえ少ない肉からほんのちょっとだけ指でつまみ取り、一口で食べ終えてしまった。
あいかわらず、ほとんど弱気を見せない口調のままではあるが、明らかに遠慮しているとわかる。
何を遠慮しているのかはまだハッキリとはわからないが…いや、他のハンターからの酷い言われようから察するに、その理由に薄々だが勘付いてはいるが…ともかく、俺はこういう時、理由もなく遠慮される方がモヤモヤとするたちであった。
俺はシャオシュンに向かって、「これだけしか無いんだ、半々で食おうぜ」と言って、先程シャオシュンが食べたのと同じくらいの量をつまみ、食べてみる。
…なんだ、バーマンの料理の腕を疑っていたわけじゃないが、やっぱり味が悪くて遠慮しているわけでもなさそうだな。
シャオシュンは、「そういうことなら、遠慮なくもらうよ」と言い、きっちり半分だけをパクパクと口へ放り込み、美味しそうな様子で咀嚼した。
…こうしてみると、やはり子供にしか見えない。
本当に20歳なのか?と疑いたくなるが…軽く咀嚼するだけでもユサユサと主張する胸部を見ると、ただの子供でもないという納得もある。
シャオシュンのことをマジマジと観察していたら、シャオシュンは「おっ?せっかくの個室だし、やっぱり買うかい♡」と言いながら衣服代わりのボロキレをペロンとめくり上げ、小ぶりなマンコとちょっと痩せすぎて若干骨が浮いた鼠径部にヘソ回り、そして今回はボヨンボヨンの下乳まで見せびらかしてくる。うおっ…乳輪デッカ…エッロ…。
俺は、口に含んでいた茹で肉を飲み込む意味でも、1度だけゴクリと喉を慣らし…もう、ゴールしちゃってもいいかな…いや、でもあの殺人マンコの件があるしな…と少しだけ葛藤してから、「いや、今日はゆっくり休んで、明日に備えよう」と返答した。
やっぱ怖いよ、あの殺人マンコが居る環境は。
シャオシュンは、「ちぇ。そんなんだから童貞なんだよ…」と悪態を吐き、寝床の準備に戻った。
どどっどどど、童貞ちゃうわ!!
*
一夜明け。
俺が上体を起こす動きで目が覚めたのか、シャオシュンもほとんど同時に身体を起こす。
…というか、寝ている間にシャオシュンが俺の身体に密着していたようで、俺が動いたらシャオシュンの身体を意図せず揺さぶる形になったようだった。
シャオシュンが密着していた部分が、じんわり暖かい。
まあ、立って・椅子に座って過ごすだけなら気にならなかったが、床に寝そべったら以外と寒かったから、暖を取るためにくっついてたんだろうな。と、そんな事を考える。
もしくは、シャオシュンの寝相が凄まじく悪かったのだろう。
今も、身にまとうボロ切れが完全にめくれ上がっており、魚肉ソーセージみたいな太さのプリプリとしたデカ乳首がコンニチワをしてくれている。うおっ…朝ボキキキキッ!!
…やはり、1発だけ買うか?
そんな悩みを朝から抱えつつ、しかし冷静に出発の準備を急いで整える。
数値面に関してはゲームの仕様通りなら、目覚めた瞬間から疲労度の蓄積はガンガン進んでいく。探索後ならまだしも、探索直前の時間は一切無駄にできない。
そんな俺の考えについては、シャオシュンも同様の認識を持っている様子で、俺の勃起チンポの膨らみを見ても、今は流石に「買うか?」なんて聞いてこない。
むしろ、少し緊張した面持ちで、シャオシュンが持つなけなしのアーマーやバックパックの状態を丁寧に確認し、手早く装備を進めている。
準備が整い、個室を出て、バーカウンターの向こうに居てくれたバーマンに鍵を返す。
「良い顔じゃないか、シャオシュン。 君には不要なセリフだろうけど、それでもさ、生きて帰ってこいよ」
「アタシの心配より、こっち(アダム)を心配してやったらどうだい? 死にに行くかもしれねえのに、結局一晩明けても女の1つも買ってくれねえよ…」
「そりゃあ、俺からは何も言えねえことだろうがよ」
「にゃはは、そうだったね!」
「…ったく、その笑い声も懐かしいなぁ…」
「おっと、今はアンタの感傷につきあわされてる暇はないよ。…じゃ、行ってくるわ」
「ああ。 アダムも、シャオシュンは見かけよりも頼りになるはずだから、困った時はシャオシュンに任せてみることも考えておくと良い。 二人とも、行ってらっしゃい」
…そんなやり取りを挟んで、俺とシャオシュンはベースキャンプのゲートを抜け…ゲームの時と違って、いつでも自由に乗れるわけではなかった・発車寸前だった装甲列車に急いで飛び乗り、「森林エリア」へと向かっていった。
*
+++++ [LOADING…] +++++
装甲列車の中で。
既に何度も事前の立ち回りについて相談していたが、移動中の時間つぶしも兼ねておさらいしておく。
まずは、俺達の現在の装備について。
可能な限り、互いに情報を共有しあった。
▼アダム
・武器1:ETS(APS/スチェッキン・マシンピストル)、9x18mm弾
・武器2:なし
・アーマー:防弾チョッキ(クラス1)
・ブーツ:アウトドアシューズ(クラス1/疲労度減少量低下+10%、エルゴノミクス+5%)
・ヘッドギア:なし
・バックパック:ZXOP-500 BACKPACK(所持重量+15kg、移動速度+12%、エルゴノミクス+20%)
・主な所持品:大量のピストル弾、最低限の食料と医療品
・備考:ブーツは初期装備、アーマーは最初にヴィクトルから貰ったもの、バックパックは盗賊から剥ぎ取った戦利品の1つ。所持重量をかなり圧迫されるため、前回入手したショットガンはお留守番。幸運なことに(もしくは、チュートリアルのはずなのに最初から殺意が高すぎだったと言うべきだが…)、盗賊から剥ぎ取って手に入れたETSには、最初から「ストック+マズル+サイト」のほぼフルカスタムが行われていて、命中精度やリロードの安定性などが極めて高く、ゲームの仕様通りなら中盤辺りまで使い倒せるそこそこの強武器となっている。使用する弾も激安なので、バーマンからその日に買える分だけの弾薬を買い、持ち込んでいる。
▼シャオシュン
・武器1:なし
・武器2:なし
・アーマー:厚布のアーマー(クラス0)
・ブーツ:プロ・ランニングシューズ(クラス4/移動速度+25%、スタミナ消費量低下+25%)
・ヘッドギア:ボロ布のフード(クラス0/装備者に対するエネミーの索敵範囲が微量減少・見つかりにくくなる)
・バックパック:RTU BACKPACK(所持重量+10kg、移動速度+10%、エルゴノミクス+10%)
・主な所持品:スッカラカン。
・備考:どれだけ貯金を崩し続けても、最後まで手放さなかったなけなしの装備品。その中で、実はブーツだけはかなり性能が良く、ほぼ最高クラスのレアアイテム。厚布のアーマーは、普段着として着用していなかったようだが、売春するときに邪魔になる(汚れたり、破れたりするかもしれない)ので脱いでいるだけ。当然ながら武器は持たず、可能な限り大量に持ち帰れるように装備品以外は何も持っていない。
…シャオシュンは、装備品以外に何も持ってきていない。
このゲーム(ゼロ・シーベルト)で、回復薬がゼロのまま外に出るって、正気か…?
シャオシュンが怪我をした時はどうするつもりなのかと尋ねてみたら、「死なない限りは放置する」ということらしい。
それは…流石に俺がハラハラして落ち着かなくなるので、「俺が必要だと判断したら、俺の手持ちの回復薬を使うぞ」とは伝えておいた。
シャオシュンは「ほんと、お人好しがすぎる男だねぇ、アンタは」と、結構しっかりめに呆れていた。
いや、いや…。
これはもう、ゲームじゃないんだから、死んだらどうするんだよって話だろうに…。
ちなみに、当たり前のように装備の1つとして並べられていた「ブーツ」というものについては、原作には存在しない装備カテゴリーだ。
明らかに何かのMODの影響で増えた装備枠と装備のはずだが…どのMODがそれに当たるのかは、よくわからない。
確か、「モールエリア」に靴屋があったはず(ただし、原作にはブーツというアイテムがないため、ただの背景・ビジュアルだけの要素でしかなかった)だし、そういうところでレアなブーツ装備が入手できたりするのだろうか?
また、「ヘッドギア」については、ヘッドライト系や暗視スコープなどの装備が行えるスロットのはずだったが、シャオシュンは「見つかりにくくなる効果のあるフード」を装備しており、装備の種類そのものが増えているということがわかる。
さらに調べてみると、すべての装備品には銃器のカスタマイズと同じような「改造パーツ」が装備できる場合があるらしく、これも原作には存在しない仕様だ。
例えば、シャオシュンのアーマーには「追加ポケット」が装備され(縫い付けられ)ていて、調べてみたら所持重量がちょっとだけ増える効果があるらしい。
確実に、なにかのMODが影響しているのだろうと思われるが…今はそのMODの正体がわからない・思い浮かばない。
武器やアーマーの種類が増えるというだけなら、既存のMODで思い当たるものがないわけじゃないんだが…「装備枠そのものが増える」とか、「武器以外に改造スロットが追加される」というのは、少なくとも俺は知らない・導入したことがない。
俺が知らないだけで、存在していたという可能性は無くはないだろうが…今となっては、どんなMODが存在していたかなんて調べようがないことだ。
帰ったら、この場で得た情報を踏まえて、どれがそのMODに当たるのかとか、MOD名からどんな仕様が追加されているのかを予測・考察するとか、そういうのをしてみたいところだ。
少しでも気づきや知識があれば…全く知らないより少しでも知っているという状態になりさえすれば、それを元に誰か知っている人に尋ねて詳しく調べることも出来るようになるだろうからな。
…そういう意味では、ずっとモヤモヤと気になっている「ミュータントヒューマンMOD」についても…うぅん、そりゃあ、誰かに聞くべきなんだろうけど…。
なんかちょっと知りたくないというか、ゲームの世界が現実になっちゃったこともあって、その話を聞くのが怖いというか…。
ぶっちゃけ、バイオ系のホラーってそんなに得意じゃないんだよな…ゼロ・シーベルトは、ドット絵だから許容できてただけだし…。
いいや、うだうだ悩んでいても仕方ない。
もう覚悟して、帰ったら科学者チームとやらに聞いてみることにしよう。
さて、まだまだ時間があるので…続けて、雇用契約の内容の再確認である。
雇用契約を結ぶにあたり、シャオシュンの働き方は次のようなものになると決まった。
1,素材集め(ゴミ拾い)
2,荷物持ち
3,緊急時の脱出補助
戦闘行動は契約内容に含まれていないので、敵が現れたらシャオシュンはひたすら逃げる・避難する。
武器を渡されても、手に持たない・装備しないし、撃てと頼まれても撃たない。有事には、生存を最優先に動く。
「素材集め」については、周囲の安全が確保できるような状況になったら、「何もないように見える地面や草木からも拾い集める、シャオシュン独自のコツ」を教えてもらえることにもなっている。
その代わり、獣の死骸を解体するチャンスが発生したら、俺からシャオシュンに解体技術を手ほどきし、教える。
技術的価値は俺から教えるもののほうが圧倒的に高いということで、シャオシュンが技術をきちんと習得できたら、お礼となる報酬も用意するというカタチで、話が纏まっている。
「荷物持ち」については、スカベンジャーを雇った場合の通常業務のようなものであり、雇い主…この場合は俺が、持ちきれなかった・持っていると移動速度が低下するような重すぎるアイテムを代わりに持たせることで、自身の機動力・移動速度などを維持するというメリットを生み出す。
また、単純に「持ち帰ることが出来るアイテムの総量が増える」ということがメリットでもある。
なお、シャオシュンは見た目通り非力なので、そんなに多くのアイテムを持ち歩くことが出来ない。
その非力さをカバーするためか、ほとんど意味がないとしか言いようがない厚布のアーマーを着込んでいるのも、それ以上に防御性能があるアーマーを入手できなかったというわけではなく、アーマーの重量を軽くすることで持てる荷物の量や逃げ足を確保することを優先としているという様子である。
そして、「緊急時の脱出補助」についてだが、これは最低でも1人以上傭兵を連れ歩いているときのメリットであり、致命傷を負っても完全な死亡を回避して拠点に帰れる可能性がある。
ただし、致命傷を負った俺を「荷物」として見做す形になるので、シャオシュンの集めたアイテムや、俺の装備品や所持品の殆どを捨てたうえで、命からがらに運んでもらう…という形になる。
これは本当に最後の手段であり、基本的にはそんな事にならないように立ち回るよう意識しなければならない。
なお、これはシャオシュンが致命傷を負った場合でも同じで、俺は何が何でもシャオシュンを連れて帰らねばならない。
そうしなければ、ペナルティとして拠点内での各組織・顔役たちから「無能」と判断され、著しく評価が減少することになる。
死体のようにしか見えない状態になっても、それでも持ち帰ることさえできれば、科学者チームが蘇生を行い、成功する可能性もあるらしい。
それこそ、頭が撃ち抜かれても生き返った例もあるそうだ。…えぇ?それって本当に大丈夫なやつなのか…?
…ともかく、傭兵を雇用した側も、雇用された側も、パートナーを生きて拠点に連れ帰ってくるのが絶対必須のミッションとなっている。
シャオシュンは脅すような口調で、「言っただろ、解体が得意だったハンターが、1人で出ていって死んじまったって。 自分の実力を過信して、舐めたり、無茶したりすると、アタシでも…きっとアンタでも、そうなるよ」と語る。
シャオシュンは、相変わらず慎重な姿勢を崩さない。
俺には、そんなシャオシュンの姿勢が、とても頼もしいものだと思えた。
…そろそろ、俺達の目的地となる「森林エリア」に到着する。
帰還する場合は、まずは脱出ポイント付近で待機し、帰還者回収班となる緑軍と合流する。
その回収班からの通信で、所定の時間・地点で減速することになる装甲列車にタイミングよく飛び乗り、脱出する手筈となっている。
チュートリアルを除いて、初めての生身での探索である。…気を引き締めていこう。
+++++ [PUSH SPACE] +++++
*
森林エリアを、装甲列車が「通過」する。
停車はしない。
一時減速し、その間に飛び降りなければならない。
過去に、装甲列車が停車した瞬間を狙うカタチで、多数の盗賊や野良ハンターたちが手を組み・徒党を組んで襲撃しに来たことがあったのだという。
結果、多くの被害が発生したうえで大量の資源や装備を奪取され、さらに森林エリアを抜けた先にある「仮設キャンプエリア」に築かれた「仮設キャンプのターミナル(鉄道駅)」まで奪われてしまっている状況なのだという。
仮設キャンプエリアには、手練のハンターや緑軍のチームが毎日・入れ替わりで投入され、これ以上の盗賊団の成長や勢力拡大を阻害する動きを続けられている。
また、可能ならその盗賊団のリーダー…「オレル」という男の殺害を狙っているそうで、その件で仮設キャンプに何度も出向いている「ジャック」というハンターを見かける可能性が高いらしい。
今回、俺達が降り立ったのは森林エリアであり、その問題については直接的には無関係ではあるのだが…装甲列車がなぜ装甲をまとっているのか、そして停まらずに降りる必要があるのかについては、そんな理由があるという話になる。
装甲列車を飛び降り、俺はなぜか無意識にヒーロー着地を行う。
…いや、なんでだ?
なんか、自然とこのポーズでの着地をキメるように動いたのだが…記憶の件も含めて、やっぱりなんか変なんだよな、俺の身体…。
シャオシュンの方はと言えば、着地の際にバランスが取れなくて前のめりに倒れ込み、「ぷぎゅっ」という情けない声を漏らしてから、そそくさと立ち上がった。
その様子をジッと見ていたら、シャオシュンが少し拗ねたような声音で、言葉を溢す。
「…しかたねえだろ、コレなんだから…」
そんなことを言って、自分の胸をペチペチと叩き、厚布のアーマー越しにプルルンっと揺れる。
おい、やめておけ。
こんなところでボキキッしても本当に邪魔なだけボキキキキッ!!
「…アンタ、こんなときでもそうなるって、随分と度胸があるっていうか、意外と節操がないな…」
………しょ、しょうがないじゃん。こっちは朝ボキキッしたときも抜いてないんだから…。
その場に俺達2人だけを残して、装甲列車が走り去っていく。
俺とシャオシュンはすぐに周囲を警戒し…近くに人の気配・足音などがないことを確認してから、デバイスを使って「地図」メニューからマップを確認する。
この世界の奇妙な…「そこはゲームの仕様のままなのかよ」とツッコミたくなる要素として、「訪れるたびにマップが変わってしまう」というものがある。
ゲームのゼロ・シーベルトには、いわゆるランダム生成要素があり、大型施設やその施設内を除いて、探索に出るたびに建物の配置が変わったり地形そのものが変化したりするのだ。
ゲームの仕様と異なるのは、この地形変化は「主に夜のうちに発生する」ということ。
そして、フィールドに誰がいようとも…おそらく、プレイヤーに当たる俺が居たとしても、お構いなしにその現象が発生するということだ。
このせいで、一夜明けたら小規模な盗賊団の拠点がすぐ近くに現れていて、急な遭遇戦になったりすることがある。
と言うか、俺がこの世界で目覚めたばかりの状況は、まさしくその地形変化による不運に見舞われた後の結果であり、盗賊たちが中途半端に分断されて行動していたのも、地形変化に巻き込まれて迷子になっていたためと考えられる。
ゲームでは、プレイヤーがそのエリアから出ることがなければ、それまでずっとそのマップには変化が現れず、隅々まで探索することが可能となっていた。
だが、この世界・現実となった状況ではプレイヤーがそのエリアにいようがお構いなしに地形変化が発生してしまう。
特に、放射線被曝レベルが高い土地・範囲は、そう遠く離れていない別の土地・範囲と入れ替わったり、移動や変化が発生しやすかったりするらしい。
また、肉体の被曝レベルが非常に高い状態でその変化に巻き込まれると、姿がバケモノに…生物型アノマリーに変化してしまったり、もしくは、確かに殺したはずなのに次の日か数日後に何事もなかったように…殺されたことを憶えていない・知らないかのように歩き回っていることがあるらしい。
科学者チームは、そのようになってしまった存在も「生物型アノマリー」と認定しており、その存在の発生について『スワンプマン現象』と呼称している。
彼らは既に人間ではなく、本物そっくりに造られたか、もしくは擬態した、そんな何かだ。
──科学者チームは、詳しい研究・調査のためにも、対象の生死を問わず、可能な限り、いつでも、それらの検体の回収を望んでいる。…ゼロ・シーベルトの仲間だったはずのモノでも、構わない。
…なるほど。言われてみれば、確かに。
ゲームでは、普通の盗賊や生物型アノマリーが何度もポップするのは、殺したやつとは別の存在と考えればまだわかるが…。
でも、ボスキャラすら「何度殺しても復活する」という仕様は、現実に置き換えるとかなり変な状況だ。
「スワンプマン(沼男)」というのは、俺としてはわずかに聞きかじった程度の知識しかないが…本物と寸分違わぬ肉人形だか泥人形だか何かが発生する沼地があるとかいう、怪奇現象だった気がする。
この世界では、沼地の代わりに世界の変動の際に発生する空間の歪・狭間からなのか…ともかくどこからか唐突に、地形変化などの現象が発生すると同時に、ぬるりと現れるということなのだろう。
…あれ?
それじゃあ、ゼロ・シーベルトに逃げてくるまでに何度も野外で夜を過ごした俺やヴィクトルは、本当に本物なのか?
…いや、いや、いや…。
そんなことを考えるのは、やめよう。なんか、ドツボにはまりそうな感じがするし、なんかゾワゾワして嫌だ。
なんだか色々と怖いなぁ、この世界…。
まあ、放射能汚染が蔓延していて、アノマリーと呼ばれる異形の怪物が跋扈してるって設定だけでも激ヤバすぎるし、今更ではあるか…。
そんなこんなで、マップを隅々まで確認し終えて…俺はゲーム知識を活かし、方眼紙に色が塗られただけのような簡素なマップのめぼしいポイントにピンを立てて、危険地帯を避けるか、もしくは良い物をを持ち帰れそうな場所に目星をつけておいた。
「…んん? なんだい、このマーカーみたいなアイコンは。アンタがやったのかい?」
訝しげに自身のデバイスと俺の顔を交互に見るシャオシュンが、そんなことを尋ねてきた。
なるほど、俺のデバイスの方で立てたピンだが、どうやらシャオシュンのデバイスのマップにも同じ様にピンが立つらしい。
シャオシュンのデバイスの方で試しにピンを立ててみると、俺とは色違いのピンが立てられて、区別できるようになっている。
これなら、この機能を上手く使うことで、離れて探索してもお互いの現在地の確認や、合流場所の指定なども行えるということだろう。
はえ~、すっごい便利…。
っていうか傭兵システムもそうだけど、このシステムをそのまま原作に追加してほしかったな。
なんでNPCたち(緑軍とか科学者チームとかクリムゾン社とか)は複数人での行動が当たり前なのに、プレイヤーだけソロなんだよ。
とりあえず、シャオシュンの問に対しては「ああ、立てたのは俺だが…いや、気になる地形にピンを立ててみただけで、何かを知っていたとかじゃあない、ただの勘だよ」とだけ返しておいた。
ゲーム知識については、相変わらず話す気はない。
披露しても違和感がない情報なら構わないが、話したところで信用されるとは思えないメタな知識を直接話しても、信用とかを損なうだけだろうしな。
と言っても、何もかも誤魔化すような嘘を吐く理由もない。
だから、見ればわかるくらい変な地形が表示されているところにピンを立てただけって意味で、このくらいの説明で十分だろう。
「…ふんふんふん…なるほど、こういう使い方をするためのもんなのか、この機能って。 はあ~ん…へえ~…今までは地図なんて、ただ現在地の確認か、脱出ポイントの確認くらいにしか使ってなかったけど、そういう使い方ができるって思えば凄く便利だねぇ。 いやあ、もっと早く知りたかったよ」
…んん?
あれ、俺が森林エリアの施設や地形に詳しいっぽいことに疑問を感じたのではなくて、もしかしてシンプルに、便利機能としての使い方を知らなかったってことだったのか。
ヴィクトルは普通に使えていた…というか、その操作方法は俺もヴィクトルから教えて貰ったものだし、ヴィクトルは俺と同じ様に要所のポイントを立てることの重要性・便利さを既に理解していたから、常識なのかと思っていた。
まあ、便利機能って実際に使ってみないと、どう便利なのか想像しづらいものとか結構あったりするよなぁ。
俺も、「◯◯ブラウザに便利な新機能が追加されました」とか「◯◯のスマホの新機能をお試しください」とか言われても、面倒くさいと思ってしまったり、パッと見て便利さが想像できなくて、無視してたこととかあるし…シャオシュンにとっては、マップにピンを立てる機能というのが、ちょうどそんな感じだったのかもしれない。
せっかくなので、俺が知っている…ああいや、「そうだろうと予想している」というていで、危険地帯の法則を1つだけ教えておこう。
マップの中で「茶色く円形になっている場所」は、猪たちの縄張りで、恐らく5~8匹くらいの猪の群れが湧いているはずである。
そこは、あいつらが走り回り・掘り返してる場所だから、すっかり草が剥げて完全に地面の土色が露出してしまい、マップ上では「茶色い円」として表示されてしまうのだ。
近づく時は慎重に…もしくは、用がない限りはそもそも近づかないほうが良い。
猪たちの攻撃方法は単調で、直線移動による突進ばかりなのだが…一撃でもくらうと、大怪我どころでは済まない。ろくなアーマーがない状態なら、3~4回ほどド突き回されただけで死ぬ。
ゲームにおいては、序盤の銃器経験値稼ぎのためにちょうどいいので、立ち寄れるなら狩りにいくのもアリだ。
もしくはしばらく放置して、猪の縄張りに侵入してしまった哀れなNPCが発生するのを待ち、あとでハイエナしに覗きに行くとかでもよい。
…流石にそんなゲームのコツみたいなところまでは説明しないがね。リアルで考えたら、この方法はかなりの外道だし。
「猪かぁ…猪は怖いねぇ…アタシとしても、近づきたいとは思わないよぅ…」
首をすくめて、本当に嫌だというような様子を見せるシャオシュン。
そうは言っても、食料確保のためには猪狩りは悪くない選択肢だし、帰る前に立ち寄れるようなルート取りをして(ついでにハイエナできそうな死体が転がっていることをこっそり願いつつ…)、狩れるだけ狩りまくって帰ろうね。
「…ね、ねえ、本気? だってそれ、なんかゴテゴテしてはいるけど…ピストルなんでしょ? そんなんで、猪を狩るっていうの?本当に正気?」
ああ、本気だし、正気だとも。
このETSというマシンピストルは、1マガジン・20発もの装填が可能であり、その威力も悪くなく猪程度が相手なら4~9発で沈められる。(※カス当たりするとダメージが減るので、最高効率の時より倍以上の弾薬が必要になることがある。)
つまり、連戦になっても2匹までならほぼ仕留めきれるから、基本的に1匹ずつ丁寧に相手をして、そしてミスって2匹を釣り出してしまった場合でも難なく対応できるはずだ。
…対応中に、ジャムったりしなければ。
「…いやぁ、やっぱり無茶なんじゃない?」
シャオシュンは、それでもやはり疑わしいとばかりに、そのルート取りには問題があるんじゃないかと非難の意思を声に滲ませた。
シャオシュンの言うことも、その不安も、理解は出来る。
実際、猪というやつは、舐めてかかって良い相手ではない。
重装備の緑軍をほとんど一方的にブチ殺すどころか、状況次第ではボスキャラだってブチ殺すほどのポテンシャルを持っているのだからな…。
だとしても、だ。
どちらにせよ、マップにピンを立てた・群れが確定で湧いているであろう場所以外の…野良の狼や猪に遭遇した時は、こいつ(ETS)で仕留めるしかないんだ。
仕留められるかどうかを不安に思うより、どう仕留めるかを常に頭に置いといて、とっさのときにでも動けるように意識しておくしかない。
それに、解体技術を1回や2回で教えきれる自信はないし、実演する分とか、実際に捌いて覚えてもらう分とかを考えたら、動物の死体がいくらでもほしくなる。
つまり、猪の縄張りに寄るのは、シャオシュンとの約束のためでもある。…そう説得した。
「…そう言われちゃあ、流石に文句なんか言えないよ。 …でも、猪の群れに突っ込んで、そのド真ん中で倒れられちまったら、回収してやれなくても裏切ったなんて思わないでよね。 少し隠れてやり過ごせば回収できそうだっていうならともかく、そんな場所でそういう状況になったら、流石にアタシには回収できないよ」
俺は、「ああ、そこまでの無茶をするつもりはない」と言って頷き、それからは特に言い合うこともなく、全体の移動ルートをシャオシュンと相談しながら決めていった。
ここまで。
事前の準備と情報共有は、完璧とは言えないが十分だと言える。
だが、ここからが本番である。
その準備に・話し合いに意味があったのかどうかは、「生きて帰ることができた」という結果でのみ、正解だったのだと確かめることが許される。
不正解の先に待つのは、自身の死だ。
もしくは、死よりも恐ろしい何かだ。
いよいよ。
森林エリアの初探索、開始である。
*
▼プロフィール_07:ラザール(エリアボス)
・カテゴリー:人間(北欧人)
・所属:盗賊/敵対(森林エリアのボス)
・性別:男
・年齢:44
・身長/体重:182cm/91kg
・一人称/二人称:俺/お前
・備考:人生の殆どを獄中で過ごした、筋金入りの乱暴者。恐怖の支配者、ラザール。
最序盤エリアのボスなのに、最終盤で出てきてもおかしくないほどの強力な火力武器を有する、このゲーム最初の難関。
ラザールの所持武器は、本当に終盤エリアまで使い倒せるほどの強性能をしているため、「ラザール狩り周回」が出来るようになったらアタッチメント集めのためにも何度も殺して武器を奪い取ろう。
ラザールは、発生してからまだ殺されていない場合、必ず「ラザールの護衛」という3~5人の強力な護衛が同時に発生・付近に連れ歩いており、そいつらもそこそこレアな武器を装備していることが多い。
護衛の人数が増減する理由は、不明である。…最初は5人発生するが、ラザールの癇癪によって殺されて、数が減っていることがある。ということなのかもしれない。
ラザールは、根っからの乱暴者であり、世界が荒廃する前から前科持ちの凶人であり、現在は暴虐非道な盗賊として名のしれた、極悪人である。
緑軍だろうがクリムゾン社だろうが科学者だろうがハンターだろうが、誰が相手だろうがお構いなしにブッ殺し、すべてを奪う。
飯も、酒も、寝床も、女も、すべてを暴力で手に入れてきた。それがラザールという男だった。
それは今も変わらない。
今ここに居るのが、本物なのか、偽物なのか、そんなことも関係ない。
ただ気の向くままに、好き放題に、殺し、奪い、貪るだけ。
ラザールは、それ以外の生き方を知ることが、最期までなかった。
▼主な能力
1,恐怖のカリスマ:ラザールが味方勢力を攻撃(誤射など)しても敵対化しない。また、ラザール自身を中心に一定の範囲にいる味方は、索敵能力が強化される。恐怖による支配を与えられると、心は萎縮し、感覚は鋭さを増す。
2,賞金首(デッド・オンリー):傭兵として連れ歩くと、「緑軍」「クリムゾン社」「野良ハンター」「サバイバー(ローナー)」が非常に強く敵対的になり、「盗賊」から一切攻撃されなくなる。「科学者」は変わらず、攻撃を受けない限り敵対しない。一応、盗賊からの評価を上げたい場合に有効だが、別に盗賊と仲良くなってもほとんどメリットはない。(評価が上がっても・仲良くなっても、ラザールが一緒に居なければ盗賊たちから普通に襲われるので)
3,アウトレイジ:近接攻撃に対してとても強力な耐性を持ち、即座にカウンター射撃を行う。野生動物の他、近接攻撃主体の生物型アノマリーに対し、無類の強さを発揮する。このおかげで、ラザールは欠片も優しさなど持ち合わせては居ないが、ラザールに命を拾われた盗賊・ラザールの護衛は、意外と多い。
4,ウェポン・キラー:ラザールは一方的な暴力を好むため、相手の武器破壊を率先して狙う。ゲームにはなかった仕様だが、「傭兵スキル」が追加されたことで「ラザールの攻撃を受けると、1ヒットするごとに武器の損耗率がドンドン減少していく」という凶性能を獲得している。戦闘面だけを考えるなら極めて優秀だが、武器集めをしたい場合はラザールが剥ぎ取りたかった武器すら破壊しまくり、後で修理が大変になるので要注意。