※この作品はR-18です。

Damn'it Company!―畜生集団、或いは―   作:カラルラ

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2話目

 先程、容赦のない一撃で若者の顔面を粉砕した男。このアジトにいた数多のゴロツキどもを一人残らず惨殺し尽くした下手人の名は、ジェイク・ダミット。自身の肉体を自在に作り変える術理、すなわち”身体変異”を専門とするフィジカルアデプトである。

 彼はこの巨大都市「リヴァイア・シティ」の正規の住民ではない。それどころか、どこの都市台帳のデータベースを漁ろうとも名前一つ出てこない、完全な規格外の存在だ。普段は汚染された都市の外縁部で孤独に暮らしているが、時折こうしてスラムへ足を運んでは「殺されても文句を言われづらそうな相手」――要するに、同業者や警察から見放された裏社会のゴミども――を見つけては、残虐極まりない略奪の限りを尽くしていた。

 

「ふむ……」

 

 現在、ジェイクの興味は血の海に放置された金庫ではなく、部屋の中央で吊るされたままの少女に向いていた。

外見をひと目見ただけで、ジェイクのような専門家にはそれが「異常な代物」であることが手に取るように分かる。彼女の身体は、頭の先から爪先に至るまで徹底的に改造され尽くしていた。これ程の過剰な生体改造となると、慰みものという用途に対する費用対効果は最悪の部類のはずだ。そもそも、これだけの処置を施す間に通常の人体はショックダウンを起こして死ぬ。なのに、この少女はこれ程までに酷使され、汚辱に塗れても普通に生きている。

 フィジカルアデプトとしてのジェイクのどす黒い好奇心が、ひどく刺激された。

 

(目の焦点が全く合っていないな。俺が姿を表した時にこちらを睨みつけたと思ったんだが……いや、この感じは視界そのものが無いのか。絶え間ない快楽の情報過多で視神経が焼き切れている?)

 

 ジェイクは血塗れの靴で少女に歩み寄り、その白い肌に無造作に触れた。

 彼女の身体は、責め苦をより深く受け入れやすいように骨格そのもののバランスを変えられ、内臓の位置まで意図的にずらされていた。神経系も「敏感」の方向に極限まで弄られ、筋力は意図的に削ぎ落とされている。触診に対する筋繊維の反射反応から見るに、感度は常人の数百倍から数千倍にまで跳ね上がっている。普通なら痛覚のオーバーロードでショック死するはずだが、医療用ナノマシンで痛覚信号だけを遮断しているとしか思えない。

 ジェイクが冷徹な目で少女の身体を触って確かめている間も、彼女は絶え間なく震え、声も無く終わりのない反応を繰り返していた。

 

(しかし、ここの連中は良くこんな歪な身体に欲情できるもんだ。内臓まで違法な媚薬漬けと来ている。無知は幸せってわけだ)

 

 不自然に膨らまされた胸の弾力と重さから、内部に大量の薬液が貯留していることも推察できた。もはや肉体の一部というより、汚い薬袋の寄せ集めに近い。

 一通り少女の身体の構造を確かめて技術的な好奇心を満足させたジェイクは、ようやく本来の目的であるこのアジトの金目の物……ボスの隠し金庫や、まだ残っているはずの末端価格の高い薬物……を漁ることにした。

 

 ――だが、結論から言えば、この略奪は完全なる空振りに終わった。

 薬は使い果たされ、隠し金庫の中身は既に移されていた。残ったのは小銭とジャンク部品のみ。

 ジェイクはキレた。

 

「かぁ~~~~っ! あったまきた! なんだこのクソみたいな収穫は!」

 

 パイプ椅子を蹴り飛ばし、彼は即座に方針を切り替えた。

 

「こうなったら残り物には福がある理論で、このイカれたガキを攫ってやる! オラッ! 洗浄するぞ!」

 

 生臭い水道からホースを引き、少女に冷水を浴びせる。頭から爪先まで、こびりついた汚濁を容赦なく洗い流す。外側が終わると、今度はアルコール消毒液を混ぜた水を口から強制的に流し込み、腹部を圧迫して胃の内容物を吐き出させた。続けて下半身にも同じ要領で水圧をかけ、胎内と腸内に残る汚泥を徹底的に押し出す。

 そこに性的な意図は微塵もない。泥を落とし、機械を洗浄するのと変わらない手つきだった。

 一通り終わると、ジェイクは特殊合金の枷を素手でへし折り、軽くなった身体を俵抱えに担ぎ上げた。

 皮肉なことに、この乱暴な物理的洗浄は、ナノマシンによる感覚制御の壁を意図せず乗り越えていた。致死量スレスレの冷たさと水圧、内臓をこじ開けられる不快感が、快楽の底に沈んでいた少女の意識に、微かな波紋を起こす。焦点の合わなかった黄金の瞳が、ほんの一瞬だけ瞬いたのを、ジェイクは背中で感じ取っていた。

 極彩色のネオンと酸の雨に沈むリヴァイア・シティを後にし、彼は『軽功』で汚染された荒野を駆け、辺境の自宅兼ラボへと少女を運び込んだ。

 

 

 

 極彩色のネオンと酸の雨に沈むリヴァイア・シティを後にして数日。

 都市の外縁に広がる汚染された荒野を、ジェイクは自前の『軽功』——魔力と肉体操作を掛け合わせた高度な移動術——を用いて飛ぶように駆け抜け、ようやく辺境にある自宅兼ラボへとたどり着いた。

 無骨な鉄扉を開け放つと、ジェイクは肩に担いでいた少女の身体を、冷たい金属製の作業台の上に雑に転がした。長旅の疲れを癒やす素振りも見せず、彼は上着を脱ぎ捨てて早速『薬湯』の準備を始める。

 巨大な木製の湯桶に地下から汲み上げた水をため、バーナーで火を沸かす。その間に、ジェイクは埃っぽい倉庫から乾燥させた様々な薬草や、奇妙な形をした地下植物の根を次々と引っ張り出してきた。すり鉢と乳棒を使ってそれらを荒々しく砕き、独自の比率で混ぜ合わせると、湯気の立ち始めた桶の中に豪快に溶かし込んでいく。薬草の強烈な青臭さと、鼻を突くような刺激臭がラボ全体に充満した。

 準備が終わり、後は一度沸騰させた湯が適切な温度にまで冷めるのを待つ。これが、フィジカルアデプトである彼に伝わる特製薬湯の作り方である。

 湯の温度が下がるのを待つ間、ジェイクは作業台の上に横たわる少女の身体を、改めて腕組みをして眺めた。

 彼女の意識は起きているようだが、その瞳孔は定まらず宙を彷徨っている。身体は外部から何もされなくとも常に内部から昂り、微細な痙攣を繰り返し、神経が休まる暇が全く無い。

 解剖学的に見ても、そのプロポーションはあまりに歪で残酷だった。拘束され使われない手足だけが骨と皮のように異常にやせ衰えている一方で、過剰な投薬と改造を施された胸も含めた胴体部分だけは、適度に肥えて肉感を保っている。

 

(まずは、このどうしようもない身体を、物理的に”寝かせられる”状態にする所からだな……)

 

 ジェイクは小さくため息をついた。

 今の彼女は、眠ることすら許されない生きた肉人形だ。毒を抜き、狂った神経回路を焼き切り、人間としての基礎代謝を思い出させる。毎日休まず、月単位で少しずつ治さねばならないだろう。骨の折れる作業だが、彼の職人としての好奇心はそれ以上に満たされていた。

 やがて温度が整うと、ジェイクは作業台から少女を抱き上げ、濁った緑色をした薬湯の中にその身体をゆっくりと沈めていった。

 少女は己の身体を支える力も、姿勢を保つ術も一切持たない。放っておけばそのまま溺死してしまうため、ジェイクは風呂の縁に腰掛け、さながら重病人を扱う介護士の様に付きっきりで少女の背中と頭を支えてやらねばならなかった。

「……ほら、来たぞ」

 ジェイクが呟いた通り、薬湯の効果はすぐに現れ始めた。

 湯船に浸かる少女の青白い全身の毛穴から、タールのようなドロドロとした黒い汗が、ブクブクと音を立てて吹き出し始めたのだ。薬湯の成分が、体内の奥深くに蓄積された違法薬物や異常なナノマシンと激しい拒絶反応を起こしている証拠だった。

 さらに、薬湯に沈んだ巨大な乳房の先端——腫れ上がった乳頭からも、ゆるゆると白と黒の混じった不気味な煙のような液体が漏れ出している。

 緑色だった桶の湯はたちまち真っ黒に染まり上がり、少女の身体から強制的に排出された「要らないもの」の強烈な悪臭で満たされてしまった。むせ返るような化学物質と腐敗臭の混ざった匂いの中で、少女はビクンと大きく背中を反らせ、声にならない絶叫を上げて激しく身をよじった。

 

「暴れるな。これをお前の中から全部絞り出さないと、お前は一生そのまま狂いっぱなしだぞ」

 

 ジェイクは暴れる少女の肩を力強く押さえつけ、逃げることを許さない。黒く濁りゆく湯の中で、彼による容赦のない「治療」の第一歩が、今ようやく始まったのである。

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