(しまった……これはマズいことをしてしまった)
放課後の誰もいない教室。窓から差し込む夕日がオレンジ色に染める中、俺は机に突っ伏したまま自分の身体の制御を完全に失っていた。
隣では雪澤柊佳が乱れたパーカーを必死に整えながら、まだ荒い息を繰り返している。長い前髪が汗で額に張り付いていて、普段は隠れている整った顔立ちが露わになっていた。
(俺は……ついにやってしまった)
ことの始まりは一時間前。
「白石くん、今日掃除当番一緒ですね」
「ああ、うん」
俺たちは教室の掃除をしながらなんとなくぎこちない会話を続けていた。あのポーカー対決から二週間。俺と柊佳の関係は微妙に変化していた。学校では相変わらずただのクラスメイトで、柊佳は隅っこで静かにしている。でも放課後になると、当たり前のように一緒に帰るようになっていた。
「あの、今日も家に来ますか?」
「テスト近いしな。勉強会するか」
「はい!」
毎日のように続く柊佳の家での「勉強会」。実際には勉強そっちのけで、手をつないだり肩を寄せ合って映画を観たり。時々、柊佳の方からおずおずとキスを求めてくることもあった。
「彼女として、もっと白石くんと仲良くなりたいんです」
「十分仲良いだろ」
「そうじゃなくて、その……」
もじもじと指を絡ませながら、柊佳は消え入りそうな声で言った。
「恋人らしいこと……したいです」
俺は毎回ギリギリのところで理性を保っていた。なぜなら、これは罰ゲームだからだ。いつか本当のことを話さなきゃいけない。それなのにこれ以上深い関係になるのはマズい。
でも今日は違った。
掃除が終わり誰もいなくなった教室で、柊佳が突然俺の手を握った。
「白石くん」
「ん?」
「私、白石くんに言わなきゃいけないことがあります」
いつもと違う真剣な声音に、俺は背筋が伸びる思いだった。
「私……白石くんが罰ゲームで告白したって知ってます」
「……え?」
時が止まった気がした。
「廊下でお友達が話してるのを聞いてしまいました。『白石の罰ゲーム、雪澤がガチになっちゃって引くに引けなくなってる』って」
柊佳は俯いたまま、でも声は震えていなかった。
「それなのに私は白石くんに甘えて、彼女面して、毎日お弁当作ったりクッキー焼いたりして……ごめんなさい」
(知ってたのか……)
俺は言葉を失った。言い訳も謝罪も、何も思いつかなかった。
「でも」
「でも?」
柊佳は顔を上げた。前髪の隙間から見える目には涙が溜まっているけど、それでもしっかりと俺を見つめている。
「私は本当に白石くんのことが好きです。罰ゲームでもなんでもいい。白石くんが私に話しかけてくれたあの日から、私の世界は変わりました」
「雪澤さん……」
「だから今日で終わりにします。私、明日からはもう白石くんに迷惑かけませんから」
柊佳は泣き笑いのような表情で、俺の手を離そうとした。
その瞬間、俺は自分でも驚くほど反射的に柊佳の手を握り返していた。
「待て」
「……え?」
「俺は……俺はまだ、お前と別れるなんて言ってない」
柊佳の目が大きく見開かれる。
「罰ゲームで始めたのは悪かったと思ってる。でも今は……違う。俺もお前のこと……」
言葉に詰まる俺に、柊佳はそっと微笑んだ。
「いいんです。無理しなくて」
「無理なんかじゃ」
気がつけば俺は柊佳を抱きしめていた。いつものダボダボのパーカー越しでもわかる華奢な体。でもその内側にある熱は確かで。
「白石くん……」
「今日、このまま帰したくない」
俺の言葉に、柊佳は一瞬驚いた顔をしてそれからこくりと頷いた。
教室の鍵を閉めカーテンを引いた。夕日だけが唯一の光源で、教室内はオレンジ色の薄明かりに包まれている。
「本当にいいのか」
「はい。白石くんなら……」
机を寄せて作った即席の場所に柊佳は横たわった。パーカーを脱ぐのを嫌がったけど、「お願いだから」と頼むと、観念したようにゆっくりとファスナーを下ろした。
「見ないでください……」
「なんでだよ」
「私、自分の体に自信ないんです。大きすぎて気持ち悪いって思われるかも」
パーカーの下から現れたのは信じられないほど華奢なウエストと、アンバランスなほど豊かな胸だった。シンプルな白い下着が、その形をくっきりと浮かび上がらせている。
「……きれいだ」
思わず漏れた言葉に、柊佳は耳まで真っ赤になった。
「嘘です」
「嘘じゃない。本当にきれいだ」
俺はそっと手を伸ばした。まずは肩に触れそれから鎖骨をなぞり、そして恐る恐る胸元へ。
「んっ……」
柊佳の小さな声が教室に響く。
前回ポーカーの罰ゲームで触った時とは比べ物にならない柔らかさと温かさ。直接触れる肌の感触に、俺の理性はどんどん溶けていった。
「白石くん……」
「痛くないか」
「だいじょうぶ……気持ちいいです……」
柊佳の言葉に勇気をもらい、俺はさらに愛撫を続けた。指先で優しく円を描くように触れると、柊佳の身体がびくんと跳ねる。
「あっ……そこ……」
「ここか?」
「んんっ……や、声出ちゃう……」
自分の口を手で押さえる柊佳の仕草がいやらしくて、でも可愛くて。
「手、どけていいよ」
「で、でも」
「誰もいないから」
俺がそう言うと、柊佳はおずおずと手を離した。とたんに溢れ出す甘い声。
「あっ、ああっ……白石くん、白石くん……」
名前を呼ばれるたびに、俺の興奮は高まっていく。
(このまま最後までいきたい)
頭の片隅で警鐘が鳴っていた。でももう止められない。
「雪澤さん、俺……」
「柊佳って呼んでください」
「柊佳……最後まで、いいか」
柊佳は涙で潤んだ目で俺を見つめ、それから小さく頷いた。
「はい。私、白石くんになら……初めてをあげたいです」
その言葉で、俺の中で何かが弾けた。
慎重に、できるだけ優しく。でも自分でも驚くほど自然に、俺は柊佳と一つになった。
「痛っ……!」
「ごめん、大丈夫か」
「だいじょうぶ……少しだけ、我慢します」
柊佳の目から涙がこぼれる。それを親指で拭いながら、俺は動きを止めて彼女が慣れるのを待った。
「もう……いいです。動いても……」
「無理するなよ」
「無理じゃないです。白石くんと繋がれて……嬉しいんです」
ゆっくりと腰を動かし始める。最初は痛そうに眉をひそめていた柊佳だったが、次第に表情が変わっていった。
「あっ……あ、なにこれ……」
「気持ちいいか」
「わかんない……でも、なんか……ああっ!」
柊佳の身体が大きく跳ねる。俺もまた、想像を絶する快感に息が荒くなる。
(やばい……気持ちよすぎる……!)
経験なんてないはずなのに、柊佳の内部は信じられないほど熱くて俺の形にぴったりと吸い付いてくる。
「白石くん……白石くん……好き……大好き……」
「俺も……柊佳……」
自然にこぼれた言葉。もう罰ゲームなんかじゃない。これは本物だ。
「もっと……もっと奥……あっ、ああっ!」
柊佳の声が大きくなる。俺ももう限界が近かった。
「柊佳、俺もう……」
「いい……中に出して……」
「でも……」
「お願い……白石くんので、いっぱいにして……」
その言葉が引き金だった。
「くっ……!」
俺は最後の瞬間、なんとか外に出そうとした。でも柊佳が両足で俺の腰をぎゅっと締め付けて離さない。
「中に……中に出して……!」
「柊佳……!」
「あああっ!」
そして俺は、彼女の一番深い場所で果ててしまった。
どくどくと脈打つ感覚。それが収まるまで、俺たちは抱き合ったまま動けなかった。
「……出しちゃった」
「はい……」
「ごめん」
「謝らないでください。私がお願いしたんです」
柊佳は汗で濡れた前髪をかき上げながら、幸せそうに微笑んだ。その顔は今まで見た中で一番きれいで。
「私、白石くんのことが本当に好きです。だから……後悔してません」
「柊佳……」
俺は彼女の髪を撫でながら、これからのことを考えていた。
罰ゲームで始まった関係。でも今は、もうそんなことはどうでもよかった。
「俺も……柊佳のことが好きだ。だから責任取る」
「責任?」
「ちゃんと彼氏になる。本物の」
柊佳はしばらくきょとんとしていたが次の瞬間、ぼろぼろと大粒の涙をこぼした。
「ほ、本当ですか……?」
「本当だ」
「嬉しい……嬉しすぎて……うあああん」
子供みたいに泣きじゃくる柊佳を抱きしめながら、俺は心の中で決意した。
(よし、今日からこいつは俺の彼女だ。誰にも文句は言わせない)
それから十分後。
「……あの、白石くん」
「なに」
「お掃除当番、サボっちゃいましたけど……どうしましょう」
「あ」
すっかり忘れていた。教室は机が散乱し、カーテンは閉めっぱなし。黒板にはまだ今日の日直の名前が。
「まあ、明日早く来て片付けるか」
「一緒に来ます」
「お前朝弱いだろ」
「白石くんと一緒なら起きられます」
そう言って笑う柊佳の顔を、俺はもう「陰キャ」だなんて思わなかった。
「じゃあ、帰るか」
「はい」
手をつないで教室を出る。廊下はもう真っ暗で、非常灯だけがぼんやりと光っている。
「暗いから気をつけろよ」
「大丈夫です。白石くんが一緒だから」
その言葉に、俺は胸が熱くなるのを感じた。
(こいつといると、毎日が新鮮だな)
校門を出る時、柊佳がふと思い出したように言った。
「そういえば……今日は危険日でした」
「はあ!?」
「冗談です」
「どっちだよ!」
「半分冗談です」
俺は頭を抱えた。どうやらこの彼女、見た目よりずっと小悪魔なのかもしれない。
「責任取るって言ったの、忘れませんからね」
「……わかってるよ」
こうして俺、白石誠冬は、罰ゲームから始まった恋で童貞と同時に彼女まで手に入れてしまったのだった。
家に帰ると、スマホに柊佳からのメッセージが届いていた。
\\\\\\<雪澤柊佳: 今日は本当に幸せでした。私、白石くんの彼女になれてよかったです。大好きです。おやすみなさい\\\\\\>
相変わらずストレートな物言いに、俺は思わず笑ってしまった。
「こっちこそ、ありがとな」
そうつぶやいて、俺は彼女からのメッセージに返信した。
\\\\\\<俺も好きだ。おやすみ\\\\\\>
送信ボタンを押した後、俺は妙に晴れやかな気分で布団に潛り込んだ。
明日から、本物の恋人同士としてまた新しい一日が始まる。