貴重な品から日用品まで、ことごとく破壊され床に散らばっている。店主は店を潰された。傷薬から食糧、日用品、武具、たいていのものが揃っていた。生活必需品を買えなくなる民もいるだろう。
バーニーは2度の盗みに加え店舗を破壊し怪我までさせており、セイロス騎士団に引き渡されれば退学処分どころか死罪もあり得る。
担任として今までバーニーに何をして、何をしてこなかったのだろう。バーニーが寮を追い出されたら行くところがない。両親が失踪したことで、ガラテア伯はバーニーを屋敷から追い出すため士官学校に入学させたと聞いている。使用人時代は辛い毎日を送っていたのだろう。
いつも黙って指示通り動いていたバーニーだが、「たまにはイングリットにかっこいいところを見せたい」と呟いたのを覚えている。
戦場ではいつもバーニーを頼りにしてきた。囮として盾として。平民だからそういう扱いを平気でしてきたのだろうか。バーニーは攻撃を受けるだけで敵を討ったことは1度もない。いや、そんな機会は1度も与えなかったのだ。思い返すと無意識に他の生徒の育成を優先していた。早くアーマーナイトになりたいと言っていたのに、個別指導もしていなかった。未だに初級兵種なのはバーニーだけだ。
精神的に不安定なことを知っていながら、バーニーのことを気にかけていなかった。だから今回のように爆発したのだ。私の責任だ。あの時こうすればよかった、そんなことばかり浮かんでくる。だがもう遅い。
「先生、どうしてくれるんだ?もうおしまいだ。」
店主は割れた肖像画のフレームを拾い上げ、壊れた祭壇の前に座り込んでいた。
長年一緒にお店を切り盛りしていた奥様は盗賊に襲われ他界されており、いつも座っていた場所に祭壇が設置されていた。私が天帝の剣を振り回したせいで祭壇が壊れてしまっていた。
バーニーは学校や住む場所どころか生命まで失うかもしれない。店主はお店を壊されて生きていく手段を失った。わずかな時間でこの絶望は訪れた。
自分に何ができるか。2人を救う方法はないのか。どんな絶望的な戦場でも諦めたことはないのだから、今回だって。しかし考えているだけで時間だけが過ぎていく。夜闇は静かに店内まで広がっていた。
翌朝、奥の部屋から出ると、荒らされた店内が眩しい陽光に照らされていた。床に散らばっている壊された商品でもなんらかの使い道があるのではないかと感じるくらいだった。
一晩かけて詫びたことでバーニーのことは不問になった。
もちろんソティスから「この痴れ者め!」とみっちりと説教を受けたが、戦場と同様に手段を選べない時もある。最低だがバーニーを助けることができたわけで後悔はしていない。他に手段がなかったと自分に言い聞かせるしかなかった。
大修道院に戻るとすぐにバーニーを探した。いつもいるところは知っている。やはり訓練場だった。
ラフェエル、カスパル、カトリーヌ、イングリット、レオニーといった常連が珍しく武器を置いて見物人となっていた。
「殺すつもりでやれって言ってるだろ!」
殺気だっているのはバーニーだった。別人のような気迫だ。精神が不安定になる時は泣くか荒れるかのどちらかになる。
ディミトリとフェリクスが膝をついており、訓練用の剣が何本も折れて転がっている。
「なんて奴だ。硬すぎて戦技も通用しない。おい、猪!魔法を使え!」
「何を言っている!フェリクス、お前が使ってみろ!」
冗談を言っているが、2人とも限界だ。
バーニーは暴れても問題のない場所を選んだのかもしれない。
「バーニー、殺すつもりでいいのね?」
私は格闘術の構えを見せた。
「先生?えっ?まさか素手?それならガードも必要ないです!俺の防御力を知らないとは言わせませんよ?」
バーニーだけではない。周囲にいた訓練好き達は格闘術ではダメージが入らないと口々に言った。基本中の基本だと。
はあっ!!!
皆に効かないと言われながらも、ノーガードのバーニーに一撃を加えた。
えっ?うそ?
誰の声がわからないが、バーニーが後ろに倒れた。
「バーニー?嘘でしょ?」
イングリットが駆け寄って身体をゆすった。頬を叩いても反応はない。
「イングリット、心配ない。マジックブローだ。先生、やるじゃん!しかも手加減までしてる。おいバーニー、まだ死んでないぞ!」
カトリーヌはすぐに見破った。さすがだ。
聞こえていたようで、バーニーはムクっと身体を起こした。
泣きそうになっていたイングリットはホッとしてバーニーを抱き締めた。
「過信は油断につながる。戦場だったら死んでいたわ。」
「勉強になりました。言い訳もできません。」
好戦的な性格が消えたようだ。
「バーニー、今から個別指導をするわ。アーマーナイトになるんでしょ?斧の技能レベルを上げないと。」
「えっ?いいんですか?それより先生・・・」
「いいから、ほら斧を構えて。」
盗みやお店の破壊について叱ることはしなかった。
土曜日の朝、あのお店を訪れた。リアカーに瓦礫が積まれており、壊れた商品や棚が店の前に並べられていた。
店主からは「手伝いは結構」と言われていたが、道義的にはそうもいかない。バーニーは平日、私が休日にお店の片付けを手伝っていた。
まず祭壇に手を合わせる。私が壊してしまった祭壇は、店主がいち早く修理していた。
踊り子の服を汚してはいけないと、店主が用意した作業衣に着替えて作業を始めた。
朝からの作業を終えると店主が食事を振る舞ってくれて、お酒を飲んでいると深く酔ってしまった。とても帰れない状態になって泊めてもらうことになった。お酒の量は気をつけていてもなぜか深く酔ってしまうため、店主と飲む日はいつも羽目を外しているように乱れた。
資格試験に合格したバーニーは大喜びでイングリットに報告していた。
「バーニーのあんな笑顔を見たの、初めてかもしれない。」
これでルーヴェンクラッセは全員が中級兵種となった。
マヌエラとともに演習場の下見をした後、時間があったので寄り道をして街のお店で休憩することにした。
声をかけてくる男達は次から次へと湧いてくる。自分は相手の顔など見ずに無視をしていたが、マヌエラは相手の顔や身なりを見て瞬時に査定している様子だった。
踊り子の衣装なのでかなり目立ってしまう。こうも声をかけられるのは自分が原因?いや、マヌエラの衣装も露出が激しい。両方か。
「モテモテね。あたくし達。でもいい男はいないわね。そんなことはどうでもいいわ。先生と2人でお茶するの、久しぶりじゃない?毎日のように顔を合わせるからあらたまってお茶をする機会もなかったわね。そうそう、先生が話したいのはバーニーのことでしょ?」
話す前から概ねのことは知っていた。おしゃべりの多い大修道院では情報伝達が速い。
「1人だけ初級兵種のままだったこと、バーニーは辛かったはずよ。あの子、自分から言わないタイプだから、察してあげるとか、直接声をかけるといいわ。でもバーニーってドロテアと付き合っていたり、イングリットが面倒みたりしてるでしょ?1人で抱え込まずに彼女達とも連携した方がいいわ。」
バーニーのことはひとまず解決した。次は大事な頼み事があった。
「あらー先生?すごく良く効く薬?あるわよ。朝帰りしてるみたいね?」
「プライバシーがあるので・・・」
「いいじゃない!ここだけの話にするから!」
身を乗り出してきた。すごく嬉しそうだ。こういう話はすぐに誰かに話してしまうだろう。